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マスター:一条もえる
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/11/29


みんなの思い出



オープニング

 「それ」は、存在を始めたときから孤独であった。

 脈々と続く生命の系譜。子を産み、育て、あるいは仲間同士で群れを作る……。それは「それ」とは無縁のものだった。
 「それ」は天使によって生み出された創造物、すなわちサーバントという、かりそめの生命だったからである。
 そうであるからには、人間の精神を奪うことを目的とする天使が、その助けとするべく生み出したに違いない。
 しかしその天使は途中で創造者であることに飽きたのか、「それ」になんの役目も与えなかった。与えぬままに放置し、忘れ去った。
 それならばいっそ、本能のままに暴れる存在であればまた良かったのだが、天使は「それ」にわずかながらも知性を与えていた。その知性が、天使からの指示を待つことを選ばせた。
 「孤独」などというつまらないものを感じずにいられないのは、その残酷な所業のせいであった。

 その肉体も、創造者の気まぐれの産物であった。
 東洋の人間が想像したものに、「玄武」なる神獣があるという。
 創造者はどこかでその知識を得て、戯れから「それ」をその姿に似せて生み出そうとした。
 しかしながら長くは続かなかった創造意欲は、歪な姿を「それ」に与えた。神話で語られるには、その姿は亀のようであり、蛇のごとき尾がその身体に巻き付いているのだという。
 しかし「それ」には頭がなかった。本来ならば頭があるべき場所にはぽっかりと空洞があるだけで、ビクビクと脈打つ、柔らかな内部の肉が剥き出しになっていた。代わりに、イソギンチャクのような触手が穴を取り巻くように生え、かろうじてその穴を塞ごうとする意識だけがむなしく垣間見えた。

 「それ」は孤独であった。なすべき事も与えられぬまま、ただそこに居続けた。
 地を掘り返し、そこに潜み続けるうち、いつしか小山のようなその甲羅には土が積もり、掘り返した木々が根を張り、下草さえ生えた。
 天魔ならば当然に持ち得ているはずの「物質透過」の能力さえ使わずにいたのは、もしかすると「それ」が孤独に耐えるため、たとえ物言わぬ草木であっても、周囲との関わりを持ち続けたかったからかもしれない。それを確かめるすべはないが。
 皮肉なことに、その「擬態」がいっそう、「それ」を人の目から遠ざけた。
 地に伏し、遠目にはそこに存在することさえ気づかれぬまま、「それ」は待ち続けた。

 転機が訪れた。
 自身の体の上に、1人の天使が降り立ったのだ。あいにくと自分を生み出した存在ではなかったが、長い金髪に白い肌、背中から生えた白い翼。その姿に、「それ」は魅了された。
 離したくない。
 天使に向ける感情としては異常だったのだが、一心となった「それ」にその異常さは分からない。「それ」は長い尾を伸ばし……蛇のそれではなく、単なる肉色の器官でしかない……天使を絡め取った。
 もう、離さない。このままずっと、「ふたり」でいるのだ……。

 撃退士たちにとって不幸な遭遇だったとしか言えない。
 別件で行動中だった4人の撃退士は、1体のサーバントと遭遇した。まったく予期せぬ遭遇だった。1人の撃退士……先頃、入学したばかりの天使だ……が、その翼を休めて地に降り立った瞬間、足下から飛び出した、鞭のような触手に彼女は絡め取られてしまったのである。
「うぁ……!」
 全身に巻き付いたそれによって身体が締め付けられ、骨がきしむ。
 サーバントの尾からは不快な粘液がじくじくと染みだしていた。不快なだけにとどまらず、触れた肌は焼け付くように痛み、衣服の繊維は朽ち果てていく。
「この野郎!」
 それでも撃退士たちは勇敢であり、経験も豊富だった。残った4人はすぐさま武器を取り、サーバントに打ちかかる。
 しかし、土を払った下から現れた甲羅は堅く、無傷ではないにしても、なかなか手応えのある一撃を加えられない。
「持久戦ですかね……」
 人家ほどもある巨体を見上げる。
「あるじゃねぇか、切り刻めそうなところがよッ!」
「なるほど! 確かにその通りだ!」
 襲ってきたイソギンチャクのような触手の1本を切り落とし、阿修羅がサーバントの「口」をこじ開けた。巨体の内部は思いのほか広い空間になっていた。ルインズブレイドも後に続き、サーバント体内に潜り込んで、甲羅とはうってかわって柔らかな肉に刃を突き立てる。
「やった、効いてる!」
 小山が震え、足を踏みならすと地震が起きたようである。外に残された陰陽師が表情を明るくした……のもつかの間。
「ぐああああああッ!」
 くぐもった悲鳴が耳に届いた。

