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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2014/08/25


みんなの思い出



オープニング

 山道の石を、回転するタイヤが踏んで弾き飛ばした。
 唸りをあげながらゆっくりと、傾斜のきつい道を、装甲でよろわれた車両が登ってゆく。
 列を成して動く車両の左右に、銃を手に戦闘服に身を包んだ男達が随伴し進んでいた。


 先の伊豆半島を巡る静岡天界軍との決戦は、一進一退の削り合いの末、最終的に学園とDOGの人類側連合部隊が勝利した。
 その後、DOGは半島安定に撃退長部隊を中核とした本隊を以って務め同時に疲労度の高い部隊に休息を与えつつ、一方で、先の打撃から立ち直らせないうちに叩くべし、という考えから静岡天界軍の総本山である富士火口ゲート攻略の為の先遣隊を編成し、これを宛てて富士山攻略に着手した。
 標高3776メートルを誇る日本一の大山は、書記長・大塔寺源九郎をして「あるいはゲートそのものの攻略よりも厄介」といわしめる天然の要害である。
 ゲートを陥落させる為に、まずはゲート入り口がある火口を目指す為の橋頭堡を、登山口に確保する事が第一目標となった。
 つまり登山口に前線拠点を築城する。
 登山口は幾つかあるが、山頂までの距離が比較的短い、富士宮五合目の登山口が選ばれた。
 登山口までの侵攻ルート。
 富士宮市から北東へ山へと向かう道は、鬱蒼と茂る森林地帯がかなりの面積で横たわっており、そこを抜けるので、奇襲を受ける可能性を考慮し却下となっている。
 戦闘部隊が一度抜けるだけならさほどの問題ではないが、山攻めは時間がかかる事になるだろうから、補給部隊が往復する事を考えると、視界が悪いルートで補給線を繋ぐ事はしたくない。
 なので、伊豆の北にある三島市を根拠地とし、そこより北へと向かい裾野市を抜け、北西へと進む道から進撃する事となった。



 富士のスカイライン。空の道。霊峰への道標。

――天下の険だ。

 山道を進みながら山頂方向を見上げ、DOG撃退士、鳥居赤心はそう思う。
 登山口までは車両が走れるアスファルトの道が敷かれており、道の傾斜もまだ比較的には緩やかなのだが、しかしそれでも、蛇のようにくねりながら進む道の左右は急角度の斜面で、木々も生い茂っている。
 兵を伏せる箇所はいたる所にあり、いつでも何処でも奇襲を喰らいそうな道である。
 その為、先遣隊の総指揮を任されたDOG副長一刀志郎と、その客員参謀としてついている学園の書記長、大塔寺源九郎は慎重に進むという点で合意していた。
 一刀は山道を進軍するにあたり、まず斥候を先行させた。
 ただ道を先行させるのではなく、山道の横手の峻険な山林地帯に突入させ、隈なく捜索させたのである。
 道の周囲に敵が潜んでいないと確定され、安全が確保されてから車両と共に本隊を前進させる。クリアリングを徹底して行っていた。
 基本といえば基本だが、そのせいで先遣隊の侵攻速度は牛歩の歩みであった。これは気の短い者でなくてもイライラする状況であり――敵に時を与えればまたサーバントが出来上がってくると見込まれていたから、時間がかかればかかる程、人類側の優位は減ってゆく状況である――しかし、初老の男はにこやかに焦らない焦らない、と微笑し泰然と構えていた。
 この方針が吉とでるか凶とでるか、鳥居には良く解らなかった。巧遅も拙速も長所があり短所がある。
 もっとも、
「急がば回れ、と申します。これが最速ですよ」
 と一刀は言っていたが。


「泥臭い動きですわね」
 守備についているガブリエル・ヘルヴォルは、麓からじりじりと、しかし確実に前進してくる撃退士達を見やって眉を顰めていた。
 一気に前進してくるなら奇襲してやろうと思っていたのだが、なかなか今回の敵の動きは慎重である。
 繁みや斜面への偵察が徹底しているので、本隊へと奇襲を仕掛けるのは不可能に近くなっている。
「まぁでも、だからといってそのままずるずる後退するのは、芸がありませんわよね」
 前回の激突、結局リカも戦死し、敗北したという結果にガブリエルは忸怩たる思いがある。
 開戦前、反対していたイスカリオテは、この結果になってもガブリエルを責めるような事は言わなかった。言ったのは、ここからどう挽回するか、その見通しのみである。
 責任を問われなかったからこそ、ガブリエルとしては挽回を決意していた。
「歩みが遅い、という事は、仕掛けるチャンスも多い、という事ですわ」
 黄金天使は思考する。
 富士の山頂までの道のりは長いのだ。
「斥候が厄介なら、斥候から削ってゆけばよろしい」


