●格闘徒競走
テテテン♪ テテテン♪ テテテテテンッドン! と、なんだか郵便の馬車がヘルマン・ネ○ケな感じのクラシカルBGMが流れているここは格闘大運動会の会場、夢野ヶ原島の商店街道である。
(何故、新年早々運動会なのだろう)
など、天風 静流(
ja0373)としては疑問に思う点が色々あったのだが、敢えて気にしない事にして、とりあえず予選を突破してきたところである。
半漁人や人魚についてるような耳ヒレの飾りを耳につけつつ、
「……なんだか支給された服装が似合わない事この上ないな」
と黒髪ロングの娘は呟く。
いつもは男装の麗人的装いの事も多い静流だが、決勝ラウンドで支給された服はレトロな雰囲気の体操着であった。
175cmのモデルばりの長身から手足がすらりと伸び、紺色の布地から剥き出しの白い太腿が眩しい。白のTシャツが包む上半身は豊な稜線を描き、女らしい体型を描き出している。
そんな静流の右隣で、
「大運動会を見事制した暁には、ピューリッツァー賞を……!」
と野望を燃やしているのは銀髪赤眼の美丈夫、小田切ルビィ(
ja0841)だ。そんなんで取って嬉しいか? とかの心の声は無視である。まるっと無視である。
本日のルビィの装いは紺色のブーメラン水着に中国武術的靴、そして美術室にあった木製の四角い椅子がワンポイント。うん、確かに――冷静に見るとイケメンがカオスな事になっているかもしれない。大丈夫、絵面はともかく数値的には強い組み合わせだ。戦闘屋達なら(多分)(あんまり)気にしない。
他方、
「あん? 俺は七コースめか、了解したぜ」
ガショコン、ガショコンと駆動音をあげながら、係員の誘導に従いルビィより二つ右隣のコースに並ぶのはラファル A ユーティライネン(
jb4620)だ。
(しっかし、夢の中でも機械のままかよ。かったりーなー)
とサイボーグ美少女はこの世界でも生身になれなかった事に落胆中である。
一応、念願であった水陸両用ボディではあったのだが――
なんというか、ア○ガイであった。
ア○ガイであった。
そのボディ、全体的に丸みを帯びた二足型機動兵器の武骨なライン、焦茶と明るめのブラウンで塗装されている。そして本来ならばモノアイが光る頭部があるべき場所に、ラファルの頭部が据えられていた。
「これじゃねーんだよー、これじゃー……」
陸戦も水中戦もいけてコストにも優しいニクイ奴だが、コレジャナイ感が絶賛加速中のラファルは嘆きと共に嘆息する。このがっかり感を力に変えて、立てよ国民、ジーク格闘レース。勝てば理想の義体でも生身でも宇宙の民の独立でも手に入るぞ。
ちなみに砲とクローは威力が同時相乗する事は不可だが、持ってるだけなら同時でも大丈夫なので問題ないとの事。ド○クエ的装備システムである。
「願い事、か……」
と呟いたのは最左に並ぶ因幡 良子(
ja8039)だ。背丈はそんなにないが、見た目だけならナイスバディで美人な女子大生、黒髪ロングなお姉様である。
しかし本日は大学生にもなっての紺のスクール水着を着込んでおり、その肢体、ぱっつんぱっつん状態であった。健康的な白肌に水着が喰い込み、胸元にはりつけられた「いなば」の名札が自称通りの豊な起伏によって歪められている。
さらに、
「ギャルのパンティかな……」
と女性陣を見つつ逮捕されそうな表情で呟いており――やっぱり見た目からしてデンジャーかもしれない。おまわりさんこっちです。
良子の視線の先の銀髪娘、ファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)はワンピースだとサイズが合わなかったので、藍色のビキニにスタイルの良い肢体を包んでいる。
(ここは本気でゆきましょう)
アスリートの靴も履いて手に銛を持ち、ゴールを見つめるファティナの表情は真剣であった。
優勝は出来たら程度で、といった構えのファティナだったが、第一レースは全力でゆくつもりである。ここで上位を取れればあわよくばもあるかもしれない。
そんな中、良子とファティナの間、第二コースに入ったのはエルレーン・バルハザード(
ja0889)である。
┌(┌ ^o^)┐<ぷるぷる ぼく わるいほもくれじゃないよ!
