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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/01/10


みんなの思い出



オープニング

 去年のクリスマスは実家で過ごした。
 世間様の若者の大多数は恋人ときゃっきゃうふふとしていたようだったが、日暮恋歌(当時20歳)はそんな洒落た間柄の連れ合いはいなかったので、炬燵にもぐって蜜柑を剥いていた。
「母さん、ふと思ったのだけど」
 恋歌は標準語で母に尋ねた。父と話す時は地元言葉だが、他県出身の母と話す時は標準語を使っていた。
「何を思って私にこんな名前をつけたのだい? 一般に名は体を現すっていうけども、実に真逆な結果になってるんだが」
 いない歴=年齢の恋歌である。恋など知らぬ。
「女は父親に似るっていうから、あんたがどうか嫁き遅れませんようにってつけたんだよ!」
 母は、案の定の娘の現状に涙し袖口を噛み締めて叫んだ。
「ははは、やだなぁ母さん、そんなの迷信じゃないか。なんの学術的根拠もない」
「あんたが証明しそうな勢いじゃないの! 解かってる? あたしがあんたくらいの時はねぇ、男を侍らせて実に高笑いしていたものよ。あんたがあたしに似てたら、こんな日にこんな所で、呑気に炬燵で蜜柑なんかほおばってる訳ないのに!」
 嘆息して母。
 母は恋多き女であったらしい。男を侍らせて高笑いするのが恋なのか? という疑問を恋歌は抱くのだが、そこつっこむとまた母の講釈が始まるので流す事とし、しかしそんな感じの母が、最終的にはぱっと見ではぱっとしない父と結婚したのだから不思議なものだ。
「母さんの若い頃に瓜二つだって言われるんだけどなぁ」
「見た目だけだし、その見た目もあたしはあんたみたいにだらしない格好してないし! だいたいあんた、化粧の一つも面倒くさがってまともにやらないじゃないの! あんたにはガッツが足りない!」
「が……がっつ?」
「恋は戦争なのよ、解かってる?!」
「そういうの解かってるスペシャリストさんが、なんで父さんを選んだのさ」
「金持ちだったから」
 母はきっぱり言い切った。
「……うわ」
 これで恋やら結婚やらに夢を見ろという方が、無理な注文だと恋歌は思う。 
 母は先日カリスマイケメンがやっている美容院でかけてきたらしいパーマ(日暮家は一家揃って地毛は黒髪ストレートだ)を指先でくりんくりんしながら言った。
「まぁそうね、強いて言うなら、そう本人に言っても怒らなかったからかしらね。あたしに騙されなかったのは、あんたの父さんだけだったわ。あたしの事を理解してた」
「疲れそうな人生送ってたんだね。戦争は詭道ですか。戦場いかなきゃ売れないのなら、私は売れ残りで良いや。自分を理解してくれる人、ね? 幻想だ。そもそもに、人と人は真には解かり合えないのだよ。他人の心は覗けず、言葉は不便で、誤解は山のように積もってゆき、人はすれ違う。だから、人は一人で生きて、一人で死んでゆくものだ」
「この馬鹿娘ーッ!!」
 踏まれた。
「あんたはっ、それだからっ、駄目なの!」
「なーにーがー」
 踏まれながらじたじたしている恋歌をさらに踏みつけながら母は拳を握りしめて言った。
「中二病だか大二病だか知らないけど、もう良い歳した大人なんだから、いじけてないで頑張りなさい! 人生って奴はね、足掻く物なのよ! 大体ね、そういう事は、本当に一人で生きてから言いなさい! 実家でぬくぬくしてる小娘がのたまってんじゃないわよっ」
「いじけてないし……っていうか、母さんも結構患者入ってると思う……やはり私は母さんの娘だ……」
「やかましいっ!! お父さんに似て減らず口ばっかり達者なんだからっ! くぬくぬっ!」
「ひーっ! 虐待反対ー!」
「あーまた姉ちゃんが母ちゃんに踏まれとるー!」
「た、助けて、マイシスターっ!」
「あんた達はこういう駄目な大人になるんじゃないよ!」
『はーい!』
「ハモッてる!? 見捨てられたっ?! 酷いぞ、兄妹達!」
 それが去年の事。
 小さな不満は沢山あったが(踏まれたりとか)なんだかんだで現状には満足していたのだ。恋なんて知らなくても毎日は楽しかった。
 そんな物は必要でなかっただけだ。
 一人で生きていた訳ではなかったから。


