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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/04/23


みんなの思い出



オープニング

 時は煮られてゆく。
 殻を剥いて食べようとしても、それは鉄だ。ゼンマイバネは金属板を巻いて作られる。食べられたものではない。
 ガブリエル・ヘルヴォルには黒衣の男の心が理解できなかった――否、理解はしていたのかもしれない――が、止めるつもりはなかった。イスカリオテは、馬鹿な男だ。合理性合理性と理屈ばかりを口にする癖に、結局それで結集した力を大いなる無駄へと注ぎ込む。

――総てを滅ぼし尽くして何になるのか。

 イスカリオテはザインエル等には告げていなかったし隠しているようなそぶりもあったが、傍らでその作戦に協力しているガブリエルには解った。殺意が溢れかえっている。
 あの男は、二度とは逆に回転しないゼンマイ時計を熱湯にぶちこんでいる。そのうち皮でも剥き始めるのだろう。血によってエリートコースから転落し、その際の周囲の天使達の様子から無気力と成り果てた男は、彼の前に現れた天使の様によって気力を取り戻し、そしてそれが失われてついに世界に対して破滅を撒き散らし始めた。
 ある意味ではらしい。必然といえば必然。埋められていた地雷だ。
 静岡山岳、その急な斜面に立つ巨木の枝の上に腰を降ろし、女は町を見下ろしていた。春の夜風に吹かれ、靡く黄金の髪を、月の光に煌かせながら。
 時刻は深夜、元々少なかった町の灯火は徐々に消えてゆき、すっかり数が少なくなってきている。
 女は待っていた。身動きせず彫像のように。
 やがて歌が聞こえた。
 滅びの歌声。
 あるいは、それは、情熱の歌。
 寂れた夜の町から、ガブリエルが腰をかけている山肌まで、高く澄んだソプラノの声が響いて登って来る。
「――ま、古い伝承歌じゃないけれど」
 彫像だった女が口を開いた。
 虚無へと向かう男に付き合う己が一番馬鹿かもしれぬ、という思いを抱きつつ、ほっそりとした白い指先を流麗に宙へと翳す。
「思うが侭に生きて死ぬのが華麗というものですわ。進むも退くもお好きなように」
 光の魔法陣が宙に浮かび上がり、空間を割って異形の目玉が現れた。


 十五日の満月、黄金の月。
 春夜の町を正気をなくして蠢く人々が列を成して進んでゆく。過疎化が進み、人口は百人程度しか残っておらず市に合併された地域だったが、その百人が根こそぎ動き出していた。
(今度は間に合ったぞ畜生め)
 住民の消失が相次ぐ静岡県、その守護を担うDOGの一員、インフィルトレイターの森崎国松は町の闇を縫うよう風の如くに駆けてゆく。
 本部が町に設置しておいた機器を通して歌声を感知し、近隣の町で夜警に出ていた森崎達に急行命令が出ていたのだ。森崎は後続が追いつくまで先行して偵察にあたっていた。
(居た)
 操られ、冬の日の虫の如くに人々が吸い寄せられる先は、人口減少から廃棄された中学校の校庭だった。
 潜入者の男は門の陰に身を隠し、暗視スコープで様子を窺う。
 校庭の中央に陣取っていたのは、陶然と歌声を響かせる一人の少女と、学者風の一人の老人、護衛らしき鋼の鉄兜に身を包んだ有翼人が三体と、そして骨で出来た巨大な鳥篭状の下半身を持つ二体の緑青の巨人だった。
(不味いな)
 巨人の籠の中には既に多数の住民が収容されていた。左右の二体で既に五十人にも達しようかという勢いだ。人々が詰め込まれてゆく。
 男は無線を取り出し声を潜め、囁くように報告を開始する。
「こちら森崎国松、サーバント達を町の廃校の校庭で確認した。既に多数の住民が捕獲されている――」


 一方、森崎と同様に近隣から先行して駆けつけた鬼道忍軍の御堂風香は町を流れる川の河川敷に人影が二つ立っているのを発見した。
(まさか――)
 学者風の一人の老人と、そして仄かな燐光を帯び、黄金の髪を波打たせ純白の翼を広げ偃月刀を手に佇む女。
(こいつ、ガブリエル・ヘルヴォル!)
 かつての東の大ゲートの主、ガブリエル軍団の軍団長、純白の大天使、敵の大将格の一人だ。
 木陰に身を潜めて様子を窺いつつ忍軍の女は無線を手にする。
「先行偵察中の御堂風香だ、ガブリエル・ヘルヴォルを町の河川敷で発見した。他にサーバントが一体見えるが、それだけだ。これは好機だぞ――」