 飛べる、という事は往々にして有利な場合も多いのだが、木々の葉が濃い場合は枝葉がある高さではそれにひっかかって移動が困難だし、木々より高い高度に出て見下ろすと地上が良く見えない。射線もまた通し難い。
 なので結局、偵察する為には地上を歩かなければならなかった。
『D4、敵影無し』
 ヘッドセットに繋がっている光信機へと斥候の一人であるDOG撃退士が言った。
「良い加減、だれてくるなぁ〜」
 定期報告を終え、山林の中、周囲の繁みへと視線を走らせつつ銀髪ショートの若い娘は呟いた。経験は浅いがアウルの成長力が優秀だと見込まれている十代の少女である。
 木々の間を縫い、草を大剣で切り、払って進み、伏兵がいるかいないかを確認する作業は、なかなか神経を使う。獣道ですらない土の足場は柔らかく歩きづらい。とにかく心身ともに疲れる作業だった。
「……気を抜いてはいけないわ」
 ペアを組んでいる黒髪ロングの二十歳半ばの娘が言った。銀髪娘とは逆にアウルの力は弱いが戦歴は比較的豊富だった。
「地勢的にここはとても危険な領域だと思う」
「チセーテキ? 難しい事言われても解んないよ。敵なんて影すらも見えないじゃない? 麓からずっとだよ? この作業、壮絶な徒労な気がしてくるよ……」
 言いつつ、前方の藪へと大太刀を一閃して払う。
「ぶぁっ」
 不意に冷静な相棒がくぐもった変な声を漏らした。
「どしたの?」
 笑いつつ振り返ると、黒髪の娘は口を手で抑えられながら、胸から切っ先を銀色に輝かせる鋭い刃を生やしていた。刀身が赤く濡れてぬらりと光っている。
 相棒の背に回っているのは土と緑色の液体に薄汚れた甲冑に身を包んだ無表情の男だった。
 瞬間、銀髪娘の身から黒い光が爆発した、闇を纏った大剣を猛然と振り上げて疾風の如くに踏み込む。
 熟練の銀騎士は横に一歩動きながら、貫いているロングの娘の身ごと剣を持ち上げる。黒雷の如くに振り下ろされた大剣が、盾とされた黒髪娘の身に炸裂する――寸前でぴたりと止まった。
 刹那、横手の繁みより学者帽子をかぶった眼鏡娘が飛び出しショート娘の脇腹に拳を叩き込んだ。不意打ちの拳より不可視の衝撃波が杭の如くに噴出され銀髪娘が吹き飛んでゆく。綺麗に決まった痛烈な一撃。
 藪を貫き、細い木を圧し折り、大木に激突して、銀髪娘は地に倒れた。
 その間に銀騎士は黒髪娘より剣を引き抜いて藪中へと低く飛び込んで姿を消し、教女も同様に山林の中に姿を消した。
 銀髪娘は身に鞭打って起き上がり、周囲を警戒しつつも急ぎ倒れている黒髪娘の元へと駆ける。
 奇跡的にも――銀髪娘はそう思った――黒髪娘にはまだ息があった。
 背より溢れ出る血液が、恐ろしい速さで赤い海を広げてゆく中、光信機に――チャンネルは同じく斥候に出ていた撃退士達へのものだった――叫ぶ。
『助けてっ! サツキが、サツキが死んじゃう!!』