と白いもちもちぼでーを学ランで包み、アスリートの靴を後ろ足に履いて、銛を背負っている。アイテムは毎回三つ使っても大丈夫なのである。しかし、それはそれとして異形である。
(なんというか、濃いな……)
ちょっと丈が長めだが至ってベーシックなジャージ姿の久遠 仁刀(
ja2464)は、周囲の面子の装いに思わずそんな感慨を抱きつつルビィとラファルの間の第六コースに木刀片手に入った。
以上七名がこの格闘大運動会のファイナリスト達だ。
かくて横一線、男女が東を向いて白線の前に横一列に並ぶ。係員が銃を空へと向け「よーい」と声をあげた。
「――ド『死ねぇえええええええええっ!!』」
清く正しく美しく、開始の合図と共にラファル・A・ユーティライネンが防御を捨てて全力で左隣へと踏み込みざまに赤い電撃光を纏うクローを繰り出した。「格闘」大運動会である。ジャスティス!
「来るかッ!」
仁刀もそこは解っているのか全力防御態勢だ。慎重に左右へと注意を払いながら前進していた。青年は咄嗟に払いかわさんと木刀を掲げる。
初手から全力VS全力、光爪と木刀が刹那に交差した。
「くっ……!」
「ちっ!!」
クローは木刀の防御をぶち破って赤毛の男の身に突き刺さったが、しかし仁刀もまた直撃の瞬間に体を巧みに傾斜させて衝撃の大半を逸らす。
ラファルの火力と仁刀の装甲は互角だ、サイドアタックでも致命傷にまでは及ばなかった。仁刀はよろめきつつも転倒せず、前方へと強引に抜けてゆく。
他方、エルレーン、静流、ルビィは駆けるに専念して合図と同時に前方へとダッシュしていた。こちらもまた果敢。
良子は慎重に全力で防御しながらの動き出しで、
(……先頭走ってボール投げられるのは怖いですし)
と、ファティナもまた迎撃準備しながらゆるゆるとした走り出しだ。
序盤、先頭争い。
最速でトップに躍り出たのはエルレーン・バルハザードだ。次いでルビィ、静流、良子と続く。
「このまま ぶじに ゴールだ!」
エルレーンはまったく移動に専念していた。事前説明によればヨハナからボールが飛んでくるのはスタートから五秒以上たった後である。今のうちはまだ大丈夫――な筈である。
笑顔の白い四脚生物が商店街のメインストリートを快速でカサカサと風を切って駆けてゆく。人は言う、あれはなんだ、ほもくれだ、夢(と書いて以下略)を追いかけるモノなり。
だがやんぬるかな、
「――背■が煤けてるぜ……ッ!!」
ドン、とカットインでも入りそうな台詞を小田切ルビィが呟いた。男が顔前に翳した右手、持つのは紫煙くゆらせる煙草の代わりに美術室の椅子である。
運命の二行動目、
「あンたの背中には俺達(PC)に対する警戒が足りない……やめなよ、先頭は」
ビュー! ゴー! とでもエフェクト音が鳴りそうな勢いで椅子が投擲され、橙光を纏い一直線に宙を飛び、エルレーンの背中へと襲い掛かる。
さしもの四脚生物も背後に目はついていない。
意識外からのバックアタックは当然のように直撃し、壮絶な破壊力を炸裂させて四脚白生物を吹っ飛ばした。
「悪く思うな……ッ!」
「お、おのれ〜!」
投擲を追えたルビィは加速すると、転倒しグルグルと目を回しているエルレーンを追い抜いてトップに躍り出る。
(やはり後ろから撃たれるのはかなわんな)
