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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/24


みんなの思い出



オープニング

 街を歩く。
 街を歩く。
 帽子をかぶり、眼鏡をかけ、翼を消した美しい女が騒がしき街を歩く。
 襲撃だ、嘘、DOGが、などと不安そうな声が口々に聞こえた。人間達が駆けて行く。
 女は人混みからそれとなく外れ、人気の無い廃ビルへと入った。街が見渡せる屋上へと出ると、軽く、されど人外の跳躍力で塔屋の上へと登る。
 そのビルの最も高い場所へ出た女は、ほっそりと白い指先を宙へと伸ばした。
 光の線が陣を描き、空間を割って小さな異形が現れる。
 それは文字通り『目』だった。サーバント。
「あちらは、上手くやってますかしら……」
 ガブリエル・ヘルヴォルはかけ慣れない眼鏡を一度外して一息つくと、再びそれをかけ、街へと向かった。
 二重の陽動、同時の発動、無論、それぞれにもそれ単体で意味や効果はあったが、彼女が本命である、気取られる訳にはいかない。
 設置ノルマはまだまだ山のようにあった。


 先の大動員令の際、戦闘に赴いたDOGの撃退士はおよそ五百人だった。
 だが、地元での戦とはいえ、これがDOGの総数という訳ではない。県内の重要施設や人物の守りなども担当していたから、そこを守らなければならない者達もいたし、連戦で負傷して動けなかったりした者もいて、出陣したのはおよそ半数、といった所であった。
 静岡県の人口はおよそ300万(天魔が出現しなければ374万はいった筈だと専門家は予想しているが)面積はおよそ77万8千ヘクタールであり、23市5群12町がある。富士宮市や、伊豆の国市など実質、壊滅している場所も多かったが。
 富士川と大井川を境として西部、中部、東部に分けられるが特に東部の被害が酷かった。サリエルゲートがあったのは東部であり、ガブリエルゲートがあったのも東部だ。
 DOGの本部(現在ではエアリア派の本拠地と化している)が置かれているのも東部の富士市である。これは撃退長が最前線で指揮を採り続けていたからであり、自然とそうなっていった。
 しかし前述の通り、何割かは廃墟と化しているとはいえ23市5群12町があり、DOGの支部はその各地に配置されている。
 偏りというのは当然あるが、各地の支部に平均20人程度を配置したとしても800人近くとなる。総勢およそ1000の撃退士を抱えるDOGではあったが、その全てがいつもいつも本部に詰めている訳ではない。(大きな動きが起った際には最前線=本部であったから、各支部の半数は地元の守りに残り、半数が本部に集結する、などという形だった。封建国家が戦の際に各領主の軍勢を集めるのに似ている)
 山県明彦が暗殺された後DOGは派閥争いで割れていたし、その争いを正式に終結させる為の会合の護衛に本部詰めの腕利き達は出ていたし、そして腕利きの大半はそもそも未だゲリラ戦の続く伊豆半島へと出撃している。
 なので、その日、本部に詰める数は激減していた。五十名たらずである。
「ふわぁ……なんか随分がらんとしちゃいましたねぇ」
 ガブリエル・ヘルヴォルが動き出す少し前、DOGの本部一階入り口の磨かれたホールで、その日の受付担当として座っていた若い娘が言った。まだ社会人になったばかりの黒髪ショートの可愛らしい娘である。
「そーね、今頃、副長達はパーティで美味しい物食べてるのかなぁ」
 答えたのはその隣に座っている長い黒髪の入社三年目です、といった感じの若い娘だった。
「きっとエアリア副長のことです一生懸命、お仕事なされてる筈です。いけませんね、私もしっかりしないと」
 ぱんぱんと頬を叩いてショート娘が言う。まだまだやる気は十分だ。
「とは言っても、今本部に残ってるのなんて、ぶっちゃけ『居残り組み』でしょ」
 ロングの娘が背を後ろに逸らしつつ疲れたOLの目で言う。仕事に慣れてきた頃に弛みというのも出るものである。
「全国グローバルな久遠ヶ原学園ならともかく、地方ローカルなDOGの顧客なんて大体馴染みで、その辺り解ってるんだから、今日に依頼入れてきたりなんてしないわよ。実際予約とかも無かったし」
「うっ、でも飛び込みの緊急依頼とか入るかもしれないじゃあないですか」
「そーよね、それが問題よね、残ってるメンバーじゃ荷が重そうな依頼がきたらどうしようかしら……」
 うーんと眉を顰めて黒髪ロング。
「あ、街の見回りメンバーが足りなくて、久遠ヶ原の人達にヘルプ来て貰ってますから、そっちもあの人達にお願いするのはどうでしょう?」
 名案だとばかりにショート娘が言う。
「おバカっ」
 反射的にロング娘が叫ぶ。
「な、なんでですかっ」