「……遭遇した撃退士4名中、重傷者2名。全身が強酸を浴びたように焼け爛れて……残念だが、うち1名は戦列復帰は難しそうだ」
 話を聞いていた一同から、「あぁ」というため息が漏れる。
「そして1名が未帰還だ。急ぎ、サーバントの撃破、そして1名の救出をしてもらいたい」


リプレイ本文

 今年は紅葉が遅かったせいで、十分に色を変え人々の目を楽しませるようになる前に、冬が訪れた。くすんだ色のまま枝から離れた葉が、山野を覆い尽くす。
 さくッ、と音を立て、そのうちの一枚が靴底に踏みつけられる。
「この辺りに潜んでいるとはいっても……探すとなると、これは骨だなぁ」
 ヒロッタ・カーストン(jb6175)が顔の前に手をかざして、息をついた。人里からさほど離れてはいないものの、あたりはすっかり木々の生い茂る山中になっている。起伏も相応にあり、もし近くにうずくまっているとしても、すぐに見つけることはできそうにない。
「無事だといいがな……」
「なんとかなるよ、きっと」
 獅堂 武(jb0906)の呟きを耳にしたヒロッタが、朗らかな声で応える。武はそちらを振り返り、にやりと笑った。
「まぁ、そうだ。全力でいくぜ」
「それにしても、なんでサーバントは撃退士をつかまえたりしたんすかねー? 人質? まさかー」
 フォルテ・ストラーダ(jb7957)が首を傾げる横で、華愛(jb6708) は少し困ったように眉を寄せた。
 天使によって創造された忌まわしきサーバントども。何を思って今回のような行動に出たのかなど知る由もないが、ただ、もしかして「ある種」の感情によるものだとしたら。
 ――それも理解できる気がする。
 とは華愛は言わなかった。何も言わず、フォルテから視線を逸らす。
 幸いにと言うべきか。一行はそんなことよりも、サーバントの探索に心を向け、話し合っている。
「件の亀野郎も、叩きのめしてやんよ」
 大きく背伸びをしつつ、ライアー・ハングマン(jb2704)が口を開く。いい陽気だ。これが依頼でさえなければ。
「行方不明者の体力も限界だろう。一瞬で屠ってやる」
「せやねー……」
 その話を聞いているのかいないのか。城咲千歳(ja9494)は気のない様子で返答だけする。視線の先にいるのは、鑑夜 翠月(jb0681)。サーバントを見逃すまいと、鵜の目鷹の目で辺りをうかがっている。さすがに、まだこの辺りにはいないだろうが。
 ――無理したらいけないっすよー、YOU、病み上がりなんだから。
 翠月の方ばかりを見て気のない様子の千歳に、ライアーは肩をすくめる。相手を転じて他の仲間に。
「擬態が得意な亀ということだが、図体はでかいんだ。まったく何の跡も残さずってわけにはいかないだろう」
「移動するだけでも木々をへし折るだろうし、引きずったような跡も残る。まして、撃退士と戦った場所ならばさらに痕跡は増す、ということだな」
 里条 楓奈(jb4066)はそう言って、携帯灰皿に短くなった煙草を押し込んだ。最後に一息吐き出すと、紫煙が細くたなびく。
「そういうこと。まぁ、透過していたらそのぶん痕跡は減ってしまうと思うが……」
「注意深く探索していくしかない、ということだね。みんな、頑張ろう」
 紅織 史(jb5575) はそう言った後で、皆が「応」と気勢を上げるのを尻目に、無言で楓奈の手を握った。楓奈もまた、力を込めて握り返す。
「よーし! じゃあ、どんどん進んでいこう!」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)が拳を振り上げ、木の根を乗り越えて歩みを進める。
「でも、あまりみんな離れない方がいいかな? 前の人たちみたいに、気づかないうちに襲われたってことになっても困るし」
 冗談っぽく言ってはみたのだが、もし実際にそうなってしまっては一大事である。一同はなんとなく首をすくめ、辺りを見回した。