 日暮れ。
 悲しみに心を壊した狂母の叫びのように、冬の風が鳴いている。
 精神を吸い取られて脱け殻になった父の眼差しのように、空気が寒い。
 人が死んだら星になるなら、血をぶちまけたかの如きこの赤空の、眩く輝く星海の中に、幼かった兄妹達はいるのだろうか。
 星に願いを。
 もしも、焔が燃えるなら、もしも焔が燃えるなら、何を焼き払いたいと、願っただろうか。
「……メリー、クリスマス」
 日暮恋歌は廃ビルの屋上から大地を見下ろした。長い黒髪が風に梳かれて流れてゆく。
 家族は沢山いたが、沢山死んだ。
――京都。
 赤く染まった雲空を背景に、視線の先には分厚い石壁に囲まれた城塞が聳え立っている。
 天界軍が京都に築き、撃退士達の前進を押し留めている八要塞だ。
「故郷、という言葉がある」
 不意に背後から声が響いた。
 肩越しに視線をやると眼鏡をかけた青年が立っていた。大塔寺源九郎、生徒会の書記長だ。
「何故、人は故郷というものに強い感情を抱くのだろうね」
 日暮は答えなかった。
 ただ、酷く勘に触ったので鋭く睨みつけた。
 しかし、日暮よりも随分と年下の青年は、女の視線など意に介した風もなく飄々と述べる。
「奪われた物は、奪い返すべきだろうか? 目には目を?」
「目には目をって訳じゃないけどね、左の頬を差し出した所で、救われやしないだろう。持ってた物を、また持ちたいだけさ」
「瓦礫の山だ。瓦礫の山だよ、恋歌。この街を取り戻せば、奪われた物は返ってくるのかい?」
 灰になった物は、二度と取り戻せない。
 破壊された街を取り返しても、活気に満ちた街が戻って来る訳ではない。
 そこに生きていた人々も、また。
 残骸が、戻って来るだけだ。
「京の全てが、消えた訳じゃあない。けど、君の全ては、残骸だろう」
「…………だから?」
 恋歌は問いかけた。
「明るい未来って奴を、築きにいった方が、建設的なんじゃないかな。命を賭けて戦う理由が、君にとって、ここにあるのかい? 畢竟、殺し合いだぜ?」
「なけりゃここにはいない」
 恋歌は答えた。
「母が言うのさ、帰りたいって。家に帰れば、正気に戻るかもしれないと、夢を見るのは愚かか?」
「はっきり言うなら、無理だろう。君のお母さんの言う『家』ってのは、単なる木石だけの事か」
「もう自分が何を言ってるかなんて、解っちゃいないだろうさ」
「街を取り戻したとしても、そこに残っているのは、破壊された跡だけだ。それで心が戻るなら、医学って奴に苦労はないんじゃないか」
「だとしてもね、私にとっては、これが建設的なんだよ。ここが取り返せなきゃ、何も始められない。聞こえるんだ。叫ぶんだよ。全部に背を向けて、安穏と生きる事なんて私には出来ない」
 恋歌は言った。
「それに、昔言ってたんだ。足掻くのが、人生なんだとさ」
「……そうかい」
 源九郎は一つ嘆息すると言った。
「呑気に生きられるなら、呑気に生きた方が良い、と僕は思う。戦いなんてのは、戦わざるをえない連中がやれば良い。けれども、そうだね、君が僕等と同類だっていうのなら、戦う理由があるというなら、遠慮はしない。夢と希望を奪い返しにいこうか。三日後に攻撃を開始する。途上に倒れても、骨くらいは拾ってやる。確約は、できないけどね」


