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マスター:水谷文史
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/11/01


みんなの思い出



オープニング

●ソリッドなシチュエーションでLOVEがそぉい。

「はいはい! お疲れサマでしたーんっ!」

 PM9:00。――夜の久遠ヶ原学園。

 学園の生徒達が文化祭の準備に汗を流す教室で、パンパンと手を叩き、男子生徒が叫ぶ。
「いやはや、良くガンバってくれました! オカゲで文化祭の出店に間に合いそうだねーんっ。それもこれも、手伝いに馳せ参じてくれたアルバイトの皆さんのオカゲだ!」
 男子生徒――大学部3年の佐々倉斗夢(ささくら とむ)が、死体よりも白い色をした顔に人畜無害そうな笑顔を浮かべて、アルバイトの撃退士達に頭を下げた。

 今は、文化祭の前夜。

 夜の学園に遅くまで電気が灯り、学生達が眠い目を擦って準備をしているなか、佐々倉の部活も御多分に漏れず、人手と時間を欲していたのだ。
「タイムリミットも近づいてたってのに、ぜっんぜん準備クリアの兆し見えなくてさぁー! 思い切って斡旋所に駆け込んで正解だったね、実際!」
「はい、こちらも声をかけて頂けて良かったと思っておりますよ」
 かっちりと制服を着た黒髪の女子生徒が、額の汗を拭って軽く微笑む。
 元自衛官の大学部女子・黒峰 夏紀(jz0101)は、佐々倉から依頼をうけて出店の準備を手伝っていたメンバーの――つまり貴方たちのメンバーの――1人だった。
「文化祭の活気に貢献してくださる方々には、わたしも可能な限り協力したいと思っておりましたので。良い機会でありました」
「おやおや、噂に聞いていた性格と印象が違うねっ? 君は遊びや部活やチャラチャラした学園生活が嫌いなんじゃなかったかな? かな?」
 黒峰夏紀と言えば生真面目一辺倒、嫌いな四字熟語は余暇休日というような努力と秩序と融通の利かなさの塊ではなかったか。
 だが、言われた夏紀は、温かみを込めて苦笑した。
「もちろん、公序良俗に反する不健全なものは取り締まるべきと思いますよ。ですが、文化祭は学園の公式行事でありましょう! 生徒同士の親睦を深めることも、わたしたち撃退士にとっては大切なことでありますから」
 真面目なことに変わりは無いが、何やら心境の変化があったらしい。
「ふーん、親睦、ねぇ……」
 不敵にして不健康な白い笑みを覗かせた佐々倉が、教室へと戻っていく。
 夏紀や貴方たちも、彼に続いて――。

「うわ、いったい何を作ったのでありますか……!?」
 目に飛び込んできた『それ』に、夏紀は目を大きくした。

 手伝いをしていた――とはいえ、夏紀たちは教室の外で彼らの指示を受けて買い物をしたり、何かの部品を組み立てたり、雑用をこなしていたに過ぎない。
 だから、教室内で佐々倉の部員たちが組み上げていた『ソレ』がどんなものなのか見るのは初めてだった。

 部屋のなかにあったのは――『部屋』だった。

 ロシアのマトリョーシカのように、教室の中にみっしりと、扉が一つだけついた漆黒の立方体が詰まっていたのだ。
「鉄の箱、でありますか……?」
 その密度と物々しさに、夏紀が思わず身を引く。
「んやんや、鉄じゃあないよ? V兵器モドキさ! 盾とか矛とかの素材をナンヤカンヤして強靭かつゴージャスに再構築した、破壊不可能な、その名も『デス箱。』に御座ーいっ!」
「で、『デス箱。』……?」
「そそっ、D・E・A・T・H。デス。死の箱さ! 我々、デスゲーム研究部、略して『デスゲー部』の血と汗とその他の体液の結晶、『ソリッドシチュエーションホラーフィーリングカップル装置』、『デス箱。』!!」
 うん。
 もうダメな何かしか感じない。
 誰かの悪意とお約束的な悪夢が透けて見える。
「……怪我人が出そうですので、すぐに解体のお手伝いもいたしますね」
「ノー! 断じて! 無欠に! 安全そのものデスってば!」
 真っ白でキラキラとした笑顔でぶんぶんと手を振る佐々倉。
 夏紀は、訝しむ心MAXな目を彼に向け、軽く咳払いをした。
「誤魔化しは無駄でありますよ。わたしは、ホラー映画は、まあ、観る方なのでありますが――」
 佐々倉に手を握られる。
「同士よッ!」
「いえ、嗜む程度でありますので……」
 嗜む以外に何があるのか。
 咳払い。
「――とにかくです! これは絶対、入ったら最後、閉じ込められた人々が残酷な目に遭う類の装置でありましょう! 信じ難いであります! 文化祭にそんな物を放って許される筈がありません!」
「違ぁーうって! 誤解だってば! 出れるよ! ちゃんと! 楽勝で! 無血に!」
 ドライバーを掴んで今にも装置を破壊しにかかりそうな夏紀に、佐々倉は立ち塞がり、『デス箱。』のルールが書かれたチラシを掲げた。


【ですばこっ!】
 企画:デスゲー部   場所:久遠ヶ原学園第10×旧部室棟。

 8人で飛び込む六畳一間! 仄暗い密室で気になるあの人と急接近!?
 両想いの相手を(強制的に)見つけて「はぐ」&「ちゅー」♪
 4ペアの「ちゅー」が確認されればトビラは開かれる!☆
 箱の中にはドッキドキなクエスチョンタイムのミニゲームもっ!?
 さあ、命の扉の鍵は、あなたの恋!★
 恋しなきゃ死ね。DEAD OR LOVE.


「極限状態でのフォーリン・ラヴ。いえすっ、あなたもフィーリング・カッポ……ぐふっ!?」
「撃退士にあるまじき破廉恥さであります……!」
 チラシの文句を引き継いだ佐々倉を押しのけ、顔を真っ赤にした夏紀が『デス箱。』に歩み寄る。手にはドライバー。破壊の意志と正義は我が手に。
「待った!!」
 佐々倉の叫び。
「部活の出し物を勝手に壊す権利は誰にもナイはずだ! どうしても『デス箱。』を解体すると言うのなら執行部とかなんかその辺の偉い人達の許可をとって貰いたいねっ!」
「う……」
 正論。
 夏紀が口惜しさで一杯に睨む先、佐々倉斗夢はニヤとほくそ笑んで踵を返す。
「ハナシはそれからってコトさっ。じゃあ、僕らは明日、早いんでね。この辺りで失礼するよ!」





「信じ難いです! 生徒を閉じ込めて、そんなことを強請するなんて……っ、撃退士ともあろうものが公式な文化祭で白昼堂々、不埒に過ぎます!」
 デスゲー部が去り、手伝い組の8人しかいなくなった教室で夏紀が頭を抱える。

 まあ、それなりに普通ではない人々が集まる久遠ヶ原学園だ。
 この程度のぶっ飛び具合なら、むしろ刺激があって良い遊び場になるかもしれない。
 しかし、現実問題として、本気でルールが嫌になった純情な生徒達が密室の中で泣き喚いた時、あのデスゲームマニアな部長が素直に即時解放をするかと言うと、微妙。
「勝手に破壊してしまうのも流石に逸った行為でありますので……ここは執行部の方々へ報告をして、判断を委ねましょう」
 夏紀は、キッと『デス箱。』を睨みつけ。
「装置の情報だけは押さえていかなくては……。少し、内装を写真に収めてきます!」
 夏紀はすたすたと『デス箱。』の扉を潜り、奥の闇に消える。
 え?
 なんとなくアカン雰囲気に気付く面々。待て待て待て待て。一同も各々の感情を胸に抱きつつ、彼女を追った。で。

 ガシャーン!!!!

「わ……えっ!? 扉が……開かない……!?」

 \ ぴろりろりーん /

『デス箱。へようこそ! 恋しなきゃ死ぬ☆ ゲーム・スタート!♪』(人工音声)

 ……ですよねー。

 かくてお約束は起動し、デスゲームが回り出す。
 誰もいない夜の校舎。待つのは餓死か恋人の手料理か。
 囚われの撃退士達の運命や、如何に。


リプレイ本文



「これは困ったことになったね‥‥」
 桜木 真里(ja5827)が苦笑しつつ嘆息した。はぐ&ちゅーをしなきゃ出られない部屋に人数は計ったように男4×女4。あげく監視カメラとはデスゲー部も趣味が悪い。

 こんな‥‥こんなの――

(こんな面白いの乗らない訳ないでしょ!)
 キリッと整った顔で、嵯峨野 楓(ja8257)がばーんと壁を叩いてガッツポーズ。脱出という大義名分のもとにセクハラし放題なんて(※違います)夢のよう、せっかくの祭りですしウェヒヒヒ。
「はぐ&ちゅーだとは…なんて過激な…っ」
 一方、水無月 ヒロ(jb5185)は真っ赤な顔に手を当てていた。思春期真っ只中の健全な彼はドギマギと落ち着かない。
「申し訳ありません、巻き込んでしまって…」
 謝る夏紀に、加茂 忠国(jb0835)は真剣な表情になる。
「ふっ、話に聞いていた時から素晴らしいモノだと思っていましたよ、デス箱。」
「え?」
 がしっと忠国は夏紀の手を握った。困惑した夏紀へ彼は心の声を叫ぶ。
「これこそ私が望む理想郷! さあ夏紀ちゃん、先陣を切って、私に熱い抱擁とキッスをっ!」
「お、落ち着いてください加茂撃退士っ! 流石に手を出しますよ!?」
「えぇ!是非とも出しちゃってください!この私の体のどこにでもあはんっ!!」
 ばちーん!
 赤面した夏紀の平手を食らい、忠国は吹き飛んで床に激突した。第一の犠牲者を眺めネームレス(jb6475)は内壁をノックする。
「よくもこんなモンを学生が作るもんだな。で、どうする。俺は急ぐ用も無ぇが」
「ええ。朝になれば誰かが気付くでしょうし、待ってもいいですわ」
 紅華院麗菜(ja1132)が年齢に似合わぬ上品さで頷く。装置を悪趣味とは思ったが、まあ。
「‥‥黒峰さんみたいな真面目な方の焦る姿はちょっと面白いですし」
「紅華院撃退士まで何を!?」
 室内の様子を見つつ、エヴェリーン・フォングラネルト(ja1165)は首を傾げた。
「夏紀さん、どうしてお顔が真っ赤なのでしょー?」
 この状況の一体何が照れるのか。

「ハグとちゅーなら、リィはよくするですよ?」

 ――!?(一同)

「本当ですか素晴らしいですね!」
 がばっと忠国が復活。
「あーでもハグの意味が少しワカラナイので私と実演を」
「待った。待って」
 下手をすれば皆の貞操の最後の砦となりそうな真里が、エヴェリーンに向き合う。
「えっと、何か勘違いしてるんじゃないかな。その…はぐとかのこと」
「えっ、外国の挨拶ですよね? ぎゅーってするのですっ」
 身振り手振りで説明する少女に、真里は頬を掻き。
「違うかな。口と口‥‥だと思う」
 真顔で固まるエヴェリーン。徐々に赤面して、
「ちゅ、ちゅーって! ほっぺとかじゃ、無いのです!?」
「うん」
「じゃあリィも嫌ですー! ファーストちゅーも未だですのにー!」
「あー桜木君!せっかく無防備な女の子になんてことを! 怖がってるじゃないですか!」
「加茂さんをね」
 ぶーとムクれた忠国に真里が冷静にツッコミを入れる。直後、電子音が響いた。

『質問タァーイム! ネームレスさん、初恋はいつ?』

「‥‥質問までしてくんのかこのふざけた機械は」
 ビービー解答はよーと喚きたてる装置にネームレスは面倒臭げに。
「ガキの頃」
「お相手は女の方ですか」
「当たり前だ。アホなこと聞くな嵯峨野」
「ですか」
 嘘をつけば即座にバレる状況をネームレスは難なくクリア。質問は麗菜へ移る。
『ドSですか? ねぇねぇ貴女はドSですか?』
「Sとは申しませんが、」
 麗菜は輝かんばかりの笑みを浮かべて告げた。
「こういう質問を考える方はドMであると見做して相応の報いをプレゼントして差し上げるので、待ってなさい」
 ごめんなさい。
『エヴェリーンさんに質問! 好きな人がいる?』
 無情な電子の質問に、部屋の隅へと退避していたエヴェリーンがびくりと跳ねる。
「す、好き(Like)な方はいっぱい居るのです♪」
『はぐ&ちゅーは許可?』
「いーやーでーすー!」
 ぶんぶん首を振るエヴェリーンを涙目にせしめ、ぴたりと装置は沈黙した。
 質問タイムは一旦終わりらしく、室内に平穏が戻って

「同性にときめいたことはありますか」

 来なかった!
 楓が、まがおで質問用ボタンを押してました。
「嵯峨野先輩っ!?」
 ヒロが叫びをあげる中、楓は頬を染めて笑む。
「別に深い意味ないよ!私は百合も薔薇も愛でる系なんで!」
 深い意味自白したよね!? さあ、解答タイムだ。
「あ、男同士の恋愛には興味ないです」と手を振る忠国。
「あるわけ無ぇ」額に指を添わせネームレス。
「一応答えると、ないよ」安心と信頼の真里。
「覚えがないですわ」優雅に瞼を下ろしたまま麗菜。
「お、男の人にはないです‥‥」もじもじと視線を避けつつヒロ。
「あ、ありません」事態の悪化を懸念しつつ夏紀。
「仲間の先頭に立って戦う方とか憧れますー♪」勘違いしつつ、微笑んでエヴェリーン。

 ‥‥‥‥。

「OK分かったみんな素質あるよっ!!」
「何のです!?」
 忠国のツッコミが飛ぶ中、楓はもの凄い勢いでネタ帳にペンを走らせる。うすいほんが厚くなるな!
「とにかく、上官のいう通りに落ち着きましょうであります!」
 叫んだのは夏紀――ではなく彼女を指差したヒロ。いつの間にか軍人口調が伝染している。
「わ、わたしが上官ですか?」
「はい! 上官の命令には絶対服従でありますっ!」
「そんな、堅苦しくなさらず‥‥」
「上官!」
「はいっ?」
「上官は、はぐ&ちゅーの経験はあるでありますか!」
「!?」
 まさかの爆弾投下。何気にデス箱の嘘発見器も起動中。夏紀は硬直したまま、
「ない、です」
 ネームレスがカメラのフラッシュを焚く。
「若いな元自衛官」
「放っておいてくださいッ!! そのカメラ、後で没収させて頂きますのでっ!」

●閑話休題

「さ、そろそろ出ようか? 深夜アニメも始まっちゃうし」
 時刻は既に23時近い。なので。脱出の為ですので。
「さぁ、夏紀先輩! 私の! 胸にっ!」
 上気した顔でバーンと胸を叩き深夜アニメし始めた楓に、夏紀が吹き出した。
「な、何を仰っているのですか嵯峨野撃退士っ!?」
「大丈夫です!女同士ですから!」
「よ、余計に業が深い気がいたします‥‥!」
 そのツッコミもどうなんだ。とネームレスは訝るが、面白いから言わない。
「無問題ですって! 何も『はれんちいけないです><』な事無いですよ友情友情ですこれは親睦を深める一環であり(中略)遠慮なく来て下さい寧ろ私から行きますねーっ!」
 わーいと万歳しながらダイブする楓。仲の良い後輩相手に対処を迷う夏紀へ抱きつき、その胸のふくらみへ顔をうずめた。
「はぁ幸、せ‥‥アッ」
「変な声を出さないでください‥‥っ」

 \ 二人だけでズルーい! /

「セクハラするなら私も混ぜてください!」
 火に注がれる愛の油こと忠国が跳びかかった。はっと目を剥く楓。
「加茂さ‥‥!? せ、セクハラいけないですよっ!」
 ブーメラン発言。
「というか他に狙うべき人いるでしょ‥‥!」
 楓の瞳がネームレスとヒロを補足。桃色の脳内で3人がメクルメク肌色と掛け算の世界で敷いたり敷かれたりアッー!な妄想に満足げな楓に、忠国の唇が迫る!
「夏紀ちゃんにセクハラする楓ちゃんに私がはぐ&ちゅー! これが幸せの連鎖です!パラダイしゅばふっ!?」
 びたーん!
 瞬時に近づいた真里が、忠国を女子陣から引き剥がして一本背負いした。
「ごめん、楓に触らないで」
 黒い微笑み。真里は振り向き、微苦笑しつつ。
「えっと、楓もその辺にしてあげても良いんじゃないかな」
 天使か。
「ま、真里ありがと‥‥。はぅ、はずかしくてはなぢが‥‥」
 冤罪だ。
「あーもうっ、分かりました!」
 質問ボタンを押して忠国は高らかに。
「シャイな男子たちとは腹を割って交友を深めるところから始めましょう! 男性陣に質問です! 乳派か? 尻派か?  私は勿論乳派ですよ!? さぁ、♂と♂の魂をぶつけ合おうじゃないですか!」
「えっ‥‥!?」
 びしりと忠国に指差された真里は、珍しく動揺。別に普通に答えていいかと思いかけるも…うん、ごめんやっぱり恥ずかしい。
(脚派、かな‥‥)
 選択肢にも適切なのが無いしな!
「どうでも良い。胸」
「考えたこともないであります…っ」
 淡々と告げるネームレスと顔を覆うヒロに「なんですか照れちゃってー」と忠国。なんで割と仲が良い感じなのか。男子中学生の修学旅行か。
(乳派、尻派‥‥)
 楓は、麗菜の胸のサイズを目測し、エヴェリーンの胸を眺め、夏紀の胸を見る。もう一度見る。ガン見する。ぽす、と自分の胸(げんじつ)を手で測り、呟いた。
「‥‥尻かな」
 切ないな?

●休題

 一時間が経ちました。

 24時を回った頃。ボケ続けて疲れ始めたこともあり、一同やや静かになっている。
「寒さで身体壊すなよ」
 最年少を気遣いネームレスは麗菜へ上着を被せてやる。
「ガキ産めなくなったら困るだろ。俺らが爺婆になったら誰が世話する」
 どんな理由ですのと麗菜が今一感謝しきれない一方。ネームレスにゼリー飲料を貰って空腹も満たしたエヴェリーンは、壁に寄りかかってウトウトしていた。
「ぅー…。上瞼さんと下瞼さんが…仲良ししようとするのですー…」
 やがて立ったまま、すぅすぅと寝息を立て始める。
 平穏な光景。
 このまま静かに朝が来れば、万事解決ではないか。
「上官‥‥」
 そんな時だった。ヒロが夏紀の制服を引っ張る。女の子のように可憐な頬を桜色に染めて、彼はもじもじと落ち着かない風に、そっと言った。

「トイレに行きたいであります‥‥」



































 事 件 だ。

「皆様っ!! 脱出致しましょうっ!!」
 もはや一刻の猶予も無きことデスゲー部員も泣いて謝るレベル。出る前に出よう!それっきゃねえ!
「有志の方が4名いれば、キスの相手を交代することで脱出が可能ですの」
 ちょっと寝てた麗菜が目を擦りつつ提案。
「カップルの構成員が重複してはいけないとはルールに有りません。では、はぐ&ちゅーをしても良いという方は?」
「やれってんなら相手になる」
 ネームレスが歩み出た。ただし男相手はパス。人のモノにも手は出さない。相手が嫌がればそれも無し。理由? 面白くねぇから。
「いいんですの?」
 ネームレスは電子煙草を口から離して。
「こっちもそろそろ煙草、吸いてぇんだよ」
 跪く姿勢で麗菜の顎に指をやる。麗菜に腕を首に回されながら唇を重ねた。「で、次は誰と誰だ?」。問わんばかりに瞳を流してくる二名は、なんだかひどく大人っぽくて。

『一組目のカップルを確認〜!!』

「さ、照れている場合ではありませんわ」
 電子の祝福の中。刺激の強い光景を直視できないヒロへ麗菜が歩み寄る。
「うぇっ‥‥!?」
「男なら覚悟が必要な時がある。大人にならなくてはたどり着けぬトイレもありますわ」
「意味がよく分からないです…っ!」
 拒めないでいるヒロの胴へ腕を回し、麗菜は格調高く、悪戯っぽく笑んで見せた。
「覚悟を決めてください」
「っ〜〜!!」
 2組目。目をぎゅっと瞑って唇を離し床に倒れるヒロだった。

「じゃあ、俺は楓とするよ」
 宣言したのは真里だった。頑張る覚悟を決め、楓に向き合う。
「ふぇっ!? あの、えっと‥‥っ!?」
 自分が当事者になって途端に慌てだす楓。どことなく留守なコメディさんを探すように視線を泳がせるも、気がつけば真里の腕に抱かれている。
 実際にするとなると、互いに照れくさくて。
 青年の体温を感じながら、楓は視線から逃れるように目を瞑る。真里も監視カメラを悪趣味だなと、最後に気にして。
 そっと――、恋人の額にキスをした。

『3組目を確認〜!!』

「口以外でもOKを貰えたんだね」
 これで無理なら、もう少し頑張る気ではいたけれど。
 邪魔な監視カメラを一瞥し、真里は軽く息をつく。
(後でカメラのデータは闇に葬ろう‥‥)
 流石に恥ずかしい。壁にコツンと額をぶつけ、皆から隠れつつ湯気が出そうなほどに赤くなる万里だった。
「あぁ、額か‥‥」
 楓は妙に納得した顔になる。そ、そうだよねーうん。頬を染めて視線を逸らし、少しだけ惜しそうに、もごもごと。
「‥‥にでもよかったんだけどな‥‥」
「え?」
「ななな何でもない! さあ次! 次どうぞ!」

「しょうがないですねぇ、困っちゃいますねぇ〜、脱出するためですからねぇ〜!ウッフフ〜!」
 カッ、覚醒する忠国。
「全力で臨みます! 全力です! 大事な事なので2度言いました!! 私の生涯の全てをかけて最後のカップル枠を取りにいきま」

 背後からエヴェリーンに抱きつかれた。

「あ、もう死んでもいいです」
 短い一生だったな!? 忠国は悟りの表情で浄化されている。
 未だ寝ているエヴェリーン、忠国を抱き枕と思っているのかスリスリと頭こすりつけながら、がっちりホールド。
「でも、ちゅーをしないと出られないので‥‥!」
 男の意地と夢を胸に是が非でも後ろに首を回そうとする忠国。だが。
 べいんッ。
「ぽっ!?」
 突如エヴェリーンが展開したカイトシールドに顔面をめり込ませる。まさかの自衛。エヴェリーンの満足げな寝顔。
「あのっ、加茂さんが青くなってるので‥‥ってわあっ!?」
 二人を離そうとしたヒロが、足元のゼリー飲料の包みに足をすべらせた。

 どしゃーん!

「‥‥う‥‥?」
 数人と重なって倒れ、目を開いたヒロは胸に温もりを感じる。誰かに抱き締められていた。
「ふぁぃー?」
 エヴェリーンだ。微かに開いた目がしょぼしょぼとヒロを見つめた後、彼女はぽすぽすとヒロの背を手で叩く。
「むー‥‥こんにひわーですー♪」
「あれ‥‥えぇっ!?」
 挨拶。外国式。事態を悟って幾度目かの赤面をしたヒロの頬へ――

 ちう。


●外へ

「脱出オメデトーっ! デスゲー部の佐々倉でェす! 驚いた? 実は我らデスゲー部員一同、一晩中ハコの外で君達を監視してましたー!☆」

 真里がライトニングで監視カメラ機器を破壊した。

「NOぉぉおーッ!?」
「ビデオのコピーはこちらですわ」
 麗菜が気品漂う仕草でディスクを示す。
「小等部生をこういう言う事態に巻き込んだ証拠は押さえました。大人しく装置を解体することですわね」
 ぐぬぬ、と強張る部員達。だが彼らの精神は不屈で。
「この程度で僕らは負けない! 箱は無敵だ!夢だ!何度でも蘇」
 げしっ。
 顔面真っ赤なヒロが、佐々倉をはじめとするデスゲー部男性全員を装置内に蹴り込んだ。
「全員のアッー!が確認されれば扉を開けます」

 \ NO! /

 ガシャーン!!
『デス箱。へようこそ! 恋しなきゃ死ぬ☆ ゲーム・スタート!♂』
 悪は滅びた。
「一時はどうなるかとですよー。大変そうでしたけど大丈夫でした?」
 朧な記憶で首を傾げるエヴェリーン。麗菜が微笑む。
「ええ。おかげで脱出もできましたし」
「?」
 駆け抜けきったデスゲーム。前夜譚は終わり、文化祭が始まっていく。

〈了〉


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 怠惰なるデート・嵯峨野 楓(ja8257)
 愛の狩人(ゝω・)*゚・加茂 忠国(jb0835)
 優しき心を胸に、その先へ・水無月 ヒロ(jb5185)
重体: −
面白かった!:8人

さくらまつり2015実行委員・
紅華院麗菜(ja1132)

高等部2年21組 女 ダアト
For Memorabilia・
エヴェリーン・フォングラネルト(ja1165)

大学部1年239組 女 アストラルヴァンガード
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
怠惰なるデート・
嵯峨野 楓(ja8257)

大学部6年261組 女 陰陽師
愛の狩人(ゝω・)*゚・
加茂 忠国(jb0835)

大学部6年5組 男 陰陽師
優しき心を胸に、その先へ・
水無月 ヒロ(jb5185)

大学部3年117組 男 ルインズブレイド
Outlaw Smoker・
ネームレス(jb6475)

大学部8年124組 男 ルインズブレイド