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マスター:望月誠司
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/02/01


みんなの思い出



オープニング

 彼はまさしく祈りを捧げる心境であった。
 彼は日本国が京都に在る、神の剣が創りたもう天の門、其を守護する八要塞が一つ、西要塞に詰めるサブラヒナイトである。
 サブラヒ。伺候する、従うを意味する「さぶらう」の古語である。それはサムライ、という存在の元になった言葉だ。侍なのか騎士なのかハッキリしろ、という意見がしばしば天界軍の一部でも交わされているらしいが閑話休題、彼が暫定指揮を取っている西要塞は今、窮地に追い込まれていた。
 城牆上も中庭も撃退士達に制圧され、残すは本丸である監視塔のみにまでなっていたのである。
 おまけに、先の戦いで総指揮官は本丸の屋上から要塞全体の指揮を取っていたのだが、あろう事か撃退士どもからの襲撃を受けて討ち死にしてしまっていた。さらにその補佐を務めていた副長もまた総指揮官と共に壮絶な討ち死にを遂げている。
 人間どもは高所へは容易に行けぬのではなかったのか! と嘆く者もいたが、下手人は人間ではないという噂もあった。真偽の程は、定かではなかったが。事実として解かっているのは、総指揮官は死に、副長も死に、彼が慣れない指揮を引き継いで、彼等は絶対絶命という事だけである。
 彼は祈っていた。
 最早自力では撃退士達を撃退する事は叶うまい。彼等が生き残れる道があるとしたら唯一つ。
――援軍。
 そう、援軍である。
 故に彼は中京城の方角へと祈りを捧げた。どうか、助けてくださいと――

 中京城。
「――と、きっと! かような状況かと思われる故、至急救援の軍を差し向けるべきかと思いまするダレス様!」
 天守の間にて、古風な和鎧に身を包んだ髭面の大男が言った。男の名は新田虎次郎。使徒である。さる有力な天使から京へと送られてきた援軍だ。
 虎次郎よりの長い語りを聞かされていた京都代将こと大天使ダレス・エルサメクは思った。

――こいつは、何を、言ってるんだ?

 と。
 サーバントというのは天界で創られる生体兵器であって、基本的には使い捨ての道具のようなものである。きゃつらにそんな情感などある訳なかろう、というのがダレスの考えだった。
 故に。
「貴様の妄言には付き合いきれぬわこのドタワケがぁッ!!」
 少年は怒声と共に立ち上がると大男の顔面を蹴りつけた。
「む、無体にございまするなダレス様!」
「ふん、貴様が阿呆な事ばかりぬかすからだッ!!」
 ダレスは眉間を指で押さえると溜息をついた。
「だが、しかし、要はあれだな? 救援の兵を送れという事だな? まぁそれには一理はあろう! 八要塞はこの地の守りの要故にな。これを落とさせる訳にはいかぬ。よし、出陣だッ!!」
「お待ちくださいッ!!!!」
「貴様は今度はなんだッ?!」
「御大将自らご出陣される事もございますまい! ここは、この新田虎次郎めにお任せくだされれば! 撃退士など一撃の元に粉砕してみせまする!」
 ダレスは思う。
 このパターンは、駄目なパターンだ。
「えぇい、そうやって出し惜しみなんぞしてるから負けるのだ! 俺は出るぞ!! 今度こそ撃退士どもを蹴散らしてくれる!!」
「お待ちください! 西も南も東も危急なれば、本城を空にする訳にはいきませぬ! どうかどうか、ご自重ください! ダレス様に万一があっては誰がザインエル様が残されたこのゲートを守護できましょう! 御大将は本城でどっしりと睨みをお効かせくだされますれば、後は我々が万事恙無く治めてみせまする! ですから、なにとぞ!! ここは堪え所にござりまする!」
 虎次郎の剣幕にダレスは唸る。京ゲートは彼が創ったゲートではなくザインエルより信頼され預けられたゲートだ。ダレスとしても絶対に失う訳にはいかぬのである。
「……そこまで言うのならば、勝つ自信はあるのだろうな? 失敗は許されぬぞ!」
「我が魔神殺しの太刀に懸けて! 必ずや勝利して御覧にいれまする!!」
「……良かろうッ! ならば今回は貴様に預けてやる! いけぇい!!」
「はっ!!」
 一礼し立ち上がる虎次郎。しかし。
「ああ、そうだ、ちょっと待て。家畜どもの吸収具合はどうなっている?」
 大収容所に囚えられている京市民を指してダレスは言った。
「担当によれば生かさず殺さず調整して吸いだしているとの事ですが……最近は摩耗も激しいと」
「ふん、無気力になり果てるか。一つ殺さぬ程度に痛めつけてやれ! 恐怖、怒り、嘆き、なんでも良い。感情を煽るように伝えろ。あらゆる手段を用いて感情を増幅させ吸いだすのだ!」
「……あらゆる手段、でございますか?」
 虎次郎は眉を潜めた。
「そうだ! 何か問題があるのか?」
「いえ。ただ、ザインエル様なれば、そのようなせせこましい真似は是とはされぬのではないかと……」
 虎次郎は思う。あらゆる手段、というのは、あらゆる手段だろう。感情を煽る方法というのは、色々あるが、効率が良いのは、概ね下衆な真似である。
「だから俺の責任でやるのだッ!! とかく精神の収穫高をあげろ!」
「……はっ」
 それがどういう事か、解かっているのだろうかこの少年大将は、と思いつつも虎次郎は頭を下げるのだった。