静流は駆けつつ、誰かを射線を遮る盾に出来ないものかと肩越しに振り返る。すると後方から物凄い速さでファティナが上がってきていた。ビキニ姿なのでたわわな二つの果実がやたら上下左右にたゆんたゆんしている。
その進路を黒髪ロングな娘はおもむろに塞いでみた。
「って、静流さん?!」
「列を重ねて盾にできないものかな、と」
「避けますよっ」
「残念だ」
圧倒的な機動力(70)を誇るファティナはシュシュっと左右に体を振ってフェイントを入れてから鮮やかに静流(25)を抜き去っていった。
ファティナはそのままルビィも一気に抜き去りそうな加速力だったが、今の所は先頭にはでない方針らしく、エルレーンを抜いた所で減速する。
静流はドッジボールを手に振りかぶると、
「南無三」
転倒中のエルレーンへと向かって投擲した。ビュー! ゴー! と橙光纏うボールが飛び、大爆発が巻き起こった。
「ま、負けないの〜」
エルレーン、負傷度合計178点、意識が遠退きかけたが気合で耐えている。
五秒経過時点では一位ルビィ90m、二位ファティナ89m、三位静流62.5m、四位エルレーン60m、五位良子40m、六位仁刀15m、七位ラファル1mである。
スタートの後方10m地点。
体操服姿の地獄猫少女がボールが沢山入った籠と共に姿を現していた。お邪魔キャラM18ヨハナである。
「のじゃ! のじゃ!」
ブロンド少女は籠からドッジボールを取り出し次々に投擲してゆく。
が、
「――のじゃ?!」
二投目を投げたと同時に黒髪ロングのスク水娘が弾丸の如くに突っ込んで来ていた。
因幡良子は猛然と踏み込みざま姿勢を沈め、胸から相手の腿に体をぶち中て、脚裏を抱えるように腕を回して抱き押し倒さんとする。ひらたく言うとタックル。
堪えられず勢い良く押し倒されたヨハナの後頭部がアスファルトに「ゴンッ!」と激突して良い音を響かせる。
「何だこの別世界ではピンクいナース服とか着てそうなないすばでーは!」
良子は猛烈な衝撃と痛みにピヨピヨと目を回して動けない金髪娘の、その柔らかな肢体に対し、
「けしからん、けしからん! こうしてくれるわ!」
と凄い勢いでさわさわとセクハラを開始した。おわまりさん、やっぱりこっちです。
他方、投擲された二発のドッジボールのうち一発はルビィへと、もう一発はファティナへと命中して大爆発を巻き起こしていた。意識内バックアタック。
全力防御中のルビィは上手く凌いで転倒せず掠り傷、ファティナは大ダメージを受け転倒。
仁刀は移動に専念してダッシュ。ラファルもバーニアを噴出しながら地をダッシュし移動専念で仁刀を追いかける。
この両者、ラファルの方が足が早い。
徐々にだが彼我の距離が詰まってゆく。
しかし、仁刀は追い上げるラファルに再捕捉される前に、エルレーンを追い抜いた――ラファルの標的が変わる。
「どぶに落ちた犬は沈める主義だぜッ!」
血色に輝くクローが、エルレーンへと猛然と襲い掛かった。
が、
「ほもぉ!」
「なぬっ?」
四脚生物は転倒状態にあったが、全力防御態勢で銛を振るい、カキカキーンと連続でクローを弾き飛ばしてノーダメージで凌ぐ。
ファティナが立ち上がり、静流がルビィの眼前に躍り出て(盾にする為に文字通り眼前)110m、トップに立った。
二位ルビィ107.5m、三位仁刀105m、四位ファティナ96m、五位エルレーン60m、六位ラファル59m、七位良子−10m
駆けるルビィ、
(ボールは……飛んで来るか?)
