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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/03/23


みんなの思い出



オープニング

 異界。
 大地は抉れて消し飛び、焦土と化している天魔の最前線。
『神の剣』こと力天使ザインエルは思う、地球は豊かだったと。
 一進一退の攻防が続く戦線で、今日も悪魔の軍勢を蹴散らして拠点へと帰還したザインエルは、己が異郷に残して来た子飼いの部下達と自らが産み出したゲートの事が気になり始めていた。
 彼の地を離れて既に半年以上が経つ。天使にとって半年など瞬き程の時間に過ぎないが、それでも動くものは動く。報告によれば京都の状況は思わしくないらしい。
「司令殿、俺を地球へと還してはくれませぬか」
 男は訴えた。
「ふむ……儂は貴公の実力は認めておる」
 現司令の老天使は長白髭をしごきながら泰然と述べた。
「貴公に期待している者は多い。あまり無茶は言うな」
「しかし」
「部下を残して来たのだろう? たかが異界の原住民相手ではないか。貴公に指揮官として欠点があるなら、いざという時なんでも自分自身で出ていってケリをつけようとする所じゃな。それでは部下は育たんぞ」
 ザインエルは思う。
 老司令が言う事は確かにその通り、確かにその通りではあるのだが。
「貴公を消したがっている者もまた多いのだ。迂闊な真似はするな。家畜の収穫より他にまずこなすべき事が貴公にはあろう」
 ザインエルはしばし瞑目し、それから真っ直ぐに司令を見据えて言った。
「彼の地の者達は――敵なのです。守らんとする意志を牙と変え、絶望を前にしても命火を燃やして挑みかかって来る戦士どもなのです。牙を無くした家畜どもではない。配下は弱くはありませんが、敵もまた侮れぬ存在なのです」
 喰い下がる若い天使に老天使は嘆息した。
「正直に言おう。今、お主に抜けられると困る」
 ザインエルは絶句した。
「ここまで戦線を持ち直したが、お主抜きではまた押されるのが目に見えておる。お主は、この地の同胞を見捨てるのか?」
 お前なんぞいなくてもどうにでもなる、調子に乗るなと言っていた前司令とは扱いが真逆だが、これはこれで厄介極まりない。
「司令殿、そのおっしゃりようは、卑怯でありましょう」
 老司令は淡々と言う。
「事実だ。少なくともお主を除きたがっている者達はそう判断するな。ザインエルは天界軍を見捨てたと。卑怯か? なるほど、お主らしい。だが、儂はそれで悪魔どもに勝てるなら幾らでもそうなろう。我等は勝たねばならぬ。お主も騎士なら弁えよ。お主のその剣は、一体誰に捧げられているのだ?」


「京都は、見捨てられたのでしょうか」
 ザインエルの帰還について、どうやら見通しすらたっていないらしいとの報がもたらされた時、隻眼の使徒、新田虎次郎は愕然としてそう述べた。
「ザインエル様が我々を見捨てられる訳があるか! たわけた事を申すなッ!!」
 京都代将ダレス・エルサメクは虎次郎の言に対し怒声を張り上げた。
「単に我々だけで十分だと御判断されているだけだッ! 二度とふざけた事を言ってみろ、その首刎ね飛ばしてやるッ!!」
「……申し訳ございませぬ。血迷い事を申しました」
 虎次郎は深々と首を垂れた。
「今よりそれを証明してやる。もう出し惜しみはせぬわ! 米倉、居るかッ!!」
「……ここに」
 一団の中より進み出て痩身の男が会釈した。
「小手先だが一つ策を立てた。一つ勝って、まずは敵の勢いを挫かねばならん。穴があったら埋めよ」


 西要塞を占領中の撃退士部隊は、その日、使徒の新田が中京城より三十余体のサーバントを率いて出撃して来たとの報を聞いた。
「前回、ものの見事に撃退されたというあいつか。懲りない奴だな」
 しかし部隊長の秋津は考えた。前回敗北しておきながら、およそ六十人もの撃退士が籠っているこの西要塞に、半数程度で寄せて来るからには、何か必勝の策でもあるのかもしれない、と。
「うかうかと敵の策に乗るのもしゃくだ。慎重にいこう。籠城だ。本陣に援軍を頼んでおけ。こちらが城壁で受け止めている間に要塞外から背後を突いてもらい挟撃するんだ」