リプレイ本文

「これが取り戻す為の一手か……」
 九十九(ja1149)が呟いた。
 およそ六十名もの撃退士達が西要塞を三方から囲み攻撃を仕掛けてゆく。城牆上、正面のそれに見えるサーバントはおよそ三十体程度か。他の方角にも同数程度いるのだろう。
 敵味方が互いに射程に入ると矢や銃弾を撃ち放ち始める。
 要塞戦が始まった。
 九十九は京都に関わるのは先の作戦以来だが、正直、面倒なお仕事だ、と思う。だが重要なのは承知している。任されたからには手抜きはしない。仕事だからだ。
 はぐれ悪魔のナナシ(jb3008)はちらりと、機嶋 結(ja0725)へと視線をやる。幼い少女はごく自然なように視線を逸らした。作戦開始前に、機嶋は分隊皆に挨拶していたが、悪魔であるナナシだけは避けていた。どうやら、悪魔が嫌いらしい。
 ナナシとしては、敵対種族を嫌う事は理解できる。だから、気にしない。
 ただ――少しだけ、寂しかった。
 他方。
(服が……可愛いのだ!)
 フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)はナナシを見てそんな感慨を抱いていたりする。思う所はまずそこなのか。しかし特に害意がなければそういうものなのかもしれなかった。
 だがそれでは済ませられない者もいる。
(仕事は成功させる。それは大前提ですが……)
 機嶋結は激しく葛藤していた。
 悪魔と仕事を共にするのが気に食わない。
 はぐれでも、所詮悪魔。
 機嶋の過去に会ったそれと同じ筈だ。
 しかし、
「京都奪回の為に、やるぞ」
 月詠 神削(ja5265)が言った。
「大規模作戦の勢いが残っている間に、このまま勝ちを重ねにいきたいところです」
 頷き答えるのは久遠 冴弥(jb0754)だ。京都も奪われてから中々長い。
「……そうですね」
 機嶋は言った。
「京都は私達が奪還できなかった土地……リベンジの気持ちだって、ありますから」
 ここで躓く訳にはいかない。
――だから、仕方ない。
 悪魔は憎いが仕方がない。
 悪魔と共にとて作戦はこなす。
 悪魔を信用はできないが。
「……そうね、これは故郷だけじゃなくて。希望を取り戻すための戦いだものね」
 とナナシ。何故かは判らない。ただ、胸の奥が痛かった。
「ああ、頼むよ、皆。力を貸しておくれ」
 日暮恋歌はそう頭を下げて言った。彼女の要塞を睨む目は、鋭い。
(……やれやれ)
 九十九はそんな一同の様子を眺めて胸中で嘆息していた。
 京都奪還、それに意気込む者達がいる。だが、様々な事情が絡み合っているにせよ、少し力が入り過ぎではなかろうか。九十九からするとそう見えるのだ。強い感情は鋭い突破力を産むが、同時に視野を狭くしがちである。メリットもあるが、危険も産む。
(一言かけておくべきかねぃ……?)
 男は思案し、しかしその前に、クリスティーナ アップルトン(ja9941)が日暮に対して口を開いていた。
「日暮さん、力み過ぎにみえますわ」
 その言葉に黒髪の女は、意外そうに目を瞬かせた。
「……そう見えるかい?」
 自覚はないらしい。
「ええ。前のめりになり過ぎても、危ないですわよ」
 ブロンドの女は頷く。
「……解かった。有難う。気をつけとくよ」
 日暮は言ってヘルメットをかぶり、突撃銃を担ぎ直した。葛藤は、あるのだろう。
(十人十色という奴かねぇ)
 享楽主義者、鷺谷 明(ja0776)は一同の様子を見ながら笑った。享楽主義者はいつでも笑う。愉快だからだ。
 なるほど、混沌としてるってのは素晴らしい。皆が同じだったら、不気味だろう。相反もする者達同士が、それでも肩を並べて一つの脅威に立ち向かわんとしている。
 鷺谷は笑った。人の世だ。
 鷺谷としては、日暮恋歌は結構好印象だった。論理の意味は認めても、重きは置いてない故に。
 それぞれ思う所を秘めながら一同は作戦の調整をする。
「日暮さんには回復と蒼鴉への牽制を優先して頼みたいんだが」
「了解。任せな」
 月詠の言葉に日暮は頷く。
「ニンジャさんはアタッカーでお願いできますか?」
「城壁上は狭そうだ。状況によっては壁走りで壁面からいけるかね?」
 機嶋と鷺谷の言葉に覆面の忍びは低い声で返す。
「……承知」
 アデル・シルフィード(jb1802)等は試作型のフック付きロープことフッ君一号の借用申請を事前にしており、具合を確かめている。
 それを指してフラッペが言った。
「フッ君、カッコいーのだ! 熱いのだ! 一号ってことは、二号は!? 量産型は!? 偽者は!?」
「試作結果を反映して二号とかできそうね」
 ふふと笑って月臣 朔羅(ja0820)。他はともかく偽物の出現確率は低そうだが。
 一同は手早く装備のチェックを済ませ、機嶋が言った。
「そろそろ東へ、敵に気取られぬよう」
 作戦開始前までは機嶋的には身を隠しておきたい。
 一同は要塞から距離をおき、瓦礫や廃屋の陰を通って東側へと移動する。
 西要塞の周辺は破壊されて見晴らしが良くなっているが、大雑把な破壊なので残骸は残っている、極力身を低くして一同は、要塞より東へ50m程度の位置にある瓦礫の陰まで移動した。それより要塞に近くなると、丸見えなので控えておく。
 行動開始前に、東城壁に触れるくらいの位置まで前進しておく事も可不可でいえば可能だが、流石のサーバントも姿が見えてたら、見えてるなりの対応をするので、身を隠しておくというのは基本的な事だが生死を分けた。
