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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/08


みんなの思い出



オープニング

 日本国が岐阜県、山中。
 息を切らして学生服姿の少年と少女が傾斜のきつい山道を駆けていた。
「きゃっ!」
 走る少女の足が木の根にぶつかった。天地が回転する。瞬後、衝撃。少女は自らが転倒したのだと気づいた。肩が痛み、動悸は激しく、全身が熱かった。汗が流れてゆく。
――苦しかった。
 走る事は、苦しい。それでも顔をあげる。先を走っている少年の背が遠ざかってゆく。が、少女が転倒した事に気づいたのか不意に止まり、振り返った。見上げる視線が合う。少年もまた、苦しそうだった。
 それでも少年はまた走って戻って来て、少女へと手を差し出して来た。
 口を開いて少年が言う。
「大丈夫か」
「うん」
 少女は目蓋の奥から溢れそうな涙を堪えて言った。手を伸ばして掴む。力強く身体が上に引き上げられた。膝を立てて立ち上がる。手を引きながら少年はすぐに走り出した。
「頑張れ、絶対生きて戻るぞ」
「うん」
 少女は頷いた。その時、突如として背後から咆哮が轟いた。大気を揺るがす爆音。駆けながら肩越しに振り向けば、山道の下方から巨大な黒影が迫り来ていた。
「走れ!」
 それは、熊だった。
 体長は3メートル近くにも肥大化し、紫色の炎の如きオーラを纏い、両眼を真紅の色に炯々と光らせていたが、熊だった。無論、ただの熊ではない。魔の眷属達によってこの世界に現出させられた魔界の獣だった。数は、三匹。悪魔の尖兵ディアボロだ。
「急いで!」
「う、うん!」
 少年と少女は転がるように山道を必死に駆け、熊達が猛然と獲物を追う。
「駄目、だよ、追いつかれてしまう!」
 泣きそうになりながら少女が言った。
 このままでは追いつかれ戦う事になるのは火を見るよりも明らかだったが、二人だけでは勝てそうもないのも明白だった。
「こっちだ!」
 少女は少年に手を引かれて走り、木々の間を突っ切ると少し開けた場所に出た。行く手に岩の崖が聳えており、そしてそこに洞穴が黒々とした口を開いているのが見えた。
 少女はふと山に入る前に少年が村の猟師達から話を聞いて地図を書いていたのを思い出した。闇雲に逃げている訳でもなかったらしい。
「阻霊陣を!」
 少年が言って少女は共に洞穴の中に駆けこんだ。少女は中に入ると地面に阻霊陣をつけて力を開放する。直後、熊が突進して洞穴の入り口に激突した。熊達は巨大過ぎて、入る事が出来なかった。
「こいつッ!」
 少年は洞穴内で反転すると中段に剣を構え、その切っ先を熊の顔面へと目がけて繰り出した。熊は素早くそれに反応するとその爪を狭いながらも器用に一閃させた。アウルの剣と魔の爪がぶつかって火花が散る。熊は切っ先を打ち払うと、多少の知恵はあるらしく素早く入り口から後退した。
 少年と少女は浅い呼吸を繰り返しながら息を整え、お互いに視線を交わす。
 少年は歩き、洞穴の奥を調べた。
 すぐに行き止まりとなっていた。
 入口。
 熊達は立ち去っていなかった。唸り声をあげて洞穴前をうろついている。人間を殺してその魂を抜きとるように、創造主の悪魔に刷り込まれているのだ。
 確かに、一時は凌げた――だが、閉じ込められた。
「……水、持ってる? 私、少しならあるけど」
 陣を張っている少女の問いかけに少年は首を振った。
「悪い、俺はないや」
「そう」
 呟きが洞穴内に響いたのだった。