 この援軍要請を鬼島武は承諾、三十名の親衛隊員からなる精鋭隊を組織し西要塞の援護にあてた。
 南西の敵要塞は未だ健在であったので市の中心部へは踏み込まず、敵との遭遇を避けるべく大回りに急ぎ移動する形で西要塞へと向かう。
「よし、もうじき西要塞だな! 駆けに駆けて来たが脱落者はいないな?!」
 歳の頃大学部程度の大男は一度隊を停止させると振り返って言った。
「隊長ぉ! そんなヤワな奴ァ親衛隊員にゃいませんよ!」
「ははっ! そうだったな!」
「敵の様子はどうなんです?」
「どうも敵さん気づいていないのか、じっくり射撃戦の構えらしい。俺達の接近に気付いたら、それだけであわくって逃げ出すかもな」
 敵は三十程度。西要塞の味方と合わせればこちらは九十名以上になる。戦力差三倍、楽勝といって良かった。
「ヒュー! そいつぁ楽できそうで良い!」
「だがぬかるなよお前等。労働は好きじゃねぇが、京都の戦線じゃ小さな餓鬼どもだって頑張ってるんだ! 大人がさぼってる訳にもいくめぇ。気合い入れてくぞ!!」
 隊長の言葉に応えて隊員達から威勢よく声があがる。
「こっから先は待ったは無しだ! 一気に西の敵部隊まで突っ込む――」
 ぞ、と言いかけて隊長は言葉を止めた。
 自分達が駆けて来た道の彼方、南の方角から、顔色の悪い痩せた男を先頭として、二十体程の木乃伊武者達が迫って来ていたからだ。
 知っている。
 あの男。
――米倉、創平。
「隊長、後ろッ!!」
 反射的に大男は振り向く。北の道の先に二十体ばかりの武者の群れ、左右へ視線を走らせれば炎の大鴉がそれぞれ十体程舞っている。
 四方から迫り来る、使徒、サブラヒナイト、ファイアレーベンのみで固められた、明らかに敵の精鋭部隊。
「な、なんで、こんな場所にこんな連中がっ?!」
 誰かがあげた悲鳴が、敵の背後を突く筈だった一同の、その胸中を代弁していた。


「援軍が包囲されただと?!」
「幸いにして西要塞からはそう遠くないです! 至急救援をと!」
「くそっ、俺達の援護に来てくれた連中を見捨てる訳にはいかねぇ! 目の前三十、こっちは六十! 倍いるんだ! 門前を一気に蹴散らして救援にいくぞ!」
 号令一下、正門を開いて撃退士達が飛び出してゆく。
 するとこれまで防御がちだったサーバント隊は待ち構えてでもいたかのように一転して猛射撃を開始した。
「怯むなあァ!!」
 秋津京也が盾構えて火矢の嵐を防ぎながら隊員達と共に敵の指揮官であろう使徒へと猛突進してゆく。
 途中、一体のサブラヒナイトがゆらりと無造作に前に進み出た。
 武者は蒼白いオーラを爆発的に噴出し大剣に豪雷を収束させて振り下ろした。爆音と共に超巨大な稲妻の巨竜が飛び出し螺旋を描いて荒れ狂い、巨竜に呑まれた撃退士達が次々に消し飛ばされてゆく。倒れた者は、それきり動かない。
 秋津はかろうじて立っていたが、新田虎次郎が風の如くに斬りかかった。剣閃が鮮やかな弧を描いて身体を突き抜け、噴水の如くに血霧をあげながら秋津が倒れる。
「さて、こうして名乗るのは実は初めてか?」
 雷竜を放ったサブラヒナイトが喋った。
 武者は顔に巻かれている包帯をはぎ取ると言った。
「俺がザインエル様よりこの地の統治を任された京都代将ダレス・エルサメクだ。死にたい奴は前にでろ」
 包帯の下から現れた顔は、木乃伊ではなく、血色の良い大天使のそれだった。


リプレイ本文

 フレイヤ(ja0715)は恐怖していた。正直、逃げ出したい。しかし、退がれる状況ではなかった。前に出るしかない。
(自分を信じないで誰を信じろってのよ!)
 今の彼女は田中良子ではなくフレイヤだ。阻霊符展開ウィンドウォールを発動し、久遠寺 渚(jb0685)もまた阻霊符を展開する。
「京都開放のためにも……援軍は、やらせません!」
 眼前撃破の意志を宣言すると共に四神結界を張る。
「賊とはいえ、名乗りがあったからには返しておこう」
 フィオナ・ボールドウィン(ja2611)は風を纏い、黒赤の波状片刃剣を構えながら前へと進み出た。
「ボールドウィン家のフィオナ、王星の下に生まれた者だ」
「良い度胸だ」
 ダレスは眉間に皺を刻んで撃退士達を睨み口端を吊り上げた。大剣をぶらりと下げて無造作に距離を詰めて来る。
「貴様等のような蛮勇者がいるから人は天への反逆を止めないのか? ならば貴様等に絶望を教えてやろう。無残の意味を教えてやろう。泣いて命乞いをさせてやろう。手始めにはフィオナとやら、貴様はいつまでその綺麗な面を保ってられるかな?」
「ほざけ下郎!」
 フィオナは真っ向からダレスへと突撃し、ダレスはそれを迎え撃つように八双に大剣を構える。
 距離が詰まり、両者が剣の間合いに踏み込まんとするその時、フィオナの斜め後方より矢が飛来した。Elsa・Dixfeuille(jb1765)の回避射撃だ。
(無理をしないで、とは言えない)
 奮った勇気など現実を前に脆い。けれど皆で帰ろうと、銀髪の女は願いを込めて矢を放つ。
 大剣を後方へと振りかぶらんとしていたダレスは、身を捻り装甲の厚い肩部に矢を当ててあっさり弾き飛ばした。Elsaからの射撃によりダレスの動きが一呼吸遅れ、フィオナにはその一瞬で十分だった。刹那の間に加速して一気に間合いへと踏み込む。
(貰った!)
 赤雷のように振り下ろしの剣閃が走り、狙い違わず波状刃がダレスの腕に炸裂する――直前に、ダレスの腕が掻き消えた。大天使は身を傾斜させながら左足を軸に駒が回るように一回転してフィオナの剣閃上から軸を外している。刃は何も無い空間を断ち切って抜け、ダレスは右手一本で横薙ぎの斬撃を繰り出した。カウンターの大剣が結界の防護を突き破って女の胴に鎧の上から炸裂する。壮絶な衝撃力を発生しフィオナが吹き飛ばされて宙を舞った。
 だが、崩れた態勢から放たれたそれは威力が完全でなかった。竜巻斬りとやらではない。負傷率六割八分。ただの斬撃だ。
 女騎士は脚から地に着地し、踏ん張りを効かせて剣を構え直す。
 顔をあげると眼前に翼から光を噴出し大剣を大きく振り上げたダレスが迫り来ていた。蒼い爆光が肉厚の大剣へとうねりながら収束してゆく。
 Elsaは再度ダレスの腕を狙って矢を放つ。閃光の如くに放たれた矢が左腕鎧に直撃し衝撃を与えるも、猛将は構わずにフィオナの額を目がけて大剣を振り下ろした。
 蒼光と風を巻いて迫る剛剣に対し、フィオナは銀色の光を剣に宿して素早く一閃させる。銀光の刃と蒼光の刃が激突し、激しくスパークして横に流れるように二本の剣が弾かれる。かわした。勢い余った蒼光剣が大地に突き刺さって爆砕し土砂を噴き上げた。
 日暮からヒールが飛んでフィオナは負傷率一割三分まで回復。
 他方。
 虎次郎が太刀を手に駆け、久遠 仁刀(ja2464)と桐原 雅(ja1822)の二人もまた駆ける。
 正面から猛然と突っ込んでくる赤髪の男に対し、隻眼武者は鋭く太刀で斬りつけた。三日月を描くように鮮やかに剣閃が走り、久遠は弧光を発動させて大剣を傾斜をつけて掲げ受け流す。火花を巻き起こしながら太刀が刃上を滑るように流れてゆき、赤髪の男はさらに前へと踏み込む。刃が肩先をかすめて逸れ、一気に虎次郎の右懐へと入り込んだ久遠は大剣を消すと、鍔とハバキのみの柄を手にアウルを通した。
 柄から光輝く刃が出現し突きとなって放たれる。狙いは右膝。武者の右目はその動きを捉えている。至近からの突き降ろしに対し虎次郎は右足を上げつつ、反撃の裏拳を繰り出す。
 光刃が脚甲に中り、しかし鍛えられた刃は装甲を貫いた。魔法属性。同時、手甲が久遠の頭部に炸裂した。鈍い音が盛大に鳴り響きぱっと赤が飛び散る。
 虎次郎が呻き声をあげ、額を割られた久遠が鮮血を散らしつつ仰け反り、数歩たたらを踏む。が、倒れない。負傷率四割三分。拳とはいえ、急所に良い一撃が入ったのだが、凄まじくタフだ。
 その攻防の間に桐原が虎次郎の左サイドに回り込んで、脚を大きく振り上げている。虎次郎に左目があれば、あるいは久遠が右へと潜り込んでなければ結果は違ったが、その一瞬、虎次郎の視界から完全に桐原の姿は消えていた。サイドアタック。
 桐原は思う。敵は紛れも無く強大だ。けれども最も信頼し愛する人が側にいる。だから、
――恐れなど、ない。
 全力攻撃。
 カオスレートを乗せて放たれた阿修羅の少女の渾身の回し蹴りが、風を巻いて唸りをあげて虎次郎の背に直撃した。脚甲が鋼の鎧に激突し轟音と共に超絶な衝撃力を巻き起こす。対物障壁が展開したが、恐ろしいまでの破壊が荒れ狂っている。
 他方。
 対策されていると悟ったダレスは舌打ちし、そして新田の左へと回り込んでいる桐原へと視線を走らせた。ダレスから見るとその背中はすぐそこだ。後ろから殺れる。
「何処を見ている!」
 そうはさせじとフィオナが踏み込んで猛然と斬りかかる。唸りをあげて振るわれた刃がダレスの鎧に炸裂し、大技を放棄したダレスが反撃に二連斬をコンパクトに繰り出した。Elsaが回避射撃と妨害の射撃を矢継ぎ早に放つが、流石に大天使は強い。大剣が翻る度にフィオナの身から血飛沫があがる。日暮がヒールを飛ばし、久遠寺が前進して治癒膏をかけて回復させる。負傷率四割五分。装甲が厚い。
 態勢を立て直した久遠が脚を狙って突きかかり、桐原はさらに円を描くようにステップして虎次郎の背後へと回り込む。フレイヤは久遠へと風の守りを展開する。
「……やりおるわ!」
 新田虎次郎、顔色を変えた。
 肉を切らせて骨を断つ。久遠の魔属攻撃は強烈だが、同時にこの男頑丈過ぎだろう、とも思ったらしく、桐原の一撃が壮絶だったのもあり、さらにウィンドウォールがかかった事もあって標的を切り替えた。久遠の一撃に合わせて身を捻る。
 久遠の光刃が虎次郎の右脚に炸裂し、背後を蹴らんと踏み込んでいた桐原と、太刀を振り上げる虎次郎が向き合った。
 少女の脚甲が唸り、武者の太刀が閃いた。
 阿修羅の蹴りがハンマーの如くに使徒の胴に炸裂し、虎次郎の太刀が光の如くに桐原の肩口に喰い込んで袈裟に掻っ捌く。鎧が陥没して砕け、コートが斬り裂かれて血飛沫があがった。負傷率六割。
 手応え有りと見た虎次郎は、高火力同士なら脆い方から潰す腹らしく、右脚をひきずりながらも猛然と追撃の刃を放つ。
 桐原は一撃によろめきながらも後方に飛び退くが、使徒の斬撃が伸びて来る。不撓不屈で対抗。鮮やかに弧を描く剣閃が再度少女の身を斬り裂いて大地に紅を撒き散らした。負傷率十二割四分。激痛に意識が遠退き身体が傾いでゆくが、少女は気力を振り絞り踏みとどまる。
 ここで、倒れる訳にはいかない。
 先輩は無茶をするから。
(今日こそはボクが護るんだ)
 他方。
(主よ、もし貴方が与えた力なら、皆を守らせて……私を守って……)
 Elsa、祈りを込めて弓矢を引き絞る。フィオナへと斬りかからんとする大天使の顔面へと目がけて放つ。ダレスは首を振って紙一重で矢をかわしつつ剣を振るい、フィオナが大剣を掻い潜ってかわす。波刃剣を閃光の如くに一閃させ、ダレスは横にスライドしてかわし、さらに飛燕の如くに翻った剣が女騎士を斬り裂き負傷率十割三分。久遠寺と日暮から回復が飛んで負傷率一割まで回復。
 激痛と回復のサイクルに気が狂いそうだ。だが毅然と耐え、フィオナは不敵に笑った。
 日暮のヒールが尽きる。
 桐原、スキルを死活へと入れ替えつつ素早くさらに後方へと飛び退り、虎次郎が追いすがって太刀を振るい、久遠が絶対にさせぬとばかりに太刀を突き込み、フレイヤが前進してアウルを解放する。
 桐原、太刀を睨む。
(この一撃さえ凌げば……!)
 死活で戦える。まだ護れる。最後の力を振り絞って身を捌く、が、レート差が乗った切っ先は雷光の如くに伸び、少女を逃さずその身を貫いた。
(あ)
 空が赤く回った。届かない。
 口から鮮血を吐き出して少女が倒れてゆく。同時、久遠が放った光の刃が虎次郎の膝裏に炸裂し、血飛沫があがって、その右膝が完全に折れた。さらに虎次郎の周囲から無数の腕が出現しその動きを束縛してゆく。異界の呼び手だ。
 使徒は後方へと身を捻り様に太刀を抜きざまに繰り出し、久遠は完全に足の止まった相手からの斬撃を素早く後退してかわす。
 Elsaから矢の援護を受けながらフィオナはダレスと斬撃の応酬。波刃が空を切り、大剣が二連で直撃し、日暮がライトヒール、久遠寺が治癒膏。フィオナ負傷率七割四分。Elsaの回避射撃と久遠寺の治癒膏が尽きた。
「撃退士を、黄昏の魔女を舐めんじゃないわよ!」
 フレイヤ、羽根持つ光球を産み出すと裂帛の気合いと共に撃ち放った。新田虎次郎、ここに魔神殺しの太刀があったなら、一刀の元に斬り払えたが、悲しいかな、前回の戦いでそれは左目と共に失われている。
 異界の腕に捉われ右膝を折った隻眼武者へと光球が炸裂し強烈な破壊力を撒き散らす。久遠、桐原と狙う手筈だったが既に倒れているので、ここで切り札を切った。使徒を睨み据えアウルを全開に解放、黒いオーラで光の刃を包みこむ。闇色の靄が黒光の刃へと纏わりつき、光と闇との壮絶なカオスレート−5。
 蝕だ。
 赤髪の男が猛然と踏み込み、使徒が咆哮をあげてカウンターの太刀を繰り出した。刃と刃が交錯し、使徒の太刀が赤髪の青年の腹をぶち抜き、闇色の黒光剣が使徒の唯一残っていた右目を貫通した。
 久遠、負傷率九割六分、立っている。
「タフな奴だ」
 盲目の武者はそう呟くと、仰向けに倒れていった。
 使徒、討ち取った。


 Elsaから射撃と日暮からのライトヒールの援護を受けるフィオナ、波状刃がダレスの肩口に炸裂し、しかしダレスは揺るがずに反撃の連撃を叩き込む。血飛沫があがり、負傷率十九割、女騎士がついに沈んだ。
「手古摺らせおって」
 ダレスは蒼光の大剣を一閃させフレイヤから放たれた光球を斬り払う。
 久遠寺は四神結界を張り直し、久遠は剣魂を発動しつつ移動、負傷率七割二分まで回復。
「援軍の包囲、お見事でした……でも、少なくない戦力を誘引できました、よね?」
 久遠寺はスキルを入れ替えつつ時間稼ぎを狙ってダレスへと声を投げる。他部隊が隙を突いて中京城を狙っていると匂わせる。
「もう少し、私達にお付き合いください……!」
 迷いを与えての行動の遅滞を計った。
「そうか、なら死ね!!」
 大天使はElsaとフレイヤの連携光弾の一撃を受けつつも久遠寺へと猛然と迫る。「真偽が解からぬなら全部を最速で殺すまでよぉ!」と即断する程度にNOUKINスタイルなので動きを止めはしなかったが、万一の疑念と微かな焦りは植えつけられただろうか。
 猛将の進路上にElsaが割って入る。大天使が竜巻に大剣を振るい、久遠寺が乾坤網を発動。アウルの防護網が展開し、直後にそれごとElsaが叩き斬られてぶっとばされてゆく。日暮がライトヒールをElsaへと放ち、殲滅を急ぐダレスの背後に密かに久遠が迫っていた。
(武器を振るえなく出来れば……!)
 少女は言った、無茶をするから。
 赤髪の男はアウルを全開に闇色の靄を収束させてゆく。大天使相手に本日二度目のカオスレート−5。それでもやらなきゃならない時もある。狙うはその腕。剣なら左か? 密やかに猛然と、後方から襲いかかり、壮絶な黒光剣を繰り出す。バックアタック。
 闇を纏った刃はダレスの上腕の裏、鎧の隙間から、深々と切っ先を突き立て、凄まじい破壊を炸裂させた。
 ダレス・エルサメクが猛然と振り向いた。盛大に血飛沫をあげながらも牙を剥いて大剣を振り上げ、分厚い刃に蒼光を収束させ爆風を巻いて振り下ろす。
 何かが爆ぜるような音が鳴り響いた。赤い血肉が周囲へと飛び散る。久遠、負傷率二十割九分。沈んだ。
 Elsa、意識を失っていたが目を覚ます。しかしそのまま昏倒したふりをしてスキルを応急処置へと密かに入れ替える。
 フレイヤの光球がダレスの斬り払いを掻い潜って破壊力を解き放ち、その隙を狙って久遠寺渚、
(石化耐性がないなら、運がよければこれで……!)
 アウルを全開に力を解き放つ。澱んだ気が逆巻き、砂塵が大天使の身を包みこんでゆく。
「……これはっ?!」
 ダレスが目を見開いた。大天使の身が瞬く間に変質し石化してゆく。八卦石縛風。
 砂塵が収まると京都代将は石の彫像と化していた。
「……やった?」
 久遠寺が半信半疑で呟き。Elsaは起き上がり、様子を伺いながら自らの身に応急手当し日暮のライトヒールと併せて負傷率三割五分まで回復。
 次の瞬間、大天使の身から光が噴出した。
 一瞬で元の血色の良い肉体を取り戻す。
「舐めた真似をしてくれたな小娘ぇ!!」
 怒声をあげて久遠寺へと迫り、Elsaはとことん妨害射撃、光弾がダレスを穿ち、久遠寺はアウルの防護網を展開する。ほぼ右腕一本で振るわれる剣が少女の身に炸裂し、砲弾の如くに吹き飛ばす。乾坤網でかろうじてスタンを逃れた久遠寺は、宙で身を捌いて態勢を立て直す。着地し顔をあげた時、目の前に光を大剣に収束させたダレスがいた。
 何かが爆発するような音が鳴り響いて、大地が砕け、赤い色が飛び散り、負傷率二十七割一分。南無三。
 フレイヤの光球がダレスへと炸裂し、日暮がフルオートで射撃しながら突進してゆく。
 突撃してきた日暮をダレスは銃弾と光弾と光球を受けつつもコンボで爆砕。
(せめてダアトだけでも……)
 Elsa、フレイヤを守らんと射撃しながら動くも駆け様の斬撃を受けて負傷率十六割四分、鮮血を散らしながら倒れた。
 ダレスは光を噴出しながら加速しフレイヤへと大剣を叩きつけ、魔女はスキルを発動。血飛沫が吹き上がり、負傷率十六割五分、倒れ――ない、起死回生がその効果を発揮し踏みとどまる。
「……なんだとっ?!」
「死んでもここは通さないわよ!」
 魔女は大天使を睨んで叫んだ。

――五十秒が経過した。

 ダレスはフレイヤへと追撃を入れて今度こそ斬り倒すも周囲を見渡し愕然とした。気付くと己以外は劣勢になっている。虎次郎も既に死んでいた。久遠寺から妙な話も聞いた。
「……くそっ! 退け! 一旦態勢を立て直す!」
 天の軍勢は大天使の指令と共に整然と後退していった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
 未到の結界士・久遠寺 渚(jb0685)
重体: 撃退士・久遠 仁刀(ja2464)
   <ダレス・エルサメクに爆砕された>という理由により『重体』となる
 未到の結界士・久遠寺 渚(jb0685)
   <ダレス・エルサメクに爆砕された>という理由により『重体』となる
面白かった!:10人

今生に笑福の幸紡ぎ・
フレイヤ(ja0715)

卒業 女 ダアト
戦場を駆けし光翼の戦乙女・
桐原 雅(ja1822)

大学部3年286組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
未到の結界士・
久遠寺 渚(jb0685)

卒業 女 陰陽師
踏み外せぬ境界・
Elsa・Dixfeuille(jb1765)

大学部7年203組 女 インフィルトレイター