「電波はまだ入るみたいだね。よかったよかった」
 顔をほころばせたヒロッタが上空へ舞い上がる。さほど遠くまで離れるつもりはないが、携帯が使えず、知らせるためにいちいち大声を張り上げるのも面倒だ。
「上空からというのは、いい考えだな」
「大きすぎるものも、かえって見つけづらいものだからね」
「そういうことだ。俯瞰してみた方がわかるときもある」
 史に頷いた楓奈はヒリュウを召喚すると、それにそっと唇を寄せた。「頼むぞ」と声をかけ、舞い上がらせる。
「じゃあ、アヤは向かって右手を」
「分かった。だったら楓は左手だね」
 愛称で呼び合い、ふたりは互いの死角を補うようにしつつ前進する。
「まずは、前の連中が接触した場所まで行ってみないことにはどうにもならないぜ」
 武の提案に一同は頷き、一行はそこへ急いだ。
「これは……ひどいですね」
 翠月が呆然と呟いた。
 そこはもともとは銀杏の木々が立ち並ぶ、山の奥へと向かう途中で少しだけ開けた場所だったらしい。しかし今、木々は無惨にへし折れ、なにやら焼けこげたようにも見える染みが残っている。木の幹に残されているのは、もしかすると血痕かもしれない。
「よし、あと一息だ。覚悟しやがれ」
 武が腕まくりをするような仕草をして、坂道を登る。
 ところが、一段高くなって見晴らしの良くなったその場所の先には、小さな沢があった。そこで痕跡はとぎれていたのだ。
「透過……いえ、それなら辺りに、身体の上に降り積もっていた木々が残りそうなのです」
 華愛が辺りを見回してみても、それは見えない。
「まさか……跳んだ、とか」
「ヴぁっ!?」
 翠月の呟きに千歳が素っ頓狂な驚きの声を上げ、一同は思わず天を仰ぐ。
「マジか」
「そう言えば下の方に住む人が、しばらく前に地面がビリビリ揺れて、地震かと思ったのに何のニュースもなかったって言ってたような」
「……マジなんすか」
 フォルテは呆れ果てつつも、
「でもでも、せいぜいこの沢を飛び越えるのが精一杯に違いないっすよ。近くまで来てるのは間違いないっす」
 と、自分に言い聞かせるように。
 そこで一行は辺りに散らばって、痕跡を探し求める。
 ヒロッタは、
「ちょっと試してみよう」
 と呟くと、囚われているはずの天使に直接呼びかけた。
 ――どうか応えてください、助けに来ましたよ!
 そうすること、幾度か。
 ……あ……。
 かすかな反応が、向こうからも返ってきた。弱々しく、「声」というにも頼りない吐息のような反応。
 それでもヒロッタの全身には緊張が走り、再び呼びかけようとした。
 しかし。
「ヒロッタ! そこだ、足下だぞッ!」
 ヒリュウの視界で見ていた楓奈の言葉に反射的に飛び退くと、確かにヒロッタはこんもりと、盛り上がった丘の上にいた。聞いていたほど大きくないのは、相手が地面をいくらか掘ったか、落下の衝撃で埋まったかしたからであろう。
 撃退士との戦いで甲羅の土が幾分か剥げ落ちていた。それで発見することが出来たのである。
「先手必勝あるのみっす!」
 フォルテは大きく跳躍すると、腕を高々と振り上げる。轟音とともにその甲羅に杭を打ちこんだ。
 武も符を投げつけつつ接近する。符は鋭い氷の刃となってサーバントを襲い、その間に肉薄した武は得物をドリルに持ち替え、山々に木霊する駆動音を響かせながら甲羅に叩き付ける。
 しかしサーバントはびくともしない。かすかに地が揺れたのは、身をよじったせいだろうか。フォルテは自らの跳躍の反動で後ろに吹き飛び、地面に降り立ったところを大樹の幹のような「尾」が襲う。こちらを認識はしたらしい。
「うわッたッたッ〜!」
 なりふり構わず地面に身を投げ出し、かろうじて避ける。
「あぶねー、あぶねー」
 尾の先はとっさに首をひねった武の耳元をかすめていく。後ろ髪を縛った赤い髪紐が揺れ、武はそれを手で押さえながら首をすくめた。
 尾の先に撃退士の姿がないことを確認したライアーは、
「探し人はそっちか? ちょっと口の中、見えてみろ!」
 と、飛びかかった。
「うちもお伴するっすよー!」
 めっさ堅いなぁ、と苦笑いしていた千歳も肩を並べ、サーバントの「口」を狙う。
 ここに至り、サーバントもやっとこちらを排除すべき敵と認識したのか、うねうねと蠢く触手を鋭く伸ばし、襲いかかってきた。
「今のうちにッ!」
 ソフィアが放った突風は、花びらを撒き散らしながら甲羅の上の草や土塊を吹き飛ばし、サーバントを傷つけた。
「効いてる……のかなぁ?」
「続きますッ!」
 密かに背後に回った翠月がサーバントにギリギリまで近づき、凍てつく空気を浴びせる。今度こそ間違いなく、サーバントは怯みを見せた。巨体が地に伏し、動きが鈍る。
「ライアーさん、合わせるっすよ!」
「おう!」
 触手にフォルテは闇の力を纏った拳を打ち付け、痙攣するように震えるそこに、ライアーの三日月の無数の刃が襲う。
「うわぁ、えげつなー。さすが悪魔だわぁ」
 熟柿にも似た、顔をしかめたくなるような臭いの粘液をまき散らしながら、触手が1本、2本と切り落とされた。
 本気なのかどうか。少し引いたような表情を見せた千歳だったが、突破口の開いた隙を見逃さず、サーバントの体内へと飛び込んだ。後にライアーが続く。