リプレイ本文

 恐怖と焦燥だ。
 響いた少女の叫びには、まざまざとそれらが混ぜられていた。
(敵襲!?)
 藪を掻き分け草木が濃い林中を進んでいたブロンドの娘――クリスティーナ アップルトン(ja9941)が立ち止まる。
 悲痛な声は頭部につけているヘッドセットと右手側から聞こえた。
 周囲の視界は深く濃く生い茂った草木によって閉ざされている。少女達の姿を目視する事はクリスティーナには出来ない。しかし一定の間隔を保ってローラーをかけるように索敵を行っていたので、大体の位置は把握している。
 叫びが聞こえた事からしても、そう遠い距離ではない筈だ。ハヅキ達の担当は位置的には自分達が近い。
「すぐに救援に向かうのですわ!」
 クリスティーナは仲間達に呼びかけ、すぐにでも東へと向かわんとする。
「待った」
 それに制止の声をあげたのは狩野 峰雪(ja0345)だった。
 五十代後半に見える男は光信機に繋がっているヘッドセットのマイクを片手で掴むと口元に寄せると、
『すぐ助けに行くから、もっと詳しく教えてくれるかな?』
 小声でかつ、安心させるような穏やかな声音でハヅキへと問いかけた。声量を抑えているのは音で敵に位置を悟られないようにする為だ。
 狩野がハヅキに尋ねた内容は、敵の種類、数、襲撃状況、現況、居場所、サツキの様子などだった。
 耳元のイヤホンから少女のソプラノの声が返って来る。
『い、いきなり繁みから襲いかかってきて! 多分、銀騎士と教女って奴だと思う、それでサツキが刺されて、血が、血が、動かないの……!』
 酷く焦り恐怖し混乱している調子だった。
 ハヅキはアウルの力は平均以上のものがあると評価されている少女だったが、兵士としての訓練を受けておらず経験が浅い。
 また、不意の攻撃を受け、相棒が意識を失い、自身も軽くない負傷を負って周囲の視界は閉ざされており、敵が何処から狙っているか解らない、という状況にあってパニック、恐慌状態に陥っているようだった。
 故にその説明は酷く要領を得ないもので、迅速に必要な情報を得る事が出来ず、時間が多少かかってしまう。
『大丈夫、落ち着いて』
 狩野は少女相手に苦労しつつも、宥めすかしなんとかおよその所を聞き出す事に成功する。
 解った事をまとめると、襲ってきた敵は銀騎士と教女が一体づつであり、サツキは意識不明の重体で死にかけており、不意打ちを受けたハヅキもかなり深手を負っている、という事だった。敵はハヅキとサツキにトドメを刺さず、一撃を加えた後再び藪の中へと姿を消したらしい。
『――友釣り? って奴だろね』
 話を聞き終えると龍崎海(ja0565)が言った。
 友釣りとは、狙撃兵等が使う手口の一つだ。大雑把にいうなら、敵をわざと殺さずに生かしておき、その救助の為にやってくる敵の仲間達を待ち伏せて次々に攻撃してゆく戦術だ。生餌をまき必殺の態勢で待ち構える。
『でも、逆に言えば敵の戦力を削る機会でもある』
 龍崎は強気だった。罠であろうとも喰い破ってやれば良い。
『癒し手がいるんだし、数が多いようなら救助者を確保してさっさと後退、うまくすれば本隊まで引き寄せて殲滅ってこともありだろう。まあ、二人組を狙ったことから、数はそれほどいないと思うけど』
 青年は陰影の翼を発動しつつそう主張した。
『多分、一度退いた方が正しいんでしょう……けど、それではきっと間に合わない……』
 陽波 透次(ja0280)は憂いを帯びた声で呟くように言った。ここで退いたら二人の少女は、少なくともサツキは確実に死ぬだろう。
『……僕は、見捨てられません』
 これら救助に向かう意見に対し、反対はなかった。透次はヒリュウを召喚しつつ光信機で司令部に現状と救助に向かう旨を伝えておく。
『ハヅキさん、すぐ向かいます!』
 黒井 明斗(jb0525)が光信機より声を送りつつ移動を開始する。姿勢低く周囲を警戒しつつも一直線に東へと突き進む。
 負傷者を餌にした罠であるのだとしても、助けたい気持ちが少年の身体を突き動かしていた。助けを求める者が居れば、罠だろうと一瞬も躊躇わない。『有難う……!』と涙ぐんだような少女の声が光信機から響く。
「こういう時の為の斥候だ、慌てはしない……が、急がせてもらう」
 久遠 仁刀(ja2464)もまた草木を掻き分け移動を開始する。静粛性は完全に無視した動きであった。急ぐ以上は己に対しあちらに仕掛けさせた方が早い、という考えである。敵の攻撃を引き受けるのも前衛の役目だ。
(敵の手並みは見事ですわ。奇襲に十分注意しなければ)
 クリスティーナもまた胸中で呟きつつ剣で左右の繁みを払いながら東進する。不意打ちで二人の少女は手痛い一撃を貰ったのだ。
 他方、侵入を発動している狩野は周囲とは対照的に静かに移動していた。足音を忍ばせて慎重に動きながら思う。
(助けを求める声に応じるのは当然――だけど、二人は一般人ではなく撃退士だ)
 金と引き換えにリスクを負っている。
(助けるに越したことはないけれど……これまで此の地における戦いで失われた、名もなき戦士たちの屍の上に、僅かながら優勢な今がある)
 罠の可能性が高いと知りつつも救出を選択する。
 その行動を天使に読まれ利用される。
(迷いのなさは、自信か信念か自惚れか。この世に絶対は無い……勝利を信じて疑わない精神は、強さでもあり、危うさでもある)
 実際の所、静岡の新サーバント達は強力だ。その攻撃や防御、それぞれの得意分野だけならば並の天使に勝る。
 それらが確実に有利な態勢で待ち伏せているこの状況――敵は本気だ。追い詰められているのだから。既にそこには奢りや遊びなどなく必殺の構えで来ている。
 いけるか、どうか。
 日本一の霊峰のその攻略戦における初戦が今、幕を明けんとしていた。