「あーもー、説明するのも面倒くさい、うちに来た依頼を学園に頼むって、普通の会社で考えなさいよそれ」
「で、でも、依頼人にとっては誰がやろうが関係なくて、それよりも重要なのは問題を解決できるかどうかですよね。だったら、優秀な人達にやってもらった方がお客さん達にとっては良いじゃないですか」
「それは、まぁ、うぅん、でも、あのねぇ、契約というのは信頼と信用と責任ってものが――」
 そんな最中である、ホール入り口の自動ドアが静かに音をたてて開いた。
 気付いた二人は咄嗟に我に返ると向き直り笑顔を作る。
 入り口から入ってきた男は、スーツに身を包んだ品の良さそうな中年の男だった。にこにこと柔和な笑みを浮かべて受付に近寄ってくる。
 聞かれてたのかしら、とロング娘が赤面していると、男は自らの顔に指をかけた。そして、そのまま引きちぎる。
『え』
 異口同音に声が洩れ、男は千切った皮を床に捨てた。手に光を集めて無造作に二本の十字ヒルトの直刀を出現させる。
 見覚えがあった。この顔、知っている、なんで、この男が、なんで今こんな場所に――
 目まぐるしい思考と共に娘が硬直していたのは一秒たらず、黒と白が混じった閃光が空間を貫き、隣に座っていたショートの娘を爆砕した。
 肉片と血飛沫が撒き散らされ、ロング娘の頬に赤い液体がかかる。
「いっ――いやぁあああああああああああ!!」
 娘は叫び、椅子から落ちて身を打った。這うようにして逃れんと階段の方へと向かい、その背へと向かって紫焔の翼を広げた男は剣を猛然と振り上げ矢の如くに飛んだ。


 苦痛と恐怖の絶叫が満ち溢れている。それは狩られ死にゆく者達の叫びだった。
「出て、出てよ副長……!!」
 本部の留守を預かっていたDOGの中堅撃退士はガチガチと歯を鳴らしながら携帯を必死に握り締め祈っていた。だが、何度コールしても頼みの副長エアリアに繋がらない。
(私が守るって言ってたじゃないですかぁ!)
 女は泣きそうだった。パーティの最中なのかもしれない、だけど、緊急の連絡は受け取ってくれる筈で、なんで、答えてくれないのだ。この事態、どうすれば良いのか。撃退士が街中に逃げて一般市民に被害を出させるわけにもいかない。副長とその側近の精鋭達が一斉にかかるくらいしないとあの男とは渡り合えない。なのに、一体どうしたら。
 悲鳴と破壊の爆音が近くなってくる。階下から、足元から、徐々に徐々に登ってくる。
「――ッ!」
 女は声にならない叫びをあげてコールを打ち切ると踵を返して廊下を出た。上階へと続く階段へと向かって駆ける。少しでも遠ざかる為に。そしてコールした。久遠ヶ原学園へと――


リプレイ本文

 初春の風が頬を撫で、女の黒髪を見えない櫛で梳くように宙へと流してゆく。
「ここから、一度きちんと見ておきたかったからな」
 大炊御門 菫(ja0436)は富士市にある市街全体を見晴らせそうなビルの屋上から周囲を見渡していた。
 エルム(ja6475)が見詰める菫の横顔は何処か満足そうだった。
 少女はショートより少し長めの銀髪を風に流しつつ、緑瞳を一つ柔らかく細めると、双眼鏡を手に街を見渡した。
 市内の見回り組へと配属された二人だったが、その際にエルムは、
「私達は適当なビルの屋上から双眼鏡で市内をチェックするというのはどうでしょう」
 と提案していた。二手に分かれたぐらいでは担当部分をカバー仕切れない、と判断していた為だ。他メンバーはその意見に賛同し、それを受けて菫とエルムは、担当区画の中心付近で最も背の高いビルの屋上へとやってきていたのだった。
「うーん、死角は出来てしまいますね。地上班と連携しても市街の中心部分がなんとかといった形でしょうか」
「それは仕方ない。広いからな。常時全体を監視するのは、無理だろう」
「そうですねぇ……」
 富士市は広い。街の部分だけでも結構なものがある。
「しかし普通に見回るだけよりは大分良い筈だ。出来る限りはやっておこう」
「はい」
 二人は高所より市内を見渡しつつそんな言葉を交わしあうのだった。
 監視を続ける事しばし、やがて大塔寺源九郎からの緊急連絡が入った。菫は狙撃屋が来ていないか周辺のビルの屋上へと目を凝らし、他場所見回り組に何か仕掛けている動きが無いか警戒を要請した。エルムは本部へ急行すべく階段を駆け下りてゆく。
「イスカリオテか」
 他方、地上班の小田切ルビィ(ja0841)は即座に光纏、弾かれたようにDOG本部へと向かって駆け出していた。
「支部の状況は?」
 同じく地上班の久遠 仁刀(ja2464)もまたそれに続いて駆けつつ源九郎に無線で問いかける。
『今の所、異常報告は無いね』
「そうか」
 赤髪の青年は考える。
(本当に支部に異常は無い、のか……? 主力は会合中だ。この急襲、もし支部も纏めて襲う訳でも、戦力を集めて主力を叩く訳でもないなら、単純な戦力削りが目的じゃない……か?)