「お前の相手は私たちがしてやるぞ!」
 と、ストレイシオンを従えた楓奈。そして史とがサーバントの注意を引くべく、叫ぶ。
「堅い甲羅が自慢のようだけど。こういうのはどうだ?」
 蛇の幻影が、サーバントの尾の付け根に食らいつく。さらに、楓奈の召喚獣が雷撃を放つ。
「うまくやってくれよ……!」
 内部は、ちょっとした住宅ほどの広さをもった空間が広がっていた。
 「壁」に手をつく気にはなれない。足下も……「子猫に体重をかけて踏み込んだなら」こんな感じになるだろうという、不快な柔らかさをしていた。もちろん、そんなことをしたことはない。
 ……く……ぅ……。
 奥から苦しげな吐息が聞こえてくる。
「よし、まだ生きてるな。しっかりしろ!」
 ライアーが駆け寄ろうとするが、天使の身体は……「口」を覆っていたよりは幾分細い……触手で絡め取られていた。首もとまで巻き付いた触手はわずかに呼吸をする隙間を、おそらく偶然に残しているのみだ。
 彼女が身につけていた服もボロボロでわずかな繊維の集まりに過ぎず、白かったはずの肌は火傷のように赤くなっていた。
「二人っきりのところ悪いっすけどー。返してもらうっすよ!」
 千歳が構えたのは漆黒の大鎌。大きく振りかぶる事までは出来ないが、「ふッ!」と鋭い呼吸とともに肉壁へと食い込ませる。
 血しぶき……とも違う体液が飛び散り、同時に触手の群れが、怒りを感じたかのように猛然とふたりに襲いかかってきた。千歳は再び大鎌を振るい、それを切り落とす。
「避けろッ!」
 返り血などは厭わない……のだが、縛めの解けた天使の身体を抱き留めたライアーが、鋭く叫ぶ。
 彼の周囲を冷気が包み、飛び散った体液も凍り付く。それでもいくらかはふたりに降りかかり、その痛みに思わず傷を押さえる。
 なるほど、これが先の撃退士たちが重傷を負った理由か。無理もない。触手の表面もだが、体液はそれ以上に有害な成分で出来ているらしい。
 ある程度は凍結させることで防ぐことは出来る。しかしそれも完全にではないし、なにより救出した天使の安全もある。ライアーはレインコートを彼女にかけ、抱き上げた。