「あちらは待ち構えているんだろうから、隠れて移動するのでないなら陽動してみたほうがいいだろう」
 龍崎は東進しつつ取り出した発煙手榴弾のピンを引き抜くと、思い切り振りかぶり北方へと投擲した。
 手榴弾は枝葉を突き破ってかなりの距離を飛び、龍崎達の視界外の木の幹にあたって跳ね返り落ちる。二十メートル程度離れた位置より白煙が爆発的に噴出し広がってゆく。
 その直後、四十発もの視界を埋め尽くさん程の卵型の魔力弾が唐突に眼前に出現した。
 近距離から出現した魔弾が、唸りをあげて龍崎へと襲い掛かって来る。
「くっ!」
 魔弾は次々に爆裂して重力嵐を巻き起こし、大地が爆砕され草葉が散り、木々がバキバキと轟音を巻きこしながら捻じ曲がり圧し折れてゆく。
 四十連発の大爆裂嵐の中、龍崎は腕で顔を庇いつつ光の障壁を纏っていた。腕の間から藪を睨む。緑の中に目を凝らせば白い衣服の色が見えた。
 二体、何者かがいる。東へ進んでいた龍崎よりおよそ六と八メートル程度の距離。近い。白煙よりかなり手前だ。既に敵は付近に潜んでいたのだ。
「いきなりやってくれる」
 猛烈な手数に襲い掛かられた龍崎だったが、負傷率二割七分、アウルの鎧いも纏った彼の魔法耐性は並ではなかった。装甲が薄い撃退士ならば開幕でいきなり昏倒していてもおかしくない猛爆撃だったが、被害は最低限の範囲に抑えられている。
 同時、東より澄んだ少女の声が響き始めた。何者かが歌を歌いだしている。
「……仕掛けます!」
 透次は散開して移動し爆撃に巻き込まれる事を避け――基本をきっちり抑えている――攻撃により位置を曝した敵へと真っ直ぐに突っ込んでゆく。それと同時に、透次の召喚獣である灯火は敵の背後へと回り込むべく低い高度で北へと飛行する。青年は挟撃を狙っていた。防御においてだけではなく攻撃においても力の活かし方を知っている。
 突進すると藪中に、金髪巻き毛の時代だかった西欧学者風の老人が二体、姿勢低く構えているのが見えた。
 ウォッチボイラー。
 老人の碧眼と視線が合う。
 透次は神聖な輝きを放つ古刀を八双に振り上げると、踏み込みざまに袈裟に斬りつける。
 老人が地を蹴る。
 白刃が弧を描いて奔った。
 草葉が斬れ飛ぶ。
 一瞬の間に互いの位置が変わる。
 斬ったのは、空と草葉だけだった。
 透次は素早かったが、枯れ木のような老人もまた見かけに合わぬ俊敏さだった。一瞬で後方へと飛び退いてかわしている。草木が邪魔なのもあるが、ボイラーの体捌きは鋭い。熟達の武闘家の動き。
 他方、東側。
「なるほど、指揮官はあちらですか」
 クリスティーナが呟いた。この旋律を奏でる者の事をブロンドの美女は過去の情報から知り得ていた。クリスは意外に勤勉である。彼女の記憶が確かならば、天使などの上位者がいない限りこの歌の主が指揮を採る筈だった。
「――『天球の歌(ムジカ・ムンダーナ)』か」
 仁刀もまた呟いた。
 赤毛の青年は北へ二歩ほど踏み込んでから東進している。
 行く手の草葉は濃く声の主の姿は見えない。
 しかし仁刀は音を頼りに勘で狙いをつけると、アウルを収束させ剛刀を一閃した。
 月白の光が迸った。
 爆発的に伸びた光の刃は、霧虹のごとく軌跡を揺らめかせながら、深緑の世界を一直線に貫いてゆく。草葉が散った。大木が切断されてずれ落ち、周囲の木々を巻き込んで雷鳴の如き割音を立てながら倒れゆく。しかし、歌に揺らぎはなかった。
 手応えが無い。
 どうやら外れたらしい。
 だが仁刀は構わなかった。「長く届く攻撃がある」事を見せられれば良い。目標としての己への優先度が上がれば良く、あわよくば防御に戦力を割かせる事が狙いである。
 直後、僅かに刃の線上に斬り開かれた空間を、薄汚れた緑色甲冑が一瞬横切ったのが見えた。
(銀騎士か?)
 伊豆のゲリラとなってからは彼等の鎧は既に過去のように煌びやかではなかった。緑色に染めていても不思議はない。
 そんな事を思った瞬間、藪の彼方より漆黒に輝く光槍が飛来した。
 仁刀は直撃を避けようと咄嗟に身を捻り、黒光の槍は脇を抜け――る刹那、触れてもいないのに突如として爆裂した。空気を震わせて超重力の力場が発生し仁刀の態勢が崩れ、直後、撒き散らされた力が再度広範囲を巻き込んで大爆発を巻き起こした。
 中らずとも、標的の至近まで接近すれば自ずと爆裂し態勢を崩させた上でさらに広く破壊を撒き散らす二段構えの範囲攻撃、プロフェッサーメイデンのグラヴィティジャベリンだ。
 敵は応射してきた。
 しかし、
(深い傷を負った感触は無い――)
 至近からの爆裂を受けた仁刀だったが負傷率八分、余裕だった。教女の重力槍は避けるのが極力難しいが、引き換えに威力は低い。仁刀の装甲の前には効果が薄いようだった。
