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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/03/03


みんなの思い出



オープニング

 命は風を紡ぎ出す。
 風の種を撒く者は、やがて嵐を収穫するだろう。


 真っ二つに割れたが如き黄金の月に向かい狼が吼えている。
 今宵半月。
 夜は魔の時間だ。
「あぁ、あぁ、世界の色が違って見えるわね」
 山岳に囲まれた盆地、広がる耕作地に一定間隔で列なる巨大な送電用の鉄塔の上に、黒髪を後頭部で結い上げた十歳程度に見える童女が立っていた。ブラウンのドレスシャツにデニムのショートパンツ、白黒横縞のニーソックスに頑丈そうな半長靴、といった装いだ。
 冥界の鬼神に魂を捧げた少女、鹿砦夏樹は星空の下に広がる空と大地の狭間を見つめながら美味そうに空気を吸って吐きだした。
「強いというのは素晴らしいわ。あたしは何処にだっていける」
 そのように未来に錯覚を抱ける程度には、元は人間だった少女は、悪魔との契約と引き換えに強大な力を得ていた。
(でも、ここまでは所詮、シャリオン君の力であって、あたしの力じゃあないわよね)
 だから、ここからだ。
 魔の眷属たるヴァニタスの少女は思う。
「あたしは成り上がってやるわ。この力を元手に強くなるわ。強くなれたら、強くなった分は、それがホントのあたしの力って事よね」
 回収した魂のうち五割は軍団に上納せねばならず、一割は力を投資してくれたシャリオンに渡さなければならない約束だが、単独で任務をこなせば残りの四割は自分のものにできる。ディアボロのテストレポートを上げればその報酬も得られる。
「見てなさい運命、御免なさいねヒナ姉、あたしはこの世界を喰らい尽す大魔王になってやるわ。この闇の、この夜の世界の天下を、あたしは取ってやる!」
 十歳児らしいといえば十歳児らしい子供らしさがあるような気もするが、いやいや十歳の女の子の発想ではない、といえばそんなような気もする童女ヴァニタスであった。
 黒髪馬尾に半脚衣の童女は、その細く小さな手に持っている長剣を黄金の月へと向かって掲げた。
 魔の結晶を溶かし、人間達の憎悪と怨念とを練りこめ、魂の断末魔を刻んで鍛え上げられた、混沌の極光を放つ水晶剣。悪魔博士が狂気と共に鍛え上げた、魂を喰らう闇の剣。力を、あるいは破滅を齎すモノ。
 すなわち、魔剣である。
「さぁあなた達、おゆはんの時間よ。お腹、空いてるでしょう?」
 童女の声に答えて、鉄塔の陰より巨大な漆黒の影達が浮かび上がってくる。
「見えるでしょう? 解るわよね? とってもとっても美味しそうよ、あの人間達。きっとお子様ランチやプリンやハンバーグよりも美味しいわ。あ、もしかして、人間でハンバーグ作るのが一番美味しいのかしら? ……まぁ良いわ。とにかく、あれらを食べれば、あたし達は満腹になれて、もっともっと強くなれるの。だから――男も女も子供も老人も、この村に存在するすべての人間の血肉を、骨の一片、血の一滴まで、その生を余さず狩り尽くしてきてちょうだい。お肉はあげるから、貴方達は喰らった人間達の魂を、あたしに捧げるの、良いわね? 上手くいったら撫でてあげるから。さ……行って!」
 童女の指令を受けた巨大な影達は月光を浴び、空を泳ぐように身をくねらせて、家屋密集地点へと向かって飛行していったのだった。


 日本国山梨県にある某市はさる平成の大合併により複数の町と村が合併して生まれた市だ。
 市という行政区分に変わりはしたが、一般に市という単語から連想されるそれよりも、田畑の多い風光明媚な場所である。
 特に耕作地の多い区域を上空から見下ろした時、田畑という海の中に一握りの住宅区画が島として浮かび点在している――そんな風にも見る事が出来た。
 さて、そんな島――点在する住宅区画――の一つに、巨大な影達が月明かりを浴びながらゆらゆらと、空を泳ぐように飛んでやってきた。
 初めに気付いたのは作業帰りのとある中年男性の市民だった。
「……なんだぁ、ありゃ?」
 空の半月からは多少の光量はあったが、夜を照らすに十分な光量ではなかった。点在する外灯が頼みだったが、間隔が広いので薄暗い。おまけに"ソレ"らの体躯は黒に近い紺色であった。闇に紛れる。
 そんな中、巨大な闇達が男を目掛けて空を泳ぎ突進してきていた。
 男は遠目には良く解らなかったが、近づいて来ると流石にそれらの正体に気付いた。
「サ、サメェエエエエ?!」
 なんと、体長六メートルはあろうかという巨大な鮫が、海中ではなく空中を泳いで月夜の空から急降下してきたのである。
 男は踵を返し慌てて逃げ出し――その瞬間、突風の如き衝撃を伴う超音波が炸裂した。
 放ったのは鮫ではなく、それに随伴する同じく体長六メートル程度の巨大な紺色のマンタであった。
 超音波を受けた男に外傷はなかったが、完全に白目を剥いていた。
 スタン。
 意識を刈り取られたのである。
 直後、赤黒い光を全身から爆発的に噴出した大鮫が猛加速して男へと突撃し、その頭部に備えた巨大な角――この鮫、鮫の癖にユニコーンの如き巨大な一角を備えていた――で首をふりざまに横殴りに男を殴打した。
 角撃を受けた男は身を真っ二つに折り、錐揉み回転しながら吹き飛び、土の地面に二度、三度とバウンドしながら身体を叩きつけて絶命した。
 空飛ぶ月夜の巨大鮫は絶命した男に近づくと巨大な歯の並ぶ顎を開け、死体に噛み付き、バリバリと全身を噛み砕いて呑み込んでゆく。
 一瞬の出来事だった。
 やがて、男を呑みこんだ大鮫の背より白くぼんやりと輝く拳大の球体が出現した。
 宙へと浮かび上がった人魂の如き白球は鉄塔の方角へと飛んでゆく。
「なによもう、煩いわねぇ?」
 男の声を聞いたのか、付近の二階建て家屋の窓が開き、ヘッドフォンを首にかけた少女が窓から顔を出す。
「――ひっ!!」
 少女は宙に浮かぶ、紺色の三体の巨大ザメと、そして巨大マンタを見やって、恐怖に息を呑んだ。
 それらは体現された死であると、本能的に悟ったからだった。


 パトロール中の撃退士達が通報を受けて駆けつけた時、その住宅区域はまるでハリケーンに襲われたかのように酷い有様になっていた。
 いや、ハリケーンよりも酷かったかもしれない。
 家屋はのきなみ空飛ぶ巨大な海洋生物達の体当りによって薙ぎ倒されて破壊され、無理矢理侵入された住居内や道端には殺戮された市民達の血飛沫が飛び散っている。
 白い光球が彼方へと浮かび上がって飛んでゆく。
 光が列なって飛ぶ彼方遠くに、闇の中、明かりに仄かに煌く鉄塔が並んでいるのが見えた。
 住宅地からは生物の気配が根こそぎ途絶えていた。
 やがて、六つの紺色の海洋生物達が月光を浴びて浮かび上がり、駆けつけた撃退士達へと向かって海中を泳ぐように悠然と空泳ぎ接近してきたのだった。


リプレイ本文

 複数のライトから放たれる光条が闇を裂き惨状を光の中に浮かび上がらせる。
 急ぎ現場に駆けつけた陽波 透次(ja0280)が目にしたのは、破壊された住居、瓦礫の山と道のあちこちにぶちまけられている真っ赤な血溜まりだった。
 無惨に食い荒らされ、破壊されたのだ。
 闇から浮かび上がった惨状はまるで、かつて天魔に潰された青年の故郷そのものだった。
「――随分とエゲツ無ェ真似してくれるぜ……」
 抑え込んだ怒りを匂わせる声が撃退士の耳に響いた。小田切ルビィ(ja0841)だ。赤眼の青年の表情は苦々しげに歪められている。
「悪魔ってのは本来はこんなモンだったよな……」
「間に合わなかった……ここで、どれだけの命が……」
 破壊と殺戮の痕を目の当たりにして赤髪の長身少女――遠石 一千風(jb3845)が呆然と立ち尽くしている。
「これが、あの子たちの企んでたことなんだね……」
 小等部四年生の金髪緑眼の少年――郷田 成長(jb8900)は歯を噛み締めた。
「悪いやつを好きにさせると、こうなるんだ……!」
 成長は恐ろしかった。世界中がこうなってしまうのは。きっと、誰も止めずに放っておけば、遠からずそうなってしまう。
「みんなを守る為に頑張らなくちゃ……ボクは、撃退士だ」
「……そうね」
 少年の呟きに一千風はかろうじて我に返り頷く。
「私達が撃退士だわ。これをやった天魔達は絶対に倒してみせる」
 吐き出した声は少し震えていた。冷静ではいられなかった。
「光球はあちらに向かって飛んでいったようですね……」
 暗視ゴーグルをつけているファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は、夜空を高速で飛行しゆく無数の光球を確認していた。
 その方角、ナイトヴィジョン独特の緑色の景色の中に浮かび上がっていたのは、
(……鉄塔?)
「人魂か。この前も見たね」
 横合いから声が響いた。
 声の主は五十代後半、中年か初老か、といった所に見える、生きた年月を皺として顔に刻んだ男、狩野 峰雪(ja0345)だ。
「この前は人魂――光の球が飛んだ先のビルには悪魔達がいた。回収がどうのと言っていたかな」
 峰雪は冷静に過去を思い出しつつ述べる。
「……回収、ですか」
 ファティナは呟きつつ思考する。
 となると、あの辺りに、今回もこの事態の元凶がいるのだろうか?
 ビル、鉄塔、いずれも高所だ。
 偶々?
 それとも、何か関係はあるのだろうか。
「あれってなんなんだろう。悪魔達があれを集めているなら、集めさせなければ良いんだよね? 捕まえたりとか、攻撃して壊せたりしないかな? 逆にボク達が集めれば、何か分かったりしないかな?」
 と小首を捻りつつ成長。今はもう遠く離れていってしまっているので手がでないが、なんとか干渉できないかと少年は考えているようだ。
 それに峰雪は答えて曰く、
「そうだね、捕まえられれば阻止もできて良いかもしれない……ただ、あれがその呼称通りに人の魂だった場合……」
 悪魔に魂を回収させない為に、先手を打って『人々の魂を破壊する』そういう事になる。
 その意味。
「……問題になるでしょうね」
 とファティナ。
 みすみす敵に渡し利用されるくらいならばやるべきだ、と言う者もいれば、その為とはいえ人の魂を壊すなんて駄目だ、という者もいるだろう。
 物議を醸しそうだ。
「ゲートがなくても魂ってあんな風に沢山、取り出せるもんなのカ? ま……考えるのハ、後にした方がいーみたいだナ」
 艶やかさと鋭さを同居させた女性――狗月 暁良(ja8545)は言いつつ光と共にリボルバーを手に出現させた。
「来タぜ」
 夜空へとライトを投げかければ、全長六メートルをも超えるかという巨躯を誇る紺碧色の巨大鮫とマンタが、月下の空を泳ぐように飛び迫り来ていた。
「……これ以上犠牲を増やすわけにはいかない。奴等はここで食い止める!」
 若杉 英斗(ja4230)は叫ぶと、獅子の咆吼にも似た轟音と共に、全身より黄金の光を爆発的噴出させて纏った。同時、青年は阻霊符を発動すると共に白銀色の刃のついた手甲――『竜牙(ドラゴンファング)』を出現させ腕に装着する。
「りょーかいだよ、ヒデト! 援護は任せて!」
「ええ! ここで倒すわ!」
 成長は阻霊符を展開しつつ黄金の紋章を片手に出現させ、もう片方にはライトを持ちディアボロの群れを照らす。一千風は身の丈を超える長大な和弓を取り出し構えた。
 撃退士達は各々応え魔具を出現させ戦闘態勢に入ってゆく。
「しっかし、こりゃ……空飛ぶ鮫にマンタだぁ? ホラー映画もビックリだぜ」
 ぐんぐんと接近してくる六体の巨大海洋生物達へと剣を片手にこちらもライトで照射しながらルビィがぼやいた。
「確かに初めてみるディアボロですね……どんな能力だ?」
 英斗は警戒を深くする。
「……住宅の惨状を見るに接近戦型がいる筈です」
 ダアトのファティナが状況と外見から分析し推測を述べた。
「角付きの鮫が見た目通りの角の使い方を弁えてるなら……突進してくる可能性が高いでしょうね。マンタは……噛み付きと体当たりは出来そうですかね?」
 知を司るジョブの娘はナイトヴィジョンで観察しつつ言う。
「鮫もマンタも、どちらもビームでも撃てるなら住宅地は火の海でしょうから、そういうのはないと思いますが……ディアボロは何をしてくるか解らないですからね」
 飛び道具の有無については、現状からは推測するには材料が足りなかったので、ファティナはそう言った。
「解りました。念の為、守りを固めますね」
「お願いします」
「時代よ、俺に微笑みかけろっ!」
 英斗の全身よりアウルが解き放たれ、一柱の女神と六人の武装した少女騎士達が出現し次々に散開してゆく。
 鎧兜に身を固めた美しき乙女達の幻影が七方に散り、円を描いて結界を発動させる。直径にしておよそ十八メートル。範囲内の味方の防御能力を飛躍的に上昇させる結界陣だ。
 撃退士達は二人一組で四組のペアを作りつつ、結界内に散開した。
 彼我の距離が詰まってゆく。
 紺色のマンタが急降下を開始し、彼我の距離がおよそ三十メートル程度まで詰まった時だった。
「ウッ!」
 ペアを組む暁良と一千風の二人が苦痛の呻き声をあげた。急速に高まってゆく音のようなものが一瞬だけ聞こえた後に、ふっと掻き消え、瞬間、強烈な衝撃波が襲いかかってきたのである。
「な――なにっ?」
 脳内を激しく直接掻き回されるかの如き振動に急速に気分が悪くなり、意識が遠退いてゆく。
(いきなり倒れるわけにはいかないわ)
 一千風は必死に気力を振り絞って薄れゆかんとする意識を繋ぎとめんとする。
 衝撃波はさらに透次とルビィ、ファティナへも襲い掛かってゆき――成長は細かく位置を調節していたので範囲から外れている――三体の大鮫達が全身より爆発的に赤黒い光を噴出して次々に突撃を開始した。
「……味な真似をしてくれるゼ」
 暁良は揺らぐ視界の中、精神を鋭く研ぎ澄まし、慌てず騒がずクールに意識を引き戻す。一瞬のうちに視界を塞ぐ程に接近してきていた大鮫の突撃に対し、姿勢低く身を投げ出すように全力で横に跳んだ。
 大鮫の巨体が先程まで暁良がいた空間を矢の如くに貫いて抜けてゆく。女は腕と肩を使って大地を転がると、一回転して起き上がった。
(まともに貰うとやばそうだナ……)
 勢いと予想される質量から冷静にその威力を推し測る。一発であの世逝き、という事は頑丈な撃退士である以上ないだろうが、気絶くらいはさせられかねない破壊力がありそうだった。
 一千風、透次、ルビィもまた頭痛と吐き気を堪えながらも意識を保っている。
(音か……?!)
 透次、衝撃波について、放ったのはマンタだろうかと、対策を素早く頭の中で組み立てる。同時、唸りをあげて迫り来る紺碧の巨塊に対し、その突撃軌道を見切り瞬時に横に機動した。残像を発生させる勢いで鋭く軸を外した青年は、すり抜けるが如く鮮やかに大鮫をかわした。赤黒光を纏う紺の巨体が風を巻き起こしながらすぐ隣の空間を突き抜けてゆく。
 他方、
「うぁっ……!」
 ファティナ、苦悶の声をその喉から漏らしていた。脳を直接掻き回されるが如き振動に気分が悪くなり意識が遠くなってゆく。その膝から力が抜けた。
 意識を失った銀髪娘目掛け猛然と、体長六メートルの巨体を誇る大鮫が赤黒光を全身より噴出して突っ込んで来る。
「……おいっ?」
 ルビィはファティナがぐらりと身を傾がせたのに気付くと、その身が大地に激突する前に、腕を回して抱きとめる。
「しっかりしろ。来るぞ!」
 赤眼の青年は声をかけてファティナを揺さぶり頬を叩く、が、苦悶の表情を浮かべているファティナの瞳は閉ざされたままだ。
「……このっ!」
 透次は二人の窮地に気付くと、身を捻り様に古刀を逆袈裟に振り抜いた。瞬間、衝撃波が唸りをあげて飛び出し、大鮫の胴に炸裂する。貫通する衝撃波が鮫の鱗をぶち破って、その奥の肉までをも爆ぜさせてゆく。
 強烈な破壊力だ。暗色の瞳に紅蓮の火が燃えている。
 鮮血が盛大に宙に撒き散らされ――しかし、それでも巨大鮫は止まらない。
「仲間は俺がやらせない!」
 若杉英斗が間に飛び込んだ。迫る巨大生物に対し、アウルを全開に両手の手甲を翳す。
 六メートルの巨大鮫VS若杉英斗、圧倒的質量差。
 金属が砕け圧し折れるが如き耳障りな轟音を巻き上げながら、大鮫が突き出す巨大角と英斗が翳す両腕が激突する。
「ウォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
 アウルを全開に男が吼え、光が砕け、具足の底が地を抉り、身が後方に押されてゆく。
「こーいつめぇえーっ!!」
 成長はフラッシュライト片手にもう片方の手の指先を、空を裂くように鋭く振り下ろした。刹那、指向性を持たされた魔力の刃が唸りをあげて飛び大鮫の脇腹に炸裂する。刃は勢い良く鱗を爆ぜ飛ばし血飛沫を噴出させてゆく。
 大鮫が短く苦悶の叫びを発し、
「オオオオオオオオオオオラァアアアアアアッ!!!!」
 英斗が裂帛の気合と共に角を弾き飛ばした。大鮫の巨体が押し返され前進が完全に止まる。
 そして、レート差が乗った巨大鮫の突撃を真正面から受け止めた若杉英斗の両腕は――負傷率四割二分、未だ圧し折れず。少し骨に罅が入ったが、凌いでいる。もう人間じゃねぇな、ってレベルで頑強である。
「変な音が聞こえたら気をつけて! 衝撃波が来る!」
 一千風、気付いた事を仲間達へと叫びつつ長大な和弓に矢を番えぎりぎりと引き絞る。狙いを定め、はっしと放つ。鋭い弓勢と共に放たれた矢は、錐のように旋状に鏃と矢身を回転させながら真っ直ぐに飛び、大鮫の尾を抉るように突き立った。鱗が貫かれ肉が裂け、血が溢れる。
 他方、狩野峰雪は前進して間合いを詰め、雷光纏う銀色拳銃を夜空に漂うマンタへと向けていた。その軌道を見据え、引き金をひく。刹那、豪雷の如き銃声と共に弾丸が稲妻と化して飛び、マンタの胴体をぶち抜いた。血飛沫をあげながらマンタの巨体が急速に落下してゆく。対空特効イカロスバレット。
 小田切の腕の中でファティナが意識を取り戻し、ファティナ、英斗、ルビィが密集しているその地帯へと連続して音が鳴り響いてゆく。
 峰雪は再度、素早く発砲した。轟く銃声と共に弾丸が稲妻の如く飛んで、旋回するマンタの胴を今度も逃さずぶち抜き血飛沫を噴出させる。良い威力だ。マンタの身が急速に落下して大地に叩きつけられる。
 一方、峰雪の後方では音が消え衝撃波の嵐が荒れ狂っていた。
 頭蓋の内部を直接掻き回されるような振動が連続してファティナ、英斗、ルビィに襲い掛かってゆく。どうやらマンタ達は先程超音波砲が効果を発揮した相手から集中して殺しにかかったようだ。
 英斗、耐えて堪えて効かない、余裕だ。
 ルビィ、ファティナを庇うようにしつつ同じくしっかりと意識を保っている。
 ファティナ、
「く……!」
 連続する衝撃波の嵐に意識が再度遠退いてゆく、が、今度は堪えた。理想郷の結界やルビィ壁等が効いている。
「行くぜ!」
「なんか頬が痛いのですが」
「気にするな!」
 ルビィはファティナを立たせると大剣を手に大鮫へと突っ込んでゆく。
 英斗の眼前の大鮫は斜め上へと空に向かい回頭、上昇を開始していた。
「出し惜しみしない主義なんだ」
 間合いから離れんとする大鮫を英斗は当然見逃さず、
「くらえ、セイクリッドインパクト!!」
 大地を破裂させるが如き音を立てて勢い良く踏み込みざま、罅の入った腕にも構わず光輝くドラゴンファングを全力で繰り出した。
 白銀色の輝きが眩く解き放たれて月下の闇を消し飛ばし、爆発的に破壊力が高められた刃付きの手甲が、その鮫の顎下の皮と肉を貫いて、根元まで深々と刃を埋め、勢いはさらに止まらず拳の部分までが激突して壮絶な衝撃を巻き起こした。
 レート差が炸裂している特大の一撃に大鮫が苦悶の叫びをあげ、その側面、小田切ルビィが赤い瞳に鋭く光らせながら踏み込んいる。
「――食い散らかされた連中の痛み。少しは味わってから逝きな」
 一閃。
 水平に払われた大剣の刃は、鮮やかに空間と大鮫の無防備な脇腹を断ち切って抜けた。大量の鮮血と共にその臓物をぶちまけられ、噛み砕かれた赤黒い人間の残骸が裂かれた腹から飛び出してくる。大鮫の瞳から光が消えた。空へと浮かびかけていた巨体が落下して大地に落ち、地響きをあげる。
 その時だ。
「そっちに行ったわ!」
 一千風が駆けながら注意の声を発した。
 見やれば、残り二体の大鮫は空へと向かって旋回すると、赤黒い光を纏い、連続してファティナへと向かって突進してきていた。
 透次が衝撃波を放ち、成長が魔力刃を飛ばしているが、魔力刃は大鮫はその巨体に見合わぬ素早さで身をくねらせてひらりとかわし、透次の衝撃波は命中したが一発では堕ちない。
「モテモテだな」
 小田切ルビィ、血塗れた大剣を手に軽口叩き、ファティナへと突撃してくる大鮫の前へと躍り出る。
「鮫に好かれたくなんてないんですけどね――これでっ!」
 ファティナは魔法書を翳すと前に立つルビィと迫る大鮫達との間の空間に霧を発生させた。眠りを齎す魔法の霧、スリープミストだ。
 一直線に向かって来る鮫は霧へと頭から突っ込み――そして、そのまま止まらず突進して来る。
 効かない。
 空飛ぶ大鮫が爆風を巻いて迫る。
 轟音と共に小田切ルビィの身が木の葉の如くに吹き飛んだ。
 角の切っ先は剣で逸らしたが、その頭部が勢いのままに青年の身に炸裂したのである。
「ぐぅっ!」
 宙で身を捌いてルビィは足から大地に着地する。魔鋼の具足の底が大地を削って土煙をあげてゆく。理想郷の援護が効いているとはいえ尋常でない硬さとタフさだ。負傷率二割五分。
 続く二匹目の巨大鮫も霧へと突っ込み――やはりそのまま突き抜けて来た。
 大鮫の咆哮が轟く。
 ファティナVS大鮫。
 銀髪の娘は咄嗟に身を捌いてかわさんとする。が、赤光纏い迫り来た巨大鮫の角はファティナを逃さず、先端を胴へと叩き込んだ。轟音と共に鎧がひび割れ、銀髪娘が勢い良く吹き飛ばされてゆく。
 大地に背から叩きつけられ、意識が引き千切られそうな程の激痛が腹部を中心に広がった。負傷率十三割一分。
 今度は痛みで意識が遠退きかけたが、ファティナは呻き咳き込みながらも精神力を振り絞り、辛うじて意識を繋ぎ合わせ、よろめきながらも身を起こさんと動き出す。
「これ以上、命を奪わせないっ」
 一千風が叫んだ。先に透次からの一撃を受け、ファティナと激突した事で速度の落ちた大鮫に追いつくと地を蹴って跳躍。赤髪の少女の身が宙に踊り、大胆にも鮫のその背へと飛び乗った。全長60cm程度の両刃の直剣を猛然と振り上げると、アウルを全開に解放しながら大鮫の背へと叩きつけるように振り下ろす。
 刃が炸裂した刹那、凶悪な衝撃力が発生し、大鮫の二つの脳を揺さぶって、その意識を消し飛ばした。スタン。阿修羅の代表技の一つ、薙ぎ払い。
 大鮫のその浮力が消え失せ、大地に身が落ちてゆく。
「良い仕事だゼ。一千風!」
 暁良は意識を失い完全に無防備と化した大鮫へと疾風の如くに突撃すると、目にも止まらぬ速度で氷狼爪を振り抜いた。
 四本の爪が鮫の鱗を易々とぶち抜いて斬り裂き、血肉をぶちまけさせて赤色が宙に勢い良く噴出してゆく。
 手応えあり。
 傷口から急速に冷気が浸透して大鮫の体温を奪い、その呼吸と心臓の鼓動を強制停止させてゆく。
 やがて、完全に動かなくなった。
 だが、その前に、
「てめぇもダ」
 暁良はさらに止まらず、氷狼爪を一閃させてもう一体の大鮫の側面を引き裂いていた。時雨。鱗が裂かれて血飛沫が吹き上がり、大鮫が激しく身をくねらせ怒りの咆哮を轟かせる。
 紺碧のマンタ達が次々に赤黒い光を全身より吹き上がらせ加速した。
 成長は周囲から急激に音程の高まってゆく奇怪な音を耳にし、咄嗟に両手で耳を塞いだ。瞬間、強烈な衝撃波が成長を中心とした空間に連続して荒れ狂ってゆく。
「うぅ〜、気持ち悪〜」
 視界がぐわんぐわんして吐き気がしたが、少年は意識を失う事なく三連波を堪えきる。周囲で結界を張っている七人のお姉さん(幻影)のおかげなのだろう、と成長は思った。耳を塞いだのも軽減効果があったかもしれない。
「加速したか」
 峰雪はマンタ達が速度を増したのを確認すると、狙いから外して振り返り、大鮫へと狙いを移さんとする。可能ならば目を狙いたい――が、位置的に背中が向けられている。
 今まさに、巨大鮫は斜め上へ上昇して空へと逃れんとしていて、付近の撃退士達が攻撃を仕掛けていっている。
「逃がしはしない」
 透次が狙い澄まして古刀を一閃した。強烈な衝撃波が飛び出して巨大鮫の頭部を貫く。ヘッドショット。頭部の一部が爆砕されて血飛沫と肉片が飛び散ってゆく。
 が、大鮫は動きを止める事無く上昇を続ける。急所を粉砕されたにしては手応えが薄い。
(頭を砕かれても動く……?)
 透次は胸中で呟き、訝しんだ。が、まぁ天魔の中にはそういうのもいるので、特に驚く事はなかった。何かが補っているのだろう。
「このっ!」
 跳躍した一千風の剣が追撃に唸った。刃が深々と大鮫の腹に突き刺さって、裂かれ、今度こそ最後の大鮫は力を失って落下し、大地に激突して動かなくなる。
「これで三匹」
「あとはマンタだナ」
 暁良が爪を消し再びリボルバーを出現させつつ一千風の呟きに答える。
 暁良的には今回、敵を撃退して被害を軽減させるという事は無論目的の一つだったが、他にも、己が通用するのかどうか、確かめておきたい所でもあった。
 何故か?
(戦争の、戦いの、俺が好きな足音が……スる)
 最近の山梨県で起きている一連の事件は、大きな事件に発展しそうな予感がしていたからだ。
 結果として、大鮫相手なら上手く立ち回ればいけそうな手応えはあった。連携して攻勢を仕掛けるなら十分いける。
 防御能力的には、大鮫相手だと英斗やルビィのように真っ向から突撃を受け止めると無事でいられるかどうかは難しいと思われたが――まぁ正面激突して無事な連中の方が普通はおかしい。位置取りと押し退きの間合いが命運を分ける事になるだろう。
 峰雪は再びマンタへと振り向くと射撃を再開する。暁良、一千風、英斗、透次、成長、ルビィ、ファティナもまた前進、各々飛び道具で射撃を開始し、ルビィは風の翼を広げた。
「コイツら、能力がブーストされている?」
 赤黒光を纏い機動するマンタ達の動きが速くなっているのを見て、英斗は拳銃で空へと射撃しつつ声をあげる。
「どうやら、そのようだね」
 と峰雪。峰雪と暁良の拳銃射撃はひらりとかわされてしまった。しかし、続いて放たれた英斗の弾丸がマンタを捉えてぶち抜き、態勢が崩れた所にファティナが放った羽光球が命中して凶悪な爆裂を巻き起こし、駄目押しに成長が放った魔力刃が炸裂して、集中攻撃を受けたマンタが血煙をあげながら落下してゆく。回避性能自体はそこまで上がる訳ではないらしい。
 二体のマンタは超音波攻撃を諦めたか、流星の如くに急降下してファティナへと向かって突撃してゆく。せめて一人は殺ってやる、とでもいうような執念を感じる突撃。
 しかし一体は体当りが届く前に峰雪、暁良、英斗の銃、ファティナの光球、一千風の弓矢、成長の魔刃が唸って撃墜され、もう一体はルビィに間に入られて神速剣で迎撃されブロックされ、次に集中攻撃を仕掛けられて撃破粉砕されたのだった。


 戦後、英斗はファティナにライトヒールを使用してその傷を癒した。
 敵戦力を掃討し重傷者の手当を負えた撃退士達は、生き残りがいないか破壊された住宅密集地帯の調査にあたった。
 故郷の姿が重なるのか、特に透次は懸命に生き残りを探した。
 が、結論からいうとこの区域に生存している人間は、既に撃退士達以外にはいないようだった。
「皆、生きていたのに……」
 半月の月明かりと翳されるハンドライトの光の中、瓦礫の山を見やって、一千風は呟いた。
 立ち尽くす。
 ここにはどんな人達がいて、どんな人達が生きていて、どんな人達の生活があって、どんな未来があったのだろう。
 折れた柱、崩れた壁、破壊されたテーブル、壊れたスピーカー、砕けた窓ガラス、そして、ぶちまけられた赤黒い血。
 ここは既に、残骸だ。
 すべて死んだ。
「――Аминь」
 狗月暁良は一言、祈りの言葉を呟いた。
 一千風は堪えていたものが溢れだしてきて、手で目頭を覆った。
「……大侯爵配下の冥魔達は、メイド軍団を筆頭に畜生にも劣る外道は比較的少なかったが――アイツらが大侯爵とは別系統の指揮下にあるのは明白だぜ」
 ルビィの呟きが夜風に乗って流れた。
 彼は四国での経験上、それは明言できる、と言った。
――黒幕は誰だ?
「大侯爵と同じか、それ以上の存在――ルシフェル、か」
 ルビィの脳裏に浮かんだのは地球における冥魔連合軍の総大将の名だった。その武力を以って魔界宰相の座まで登りつめた強大無比なる大悪魔。
「それを判断するにはまだ材料が足りないね。ただ……」
 峰雪が呟き、空の一点を見やり、ルビィは頷いた。
 同じく視線を転じる。
「ああ、この間みたく、ヨハナか鹿砦夏樹が近くで様子を伺ってる筈だぜ」


 半月の光を浴び、巨大な黒鋼の塔が聳え立っている。
「さすがは撃退士ね」
 撃退士達が鉄塔の下まで進むと、頭上の闇の中からそんな幼い童女の声が響き渡った。
 ライトを向けると光の中に浮かび上がったのは、鉄塔の骨組みを支える鋼管に腰かけている齢十歳程度の少女だった。黒髪ポニーテール、ドレスシャツにショートパンツ、頑丈そうな半長靴。
「けっこう強い『解放者(リベレイター)』だったのだけれど、凄いわね。こっちとしては、せめて一人くらいは倒しときたかったのだけど……残念だわ。あの子達も運がないわね」
 成長は少女を睨みつけて叫んだ。
「出たな悪い奴!」
 ルビィもまた赤眼を細めて睨みあげた。
「――鹿砦夏樹か」
 少女はにっこりと無邪気そうに微笑して答えた。
「出たわよ正義の味方、ええ、また会ったわねお兄さん」
「今晩は夏樹。そちらでは、みんなに良くしてもらってるみたいだね。あなたの友達は、元気にしているのかな」
 峰雪もまた微笑を顔に浮かべて言う。
「あら、おじさんもお久しぶり。ええ、意外に皆、良くしてくれてるわ。友達――シャリオン君のこと?」
「そう、変わり者のシャリオンだ」
 峰雪は頷いた。
 疑問だった。
 先日、夏樹は人の心は友達の悪魔に食べさせてしまったと言っていた。その相手は、シャリオン=メタフラストなのだろうか。
「確かに変わってるわよねシャリオン君。今は何処にいるのか解らないけど……病気になったり死んだりする所は想像できないから、きっと元気なんじゃないかしら?」
「ふぅん、それは何よりなんだろうね。僕達にとってはあまり歓迎できないが」
「あはは、そうでしょうね」
 笑い声が響く中、彼方から光輝く球達が高速で飛来して、童女が手に持っている水晶の長剣へと次々に吸い込まれてゆく。
「――強そうな武器だね。もらったの?」
 峰雪は水晶で出来た長剣をみやって問いかけた。
「借りてるだけかしら。でも奇麗だから結構気に入ってるわ」
「たくさん集まった?」
 何が、とは問わずに問いかける。
「んーまぁまぁね。おじさん達が邪魔してくれちゃったから」
「ノルマとかあるのかな?」
「うちの軍団って悪魔の勤めには飽きました、とか、働きたくないでござる、とか言って失踪してる人達が未だに幹部でいられる組織なのよね。だからそんなの無いわ。好きなだけの量を、気侭に声かけあって、都合がつく連中で、好きなように適当にやるのよ。あたしが言うのもなんだけど、世の中舐めてるわよね」
 きゃっきゃと笑って童女はそんな事を言った。
「ま、そのうちあたしが下克上してやるわ。あたしは必ず強くなる」
「……君は」
 陽波透次は鉄塔の上の童女を見上げた。
「……僕も、力に焦がれてる。今も、救えなかった命が多過ぎて――力さえあれば」
 透次は己の腕が震えるのを感じた。
「けど、君は自分がかつて受けた痛みを誰かに強いるのか……?」
「…………あら、お兄さん、優しいのね?」
 童女はにこりと笑った。
「あなたは誰かに強いないようにしているのかしら? だったら、ええ、それはとても素敵な事だわ。でも、お兄さん、あたしは野望の為に、人の魂と未来を、焔にくべて燃やし続けるわ」
「……今日のようにこれからもずっと……?」
 透次は夏樹を見据えて問いかけた。
「――本当に平気なの?」
 怒りよりも悲しかった。
 少女にそんな決断をさせる闇が。
 現実は、何処まで残酷で。
「ええ、平気よ」
 十歳の童女はやはりにこりと笑った。
「あたしは既に人の心は悪魔に食べさせてしまったから、何も感じはしないの。あたしはね、世界のすべてを怨み呪いながら死んでゆくとか嫌なのよ」
 鹿砦夏樹は言った。
「だから、ま、とりあえず強くなって決して死なないのが一番。二番は、死ぬにしても、頑張って良い子にしてたのになんでこんな目に遭うの! って感じに死んでゆくんじゃあ、あたしにはとても無理だけれど、あぁ当然の報いね! って感じに死んでゆくなら、あたしは納得いく、何も怨まずすべてを許して死んでゆける。自分自身が決して許されない存在になれば、何も怨まなくて良いわ。だって自分が一番最悪ですもの。あたしは、自分の心の幸せが大事なの。卑怯なの。だからその為に、なんでこんな目に! って思う人達を山ほど生み出して燃やし尽くしても気にはしないわ。自分勝手な極悪人なの。だからあたしは、外道に生きて外道に死ぬわ。ま、あたしは最強最悪だから死んだりせずに、永遠に天地を喰らい続けるでしょうけどね」
 童女はそう言って、立ち上がった。
「さ、今日はもう店じまいの時間よ。追ってくる? あたし、駆けっこには自信あるから無駄よって言っとくけど」
「……君を、逃がして良い道理はないな……」
 透次は闇色の瞳に紅蓮の火を燃やして言った。
 この童女ヴァニタスは生きている限り、宣言通りに人々を殺して回るだろう。
 きっと、惨劇を量産してゆく。
 罪無き人々が死にゆくのは、その不幸を阻止する為には、ここで討ち果たさなければならない。
 だから己の悲しみなど灰にする。
「――君は、ここで、斬る」
 青年は魔具を構え、他の面々もまた魔具を構えた。
「ふふっ、じゃあ、重ねて言ってあげるわね。無駄よ」
 童女は言うと水晶の長剣を翳した。
 瞬間、渦を巻く極光色に光輝く水晶の長剣より、虹色の無数の光球が飛び出して散り、砕け散って、耳をつんざく轟音と共に閃光を嵐の如くに解き放って撃退士達の視界を塗り潰した。
「――またあの光か」
 ルビィが唸った。
 意識が眩む程の光が収まった時、既に黒髪の童女の姿は影も形も消えていたのだった。




「……幸せが大事、か」
 帰還の途中、仲間達と夜道を歩きながら狩野峰雪は呟いた。
 彼の――『大人の勝手な価値観』では可哀想なことになった、と思う。
 だが、その一方で、悪魔の中でのびのびと自由にやらせてもらっているようだし、彼女にとっては、今は幸せなのかもしれない、とも思っていた。
 正しいとか間違っているとかではなく、幸せは他人が決めるのではなく、自身が決めることだから――
 しかし、
(……人の心は友達の悪魔に食べさせてしまった、か)
 年長の男は胸中で呟いた。

 それは嘘だな、と。





 了



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
 開拓者・郷田 成長(jb8900)
重体: −
面白かった!:6人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
絶望を踏み越えしもの・
遠石 一千風(jb3845)

大学部2年2組 女 阿修羅
開拓者・
郷田 成長(jb8900)

中等部1年3組 男 アカシックレコーダー:タイプA