●かくて
 町へと急行する為に路上を爆走しているボックスカー内。
「……こんなに声を荒げて敵に気付かれたりしないのかね」
 ハンドルを握るDOG撃退士、鳥居赤心がぼやきをもらした。
 車内の無線からは押し殺された、しかし激しい声が響いていた。
『聞いてるのか、ガブリエルだぞ……! 奴を討ち取れれば今後の戦局が大きく変わる!』
 というのは御堂風香で。
『離れた場所に二体だけ棒立ちしているなど明らかに誘いだろう……! そんな見え透いた罠にかかずらっていたら、住民の救出が間に合わなくなる!!』
 というのが森崎国松である。
 車内には運転している鳥居他、近隣の町へと臨時でヘルプに来ていた久遠ヶ原学園の学生達を含めて九名が搭乗していた。
 自分達が後続の第一波、あとおよそ四、五分程で現場に到着できる。さらに連絡によれば二十名程度が十分後に到着可能な見込みだった。
 しかし、
『このままゆけば五、六分程度で全住民の収容は完了してしまうだろう。そうしたら奴等は飛び去る。そうなったら、もう救出できない……! それは見殺しにするのと同義だぞ……ッ?!』
『罠が仕掛けられている形跡は見当たらない、あの強力な大天使は犠牲を出しても討ち果たすだけの価値がある……! 今後の被害が段違いで変わる。二度とないチャンスかもしれないんだぞ……?! トータルで考えるなら、全員でここでガブリエルを拘束し討つべきだ!』
『何を馬鹿な事を……ッ!』
 言い争う両者だったが、しかし戦力を分散させるべきではない、という一点においては両者ともに同意していた。
 が、
『俺はお前の意見には賛成できない』
『私もだ……っ。こうなったら他の連中の意見も聞いてみようじゃないか』
『良いだろう。多数が賛成する方に従おう。鳥居、話は聞こえていたよな?』
 先行偵察者達の声が車内無線を通して響き渡る。
「……だ、そうだが」
 ハンドルを握って夜道を爆走させながら鳥居は言った。
「どうする?」
 どうやら多数決での選択は、最多数である学園生達に委ねられる事になりそうだった。
 もっとも、多数決でゆく、と主張していてそれに同意しているのは先行偵察員達だけであったから、その決定に学園生達が必ずしも従う必要もまたなかったのだが。


リプレイ本文

 黄金の月が輝く夜。
 闇をライトが切り裂き、ボックスカーが県道を猛スピードで走っている。
(――ガブリエルが河川敷に!? ……今回に限って、何故?)
 ガタガタと弾む車内に身体を揺さぶられつつ巫 聖羅(ja3916)の脳裏に浮かんだのはそれだった。これまでの『狩』では上位指揮官まで同行していた記録は無い。
(軍団長クラスが動いたとなれば、何らかの謀が存在する筈)
 茶色の髪の少女は眉を顰め白い指を口元に、少しきつめの猫の様な大きな赤瞳に疑念の色を宿す。
「大天使、なんだかぁゃιぃ動きですよね……」
 レグルス・グラウシード(ja8064)もまた胡乱気に思う心情を口調の歪みに強く込めて呟きを洩らす。
「そう思う? やっぱり罠よね?」
「恐らくは……少なくとも何かを狙ってます。敢えて誘いに乗るより、目の前に救える100人がいるなら、僕はそちらを選びたいです!」
 真面目な緑髪の少年は熱意を燃やし力説する。真っ直ぐな反応だった。
 しかし、鳥居から問いかけられた時、鴉守 凛(ja5462)は即答した。
「カブリエル・ヘルヴォルを討つ」
 普段無口な彼女らしからぬ、強い声。
 闇色の黒瞳の奥に静かに強く燃える炎を宿して。
(……そうだな、出来れば討ちたい所だ)
 大炊御門 菫(ja0436)はそう思う。
 だが、戦力比を考えるに流石に二つ同時は辛い。
 一つ瞳を閉じた後、茶色の瞳を開いて言う。
「小を捨て大を取るのはありえない」
 それに久遠 仁刀(ja2464)もまた言う。
「俺は救出優先に一票だ」
 思う。
(こうも立て続けに……後手に回らされているか)
 後手故に、不利な状況下での選択を突きつけられている。迎撃さえ間に合わなかった以前よりは格段の進歩だが、しかし受身側という枠は未だ脱出しきれていない。攻め込まれ続けている。この戦略的不利をなんとかしたい。
 ガブリエルを討てば、それは変わるかもしれない。だが、だからこそかの女は餌として己の身を晒している気もする。
「将討つ重さ、分かりますけど……」
 陽波 透次(ja0280)は静かに言った。
「自ら戦場に立ち命を賭ける覚悟を持つ僕らなら、人類全体の為に切り捨てられてもまだ納得出来るかもしれない……でも一般の人は違うと思うんです……出来れば、僕は彼らの所に行きたい」
 意思を感じる言葉だった。
 過半数を上回った。それに対する反対意見もでない。
「…………決には従います」
 鴉守凛は唇を噛んだ。
 憧れ――に近いのかもしれなかった。
 知略でも策略でもない。
 天使たる故の。
 その身一つで戦場を塗り替える姿。
 ガブリエル・ヘルヴォルを知り、戦場を貫く姿を見たその時から、この日を待った。
(如何に焦がれようと私は人、彼女を感じられる場所は切先を交える距離でしかないのだから)
 もっと知れる様に、知って貰えるように。
――が。
 すぐそこにいても、そちらへは向かえそうになかった。
 納得はしていなかった。故にただ、唇を噛む。
(……自分の魅力を十分に分かっている女性らしい遣り方だわ)
 聖羅は悩ましげに嘆息すると今回のガブリエルのやりようを胸中でそう評価した。
 先の死天大戦時にも実行している、自らを餌に敵を釣り上げる戦法。
(例え罠だと解っていても、向かわずにはいられない魅力が彼女にはある……)
 聖羅はそう思う。
「校庭に向かう、で良いか?」
 鳥居が尋ね、少女は頷いた。
「ええ。私達が住民達の救出を優先せずに彼女の討伐を選択すれば、恐らくは何処かに設置されている『目』で録画された映像が公開される」
 イスカリオテが戦略を采配しているならそうする筈だ。
「そんな事にでもなれば、住民の撃退士への信頼は地に落ちて、静岡の分裂を狙っているイスカリオテの思惑に嵌ってしまうわ」
「『目』か。ありえん話ではないな。了解」
 かくて鳥居は無線へと校庭へ急行する旨を返し、県道を爆走する車両は夜の町へと突っ込んでゆくのだった。


 花は。
 花は。
 咲き誇り、散りゆくからこそ美しい。
 永遠に咲く花があるならば、それは記憶に刻まれた陽炎の、薄れ消え、時の風化に滅ぼされ、それでもそこに、その後に、一握残ったものだけだ。
「故に滅び逝くモノへは美麗が手向け。強者は常に美しく誇り高く――」
 脳内に受け取る映像、流れるそれに心を決めて。
「華麗にあらねばなりませんわ」
 金色の髪を夜風に流し、瑞々しい肢体を薄絹に包み月光を浴びる少女は、純白の大翼を広げ黄金月の夜空へと、地を砕き爆風を巻いて飛翔した。


 満月の月明かりに照らされた校門の前、猛進してきた車両が横回転しながら急停止し、ドアが勢いよく開け放たれ次々に撃退士達が飛び出してゆく。
 聖羅は真紅のオーラを纏い影の翼を広げて夜空へと飛翔。門の傍に身を低く待機していたDOGの撃退士達も学園生達に即座に続いて突入してゆく。
 作戦は既に道中までの無線で手早く打ち合わせていた。
 まばらに列を成し進んでゆく虚ろな人の群が続く先、校庭の中央、歌う少女に学者の老人、二体の籠の巨人と三体の有翼槍兵が佇んでいた。
 迫り来る撃退士達に対し学者老人風のサーバントは両手の指の間に十の卵型の魔弾を出現させた。狙いは飛行している聖羅。
(来た)
 地上より打ち上げられた十の魔弾が散弾の如くに散りながら飛行する少女目掛けて迫ってくる。魔弾が直撃して爆ぜ、四方より押し潰されるかの如くに全身が締め上げられ軋んでゆく。超重力の力場の嵐。さらに身が強力の縄で引かれ、上から抑えつけられでもするかの如き圧力と共に大地へと引き寄せられてゆく。
 それに対し聖羅は体内より爆発させるようにアウルを膨れ上がらせた。直後、重力の手が切れ、吹き飛ばされ掻き消える。身が再び軽くなった。巫聖羅、特殊抵抗力が非常に高い。負傷率は三割三分、ボイラーの一撃が軽めというのもあるが、流石にダアト、魔法には強い。
 他方、フサリアは一体が西、一体が東、一体が正面上空へと撃退士達を立体的に半包囲する機動で弧を描いて飛翔してゆく。
 これに対抗する飛び道具組、影野 恭弥(ja0018)、状況に応じて味方ディバインを盾にしたい。銃を手に土の校庭を駆けつつ、凛の斜め後ろについて前進。視線を向けてフサリアが何処を狙うのか観察し機を窺う。
 透次もまたグラウンドを駆けつつ、蛇の紋様の描かれた小銃を出現させて構える。弧を描いて南下する空の槍兵が引き連れる橙光球へと銃口を向け発砲。旋状回転がかかったライフル弾が空を裂いて飛び、光球を見事にぶち抜いて四散させた。
 レグルス、少年もまた駆けつつ全長140cmの魔弓を出現させる矢を番えフルドロー、弦を引き絞り足を止め、狙いを定める。鏃を向ける先、夜空を浮遊する光球が流れてゆく。軌道の先を予測し放つ。鋭い弓勢が音を鳴らし、射出された矢はその鏃を錐揉むように回転させながら真っ直ぐに飛び光球を射抜いた。橙色の光が闇に四散し掻き消える。
 獅童 絃也 (ja0694)は闘気を開放しながらウォッチボイラー目掛けて前進、菫もまたボイラー目掛けまばらな人の列を避けながら駆ける。
 ボイラーは再び聖羅目掛けて卵型の魔弾を投擲し命中させている。聖羅は敵達の後方まで上空を突き抜けて回り込みたいが、それをやるには機動力が少し厳しい、正面からでもフレイムシュートの射程にまだ届かない。全力移動すればいけそうだが、そこをフサリアに狙われたら洒落にならないので全力移動も難しい。
 仁刀は駆けつつ月白のオーラを鞘中の刃に集中させ、空飛ぶ巫聖羅目掛けて猛烈な速度で突撃してきている靄少女を見据える。
(下手に運ぶと逃げられそうだ)
 懸念の一つはそれだった。巨人達の内部には既に多数の住民が収容されていた。加えて住民を引き寄せる力を持っているのは少女だけだ。つまり、巨人を潰す前に少女を倒してしまうと、巨人達が全住民の収容を待たず、即座に逃走に移る恐れがあった。
 敵からすれば住民収容が不可になったら以降は留まる意味は薄い。まず巨人は逃げる。
 故に牽制に留め、国松の牽制射を回避した少女の顔面を掠める位置を狙って一閃。闇を切り裂いて爆発的に月白の光が噴出する。光の奔流を少女は突撃しながら横にスライドしてかわし、方向を微妙に転じて仁刀目掛けて突っ込んで来る。
「回り込んで来てます!」
 空を流れるフサリア達の動きを見上げてレグルス。フサリア達は三方に分かれて半包囲してゆく機動だった為、一度に全てを視界に入れられなくなっている。