 一方、槍を手に姿勢低く周囲を警戒しながら東進していた明斗は、藪の枝葉を折る音を立てながら何者かが己へと接近してくるのに気付いた。
 気付いたのはほとんど直前だった、数拍の後、すぐ手前の北側の藪を破って緑色の甲冑男が飛び込んで来る。 
 緑色の甲冑男は至近に姿を現すと同時、全身より銀色の焔の如きオーラを立ち昇らせた。その背から爆発的に銀光が噴出し、掻き消えたが如き速度で加速する。
(――シルバーナイトチャージ!)
 銀の剣が閃光の如くに伸び、咄嗟に明斗はかわさんと身を捻る。しかし流星の如き突撃は鋭かった。かわしきれず、刃の切っ先が少年を捉え、その防護服をぶち破った。
 鋭刃に刺された腹が、焼けた火箸でも突き込まれたように熱くなる。凶悪な衝撃力に視界が揺れた。剣が捻られながら引き抜かれ、激痛と共に血が飛び散って宙に赤い線を描いた。負傷率四割三分。
「て、敵っ?」
 ハヅキの声が明斗の右手側から響く。
「そこに、いらっしゃい、ますか」
 苦痛に揺らぐ明斗の視界の隅、木々の間から衣服が見えた。距離はおよそ六メートルといった所。黒髪の少年は騎士を視界に捉えつつアウルを開放すると光をともなった柔らかい風を放った。癒しの風。
 ハヅキとサツキの身が光の風に包まれ、その身が急速に癒されてゆく。
 その間に明斗の元にさらに東北の方向より繁みを割って銀髪美女が出現した。
 羽飾りのついた銀兜をかぶり、白いペプロスに豊かな曲線を浮かばせる肢体を包み、左手に円形盾、右手に銀の長剣を構えている。
 彫刻のような美貌の女の無機質な瞳と明斗の視線が合った。
「オオオオオオオオオオオッ!!!!」
 刹那、勇壮な女の雄叫びと共に超重力の力場が発生、鈍い音と共に周囲の空間が歪んでゆく。明斗の身が見えざる巨人の手に抑えつけられでもしたかの如くに重くなり、態勢が崩れた。間髪入れず、白光の線が嵐の如くに無数に空間に巻き起こる。縦横無尽に振り回される光刃の嵐。
 超高速で滅多斬りにされた明斗の身から激しく血飛沫があがってゆく。負傷率七割一分。
 さらに東南方向、北へと注意が向いている明斗へと東南方向よりもう一体のソードメイデンが藪を突き破って出現し、同様に光の高速剣撃嵐を猛然と繰り出した。
 態勢を崩している明斗は避けられず、装甲が削られ瞬く間に血達磨に染め上げられてゆく。負傷率十二割八分。警戒していたので不意打ちではなかったが、三方からの半包囲攻撃は痛い。一般的な撃退士ならばとっくに倒れている所だが明斗もまた並の頑丈さではない。神の兵士が力を発揮し生命力を回復させながら踏みとどまる。負傷率十一割三分まで回復。
(嫌な間合いですわね……!)
 クリスティーナは東進中。繁みの彼方に見え隠れする光の嵐の発生源へはまだ少し遠い。
 明斗の初期位置が一歩東寄りだったのと少年の機動力が彼女より一歩勝り、また剣女の光刃の間合いが広いため、撃退士として極めて平均的な機動力のブロンド美女の剣の間合いまでは、六メートル程度届かなかった。まるで測ったような間合い――まぁ必殺の待ち伏せだから敵は当然測って仕掛けているのだろう――星屑幻想なら届くが、回数に制限があるので、これは複数を巻きこめる時を狙いたい、我慢する。
 狩野は全長190cm程度の長大な和弓に光の矢を番えると銀騎士へと向けて放った。光矢は銀騎士が咄嗟に翳した盾に受け止められる。が、元よりダメージを与える為に放った物ではなかった。マーキングだ。
 西側。
 ボイラーVS透次。
 老人の姿が透次の視界から一瞬掻き消える。
 ボイラーは疾風の如き速度で地を這うが如く、低く低く沈み込むように踏み込みつつ、光纏う拳を閃光の如くに繰り出してきた。
 透次はこの鋭撃を見切ると、一歩横にスライドして軸を外してかわす。さらにかわしながら刀身を閃光の腕へと添え、ボイラーの体を前へと流すように巻いて払う。老学者の身体が投げ出されるかの如き勢いで前へと泳がされてゆく。
 金髪巻き毛の老人は泳がされて身を大きく傾けつつも右手の五指の間に魔弾を出現させ、傾ぐ身を捻りざま振り払うように腕を振るって投擲する。
 魔弾が飛び、青年が地を蹴る。
 爆裂と共に重力嵐が発生し空間を軋ませるが、透次は素早く飛び退いてかわす。高速の攻防。
 その間に召喚獣の灯火はボイラーの背後に回りこんでいた。トリックスターを発動、赤い影が稲妻の如くに飛び、体当たりして老人の背へと痛烈な一撃を叩き込む。背からの凶悪な打撃にボイラーが身を海老反りにのけぞらせながら吹き飛んだ。
 一対一なら完封の動きだったが、しかし、ボイラーは一体だけではなかった。もう一体の老人型サーバントが攻撃を放った灯火の隙を突き、背後に踏み込んで至近距離から次々に二十連の魔弾を連続して投擲した。
 それでも尋常でない運動性のヒリュウは背後からの攻撃にも機敏に反応して最初の一波をかわす。が、続く二波をかわしきれなかった。