 冬の凍てついた空気の中、一同は瓦礫の陰に身を伏せていた。要塞の方から喊声が聞こえている。月臣と九十九は陰から身を乗り出して東壁上を伺い見る。索敵は直線を除いて射程外か。まばらだが、未だサーバントらしき影が見えた。数は十五体程度だろうか。まだ多い。
 機嶋は光信機で突入隊の進行状況を確認中。
 どれだけ経っただろうか。長いような短いような待機時間の後に、光信機から声が洩れた。
 曰く「門の破壊に成功、これより突入を開始する」と。機嶋がそれを報告し、月臣と九十九は再度瓦礫の陰から城牆上を伺い見た。サーバント達がぞろぞろと移動してゆく。残った敵影は少ない。二人からの報告を受けた日暮は十秒後に状況を開始する、と告げた。
 10、9、8、7、6、数が減ってゆく。
 カウントが0になった時、撃退士達は素早く瓦礫の陰から飛び出した。
 アスファルトの欠片を蹴り、元は家屋の一部であったろう木端を踏みつけ、灰塵に帰した街を駆ける。ナナシは闇の翼を広げ、久遠は駆けながら布都御魂を発動、黒蒼のセフィラビースト、蒼煙を炎の如く噴出し、紫電の光を迸らせながらスレイプニルが出現する。少女はクライムを発動して飛び乗った。
 目指す先は西に見える冷石の要塞。九十九は索敵を発動させた。城牆上の数は五。確実に数が解かるってのは素晴らしい。突撃続行。九十九はサブラヒナイトと骸骨指揮官の位置を特定伝達。距離およそ30。ナナシの合図で撃退士達は加速した。同時、一体の骸骨が虚ろな眼窩を日暮隊の方へと向けた。気付いた。彼は一瞬動きを止めたが、すぐに顎を開いて吠え声をあげた。
 轟く咆哮に東側に残っていたサーバント達は反応し、東に向き直り城牆上を駆けて弓を取り出した。骸骨指揮官、二体の骸骨兵、コボールト、そしてサブラヒナイトが矢を番え、構える。次の瞬間、移動中の撃退士達に向かって次々に矢が放たれた。
「さてまあ、明るい未来に突撃とねえ?」
 鷺谷は駆けながら光と共に1mを超える長杖を出現させると同時、頭上で鋭く旋回させる。骸骨兵から放たれた矢が唸りをあげて飛び、回転する長杖が激突する。鈍い手応えと共に堅い音を立てて矢が弾き飛ばされた。かわした。際どい。矢勢からして骸骨兵はさほど優れた射手ではなさそうだが、全力移動中は回避が困難だ。
 状況。駆ける撃退士達の先頭は月臣、次いでフラッペ、鷺谷、ナナシ、忍者の四人、機嶋の次に、九十九、月詠、クリスティーナ、アデル、日暮恋歌の五人が並走し、その後方から久遠が続く。
 狙われたのは鷺谷の他は月臣、フラッペ、忍者、ナナシの四人だ。
 サブラヒナイトから放たれた蒼白く燃える鬼火の矢が、高所から稲妻のように奔る。月臣は咄嗟にかわさんと身を捌いたが、避けきれずに肩に矢が直撃した。凄まじい衝撃。負傷率六割四分。激痛が脳髄を焼く。
 忍者も直撃。フラッペ、骸骨兵の矢が直撃して負傷率二割五分。ナナシ、咄嗟に金剛の術を発動防御、骸骨指揮官からのカオスレート差を多分に乗せた矢はしかし、硬化した肩をぶち抜いて負傷率二割四分。レート差がきついので敵の射程内に踏み込まないように警戒はしていたが、敵の方が射程が長い。定点守備だ、鴨撃ちされないように良い弓持ってる。
 飛翔するナナシは雷霆の書を掲げ、機嶋は駆けつつ飛燕翔扇を構え、九十九は弓矢を構える。三人の撃退士は城牆上へと次々に撃ち返した。強弓から放たれた矢が錐揉み風を裂いて飛び、扇が風を纏って回転しながら飛ぶ。雷の剣が轟音と共にその破壊力を撒き散らしながら宙を灼いて走った。サブラヒナイトと骸骨指揮官は素早く一歩後退しながら身を逸らし、矢と扇が虚空を貫いて抜けてゆく。かわされた。下からの射撃は不利だ。さらに全力移動している。
 だが、直後、上より交差射撃するように豪雷の剣が奔り骸骨指揮官に直撃し、その身の半ばを吹っ飛ばして抜けた。レート差が乗った猛烈な破壊力。ナナシの射撃だ。精度が高い。飛べれば城牆のさらに上を取れる。
 日暮は月臣へとヒールを発動。月臣の傷が癒えてゆき、負傷率三分まで回復する。月臣、鷺谷、忍者の三名は壁走りを発動、そのまま一気に城壁を駆け登ってゆく。
 フラッペはアウルを集中させ、クリスティーナを目標に力を解き放つ。
「風はボクが吹かせる……さあ、思い切り翼を広げてくれていいのだっ!」
 蒼い光が女の身を包みこみ、その機動力を増加させてゆく。
「フラッペさん、ありがとうございますわ!」
 クリスティーナは礼を述べると全力跳躍を発動。地を蹴りつけ砲弾の如くに空へと向かって跳びあがってゆく。「華麗に跳びますわ」の言葉の通りに一気に城牆上に躍り出て着地した。
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
 流石に一気に跳躍されるとは思っていなかったのか、城牆上に現れた女の姿にサーバント達は一瞬ぎょっとしたように身じろぎする。その横合いからスレイプニルに騎乗中の久遠が加速飛翔して突っ込んできて骸骨指揮官を脚剣で蹴り倒した。
 身体を砕かれた骸骨はふっとばされ、中庭へと破片をばらまきながら城牆上から転がり落ちてゆく。やがて地面に叩きつけられて動かなくなった。撃破。
「フフ……先んじて突入した者達はよくやるよ、頼もしい限りだ」
 アデルは呟きつつフック付きロープを旋回させ、城牆上に向かって放つ。鋭くロープを引くと鈍い手応えと共に鉤爪が城牆の上面に喰い込んだ。男は小天使の翼を発動させて城牆の半分程の高さまで跳躍した後、ロープを手に壁面を蹴り、軽やかに壁を登ってゆく。
 北と南の端から、サーバント達が移動を開始する。東へと引き返し始めた。天空でも蒼い陰が次々に翻る。蒼鴉だ。