 陽が落ちる。
 西の空から差す赤光が要塞を照らし、城壁を紅の色に染め上げてゆく。
 赤光が地上を覆うなら、それは慰めだと昔、誰かが言った。大地に落ちた、血の色を隠すから。
「……くそっ、粘りやがる」
 監視塔の一階。黒髪の青年は焦りを滲ませながら呟いた。
 青年の名は秋津京也。執行部親衛隊長の一人だ。今回は京都奪還部隊のうち西要塞攻略隊の指揮を任されている。
 先の戦いでは日暮分隊等の活躍もあり、攻略隊は守備隊の防御を打ち破って、要塞の城牆と中庭を制圧していた。今は中央に立つ監視塔を攻囲中だ。本丸である監視塔を攻略するに際し、秋津は監視塔の扉からは突入せずに、三方の壁を破壊しそこより突入して監視塔の一階を制圧していた。
 そこまでは順調だった。
 だがしかし、二階への突入は上手くいっていなかった。一気に階段を突破しようとしても、二階からのサーバント達の猛反撃に逢い、どうしても二階に上がれないのだ。学園からの増援も来ているのだが、狭隘の為に数を頼んで攻める事ができなかった。無理に攻勢を仕掛けても被害が増加するばかりである。
(……畜生、屍の山を築くのを覚悟で総攻撃するしかねぇのか?)
 秋津は事実上死ねと指令するのを躊躇っていた。同じ学生なのだ。書記長のようには割り切れなかった。もしも鬼島だったら――きっと秋津と同じように躊躇っただろう。会長なら、どうしただろうか。
『秋津隊長ッ!』
 光信機から悲鳴のような呼びかけが響いた。
「なんだ?」
『外にっ! サーバントが! 城塞が囲まれていますッ!!』
「――ナニィッ?! まだ出撃の報は聞いてないぞッ! 斥候は何やってたッ?!」
『応答がありませんッ!』
「くそ!」
 殺られたらしい。
 秋津は光信機を手に急ぎ指令を飛ばす。
「各分隊プランBに変更! 城牆上を固めろ!」
 撃退士達が迎撃の為に走ってゆく。
 その時、階段からサブラヒナイト達が奇声をあげて一斉に駆け降りて来た。援軍の到来を知って反撃に出たのだ。
(……このくそ忙しい時にッ!!)
 秋津は裏目裏目に出る事態に対して歯軋りし、そして何処かがプツンと切れた。
「よし、逆に好機と思え! 秋津分隊と日暮分隊は突撃だ! 一気に監視塔を陥落させるぞッ!!」


リプレイ本文

「よし、逆に好機と思え! 秋津分隊と日暮分隊は突撃だ! 一気に監視塔を陥落させるぞッ!!」
 秋津が叫び、階段より駆け降りて来たサーバント達は部屋の南東より斜形に広がった。この動きに対し、撃退士側は横線と斜線を組み合わせたような形状で展開する。
 位置関係。
 東壁にある大穴より北西の位置より東から、長い黒髪の凛とした娘、天風 静流(ja0373)が立ち、その西隣に年の頃十一歳程度に見える小柄な銀髪少女のブリギッタ・アルブランシェ(jb1393)が並ぶ。その西隣にブリギッタよりさらに小柄な青髪青眼の少女雪室 チルル(ja0220)が大剣を構えて立ち、その隣にスタイル抜群の銀髪魔女ナタリア・シルフィード(ja8997)が杖を手に立っている。ナタリアの西隣には、猫耳の様な髪型を持ち黒猫を連想させる穏やかな雰囲気の少年、鑑夜 翠月(jb0681)が控えていた。
 各員、横一直線に並んでいる。鑑夜が立っている位置が、部屋のほぼ中央だ。
 鑑夜の前、南側に秋津が立っていた。
 秋津の西隣には日本人離れした容姿を持つ銀髪紫瞳の少女、御堂・玲獅(ja0388)が盾を構えて展開し、御堂の西隣には銀髪紫眼の悪魔の娘ユーノ(jb3004)が並び、ユーノの南に御幸浜 霧(ja0751)が大太刀を構えて立っている。御幸浜の南西に黒髪の少年、鳳 覚羅(ja0562)が東を向いて構え、同じく鳳の南にカラード団長の黒忍軍リョウ(ja0563)が東向きに展開している。
 そして鳳とリョウの背後には部屋の西壁がある、という寸法だ。
 サーバント側は南の大穴前から、骸骨指揮官が北東へと四体が北面して斜線状に並び、その前にそれぞれ一体づつサブラヒナイトが並んでいる。便宜上、北東よりそれぞれをA〜Dとする。
 骸骨指揮官Dの東隣にコボルトB、骸骨指揮官Cの東隣にコボルトCが立っていた。現在一階に降りて来たサーバントの数は十体。
 急変する場の中で真っ先に仕掛けたのはチルルだった。
「――わかったわ! さっさと落としてみんなで帰ろう!」
 混迷した状況だが細かい事を考えるよりも先に全力全開。小柄な青髪少女は両手持ちの直剣を弓矢を引き絞るように構えその先端に光を集めて力場を形成、眼前の木乃伊武者を睨み、突き出す動作と共に白輝の波動を解き放った。ブリザードキャノンだ。
 轟音と共に吹雪の如く真白に輝く猛烈なエネルギー波が撃ち放たれ、南方向へと一直線に飛ぶ。
 迫り来る氷晶の輝きに対して最前列を駆けるサブラヒナイトAは左斜め前方へと踏み込みながら素早く身を沈ませた。氷の波動が武者の肩当てをかすめて後方へと抜けてゆく。そのすぐ後ろに続いていた骸骨指揮官Bは氷晶の直撃を受けてよろめき。氷晶波はさらに突き抜け最後尾のコボールトAへと襲いかかり、これにクリティカルヒット、ふっ飛ばしながら突き抜けてゆき南壁に炸裂して止まった。
 氷晶波を掻い潜ったサブラヒナイトは次の刹那、もう一歩、右足を踏み込ませ、身を捻りざま稲妻の如くに鋭い逆袈裟の斬撃を繰り出した。刃が一閃され、チルルは咄嗟に身を捻って装甲の厚い胸当て部分で受け止める。刃が鎧に中って火花が散り、突き抜ける衝撃に息が詰まった。負傷率一割八分。
「ここまで来たら攻め落とすだけか。下手に尻込みする方が危なくなりそうだしね」
 次に反応が素早かったのが天風、基礎が高い。
 長身の女は長く艶やかな黒髪を宙に踊らせながら灰色のリボルバーを片手を伸ばして構える。それはバレルにルーン文字が刻まれたカスタム銃だ。天風が使いやすいように調整されている。
 敵味方全体、一瞬の間に動き出している。鈍く輝く長剣を振り上げ天風の隣のブリギッタへと飛びかかろうとしている骸骨指揮官Aへと狙いを定め、発砲。轟く銃声と共に銃口が火を噴き、弾丸が飛び出した。唸りをあげて弾丸が飛び、骸骨指揮官の肩骨を捉え、一撃でぶち抜いて貫通してゆく。
 凶悪な衝撃によろめいたその骸骨指揮官へとブリギッタもまたすかさずシルバーマグの銃口を向けていた。夕焼け色の瞳で冷徹に骸骨を見据え、両手で銀銃を保持、トリガーを絞って発砲。発砲。発砲。傭兵一家の一人娘だ。銃の扱いは手慣れている。魔法陣が描かれた銀銃より飛び出した強装弾が次々に骸骨へと突き刺さってゆく。確実に仕留めんと殺意の込められた銃撃。仲間や友達は大切にするブリギッタだが、反面敵対者には容赦が無い。
 骸骨指揮官Aは黒髪の娘と銀髪の少女からの激しい銃撃を受けて崩れ落ちる。
 他方。
 室内西側に位置するユーノ、南東の木乃伊武者を紫眼で睨む。はぐれとはいえ、天界に属する者への感情は変わらず良くはない。
「せっかくここまで攻めた砦、取り返される訳には参りませんの」
 クールな声音と共に雷帝霊符を構えて招雷、刃と化させて撃ち放つ。冥魔の雷刃が唸りをあげて飛び、北へと踏み込まんとしているサブラヒナイトCの身を撃ち抜いた。レート差が乗った雷刃が武者の鎧を貫通し、その奥の干乾びた身を灼き斬り裂く。
 逆撃は敵味方共に失敗した側がより手痛い。押し負ける訳にはいかない。
「このタイミングで敵の増援か……」
 西端の鳳。チルルのブリザードキャノンと十字砲火するように封砲、は活性化されてないので即座に撃てない故に、状況から見て最善と思われる手持ちで代用、黒焔を纏う金瞳の少年は数珠を絡めた右手を翳した。
 氷の結晶を掻い潜った木乃伊武者へと狙いを定めるとアウルを籠めて光の矢を撃ち放つ。黄金色の閃光が宙を翔けて唸り、青髪の少女へと太刀を叩き込んだ木乃伊武者の身を側面から撃ち抜いた。光の矢が武者の鎧を鎧を貫いて突き立つ。
「確かに、早く攻略しないと挟み撃ちでこっちがジリ貧だね……」
 少年は予想外の事態におかれても冷静に状況を分析していた。
 鳳は己にかけているものがある。マインドセット。自己暗示。天魔を屠る為に研がれた戦闘体系。焦りは滲ませない。『血は知と也て天魔降伏する利剣とならん』と祝詞と共に魔具には血文字が描かれており、その威力を増大せていた。
 部屋の中央付近に立つナタリア、阻霊の力を展開している。ダアトでその位置、一見危険だが、作戦のうちか。
 シルバーブロンドの美女は、全長140cm程度の長杖を掲げ、精神を集中させてセルフエンチャントを発動させた。
 ライトニングロッドより力が引き出され魔力が上昇してゆく。
 他方。ユーリの東隣で長方形の大盾を構える御堂玲獅、室内、敵味方の動きを睨みつつコメットを発動していた。できるだけ多くのサブラヒナイトや後方のサーバント達を押え込みたい。味方への誤射を避ける為に爆心点からの距離的余裕も欲しい。
 銀髪紫瞳の少女は南東のコボールトを中心点に狙いアウルを開放する。次の刹那、無数の彗星群が発生し部屋内で荒れ狂った。
 降り注ぐ彗星群に対し、最北東の鎧武者はチルルへと踏み込んだ為に範囲外へ逃れた。その南西のサブラヒナイトもナタリアへと突進している為にその後方に彗星が落ちる。サブラヒナイトCも秋津へと踏み込んで範囲外へ回避。骸骨指揮官Bもよろめきながらも素早く身を捻って彗星をかわした。
 範囲が広い。骸骨指揮官Cへも彗星は唸りをあげて襲いかかり、これに直撃して白骨の身を撃ち抜いた。チルルからの氷砲を受けて転倒したコボールトの腹に彗星が炸裂、狼頭の獣人は押し潰されて短く悲鳴を発し、白目を剥いて動かなくなる。撃破。最も南の位置のもう一体のコボールトにも彗星が直撃し衝撃を撒き散らす。
 骸骨指揮官CとコボールトBの動きが僅かに鈍くなる。彗星による重圧が発生していた。
 同時。
(ここを抑えれば随分と楽になる、か。指揮官殿の判断は正しいな)
 リョウはそんな事を思いつつ、アウルを集中させて黒雷槍を発動させていた。
「京也、左を!」
 サブラヒナイトBへの抑えを秋津へと要請しつつ、槍を現出させ踏み込んで投擲する。
「旅団【カラード】が長、リョウ。全力でいかせて貰おう」
 黒雷を纏った槍が、黒い閃光と化して西端から東へと飛び、御堂からの彗星を受けてよろめいた直後の骸骨指揮官Cを貫通して抜けてゆく。冥属性によって威力が増大した破壊力が荒れ狂い、白骨の身が粉砕された。半身を砕かれた骸骨は床に転がり、それきり動かなくなる。撃破。
 サブラヒナイトBがナタリアへと鋭い太刀の切っ先を向けて流星の如くに突きかかり、その間へと秋津が素早く割り込んでランスを振るう。槍と太刀が交差し、木乃伊武者の胴に穂先が叩き込まれ、太刀が秋津の槍の柄に弾かれた。
 秋津が横に逸れた為にスペースが空く。北へと踏み込むサブラヒナイトCはそのまま鑑夜目がけて突撃せんとする。しかしそれには御堂が進路上に割って入った。
「させません」
 銀髪の娘は一歩横へと移動。木乃伊武者は突進の勢いを乗せて八双から袈裟斬りの斬撃を放ち、御堂は大盾を掲げた。一閃の刃と長方形型の大盾が激突して火花が散り、鈍い音と共に衝撃が巻き起こる。御堂、負傷率七分。
 他方。鑑夜。少年もまたアウルを集中させている。
 京都の戦場は初めてだ。
 少女と見紛うばかりの容姿をした穏やかな少年は戦闘突入前に「みなさんがここまで攻めてくれましたし、なんとしても監視塔は攻略しましょうね」と柔らかく語っていた。
 今、少年は戦場に立ち、暗緑色のオーラを全身から焔の如くに噴出しながら魔法書を掲げる。極力サブラヒナイトを狙いたい。仲間の範囲攻撃が次々に炸裂してゆく光景を見据えながらタイミングを計りファイヤーワークスを発動、気合いの声と共に力を解き放つ。
 次の刹那、色とりどりに鮮やかな、鮮やかなまでに壮絶な破壊を秘めた、無数の猛爆裂が咲き乱れた。炎の芸術。
 紅蓮の炎が荒れ狂ってチルルと斬り結んでいるサブラヒナイトを呑み込み爆破した。猛烈な爆裂に木乃伊武者の鎧が破砕されてひび割れ、その中身が灼き焦がしてゆく。半壊。
 秋津と打ちあっている木乃伊武者へも蒼白い炎がその舌を伸ばし、熱波と共に爆裂を巻き起こして、やはりその鎧を破砕した。冥府の業火に木乃伊が焼き焦がされてゆく。半壊。
 御堂の大盾に太刀を打ちこんだ直後のサブラヒナイトは素早く反応し、低く身を沈めて緑光の爆裂波を間一髪で回避。
 骸骨指揮官Bへも黄金色の炎が爆ぜて逆巻く熱波を巻き起こし、骸骨はそれにまともに呑み込まれて爆砕され、消し飛ばされた。撃破。
 ナイトウォーカーの強烈な魔力に多大なカオスレート差が乗った壮絶な破壊力。強固を以って鳴らすサブラヒ軍団がまとめて虫の息だ。冥夜を渡る者相手に密集したらあかんらしい。
 猛爆裂が荒れ狂う中、最南西のサブラヒナイトは北西へと踏み込み槍を放った直後のリョウへと斬りかからんとしていた。しかし、その側面、北側から御幸浜が鋭く踏み込んで大太刀を一閃させている。
 黒髪の少女が落雷の如くに振り下ろした惟定が、木乃伊武者の肩口の炸裂し鈍い音と共に衝撃を巻き起こした。対物障壁を纏う鎧に身を包むサブラヒナイトは、身を衝撃に揺るがせつつも猛然と身を捻りざま、逆袈裟の反撃の太刀を御幸浜へと繰り出す。閃光の如くに走った太刀に対し、黒髪の少女はシールドを発動、凧形の盾を出現させて受け止める。轟音が鳴り響き、激しく火花が散った。
 剣と盾を合わせながら、御幸浜は武者を睨んで言った。
「京都は人間のシマ。いい加減に返していただきましょうか」
 他方。
 最も南端にいた骸骨指揮官Dは、室内で繰り広げられている攻防の間を縫ってユーノへと素早く接近すると中段の構えから踏み込みざま、面へと長剣で打ちこみをかける。銀髪紫瞳の娘は咄嗟に首を振って眉間への一撃は避けたが、振り下ろされた切っ先はそのまま肩口に喰い込み、服と肉を斬り裂きながら下方へと抜けてゆく。熱さと共に痛みが走り、赤い血飛沫があがった。負傷率五割一分。
 コボールトBもまた重力に動きを鈍らせつつもブリギッタへと突撃している。低い位置から這うように間合いに踏み込んで来た獣人は、血走った目を殺意を宿し、ブリギッタの顎を狙い、奇声を発しながら鈍く輝く剣の切っ先を突き上げる。
「甘い!」
 ブリギッタはシールドを発動、大盾を出現させると身を捻りざまに盾を振るった。切っ先と盾が激突し、鈍い音を立てて打ち払われた剣が横へと流れてゆく。
「出し惜しみは無しだ」
 天風は和槍を出現させざまに床を破裂させるような音を立てて踏み込み、蒼い光を纏った中段突きを繰り出した。
 管槍の機構から加速されて放たれた一撃が、再度ブリギッタに斬りかからんと剣を振り上げていたコボールトの胴に吸い込まれるように炸裂し、レート差によって増大した壮絶な衝撃力を解き放って獣人を吹き飛ばした。
 くぐもった悲鳴をあげ、宙に赤い色を撒き散らしながら砲弾のように吹っ飛んだ狼頭の獣人は、その背を南壁に叩きつけられ、次いでうつ伏せに床に倒れた。そのままピクリとも動かない。撃破。
 木乃伊武者は黒い双眸を鋭く向けてくる黒髪の少女へと、包帯に覆われた眼窩を向けると、奇声を発しつつ一度後方へ右足を後方へと引きつつ退き、左手を前に、太刀持つ右手を後ろへと引いた。
 目が包帯で覆われているが、見えているのだろう。御幸浜が大太刀と盾を構え直すと同時、御幸浜の右手側へと鋭く踏み込みながら盾をかわすように横薙ぎの斬撃を放って来た。
 黒髪の少女は一歩後退しつつ身を捻り大盾に角度をつけつつ素早く合わせて斬撃を下方へと受け流す。武者の身が泳いだ所へすかさず太刀で斬り降ろしの斬撃を放った。刃が武者の鎧に中って鈍い音が鳴り響く。
 木乃伊武者と御幸浜が斬り合っている間に、リョウは膝にバネを溜め、半回転しながら跳躍した。宙で身を捌いて足裏を南壁に叩きつける。すると、忍び装束に身を包んだ男のブーツの裏は、まるでそこが大地であるかのように吸着した。
 南壁に張り付ついたリョウは壁を黒雷の如くに駆け登ってゆき、天井付近で身を捻りざま、北へと向かって黒槍を撃ち降ろした。
 黒い閃光と化して飛んだ雷纏の槍が、ユーノへと斬りつけていた骸骨指揮官の身を横手から突き刺さり、貫通して抜けてゆく。黒い電撃がその身を巡り、骸骨指揮官の足が止まる。麻痺だ。
 それでも一階最後の骸骨指揮官である彼は顎を開いて歯を剥き奇声を発して、ユーノへと再度横薙ぎの斬撃を放つ。手だけで振るそんな一撃が中るものではない。ユーノは軽やかに後方に跳躍して斬撃をかわしつつ、眼前の骸骨を見据えて霊符を掲げた。
 天界の尖兵、サーバント――あるべき中身を無くした紛い物の器。憐れみを、感じない訳ではない。せめて美しく輝いて逝くと良い。
「爆ぜなさい」
 骸骨の、人の成れの果てのその足元に、光の魔法陣が出現した。炸裂陣。猛烈な爆発が吹き上がり、骸骨は爆裂に呑まれて身を次々に砕け散らせながら崩れ落ちてゆく。撃破。
 銀髪の娘は紫瞳を細めた。
 砕け散る、骸骨のその奥で、秋津も巻き込まれて爆破されてたようにちらと見えたが、頑丈なディバインだから大丈夫だろう、うん。
 他方。
「こっちは抑えるわ! 今のうちに!」
 チルルが叫んだ。
 鑑夜の爆炎を喰らって身を半壊させている木乃伊武者だったが、それでもなお顎を開いて奇声を発し、太刀を光の如くに一閃させる。
 青髪の少女は大剣を消すと、細やかな装飾の成された杖を出現させつつ氷甲『スノーパーティクルズ』を発動、己の周囲に氷粒子を展開して還流させた。サブラヒナイトから振るわれた刃は、氷粒子に当たって勢いが弱まり、さらに金属鎧に中って弾かれる。
「任せなさい」
 ナタリアがチルルの言葉に応えた。銀髪の娘はアウルを全開に雷の杖を掲げファイヤーブレイクを発動。増幅された魔力が渦巻き紅蓮の火球が杖の先に出現して巨大に膨れ上がってゆく。
 全身から暗緑のオーラを吹き上がる鑑夜もまたパンデモニウムを翳してアウルを集中、再度ファイヤーワークスを発動させる。
「――いけ!」
 ナタリアが杖先を振るうと巨大な火球が勢い良く撃ち放たれ、それは床に中ると炸裂し、爆音と共に猛烈な大爆発を巻き起こした。荒れ狂う熱波が膨れ上がり室内を包み込んでゆく。
「これで!」
 鑑夜から巨大火球に重ねるように撃ち放たれた色とりどりの無数の火炎もまた、次々に壮絶な大爆発を巻き起こす。
 炎の饗宴、二重の熱波が、秋津と斬り合っていた木乃伊武者を焼き焦がして消し飛ばし、御堂へと太刀を突き出していた木乃伊武者もまた爆砕して消し炭に変え、御幸浜と斬り合っていた木乃伊武者もまた炎は呑みこんで、猛爆破して消し飛ばした。残骸達が、床に落ちて乾いた音を立ててゆく。
 骸骨指揮官は既に全滅し、コボールトも全滅している、今三体の木乃伊武者が焼き払われ、残りは一体となった。
 鳳、最後に残った、チルルと鍔迫り合いをしている木乃伊武者へと光の矢を鋭く放ち、御堂はロザリオを掲げて眩く輝く光球を撃ち放った。ブリギッタもまた和槍を出現させて裂帛の気合いと共に突き出す。
 光の矢と光球が次々に木乃伊武者の身に炸裂し、よろめいた所へ槍の穂先が放たれ突き倒される。サブラヒナイトは仰向けに床に倒れ、それきり動かなくなった。撃破。
「おぉ」
 チルル、既に一階の敵が全滅したのを見て感嘆の声をあげた。
 サブラヒナイトはとても硬く、過去に手を焼いた記憶があったので、もっと苦戦すると思ったのだが、割と速攻で殲滅できた。味方の火力が半端じゃない。
「次が来たね」
 鳳は部屋の南東へと駆け、紅蓮の鋼糸を鋭く放った。それは上階へと続く階段から勢い良く駆け降りて来た骸骨兵の身に絡みつき切り裂きつつ動きを阻害する。再び銀銃へと持ち替えたブリギッタから弾丸が飛び、骸骨兵の頭蓋を撃ち抜いて破砕した。
 崩れ落ちる骸骨兵のその奥からさらに骸骨兵が出現し鳳に斬りかかる。鳳はシールドを発動し炎熱の鉄槌を出現させて打ちこみを受け止めた。ナタリアはファイヤーブレイクにコンセントレートを入れ替えて活性化。鑑夜、ヘルゴートを発動、冥府の風を纏いアウルの力を増大させている。
 続々と骸骨達が二階より降りて来る。
「止めるぞ」
 南壁に張り付いているリョウが言って、漆黒のカラードの長、本日三度目となる黒雷の槍を出現させる。骸骨指揮官を巻き込むように狙って投擲。階段手前を通り抜けようと骸骨指揮官と二体の骸骨兵士がまとめて薙ぎ払われて足が止まった。後続が詰まる。
「囲みましょう」
 御堂が言って前進し、チルル、天風、ユーノも駆け出す。御幸浜は扉の方へと向かった。
 御堂は、前が止まって身動きの取れない階段上のサーバント達へと全力でコメットを発動した。密集して逃げ場のない階段上で彗星が次々に炸裂し、轟音と共に破壊が巻き起こってゆく。こいつぁ、鴨撃ちだ。
「増援は、ちょっと遅かったですわね」
 階段の元へと辿り着いたユーノが霊符を掲げた。壊雷を発動。あと五秒早ければ、結果はかなり違っていただろう。だがもう遅い。インサニア・コンターギオ、銀髪紫眼の娘を中心に魔力を伴う電界が発生し、サーバント達を呑み込んだ。骸骨兵達の意識がユーノに干渉され、かき乱されてゆく。
 電界を受けて骸骨兵士達は進むも退くもできず、意識を乱されて混乱し、剣をめちゃくちゃに振るって同士討ちを開始した。一階には八体ものサーバント達が増援に来ていたのだが、既に半壊状態に陥らされてしまった。
 それでも、味方の屍を踏み越えて、彗星と電界の死の領域を乗り越え、二体程の骸骨兵士が階下に突進して来たが、待ち構えていた天風の槍にカウンターで吹き飛ばされ、チルルの氷砲に吹き飛ばされて沈んだ。
「……終わったかな?」
 構えつつ、二階よりさらなる敵の気配がないか探りながら鳳が呟いた。今の所、その気配は無い。
「あたし達の勝ちね!」
 大剣を振り上げてチルルが言った。
「気を抜くのはまだ早いかもしれんぞ」
 リョウがスキルを入れ替えて新たに空蝉を活性化しながら言った。この場は勝ったが、他がまだ戦闘中の場合、戦場では何が起こるか解らない。
「外はどうなっている?」
 秋津が扉の方へと振り返って声を投げる。
 外からの増援警戒の為に西扉から監視塔外へと御幸浜は出ていた。
 監視塔前に立った御幸浜が見たのは、大盾を左手に右に剣持つ骸骨兵が一体、味方の撃退士達の守りを突破して猛然と御幸浜、というか監視塔の入り口目がけて突進して来ている所だった。
 思わず身構えたが、上空から散弾が撃ち降ろされ骸骨兵は中庭に沈んだ。黒い翼の少女が翻って城牆上へと戻ってゆく。
「……万一に備えて、守りは固めておいた方が良いかもしれません」
 御幸浜は振り返って秋津に答えた。
「そうか。態勢を立て直したら他所の援護に向かおう。重傷者は、いないようだな。スキルの入れ替えを行っておけ。隊を二つに分ける。構成は――」
 秋津が言って、撃退士達は再出撃の準備を整えると二手に分かれ、それぞれ二階と正門へと向かったのだった。


 結果。
 結論から言うと、備えは杞憂に終わった。
 正門守備隊も日暮分隊も勝利を納めており、使徒と城牆を四方から囲んでいたサーバント達は退却、監視塔内のサーバント達は殲滅された。
 かくて西要塞は陥落し、久遠ヶ原学園の旗が、要塞に翻る事となる。
 京を占拠する天界勢の一角が、ここに切り崩されたのだった。


 了


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
撃退士・
天風 静流(ja0373)

卒業 女 阿修羅
サンドイッチ神・
御堂・玲獅(ja0388)

卒業 女 アストラルヴァンガード
遥かな高みを目指す者・
鳳 覚羅(ja0562)

大学部4年168組 男 ルインズブレイド
約束を刻む者・
リョウ(ja0563)

大学部8年175組 男 鬼道忍軍
意外と大きい・
御幸浜 霧(ja0751)

大学部4年263組 女 アストラルヴァンガード
白銀の魔術師・
ナタリア・シルフィード(ja8997)

大学部7年5組 女 ダアト
夜を紡ぎし翠闇の魔人・
鑑夜 翠月(jb0681)

大学部3年267組 男 ナイトウォーカー
伝えきれぬ想いを君に・
ブリギッタ・アルブランシェ(jb1393)

高等部2年2組 女 ルインズブレイド
幻翅の銀雷・
ユーノ(jb3004)

大学部2年163組 女 陰陽師