 超重力の力場に圧迫され、灯火は悲痛な悲鳴をあげながら大地に墜落する。飛行能力を封じられた。その痛みは主である透次にも伝わり、生命力が猛烈な速度で削り取られてゆく。負傷率十四割。致命的な打撃だ。透次と灯火の装甲は並以下だ、生命力も低い、一撃貰うときつい。
 青年達の意識が遠退いてゆくが、龍崎の神の兵士が発動、力が注ぎ込まれる。意識がクリアになった。そして傷がみるみるうちに癒えてゆき負傷率四割まで回復。驚異的な回復力だった。龍崎の神兵は半端な性能ではなかった。
 その龍崎は陰影の翼を広げて低空を飛行している。男は灯火が吹き飛ばしたボイラーへと槍を構えて猛然と突撃した。白色の槍を薙ぎ払うように一閃。風が唸った。ボイラーは咄嗟に上体を逸らしたが、かわしきれずに斬り裂かれ盛大に血飛沫を噴出させる。攻撃においても非常に鋭い。
 東。
 明斗、己の負傷が酷いが癒しの風はある程度負傷した二人以上をまとめて回復したい。北側から接敵しているが強引に東へと踏み込む。
 銀騎士と二体のソードメイデンは再度、剣を振り上げ、仁刀は手負いの明斗、ハヅキ、サツキをまとめて狙うソードメイデンを弾き飛ばさんと幻氷を発動させながら踏み込んだ。
 一瞬の間に四者が目まぐるしく動いた。
 反応最速は久遠仁刀。
 赤毛の青年は疾風の如く、八双に剛刀を振り上げ踏み込み様に袈裟に振り下ろす。刃は白い陽炎を立ち昇らせながら、弧を描いて鋭く一閃された。薄い白衣の銀髪女は、咄嗟に反応して円形盾を翳し、光の障壁を展開する。
 刃と光盾とが激突し轟音と共に景色を歪曲させる程の衝撃波を発生させた。
 鉄兜の女の身が勢い良く吹き飛んだ。木の葉の如くに宙を舞い、藪を突き破って木の幹に背中から激突する。攻撃の出かかりを潰した。
 一方の銀騎士は銀の長剣を稲妻の如くに一閃。明斗は咄嗟に東に跳ぶ。肩が割られて激痛と共に血飛沫があがった。避けられない。負傷率十三割。血臭が鼻についた。視界が回り吐き気と共に意識が遠退いてゆく。それでも明斗は歯を食い縛って精神を振り絞った。倒れない。再び神兵が発動、十一割五分まで回復。
 だがさらにもう一体の剣女が明斗とハヅキ、サツキをまとめて巻き込む範囲で光刃の嵐を放っていた、長大な白い光刃は嵐の如く、広範囲を滅多斬りに斬り刻んで抜けてゆく。サツキを庇うハヅキから血飛沫があがり、明斗の身からもさらに血が吹き上がる、負傷率十四割三分。耐えられるものではない――普通は。
 持ち前の比類なき抵抗力に加えて神兵の力が発動、傾いでゆく身を脚裏を大地に叩きつけるようにして踏みしめ支える。信じられないが倒れない。倒れていないのは仲間の援護とそして日頃の鍛錬の賜物だった。並の身体能力ならこうはいかない。十二割八分まで回復。
 他方、
「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
 クリスティーナは進路先、仁刀の幻氷によって木の幹に叩きつけられた剣女へと間合いを詰めると、透き通った刀身を持つ剣を一閃させた。
 高速で振り抜かれた透刃は掻き消えたかの如く見切りづらい。態勢を崩しているソードメイデンは防御が遅れ、その肩口より縦一文字に斬り裂かれる。刃は薄い白衣を裂いてその奥の肉体を深々と斬り裂き、真っ赤な血飛沫を勢い良く噴出させた。手応え有り。白衣一枚の外見に違わず、鎧は厚くないようだ。
 一方、剣女を吹き飛ばした仁刀の眼前へと、緑髪碧眼の小柄な少女が繁みを割って突撃し姿を現していた。丈が余り気味な白いペプロスに薄い身を包み足にはサンダル、背には純白の翼、学者帽子をかぶり眼鏡をかけている――サーバント、プロフェッサーメイデンだ。
 少女は美しい旋律を唇から溢しつつ、光纏う右手を腰溜めに拳を固め、低く沈み込みながら疾風の如くに踏み込んできた。
 爆風を巻いて右拳を繰り出され、仁刀は弧光を発動、体を斜めに身を沈め装甲を利用して受け止めんとする。
 刹那、少女の白い拳が仁刀の胸に打ち込まれ、さらに不可視の重力波が槍の如くに噴出し猛烈な衝撃波が巻き起こる。赤毛の青年の身は砲弾の如く、勢い良く吹き飛ばされた。仁刀が宙を舞い藪を突き破り大木の幹にぶちあたって止まる。こちらは外見によらずかなりの剛拳だった。負傷率四割七分。仁刀は魔法防御もかなり高かったが、衝撃波は装甲を半ば無効化し突き抜けてくる。
「動かせ、そう、ですか?」
 ハヅキ達の元へと辿り着いた明斗は息を荒げつつ――己こそがとても無事な有様ではなかったが――未だ倒れているサツキの傍らで剣を構えているハヅキに具合を問いかける。
 ハヅキは剣構えて剣女を睨みながら、
「い、意識がまだ……」
 良く解らない、と返答する。極度に混乱している上に医療に心得がなく時間も数秒しか経っていない。表面上の出血は収まったようだが、動かして良いものかどうか銀髪少女には判断できないようだった。