 まず仕掛けてきたのは右手と左手側のフサリアだった。二体同時。翼より緑光を爆裂させ、全長五メートルのランスと盾を構え、稲妻の如くに加速する。
「レグルスさん!」
 前の二人へ仕掛けて来る、と判断した凛は、少し迷ったがレグルスへと己の側へと寄るように声をあげていた。透次は鬼回避な上に空蝉まであるので、独力で捌けるだろう。
 左手側より迫るフサリアとレグルスとの間に飛び込むと忍法「髪芝居」を発動、突撃してきていた槍兵が急減速して逸れ、バランスを崩してそのまま地面に激突する。よほど恐ろしい幻影が見えたのかもしれない。束縛。
(ここだ)
 透次はフサリアの緑光を視界の端に確認した瞬間にその場から飛び退いていた。次の刹那、ランスと鋼の塊が爆風を巻いて先程まで透次が立っていた空間を貫いて抜けてゆく。鮮やかにかわした。
 他方。無表情で淡々と、髪、魔具、魔装を漆黒に染め上げて大口径の対戦ライフルを構える影野恭弥、フサリアが透次へと矢の如くに突撃しその意識が逸れた瞬間、銃口を向けていた。
 高速飛行で突き抜けてゆくチャージは刀剣では追いすがって一撃を入れるのは不可能と言って良かったが、流石にライフル弾より速くは飛べない。自然、外の射手に対して無防備な背中を晒す事となる。本来ならば、橙色の光球が本体を狙った遠距離攻撃に対し斥力壁を発生させ吹き散らしカバーするのだが、その光球は既に透次の手によって破壊されている。
 ライフルの引き金を滑らかに絞る。刹那、放たれた黒炎の弾丸は音速を超えて一瞬で距離を制圧し、槍騎兵の背へと直撃した。バックアタック。135mmの巨大な弾丸は、その化け物じみた衝撃力をレート差を乗せて爆裂させ、鋼の鎧を一撃で粉砕し中身までも紙切れのようにぶち抜いて、その向こう側の装甲に突き当たって止まった。
 高速飛行していた壮年の男の口から鮮血が吐き出され、宙で態勢を崩し勢い良くグラウンドに激突し、住民達の間を奇跡的にすり抜けながら転がりやがて止まる。動かない。撃破。
 その破壊力を目の当たりにしたせいか、即座に中央のフサリアが緑光を白翼より爆裂させた。残像すら発生させる雷光の如き速度で影野へと襲い掛かる。
 そのランスの切っ先が影野を貫く前に、鴉守凛が盾を構えて間に飛び込んだ。庇護の翼。
 真っ向から突っ込んで来る鋼の塊、重装翼槍兵の迫力は凄まじいものがあった。騎兵槍の突撃は様々なデメリットと引き換えに一撃に賭けられている。その破壊力と圧力の凄まじさ。凛は吹き付ける殺意に笑みを浮かべながら猛然と盾を翳す。爆風を巻いて長大なランスが、重力と速力と膂力の全てをその切っ先一点に乗せて繰り出され、女が構える針盾に激突した。
 轟音と共に巻き起こった壮絶な衝撃が全身を貫き、視界が激しく揺れた。吹き飛ばされそうになる身を前傾に、両足を踏ん張らせ衝撃に抗う。圧倒的な破壊力だったが、負傷率七割、倒れない。鴉守凛、フサリアのランスチャージを正面から受け止めて倒れない。なお影野が喰らっていた場合、負傷率は七十二割三分まで達する程度の破壊力。
 一撃に賭けられた壮絶な破壊の反動でランスは破砕音をあげながら圧し折れ砕け散る。フサリア自身も突進が止まって大地に着地した。
 他方。中央では瞬く間に間合いを詰めた緑肌の少女が踊るように双剣を振るって仁刀へと連撃を叩き込んでいる。負傷率一割八分、こちらも硬い。
 DOG忍軍の御堂風香はボイラーに向かって間合いを詰めている最中で、ルインズの鳥居赤心もまた同じく前進中だがこちらは飛び道具故届く。突撃銃で射撃。しかしボイラーは香港映画のヒーローさながらに軽やかに上体を捌きステップして回避。 
 巨人二体は住民を収容中で、下手に動けないか待機中の様子。
 開幕より五秒経過。
 ボイラーは射撃で削りきる腹か、空の聖羅を狙って再び両手に魔弾を出現させる。
「迂闊な!」
 瞬間、菫はアウルを全開に解き放った。十メートルもの距離が空いているがそこは既に菫の間合いだった。態勢低く、アウルを足に収縮させると大地を砕くかの如き爆砕音を立てながら地を蹴って猛加速し、長大な距離を一瞬で詰める。
 ボイラーは咄嗟にかわさんと反応したが、その時は既に再び出現した炎槍が太腿に突き立っていた。上を睨んでいた為、反応が一拍遅れた。一撃の衝撃に態勢が崩れ、それでもボイラーは魔弾を投擲、聖羅は狙いの甘くなった魔弾を旋回しながら次々に回避してゆく。
 刺突を受けたボイラーは後退しつつ螺旋を描くように霊光輝く両手を回して構え、その側面より獅童絃也が回り込み迫る。こちらは素で足が速い。
 獅童は疾風の如くに間合いを詰め、獅童の視界より老人が掻き消えた。
 ボイラーは地に倒れこむ程に低く、足を大きく開いて一瞬で滑り込むように踏み込んでいた。アウルによる加速ではなく重力と膝の脱力を利用している、と獅童は気付いた。単純に技術。
 普通、動き出しには溜めが必要だが、歩法によって動作の起こりが極端に小さい。だから不意を突かれる、だから速い、だから視界から消える。
 だが獅童は武術家だった。小さいといってもボイラーのそれは零ではない。起こりを見逃さず、消えた瞬間に獅童は即座に体を横に捌いて軸を外している。
 光を纏い伸び上がるように放たれた拳が空を貫き、サイドに回った獅童は、勢いのまま半回転し震脚を用いて踏み込みアウルを開放した。肩口からぶつかるように繰り出された背が炸裂し、ボイラーはダンプカーにでも跳ね飛ばされたが如き勢いで吹き飛んで大地に転がる。鉄山靠。
 しかしボイラーも精鋭、咄嗟にニュートラライズを発動してレート差は防御し致命傷を避けていた。突進する赤心から弾幕が放たれ、風香が飯綱落としを仕掛けん飛びかかる。巨人達の身が連続して眩く輝き、光をその身に浴びて回復したボイラーは勢いのままに横転し身軽に跳ね飛んで、両者からの追撃を回避しつつ起き上がる。
 他方。光が乱反射し視界が著しく遮られる靄中の仁刀。靄の範囲内から逃れようと後退するが、双剣の少女は疾風の如き速度でぴったり張り付いて来る。あちらの方が速い。ふりきれない。
 光の靄の彼方より豊満な肢体は舞うように軽やかに、左の剣が弧を描き唸りをあげて旋回し、右の剣は稲妻のように降り、一転、地を破砕するかの如き踏み込みと共に、足元から巨大な風刃の竜巻が巻き起こる。
 避けられない。直撃、直撃、直撃、乱打に削られて負傷率五割。少女は速い上に乱反射する光の靄によって仁刀の視界は著しく阻害されている。まるで見切れなかった。反撃に抜刀ざま曲刀を一閃させてアウルの刃を飛ばすが、少女は舞うようにステップして鮮やかにかわす。
(ガブリエルがいつ介入してくるかもわからない。仕留める時は手早くいきたいが……)
 引き続き牽制の一撃だったが、これは普通にやっては中てにいっても靄中からはまるで中りそうに無い。自身の消耗もなかなか馬鹿にできなかった。一撃自体は軽くほとんど装甲で弾いているが、手数が多く突き抜けてくる衝撃に急速に削られている。
 国松は住民の避難を開始している。手近な住民を一人担ぎ上げると校門の方へと駆けた。
「この間逢ったばかりだけれど、私達って縁があるのかしら……!」
 宙に飛翔する聖羅、ニカッとした良い笑顔を浮かべて輝いている巨人へと魔法書を掲げ炎塊を撃ち放つ。夜空の闇を切り裂いて撃ち降ろされた紅蓮の火炎は巨人の純白の翼に炸裂すると、爆裂と共にその片翼を吹っ飛ばした。レート差と高低差が乗って強烈な破壊力。
 他方。束縛により墜落したものの未だランスを保持しているフサリアは、立ち上がって槍を振り回しているが足が凍りついたように動かず、移動出来ないので誰にも届かない。
 もう一体のフサリア、折れたランスを手放し捨てると腰からサーベルを抜刀ざま凛へと稲妻の如くに斬りかかった。対する凛はその刃が届く前に再び忍法「髪芝居」を発動。フサリアの足が急停止し、サーベルが空を斬る。届かない。攻撃を潰した。
 重装翼兵を止めつつ凛は河川敷の方角へと首を回す。情報通りなら校庭と河川敷間は車なら十秒あれば着く距離、『彼女』にも一瞬の距離だろう。可能性に備えて攻防の合い間を見て警戒に務める。なかなか危険な行動だが、ハイリスクを潰す為のリスク。
「僕の力よ! 仲間の痛みを癒す、光になれッ!」
 レグルスは腕を翳して凛へと向け、掌から光を飛ばした。癒しのアウルが凛を包み、傷ついた細胞を癒し、痛みを急速に取り除いてゆく。負傷率四割二分まで回復。
 透次は狙撃銃を消してルキフグラスの書を出現させると、漆黒の札刃を操って飛ばし光球を撃ち抜いた。光球は淡く橙光を放ちながら霧散する。
 対戦ライフルを構える影野、槍か剣か、いずれを狙うか。二体ともに注意は影野の方へは向いていない。より脅威度が高そうなランス持ちへと狙いを定めて漆黒を纏い、黒炎の弾丸を撃ち放つ。
 フサリアは素早く反応した。振り向き様に凧状盾を翳し、しかし黒い閃光と化して飛んだ弾丸は盾をかわしてその胴体へと突き刺さった。常なら弾いただろうが束縛によって常より精度が無残なまでに落ちている。一方、レート差によって研ぎ澄まされた一撃は頑強無比な筈の鎧を正面からでも爆砕した。弾丸がフサリアの身を貫いて鮮血が迸る。だがしかし頑強な槍兵はまだ倒れない。
 開幕より十秒経過。
 槍持ちのフサリアの足が再び動き始める。束縛から回復された。
 凛は自身も攻勢に参加すべく書を消して盾を出現させつつ空へと視線を走らせ――ふと、今まさに満月を背負って大刀を構えている少女の姿を目撃した。突撃態勢。
「ガ――」
 叫ぶ間もあればこそ、天空からの突撃に対し、咄嗟に影野の頭上へと楕円の盾を翳し割って入る。直後、交差ざまに振るわれた偃月刀が盾を強打して猛烈な破壊力を巻き起こした。負傷率六割六分、やはり硬い。一閃を放ったガブリエルはそのまま稲妻のように抜けてゆき、再び夜空に上昇してから振り返り、見下ろした。
「あら、良い反応ですわね」
 光輝を纏い純白の翼を広げる黄金のアークエンジェルは艶然と微笑み青龍偃月刀を構え直す。
「人が割ける意識の量には限りがある、でしたかしら? けれども用心深い人はいるものね」
 確実にそこに在る者への備えは強固になるが『来るかもしれない』では、その備えは目の前に確実にあるものへと優先されがちだ。正面からぶつかるなら強敵でも、意識の外から刺すなら倒すのは容易い。
 ガブリエル側は【目】によって撃退士達の動きは把握していた。故に分散したなら河川敷に迫るものを引きつけた後に頭上を飛び越え置き去りに校庭へと向かい各個撃破、巨人達を放って河川敷に集中するなら狩が完了するまで適当に引きつけつつ時間稼ぎ、校庭に向かったなら背後から後衛を奇襲する。
 見捨てたならその様を放映し、見捨てないならボロボロに叩き潰して全滅させ『DOGは駄目でも学園の撃退士なら』という市民達の希望を圧し折る。そんな構えだ。
 なので、要は撃退士達をここで殲滅するつもりである。
 卵型の魔弾が散弾の如くに雨あられと影野の元へと降り注いだ。バックアタック。凛は本日三度目の庇護の翼を発動、盾を翳して引き続き影野を防御する。凛、負傷率八割六分。
「皆さん! 僕がいる限り傷は癒せます、心置きなく闘いましょう!」
 レグルスはガブリエルの注意を引くべく声を張り上げつつ再度凛へとライトヒールを飛ばし、河川敷からのボイラーはさらに突撃しながら魔弾を降り注がせる。凛は影野を守護せんとするが、庇護の翼がついに尽きた。重力嵐が女もろとも影野を飲み込んで圧壊の腕を伸ばす。
 凛、負傷率六割二分、影野、負傷率十四割一分、身体を走り抜ける激痛に意識が一瞬で千切れ、消し飛んでゆきそうになる。
(不味い)
 影野は抗いつつ冷静に計算を走らせる。ここで自分が倒れると不味い。フサリアを砕く火力が足りなくなる。殲滅速度が遅くなるという事は、それだけ敵の攻撃力が維持されるという事だ。撃ち損じた敵が味方を倒せばさらに加速度的に不利になる。だから戦力比は足し引きではなく二乗なのだ。
 その時、意識を繋ぎとめんとする影野の身に外部より力が流れ込んだ。レグルスの神兵だ。急速に視界がクリアになり、痛みが和らぎ、傷が癒えてゆく。影野負傷率七割六分まで急速に回復。
 透次は絶大の威力を誇るランスを手に今まさに飛翔せんとしているフサリアの翼を狙ってPDWで猛射し、フサリアは振り向きざまにシールドをかざして銃弾を受け止め、影野は注意が逸れた所へその背後へと素早く銃口を合わせ撃ち抜いた。クロスファイアに防御を打ち破られたフサリアは緑光を霧散させ鮮血を撒き散らしながら再び大地に激突する。撃破。
 もう一体のフサリアは移動できず防御を固めている。
 他方、緑青色の二体の巨人は連続して輝いてボイラーと己を全快復させ、ボイラーは迫り来る菫へと踏み込みプロフェッサーバンカーを繰り出す。
「甘い!」
 そこに来ると解っているなら、どれだけ鋭かろうとやりようは幾らでもある。半身に身を捌きつつ黒髪の女は裂帛の気合と共に炎の槍を風車の如くに回転させた。直線の突きが、螺旋の回転に巻き込まれて外側へと流されて虚空を貫き、ベクトルをずらされた学者風サーバントの身がそちらへと流されてゆく。
 態勢が崩れた所へ菫は回転させた槍をその勢いのまま加速をつけて切っ先を繰り出した。ボイラーの腹へと紅蓮の穂先がカウンターに突き刺さり痛烈な一撃を加える。
 その攻防の間、獅童は素早くボイラーの背後へと回りこんでいた。アウルを練り上げて徹しを発動、震脚によって慣性の法則に基づいて重さを増し、その重さを腕全体と掌に乗せてハンマーの如くに振り下ろす。伏虎。バックアタック。
 レート差が爆裂した一撃がボイラーの背へと炸裂し、まさに超重力の力場に叩き潰されたかの如くにサーバントが勢い良く大地に叩き伏せられる。動かない。撃破。一気に削りきった。
 忍軍の風香が短刀で巨人の胴へと短刀を突き刺しアウル開放と共に衝撃を爆裂させ、鳥居は至近距離まで接近するとソウルイーターを叩き込んだ。
「出たわねガブリエル」
 飛行し巨人達の後背上空までつき抜けた聖羅、一刻も早く巨人達を片付けねばと向き直りつつ魔法書を掲げる。
「炎よ!」
 ダアトの裂帛の気合と共に火炎は赤雷の如くに打ち下ろされ、巨人の背中に炸裂してその破壊力を解き放った。巨人の上半身が砕かれその手から鉄鎖が零れ落ち、動かなくなる。撃破。
(敵も行動が早い……!)
 ガブリエルの到着に舌打ちしつつ、少女と格闘中の仁刀、普通にやっては中てられる気のしない相手だ。勝負に出る。曲刀を消し長大な斬馬刀を出現させると黒いオーラを噴出させて得物を包み込み、闇色の靄を纏わせ猛然と斬りかかった。極限のレート−5。蝕だ。
 光の靄中に出現した漆黒の闇のオーラは、黒雷の如くに空間を断裂し、その通り道にあった少女の身を一撃で真っ二つに両断して抜けた。赤色が鮮やかに噴きあがった。一撃必殺。
(守りきらねば)
 凛は影野へと突撃してきているボイラーの進路を遮るように駆けて針盾を繰り出し、ボイラーはひらりと横に軸を外して回避。
 十五秒経過。
 最後のフサリアが動き出す。
 少女が一撃で倒されたのを見たガブリエルはレグルスと迷ったが仁刀へと向かって旋回し、赤髪の男は大太刀を手に空を仰ぎ見る。
 星風使用からの白虹で巨人達を薙ぎ払いたいが、どうもその前にガブリエルの方が仁刀へ突っ込んできそうだ。あちらの方が速い。
(敵大将格に手も足も出せなかった、そんな風聞を撒かれる事は避けるべきだ)
 現状、学園撃退士は富士市市民達の希望である。故に覚悟を決めてアウルを集中させてゆく。
 他方、ガブリエルは艶やかに微笑した。
「――花と散りなさい。貴方が美しく咲き誇るように!」
 黄金白翼の大天使の姿がぶれ、光の如くに加速し、男は再度闇を噴出させながら斬馬刀を振り上げた。
 光が走り、闇が突き抜け交差する。
 次の刹那、ガブリエルの脇腹に喰らいついた闇がその白布を裂いて血飛沫を噴出させ、剣を振りぬいた仁刀の肩を偃月刀がバターのように裂いて抜けた。鮮やかな断面。
 久遠仁刀、負傷率二十二割八分。噴水の如くに勢い良く鮮血を撒き散らし、血華を咲かせながら沈んでゆく。斃れた。
 凛は踏み込んで盾撃を繰り出し、ボイラーは光り輝く腕で払って流すと横に回り込みながら踏み込みざま、その水月目掛けて拳を叩き込んだ。瞬間、不可視の重力波が噴出し、猛烈な衝撃力を炸裂させて騎士を十m近く吹き飛ばした。凛、受身を取りつつ起き上がるも、その間にボイラーは影野目掛けて駆ける。負傷率八割。
 レグルス、状況を見渡しつつライトヒールを仁刀へと飛ばすか影野にかけるべきか迷う。ヒーラーの立ち回りが勝敗を決するのは接戦では良くある事。一瞬の逡巡の末、影野へと光を飛ばした。対戦ライフルを構える男の負傷が全快する。
(時間が無い)
 透次、焦りを抑えつつ古刀を抜き放ち黒雷の如くに最後のフサリアへと突撃する。重装兵はサーベルを地に水平に担ぐような八双に構えると踏み込みざま、薙ぎ払うように巻き打ちで一閃させ、黒服の青年はアウルを集中させて爆発的に跳躍した。
 銀の剣閃が青年の足先を掠めて空間を断ち、透次は空中で身を捻りざま膨大なアウルを収束した太刀を振り下ろす。フサリアは素早く凧状盾を掲げて受け止め、鈍い音と共に火花が散り、収束されていたアウルが爆発する。猛烈な衝撃波が巻き起こって盾越しに貫通してフサリアを揺さぶり、サーバントは一歩よろけるように後退して膝をつく。朦朧だ。
 覚醒三度目、影野は再び髪、魔具、魔装を漆黒と化すと黒炎の弾丸を撃ち放った。大口径のライフル弾が、背後からフサリアの鎧を砕きその身をぶち抜き壮絶な破壊力を炸裂させる。フサリアは吹き飛び鮮血を吐き出して倒れた。撃破。
 直後、風の如くに駆け込んできた学者風の老人が低い態勢から高速で踏み込みその脇腹へと拳を突き刺した。重く鈍い爆音をあげながら影野の身が宙へと盛大に吹き飛ぶ。吹き飛ばされた為、レグルスの神兵は範囲外。耐えられるか否か。
 沈んだ。
 意識が消し飛び、力を失った身が大地に叩き付けられて転がる。負傷率二十割五分。
 緑青の巨人はその下半身の籠を閉めると、大翼をはためかせて浮き上がった。逃げる気だ。少女の歌が途切れパニックを起こし始めた数十人の住民を収容して天へと登ってゆく。鳥居がソウルイーターを叩き込み、風香が短刀で切り裂くが上昇は止まらない。
「行かせはしないわよ」
 上空、聖羅は魔法書を翳すと、本日三度目、火炎を現出させ巨人の後背目掛けて発射した。爆裂する紅蓮が巨人の背を粉砕し血飛沫を撒き散らしながら大地へと落下し激突する。住民達から苦悶の声と悲鳴が巻き起こっている。多分、命に別状はないと思いたい。
 菫と獅童は踵を返し南下を開始している。
 二十秒経過。
「これ以上は暴れさせない」
 透次、疾風の如くにボイラーへと踏み込むと紅爪を発動、空間を割って無数の鉤爪を現出させ、ボイラーは光輝く両腕を風車の如くに振るって鉤爪を次々に叩き落す。が、爪から伸びる鎖は腕に絡みつき、その身に絡みつき、逃さずに拘束してゆく。束縛。
 北より駆けて来た獅童が弧を描くようにサイドから迫り、下段を払うと見せながら横にスライド、フェイントに釣られたボイラーが放ったバンカーをかわしつつ、震脚と共に縦拳を叩き込んだ。
 強烈な衝撃にボイラーがよろめき、直後、菫が爆発的に加速して突っ込んだ。炎槍が出現と共に一閃され、突撃の勢いを乗せて学者を背中から貫通する。白目を剥いてボイラーが血反吐を吐き出し動かなくなる。撃破。
 空を旋回していたガブリエルは、敵の位置関係等を把握すると、レグルスへと向かって閃光の如くに突撃した。少年の身が靄に包まれ、唸りをあげて振るわれた大刀が靄の中身を斬り裂き血飛沫が吹き上がる。
 ガブリエルが再び上空へとあがり見下ろすと、靄が晴れ、そこには菫が立っていた。入れ替わっている。朧月霞桜は射程が長い。炎槍で受けるのには失敗していたが、負傷率五割八分、まだ倒れない。今回のパーティ、ディバイン娘達が頑丈過ぎる。
「先の大戦振りか? ガブリエル」
 夜空を睨み炎槍の切っ先を向けて菫が声を投げた。
「先日もお会いしましたわよ」
 少女はくすくすと微笑し、次いで、
「相変わらず頑丈ですわねぇ。アテが外れてしまったかしら」
 ふぅとガブリエルは嘆息した。
「長期戦をすれば、貴方達だけなら殲滅出来るでしょうけど、泥試合は華麗ではありませんわね」
 圧勝でなければ映像を流しても意味は無い。むしろ逆効果にもなりかねない。茹でた時計、徒労だ。
 故に、大天使は微笑と共に傲然と言った。
「今日の所は、そちらの健闘を讃えて潔く退くといたしましょう」
「……逃げるんですか」
 じっと空を見上げて凛は言った。焦がれた存在が空にいる。
「ふふ、貴方が見つめているのは何処なのかしら」
 見据え返してガブリエルは答えた。
「思う通りには行かないのが現世ですけども、風が吹くなら、また何処かでお会いするかもしれませんわね。御機嫌よう」
 言い残して、大天使は満月の夜空の彼方へと飛び去っていったのだった。



 了


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 新たなる平和な世界で・巫 聖羅(ja3916)
 ベルセルク・鴉守 凛(ja5462)
 『山』守りに徹せし・レグルス・グラウシード(ja8064)
重体: 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
   <ガブリエルと交差ざまに斬撃を交換し合った>という理由により『重体』となる
面白かった!:11人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
厳山のごとく・
獅童 絃也 (ja0694)

大学部9年152組 男 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
新たなる平和な世界で・
巫 聖羅(ja3916)

大学部4年6組 女 ダアト
ベルセルク・
鴉守 凛(ja5462)

大学部7年181組 女 ディバインナイト
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード