土と砂の匂いが撃退士達の鼻腔をくすぐった。
土埃は白煙となって風に乗り、晴天の元に広がる茶けた荒野に舞い上がってゆく。
ーーこんなやつらが未だにいるんだな。
店の入り口の戸を開こうとした時にアウルに覚醒し撃退士になったという中華料理屋の店長、崎宮勇士(
jb9511)は依頼が出された経緯を聞いた時に軽い驚きを覚えた。まぁ、崎宮としてはそういうのは嫌いではない。
(京極と上杉に勝負をさせてやりたいもんだな)
若者の純粋な想いを遂げさせるのも悪いことじゃないだろう、中年の男はそう思い、プラスチックのように透明な魔鋼の大盾を構えた。
その為にもまず前方と後方より迫り来ている巨大なハリネズミの群れを討たねばならない。瞳を真紅に凶悪に輝かせ、体長3m体高2mの見上げる程の巨体を疾駆させる、およそ二十体もの巨大な魔獣が雪崩れの如くに東西より押し寄せてきていた。
悪魔の眷属、ディアボロと呼ばれるそれだ。魂を抜かれた人間や動物が抜け殻となった肉体を変貌させられて使役される悪魔達の尖兵。
「まずは東側から叩きましょう」
中等部の女学生服に身を包んだ良い所の出そうな三つ編み髪の少女、北條 茉祐子(
jb9584)が「ここからどうするのか」という上杉慶二の言葉に答えて言った。
悪魔と人とのハーフの娘である茉祐子は、祖父母によって愛と厭とが同時に混在する複雑な感情を受けながら育てられた。金色を帯びた緑色の瞳が、悪魔の男の血を引く証。
「盾持ちの本隊は真っ直ぐ東へ前進して敵の攻勢を受け止める事になると思います。先輩達バイク隊はそれまでに速度を活かして迂回して敵の後ろまで回りこんで、敵と本隊が激突する瞬間を狙って敵の背後を突く形で突撃してください」
どうやら撃退士達は鉄床戦術でいくらしい。正面固定役と迂回機動背面衝撃役の二種による挟撃戦術、古くはマケドニアのアレクサンダー大王やカルタゴのハンニバル=バルカが使い手として著名で、現代戦でも騎兵が戦車に様変わりしてはいるがなおスレッジハンマー作戦として現役で使われ続けている不朽の戦法だ。
「オウオウ、了解お嬢ー! よーやるあれかァ!」
リーゼントに改造儀礼服姿の男から理解の声がかえってくる。小難しいことはさっぱり知らない京極と上杉達だったが、その戦術の呼吸と効果は知っていた。一人が引きつけてその隙に一人が後ろに回りこんでぶん殴るのは少数の喧嘩でも有効に働く場合も多いからだ。その長所も短所も言葉ではなく体験として身体に刻まれている。
「ブッコミなら任せとけぇお嬢ー! いくぜぇー! 野郎どもー!」
黒革のつなぎ姿の京極が抜き身の大太刀を片手に振り上げ、バイクのエンジンを唸らせて東北の方角へと走り出し加速してゆく。
「バイクで特攻! 超かっこいい!!」
バイク隊の日野 灯(
jb9643)はきゃっきゃと歓声をあげていた。半魔の少女は長い黒髪を真紅に変貌させ、翼を出す為につなぎの上半身をはだけさせて白肌をさらし、豊かな丘線を布一枚で包んでいる。
「いぇーい♪ バイクバイク♪ 華麗に乗り回しちゃうもん!」
その相棒のハーフエンジェル、グラサージュ・ブリゼ(
jb9587)もまた、日野と並走しながら唸るエンジンと切り裂く風にテンションを上げている。
「エンジンを吹かすだけでこんなに高揚するなんて……痺れる〜♪」
荒野の風を裂き爆走する快感に脳髄を溶かしているのは、バリバリと赤い電撃を全身から迸らせる赤毛の女、一川 七海(
jb9532)である。
(でもこれは組織の任務なの…。ああっ、でもバイクも良いわ〜♪)
組織の事を漏らすと首輪を爆破されてしまう為、その辺りは胸中で呟くのみであり随分な状況だったが、女はそれにも関わらず楽しんでいるようだ。
「いやあ、風になれますね〜」
狐面をつけた男、影法師(
jb6386)がバイクに跨り黒尽くめのレインコートを風に靡かせながら言えば、
「風になるー! っと一度は言ってみたかったんですよ、これー!」
と稀裡 文奈(
jb9537)もまた黒のサイドテールを靡かせ風を裂く爽快感に破顔し答えるように言う。
「我等が方の機動力は圧倒的だ。響の名の通り、我が名と敵の断末の声を奏でとして戦場に響かせてやろう」
軽く、気障ながらも何処か飄々と述べるのは響 清親(
jb9614)である。彼もまた気合は十分だ。
が、
「このナリでバイクとは、少々珍走団めいてる気もするが」
ふと自らの時代がかった服装と鋼鉄の単車の差異にふとセルフツッコミが入る所である。
「それは言わぬが華ですよー」
「むしろ一周回って格好良い……!」
ハイテンションになっている少女達からそんな言葉が返ってくる。テンション高い一団である。視覚的にも色々鮮やかだ。
他方。
「バイクでスライディングとかしちゃったら……痛そうだから……盾……盾」
と、意気揚々と疾走していったバイク軍団の背を見送りつつブロンドの女天使、Charlotte(
jb9565)は淡々と呟き盾構え、光の翼を広げて蒼天に向かい飛翔する。
「バイク……カッコいい……。大きくなったら……イイ女になって……ななはん、乗るんだ……」
身長と手足の関係で今回は諦めたか小等部の銀髪童女、ベアトリーチェ・ヴォルピ(
jb9382)は感情の起伏の少ない声ながらも、何処か憧憬を滲ませ手呟いた。撫でていた髑髏をしまい視線を正面へと戻して大盾を構える。ベアトリーチェの瞳には、土煙を巻き上げながら津波の如く迫ってくる巨獣達の群れが映っていた。
「本格的戦闘は……は、はじめてなので……怖いのです」
巨獣達の進路上に立つ外見年齢14歳程度の堕天使レイ・V・D・サイファ(
jb9542)は、その幼さを多分に残す顔立ちに恐怖の色を浮かべていた。なんせ体高2mといったら身長146cmのレイにとって文字通り見上げる程の巨大さだ。それが高速で群れを成して砂塵を巻き上げて突進してくる。意志あるトラックが殺意を漲らせて集団で自ら目掛けて突撃してくるようなものだ。怖くない方がおかしい。
(何だこのハリネズミやべぇデカい抱き締めたい!)
怖がるどころか目を輝かせているのが名は快晴(
jb9546)、何かがおかしい。氏は相崎、苗字を名乗らない理由は特に無い。男家族に生まれ、逞しく生きている、情熱に燃え義理人情に厚い若き女である。男より漢らしい所があるが女である。可愛いものが大好きだ。
この血色の双眸の巨大魔獣は可愛いのか……? とツッコミ入りそうな所だが、快晴に言わせれば「ハリネズミって可愛いよな! 可愛いよな!」との事で、
「寧ろ特攻した勢いのまま埋まりたい!!」
「いや、それ、普通に死んでしまうのでは」
隣で何か危ない事を言ってる年上の女へと水無瀬 雫(
jb9544)は思わず、といった調子で翻意を促す。
「――おっと、俺とした事が」
はっと我に返る快晴。可愛さに目が眩んでいきなりあの世に逝ってしまってはマントが泣く。
(初依頼……俺は俺の役目を果たすのみだ)
他方、西織一(
jb9479)、銀のヘッドホンを首にかけた無口無表情な中等部の少年は、静かに闘志を燃やして迫る敵を睨む。
「敵の数が多い……速く撃退して終わらそっか」
麻倉 匠(
jb8042)は五指に鎖付きの魔法の指輪を嵌め、大盾を片手に構える。
「さて、目論見どおりいけるかしらね」
背より陰の翼を出現させつつ芥川 玲音(
jb9545)もまた盾を手に前方を見詰める。敵が迫る。
「やぁ、あれ、改めて、トゲトゲしてて痛そうだねえ……」
セイブレム・L・グラハイン(
jb8842)は針鼠の巨獣グレートヘッジホッグの鈍く輝く針達を見やってぽつりと呟いた。
さて、ハリネズミの針が撃退士達を貫くか、それとも撃退士達の力と戦術が勝るか。
九名のバイク隊が北東へと大回りに回り、二十四名の大盾持ちの一団が東へと進む。
水無瀬雫は左右と歩調を合わせて進む事に注意を払っていた。集団戦では一人突出してしまうと大体集中攻撃を受けてタコ殴りにされるので一瞬で斃れる、至極賢明な判断だ。他のメンバーは歩調を合わせて戦列を構築する、といった事にあまり意識は払っていないようだったが、幸いな事に皆、足の速さはほとんど同じなので、自然、横にほぼ一線のラインを作る事となった。
しかしやはり少数の個人を比較すれば差はある、盾隊の先頭は銀髪童女のベアトリーチェ・ヴォルピ。
快速で一気に津波の如くに突進してきた赤眼巨大針鼠達のうち三体が、正面、左斜前、右斜前より一斉に槍の如くに頭部より針を伸ばした。杭打ち機で打ち出される杭の如く巨大な剛針が唸りをあげてベアトリーチェへと迫ってくる。
童女は銀眼で己に迫る針を見据えると大盾を構えた。針と透明な魔鋼が激突して衝撃が発生し、瞬間、盾が『無尽光(アウル)』を発生させながら自壊して粉々に砕け散る。巻き起こった光の粒子が逆巻いて衝撃と衝撃を相殺し、正面からの剛針を弾き飛ばした。無傷。
が、正面の一本はそれで防げたが、盾の効果は一度きりだった。左斜と右斜より殺意を迸らせて突き出された巨大針がベアトリーチェの身を連続して貫きその身に大穴をあけた。鮮血が荒野に鮮やかに噴出する。
「……痛い」
赤く染まったベアトリーチェはそれでも淡々と呟きながら、遠退きかけた意識を繋ぎとめ気絶を堪えんとする。傾いてゆく身を一歩後方にふらつかせながらもなんとか踏みとどまらせた。倒れない。撃退士は常人より遥かに頑丈なので死ぬ事はなかったが一気瀕死だ。
他方。
ベアトリーチェの左隣に続く麻倉は分身の術で己そっくりの分身を出現させていた。突っ込んできた左斜前の巨獣の針が唸りをあげて繰り出され、麻倉分身の胴をぶち抜き、分身が倒れる。
「やってやろうじゃねぇか!」
水無瀬、西織と大盾を並べる快晴、ダチとの約束を叶える為というのなら身体くらい張ってやるぜ、と正面から突っ込んで来た巨大魔獣を迎え撃つように踏み込み、繰り出される剛針を盾を翳して受け止める。盾が砕け光が散り針が弾き飛ばされた。
「俺が相手だ、ハリネズミ」
左隣では西織が眼前の魔獣の大針を大盾で受け止め、右隣でも水無瀬が大盾でしっかりと受け止めている。撃退士達が構える大盾と突進してきたグレートヘッジホッグの頭部より打ち出される針が次々に激突して破壊音と共に光を巻き起こし散らしてゆく。
「はあっ!」
全身より淡い光を立ち昇らせる水無瀬はすかさず駆けて針鼠へと踏み込むと拳を針で覆われていない鼻面へと叩き込んだ。鼻骨を砕く鈍い手応えと共に魔獣が苦悶の咆吼をあげる。
西織もまた低く踏み込むと伸び上がりざまにナックルダスターを嵌めた右拳を地より天に向かって掬い上げるように振り上げた。銀のヘッドホン少年の拳が唸りをあげて針鼠の顎に炸裂し衝撃を炸裂させる。
「い、いきます!」
怪我がないよう、させないよう皆を守りたいレイ、足速の関係で少し出遅れてるが、光の翼で宙に跳躍して射線を通すと愛らしい装丁の魔法書を掲げ魔弾を放つ。
「動くなよ」
同じくダアトの崎宮、中華料理屋の店主は六花護符を構えるとエナジーアローを発動、紫光の矢を宙へと出現させるとロケット弾の如くに噴出させ戦列の隙間を縫うように通して飛ばす。
「上までは手が回らないみたいね」
他方、同様に宙、陰の翼で飛びまわっている黒い水兵服の少女、芥川は護符を翳して敵の射程ギリギリまで接近すると地上へと向かって風の刃を撃ち降ろした。
「頭から体腹部下までを的にすれば……あたるかな?」
芥川さらに上、最も高い位置、黄金白翼の天使が射程限界の空中で身を大地に水平に回転させ、魔獣真上の空より引き絞った弓矢を地上へと向けている。Charlotteは思う。弓道の的距離は28m、弓道の的よりは距離と大きさ的には狙いやすい。問題は相手は動く、という事だったが、地上と激突した瞬間を狙って天雷の如くに矢を撃ち降ろす。上からの射撃は強い。
撃退士達より矢や風刃、紫光矢や魔弾等飛び道具が次々に発射され魔獣達へと炸裂してゆく。
「こんにゃろ!」
戦場の喧騒と血肉舞う中、快晴は歯を喰いしばって2mの長柄に全長80cmの剛刃がついたブロードアックスを振り上げて踏み込む。次の瞬間、唸りをあげて振り下ろされた長柄戦斧は、魔獣の身を鎧う針を圧し折って肩口に叩き込まれた。刃が肉を裂いて骨に喰いこみ血飛沫舞い、魔獣は怒りと苦痛の咆吼をあげる。ちょっと心が痛む快晴であるが殺らなきゃ殺られるので戦場は非情だ。
足が止まって殴りあいになっている線へと、北周りに迂回してきたバイク隊が北東から南西に向かって弧を描くような機動で疾風の如くに突っ込んだ。京極は南に向かって砂塵を巻き上げ爆走するバイク上で右手に大太刀を振り上げ、北端の敵の背後側を通ってすれ違う瞬間に、その背へと横薙ぎに太刀を叩き込み霞め斬る。血飛沫が上がり魔獣が倒れるのを尻目、東側へとバイクを急角度で傾斜させてカーブして旋回し高速で離脱する。上杉も槍で薙ぎ斬り同様の動きだ。
「騎兵隊の登場ですね」
狐面の影法師は軽業師の如くバイクの上に両足を揃えて乗ると迅雷を発動、脚部にアウルを集中させて爆発させバイクを蹴って稲妻の如くに跳躍して宙に舞う。
漆黒の影は宙で身をくるくると回転させながら、ベアトリーチェを攻撃していた最北の魔獣へと向けて三節棍を鞭の如くに振るった。バイク加速にさらに迅雷の猛加速がつけられさらに威力が増した一撃が魔獣の背に炸裂し、壮絶に破壊力を増した一撃が針を圧し折り背骨を砕いて一撃で魔獣を絶命させる。
乗り手を失ったバイクが派手に荒野に転倒してミラーの破片を散らし地に降り立った影法師は迅雷で素早く機動して徒歩で離脱する。
続く文奈は黒いサイドテールを風に靡かせながら、バイク上で大鎌を振り上げるとアウルを燃焼させて石火を放ち、銀の刃を針鼠の背へと突き刺して疾走し引き裂きながら抜けてゆく。基礎威力が高い。加速を利用した凶悪な一撃に魔獣の背より血飛沫が勢い良く噴出しやはり一撃で裂き殺した。
ハイアンドシークで気配を殺している清親は紅蓮の炎の如き光を纏う大太刀を振り上げると、弧を描くように魔獣の背後へと迫りざま、不意を突くように一閃させて一撃で斬り倒すと東へ離脱せずにそのまま魔獣達の背後を爆音をあげながら走り抜けてゆく。撹乱する腹積もりのようだ。
「やるじゃない、清親くん♪」
一川七海、バイクで走行しながらサバイバルナイフで針鼠の背中を斬りつけるには敵の身体を覆っている針が邪魔か。バイクを急角度で傾斜させて戦列の端へと回り込むと針で覆われていない顔の部分を狙ってナイフを繰り出し切り裂きいて旋回すると清親と同じく離脱せずに針鼠達の後方を乱すように走行してゆく。
「……お返し」
苦悶の咆哮と共に血飛沫があがる中、生じた隙に合わせてベアトリーチェはすかさずヒリュウを突撃させた。反撃の追撃が炸裂し、魔獣はその赤瞳より光を消失させて地に横倒しにどぅと斃れる。
血塗れの童女の姿を見て取ったセイブレムはバイク上より片手を翳した。
「痛そうだからねぇ」
ブロンドの天使より無尽の光が放たれベアトリーチェの身を包みその傷を急速に癒し痛みを和らげてゆく。ライトヒールだ。
「行くよ灯ちゃん、サンドイッチ攻撃だー!」
バイク上、朱色にセミロングの髪に背に陽光の翼を広げるハーフエンジェルが白銀の槍を振り上げて相棒に呼びかける。
「解ったよグラちゃん、例の奴だねー!」
並走するハーフデビルは真紅の長髪を風に靡かせ鎖鎌を手に陰影の翼を広げている。
天と魔の血をそれぞれ顕現させている二人の少女は、旋回すると魔獣を左右から挟み込むように突撃を仕掛けた。大体北から南へ向かって一線の戦列になっているので、左右から挟むには端を狙う。
拳で背後を殴ると棘が刺さるので日野灯は針鼠の前方側にバイクを傾斜させて回り込み左拳で鼻面を狙ってフック気味に拳を繰り出し、逆サイド、背後側に回ったグラサージュはバイク上より横を向き槍の切っ先を背中へと突き刺した。深く突き刺さった刃がバイクの前進に合わせて魔獣の背中を斬り裂きながら抜けて血飛沫を噴出させ、同時、紅気を纏った日野の拳が魔獣鼻面を横から殴り飛ばした。同時攻撃を受けてヘッジホッグはたまらず絶命する。
「手応えありー! ――って!」
「うおっ?!」
「きゃっ?!」
敵戦列と激突し接近戦を繰り広げていた西織、快晴、水無瀬がその進路上に迫る。東は健在な針鼠やその骸達の壁で西は西織達の後方を西側の攻撃に備えている北條が名も無き撃退士達と共に戦列を作って固めている。進路が無い。
あわや味方同士で激突、といった所で間一髪で撃退士達は身をかわし、三人と針鼠達の間をバイクが矢の如き爆速で突き抜けてゆく。
他方、その北條達は猛然と撃退士達の後方を突くように突撃してきた西側の魔獣達を迎え撃つべく西へと向き直っていた。敵もやはりバイク程ではないが足が速い。一気に撃退士達の背後まで届く。
「足止めを!」
北條の号令の元、戦列を並べる十の名も無き撃退士達は一斉にアサルトライフルを構えてフルオートで射撃した。轟音と共に猛烈な弾幕が西方へと張られ血飛沫が壮絶な勢いで巻き起こってゆく。制服姿の少女自身も弓矢を引き絞って射撃した。
弾幕と矢を受ける十の魔獣達だったが、一体に集中するのではなく均等に足止めすべく放たれた為、絶命には至らなかった。基本的にタフで頑丈だ。バイクの加速と背後攻撃の併用で破壊力が激増した突撃攻撃を叩き込まれでもしない限り葬送には斃れない。
血飛沫を撒き散らしながらも弾幕を突き破って突進してきた魔獣達が一斉に剛針を打ち出し、北條達対西隊が構える透明大盾と激突して砕け光の嵐が巻き起こってゆく。
しかし、東側の魔獣は既に後三体。
「これは……もう西に向かった方が良いかな?」
麻倉は遁甲の術を発動して気配を薄めつつ踵を返す。
西織、快晴、水無瀬と格闘戦を繰り広げる三体だったが、射撃を受けた所に再度襲い来たバイク兵達の突撃が炸裂して殲滅される。
「くっ……」
突撃してきた西を抑える北條の身が剛針でぶち抜かれて大穴があき、激痛と共にその身から鮮血が噴出してゆく。他にも盾を失った名も無き撃退士達の身から血飛沫があがってゆく。
しかし、
「全く……隙だらけだよ?」
戦列の端から敵の北西側へと回り込んだ麻倉は五個一組の魔法の指輪を翳すと自身の周囲に水の球を五つ出現させ、次々に射出させた。水弾が魔獣の背中へと次々に直撃して潜行からのバックアタックにより破壊力が増された強烈な一撃がその威力を荒れ狂わせる。
東を殲滅した撃退士達も西へと移動し、前方が抑えている間に背後へと回り込んだバイク兵達が次々に突撃を炸裂させて沈めてゆく。
結局、一人も倒れる事はなく、瞬く間に西側の巨獣達も撃退士達の前に倒された。
「み、皆さん無事なのです……?」
レイがほっと胸を撫で下ろしながら述べ、
「やったよ、グラちゃん勝ったよー!」
「やったね、灯ちゃん私達大勝利!」
日野とグラサージュが抱き合って歓声をあげていた。
●
「シーラカンスども、やりたいようにやって来い」
崎宮が言った。
「ありがとよ。世話ンなったな、オッサン、皆」
「バシッとバリバリ決めて来るぜぇ!」
と答えて京極と上杉。
「んと、どっちもがんばれー……ケガしちゃダメよー……」
包帯が巻かれて応急処置を受けたベアトリーチェが言った。
礼を言って青年達はバイクのエンジンを吹かせてスタート位置へと走っていった。
観戦を希望したメンバー達は、見晴らしの良い地点へと登ると二人の勝負を見守る。
やがて、エンジンの駆動と風を裂いて疾走するバイクがあげる咆哮が、春の山間に響いていった。それは若者達の生き様を示すかのように、短くも激しく速く熱く嵐のように、響いたという。