●かくて依頼
 久遠ヶ原学園、斡旋場。
「救難信号?」
 集まった撃退士達が窓口で問いかけると事務員が答えて言った。
「はい、岐阜県の山中からSOS信号が発せられています。霊波を媒介としたものなので、信号の主は撃退士ですね。山の付近には小さな村があり、二日前に学園生徒が二人、家畜被害の調査の為に赴いた事が解っています。救援を求めているのは学園生である可能性が高いです」
「その学園生達のケータイへは?」
 集まった撃退士達のうちの一人、中山律紀が問いかけた。
「コールしましたが圏外でした」
「連絡はつかない、と……引き受けるとしたら、現場までの移動手段どうなりますか?」
「山からの距離3キロ程度の都市にディメンション・サークルが設置されています。サークルからサークルへと蒼輝輪を開きますので誤差はありません。あちらの撃退庁支部から大型バンを借りられますので、そこからは車で三十分程移動すれば山中へと入り込めます。ただ、発信源はかなり奥へ入った所なので、車では最後までは進めません。山の中腹で降車する事になります。そこからは徒歩で探索です。車の運転手は支部から出ますが、一般人であるので、撃退士を降ろした後は、一旦村まで退避する手はずになっています」
 車に守りを割いておく人手は無いからの措置だろう。よって帰りは下山した後徒歩で都市まで歩く事になる。
「人命を左右する依頼です。失敗は、許されません。山には何らかの危険が発生していると見て間違いないでしょう。貴方達の命も危険に晒す依頼となります。依頼主は学園執行部。報酬は以下の規定額です。この依頼、引き受けますか? 引き受ける場合はこちらにサインをお願いいたします」
 事務員はそう言って撃退士達に書類を差し出したのだった。


リプレイ本文

「撃退士二人が動けなくなるということは、天魔の事件だったということですか」
 斡旋所の受け付け前、神月 熾弦(ja0358)が言った。
「まだ確定じゃない。でも、撃退士は超人だからね。可能性は高いと思う」
 と中山律紀。
「なにか危ない気がするね。救助、急がないと……」
 竜宮 乙姫(ja4316)が呟いた。少女はこの依頼を受けると係員に申し出る。
 それに神月も言った。
「私も参りましょう。お怪我をなされている可能性もありますから、お手伝いさせて頂けることはあるかと」
 最終的に九名の撃退士がこの依頼を受諾する事に決め、救助へと向かう事になった。
「最後に目撃されたのが2日前、か」
 依頼を受けた者のうち一人、小田切ルビィ(ja0841)が呟く。
「実質的には2日以上経過している」
 そう言うのはフィオナ・ボールドウィン(ja2611)だ。
「なるほど。水や食料持って避難してるなら兎も角、そうじゃ無いならそろそろ限界かもな」
 小田切は言った。
「精神的・肉体的に追い詰められて、捨て鉢な行動に出られちまう可能性もある……急いだ方が良さそうだな」
「ああ、急ごう」
 頷いてフィオナ。
 かくて一同は急ぎ準備を整え救助へと向かう事になったのだった。


 撃退士達はDサークルより蒼輝輪を潜って空間を渡り都市へと降り立った後、大型バンでまず山付近の村へと向かう事にした。
「二人を追い込んだものがわからん以上、いると思われる地点の情報ぐらいは得ておかんとこちらが危険だ」
 というのはフィオナの言だ。
「流石にミイラ取りがミイラになりたくはないで御座るからの」
 虎綱・ガーフィールド(ja3547)がうんうんと頷いて言った。
 かくて一行は逸る心を抑えつつ村の猟師達へと聞き込みを行い、山の地図を入手した。猟師達曰くではその辺りには洞穴が多いらしい。今は山に雪はなく、葉が落ちた木が立ち並んでいるとか。
 地形情報を得た一同は再びバンに乗り込み山へと向かう。
 凹凸激しく揺れる山道を車でゆくことしばし、やがて中腹に辿り着いた。先の道はさらに険しくなり、車で行く事は出来ないという。一同はバンから降り、地図を手に徒歩でSOS発信源目指して進んだ。


「あれか」
 山林を分け入って進む事しばし、神経を張り巡らせていた黒葛 琉(ja3453)が言った。
 木々の間より遠目に見えるのは、洞穴とその周辺の開けた空間、そしてそこに屯う大熊達の姿を目撃していた。SOS発信源は近い。恐らく、あの洞穴の奥に要救助者は阻霊陣を張って立て篭もっているのだと推察された。
「敵は熊型が三体だね」
 夕凪 美冬(ja0357)が周囲を確認しつつ言う。
「天魔と遭遇とは、今回の撃退士もつくづく運がないようだね」
 高坂 涼(ja5039)が呟いた。
 男は思う。しかし、やはり救いたいと。
(こんな所で倒れるのも、彼らも本意ではないだろうし。だから僕も……いや、俺も頑張るか)
 青年は言った。
「助ける。こんな所で散らす命、彼らにとっても本意ではない筈だ」
「うむ。なんとか上手く救出したい所じゃのう」
 と虎綱。
 かくて一同は救出の為の作戦を手早く打ち合わせ始めた。
「魔熊なら、一体くらいなら引きつけてられると思う」
 律紀はそう言った。
 一同は戦闘班と救助班に人員を分けた。救助班、神月、竜宮、小田切の三名。戦闘班、フィオナ、高坂、美冬、黒葛、虎綱、中山の六名の編成。
 熊のうち一体を中山律紀に任せ、残り二体を戦闘班で抑えつつ救助班が洞穴内の要救助者の救助へ向かうという作戦だ。フィオナは食料の入った袋を救助班の神月へと渡しておく。
「一人で一匹なんて大サービスだよ」
 美冬が言った。
「あはは、言った以上は耐えてみせましょう」
 と律紀。
「みんな、がんばろうっ!!」
 竜宮が言って、一同は頷くと、武装を活性化させ、距離を詰めてゆく。
 洞窟への接近は敵の注意をこちらに向けるため、隠れようとはしない。神月のみが回り込むように隠れながら進んでゆく。
 距離が二十歩程まで近づくと、紫色の焔の如きオーラを纏う巨熊達のうち一匹が撃退士達の方へと勢い良く振り向いた。
 赤眼の巨熊が牙を剥き顎を開いて、大気を揺るがす咆哮を轟かせた。悪魔の吼え声、空気が音を立てて震える。
 熊が動き出し、撃退士達もまた加速した。
 戦闘開始。
 一番手に仕掛けたのはインフィルトレイターの黒葛だ。リボルバーを構えて積極的に攻勢に出る。
 敵味方の動きを計算に入れ駆ける。漆黒の光を纏った男は戦場の横手、北側に回り込むようにしながら最手前の魔熊へとその銃口を向け発砲した。
 黒葛、死ぬ気はないが覚悟はある。その結果で死ぬのなら別に構わない。依頼を達成する為に今必要なのは何か、それだけを冷静に思考し駆ける。
 今、必要なのは敵の注意を己や戦闘班へと惹きつける事。端正な顔に冷徹な光を宿らせる。
 青年に恐怖は無かった。
 弾丸が空を切り裂いて熊の顔面へと飛んでゆく。赤眼の巨熊は襲い来る弾丸に対し、瞬間的に大地を蹴りつけ、その巨躯に見合わぬ軽快さで爆ぜるように横に跳んだ。弾丸が熊の肩をかすめ空間を突き抜け奥の樹に中って幹を粉砕する。
 その一瞬の攻防の間に虎綱、エネルギー状の刃を生み出しながら快速一番に間合いを詰めている。熊の着地の瞬間に合わせて、その顔面へと向けて光の刃を打ち放つ。投擲。刃が唸りをあげて熊の顔面に炸裂し、鈍い音と共に血飛沫が飛んだ。
 紫焔の熊は怒りの咆哮をあげながら大地を揺るがして突進し、虎綱は西側へと熊を誘導するように後退せんとする。
「ふわははは! こちらでござ――おわっ!」
 一定の距離を保たんとする虎綱だったが、熊の速度はその巨体に見合わぬ速度で突撃していた。瞬く間に距離を詰められ、射程に捉えた熊が右腕を振り上げる。だが、それが虎綱へと振り下ろされるより前に、一つの影が横手から飛び込んだ。
「盾の役割、果たしてみせる」
 高坂涼だ。
 言いつつ槍と盾を構え、全力で防御を固めながら魔熊の眼前へと躍り出る。
 大熊の剛爪が閃光と化し、大気を袈裟に斬り裂きながら襲いかかる。青年は盾を掲げ爪を打ち払うように盾を翳した。轟音と共に力と力が激突し、荒れ狂う凄まじい衝撃力に高坂の身が横に流れた。
 魔熊はすかさず牙を追撃に振るわんとするが、サイド――誤射を避ける為に真後ろではなく横手を取っている――美冬だ。黒のワンピースに身を包んだ少女がリボルバーを向けて猛射を開始する。轟く銃声と共に連射された弾丸が次々に魔熊へと襲いかかって、その横面に連続して突き刺さって破壊力を炸裂させ赤色の破片を宙に飛ばしてゆく。
 顔の一部を破壊されながらもしかし、魔熊はそれでも顎を繰り出したが、しかし勢いの鈍ったそれを、高坂は見切ると、素早く後ろにステップして回避した。
「熊か…。おとなしく向こうの世界で冬眠しておればよいものを……!」
 その間に長大な両手剣を出現させて少女が一人魔熊の後背より迫っている。フィオナ、隙あらば仕留めるつもりで打ち込みたい。仲間達のおかげで背後を取れている。まさに隙だらけだ。
「ハァッ!」
 ブロンドの少女は裂帛の気合いを炸裂させると、全霊の力を集中させ、大剣を最上段から落雷の如くに振り下ろした。唸りと共に大剣の刃が炸裂し、熊の背の毛皮を突き破り肉を突き破り背骨に罅を入れる。魔熊が苦悶の吼え声をあげた。
 他方。
 虎綱が魔熊を引きつけんと後退せんとしていた頃、救出班もまた三体いるうちの二体目の魔熊と激突していた。
 大きめの男物の制服の上着をはためかせて黒髪の童女が駆け、射程まで間合いを詰めてゆく。
 巨大な熊が耳をつんざく吼え声をあげ、殺戮の意志を宿した赤眼を以って矢のように視線で撃ち抜いて来る。
「ひっ……!」
 幼い竜宮の身に冷たい恐怖が走り抜け、少女は羽織った上着をぎゅっと握りしめた。
 かつて己を助けてくれた撃退士の上着。私はここに居る! そんな思いと共に恐怖を押し込めて片手に持つ一巻のスクロールを翳す。全身のアウルが巻物に集中され、眩く輝く光の球が産み出された。
「い……けぇっ!」
 唸りをあげて光球が魔熊の顔面めがけて飛び、それを追いかけるように一つの影が突っ込んでゆく。
 魔熊は迫り来る光の球を素早く横に跳躍してかわした。牽制の一撃だ。元より真っ正面から顔に中るものではない。
 本命、一つの影――跳躍した魔熊の動きに即応して小田切が追尾している。
「ディアボロの弱点が本物の熊と一緒かは分からんが――」
 若い男は言いつつ細身の刺突剣を構え、大地を蹴って鋭く踏み込む。
「コイツでどうだ!!」
 裂帛の気合いと共に繰り出された刺突剣が稲妻の如くに奔る。狙いは、鼻。刃が見事魔獣の鼻に直撃し、そしてそのまま奥までを貫通した。獣は苦痛に絶叫をあげる。効果は抜群だ。しかし一撃でくたばる程のヤワな生命力でもないらしい。魔熊は吼え声と共に剛爪を竜巻の如くに横薙ぎに振り抜いた。暴風のような一撃が小田切の背から脇腹を通って抜け、猛烈な破壊力で肉を断ち切り骨を圧し折り、鮮血を噴出させ、男の身が独楽のように回転しながら吹き飛んでゆく。
「ぐっ……!」
 しかし、こちらもただの人ではない。常人なら死んでるが、若き撃退士は宙で身を捻って態勢を立て直し着地する。眼前、追撃に大熊が獣の恐るべき速さで踊り出ている。牙が光る。
小田切は即応し、歯を喰いしばって盾を翳した。こいつは、貰うと死ぬ。大きく開かれた顎と小田切が翳した盾が激突し鈍い音が鳴り響いた。
 三体目の魔熊は光のオーラを宿した律紀と激突し槍と爪を激しく交差させている。
 他方、神月は仲間達が交戦する間、森の端から斜面に沿って回り込み洞穴の中へと飛び込んでいた。
「あ、あん、た、は……?!」
 神月が洞穴の中に入ると、淡い光を纏ってはいるものの、憔悴の色の濃い少年の姿があった。片膝をつき、片手に剣を構えている。
「救助に来ました。もう大丈夫ですよ」
 神月はにっこりと笑って言った。すると少年は安堵の表情を浮かべた後、何処にそんな力が残っていたのか、
「……よし!」
 やおら瞳に力を取り戻すと、地を蹴って弾丸の如くに洞穴の外へと向かって走り出した。
「ま、待ってください!」
 神月は慌てて横を抜けようとする少年に飛びついた。組みついて少年の動きを抑えにかかる。
「何をする! ハナセッ!」
「それはこちらの台詞です。こんな状態で何をしにゆこうというのですか」
「外であのディアボロと戦っているのだろう。助けが来たなら今こそ好機。打って出て加勢する!」
「駄目です!」
「他人に命を賭けさせておきながら穴の中でそれをただ見ていろというのか!」
「……解りました。ただし、手当てが先です。無理をして、そこのもう一人の方まで危険に晒すような事になってはダメでしょう?」
 神月は視線を洞穴の奥へと投げる。そこにはやはり、淡い光を纏って阻霊陣を地面に当てながら座りこんでいる憔悴した少女の姿があった。
 神月のその言葉に、少年は動きを制止させる。
「……解った。すまんが、頼む」
 神月は身を離すと頷き、癒しのスクロールを取り出して光を解放した。


 戦闘班VS魔熊。
 背後からの一撃を受けた魔熊は、振り向きざまに剛爪を一閃させ、リボルバーを構える美冬は熊の頭部を狙って継続してサイドより射撃している。回転する熊の肩や脇腹に弾丸が命中し血しぶきを噴出させてゆく。フィオナは大剣を翳して防御の姿勢を取った。旋回の爪撃と大剣が激突し、猛烈な衝撃が発生した瞬間、少女は力を抜いて受け流さんとした。
 壮絶に重い。
 熊のパワーと少女の技量の勝負。フィオナ、可能ならカウンターまで繋ぎたい所。
 甲高い音が鳴り響いた。
 大剣がくるくると回転しながら宙を舞ってゆく、弾かれた。魔熊の爪が押し切って突き抜け、次の瞬間、少女の身から真っ赤な血飛沫が勢い良く噴出した。よろめいたフィオナへと魔熊が顎を開いて突進し、
「疾ッ!」
 瞬間、虎綱が踏み込んで魔熊の後ろ脚へとダガーを繰り出した。タイミングを測っていた黒葛もまたフィオナが一撃を貰ったのを見て熊の顔面を狙ってリボルバーで猛射する。
 猛烈な弾丸が魔熊の頬に突き刺さって粉砕し赤色を宙に舞わせ、刃が熊の脚に突き刺さり、勢いの鈍った熊の顎に対し、フィオナは間一髪で横に転がって回避する。
「攻めは好かないんだが――」
 高坂が呟きつつ、短槍を構えて突進する。一撃ががら空きの魔熊の背を強打して、その背骨を鈍い音と共に圧し折った。熊が泡を吹いて白眼を剥き、崩れ落ちるように倒れる。フィオナは痛みを堪えて駆け地に突き刺さった大剣を引き抜く。
 他方。
 竜宮が光球を飛ばして盾に齧りついていた熊の顔面に直撃させ、その隙を捉えて小田切は踏み込んでいた。熊の横手に回り込みながら、後脚内側を狙って脚を鞭の如くに振るう。熊の脚にレガースが炸裂し、魔熊は脚を折って態勢を崩し、同時、熊の振り下ろしの剛爪が小田切の身を直撃した。男の身が折れ、さらに追撃の二撃目が小田切を破壊しながら宙へと吹き飛ばす。意識が薄れてゆく。
 男の身が大地に叩きつけられて転がり、辺りを赤く染め上げていったが、すぐに淡い光が男の身を包みこみ傷を急速に癒していった。律紀の術だ。小田切は再び起き上がる。
 黒葛、美冬、竜宮は火線を合わせて魔熊へと猛射、弾丸と光球が熊の身に炸裂してゆく。
「生きてるで御座るかー!」
 虎綱は魔熊の正面に詰めダガー投擲。魔熊は斜めに突進しながらダガーを回避しつつ虎綱へと迫り、虎綱は後退に移る。高坂が虎綱と入れ替わりに入って防御を固め、振るわれる爪を盾で受け止める。
「なんとかな! とっとと仕留めて次行くぜ……! 『Vom Dach』!『Zornhau』!!」
 小田切が八双から袈裟に痛烈な斬り下げを放ち、フィオナが猛然と迫って大剣を叩き込んで大地に沈めた。撃破。
 二匹目を仕留めた七名は律紀が引きつけていた最後の魔熊へと向かい、その途中、洞穴から神月と少年が駆け出て来た。神月はスクロールを翳してフィオナへと光を放ちその傷を癒し痛みを取り除いてゆく。
 魔熊は咆哮をあげ剛爪を振るって対抗したが、九名からの一斉攻撃を受けてはさしものディアボロも立っていられず、瞬く間に大地に沈んだのだった。


 かくて、魔熊は殲滅され少年少女は無事に救出された。
「ふぅ、なんとかなったかにゃ?」
 一息ついて竜宮が言った。戦後、負傷者は神月や律紀より魔法の治療を受け、また救急箱を持参していた美冬から包帯を巻かれて応急手当てを受けていた。
 少年少女は相当餓えていたのか、渡されたヤキソバパン等を勢い良く食べていた。そんな二人へと虎綱が言った。
「御無事でなにより。お互い新米、まずは生きて次に繋げる御座るよ」
 言葉と共にバッと開かれた扇子には「生存」の二文字が力強く描かれていたのだった。



 了


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・神月 熾弦(ja0358)
 『天』盟約の王・フィオナ・ボールドウィン(ja2611)
 世紀末愚か者伝説・虎綱・ガーフィールド(ja3547)
重体: −
面白かった!:8人

視線を独り占め・
夕凪 美冬(ja0357)

大学部4年243組 女 インフィルトレイター
撃退士・
神月 熾弦(ja0358)

大学部4年134組 女 アストラルヴァンガード
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
撃退士・
黒葛 琉(ja3453)

大学部9年38組 男 インフィルトレイター
世紀末愚か者伝説・
虎綱・ガーフィールド(ja3547)

大学部4年193組 男 鬼道忍軍
ヌメヌメ猫娘・
竜宮 乙姫(ja4316)

大学部1年166組 女 ダアト
飛天一槍・
高坂 涼(ja5039)

大学部7年305組 男 ディバインナイト