 東城牆上のサーバント達は弓を捨てると次々に剣や手斧を抜き放つ。
 サブラヒナイトは奇声をあげると腰から太刀を抜き撃ち様に踏み込み、城牆上に現れた月臣へと斬りかかった。光の如くに一閃された太刀を、しかし女は一瞬で見切り、横に跳んでかわした。跳びつつ手に苦無を出現させ着地と同時に投擲し、木乃伊武者は身を沈めると和鎧の肩当に苦無をあてて弾き飛ばす。動きが一瞬止まった所を見逃さずナナシが空より鎧武者の脳天へと雷霆の剣を撃ち落とした。急所狙いの必殺の一撃。猛烈な破壊力が荒れ狂っているのを横目に骸骨兵が踏み込み、態勢を崩している月臣へと剣を振り下ろす。しかし月臣は即座にスウェーしてあっさりかわした。恐ろしく速い。電撃に灼かれたサブラヒナイトが倒れる。月臣は一歩後退して間合いを計りつつ、再度苦無を出現させて構え、言う。
「出る杭は撃つわよ? 文字通りにね」
 他方。
 骸骨兵がクリスティーナへと斬りかかり、コボールトが忍者へと襲いかかる。
 女は身を捌くが、かわしきれずに斬り裂かれて負傷率一割三分。軽い。苦痛に怯む事なく切り返す。
「跪きなさい!」
 女は勝気な気合いの声と共に透刃の剣を一閃させた。刃が骸骨兵を強かに打つ。その横合いから蒼い怪鳥がクリスティーナ目がけて弾丸の如くに滑空突撃し、さらにその横から鷺谷が跳躍してアウロラで殴りつけた。長杖が激突し、一撃にバランスを崩して突っ込んで来た蒼鴉を、クリスティーナは素早く跳び退いてかわす。
 蒼鴉はそのまま抜けてゆく。その蒼鴉の進路上に都御魂が紫光を煌めかせながら猛然と迫った。交差ざま、スレイプニルは首を回して額より生える剣状の角を振るい斬りつける。刃が炸裂して赤い色が舞った。
 他方。城牆を登り切ったアデルは光と共に手にヒポグリフォK46を出現させていた。鮮血を撒き散らしている蒼鴉へと狙いをつけ、発砲、連射。轟音と共に飛び出した拳銃弾が次々に蒼鴉の身に撃ちこまれてゆく。蒼鴉は断末魔の悲鳴をあげて急速に失速し、羽根を散らしながら大地へと落下していった。撃破。
 忍者はコボルトと太刀と斧を応酬しあっている。斧が跳躍する影にかわされ、太刀が一閃させて狼人の背を斬り裂いた。
「手筈通り、跳ぶぞ」
「了解」
 月詠は言って日暮を抱きかかえる。仄かに甘い石鹸の香りがした。なんだかんだで男とは違って柔らかい。フラッペから蒼い光の援護を貰って全力跳躍を発動。地を蹴って跳び上がり、風を裂いて一気に城牆上に躍り出る。日暮は城牆上に降りるとナナシへとライトヒールを飛ばした。暖かい光がナナシを包みこみ、傷が急速に癒え、痛みがひいてゆく。全快した。
 九十九、機嶋、フラッペはフッ君を取り出すと城牆上に放ち、登攀を開始している。
 状況。
 東城牆上ではサブラヒと指揮官が倒れ、残敵は骸骨兵が二体とコボールトが一体。
 蒼鴉が一体撃墜されたが、新たに二体の蒼鴉が急行してきている。
 北の城牆上よりサブラヒと二体のコボールトが北東の曲がり角にある隅櫓の屋上を、骸骨指揮官と二体の骸骨兵が隅櫓の南側入り口前を目指して移動中。
 同様に南の城牆上からもサブラヒと二体のコボールトが南東隅櫓の屋上を、骸骨指揮官と二体の骸骨兵が南東櫓北入り口前を目指して移動中。
 城壁の上を守る連中に相応しく、どいつもこいつも弓持ちだ。
「そこッ!」
 クリスティーナが骸骨兵へと再度剣を一閃させて斬り倒し、もう一体を月臣が剣をかわしざまに苦無で斬りつけ、月詠が1.8mの大剣を袈裟に振るって背後から叩き斬った。骸骨兵が破砕されて倒れる。撃破。
 突っ込んで来る二体の蒼鴉のうち一体をナナシの雷霆が撃ち抜き、アデルが拳銃で猛射して追撃を入れ撃墜する。残りの一体は日暮の弾幕と鷺谷の雷帝霊符受けながらも突っ込んで来たが、都御魂の額剣にカウンターを貰って叩き落とされていった。
 九十九、機嶋、フラッペの三名が城牆上へと登り、西より蒼炎の矢が二本飛来して日暮が撃ち抜かれ、鮮血をぶちまけながら倒れる。一人脱落。
「――え?」
 城牆上に出たフラッペは目を瞬かせた。矢が飛来したのは、北からでも南からでもなかった。サーバント達はまだ移動中だ。
「……監視塔の上いるねぃ!」
 周囲へと注意を払っている九十九が気付いた。このままでは囲まれて三方より包囲射撃される。
「私が行く!」
 ナナシは反射的に言って上昇した。忍者が城牆上から跳躍して監視塔の壁に張り付き駆け登ってゆく。
 悪魔の少女が上に出て監視塔の屋上を見下ろすと、サブラヒナイトが二体、鬼火の弓を手にして見返していた。監視塔の高さは13m、その屋上は城牆上に侵入してきた敵を撃ち降ろすに最適である。狙撃屋さん達はこういう場所が大好きだ。
 屋上に躍り出た忍者が武者の一体へと斬りかかり、武者は鬼火の弓を消し太刀を抜刀ざまに受け止める。激しく火花が散った。
 久遠、クリスティーナ、月詠、アデルが北へと駆け出し、月臣、鷺谷、機嶋が南へと向かって駆ける。サーバント達が次々に配置について弓を構え始める。
「こんな事もあろうかと!」
 鷺谷は煙花火が詰まった紙袋を取り出すと、素早くライターで点火して南櫓前へと投擲した。炎が燃え上がり、瞬く間に色とりどりの煙が吹き上がってゆく。簡易煙幕だ。
「レンカ、レンカ、しっかりするのだー!」
 フラッペは塔上からの射線を己の身を壁にして切りつつ日暮を抱え起こして声をかける。だが血に染まった女はぐったりとしていて応答がない。昏倒している。救護をしたいが、スキルもなければ道具もない。
「うちに任せるさね」
 九十九言うと片膝をつき患部に手を当てた。