 断片的な状況からの推測であり確信は持ちきれなかったが、嫌な予感という奴はいつだってするものだ。
「書記長、後続の手配は頼めるか? それと市内への厳戒な見回り指示を頼みたい」
『後続は手配中だ。後者の判断根拠は?』
 その問いに仁刀は推論を述べる。
 言葉を聞いて源九郎は唸るように呟いた。
『――DOGの動きを敵は把握出来ていない、とか、単純に駒が足りなくて狙えない、って事なら助かるんだが、相手はイスカリオテだしな、楽観はしない方が良いか』
『敵が主力がいると思ってたり、戦力不足でイスカリオテまで出張ってるというなら、なおさらリカや金髪天使も来ているんじゃないか?』
 菫の声が無線から聞こえた。
『しかし、本丸を空にするかね?』
『本丸に総大将自ら突撃かけて来る奴だ。何をしてくるか解らないぞ。それに、あっちは市街に紛れ込めても、私達は富士山になんて早々攻めあがれないんだ』
『敵はほぼノーガードでも問題ない、と、不公平な話だな、サリエル・レシュがここまで先を見通して本拠地を富士火口に定めたとは考えにくいが、結果的に厄介な事だ。了解、後続の一部を見回りに割く。ただ、負けないでくれよ。君らが並じゃないのは承知してるが、敵も一柱で五十人を蹴散らす元権天使だ』
 他方、その無線を聞いていた新崎 ふゆみ(ja8965)は、
(あ、イスカリオテって元権天使なんだ)
 と思っていた。使徒ではないらしい。
「最善を尽くす」
『御武運を』
 通信を終えた久遠は並走する景守へと言った。
「景守、神の兵士が使えるなら活性化を頼む」
「神兵ですか」
 コストオーバーになるらしく景守は一瞬、逡巡した様子を見せたが「久遠さんがそう言うなら」という事で承諾した。尖がっているが敬意を払っている相手には素直な青年である。
「っ!」
 疾風の如くに階段を駆け下りていたエルムは踊り場で一人の女性と激突していた。互いに倒れなかったので、女性がエルムを抱き止めるような形となる。
「あら」
「す、すいません、お怪我は?」
 慌てて身を離し見上げる。日本人ではないらしく女性としては随分と長身だった。ファッションモデルのようにスタイルが良い――どちらかというとエルムが長身なら、スレンダーな体型の彼女の方がモデル的だったが――白のニットとスラックスに凹凸豊かな曲線を描く肢体を包み、ブルネットに丸帽子をかぶり眼鏡をかけている。
「吃驚しましたけど大丈夫ですわ。貴方は?」
「大丈夫です、本当ごめんなさい。急いでいて、失礼しますっ」
「そう、気をつけてね」
「貴方も! 街で騒ぎが起こっているようですので!」
 エルムは再び駆け出しながら叫びつつ、階段を駆け下りてゆき、その少し後に黒髪の少女が踊り場に飛び込んで来た。女は今度は一般の人間的な速度で身をかわして激突をさけた。
 すれ違う瞬間、茶色の生真面目そうな瞳が女の双眸を射抜き、そしてそのままエルムを追うように階下へと駆け下りてゆく。
 少女達が駆け抜けていった後、女はゆっくりと一つ息を吐いた。
 階段を登り、街が見渡せる屋上へと出ると、軽く、されど人外の跳躍力で塔屋の上へと登る。
 そのビルの最も高い場所へ出た女は、ほっそりと白い指先を宙へと伸ばした――


 道を全力で駆け、DOGの本部ビルへと飛び込む。
 破壊と鮮血がホールを塗装していた。
 机や床の破片は言うに及ばず、砕かれ、断たれ、殺された女達の骸の欠片が転がっている。
 ホールを抜ければ通路にも階段にも男女の死体が転がっていた。激しい交戦の果てに倒されたであろう者、必死に逃げようとしたのか、背中を斬られて倒れている少年、何処かに連絡していたのか、ケータイを握り締めて事切れている女など、様々だった。共通点は皆、絶命している、その一点。
 皆殺しだ。
(まるで八つ当たりだ……)
 血臭渦巻くビル内を陽波 透次(ja0280)は駆け上がりつつ唇を噛み締め目を鋭く細めた。
 破壊の音は上から響いていた。
 登り、登り、撃退士達はついに屋上へと出る。
 アスファルトの屋上、青い空を背景に、背から紫焔の翼を広げる黒外套の男がアスファルトの上に浮遊していた。ビルの端に十名程度の撃退士達が追い詰められている。