「了解、しました。敵を、寄せ付けないで下さい」
 明斗はマインドケアを発動しつつハヅキへと言う。撃退士に対しては一般よりも効果は減少するが、一応効果はある。
「解った!」
 ハヅキは了解の意を返すとソードメイデンへと踏み込んでゆく。
 仲間が辿り着いたのを見た狩野は武装を弓からオルトロス拳銃へと換装し回避射撃を活性化する。
 他方西側。
 負傷していたボイラーの傷が教女の歌の効果によって回復してゆく。
 無傷のボイラーは飛行を封じられているヒリュウ・灯火に向かって二十発の魔弾の嵐を次々に投射。
 草木が吹き飛び木々が圧し折れてゆく爆発嵐の中、ヒリュウはちょこまかと機敏に動いて回避回避。速い。
 手負いのボイラーは近接してきた龍崎へと向き直り、宙へはバンカーは繰り出せないので二十連の魔弾を投擲する。龍崎の身に超重力の力場が襲い掛かり圧壊と共に地へと引き摺り下ろさんとする力が働くが、龍崎は特殊抵抗が鬼のように高い、防御力と生命力も高い。
「俺にそれは効かないね」
 連打を受けつつも青年は揺るがず、アウルを爆発させて地に落とさんとする重力の腕を吹き飛ばすと猛然と宙より白槍を振り下ろす。
 上方より落雷の如くに振り下ろされた槍と、ボイラーが頭上に翳した白光腕が激突、激しく光を散らしてゆく。
 その隙に切り結ぶボイラーの斜め背後に回りこんだ透次は、古刀に莫大なアウルを集中させると狙いを澄まして一閃させた。黒皇。挟撃、バックアタック、急所狙い。
(――貰った!)
 唸りをあげて飛び出した衝撃波が、ボイラーの後頭部に炸裂し凶悪な破壊力を爆裂させた。学者老人が前のめり吹き飛んで倒れる。今度は立ち上がる気配が無い。撃破。
 東側。
 天球歌によって身を再生させてゆくソードメイデンと接近戦に突入したクリスティーナ、
(目の前の仲間を助けられずして何のための撃退士か!)
 ブロンド美女は気高き気合と共に、アウルを極限まで刀身に集中させると、銀髪剣女の横手に回り込みながら一閃する。
「星屑の海に散りなさい! スターダストイリュージョン!」
 煌々と綺羅めく光は流星群の如く、轟音と共に空間を一直線に翔け抜けてゆく。しかし、手前の剣女は素早く反応し盾を構えて障壁を張って防御し、しかしその奥でハヅキ、明斗、サツキをまとめて巻き込む範囲で光刃のラッシュを放っていたもう一体のメイデンは、脇より迫り着た流星群を防御出来ず奔流に呑み込まれてゆく。直撃。
 大きくよろめいた奥の剣女に対し、明斗とサツキを巻き込む剣撃を身を以って防いでいたハヅキは、明斗の神兵でなんとか昏倒するのを堪えると、身体ごとぶつかるように反撃の刃を一閃した。敵を後退させたい、という意図が見えた。しかし剣女は素早く盾を掲げて光の障壁を張りがっしりと受け止める。鈍い音と共に光が散った。
 クリスティーナの眼前の剣女は、空間を軋ませながら重力の力場を一瞬展開、金髪美女の態勢を崩しつつ、白光を収束させた刃で嵐の如き剣閃を放つ。
 クリスティーナは咄嗟にシールドを発動して剣を防御に掲げるも、鈍った動きでは鋭い剣閃には応じきれず、熱い激痛と共にその身を斬り刻まれて血に染め上げられてゆく。負傷率五割六分、強敵だ。
 明斗は二度目の癒しの風を発動、己とハヅキ、サツキの傷を癒してゆく。明斗負傷率九割六分まで回復。
 銀騎士は明斗へと剣を一閃、狩野はオルトロス拳銃を構えて鋭く弾丸を放つ、回避射撃。弾丸が騎士の手甲を叩いて剣筋が僅かにずれ、少年は上体を逸らし紙一重で避ける。
 だがさらに、教女が突進し低く沈み込むように踏み込んで来ていた。
「くっ?!」
 学者帽を被った少女から爆風を巻いて拳が繰り出され、明斗はかわさんと身を捻るもかわしきれず、拳が腹に突き刺さる。不可視の重力波が爆裂した。
 明斗の身が砲弾の如くに吹き飛ばされ、枝葉を圧し折りながら宙を舞い、乱立する樹木の幹に叩きつけられ跳ね返って地に倒れ付す。負傷率十一割九分、少年は激痛に霞む意識の中、神兵の力を発動、不屈の闘志で起き上がる。負傷率十割四分まで回復。この男、不死身か、と教女が思ったかどうかは不明だが、微かに目を見張ったようにも見えた。
 仁刀はハヅキと斬り合うソードメイデンへ猛然と突進、アウルを全開に解き放ちつつ相手の盾を狙って下方から上空へとカチあげるように振り上げた。光纏う盾とすくい上げる剣先が激突し、障壁に剣が弾かれ、巻き起こった衝撃波に盾が跳ね上がり、女は大きく仰け反りながら一歩後退する。幻氷によるかち上げだ。
 狩野は前進しつつすかさず、木々の隙間を通すように拳銃の銃口を向け発砲した。弾丸が唸りをあげて飛び、しかし常なら決まったかもしれない一撃は、草木が邪魔で隙間を通すように照準を合わせるのに一瞬時間がかかり、その一瞬の間に態勢を立て直した剣女は、素早く盾を引き戻して銃弾を弾き飛ばした。
