京の戦陣、北の空に赤焔を纏った大烏が舞い、輝く翼を持った大天使が蒼光の剣を手に飛ぶ。南空より迎え撃つは撃退士からなる飛行隊、獅子の咆哮にも似た爆音をあげながら光を纏い飛翔してゆく。
「話は聞いてたが、無事立ち直ったんだな、会長」
地上。荒野を駆ける赤髪の青年は空を見上げ、飛行隊の中に一人の少女の姿を見つけて言った。男の名は久遠 仁刀(
ja2464)、夏には色々あった。
「生徒会長と同じ中隊とは光栄の極み」
久遠に並走しながら力強い口調で言うは獅子堂虎鉄(
ja1375)、一閃組の大将だ。男はニヤリと口端をあげて笑う。
「無様な戦いは見せられないぞ」
その言葉には銀髪の少女が頷いた。
「うむ……あちらでは茜殿が気張っておるのだ。此方が失敗する訳にも行くまいて」
鬼無里家当主、鬼無里 鴉鳥(
ja7179)だ。ど真ん中もど真ん中が崩れる訳にはいかない。それに鬼無里としては茜に良い報告もしたかった。
「だな――後れを取らないよう、こちらはこちらの敵を討つ」
久遠が頷き、獅子堂が雷を纏い弓を出現させながら言う。
「行くとしようか。京都を人の手に必ず取り戻す!」
「京都奪還のためにここは負けられねぇぜ!」
それに応えるよう叶 心理(
ja0625)が気合いの声をあげた。周囲からも「おお!」と口々に鯨波が上がる。
「敵陣突破はあたい達が最初よ! 絶対に突破してやるんだから!」
光纏の爆音と共に駆け収束する光から大剣を抜き払い叫ぶのは雪室 チルル(
ja0220)。戦列を組んで迫り来るサーバントの群れは津波の如く、北からサーバントが迫り南から撃退士達が駆ける。会戦だ。総勢二千を超える激突。
「久々の戦闘――暴れますか♪」
藤沢 龍(
ja5185)は笑い、巨人の名を冠した長大な長柄戦斧を出現させる。胸に抱く想いは様々なれど、この隊の皆の士気は一様に高い。気合いは十分だ。
だがこの天軍の戦列、はたして人間に、破れるかな。
答えは刃が決める。
(……必ず…撃破…を……)
華成 希沙良(
ja7204)は銃を手に迫る異形の群れを睨む。彼我の距離が詰まってゆく。少女はアウルを集中させると周囲へと解き放った。
「……皆様方に…加護を」
華成を中心に霊気が逆巻き、透明なヴェールが味方を次々に包みこんでゆく。それを受けて撃退士達は展開する――皆、ケルベロスを狙う為に中央に固まっている。左から周防、叶、久遠、藤沢、鬼無里、雪室、華成、獅子堂といった布陣だ。景守は少し後ろにつけている。
「支援に感謝を。手筈通り先頭から潰す」
光を纏った周防 水樹(
ja0073)は阻霊符を発動させつつ、津波のような敵勢を目前にしても淡々と述べた。
撃退士の視力ならば、既に相手の表情さえ見える距離。もっとも、敵の大半には表情自体がなかったが。
虚ろな眼窩を覗かせる骸骨の兵が長大な槍を構え穂先を並べて迫る。先頭を駆ける真紅の魔獣ケルベロス、耳をつんざく咆哮をあげている。その奥、古式の鎧に身を包んだ木乃伊の武者が鬼火の如くに蒼白く燐光を纏う長弓を構えた。
来る。
久遠は全長2mを誇る長大な刀を構えて極限までアウルを集中させる。敵戦列中央先頭、赤巨獣との間合い24m、射程、入った。
二体のサブラヒナイトから蒼焔の矢が放たれ、久遠が裂帛の気合いと共に振るった太刀から月白のオーラが爆発的に伸びる。北と南から光が交錯した。
左のサブラヒに狙われたのは叶。
男は咄嗟に回避せんと身構えるが、蒼焔矢はまさに閃光の如く、戦列の後尾から一瞬で30mもの距離を制圧し、アウルのヴェールを貫いて、その鏃を叶の胸へと叩き込んだ。強烈な衝撃が男の身を貫くと共に肋骨が嫌な音を立て、激痛が走り抜け息が詰まる。
「くっ……!」
負傷率四割八分。予想よりもダメージが浅い。インフィルトレイターは装甲が薄いものだが、叶はそれなりに硬かった。華成のアウルの衣に加えその身を包むのは対霊の文様が施された決闘外套。装備からして対魔装甲を着込んで来ていたようだ。普段からそうなのか、この戦い用に仕込んだのかは不明だが、狙って揃えたなら用意が良い。
叶は怯む事なく前進を続ける。
右のサブラヒナイトが狙ったのは雪室チルルだ。蒼焔の矢が稲妻の如くに飛び、アウルの衣を突き破って少女の身に直撃する。痛みが走るが、軽い。負傷率一割三分。硬いぞ。チルルもまた対魔の文様が刻まれた鎧に身を包んでいた。魔法攻撃に対して強くなっている。
どうやらこちらの二人、揃ってしっかり対策を立ててきた模様。魔法攻撃でウハウハ計画とはいかないようだ。
久遠から放たれた白虹のオーラが弧を描き、霧虹の如く揺らめいて、光の軌跡を残しながら荒野を貫き真紅のケルベロスへと襲いかかる。魔獣は咄嗟に回避せんとしたが、一撃が鋭い。かわしきれず光の刃が巨獣へと炸裂し、その皮膚を爆ぜ割った。痛烈な破壊力に巨獣の動きが一瞬鈍る。
「続いていくぞ!」
次に射程に入ったのは鬼無里鴉鳥、脇の構えから大太刀を刹那に顕現させると極限まで黒い光を集めて一閃、漆黒の閃光が砲撃の如くに宙を貫き飛ぶ。斬天虚空刃。黒光が久遠の痛撃に動きを鈍らせたケルベロスを呑み込み、さらに破壊を解き放ってゆく。
二連の光撃に勢いを鈍らせた巨獣へとさらに周防が突撃銃を構え、雪室が黒の拳銃を、華成が銀の拳銃を構える。次の刹那、それぞれの銃口から焔が噴出した。
「動きを止める……」
周防はライフルをフルオートに入れ猛烈なマズルフラッシュと共に弾丸を嵐の如くに撃ち放つ、猛烈なライフル弾の嵐がケルベロスを呑み込んでゆく。
「でっかい犬ね! あたいが躾というものを教えてあげるわ!」
両手で拳銃を構え猛射。巨獣は血飛沫をあげさらに動きを鈍らせる。集中砲火とはこの事だ。
その頭部へと華成希沙良、狙い澄ませて引き金を引いた。轟く銃声と共に銀の銃口より弾丸が勢い良く飛び出し、ケルベロスの頭蓋に狙いたがわず突き刺さる。ヘッドショット。弾丸が肉を貫き骨を穿って喰い込んだ。強烈なダメージ、効果は抜群だ。
その隙を見てとった叶、射程に入りざま足を止めブーストショットを発動。
(――ここは外せねぇ!)
二丁拳銃で狙いをつけ、負傷したケルベロスの頭部へと猛然と銃弾を撃ち放つ。ブーストされた二連の弾丸がケルベロスへと襲いかかった。唸りをあげて飛んだ二連の弾丸は、吸い込まれるように赤巨獣の頭へと突き刺さり、そして完全にぶち抜いて抜けた。鮮血と共にケルベロスの首の一つが白眼を剥き動かなくなる。潰した。
残る二本の頭部が苦痛に咆哮をあげ、身をよじらせる。だがケルベロスの頭は三つまである。まだ二つ健在だ。
しかしながら撃退士側の攻撃の方もまだ終わった訳ではなく、間髪入れずに射程に入ったのは獅子堂虎鉄、纏う雷のアウルを全開に解き放つ。こちらも狙うは頭部。部位狙いはそうそう中るものではないがこれだけ猛撃が集中しているとケルベロスの意識も分散している。
「一閃組局長、獅子堂虎鉄、参る!」
裂帛の気合いと極限までアウルを集中させ得物を振るう。黒光の衝撃波が逆巻いて飛び、弾幕を浴びている真紅の巨獣のその頭部に直撃した。強烈な一撃が巨獣の頭部を爆ぜ飛ばし吹っ飛ばして抜けてゆく。二本目、潰した。
集中射撃で動きを止めてからヘッドショット三連発、お前等鬼かと天軍の指揮官が見ていたら言ったかもしれないが、さらに追撃に藤沢龍が走る。ここは戦場、地獄の一丁目、待ったも容赦もありはしない。
迫り来る男に対し、瀕死のケルベロスは唯一健在な首を巡らせると、巨大な顎を開き咥内に赤い輝きを宿した。
次の瞬間、燃え盛る焔が一直線に放たれる。猛烈な焔が藤沢を呑み込みその身を焼き焦がしてゆく。藤沢負傷率七割、凶悪な打撃だ。赤魔獣も伊達で中央先頭を張っている訳ではない。
「赤いケルベロスやなー。負けられないね」
しかし藤沢、苦痛を浮かべる笑みの裏に殺し、長柄戦斧を振りかざし焔を切り裂いて前方へと躍り出る。間合い10m、射程入った。
赤髪の男から立ち昇るは魔獣の焔よりも紅い紅蓮の霊光、龍を象り男の身を包むアウルの龍だ。
「――喰らえや!」
牙を剥き龍が咆哮するが如き叫びと共にアウルを全開に長柄戦斧を猛然と振り下ろす。光の如く斧刃が空間を断裂し、次の瞬間、逆巻く烈風が発生しケルベロスへと襲いかかった。ソニックブーム。
真空波は地を削り土煙を巻きあげながら飛びケルベロスへと牙を剥くと、轟音と共に直撃して破壊を撒き散らした。身を爆ぜさせて血飛沫を吹き上げながら巨獣が倒れてゆく。撃破。
三回攻撃したかった、という叫びをレッドケルベロスがあげていたかどうかは定かではないが、その強大な破壊力を解き放つ前にほぼ一方的に沈んだ。
長谷川景守は藤沢へとヒールを放って治療にあたっている。藤沢、負傷率二割六分まで回復。
骸骨兵士達がさらに前進し、サブラヒナイトが猛射する。左のサブラヒは引き続き叶へと蒼焔矢を放っている。叶は回避して防御せんと試みるが、かわしきれず痛打を受けている。叶、負傷率九割二分。ちょっと三途の川が見えて来た。
右のサブラヒはチルルが硬いと見るとやや突出している藤沢(ソニックは他に比して射程が短かった)へと目標を転じた。連携力には定評がある木乃伊武者である。蒼焔の矢が閃光と化して距離を一瞬で制圧し藤沢の右肩に突き刺さる。負傷率八割八分。骸骨の兵士達が長槍を構えて整然と迫って来る。総勢十六体。槍の壁だ。骸骨兵士達はそれぞれ四体づつ四隊に分かれているので便宜上、左からそれぞれ壱槍隊、弐槍隊、参槍隊、肆槍隊とし、個々は通しでA〜Pとする。
一方の撃退士達は、ケルベロスが健在な間は引き撃ちする構えであったが、火力集中で速攻で撃破した為、左右に別れて展開せんとしている。
「次は骸骨兵士を全滅させるのが俺の仕事やね」
藤沢、射抜かれつつも長柄戦斧を構えて左翼の骸骨兵、弐槍隊の迎撃に走る。周防、突撃銃を構えバースト、弐槍隊の骸骨兵Hへと弾幕を叩き込んでゆく。嵐のようにばらまかれるライフル弾が骸骨兵士の身をみるみるうちに削ってゆく。
藤沢が弐隊に接近し、しかし骸骨兵士達の方がリーチが長い、穂先を揃えて次々に突き出してくる。槍衾に対し、正面からは踏み込めないので、藤沢は端へ回り込むように踏み込みながら回避を試みる。一本目を身を捻ってかわし、二本目を戦斧を振るって払ったが、三本目が身に突き刺さり、体制が崩れた所へ四本が直撃する。負傷率十一割九分。激痛に意識が消し飛びそうになるが、気力を振り絞って繋ぎとめる。直後、光が男の身を包みこみ、痛みが軽減し傷が癒えてゆく。景守のヒールだ。弐槍隊の東側へと踏み込んだ藤沢は、身を捻りざまに長柄戦斧を振るう。風を巻いて斧刃が唸り、骸骨兵Hへと直撃した。周防の弾幕によって削られていた骸骨兵は戦斧の一撃に耐えきれず真っ二つに破砕されて崩れ落ちる。撃破。
叶、久遠の左後に続きつつ応急手当てを発動して自身を回復させている。負傷率五割一分まで回復。
久遠、弐槍隊が藤沢に引きつけられている間に空いたスペースを通ってサブラヒへと突貫せんと活性化スキルを白虹からホワイトアウトへと変更しつつ駆ける。西側から久遠の前進を阻止せんと壱槍隊が突っ込んで来る。
壱槍の端、骸骨Dが行かせるものかと踏み込み長槍を袈裟に振り下ろした。4mだ。長い。
唸りをあげて迫る穂先に対し、久遠は斜め前へと突進しながら深く身を沈める。振り下ろされた刃が側頭部をかすめ宙を突き抜けてゆく。掻い潜った。赤髪を数本宙に舞わせつつ久遠はそのまま横を抜けてゆく。
続くABCの骸骨兵は久遠には届きそうにないので、その後方を駆ける叶を狙って次々に穂先を繰り出した。
斜め前と横手より迫る穂先に対し、叶、かわさんと身を捌く。一本目の穂先が腹をかすめて抜け、しかし二本目が胸に突き刺さり、三本目の振り下ろしが肩部に炸裂し叩き斬って抜けてゆく。激痛と共に鮮やかな鮮血が宙に舞った。負傷率十割三厘、まだ立っているか? 不屈の魂、生命力は最早尽きたが気力で立っている。未だ倒れてはいないが、しかし長槍で押し返されて久遠とは分断された。
右翼。
雪室チルル、サブラヒへと向かいたいが参槍隊と肆槍隊が長槍を並べて迫り来る。少女はそれらへと素早く視線を走らせつつ叫ぶ。
「正面突破するわ! 東頼める?!」
「任せろ!」
獅子堂の力強い声が返って来た。
雪室は東の備えを獅子堂に頼みつつ再び銃を手にして前進する。
迫る槍衾。
剣なら踏み込めなければ攻撃出来ないが、しかし飛び道具なら関係がない。
骸骨の骨が密集している胸部分へと狙いを定め発砲、連射。
弾丸が飛び、骸骨兵Jへと突き刺さって肋骨を粉砕してゆく。
「邪魔な髑髏共よな……!」
鬼無里もまた雪室へと迫る参槍隊の西側へ回り込まんと駆ける。
大太刀を再び出現させ刀身を漆黒に染める程に黒光を収束させ、裂帛の気合いと共に振り抜いた。斬天虚空刃二発目。黒い閃光が骸骨兵IJKLをまとめて貫き、Jを粉砕しながら抜けてゆく。一体撃破。大太刀が再び霧散する。
KLは黒光に身を削られつつも前進し雪室へと向かって穂先を突きだす。雪室はKからの一撃に対し、拳銃に氷の力場を発生させて氷結晶で受け、Lからの突きを鎧で止める。負傷率二割五分、頑強だ。
骸兵Iは鬼無里へと踏み込んで長槍で薙ぎ払いを繰り出し、鬼無里は防禦斬撃を発動して大太刀を振るい穂先を打ち落とした。
獅子堂とその援護についた華成は東へと展開する。獅子堂は考える。距離を取って戦いたいが、あまり距離を空け過ぎても肆槍隊は雪室達の方へと雪崩れ込むだろう。右翼は包囲させない、そういった思いがある。故にある程度は距離を詰める。
「出し惜しみはしないぞ。制圧を以て守護と為す!」
完全に接近される前に潰す。全ては無理でも頭数は減らしておく。
獅子堂は前進しながら弩に矢を装填すると肆槍隊の左端、骸骨兵Mへと狙いをつけた。スマッシュを発動、アウルを全開に勢い良く矢を射出する。破壊力が増大されたクォーレルは飛燕の如く飛び、骸兵の胸部に中ってそれをぶち抜いた。
痛打を受けよろめく骸兵Mへと華成希沙良、すかさず片手に構えた銀銃の銃口を向け三連射する。
重い銃声と共に強装された銃弾が唸りをあげて飛び、次々に骸兵へと突き刺さってその骨を粉砕した。サーバントが力を失って仰向けに倒れる。撃破。
左翼。
「撃たせん」
叶へと蒼焔弓を構える鎧武者へと久遠が駆けざまに斬りかかり、武者は弓を消して太刀を抜き払った。
久遠が剣を振るうと同時、光の球が飛び出す。瞬間、光球は無数の光粒に分かれて散らばり、鎧武者を包み込むように収束し一斉に炸裂した。
光爆によって鎧が破損し、しかし木乃伊の武者は光を突き破って久遠の眼前へと踊り出ると、竜巻の如くに太刀で打ち込みを仕掛けた。
久遠は太刀を傾斜をつけて掲げる。猛烈な衝撃と共に刃と刃が激突し、噛み合い、火花を散らしながら滑り、サブラヒの太刀が横へと流れてゆく。
武者の太刀を受け流した久遠だったが、その後背に骸兵Dが迫っていた。骸骨の兵は長槍を腰溜めに構え猛然と突きかかる。バックアタック。穂先が久遠の背に突き刺さって痛打を与えた。男の身がよろめく。負傷率二割六分。
叶、立ち塞がる骸兵Cへと銃口を向け猛射。弾丸が骸骨兵へと突き刺さり骨を砕く。三体の骸兵の槍が連続して襲いかかり叶の身に突き立つが、景守が駆けてヒールを飛ばし回復させている。叶、負傷率九割二分。
骸兵Gが藤沢へと槍を繰り出し、藤沢は斜め前方へと回避しながら踏み込み、カウンターに長柄戦斧を振るう。斧刃が骸兵の身に喰いこみ、南から飛来した一発の銃弾が骸兵の頭蓋を撃ち抜いた。セミオートに切り替えた周防の射撃だ。骸兵Gが倒れる。しかし攻撃直後の藤沢へと骸兵EとFの槍が繰り出され、連続して穂先が突き刺さる。藤沢、負傷率九割一分。
右翼。
サブラヒナイトは藤沢と弐槍隊が乱戦に突入したのを見て取ると射線が通らないので弓矢を別方向へと向ける。
「……獅子堂様!」
華成が珍しく大声を発した。
獅子堂、サブラヒの魔弓は警戒している。振り向く間すらも惜しみ全力で斜め後ろへと跳躍する。直後、蒼焔が先程まで獅子堂の頭部があった空間を貫いて抜け地に突き刺さった。かわした。
三体の骸骨兵士が迫り、着地した獅子堂はそのうちの一体へと弩を向ける。発射。アウルの力によって勢いを増した矢が骸兵Nへと飛び、しかし骸骨兵士は素早く身を捻って避ける。
華成は獅子堂へと攻撃がいかぬよう前進しながら銃撃を繰り出すが、この弾丸も骸兵Nは素早く身を沈めてかわした。
骸兵NとOが華成へと長槍で突きかかり、骸兵Pが獅子堂へと槍を繰り出す。二本の槍が華成へと突き刺さるも装甲の厚い箇所で受けて負傷率五分。獅子堂は素早く身を捌いて穂先をかわす。
鬼無里は20mにも及ぶ刀身を持つ超巨大なアウルの大太刀を出現させると最上段から振り下ろした。天を斬り裂いて超巨大剣が迫り大地を爆砕し骸兵ILの二体をまとめて叩き潰す。骸兵Kは素早く跳び退って斬天剣を回避したが、着地の瞬間を狙って雪室チルル、素早く自動拳銃の銃口を向け発砲。稲妻の如くに宙を奔った弾丸が骸兵Kを捉え、その臀骨を貫き粉砕する。骸兵Kはその場に崩れ落ちるように倒れた。撃破。
左翼。
サブラヒナイトは流れた太刀持つ手首を返すと、久遠へと向かって身を捻りざま竜巻の如くに斬り上げる。猛烈な斬撃。久遠は後背からの突きで体制を崩しながらも身を沈め、弧光を発動しつつ鎧の厚い部分で受け止める。負傷三割。久遠仁刀、非常に防御が硬い。男は刃を受けつつもカウンターに大太刀を振るう。再び光粒子が散り、収束して、鎧武者を呑み込み光の嵐を炸裂させた。木乃伊の肉が爆ぜる。久遠は剣を振るった勢いを利用して身を捻り斜め前へと低く跳ぶ。再び後背から振るわれた骸兵の穂先が、脇腹をかすめて抜けていった。
叶は後退しながら骸兵Cへ銃口を向け連射。弾丸が回避せんと動く骸兵を逃さずに捉え、その威力を解き放って粉砕する。
長谷川景守は叶へとヒールを放ちながら空いたスペースへと飛び込んだ。骸兵ABから槍が繰り出され、少年の身に突き立ち血飛沫があがってゆく。
周防が骸兵Eを狙撃して撃ち抜き、よろめいた所へ藤沢が入って長柄戦斧を一閃させて粉砕した。骸兵Fの槍が藤沢に突き立つが、負傷九割八分、倒れない。こちらは押し切れそうだ。
右翼。
獅子堂は骸兵Pからの槍撃を受けつつも負傷五分、軽い、そのまま側面へと回り込むと極限まで弩にアウルを集中させて振り抜いた。刹那、黒光の衝撃波が飛び出し骸兵NOPをまとめて貫き抜けてゆく。
華成はすかさず銀銃を猛射し骸兵Nへと銃弾を叩き込んで粉砕した。骸兵Oが華成へと槍で突きかかったが、少女は身を沈めて穂先をかわす。
「よし、行くわよ!」
立ち塞がる骸骨兵を蹴散らした少女二人、雪室は言って銃を消し魔杖を出現させ、鬼無里と共にサブラヒナイトへと向かって駆ける。鬼無里は駆けつつ斬天「刹那」と斬天「虚空刃」の活性化を入れ替えた。
木乃伊武者は迫る二人の撃退士のうち鬼無里へと狙いを定めると蒼焔の矢を撃ち放った。矢が閃光の如くに飛び、鬼無里は咄嗟にかわさんとするも、避けきれずに撃ち抜かれた。痛烈な衝撃が炸裂し激痛が全身を走り抜ける。負傷率五割。一気に半分もっていった。骸骨兵とは違うのだよ骸骨兵とは、という程度の破壊力。
藤沢と周防は連携して弐槍隊最後の骸骨兵士を打ち倒す。
華成と獅子堂もまたそれぞれ矢と銃弾を叩き込んで二体の骸兵を撃破し肆槍隊を全滅させた。
景守は二体の骸兵から槍撃を受けたが、回り込みながら槍を叩き込み、追撃に叶が銃弾を撃ちこんで骸兵Bを粉砕する。
久遠は骸兵からの槍撃をかわしつつ、剣撃を弧光で受け流してサブラヒの態勢を崩し、カウンターに光球を叩き込んで渡り合っていた。二対一だが押している。
東のサブラヒは引き続き鬼無里へと猛射。避けきれない。蒼焔の矢が鬼無里の肩に突き立ち負傷十割二厘。銀髪の少女は激痛に意識が飛びそうになるが気力を振り絞って堪え、駆ける。
「木乃伊如きが……! 舐めるでないわ!」
相対距離8m。射程、入った。鬼無里はアウルを全開に斬天「刹那」を発動、護符を出現させ犬の幻影を刃の如くに飛ばす。影が一直線に宙を駆け、鎧武者の身を貫いた。一撃に身をよろめかせるサブラヒナイト、その眼前へと雪室が魔杖を手に飛びこんでいる。青髪の少女が杖を振りかぶり、武者は弓を消して太刀を抜き払った。
光が交差し、次の刹那、雪室の杖が鎧武者の太刀を掻い潜ってその胴に炸裂した。鈍い手応えが腕に伝わる。
「っ……相変わらず硬いわね!」
雪室は一歩跳び退いて杖を構え直しつつ眉を顰めた。
木乃伊武者は太刀を八双に構えると踏み込みざまに袈裟に振るう。雪室は左手を杖の中頃に添え氷の結晶を宿して掲げる。武者の太刀と少女の氷杖が激突し鈍い音が鳴り響いた。雪室は左を支点に半身を捻りながら踏み込むと杖先を旋回させるように横薙ぎに振るう。木乃伊武者は素早く後退して一撃をかわした。
鬼無里は刹那から神咒「閻羅天」へと活性化を切り替え、獅子堂と華成はサブラヒへと向かって駆けている。獅子堂は駆けつつ封砲から紅震雷斬へと活性化を切り替えた。
叶は骸兵Aへと二丁拳銃を向け猛射、銃弾が次々に骸骨へと突き刺さって骨を粉砕してゆく。よろめいた所へ景守が踏み込み十字槍で薙ぎ払って吹き飛ばした。撃破。
藤沢と周防は久遠を援護すべく移動している。
骸兵Dが久遠へと槍を突き出し久遠は身を沈めてこれをかわす。その瞬間を狙い澄まして西のサブラヒは太刀を突きだした。受け損ねて切っ先が久遠の身に直撃する。負傷率五割。
赤髪の男は四度目の光球を撃ち放つ。光が散らばった後、サブラヒへと収束し、しかしそれが炸裂する一瞬前に武者は大きく横に跳んだ。何も無い空間を炸裂が包み込んでゆく。外れた。
射程に入った周防は突撃銃の銃床を肩にあてて構え骸兵Dへと狙いをつける。意識を針のように絞り、発砲。螺旋に回転するライフル弾が真っ直ぐに飛び、吸いこまれるように骸骨兵の肋骨へと突き刺さった。鈍い音と共に骨が砕ける。命中。
東のサブラヒへと駆ける華成、射程に入ると足を止め両手で銀銃を構える。誤射に注意しつつ意識を研ぎ澄ませて引き金をひく。銃声が轟き一発の弾丸が飛び出した。宙を裂いて迫る銃弾に対し、鎧武者は即応し上体を反らしてかわす。間髪入れずに雪室が踏み込んで魔杖で殴りつける。
「閻羅の理、見せてくれる……!」
鬼無里は武者の横手へと回り込むと、雪室の一撃に武者の身が傾いだ瞬間を狙って術式を解き放った。犬の幻影が闇より尚深い漆黒の焔を纏いサブラヒへと襲いかかり直撃する。
西。
叶は素早く銃を骸兵Dへと向けると発砲。鋭く飛んだ弾丸が槍を振り上げた骸兵の頭蓋に直撃してそれを粉砕した。撃破。
鎧武者が剣を一閃させ、久遠は弧光で受け流すと大太刀を袈裟に叩き込んだ。光球は尽きた。
周防がすかさずライフル弾を撃ち込み、景守が十字槍で、藤沢が長柄戦斧で斬りかかる。
木乃伊武者は槍と斧を脇腹と肩に喰い込ませつつも久遠へと向かって太刀を振り下ろした。赤毛の青年は勢いの鈍った太刀をかわしざま、大太刀を掲げ落雷の如くに振り下ろした。唸りをあげて振り下ろされた刃は、武者の額に炸裂し、それを粉砕して、木乃伊武者は仰向けに倒れていった。撃破。
東。
木乃伊武者は幻影を喰らいつつも太刀を振り上げて踏み込み、雪室へと太刀を振り下ろす。少女は氷杖で受け止め、横合いからサブラヒの身を黒焔の幻犬が貫いてゆく。雪室は杖を旋回させると渾身の力で殴りつけた。杖先が鎧武者の脇下に直撃し鈍い音が轟く。
一撃に武者の身がよろめいた所へ獅子堂虎鉄が猛然と飛び込んだ。
「喰らってくたばれ!」
紅く輝く稲妻の如きアウルを纏い、チェーンソウに変化させた魔具を手に袈裟に斬りかかる。
爆音と共に回転する刃先から紅蓮の雷がほとばしり、木乃伊武者の身に直撃した。カオスレート差が乗った猛烈な衝撃が巻き起こり、展開する障壁と激しく鬩ぎ合う。対物理障壁。これのせいでサブラヒナイトは物理にはさらに硬い。強烈な一撃だったが、打ち倒すまでには至らなかった。
華成の援護狙撃が飛来し木乃伊武者に直撃するもやはり障壁に阻まれダメージがろくに通らない。
しかし木乃伊武者のそれは無駄な足掻きというものでもあった。
太刀を振るうも雪室は倒れず、鬼無里の幻犬を受け、雪室から反撃の魔杖で痛打を喰らい、ついにその身を砕かれて倒れたのだった。
「皆様……集まってください……治療、します……」
華成が言って撃退士達が集まると景守と共にヒールとライトヒールで治療を施してゆく。久遠は剣魂を使って自らを治癒した。撃退士達はかなり深い傷を負っている者もいたが、みるみるうちに回復していった。治療術は偉大だ。比較的軽傷の者には救急セットで応急手当てがなされた。
「流石に三、四人は倒れるかと思ったんだが、全員健在か。初手が効いたな」
景守は治療中にそんな事を述べ、
「皆、お疲れ様だ。チョコバー食うか?」
獅子堂は包帯を巻きながらそんな事を言っていた。
しかし、一同は中央を破ったが周囲ではまだ戦いが続いている。
戦況は撃退士側に有利に進んでいるように5番中隊の位置からは見えたが、天魔が優勢な箇所もあり予断はまだ許されなかった。
「飛行はできないが、会長や周りの援護へ行かないとな」
「ああ」
久遠が言って周防が頷き、治療を終え体制を立て直した一同は隣接隊の援護する為に移動を開始する。
そんな中、周防の表情に変化はなかったが、瞳に昏い光がほんの一瞬過ぎった。
景守が周防をふと見たが、結局の所何も言わなかった。
少年達は淡々と次の戦場に向かう。
(そうだ)
鬼無里は移動しつつ胸中で呟いた。
(終わったら茜殿を甘味処へと誘おう)
先日、美味しいケーキを出す店を見つけたのだ。
無事に帰れるかどうかは定かではなかったが――
不思議と悪い予感はしないのだった。
了