 仁刀が脇に構える片刃曲刀から月白のオーラが噴出し、ルビィがフォムターグに振り上げた大太刀にアウルが極限まで集中してゆく、景守が突撃銃を構え、透次がアウルを集中し古刀を構えて低く突撃する。古ぼけた日本刀の刃が急速に復元されて水々しさを取り戻してゆく。
 次の刹那、振り抜かれた曲刀より爆発的に光刃が噴出し、一閃された大太刀より黒光の衝撃波が撃ち放たれ、透次がアウルを爆発させて跳躍し、ライフルの銃口よりフルオートで銃弾の嵐が解き放たれた。
 月白と漆黒の光が唸りをあげて迫り、直撃すると思われた瞬間、男は振り向きざま十字ヒルトの直剣を翳した。
 紫色のオーラが吹き上がり、銃弾が次々に弾き飛ばされ、白光と黒光が紫光と激しく鬩ぎ合う。
 次の刹那、跳躍した透次が迫り、宙で身を捻りざま、膨大な無尽光が集中され神輝を放つ古刀を猛然と振り下ろした。イスカリオテが防御に一閃させた左剣と古刀が激突し、エネルギーが爆裂して衝撃が嵐の如くに巻き起こった。イスカリオテが態勢を崩し落下してゆく。朦朧だ。
 ふゆみは、
「ぬっ、出たな、イケメン★ミ」
 ただしダーリン以下略と胸中で呟きつつ狙撃銃を手に闘気を開放して距離を取るべくビルの逆端へと移動している。
 イスカリオテの態勢が揺らいだのを目撃したDOG撃退士達は、反撃の好機到来とばかりに忍軍達が一斉に影手裏剣を投擲し、ディバインの男女達が剣を構えて突撃してゆく。影の刃が次々にイスカリオテの背に突き立った。
 攻撃を受けたイスカリオテは、着地すると身を捻りつつ横にスライドして背後からの騎士の斬撃をかわし、交差ざまに黒光を爆発的に噴出させる剣を入れて押し切り、騎士の胴を掻っ捌いた。鮮やかに赤い血をぶちまけながらまだ若い青年が転倒してゆく。死天使は振り抜いた勢いのままに稲妻の如くに踏み込むと、続く二人目の壮年の男の首を左の一撃で刎ね飛ばし、三人目の女の頭部を振り下ろしの右で爆砕した。
 赤色が荒れ狂い、悲鳴をあげながら四人目と五人目が繰り出した連撃も死天使は上体を捌いて最小限の動作ですり抜けるようにかわす。昏い眼光が騎士達を射抜いた。圧倒的な実力差だった。
「こっ――! ひとりでトッコーとか、どぉせヨードーとかでしょ?! 天使がひとりで来るとか、そうゆーのしかないもんねー! おつむてんてんオバカちゃーん(・∀・)★」
 眼前で吹き荒れる死に対しふゆみは声を張り上げた。DOG撃退士へとイスカリオテの注意が行かないよう、挑発の言葉と共に狙撃銃で猛射を開始する。黒耀剣使用後は混沌障壁を消費させる為に仲間の攻撃の後を狙いたかったが今回は即座に撃った。これ以上の眼前での殺戮は心優しい少女は看過できなかった。
 ラインストーンとラメパーツでデコられまくりの銃から放たれた弾丸は閃光の如くに飛び、しかし射撃が来るのは予期していたか、イスカリオテは背後を向いたまま横っ飛びに跳んだ。その隙に残った二名の女騎士達は悲鳴をあげ屋上の端へと逃げ出してゆく。忍軍の男女も下手に手をだして狙いが来るのを恐れてか凍りついたように動かない。
 黒衣の死天使はふゆみへは振り向かずそのまま忍軍達へと視線を向け――
「待て!」
 回避動作によって一拍が遅れ、小田切ルビィが間に合った。銀髪赤眼の青年が猛然と突進して間合いを詰め、疾風の如くに大太刀で斬りかかる。イスカリオテはさらに横に機動しながら無造作に身を捻り、右の直剣をふりかざした。猛烈な衝撃が激突し、鈍い音と共に火花が巻き起こる。
「――三度目の正直、ってな? ……逢いたかったぜ、イスカリオテさんよ!」
「……貴様か」
 鍔迫り合いを行いながらイスカリオテがその黒瞳でルビィを見据えた。
 ルビィは大太刀を両手で持って押しているが、直剣を右腕一本で支えるイスカリオテは微動だにしない。
(パワー勝負は分が悪いってか)
 と思う間もあればこそ、黒衣の死天使の左肩が僅かに下がる。ルビィは間髪入れずに飛び退きながら凧形の盾を出現させ、次の瞬間、強烈な左剣の突きが盾に激突して轟音を巻き起こした。
「逃げろ!」