肩越しに振り返りつつ、後ろは揉み合っている――というか、一方的に(良子が)揉んでいるようだが、ちょっと解らない。警戒して引き続き全力防御で前進中。
そのボール元、
「ひぃぃぃぃぃ! ま、待ってくりゃれぇ!」
涙目で顔を真っ赤にした体操着姿のブロンド娘は、ほうほうの態で這い、籠を掴み立ち上がりつつ身を捻って良子へと振り返り叫ぶ。
「おおおおぬし、これはMSの罠じゃ! 妾にかかずらってたら一位なんて絶対に取れんッ! それでも良いのかっ?!」
「良いよ!」
良子は良い笑顔で笑った。
「一位も魅力的だけど、因幡さん目の前の美少女を優先したいからさあ!」
「 」
最初から勝つ気なんてなかった!
「ぜったいに」
女はすちゃと木刀を構えると、
「にがさないよ」
動きの起こりを消した動き(無拍子)で無駄に技術と行動力を使って、ヨハナの胸をつついてゆく。
白布に包まれたアルファベット九番目くらいありそうな大きなカーヴが剣先につつかれてムニュムニュッッと形状を変えてゆく。
が、
「だ、だからどうしたぁ! そんなんで(精神以外に)ダメージ入るかー! わ、妾は仕事は放棄しないのじゃっっっ!」
とブロンド猫娘はボールを一個取り出し――良子を狙いたいが、トップ集団を狙うのがお役目なので(解説で行動パターン明言しちゃったから、ともいう)反撃できない――投擲する。
他方、
「俺の目の前で復帰なんてさせるかッ!」
エルレーンは横転しつつ全力防御を解いて素早く立ち上がらんとするが、高い技術力を誇るラファルのビ○ムクローが唸り、炸裂。
「ゆ、夢破れてコ○ケあり……」
ついにエルレーンが気絶した。金髪少女を頭部に埋めるア○ガイは駆動音をあげながら即座に駆けてゆく。
先頭集団。ルビィが全力防御で慎重に進み、そのルビィを盾にする為に静流が速度を合わせて駆け、ファティナが二人から少し離れた後方に位置づけて進んでいる。
仁刀は先頭の静流へと追いつくと、その真後ろ――はルビィが邪魔なので、斜め後ろから木刀で猛然と斬りかかった。
「む……っ」
強打を背に受けて体操着姿の黒髪娘が転倒し、再びトップがルビィへと入れ替わる。
「――次はあんただ」
「チッ、トップ狙いか!」
仁刀の木刀が一閃、二閃、稲妻の如くに唸り、ルビィは肩越しに振り返りつつも走り猛攻を捌かんとする。
が、最初にエルレーンに向かって椅子を投げてしまっていて技術力が激減しているのが痛い、かわしきれずに次々に直撃を受ける。
が、
「"動かざる事山の如し"…ってモンよ!」
さすがバランス型、全力防御していると硬い硬い。効いてはいるがなかなか倒れない。
「……走ってると思うんだが」
むむむ、と唸りつつ仁刀。
と、そこへ後方からヨハナが投げたボールが飛んできて直撃し大爆発を巻き起こした。
「俺の背中、煤けてるかい……?」
ルビィ、耐え切れずに足から崩れ落ちる。昏倒した。
静流が立ち上がり、その背後に突進してきたラファルが一閃のクローを叩き込んでいるが、倒れない。静流もかなり硬い。
一位仁刀143m、二位ファティナ140m、三位静流115m、四位ラファル114m、五位良子−10m
「つつーっと」
「ひひぃっ!」
良子は隙間通しで木刀を体操服の隙間から差し入れ、刀身のひんやり感でヨハナの背筋を撫でている。もはや単なる悪戯、嫌がらせ状態である。
めげないヨハナは一位、二位、三位へとボールを投擲してゆく。
先頭を駆ける仁刀、肩越しに振り返りつつ横っ飛びに跳躍、ボールは脇を掠めて抜けてゆく。間一髪、かわした。
ファティナ、
「は、はやっ……!」
避けきれない。唸りをあげて迫り来たボールが銀髪娘の白い背に直撃し大爆発を巻き起こした。
けほ、と煙を吐き出しぐるぐると目を回しながらファティナが倒れる。昏倒した。
静流は前方へと駆け出し、ラファルは踏み込み様にクローを一閃。しかし一撃を受けつつも静流は倒れず、その背にボールが飛来しラファルを盾にし、大爆発を巻き起こした。ア○ガイが爆炎の中に転倒して静流が駆けて駆け、ラファルがまた立ち上がり、一位仁刀233m、二位静流190m、三位ラファル115m、四位良子−10m。
セクハラされつつも飛んだ三連球が仁刀と静流の背に炸裂して大爆発を巻き起こし、仁刀と静流が倒れ、ラファルは駆けつつ横にスライドしてボールをかわし、転倒中の静流の背にクローを叩き込んで昏倒させた。
一位仁刀236m、二位ラファル214m、三位良子−10m。
コース上、二人になったラファル――彼方でレース放棄状態な良子は既に人数外――後方へと振り返り筒状の左腕を向け精密に狙いをつける。
「ぶっとべ!」
瞬間、腕から弾頭が発射され、煙を噴出させながら飛んだ。ヨハナの方からも例によってボールが飛び、弾頭と橙色のボールが交錯する。
一方は再度跳んだ仁刀の脚先をかすめて路上を爆破し、一方はヨハナが押す籠に命中した。弾頭の炎は、籠中の十数個のボールを連鎖的に巻き込んで、超爆発を膨れ上がらせてゆく。
「にゃ?!」
「へっ?!」
ちゅどーんと紅蓮の巨大超爆発にヨハナと良子が呑まれ、ヒュルーンと音を立てて空の彼方へと向かって吹き飛んでいった。奴らぁ星になったのだ。
その後、仁刀がゴールし、次いでラファルがゴールとなったのだった。
・結果
一位 仁刀 10点 負傷120
二位 ラファル 6点 負傷100
脱落 良子 0点 負傷☆になった
脱落 静流 0点 負傷184
脱落 ファティナ 0点 負傷180
脱落 ルビィ 0点 負傷175
脱落 エルレーン 0点 負傷195
●格闘水泳競争
第二ステージは縦幅300m、深さ25mを誇る巨大なプールでの競争だ。
酸素を奪う特殊な温水で満たされていて実に溺れ易いデスプールである。
220mほど先に半径30m程度のひらべったい人工島が浮いており、中央部分に1m程度の穴があいている。ここに飛び込めばゴールである。
「――よっしゃ! 本領発揮で引き離すぜ……ッ!!」
気合を入れているのは水着姿の小田切ルビィだ。
(ここでの目的は一位にあらず)
胸中でそう呟きつつも気合が入っているのはファティナだ。見据える先はゴール――ではなく、ゴール前に立っている黒髪ロングな娘、このステージのお邪魔キャラ、神楽坂茜だった。
(眼福したい)
そんな事を思っているのは因幡良子。水に濡れた姿は艶がある。だからそれを良子は見たいのだが、今は皆濡れていない。しかし水に飛び込んだ後、水中のそれもまた、水に濡れた姿という意味とはまた違う、それは水に浸かっている姿、というのである。
――となれば、RECチャンスはプールから上がって島に上陸する時であろう……などと女は真剣に考えている。
各々思惑を秘めつつ、スタート位置――プール際の四角い台座――の上に立つ。
ちなみに、
第一コース、ファティナ
第二、エルレーン
第三、良子
第四、ラファル
第五、仁刀
第六、ルビィ
第七、静流
の並び順である。
「位置についてー、よーい」
係員が空砲を天井へと向ける。
「ドン!」
と、スタートの合図と共に六名が一斉にプールに向かって飛び込む。ラファルは迎撃態勢を取りつつワンテンポ遅れて飛び込んだ。
仁刀、徒競走の成績優秀者を仕留めにゆきたい所だったが、
(ゴールしたのが俺とラファルしかいない)
となると必然ラファル狙いなのだが――水中装備を持っている相手は避ける心算だった。狙うべき相手がいない。
(このままゴールを目指してみるか)
そんな訳で特に攻撃は狙う事なく移動に専念する事にする。浅く潜水しながら進む。
(じぶん いがい つぶす!)
笑顔の白い四脚生物――エルレーンはサハギンの銛を手に水中を泳ぎ手近な獲物めがけて突き進んでゆく。
ファティナは飛び込んだ勢いのままに潜水すると、水面には出ずにそのまま潜りながら水中を快速で泳いでゆく。
さらに速く、参加者中最高速度(機動80)で泳ぐスク水娘が一人、因幡良子である。
彼女が狙うは水着着用者(男女問わず)だ。一応区分的には直近は(顔だけ)美少女ラファルなのだが、水着……水着、水着? あれはア○ガイだ。
きょろきょろと周囲を見回すが、ファティナの姿は見当たらない。右手方向に水面上に顔を出して泳いでいる銀髪男――ルビィが見えた。
標的に定めた良子は一行動で男の背後までぴたりと詰めてゆく。
「チェストー!」
意識外からのバックアタック。水面上に飛び出すようにしつつ木刀を振り上げたスク水娘から、振り下ろしの一撃がルビィの肩甲骨のあたりを目掛けて一閃される。
強烈な打撃にゴフッとルビィの息が詰まり、良子はさらに木刀を振り下ろす。しかしルビィは水を蹴って体を傾斜させつつ鮮やかに横にかわした。反応が速い。
「やりやがったなっ」
一対一は乱戦ではないか? ルビィは肩越しに後方の良子を見据えつつも、移動専念のまま引き剥がしにかかる。
「チッ、付き合ってる暇はないぜ!」
「ふっふーん、因幡さんから逃げられるとでも?」
良子は機動力にものを言わせてぴったりと背後についてゆく。
他方、静流は水面近くをこまめに息継ぎしながら平和に泳いでいる――が、その背後水面下よりエルレーンが迫ってきていた。
一位ファティナ210m、二位ルビィ105m、三位良子104m、四位仁刀90m、五位ラファル80m、六位静流75m、七位エルレーン67.5m
ファティナは全力防御態勢を取りつつ上陸――は、せずに島の横手側へと大きく回り込む。様子を見るようだ。
「おおっとここでハプニングがー」
「遅いな、何処狙ってやがる――マジで何処狙ってやがるッ?!
水着の間に隙間通ししてずり下ろさんと放たれた良子の木刀の切っ先をルビィは素早くかわし、逃げる逃げる。今度は引き離された。
「むぅ」
残念良子。木刀は水中だと命中精度落ちるので、ちょっと隙間通しは中らなさそうだ。
他方、
(もらったの)
笑顔の白い四脚生物は水中より浮上しつつ、上方を泳いでいる体操着姿の黒髪娘へと向かって銛を突き出す。意識外バックアタック。
「!」
バチチチと電撃に打たれ、身を硬直させた後に静流はぐったりと動かなくなった。黒髪を水面に広げながらぷかーと流れてゆく。気絶した。
(次なの)
白生物は一度水面に浮かび上がると再び潜水して前方の泳者を追いかけてゆく。
一位ファティナ220m、二位ルビィ210m、三位ラファル200m、四位仁刀180m、五位良子144m、六位エルレーン136.25m
水際組、ラファルはまずは当身態勢を取りつつゆるりと前進開始。
「……水着にハチマキ姿……だと!? ……これは……シャッターチャンス!!?」
島に上陸したルビィは迎撃に突進してきた会長のその姿にジャーナリスト魂が疼いたらしく、咄嗟に激写せんとする。しかし当然デジカメなんぞ持ってないのだが、
「――フッ。会長さんよ? アンタのその恥ずかしい姿を激写してバラ撒いちまっても良いんだぜ?」
ルビィは羞恥心を煽って怯んだその隙にすり抜けよう作戦に出る。
白いビキニにハチマキ姿の黒髪ロング娘答えて曰く、
「夢の中なので恥ずかしくないもんって奴です斬りぃっ!!」
顔を真っ赤にしつつも鋭く斬りかかってきた。お役目は守るのが清く正しくNPC。
「チィッ!」
ルビィは避けきれずに一撃を受けるが、体を捌いてダメージを抑えて転倒を避け、強引にすり抜けんとする。
水着娘は行かせはしないと再度木刀を振り上げ――直後、その背後よりファティナが組みつき大地に押し倒した。意識外からのバックアタック。
「茜さんはお邪魔キャラなのですよね? つまり敵ですよね?」
「くっ、既に背後に回っていらしたとは、そうです、私がここの守護者です」
「敵という事は基本何をしてもいいのですよね? ――良いに決まってます!」
「てぃ……ティナさんっ?」
叫ぶ茜の言葉は無視しつつ、ファティナは全身全霊ここに全てを賭けるつもりでセクハラを開始した。おまわりさんこっちにも来てください!
他方、
「ピューリッツァー賞だ!」
「くっ、届くか?!」
「これは……!」
既に上陸しているルビィがゴール目掛けて駆け、バーニアを吹かせて加速に優れるラファルが同じくゴール目掛けて追い上げてゆく、茜が組み付かれるのを見てから上陸した仁刀だったが、この足だとトップ二人を差すのは難しいか。
結果としては、一行動目でルビィがゴールへと飛び込み、二行動目のラファルVS仁刀は機動に勝るラファルが鼻差で先んじて穴に転がり込んだ。三着仁刀。払い戻しは以下略。
ゴール穴に飛び込んだ三名はどぼどぼどぼんと再び水中へと落ちてゆく。
「またファティナか……」
上陸した因幡良子はぱんと手で拝んでから、ファティナと茜をじーっとガン見している。脳内RECである。ファティ神様である。
残存ランナー順位、一位ファティナ228m、二位良子220m、三位エルレーン218.75
脱出せんともがく黒髪娘を銀髪娘は笑顔でがっちりロックして抑え込み中。
薄白布に包まれ豊に隆起屹立を描く乳白の色に眩しい肌が、滑らかに動く指先によってその造形を、古の神話達が謳う天地創造劇の再現がごとく、変幻自在にクリエイトしてゆく、この一連の事象を観測した因幡良子は「さすがはファティナ、匠の業である」と感嘆の念を禁じえなかった。
え、解り難いからひらたく言え? あぁ、つまり……それは幻獣クラーリンの肌触りである、と答えざるをえない。仄かに甘い匂いに、滑らかな手触り、マシュマロのような柔らかさと弾性、それ以上は、いけない。
そんな天地創造劇を網膜RECしてた良子であるが、バチッという鋭い音と共に急速に画像に乱れが生じたのに気付いた。感覚が麻痺し、すべてがブラックアウトしてゆく。
ドサっと音を立てて倒れた良子の後方に立っていたのはサハギンの銛を前脚で持つ、笑顔の白い四脚生物、エルレーン・バルハザードであった。
「ほもぉ……!」
救世神かと思ったがよく考えると既に邪神しかいなかった。
毒以って毒を制す、と誰かが言った。
桃色になっている空間へと白い四脚生物は駆け、まず身動き封じられ転倒している神楽坂茜へ意識外からの一撃を叩き込んで気絶させると、同じく転倒中で負傷の残っているファティナへと銛を叩き込んで気絶させたのだった。
・結果
一位 ルビィ 10点 負傷132
二位 ラファル 6点 負傷25
三位 仁刀 5点 負傷45
四位 エルレーン 5点 負傷120
脱落 ファティナ 0点 負傷178
脱落 良子 0点 負傷213
脱落 静流 0点 負傷188
●無差別格闘
「全国のザインエルさんには申し訳ないが俺がラストお邪魔キャラの神剣のザなんとかさんだ」
リング中央に立つ工事メットに学ラン木刀を装備した赤毛の偉丈夫が威風堂々と言った。
「時間(字数)押してるから巻いて巻いてー」
邪魔キャラが男だとやる気出ない、と棄権した良子が寝そべり尻掻きながらデジカメ片手に言う。
そんな訳で参加者達の最後の戦いが始まった。
「……よし! 皆で力を合わせて神剣のザなんとかさんを倒すぜ!」
そう叫んだルビィは全力防御、タクティクス!