――二十四の花を咲き告げる風に乗りて、天下りて癒しに来たれ百花仙子。

 アウルが放出されると同時、小さな旋風が傷口に纏い付き。優しく香る風が傷を癒してゆく。
 他方、監視塔上。
 ナナシはフリーの武者の頭部へと狙いを定めると雷霆の書を掲げ、本日三度目の雷光剣を解き放っていた。サブラヒは素早く身を沈め、雷撃が間一髪で逸れて背後の床へと突き刺さってゆく。外れた。流石に単騎で真っ向からは中らん。武者はカウンターの矢をナナシへと撃ち上げる。蒼焔矢が少女の胴に炸裂して負傷率四割八分。苦痛の息が洩れた。忍者の刀が武者の鎧に激突して硬い音をたて、武者の太刀が忍者を捉えて血飛沫が吹き上がる。押され気味だ。
 北。布都御魂に騎乗している久遠、サブラヒナイトの注意を惹かんと布都御魂と共に宙を快速で翔ける。目論見通りサブラヒナイトは久遠へと狙いを定め、他の五体も久遠へと狙いを定めた。いけるか?
 六体のサーバントから次々に矢が放たれ久遠へと襲いかかる。久遠は布都御魂を素早く旋回させ、コボールトと骸骨達の矢を避けて避けて避けて直撃直撃、態勢が崩れた所へ本命サブラヒナイトの焔矢が放たれ、布都御魂は中庭に向かうように急降下、少女の顔のすぐ横の空間を蒼焔の矢が貫いてゆく、かわした? かわした。負傷率三割三分。
 猛射を掻い潜った久遠は疾風の如くに隅櫓へと猛迫、布都御魂が突貫して額剣を振り回し、屋上の武者を斬り裂いて宙を翔け抜けてゆく。機動力は抜群だ。
(これが、兄さんも何度も来た戦場……やはり、気を引き締めないと)
 少女は胸中で呟いた。さっきのはちょっと危なかった。ここらの連中は棒立ちしないので、射程外から突撃しても射程に入った瞬間に合わせてカウンターで撃って来る。
 南。煙が吹き上がった次の刹那、凶悪に輝く鏃を持つ六本の矢が煙を斬り割いて嵐の如くに飛び出して来る。だが、煙のせいか大半の狙いが外れていた。撃退士達は次々に身をかわし、サブラヒナイトの蒼炎矢は先頭を走る月臣へと直撃コースで来たが、月臣は突進しながらスライドしてかわし、後続の鷺谷に直撃して負傷率五割。運命の女神が空気を読まない。
 北。
「御覧なさい、流星の輝きを!」
 クリスティーナの裂帛の声が響いた。ブロンドの女は駆けつつ精神を研ぎ澄まし剣に極限までのアウルを集中させる。
「スターダスト・イリュージョンッ!!」
 剣を振り抜くと同時、轟音と共に煌に輝く流星群が解き放たれ、一直線に空間を貫いてゆく。爆音をあげて迫る星光の奔流に対し、骸骨指揮官は身をかわさんとしたが、かわしきれずに呑み込まれ、身を穿たれ次々に破砕させてゆく。
 加速が残っている月詠は、流星を追いかけるように疾風の如くに突撃し、両手持ちの巨大剣を振り上げるとよろめく骸骨指揮官へと落雷の如くに振り下ろした。唸りをあげて振るわれた刃が、鈍い手応えと共に骸骨指揮官を頭頂から真っ二つに叩き斬って抜ける。骸骨は身を左右に割かれて倒れ、動かなくなった。撃破。
 続くアデルは虹のリングを装着すると己の周囲へと虹色に輝く五つの光球を出現させた。虹に輝く光の球が次々に飛び、鎧武者へと襲いかかる。サブラヒナイトは飛来する光球群に対し小刻みにからだを振ってかわす。光球は宙を突き抜けて空へと消えていった。外れた。
 南。
「煙を裂くわ。機嶋さん、狙って!」
 月臣は言葉と共に風のアウルを纏った苦無を構えると、先程までサブラヒナイトが見えていた位置を狙って撃ち放つ。鋭く飛んだ苦無が煙を突き破り、何もない空間を貫いたが、瞬間、煙が吹き散らされて鎧武者の姿が露わになる。
「外せませんね……!」
 機嶋は光と共にクロセルブレイドを出現させ抜刀様に一閃。青銀の細剣が振るわれると同時、光の波動がサブラヒナイト目がけて飛び出してゆく。フォースのスキルだ。唸りをあげて飛んだ波動は、かわさんとした鎧武者を逃さず捉えて直撃し、猛烈な衝撃を発生させて後方へと吹っ飛ばした。
「あ」とでも声を洩らしそうな風情で、隅櫓の屋上に立っていたサブラヒナイトは、その縁を越えて、放物線を描いて大地へと落下してゆく。そしてそのまま大地へと叩きつけられた。武者はまだ動いていたが、最早要塞内へは戻れまい。
「上が不味そうだねぃ」
 九十九は日暮の手当てをしながら戦況を冷静に観察している。男は負傷した宙のナナシを仰ぎ見てそう述べた。
「レンカを頼むのだ。フォローにいく」
「了解さね」
 フラッペはフッ君を監視塔上に投擲しひっかけると城牆上から加速をつけて跳躍した。振り子の如くに監視塔へと迫って、その壁を一度靴裏で蹴ると、ロープを手繰って身軽に登ってゆく。
 北。
 サブラヒナイトとコボールト達は宙を機動する久遠へと向かって矢を放ち、久遠は一撃をかわし二撃をかわし三撃目の蒼矢が今度は炸裂した。負傷率六割六分。
 一方、サブラヒを侮れぬと見たアデルはアウルを集中させた。リングを嵌めた腕を向け、裂帛の気合いと共に波動を撃ち放つ。フォースだ。眩く輝く光の波動が、唸りをあげて宙を貫いて飛び、攻撃直後の鎧武者を側面から撃ち抜いた。猛烈な衝撃が炸裂し、こちらの武者も弾かれたように吹き飛んでゆく。サブラヒナイトは屋上から転がり落ち、北側の大地へと落下していった。
 南。
 煙花火というのはそこそこ長く燃えるものだ。先に散った煙が再び立ち込めるが、月臣は構わずに両手に影を凝縮した棒手裏剣を出現させた。
「まとめていくわ!」
 見えないなら全てを薙ぎ払うまで、とばかりに広範囲へと向かって嵐の如くに投擲する。
 影の刃が次々に煙の中へと飛び込んでゆき、煙中からは苦痛の声らしき奇声があがった。次の瞬間、一方的に撃たれるだけと判断したか、骸骨達が弓を捨て剣を抜き放って飛び出して来る。
「はい来たぁ」
 鷺谷は軽口を叩きつつ、猛烈な火炎を吐きだした。炎息のスキルだ。飛び出した骸骨指揮官と二体の骸骨兵達が、瞬く間に逆巻く焔に呑み込まれ焼き払われてゆく。
「ヒトは炎を吐ける。知らないのかね?」
 男が笑い、二体の骸骨が崩れ落ちた。
 しかし、骸骨指揮官は創痍ながらも倒れず、炎を突き破り剣の切っ先を鈍く輝かせて鷺谷へと飛びかかってくる。だが、その剣が鷺谷へと届くよりも前に、機嶋が迎え撃つように飛び込み、ブラストクレイモアを竜巻の如くに振るって斬り倒した。両断された骸骨が城牆上に落ちる。
 だが、敵はそれだけではない。直後、二体のコボールトが煙を裂いて出現した。屋上から飛び降りたらしい。着地と同時に右のコボールトが長剣を横薙ぎに振るい、機嶋は後退しながらかわさんとしたが、避けきれずに叩き斬られ、左のコボールトが間髪入れずに追撃の剣を振り下ろす。銀髪の少女は身を半身に捌くと装甲の厚い肩部を中てて受け止めた。負傷率九分、硬い。
 要塞外へ叩き出されたサブラヒナイトは起き上がり、復讐せんと弓を城牆上へと構えたが、その背に南側の友軍からの射撃が次々に炸裂して倒れる。
 北。
 月詠は踏み込みながら大剣で突きを骸骨兵士へと叩き込む。強烈な一撃に骸骨兵がよろめいた所へ、すかさずクリスティーナが踏み込んで剣を一閃させた。フラッシュエッジが炸裂して骸骨兵が崩れ落ちる。剣を振り抜いた女の側面へともう一体の骸骨兵が迫って鋭く刺突を放つ。切っ先がクリスティーナの身に突き立って負傷率二割九分。その骸骨兵士へと天翔ける布都御魂が迫り脚剣で叩き斬って抜けてゆく。
 攻防が続く。監視塔上。猛然と放たれた蒼焔が矢がナナシをぶち抜いて負傷率九割六分。ナナシ、激痛に空が回り、三途の河が見えて来た。地獄は故郷か? 故郷は知らない。記憶がない。名前も知らない。だからナナシだ。忍者の太刀とサブラヒの太刀が互いに命中し、忍者が血飛沫をあげて倒れる。はっきりと劣勢。ヒトの故郷を取り戻す為の戦いで逝くか。
 その最中、フラッペがロープを登り監視塔の屋上に密かに現れる。女は屋上に出るとセエレを出現させ、忍者を斬り倒した直後の鎧武者へと振るった。黄金色の線が鋭く飛び、鎧武者に絡みつく。鋼糸だ。悪魔は気力を振り絞って即応した。アウルを集中させ、糸に絡まれている武者へと天空より爆雷を叩き落とす。頭蓋に直撃した雷剣が猛烈な破壊力を解き放ち、武者は崩れ落ちるように倒れた。一撃必殺。
 東城牆上。気絶から回復した日暮は九十九からの言葉を受けて空を見上げると、満身創痍で飛ぶナナシへとヒールを飛ばした。ナナシ、負傷率四割五分まで回復。九十九は南へと移動を開始。
 北。
 骸骨兵の剣をかわしつつクリスティーナが反撃して斬り倒す。アデルがコボールトへと五連の光球を次々に降り注がせて爆ぜさせ、月詠は隅櫓の屋上へと登り、飛びかかってきた二体のコボールトからの二連撃を、シールドを発動しつつ大剣で打ち払い、掲げて盾にし受け止め、負傷率一割。硬い。
 月詠は負傷しているコボールトへと反撃の剣を繰り出して斬り倒す。久遠が飛来してもう一体のコボールトを翔け抜け様に斬り裂いた。要塞外に叩き落とされた武者は、やはり北の隊からの猛射を受けて倒されている。
 南。
 機嶋がコボールトから一撃を受けつつも一体を斬り倒し、残りの一体は鷺谷の長杖が唸って殴り倒している。
 月臣は煙中に飛びこみ隅櫓の屋上へと出ると中庭の方角を見やる。北は煙で見えないが、西はなんとか見えた。南方面は一進一退の攻防が続いているようだ。どちらの陣営も余裕はなさそうである。
「絶好の位置ね」
 月臣は南城牆上にて並んで弓矢を撃っているサーバント集団目がけて横合いから雷遁・雷死蹴を放った。10mまでの範囲にいたサーバント達が痛打を受けると共に麻痺してばたばたと倒れてゆく。
 九十九は花信風を発動させて鷺谷を治療する。鷺谷負傷率六分まで回復。
 塔上。フラッペは前進しながらアジュールに持ち替えて鋼糸を放つ。蒼い煌めきがサブラヒナイトは絡め取った。武者は鬼火の弓を消すとフラッペへと踏み込み抜刀様稲妻の如くに一閃の太刀を放つ。速い。フラッペの身が逆袈裟に叩き斬られ、勢い良く血飛沫が上がって負傷率五割四分、同時に天よりの爆雷が武者の頭部をふっ飛ばして打ち倒した。撃破。日暮は再度ナナシへとヒールを飛ばし、ナナシは全回復する。
 月詠は隅櫓上の最後のコボールトを大剣を一閃させて斬り倒し、降りる。クリスティーナは櫓の西入り口に立つと、北城牆上に並ぶサーバント達目がけて星屑幻想を撃ち放った。轟音と共に輝く流星群が一直線上にサーバント達を薙ぎ払って突き抜けてゆく。痛烈な被害が発生した。
 女はすぐに入り口の陰に身をひっこめると光信機を取り出して状況を報告を開始した。代わりに月詠が大剣を構えて立ち。久遠が翔け抜けながら一撃を与えた所へ、アデルが光球を飛ばして北コボールトの一体を倒す。
「こちら毒りんご姉妹。隅櫓を制圧しましたわ。北へと攻撃を開始中。そちらの戦況はどうです?」
「こっちも制圧完了だねぃ。皆櫓の上から南へと撃ちまくってるさね。監視塔上の方もどうやら片がついたようだねぃ」
「他の方面、押しきれてないみたいですけど、いけると思います?」
「既に東は抑えたさね。後はうちら次第だろうけど、ここまでくれば下手さえ打たなければ押し切れる公算は高いねぃ。このまま東から押せば、勝てる」
 九十九はそう答えた。
「了解。そちらも頑張ってください」
 クリスティーナは通信を切ると剣を手に言った。
「皆さん、後もう一押しですわ、行きましょう!」



 かくて、日暮分隊の撃退士達は東から北城牆と南城牆へと進撃を開始した。
 監視塔上を制圧したフラッペは忍者を担いで東城牆上に戻り日暮に預けて南へと向かった。ナナシもまた、再び屋上に敵が現れないか警戒をしつつも北の援護へと向かう。
 日暮は忍者を回復させると北へ、復活した忍者は南へと向かった。
 激しい戦いが続き、攻め手側にも軽くはない被害がでていた。しかし東方向より北と南の城牆守備隊が崩されると、戦況は加速度的に撃退士側へと傾いていった。
 半数程のサーバントが討ち取られると、彼等は監視塔の内部へと水が退くように撤退してゆき、撃退士達はこれを追撃して痛撃を与えたが、その勢いのまま監視塔の内部まで踏み込んだ者達は、中に入った瞬間に苛烈な反撃に逢い屍を晒す事となった。
 やはり本丸の内部には強固な備えがあるようで、予定に従いこれ以上の突入は見送られた。代わりに撃退士達は中庭と城牆上を制圧し、塔の屋上も抑えた。
 サーバント達は監視塔内部へと逃げ込み、撃退士達はこれを完全に包囲した。西要塞における第一段階の攻防は撃退士側の勝利である。
 しかし、監視塔内部の守りは強固であり、斥候からの報告によれば、中京城では救援軍を差し向ける為にサーバント達の編成を急速に進める動きがあるという。
 予断は未だ許されない状況にあるが、戦局は優位に推移している。今日は撃退士達のその活躍を讃えよう。


 了


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 秋霜烈日・機嶋 結(ja0725)
 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
 万里を翔る音色・九十九(ja1149)
 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
重体: −
面白かった!:12人

蒼き疾風の銃士・
フラッペ・ブルーハワイ(ja0022)

大学部4年37組 女 阿修羅
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
凍魔竜公の寵を受けし者・
久遠 冴弥(jb0754)

大学部3年15組 女 バハムートテイマー
魔を祓う刃たち・
アデル・シルフィード(jb1802)

大学部7年260組 男 ディバインナイト
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