 腕の痺れを堪えつつルビィはDOG撃退士達へと叫ぶ。その叫びで我に返った撃退士達は黒衣の死天使から距離を取りつつ屋上の端を駆けて塔屋へと向かう。
 その間に、先に挟撃から逃れんと横にスライドしたイスカリオテのさらに後ろに回り込むべく駆けていた透次が再び跳躍している。
 イスカリオテの後方頭上より急降下した黒服の青年が古刀を振り下ろし、しかし死天使は今度は受けず、ルビィの盾に剣が激突した反動の流れに逆らわず身を捻ってかわした。その捻りと共に剣を振り上げ、流れるように切り返して透次へと右の剣を振り下ろす。
 透次は閃の領域を発動、周囲全ての動きがスローモーションに見える程に視角と思考の処理能力を上昇させ、水の中のように自らの動きも重く感じる中、地を蹴りつけて全力で後方へと飛ぶ。瞬間、時間の流れが元に戻り、白刃が風を巻いて眼前の空間を断ち抜けてゆく。
 イスカリオテは後ろに跳んで間合いを広げる透次へと間髪入れずに追いすがり、瞬間、足を止め剣を一閃させた。横合いから飛来した光の刃と直剣がぶつかりあって光刃が打ち払われる。仁刀の抜刀・煌華だ。仁刀は回り込むように機動しながら抜刀した曲刀を再び鞘に収める(アウルの刃を飛ばすには攻撃の度に一度鞘に収める必要があった)。赤髪の青年は阻霊符を展開しながらつかず離れずの間合いを保っている。
「避けろっ」
 ルビィが叫んだ。黒衣の男は身を捻りざま双剣に一瞬で爆発的に光を集め膨れ上がらせると仁刀へ、ではなく、透次へ、でもなく、一人目の騎士へとヒールを飛ばしている景守へと白と黒が入り混じった螺旋の閃光を飛ばした。速い。全力で殺しに来ている。
 レート差が爆裂している一撃が唸りをあげて迫り、かわさんとした青年の身を逃さず貫き吹き飛ばした。景守は勢い良く壁に叩き付けられ赤色を撒き散らしながら倒れる。
「これは――」
 DOG撃退士達と入れ違いに(すれ違う際に一般人誘導を街へ逃げたDOG撃退士に頼むように声を投げておいたが、恐慌しきっていて返答はなかった)屋上へと到着した菫は、飛び込んできた光景に目を見開いた。
 しかしそれも一瞬の事、すぐに目元を鋭く引き締めると炎の槍――は手元にないので、和槍を出現させつつ突撃してゆく。続くエルムもまた日本刀を出現させ、不意を打つべく回り込むように駆けてゆく。
(イスカリオテですか)
 銀髪の少女は機動しながら味方と攻防を繰り広げている紫焔翼のハーフブラッドを見やる。
 その名と力の程は伝え聞いている。
――この級の敵にはたして自分の剣が通用するのだろうか、そんな懸念が脳裏をよぎる。
(否、通用するしないではない。目の前の仲間達を救うために最善を尽くすのみ)
 覚悟を決め、朱色の刃を構え隙を狙う。
 他方。
「……やっぱりな。今のアンタは死んだ魚みてぇな眼をしてやがる」
 ルビィは流れるような動きから一転、雷光の如くに踏み込んで突きかかっていた。
「何……?」
 黒衣の男は駆けながらルビィの刺突を旋風の如くに左で打ち払い、左を振った勢いのまま振り上げた右の剣を踏み込みざまに振り下ろした。ルビィは後退しながら盾で受けんとするが、盾が出現するより速く、刃が青年の肩口に喰いこんで視界を揺るがす程の衝撃が巻き起こる。小田切ルビィ、負傷率二割七分、軽くはないが深手でも無い、凄まじく頑強だ。
「そーれっ! ふゆみの弾丸は、ちょっぴしイタいんだよっ★ミ」
 一連の攻防の隙を狙ってブロンドの少女が銃口を向け発砲、唸りをあげて飛んだライフル弾は、レート差を乗せてルビィの身を斬りつけた直後のイスカリオテの身を撃ち抜いた。強烈な衝撃力が炸裂し、イスカリオテは微かに眉を顰めてふゆみへと視線を飛ばす。少女は発砲した直後に即座に駆け出し塔屋陰に飛び込み身を隠している。
「この間のアンタは、サリエルの為に戦ってたんだろ……?」
 イスカリオテの前面よりルビィが言葉を続け、
「死天使はサリエルの名だ……」
 イスカリオテの背後、透次が古刀を振り上げ頭上の宙より落下した。波状攻撃。
 黒衣の男は避けず、身を捻りざまアスファルトを蹴って逆に迎え撃つように飛び上がった。カウンター。
 透次はしかし、太刀を振るわず、イスカリオテの眼前の虚空より複数の鎖付きの鉤爪を現出させた。跳躍したのはフェイクだ。
 うねる鎖が紫焔の翼を噴出する男へと襲い掛かる。空中戦。
 後の先の先。鉤爪が次々にイスカリオテの身へと喰らいついて絡みつき、されど男はそのまま空中の透次へと竜巻の如くに双剣を振るった。鋭く弧を描く白刃が空間を断ち切り、
「そんな瞳で死天使を騙って欲しくない……」
 透次は結界を張るとアウルを爆発させて宙で身を捌き、迫る刃を紙一重でかわす。
 さらに空で剣を振り上げる黒衣の男へと久遠仁刀、曲刀を一閃して月白の刃を爆発的に噴出させた。霧虹のごとく揺らめくオーラの軌跡を残し、唸りをあげて振るわれた光刃が、男の身を強烈にぶった斬って抜けてゆく。直撃。透次は地に降り立つとステップして間合いを外す。
 身を揺らがせ鉤爪付きの鎖に絡められつつも、イスカリオテは双剣に再び猛烈な光を膨れ上がらせた。ルビィが注意の声をあげるとほぼ同時、ふゆみが身を隠している塔屋へと向かって一閃させた。物陰から様子をうかがっていた少女は直前で気付き、倒れこむように身を投げ出し伏せる。
 次の瞬間、レート差が爆裂している壮絶な破壊の光の螺旋が、鉄筋入りのコンクリートを発砲スチロールのように一瞬で爆砕しながら突き進み、進路上の総てを薙ぎ払って、虚空を貫き彼方へと消えてゆく。
(ふ、ふ、ふゆみ、怖くなんてないんだからねっ★ミ)
 ちょっと一瞬、あの世が見えたような気がしたが、新崎ふゆみ、塔屋をスクリーンにしていたので間一髪でかわす事に成功している。飛び散る破片を頭部や背中に受けつつもライフルを手に這って転がり、随分と背の低くなった塔屋の残骸の陰へと潜り込んで身を隠す。
「イスカリオテ!」
 大炊御門菫は跳躍すると裂帛の気合と共に槍を繰り出す。管槍の突きは速い。閃光の如くに放たれた穂先は、鎖に束縛されている男の防御の剣をかいくぐってその胴を貫いた。間髪入れずに逆サイドに飛びあがっていたエルムは、宙で矢をひき絞るように朱色の刀を構え、跳躍の勢いを乗せて突きかかる。翡翠。狙い澄まされた疾風の如き剣閃が、男の背中に直撃し、その衝撃力を炸裂させた。並なら意識を消し飛ばす程の一撃だったが、しかしイスカリオテに揺らぎは見られない。
「復讐したいなら僕はきっとその一人だ」
 そんな中、透次が言葉を放った。
「この鎖でサリエルの退路を断った。憎いなら来いよ、相手になる」
 黒髪の青年は古刀を構え、死天使を名乗る男を睨み据える。
「――憎い? 俺が? お前を?」
 瞬間、不意にイスカリオテの周囲に不可視の嵐でも吹き荒れたかの如くに鉤爪が砕け鎖が吹き飛んだ。紫焔が勢い良く噴出し宙に浮かぶ男の身がゆっくりと上昇してゆく。
「俺が憎むのは撃退士という名の集団だ、機構だ、社会だ、街だ、貴様等と貴様等の世界だよ。貴様一人なんぞは砂塵の一握、無論貴様も殺す。一人残らず破壊する、あの娘にあんな生き方をさせあんな死に方へと追い詰めたこの世界の総てを破壊する。絶望と無念と憤怒の色に染め上げながら殺し尽くす」
 素早くクロスボウを出現させて放ったルビィの射撃がイスカリオテは剣に受け弾かれ、間髪入れずに残骸の陰よりふゆみが放ったライフル弾が爆発的に噴出した紫焔のオーラに弾き飛ばされる。
「手始めが貴様等と貴様等の世界だ」
 男は足を振り上げて身を一瞬で縦回転させ天地を逆転させつつ横回転も加えて身を捻り、先ほどまで背後、一転して正面下に見る事になったエルムへと紫焔翼を爆発させて加速し突っ込んだ。一言で言うならインメルマンターン。
 エルム、イスカリオテの回転から突撃して来るのを読んで咄嗟に後方へと跳んでいる。黒衣の男がアスファルトを爆砕して再び屋上へと降り立ち、土砂と粉塵が巻き起こる。かわした。が、間髪入れずに男は左右の剣を構えエルムを追って粉塵を切り裂いて飛び出して来る。追撃。
 後退しながらエルム、コンマ秒以下の刹那の間、迫る男の姿を精神を研ぎ澄ませて見定める。先の突撃のように、攻撃には予備動作がある。見切って先読みすればかわせる。
(――左? 右?)
 視界の隅、下方から黒い色が奔った。
(――足)
 閃光の如くに伸びた黒衣の男の前蹴りが、少女の腹をぶち抜いた。
 剣よりは弱いのだろうが、それでも凶悪な衝撃がエルムの身を貫き、口から苦悶の息が洩れた。負傷率七割。身体がくの字に折れ、イスカリオテが右の直剣をさらに振り上げる。
 動きが止まった所で追っていた仁刀が横合いから踏み込んだ。片刃刀にアウルを猛烈に集中させ、鞘から抜く間も惜しんでそのまま殴りつける。鈍い音を盛大にあげながら直撃した抜刀・煌華が猛烈な衝撃波を巻き起こし黒衣の男を明後日の方向へと吹き飛ばしてゆく。幻氷。
 エルムは苦痛を堪えつつ刀を消すと長大な和弓を出現させ、矢継ぎ早に速射した。吹き飛ぶ男へと矢が迫り、しかし男は空中で身を回転させると全身から紫焔を爆発的に噴出して矢を弾き飛ばし、身を捻ってさらに跳んできた紅爪をかわす。
 さらに菫が追撃に踏み込んで和槍で稲妻の如く突きを放ち、イスカリオテはその瞬間、右斜め前方へと軸を外しながら矢の如くに踏み込んで突きをかわす。かわしながら左の剣を引いて中段、地と水平に構え、右腕を振り上げ剣の切っ先を天へと向け、剣の間合いまで一気に飛び込んできている。一対の刀身より漆黒の光が勢い良く噴出した。
 菫、眼前の男の動きを見定める。右剣か左剣か、それとも足か、上段中段下段左か右か。大振りなダレスなどは解り易かったが、イスカリオテは何処に打って来るのか解り辛い。おまけに凶悪な破壊力を持つ左右の剣をちらつかせながら瞬く間に間合いを詰め猛烈にプレッシャーをかけてくる。
 黒壁の如き圧力を持って迫り来た男に対し、菫は慌てたように和槍を引き戻しつつ後退、槍持つ手を滑らせて武器のリーチを調節する。瞬間、黒髪の女は焦りの為か右を警戒し過ぎたか構えがブレて、脇に微かに隙が生まれた。間髪入れず黒衣の男が雷光の如くに踏み込んだ。凄まじい速度で突きが脇下を目掛けて伸びて来る。
 菫の槍が風車の如くに勢い良く回転した。
 回転する柄が突き出された剣の上を強打し、そのままベクトルを逸らして抑えつける。剣は弾かれその切っ先は大地へと向かって叩き落とされた――読んでなければ出来ない動きだ。先に見せた菫の隙は誘いだったのである。
 一秒にも満たない間の激しい攻防の末、虚無色の瞳と強い光を湛えた茶色の瞳が交錯する。
(次は反対手より追撃が来る筈――)
 菫は片手で手首を返し備え、イスカリオテは槍で抑えられた左の剣を手放し固めた拳から黒光を噴出した。打ち落とされた為に下がっていた拳が、低い位置から踏み込みと共にアッパー――否、それにフックが混ざったような角度で迫り、予想以上に伸びて来る。スマッシュ。
 顎に黒光の拳がめりこんで鈍い音が轟き、菫の身が大きく仰け反る。急所に入った。脳が激しく揺さぶられる。
 菫が体を崩し、今度こそイスカリオテの右剣から黒光が噴出する、が、その横合いから久遠が抜刀・煌華を振り上げている。吹き飛ばしの幻氷だ。
 袈裟に振り下ろされた刀を、しかしイスカリオテは身を沈ませながら踏み込み紙一重でかわす。交差ざまの攻防。黒衣の男は仁刀の胴、装甲の隙間へと刃を押し当て撫で斬りながら抜けた。血飛沫が舞う中、斜め後ろに出たイスカリオテはさらに雷光の如くに替えして仁刀の背中へと斬りつけ、赤髪の青年は身を捻りつつ自らあたりにいって装甲の厚い肩で追撃を受け止める。鈍い音と共に衝撃が巻き起こった。
 透次がイスカリオテへと踏み込み、黒衣の男が視線を走らせ、透次は古刀で斬りかか――らず、踏み込みのみで隙を窺い、イスカリオテは紅爪を警戒しているのか動かない事、四半秒、
「こんなパンチが効くものかぁ!!」
 負傷率三割四分、踏みとどまった菫がイスカリオテの背後へと迫っている。柄の中頃を持って突進ざまに軽く突きを放ち――当然のように振り向きざまに斬り払ってきた――弾かれた勢いのまま槍を回転させて加速させ石突で殴りつける。紅染月。
 螺旋の連撃が顔面に炸裂――する直前、紫の焔が吹き上がり、石突はしかし炎をぶち破って男の顔面を殴り飛ばした。猛烈な衝撃力が黒衣の男を勢い良く吹き飛ばし、さらに透次から紅爪が、ルビィから鋼糸が飛び、狙い澄ましてエルムが和弓で閃光の如くに矢を撃ち放った。鉤爪が男の身に喰らい付いて次々に縛鎖を絡みつかせてゆき、さらにゼルクがその上から絡みつき、鶺鴒の矢が黒衣の男をぶち抜いた。
 鎖と糸と矢の衝撃に動きが止まった所へふゆみがそのライフルの銃口を向ける。
「いくら天使でも……きっとジャクテンはいっしょだよっ☆」
 腹を狙って放たれたライフル弾は、旋条に横回転しながら空を切り裂いて真っ直ぐに飛び、死天使の身を捉えてそのどてっぱらを貫いた。レート差が炸裂している弾丸が強烈な破壊力を撒き散らす。
 しかし。
「――なるほど、手練だな。良く互いの隙を埋める」
 集中攻撃を受けたにも関わらず黒衣の男は、次の瞬間、鎖を吹き飛ばし、剣を一閃させて鋼糸を断ち切り、何事もなかったかのように平然とした様子で――スーツは破損し鮮血を滲ませてはいたが――宙で態勢を立て直した。
 背より紫焔の翼が勢い良く吹き上がり、再び高度をあげてゆく。
 効いていない訳ではないのだろう。だがタフだった。先の大戦であの大人数からの猛攻撃を受けても沈まなかっただけはある。
「イスカリオテ」
 ルビィが高度を上げてゆく男を見上げて言った。
「例え負けると分かっていても、失われた物が戻る事は無いと知っていても。全てを叩き潰す迄は終れない……違うか?」
「一点、違うな。負けるつもりは微塵も無い。既に形勢は出来ている」
 イスカリオテはクロスボウを構える青年を見下ろして言った。
「俺はこの地の総てを叩き潰す。負けたら、総てを、潰せんからな」
 先の大規模の時に見た瞳の輝きは既に無く、
 光を得て再び失い、
 乾いた心を潤すのは屍山血河のみ。
「なるほどな――俺がアンタだったら、多分そうするぜ」
 赤眼の青年は思う。
「俺の名は小田切ルビィ」
 だからこそ終止符を。
「いつか、幕を降ろしに行ってやる」
 その言葉に黒衣の死天使はルビィの双眸を一つ眺めると、
「その時、降りるのは貴様の死という幕だ。総ては死ぬ」
 そう言い残して、北の空へと飛び去って行った。



 結果。
 ハーフブラッドの死天使イスカリオテ・ヨッドは退けられたが、その襲撃によってDOG撃退士三十四名が死亡した。ヒールをうけた一人目の騎士はなんとか命を取り留めたが、景守もまた瀕死の重体であった。
 救急車のけたたましいサイレンが響き渡る中、エルムは無線機を片手に大塔寺へと報告を入れていた。
「どうにも気になる女性がいます」
 あの時は酷く急いでいた。駆けつけるのを優先させ思い煩わなかった(エルムは決断を先延ばししない性格である)が、よくよく考えると、全速で駆けるエルムと激突して立っていられるというのは撃退士でない一般人なら相当のパワーである。
「――本当かい? ふむ、単純に相手がめちゃくちゃマッチョで態勢が良かった、という可能性は」
「無いとはいえませんけど……ただ、ぶつかった時の感触でも見た目でもそういう身体つきではありませんでした」
「そうか……眼鏡をかけたスタイルの良い女ねぇ。撃退士って可能性もあるけどこのタイミングでいやな符合だ。有難う、よく伝えてくれた。その女性が人外の存在であるなら、そこに何か仕掛けている可能性はあるね。よくよく注意して調べるように通達しておくよ」
 かくて例のビルへの探査が実行されると、人目につきづらい屋上の、さらに死角となる位置、塔屋の上に隠蔽と共に眼球型のサーバントが埋め込まれていたのが発見された。
 これにより、人手不足な中ではあったが(企業連の会合会場が襲撃されるという事件が同時に発生しており、取締役達のほとんどはそれぞれ分散して自社へと戻り、さらにそれぞれがそれぞれ撃退士を集めて防御を固めようとした為、また襲撃を受けた本部の立て直しなどもあり、動ける撃退士の数が引き続き不足していた)危機感を覚えた撃退士達は徹底した調査を開始し、数日の間にこの眼球型のサーバントを多数発見、撃破した。どれも発見しづらく、それでいて広範囲を見渡せる場所へと仕掛けれていた。
 この眼球型のサーバントは『目』と呼ばれるサーバントであり、文字通りその周囲の視覚情報を得て、他所へその情報を転送する事が出来るのだという。
 市内の数箇所を駆除し、DOGと学園は(事実を伏せる事も検討されたが、目が設置されていたという情報が洩れていた為)目の排除は全て完了したと発表した。
 設置されていた数が意外に少なかったのは、本部襲撃を受けている最中やその後でも市内の警邏を続行させた為、潜入していた敵が動きづらかったのではないか、という話だった。また、目を設置する事ができる存在は、敵側としてもそう多くないのではないか、とも。
 なお未発見による討ち洩らしが無いか、引き続き調査は継続するという。



 これら一連の事件により、富士市の市民達はDOGの実力に強い疑問を持ち始めた。
 前撃退長の山県明彦はいかがわしい宿泊施設で暗殺され、その後継候補達は互いに激しく争い合っており(和解は既に成立し新撃退長も選出されていたのだが、それらについて語る市民の声は小さかった)、とどめに白昼堂々本拠地に殴り込みをかけられ一方的に虐殺される(実際の所は、主力があちこちに出払っていて空き巣同然ではあったのだが)。
 また市中にばらまかれた『目』は全て駆除されたという発表はされたが、まだ残っているのではないか、監視されているのではないか、という恐怖を市民達は拭いきれなかった。


 DOGの評価が低下してゆく反面、久遠ヶ原の撃退士達の評価は高まりつつあったが、しかし彼等の本拠地は久遠ヶ原島であって富士市ではない。市民達からは物理的に位置が遠い。Dサークルで駆けつけるにしてもどうしてもタイムラグは出る。
 DOG本部にいた撃退士達ですら殺されるのだから「撃退士ですらない自分達はいつ何時でも死天使達からの襲撃を受けて殺されてもおかしくない」と、そういった恐怖が急速に街へと広がってゆくのだった。



 了


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 戦場ジャーナリスト・小田切ルビィ(ja0841)
 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
重体: −
面白かった!:17人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
穿剣・
エルム(ja6475)

卒業 女 阿修羅
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