「仕掛ける」
「喰らいやがれ!」
真っ先に仕掛けたのは静流とラファル。
静流、ボールを振りかぶって投擲。
ラファル、左腕から弾頭を神剣へと発射。
二連の紅蓮大爆発が巻き起こる。
未だ炎おさまらぬ中、エルレーンが突進し学ランの上着を神剣の顔面へと放った。
神剣これを剣で払う。
同時、逆サイドから詰めていた仁刀の剣が稲妻の如くに一閃され背を強打。
北西からファティナ、銛構え地を這うような態勢から捨身で矢の如くに刺突を繰り出す。狙いは――下腹部急所。
戦国なら常套手段、神剣は慌てず身を捻って打点を逸らし、しかし足の付け根に穂先が炸裂する。
神剣は目を細め木刀一閃。
防御を失っていたファティナが一撃で吹き飛び倒れる。
仁刀、エルレーンが前後を挟んで木刀と銛で連撃。
神剣は受けつつエルレーンへと薙ぎ払い。
白生物は飛びのいて回避。
なお、他メンバーは見である。ルビィ曰くの二位じゃダメなんですか攻撃だ。
「――強い奴が残るんじゃ無ぇ……残ってる奴が強いんd(ry」
しかし「でも神剣さん倒さないと仁刀さんが一位、ラファルさんが二位で確定じゃないですか?」という女声が脳内で聞こえてきたのでルビィは次ターンから慌てて攻撃に参加する。
それはそれとして、神剣は硬かった。
意識内だと仁刀がバックアタックを期待値で中てても無傷で弾かれる。満足に有効打足りえたのはファティナの全力攻撃程度。流石の防御判定90+2D20である。
次に神剣が動いた時、エルレーンが組討からリングに叩きつけて沈められ、一閃の太刀を仁刀はかわし、次ターンから参戦したルビィのバックアタックはなかなか良い打撃を与えたが、組討からの通攻のコンボに捕まり、気絶するまで繰り返されて沈められた。仁刀のバックアタックも繰り返されたが450を削りきるまでには届かず、ルビィが沈められた後に同様に組討通攻繰り返しで沈められた。
「俺の鎧(学ラン)を通さん限り、俺には勝てぬ」
神剣はそう言って、リング端で防御を固めている他メンバー達の元へとゆっくりと進んでゆく。
神剣は全力防御で守りを固めるラファルへも組討ちを仕掛けると場外に投げて落とした。
同様にリング端で構える静流にも組討を仕掛けたのだが、警戒していた静流はかわしざまに当て身を繰り出した。転倒はしなかったが、リング外へと吹き飛ばされ、
「……ぬかった」
空中でそんな呟きを残し、赤毛の偉丈夫は落下していったのだった。
●総合結果発表
六位 ファティナ、良子 0点
五位 エルレーン 5点
四位 ルビィ 10点
準優勝 ラファル、静流 11点
優勝 仁刀 14点
かくて、優勝者仁刀は背を伸ばした。普通の長身くらいまでと言ったら、身長190cmとなっていた。バスケでダンク決めるにも比較的苦労しない、世界が違ってみえる高さである。低い看板には注意しなければならない(でないと頭ぶつける)、なんてのは新鮮だ。
ラファルの願いは秘匿された。何かを叶えたのか、それとも叶えなかったのか、それを知るのは彼女のみである。
現れた神の龍への静流の願いは「願い事は特に考えていないから……そうだな。友人たちが慌てふためく出来事を今ここで起こしてみるとか?」との事であった。
かくて、静流とその友人達はお互いにその場で身体と精神を三日間交換させられた。組み合わせは友人間でランダムである。
大体は慌てるんじゃないかと神な龍さんは踏んだらしいが、さて、どの程度の人数が慌てたのかの正確な所は、記録には残されていない。
了