「あぁ、もう!」
 その身長を遙かに超える大きさのライフルを構えたソフィアが、頭を振る。
 銃弾は確実にサーバントに命中しているのだが、甲羅に命中したそれは、まだまだ有効打になっているようには思えない。
「あれだけ的は大きいのに……もっとよく狙わないと」
 思いのほか動作が機敏で、甲羅以外のところが狙いにくいのだ。
 そのとき、サーバントの動きが今まで以上に活発になった。そう、まるで「怒り」を感じているかのように。
 理由は明白、体内から千歳たちが飛び出そうとしていた。
 しかし「口」の、さきほど触手を切り落として隙間になっていた部分から、新たに触手が飛び出したではないか!
「危ねぇッ! 鬱陶しいんだ、止まってやがれッ!」
 武が刀印を切ると、砂塵が舞い上がる。致命傷を与えるには遠かったが、サーバントの動きがピタリと止まる。
「やったぜ!」
 さらに武は、大胆にも甲羅の上に駆け上がり、そこで結界を張った。これで、もし体液を浴びても傷は浅く済むだろう。
「はやく、こっちに!」
 その間に千歳たちは体外へと脱出し、大きな鞄を抱えた華愛が彼らを呼び寄せた。
「ひどい傷なのです……」
 華愛が絶句するのも無理はない。染み出た粘液は徐々に徐々に天使の肌をむしばみ、その皮膚を傷つけていた。普通の人間ならば、とっくに息絶えていただろう。
 少しさわっただけで皮膚が剥がれてしまいそうだ。華愛は慎重に、布で粘液を拭き取っていく。
「華愛さん、これも」
 と、翠月がミネラルウォーターを放ってよこした。口元に持って行ってわずかに含ませると、こくり、と喉が動きホッと胸をなで下ろす。
 だが、安心は出来ない。なんといっても、サーバントが狙っているのはこちらなのだ。
「シーさん、お願い!」
 ストレイシオンが盾となって攻撃を防ぐ。が、重い一撃に顔をゆがめた。長くは持たない。
「くッ……僕に、うまく使えるかな?」
 さすがのヒロッタも表情が険しいが、それでも目つきから弱気を追い出し。放った妖蝶がサーバントを襲う。
 反撃が返ってきた。長い尾がしなり、轟音とともに大地を打つ。まともに食らえばひとたまりもあるまい。それは避け得たが、飛び散った石がこめかみに当たり、血が流れ落ちる。眩暈がしたが、踏ん張る。
 傷ついたヒロッタは天使を抱え、華愛とともに後退した。
「これでもう、遠慮はいらないな。真っ向勝負といこうじゃないか」
 と、ライアーが不敵に笑う。触手が襲い、その何本かはライアーを傷つけたが、お返しに数発の拳を打ち返した。しかしどうやら、「口」の触手をいくら傷つけても致命傷にはなりそうにない。
「体内からが無理なら、やはり胴体か。一転突破ならどうだ! アヤ!」
 狙いを定めていた楓奈に向かって、触手が襲いかかる。
 しかし、触手にボコッと穴が空き、体液を撒き散らしながらちぎれ落ちた。
「やった、今度こそ命中!」
 ソフィアの銃弾だ。
「任せて、楓」
 楓奈の召喚獣がサーバントの背に雷撃を命中させると、呼応した史も、同じ場所へ命中させた。
 すでに、何度かの攻撃が命中している。今度は甲羅が爆ぜ、ひびが入った。
 一度ひびが入ってしまえば、脆いものだ。撃退士たちがそこを狙うたび、ひびは確実に大きくなり、流れ出る体液の量も増えていく。
 やがて……巨大な亀は大地に伏し、動きを止めた。
 虚しく長い時間が、ここで終わったのだ。

 数日後。
 学内を歩いていた翠月は、後ろから呼び止める声に振り返った。
「このあいだは、どうもありがとう」
 声の主は先日の天使だった。彼女は律儀にミネラルウォーターの代金を手渡すと、「じゃあね」と言って去っていった。短くなってしまった金髪だが、陽光に美しく輝いていた。
 退院したばかりで、松葉杖をついてはいるが。もう、心配はなさそうだった。
「……寂しい、とかあるんすかねー。やっぱり」
 たまたま一緒にいた千歳が、後ろ姿を見てぽつりと呟いた。




依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 夜を紡ぎし翠闇の魔人・鑑夜 翠月(jb0681)
 桜花絢爛・獅堂 武(jb0906)
 絶望の中に光る希望・ライアー・ハングマン(jb2704)
重体: −
面白かった!:7人

太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
逢魔に咲く・
城咲千歳(ja9494)

大学部7年164組 女 鬼道忍軍
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
絶望の中に光る希望・
ライアー・ハングマン(jb2704)

大学部5年8組 男 ナイトウォーカー
来し方抱き、行く末見つめ・
里条 楓奈(jb4066)

卒業 女 バハムートテイマー
銀槍手・
紅織 史(jb5575)

大学部7年236組 女 陰陽師
限界を超えて立ち上がる者・
戒 龍雲(jb6175)

卒業 男 阿修羅
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
撃退士・
フォルテ・ストラーダ(jb7957)

高等部2年14組 女 ナイトウォーカー