 天球歌によってサーバント達の負傷が回復してゆく。
 二体目のボイラーも挟撃態勢から透次が急所を突いて仕留めると、透次と龍崎は東進。
(あちらは不味そうか?)
 龍崎の視点からは撃退士達とサーバントが激しく入り乱れているのが深緑の隙間から見え隠れしていた。龍崎は樹木の枝よりも下、藪等よりも上の高さを飛んで地形の影響を受けずに一気に突き進んで東へと急行する。
(急がないと……!)
 透次も藪を突き破りつつ東へと駆けているが、こちらは常よりも速度は落ちている。辿り着くにはまだ時間がかかりそうだ。
 剣女はハヅキ達へとトドメを刺さんと力場を発生させると共に剣に光を収束させ、
「やらせない」
 しかし仁刀が態勢を崩しつつも強引に裂帛の気合と共に再度幻氷を放った。今度は攻撃妨害の為に普通に斬りつける。渾身の剣と光の盾が激突して周囲の光景を歪曲させる程の衝撃波が発生し、剣女が木の葉のように彼方へと吹き飛ばされてゆく。
 だが、
「memodobinzonoko!」
 直後、教女は詠いながら仁刀へと拳を繰り出し、仁刀もまた大きく吹き飛ばされてゆく。負傷率八割七分。
 ハヅキは仁刀を吹き飛ばし飛び込んで来た教女へと振り向きざまに剣を一閃、しかし教女は素早く光宿す腕を翳し斬撃を受け止めた。その横手へと銀騎士が踏み込みハヅキへと稲妻の如くに刺突を繰り出す。狩野がその一撃を逸らさんと回避射撃で騎士の手甲を撃ち抜く。銀髪の少女は上体を逸らし、だがかわしきれず鋭い切っ先が少女の身を貫いた。剣が捻られ掻き回すように引き抜かれ、鮮血を噴出しながらハヅキは崩れ落ちる。昏倒した。
 もう一体の剣女はクリスティーナへと光の剣閃を巻き起こし、ブロンド娘の身が斬り刻まれて血飛沫が吹き上がる。負傷率十一割三分。
(キツイ、ですわね……! でも倒れる訳には!)
 クリスティーナは気力を振り絞って堪える。明斗から神兵の力が注ぎこまれ九割八分まで回復。さらにクリスティーナ、剣魂を発動、その身から痛みが引きみるみるうちに傷が癒えてゆく。負傷率七割まで回復。
「くっ……堪えて、ください!」
 状況が不味い。明斗、癒風はもう使い切ってしまった。代わりにライトヒールに入れ替えて活性化。
 東進中の龍崎は西へと吹き飛ばされてきた仁刀へライトヒールを放ち回復させる。
(これは……不味いね)
 狩野は教女へと拳銃の照準を合わせると発砲発砲発砲、轟く銃声と共に弾丸が飛ぶ。少女の身に弾丸が突き刺さって血飛沫があがった。だがまだまだ倒れない。
 さらに天球歌によってサーバント達の負傷が回復してゆく。
 クリスティーナは再度剣魂を発動、明斗はハヅキ達の元へと北上しつつライトヒール、龍崎もまた宙から急行しつつハヅキへとライトヒールを飛ばす。仁刀は光刃を放ちながら東へと駆ける。
「sudekidoosi!」
 歌う教女はこれ以上は押し切れぬと判断、付近で倒れている二人、昏倒して無防備となっているハヅキの延髄へと、狩野の回避射撃を受けつつも光纏う踵を叩きこんで骨を砕きつつ東へと駆け出す。銀騎士もまた東へと駆けながら重ねてハヅキの首へと斬撃を叩き込んで東へと駆けてゆく。教女の一撃だけでは回復のおかげで息があったハヅキだったが、これで絶命した。
 背を向けた剣女の背に仁刀の白虹が炸裂し狩野の銃弾が突き刺さって血飛沫があがるが、回復していた剣女は倒れず、彼方へと駆けてゆく。
 かくて四体のサーバント達は倒れる事無く繁みの彼方へと消えて行ったのだった。
「……間に合わなかった」
 ハヅキの死体の元へと辿り着いた龍崎は、その死亡を確認すると瞑目した。



 僅かの――されど戦闘においては多大な――時間の経過の後、本隊から増援が到着した。
「……隊と隊が激突すれば、普通は死者がでるものだ。損害比は、押し勝ったと言って良いと思う」
 増援隊の隊長としてやってきたDOG撃退士の鳥居赤心は、ハヅキの死亡は残念だったが、この不利な状況下で一名の救出に成功し、二体のサーバントを撃破した力量と、危険を顧みず救助に向かった撃退士達のその姿勢を称えた。この周辺のクリアリングは成し遂げられたのだ。
 先遣隊は被害を出しつつも山頂へと向かって進んでゆく。
 この山を攻略するまでには一体どれだけの犠牲が出るのだろうか、撃退士達はその困難さに思いを巡らせるのだった。



 了


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 未来へ・陽波 透次(ja0280)
 鉄壁の守護者達・黒井 明斗(jb0525)
重体: −
面白かった!:7人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード