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マスター:望月誠司
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/22


みんなの思い出



オープニング

 中京城。
 天守の間で満身創痍の男が片膝をついてかしこまっていた。
 鎧に無数の日々を入れ、右腕を固まった血液で赤黒く染めあげ、そして左目の部分が大きく穿たれている。目玉がなくなっていた。
 言葉もなく頭を下げる使徒・新田虎次郎へと大天使ダレス・エルサメクは顔を真っ赤に染め上げて腕を振った。
「……貴様っ! 魔神殺しの太刀とやらはどうしたッ!」
「砕け散り申した……っ!」
「このドタワケがぁッ!!!!」
 ダレス・エルサメクは激怒して床を足裏で蹴りつけた。
「その左目、原住民如きにやられたというのかッ?!」
「…………恐らくは、冥魔の者かと」
「冥魔だと?!」
「はぐれ、と呼ばれる悪魔どもが撃退士の中に混じり協力している様子です。どうやら、天軍に怨みを持つ者の様子」
「ちっ……忌々しい背約者どもが!」 
「……此度の敗戦、面目の次第もございませぬ! 此処に腹を切って詫びる所存!」
 額を床にこすりつけて髭面の武者は言う。
 ダレス・エルサメクは無言でその頭部を蹴りあげた。虎次郎の身がもんどりをうって吹き飛ばされ、木張りの床に転がる。
「貴様の腹なんぞかっ捌いた所で一文の得にもならんわッ!」
「……しかし!」
「責任を取るというなら、一人でも多くの敵を斬り殺して死ね! 貴様の腹に斬るだけの価値があるとでも思っているのか? うぬぼれぬな。貴様が自害した所で、何の責任も取れんわッ!!」
 ダレスは身を起こす虎次郎を睨み据えて言った。
「次は俺の邪魔はするな。俺の命令に従え。解かったな?!」
「…………はっ!」
「解かったなら、とっとと失せろ!」
 ダレスが一喝し、隻眼の武者は首を垂れて床へと沈んでゆき、やがてその姿が消えた。
 大天使の少年は、天守の間に広がる闇の奥をじっと無表情で見据えていた。
 酷い状況だ。
 油断や驕りがあったのかもしれない、とダレスは自覚した。
「冥魔か」
 虎次郎の片眼を奪う程の奴等が出張って来ているというなら、考えを改める必要がある。
 ダレス・エルサメクはそう認め、目を細めた。
 異界で幾度となく切り抜けて来た戦いのように「戦う」必要があるのかもしれない。
 ここは、家畜どもを収穫する場ではなく、ここも紛れも無い戦場なのだと。
 戦場であるならば。
「……戦い、をやらねばならぬな」
 少年は考えを巡らせるのだった。
 

 他方、学園生徒会室。
「京都の要塞は三つ陥落……あちらは順調のようですね」
 京都への派遣部隊からの報告を受けて神楽坂茜は呟いた。
「せやな。けど秋から八要塞を包囲し対陣する事既に四月、常駐の包囲部隊に疲れが見えとるらしい。今は冬やしな。風と雪が身に染みるそうや」
 大鳥南がそう述べた。
「学園と陣と定期的に人員を入れ替えながら回せませんか?」
「それでいける部分もあるけど、中核はなかなかそうもいかんわ。長期間、京の陣地に留まり続けても良い言う学生はあまり多くないからな。部隊ってのはそこにいるだけで色々必要や。補給やら築城整備やら経理やら、戦い以外もやらなあかんポジションは慣れも必要やから、どうしてもそれが出来る面子が固定されがちになる」
「ふむ…………どうしたものでしょう」
 小首を傾げる茜に対し、南はしばし腕を組んで唸っていたが、不意に笑って言った。
「抜本的な解決とはちゃうけど、陣中見舞いでも行うのはどうや? アイドルいけば男どもは喜ぶ聞くで久遠ヶ原の女神様?」
 その言葉に黒髪の少女は顔を顰めた。
「……様の後にかっこ笑いかっことじ、っていう文字が見え隠れしているような気がするんですが!」
「まー実態を知っとるとなー」
 南はしゃーしゃーと言い放った。
「くっ、堂々と肯定されてしまいました。いいです、いいです、どうせ私なんか、いくら勉強しても根っ子が脳筋なんです。最前線で刀振り回してる方が似合ってるんですっ」
「ほらほら、いじけるんやないで生徒会長。ついでに炊き出し手伝うてこい。温かい飯食べると士気は回復するもんや。可愛い子の手料理ならなお良しって昔誰かが言っとったわ」
「手料理をふるまう、ですか……?」
 神楽坂茜の瞳から光が消えた。
「二月恒例の行事もあるし、ついでにそれも……って、どないした茜ちゃん」
「私、料理、苦手なんですが」
「カレーとかそういう簡単なのでえぇって。大人数相手に作るんやし」
「私、料理、苦手なんですが」
「……そういや、あたし、茜ちゃんが作った料理って食べた事なかったな」
「私、料理、苦手なんですが」
「あんたは壊れたスピーカーかっ!」
 べしっと茜の頭をはたいて南は立ち上がった。
 涙目で頭を抑えている少女を見下ろしつつ南は言う。
「そこまで壊滅的なん?」
 茜はしばし沈黙した後に言った。
「……中途半端なんです」


 放課後、家庭科室。
 その料理は暗黒物質だとか、殺人料理とかいう訳ではなかった。
 無理をすれば、食べられない事もない。食べても生命力が減る訳でもない。
 しかし、
「……普通に不味いな」
 大鳥南は出されたカレーを口元に運び、咀嚼した後に顰め面で言った。
 なんだろう? カレーだ。確かにカレー味なのだが、無闇に辛い癖に旨味やコクが極めて少なく、素材の味を殺しきっている。そう、辛いだけで味が薄いのだ。というかこのジャガイモ、芯まで火が通ってないような……
「……現実的にリアルな不味さ過ぎてネタにもならん」
「だ、だから言ったじゃないですかー!」
 エプロンスカーフ姿の茜がおたまを手に涙目で叫んだ。
「これ出されたら士気上がるどころか逆に下がるな」
「ひどいっ!」
「ひどいのはあんたの料理の腕前や! 美味い料理は人に喜びを与えるが、不味い料理は人に殺意を抱かせる! これは世に争乱を生み出すモノや!」
「そ、そこまで言いますか……」
 がくりと黒髪の少女は項垂れた。
 赤毛の少女は顎に手をやりつつ思案する。
「……いっそ、替え玉でも用意するか?」
「は?」
「うん、名案や! 茜ちゃんは陣中見舞いにだけ行って、料理は他の上手い人が作って、それを茜ちゃんが作った事にして配布する、とゆー」
「思いっきり詐欺じゃないですかっ?!」
「しゃーないやろこんな料理だせるかいっ!」
「そんな事するんだったら料理なんて出さない方がマシです! 見舞いだけにすれば良いじゃないですかっ!」
「えぇい、小娘が綺麗事ばかりぬかしよるわ」
「綺麗事じゃないです! 人として最低限の道徳です! ていうか、バレたらどうするんですか! その時だけ偶々上手く大量に作れるとか知り合いからは確実に怪しがられますよっ?」
 茜がむくれ面で言う。
「むむむ」
 大鳥南は唸った。
 確かに、一理ある。実は別の人が作ってました、なんて知られたら士気は上がるどころか下がるだろう。
「しゃーないなぁ……」
「では諦める方向ですね」
 ほっと息をつく茜。
 しかし南はぽんとその華奢な方に手を置いた。
 満面の笑顔で言う。
「いや、特訓しろや、茜ちゃん」
「」
「あとチョコもな!」
「そんなご無体なっ?!」
「皆寒空の下で頑張ってくれてるんやで! バレンタインとは感謝の気持ちを示すもの。日々頑張ってる皆へ、感謝の気持ちを込めて手作りチョコを作って渡すくらい会長ならやるべきやろう?!」
「うっ?! そ、それは、確かに」
「うんうん、解かってくれて南ちゃんは嬉しいで! じゃ、そういう事で! よろしく頼むわ!」
 かくて、依頼が一つ斡旋所へと出される事になる。


リプレイ本文

「匿名希望って、茜会長?」
 その日、料理の教導者募集の張り紙を見て他メンバーと共に家庭科室へと赴いたルナジョーカー(jb2309)は驚きの声をあげた。
「お恥ずかしいですが、はい、神楽坂茜です……」
 エプロンにスカーフ姿の黒髪少女は羞恥に顔を俯かせつつ、か細い声で言って事情を説明した。
「ふむふむ、なるほど」
 ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)は頷くと、
「やるからには手は抜けられませんね会長……いえ、茜さん?」
 にこっと柔らかく笑う。
「わかった、一緒に頑張ろかーいちょっ!」
 そう快活に言うのは嵯峨野 楓(ja8257)だ。
「皆さん有難うございます」
 会長は深々と頭を下げると、何処か必死さを感じさせる声音で言った。
「どうか、よろしくお願いいたします」
 ミッション開始である。


「まずは問題点が何処にあるのか確認しないとね。どういう風に作ってるの?」
 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)が茜に尋ねた。
 ファティナが事前に依頼主である大鳥南に確認し、一同が把握している限りでは、某女子の腕前は「ネタにもならんリアルな不味さ」との事だった。
 某女子こと茜はソフィアの問いに「レシピ通りに作っているんですけど、上手くいかないんです」と答える。
 一度実際に作って貰うのが良いだろうと一同は判断し、実演を頼んだ所、問題点はすぐに発覚した。
 基本的にレシピ通りに作ろうとしているのだが「適量」で大量に調味料を投入したり「中火」で「弱火」に調理したり「一口サイズ」がやたら大きかったりと、言うならアバウトな指示に対して極端なのだ。これでは上手くゆく筈がない。
「彼女の問題点は判ったわ」
 分析を終えたナナシ(jb3008)はクールに言った。
「困難は乗り越えがいがある方が面白い」
 言ってる内容は割と熱い娘である。
「問題点は解決するとして肝心のレシピだが……実際に作ってみて一番美味かったものを採用で良いんじゃないか?」
 紙片を取り出してルナジョーカーが言った。記してあるのは手製のレシピだ。こう見えて彼は料理好きである。
「そうしましょうか」
 一同は相談するとそのように決める。
 という訳で、まずは見本と各々料理を開始したのだがそこで問題が起こった。
「じゃが芋は溶けるから大き目がいいよねっ」
 嵯峨野楓は元気いっぱいに躊躇い無くのたまった。皮を剥いただけのジャガイモをダイレクトに鍋に投入。ノーカットでお送りする。海の男も真っ青の豪快さだ。芽を取らないとヤバイ。
「違うよ楓ちゃんなんでジャガイモそのまま入れるの、一口大に切るんだよ……っ!」
 傍らで作業していた鴉女 絢(jb2708)はそれを目撃し驚愕のあまりに口をあんぐりと開けていたが、すぐにはっと立ち直ると早口でまくしたてた。
「えー?」
「大き目っていっても限度があるよ! 良い? このくらいだよ。あと芽は取るんだよ。危ないよ。わかった?」
 絢は楓の隣に立つと投入されたジャガイモを網で救出し、包丁を操って皮を剥いただけだったジャガイモを手頃なサイズにカッティングしてゆく。しかし楓は絢がじゃがいもと格闘している間に既に次の作業に取り掛かっていた。
 手際が、良い。
 楓が持つフライパンの上で、豪快に斬られた玉ねぎ達が、巨大なバターのブロックと共に煎られている。
 焦げ茶の髪の女は小首を傾げながら言う。
「えーと、飴色になるまでバターで炒める、だったかな? 時間掛かるから強火でいっか!」
 中華は火力が命です、と言っていた教員がいたせいか、ガスコンロが無駄に高性能であるのも悲劇の一因であった。
 吹き上がる業火がフライパンを猛烈な勢いで熱し、ばちばちと油と水が相反して爆ぜる音が鳴り響いてゆく。やがてそれは総てを焦がすだろう。
「楓ちゃんーっ?!」
 絢が悲鳴をあげている。しかし楓はこの時この先の手順に対しての思案に耽っており、はぐれ悪魔の声は届かない。
 脳内協議の末、結論を導き出した楓は満面の笑顔で言い放つ。
「隠し味って大事だよね絢ちゃん? チョコ入れるってテレビで見た!」
 ぴきっと音を立てて絢の表情が固まった。
 他方、楓の事は絢に任せる事にしたらしい一同。
「それではまず基本のレシピからいきましょう」
 御堂・玲獅(ja0388)が茜へと言っていた。
「不慣れなんだから、作るのはシンプルなのが良いよね」
 うんと頷くのはソフィアだ。
 続いてルナジョーカーが言う。
「注意は厳しくいくからな」
「間違ったら後ろから胸揉みますね」
 これはファティナだ。
「な、なんで胸ですかっ?」
 茜は腕を交差させて胸を庇いつつ身を退かせ、ファティナはキラキラとした笑顔で言う。
「あ、包丁等持ってる時は危ないので先に置いてくださいね」
 一点の曇りもない瞳である。迷いがない。
「わぁ安全性ばっちりですね♪ じゃなくて、こ、これは、もしかしなくても本気……っ?!」
 生徒会長が戦慄している。
「大丈夫です。私が言う通りにやってくだされれば、失敗なんてしませんから」
 玲獅が苦笑し宥めるように言う。
「まずは玉葱四個を微塵切りにしましょう」
「は、はい、先生」
 他方。
「――ねぇ、楓ちゃん、お姉さんの話は聞くべきだよね? 悪い子だなぁ」
 絢は楓を背後から抱きすくめて耳元で囁いていた。
「うひゃぅっ!?」
 頬を赤く染めて楓が声をあげる。吐息が耳元をくすぐり、絢の手が胸元へと伸びて来たからだ。
 家庭科室における教導では胸を揉まねばならないとかいう作法でもあるのだろうか。
 しかし、
「こ、これは……!」
 絢が驚愕の声をあげた。
「揉めるものが……ない、だと……っ?!」
 ぺたぺたぺたぺたと揉むというより撫で回すそれは、ザ・絶壁であった。
 楓はこめかみに青筋を浮かべると、素早く絢の腕からすりぬけ振り向き様に右を一閃。鈍い音と共に怒りに燃える拳が絢の脇腹に突き刺ささった。
 絢が白目を剥き、くの字に身を折って崩れ落ちる。カンカンカンとフライパンが鳴る音が聞こえた気がした。K.O。
「あ、絢ちゃん……大丈夫?」
 ハッと我に返った楓が呼びかけるも、絢は動かない。無茶しやがった。
 他方。
「こらっ、気を散らすな! 集中しろ!」
 ルナジョーカーが叫び、茜はコンロにかけられた鍋の前で軽量スプーンと油のボトルと手にちらちらと楓と絢の様子を見ていたりする。
「いやでもあちら気になりませんか? わっ大胆っ、て、あっ、あの倒れ方は危ない倒れ方っ! って、きゃー! 油が油がっ?!」
「馬鹿っ! 落ちつけーっ!!」
 地獄の業火がこちらでも上がっている。
「あらあら、間違えてしまいましたねー……茜さん? とても、残念ですよ?」
 ファティナがふぅっと憂鬱そうに息を吐いて進み出た。
「……はっ?! いや、これは、待って、ファティナさ――」
 数秒後、羞恥に塗れた女の悲鳴が家庭科室に響き渡ったのだった。


 およそ半刻後。
 腕時計で時間を計測しじっくり煮る事を教えた玲獅は、完成したカレーを味見すると頷いて言った。
「うん……美味しく出来てますよ」
「あ、ありがとう、ございますぅ……」
 へろへろになっている茜が礼を言う。
「指示やレシピ通りにはやるのなら、用語の意味や分量についてしっかり教えればいけそう?」
 と小首を傾げてソフィア。
「ほむ、具体的に説明するのが良いみたいですね」
 何処かつやつやした顔でファティナ。
「そうね。邪道だけど料理の手順に一切の曖昧さが存在しないカレーを教えましょう」
 とナナシ。玲獅のカレーは美味しく出来たが少人数用の物だったので、炊き出し向けに大人数用の作り方も教える必要があった。
 なお楓は昏倒した絢を保健室に担ぎ込んで介抱中である。
 協議の結果、レシピは徹底したマニュアル化を成し遂げたナナシの物が採用された。会長が作った時に一番上手く出来たからだ。
 その手順はこうだ。
 材料と調味料は全てグラム単位で計量。
 定規を用意しミリ単位で切り方を指定。
 炒めに火を使わず、耐熱皿に材料を乗せレンジで加熱。
 煮込みは鍋に温度計を刺しこの温度で何分という形で火加減を指定。
 調理途中の細部の手本は全て写真にし手順書に纏める。
 後に報告を受けた大鳥南をして「そこまでやるか」と驚嘆させた徹底ぶりである。
 かくて、風味という点では他のレシピよりかは劣ったが、神楽坂茜一人でもカレーを作れるようになったのだった。

●京都へ
 後日、京陣での炊き出しメンバー募集の張り紙が張られた。
 ヴェス・ペーラ(jb2743)はそれを見て、手伝いにいこうと決める。
「炊き出し、か」
 巫 聖羅(ja3916)もまた思った。
「……お料理はあまり得意じゃないけれど、今も京都で頑張ってくれている人達の為に、私も何かしたいわね」
 頑張っている人達へのささやかな感謝の念を抱いて、少女は京都へ行こうと決心した。
 ヴェスは炊き出しメンバーや執行部と打ち合わせると京都の最寄り人類圏都市へと飛び物資を集めた。大鳥南等と共にトラックを手配し、食材や調理器具を積み込んでゆく。
 現地撃退士の人数は百二十程度になる見込みだったが、美森 あやか(jb1451)より、食べざかりの者が多いので「一人一人前では足りないのではないでしょうか……?」という提言もあって二百人前が容易された。
 トラックに乗り込み車列を組んで京都へと向かう。今回炊き出しで使う分以外の物資を積んだ補給車も同行していたのは南の差配だろう。
 途中、野良のサーバントやディアボロが襲って来たりもしたが撃退し、無事に宇治川の南陣へと陣入りする。
 トラックから降り立ったソーニャ(jb2649)は景色を見回し、空を見上げ、白い息を吐いて独白するように呟いた。
「京都って寒いんだね」
 こんなに遠く、学園を離れたのは初めてだ。
「学園より南にあって、暖かいのかなっておもってた」
 記憶以前の事は解からないけれども。
 京都の陣より見上げる空は、薄く蒼く広がっていた――


 かくて京陣に仮設された野外厨房。
 ヴェスや黒井 明斗(jb0525)達によって次々に物資が運ばれて来る。
「……大丈夫かねぇ」
 心配でこっそりついて来たルナジョーカーが荷の陰から呟いた。
「大丈夫、手順通りなら絶対に不味くならないわ!」
 ナナシが自信を持って答える。
 あそこまで徹底したのだ、何かとんでもない不測の事態でも起こらない限りは大丈夫だ。
 不測の事態。
「何故、私はここに……」
 大炊御門 菫(ja0436)は呆然とした様子でエプロンと包丁を「装備」していた。運命の伏兵。料理が美味い不味い以前にこれまでの生涯一度として『完成した試しすらない』少女である。
 おろおろとしていた菫は知った顔を一つ見つけると、駆け寄って声をかけた。
 思う。誰かに教えてもらえれば何とかなるはずだ。料理が上手そうで頼りになる――
「せ、生徒会長! 文化祭以来だな!」
「あら、大炊御門さん、ご無沙汰しております」
 黒髪の少女は微笑を返してきた。
 問う。
「時に『生徒会長』料理は出来るだろうか?」
 会長は固まった。
「いや! 生徒の手本となる会長なら出来るよな!」
 返答がなされる前に菫は言葉を継ぐ。今この場だけでも上手く凌がなければ、と必死の思いの少女は期待を込めて茜を見つめた。
「そ……それはもう……生徒会長は全校生徒の第一の規範たるべきですからね」
 会長は瞳から光が消えてツヤ消しブラック化しつつも笑顔を保って言ってのける。
「うふふ、カレーとかなら得意料理ですよっ」
 特訓の成果により「嘘ではない」という奴である。周りが凹んでいれば平地が高山だ。
 菫はほっと息をつき、
「そうか、良かった。ちょっとカレーの作り方教えてくれないだろうか? 生徒会長に教えて貰えば間違いないに違いない――……駄目か?」
 と、不安そうに見つめる。
「駄目なんて訳ないですよっ。私で宜しければ喜んでお手伝いさせていただきますね」
 優しそうな笑顔で生徒会長は答えた。
(……文化祭での話だと、会長料理苦手な筈だけど……?)
 そんな光景を眺めていた機嶋 結(ja0725)は胸中で疑問を呟く。
 童女は一つ思案し、会話している二人の様子から事態を把握する。
 嘆息した。
「……お手伝いしましょうか?」
 二人へと近づいて言う。
「お、結も教えてくれるのか?」
「あっ、有難うございます〜!」
 結へと振り向いた茜は地獄で仏に出会ったような顔をしていた。


 野外厨房の隅、家庭科室での教導で実際の所を知る者達が集まっていた。
「……自分一人でも一杯一杯なのに、人の面倒見るなんて無茶過ぎない?」
 ナナシが呆れ顔で言った。
「か、返す言葉もございません」
 会長は涙目で胃薬を飲んでいる。
「まぁまぁ、私もお手伝いしますから」
 茜を撫でつつ苦笑してファティナ。
「仕方無い。情けは人の為ならず、という奴よね。なんとかしましょう」
「ふっ、どうしてもと言うなら少しだけ手伝ってやるが?」
 物陰からルナジョーカーが姿を現して言った。
「お願いします〜!」
 茜が懇願する。
 さて、いけるかな、撃退士達。


「会長、自分もお手伝いしますよ」
 神棟星嵐(jb1397)が言った。料理を勉強している事からその腕前には定評がある男だ。
「べ、別に興味があるからって訳じゃないからな」
 黒服に身を包んだ美少年が言った。蒸姫 ギア(jb4049)である。18世紀の蒸気機関華やかりし時代に人界に迷い込んでから三世紀、料理の技には一言あるらしい。
「野菜洗いや皮むきなどでしたら……」
 下ごしらえは任せてくれとヴェス。なお空き箱で生ごみ入れのボックスも作成している。
「一人じゃ大量に作るのは大変でしょうから」
 とあやかも参戦。心強い援軍と共に調理を開始する一行。
 しかし。
 ドゴォッ!
 撃退士達の力の結集を嘲笑うかのように厨房内に鈍く重い音が轟き木端舞い、赤い液体が飛散した。大惨劇である。
「……なんでトマト斬るのにまな板が斬れ飛ぶんですか?!」
 滅多に声を荒げない結が悲鳴をあげている。
「む? 力加減を間違えてしまったか」
 トマトを爆砕したエプロン姿の菫が包丁片手に頭を掻く。
「……大丈夫、トマトは敵ではありません、怖くない。もう少し落ち着いて下さいな」
 結は自らをも落ちつかせるように言った。
「すまん。次は何を斬れば良いんだ?」
 菫がきょろきょろと周囲を見回す。一同の間に緊張が走りぬけた。普段の依頼なら頼りになる少女だが今は災厄の魔王である。
 他方。
 下妻笹緒(ja0544)は騒ぎを他所に独自のスープ作成に取り掛かっていた。
 曰く「まだまだ寒い日が続くので、温かい汁物は邪魔にはならないだろう」との事である。
 カレー班が残念な結果に終わった時の保険、では断じてない。決して。
「ふむ、やはりここは奇を衒わない方が良いか」
 白と黒のジャイアントパンダは思慮深く呟くと、もふもふした手で包丁を操り、白菜や白ねぎなど季節の野菜を切断、豆乳が満たされた鍋へとさっと投入してゆく。器用なパンダだ。
 火にかけてじっくりと煮込み、ベーコンとコンソメで味を調えてゆく。美味そうな匂いが薫り立っていた。
 視界の隅、カレー班の方では何故か電子レンジが爆発してたりするが見なかった事にする。「一体何を入れたの?! ありえないわ!」という絶望の叫びがあがっているが、魔王は勇者達がなんとかしてくれる筈だ。多分。
 ソーニャも大鍋を前にして白い液体を掻き混ぜている。ただしこちらは豆乳ではなく甘酒だ。
 保護された以前の記憶を失くした天使の少女曰く、
「こんな日はこれが一番なんだって、旅館のおばぁちゃんに教えてもらったの」
 との事。数少ない記憶の味である。
 そして平行して作るのはホットチョコレート。
「バレンタイデーだしね」
 と少女は微笑する。温かい甘酒とホットチョコレートはきっと寒風の下、歩哨に立つ撃退士達の心身を温めてくれるだろう。
 料理をする天使の少女の姿は可憐だ――その後ろで爆音が轟いていなければ、一枚の絵のようであったのだが。


「炊き出し定番の『アレ』が無いのは寂しいわよね……?」
 他方、巫聖羅は会長達が頑張っている姿を見て、自分でも手料理を京都の皆に振る舞ってみたい気持ちがより強くなっていた。
「――よし! 私も会長に負けずに豚汁作りにチャレンジよ」
 カレー班の激闘を背に、腕まくりして豚汁の作成開始。
 勇者達は暴走する菫をなんとか封印状態に持ち込んでいるが、その一方で生徒会長の面倒も見なければならない。
「機械の手で冷たくて、申し訳ありませんけど」
 と結は横から手を添えて力加減を教えている。
「正直、私の手より高性能ですね」
 とほほといった表情で少女は童女に指導されている。経過は順調である。手取り足取りきちんと教えれば問題ないようだ。
(どうにかこうにか、うちの末っ子程には酷くないみたいですね)
 銀の長姉ファティナはそんな光景を眺めながらほっと安堵していた。会長はなんとかなりそうである。
 一方、炊飯はギアに任されていた。
「まぁ、蒸気の力で炊きあげるんですか?」
 茜が物珍しそうにギアの手元を覗く。
「そうだ。人界に来て三世紀、これが培ったギアの料理の技だ」
 はぐれ悪魔の美少年は、食材も器用に斬り、手際良く調理していた。かなりの腕前である。
「手慣れてらっしゃいますね」
 はーと感心したように茜が言う。それにギアはツンとした様子で答えた。
「べっ、別に作ってくれる人がいなかったわけじゃ、無いんだからなっ」
 いなかったんだな、という視線が周囲から集まったのは言うまでもない。

●京都冬の陣
 すったもんだの末に各料理が完成し陣内で炊き出された料理が配給され始める。
「……これ……食べる、の……?」
 早速やってきた神埼 律(ja8118)が震える声で言った。
「何だ? 立派に料理じゃないか!」
 魔王もとい菫が自慢げにカレーとライスが盛られた皿を突き出し胸を張った。大炊御門菫、最後まで完成出来た初料理である。
 律の脳裏では、菫が包丁でトマトを爆砕しまな板を斬り飛ばしていた光景が繰り返し再生されていた。先に通りかかった時に偶々野外厨房の様子を目撃してしまっていたのだ。隣に会長がいたので少しは安心材料になっていたのだが、しかし。
(会長がいたからきっと大丈夫なはずなの……!)
 震える手でカレー皿を二つ受け取り「後で感想を聞かせてくれ」という菫の笑顔と言葉に見送られて守備地点へと戻る。
「――休憩にしましょう、なの」
 律はザッと土の音を立てて守備についている亀山 淳紅(ja2261)の背後に立った。ショーダウン。
「あ、ご飯とってきてくれたんー? おおきにねー♪!」
 事情を知らない淳紅はいたって陽気に礼を述べた。
 青年は律から食器を受け取ると、いただきます、との声と共にカレーを口に運び始める。律はゴクリと喉を鳴らしてその様子を見守った。
「……? どないしたん?」
「亀山くん、美味しい、の?」
 青年は笑顔でカレーをスプーンでかっこみながら答える。
「そりゃー、会長さんらが作ってくれはったんやろ? やっぱ美味しいわー!」
「?!」
 律、驚愕の一瞬である。
 少女は半信半疑ながらも口元へとスプーンを運ぶ。
――痛くない。
 食べられる。
 不味くない。
 というか結構、美味い。
「……美味しい! 会長、やっぱりすごいの……! 嫁に欲しいの!」
 律は感動に打ち震えて叫んだ。あの大炊御門さんの料理が食べられるなんてさすが会長なの、と。
 どう考えても会長よりその周囲メンバーの奮闘の功績である。
 二人がカレーを平らげて一息ついていると配給所の方からギアがカレー皿を二つ持ってやってきた。
「カレー作ったから、良かったら……」
 と視線が向くのは空になった皿二つである。
 沈黙。
 二杯目、いけるか?
「まだ喰いたりなかったんや、おおきにな」
 淳紅が笑って受け取る。
「ど、どうしてもってわけじゃないんだからな!」
「このカレー美味いで、ギアさんはもう喰ったん?」
 そんな会話をする。
 他方。
 緋野 慎(ja8541)は疲労から士気が低迷しがちな周囲の撃退士達を持ち前の明るさで励ましていた。
「たっくさん食べるぞー!」
 小等部六年生の少年にとって、炊き出し隊が来るというのは実に楽しみだった。
「あんまり喰い過ぎて腹壊すんじゃねぇぞ坊主」
 儀礼服に身を包んだ長身の親衛隊の男が、ぽんと大きな手の平を慎の頭の上に置いて言う。年の頃は大学部程度だろうか。
「なんだよ、お兄さんだって食べまくるって言ってたじゃないかー!」
「確かに、違いない」
 からりと大男は笑った。
 しかし男が慎を見る瞳は複雑である。こんなに幼い子供までもが戦場に立たねばならないのかと。
 周囲の撃退士達はしっかりしなきゃなぁという思いを抱くのだった。
「お疲れ様です。一杯どうですか?」
 そんな所へソーニャがやってきて甘酒を配った。
「おいしー!」
 慎は紙コップに口つけて温かい甘酒を飲むと笑顔を見せた。
「ホットチョコレートもあるけど、飲む?」
「うん!」
 元気良く慎は頷き、ホットチョコを貰って飲む。とても甘い味がした。
「皆さんもどうですか?」
「すまねぇな」
 大男が礼を言った。
「ううん、ボクはまだ弱くて、戦いではあまり役にたてないから、こんなことしかできないけど……」
 ソーニャは言いつつ容器から紙コップへとホットチョコを注いで渡す。
「はい、がんばってくださいね」
「ああ」
「おねーさん、ありがとうございました!」
 慎はホットチョコを飲み干すと、そうきちんと礼を言うのだった。
 他方。
「腹がッ!! 減ったあああああああああッ!!」
 北面の守備地点で赤坂白秋(ja7030)が空に叫びをあげている。
「叫ばないでくださいよ。でも……ずっと見張りとか……はぁ、確かにお腹減ったなあ……」
 傍らに立つ天羽 伊都(jb2199)が溜息をつく。
「ムサい男に囲まれながら延々延々突っ立ってるだけ……風は冷てえし腹は減ったし……」
 白秋がぼやく。そのままゴロンと地面に横になってしまいそうな程のだらけっぷりである。いつぞやの戦いの時の猛々しさはどこ吹く風か、すっかり士気は低迷中だ。
「あー、ナターシャ様でも攻めて来ねえかな……」
「実際、今使徒に攻めてこられたらえらい事になりますけどね」
 と肩を竦めて伊都。同じくこちらもひたすらダラダラモードである。
 一級フラグ建築士達なる言葉が世にはあるが、ナターシャ様はまずこなかろう。来るとするなら恐らくムサイ連中だ。
 そんなこんなを話しつつ交代の時間になると、白秋と伊都は配給所へと駆けこんだ。
「飯だぁあああああ!」
「今日もご苦労様です」
 配給所では茶色の髪の少女が出迎えてくれた。
「温まりますよ?」
 聖羅は笑顔で白秋と伊都へと豚汁の入ったカップと箸を渡す。
 二人はカップを受け取り口元へと運ぶ。冷え切った身体に温かい豚汁は染み渡った。
「う、うめえ!? 何だこの美味さアドベンティ級ッ!! シェフを呼べえええええ!!」
 白秋が感動の雄たけびをあげている。
「美味しくって……涙出る……」
 豚汁を食べながら伊都、漢泣きである。
「祖母直伝の味なの。沢山あるから、おかわり自由よ?」
 と聖羅が言った。
「それは素敵ですね! 赤坂さんどうです? またとない機会です、どうせなら一つ大食い勝負といきませんか」
 伊都がそんな勝負を持ちかける。
「よっしゃ、乗ったぁっ!!」
 白秋は皿掲げ、スタイリッスなポーズを決めながら喰いまくる"イケメン食い"を発動させ、対する伊都はスキル神速を発動させつつ、ともかく喰いまくってゆく。喰い物が入るとテンション上がりすぎな野郎どもであった。
 他方。
「会長が手料理を……俺たちに振る舞う……!?」
 炊き出しの話を聞いた月詠 神削(ja5265)は慄いていた。
「らしいが……どうした?」
 丁度交代にやってきた久遠 仁刀(ja2464)が問いかける。
「ふ、不安だ」
 神削はそう答えた。
 青年は配給所へと向かい、不安を抱きつつも出されたカレーをぱくりと食べる。
 味の程は、
「おお……!」
 感嘆の声が洩れた。割と美味い。
「きっと、凄く頑張ったんだな……」
 神削はその努力を思って涙をぬぐった。
 まぁ本人も頑張ったのだろう。上手くいったのは周りの功績に拠る所が大きいが。
 カレーを平らげた神削は、ホットチョコのカップを二つ持って茜の所を尋ねた。
 労いと共に友チョコと言って渡す。茜は礼を言って喜んでいた。
 すると、
「私からもこちら、日頃の感謝の気持ちを込めまして」
 と手作りのチョコレートを渡される。
 神削は笑顔で受け取りそして――はたと気付いて笑顔を固まらせた。
「……『手作り』?」
「はい、そうですよっ」
 うふふと微笑して茜。
 神削は言った。
「……つかぬことを訊くけど。チョコの方も練習……したんだよな?」
「……えっ?」
「えっ」
 冬の風が一陣、場を吹き抜けていった。
 流石にチョコまでフォローしてた人いなかたネ。

 他方。
(……うん、やっぱり会長はえらい、の)
 カレーと一緒に配られたチョコを食べた律は、今回の大体の事情を理解していたのだった。


 吹き抜けてゆく京の冬風にマキナ・ベルヴェルク(ja0067)が思うのは、先の西要塞での一戦だった。
 仲間達と共に包囲した上での一撃だったが、かつて手を焼いていた木乃伊は最早砕ける敵と堕し。
 力で駄目なら、直接「終焉」を叩き込んでやろう――とは、ある意味当然の帰結ではあったが。
 思う。
(――駆け抜けて駆け抜けて駆け抜けて)
 総ての敵を砕ける物と堕すれば、求めていた物を得られるのだろうか。
(……或いは、私自身が「終焉」その物に――)
 そこまで思考して、少女は首を振った。
 止めよう、と思った。
 考えても仕方ない。
「私にはこれしかないのだから」
 空を見上げる。
 白い雲が早く流れていった。

 その後、会長のカレーでも頂こうかと配給所へ向かい、これはなかなか美味いと舌鼓を打ち、そして共に出された手作りチョコレートの味に――まぁマキナは味には頓着しない方である。
――頑張って作ったなら、意味があるでしょうから。
 そんな事を思った。


 他方、黒井明斗。
 少年は配給が始まると、他には見向きもせずに会長が作ったというカレーだけを何杯もお代りして食べ始めた。限界を超えてもニコニコしながら食べている。
 準備段階から、会長が気持ちよく料理が出来るようにと、機材準備や材料運び、下準備を一生懸命こなし、陰ながらその力になろうと奮闘していたのである。それも一重に友人である会長が為、友人が苦手な料理で頑張る、その心意気を絶対に無駄にしないと友情に燃えていた。 カレーを残さず食べきる事で、会長に報いようと考えたのだ。
 しかしながら人の身であるなら、いかな撃退士といえども限界は存在する。
 食べに食べに食べたあまり、視界が揺らめき、嫌な汗が吹き出してくる。限界を超える。言葉にすれば僅かに一文、しかし。
 視界が、傾く。
「――おいっ?!」
 誰かの叫びが遠くから聞こえたが、傾きは止まらず、明斗の意識は闇の中に沈んでいった。


――次に明斗が目が覚めた時、そこはベッドの上だった。
「気がつきましたか」
 視線を向けると神楽坂茜が居た。
「あれ……僕は……?」
 身を起こそうとする少年を会長は微笑して手で制した。
「しばらく安静にしていてください――有難うございます。とても、感謝していますよ」
 黒髪の少女は明斗の頭を撫でた。
「でも、だから言います。あまり、ご無理はなさらないでくださいね。過ぎたるは時に色々な物を壊してしまいますから……丁度良い時に、丁度良い物を、丁度良い量だけ、それが道だと申します」
 差出がましい事を申しました、などと会長は言って頭を下げたのだった。
 まぁきっと茜も自らが言った言葉を出来てはいない。


 野外、心なしか翳りを見せる会長を発見した笹緒はスープを差し出した。
「パンダちゃんがじっくりぐつぐつ煮込んだスープだ、味は保証しよう」
 胃痛を抱えながらも、皆のために苦手な分野にもチャレンジする彼女に少なからず感謝の意を込めた、胃に優しい一杯である。
「……有難うございます」
 少女はスープを受け取ると口をつけて飲み。
 一息ついてから、嬉しそうに破顔した。
「とても、美味しいです」


「炊き出し、か……」
 配給所へとやってきた仁刀は呟いていた。
 ずっと京にいる訳でもなし、ここで戦った時も大した戦果を挙げた訳でもないから、己に関しては労われる理由はさしてない気がした。
 美味い物はずっと頑張ってる面々に行きわたる方が良いだろうと、人々の様子からその出来栄えを量っていたが、どれも好評のようだった。
 あやかとナナシとルナジョーカーが余り物で作ったという肉じゃがをいただいてみる。これもなかなか美味かった。
 食後、また守備へと戻りつつ思う。
 京都は天使、四国は冥魔、関西はどこも気が休まらないなと。
「もっとも、それぐらい戦いの場がある方がいいか」
 何もしていない時が多いと落ち着かない。
 のんびりととしていられる立場ではないと認識していた。

 青年は北の彼方、結界に包まれている市街の方とちらりと視線を走らせる。
 いつかは、この奪われた都を、奪り返せる日が来るのだろうか――


 律が言った。
「亀山くん、私達もがんばるの――京都、取り戻すの」
 淳紅は答えた。
「そうやね……次の秋、楓が紅く染まるまでにでも。きっと」
 青い楓の栞を手に、青年は北の都を見据えるのだった。


 了


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Silver fairy・ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)
 パンダヶ原学園長・下妻笹緒(ja0544)
 秋霜烈日・機嶋 結(ja0725)
 太陽の魔女・ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)
 新たなる平和な世界で・巫 聖羅(ja3916)
 駆けし風・緋野 慎(ja8541)
 カリスマ猫・ソーニャ(jb2649)
 スペシャリスト()・ヴェス・ペーラ(jb2743)
 誓いを胸に・ナナシ(jb3008)
重体: −
面白かった!:16人

撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
創世の炎・
大炊御門 菫(ja0436)

卒業 女 ディバインナイト
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
新たなる平和な世界で・
巫 聖羅(ja3916)

大学部4年6組 女 ダアト
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
京想う、紅葉舞う・
神埼 律(ja8118)

大学部4年284組 女 鬼道忍軍
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
戦いの中で戦いを……・
神棟星嵐(jb1397)

大学部6年70組 男 ナイトウォーカー
腕利き料理人・
美森 あやか(jb1451)

大学部2年6組 女 アストラルヴァンガード
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
撃退士・
ルナ・ジョーカー・御影(jb2309)

卒業 男 ナイトウォーカー
カリスマ猫・
ソーニャ(jb2649)

大学部3年129組 女 インフィルトレイター
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
スペシャリスト()・
ヴェス・ペーラ(jb2743)

卒業 女 インフィルトレイター
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍
ツンデレ刑事・
蒸姫 ギア(jb4049)

大学部2年152組 男 陰陽師