●
「何か分かんないけど剥げばいいんでしょ! そういうの得意!」
見渡す限りの大草原。鴉女 絢(
jb2708)は全力で狩りを楽しむべく、禍々しくもトゲトゲしい濡烏色の甲冑を借りていた。
「見て見て楓ちゃん夏紀先輩。どうこの、孤高の鴉――って感じ」
キメ顔で振り向くと、そこでは。
「わー、夏紀先輩似合ってますよーっ!」
「あ、ありがとうございます……」
大きなリボン付きの毛皮の茜色ポンチョと、茜と白が基調のミニスカートに身を包んだ嵯峨野 楓(
ja8257)が、黒峰夏紀に拍手していた。
照れる夏紀が着ているのは楓の衣装のアイボリー版。どちらもフードに獣耳、スカートに尻尾がついており、楓は狐、夏紀は猟犬がそのモチーフになっている。
――おそろ……だと……。
「絢ちゃんも一緒に記念撮影しよー! …‥って、あれ。顔引き攣ってる?」
「あ、いや別に羨ましくないし。孤高の鴉ですし」
二秒で自白。
「でも写真は撮るー! 楓ちゃんと夏紀先輩の間で両手に花!」
デジカメでしばし記念撮影に興じ、そして、平和な時は終わりを告げる――。
「さて。じゃあ夏紀先輩――」
楓が指をわっきわきさせ、妖しく笑う。
「今日はよろしくお願いしますねーっ!」
「はい!こちらこそ……って、えっ嵯峨野撃退士!?」
突如、後輩(ほほえみ)に組みつかれ夏紀が叫ぶ。
「剥ぎ取りのバクチェックです、全然やましいこととかないですウェヒヒヒヒヒ」
「そ、その笑いは何ですかっ! ちょ……鴉女撃退士まで何を!?」
「剥ぎ取るってあれだよね。きっと夏紀先輩の服とかだよね」
「何を仰ってるんです!?」
\テレレ〜♪(剥ぎ取り音)/
【 『手錠』 を 入手しました ▼】
「「ごめんなさい」」
ざっ、とOrzになる二名。たいほはカンベンしてくださいラキスケがしたかっただけなんです。ってそれ犯罪ですか。
入園5分からゲザの力が牙を剥く。
「落ち着いてください二人とも……」
「でもできれば服が剥ぎたかったです」
鴉、2度目の自白。
「そんな絢ちゃんをスキャンしてみるー」
「えっ」
\テレレ〜♪/
【 『ぱんつ』 を 入手しました ▼】
「きゃあああああああああああ!?」
「わあああああああああああい!!」
事件はじまった。
絢が絶叫し、楓がぶはっと鼻血(エフェクト)を吹き出す。
「タイミングだね! 服のこと考えてる時に剥げばいけるね!」
とても賢くなった顔をしつつ鼻血を噴く楓。勿論、本物の下着が盗られている訳じゃないから安心だ(?
「やられたらやり返すし…! 楓ちゃん覚悟ー!」
狩猟とは一体。
【 『サークル紅葉堂の薄い本』 を入手しました ▼】
「…………なにこれ。ホモ本?」
率直すぎた。
「楓ちゃんこういうの好きなの?」
絢に真顔でガン見されながら、楓は花も恥じらう乙女な表情で。
「内容は弱気村人×三白眼強気狩人のほのぼの物だから……」
ただし鼻血は出たまま。
「初心者にも……やさしいよ?」
そういう問題ちゃう…!
狩りの前から3人、顔真っ赤であった。
●草原
「オレサマオマエマルカジリ」
カーディス=キャットフィールド(
ja7927)が突進してきた黒い猪を回避し、溜めた大槌を敵の尻へと連続で叩き込む。
「ゲゲゲゲ! 大人しく私のゴハンになるのですよーっ!」
猫が猪の尻を追っかけまわす長閑な狩猟風景。が、敵も流石は中ボスでなかなか倒れない。そんな時。
どかーん! と爆音を上げて黒い猪に銃弾が命中する。
「大物を狩るなら手を貸すぞ?」
丘の上。煙を噴き上げる弩砲を手に、矢野 古代(
jb1679)が口角をあげる。
――数分後。
ごろりん、ごろりん。(肉焼き音)
「矢野さんは今までどちらにおられたのです〜?」
「海で食べ歩きをな。銃の癖もだいぶ調べた」
「心強いですね〜、っと! \ 特別上手に焼けましたー☆ /(裏声)」
「カーディスは衣装も似合ってるな」
「黒い毛皮に黒い忍者風衣装です! 格好いいでしょう〜?」
鱗と網布に包まれた猫の体はスタイリッシュ&モッフモフである。
「……なあ」
「はい?」
「客同士でも剥ぎ取りは出来るんだよな」
「ですね〜」
ばりんこっ。
「ぎゃぁあああああ!? ナニヲスルダーッ!!」
「評判の中の人が見れるチャンスだからな! 大人しくしろ」
「あぁん☆そこはダメーっ!」
古代、カーディスに剥ぎ取りを試みた。
【 『黒猫のぬいぐるみ』 を入手しました ▼】
【 『黒猫のぬいぐるみ』 を入手しました ▼】
【 『黒猫の肉球』(レア!) を入手しました ▼】
「……猫……なのか――?」
人の性質を読み取るサーバーにネコ判定された友に、古代は茫然。
「ひ……ひどいです」
カーディスは女座りでシクシクとしているが何気に着ぐるみは無傷。
「やられたらやりかえしますーっ!」
【 『銀のリング』 を入手しました ▼】
「なっ」
古代が慌てて指輪を掴む。が、見れば何てことはない。『あの指輪』に似ているだけの、これは、ただのホログラムだ。
「どうかしました?」
「……いや」
古代はただ苦笑する。
「変な遊園地だな」
●草原、別所
「じゃ、私がメインで狩りするんで援護は頼んだわよ?」
「うん。竜退治までにご飯はしっかり食べないとね」
荻乃 杏(
ja8936)は比較的軽装だった。チュニックやミニスカートの上から、胸や肩に紫がかった鱗のアーマーを付け、かつアルクス(
jb5121)から剥ぎ取れたアイテムの効果で、彼と同じ獣耳と尻尾を生やしている。
アルクスは応援っぽいからと選んだ『楽器・和太鼓』を肩から吊るす。二人でもこもこと尻尾を揺らし、良い感じに集まっている獲物と遭遇。
杏は片手剣を構え、いざ臨戦。
「さて、いくわよ!」
一斉に地を蹴る。
飛び掛かってくる大猿。
飛び掛かってくる山猫。
飛び掛かってくる嵯峨野楓。
「って、嵯峨野先輩!?」
すっごい自然に混ざってきた!
「はぎとりにきたよっ」
「きたよっ、じゃないですって! 何を狩る気でいるわけ!?」
がしりっ、と背後から絢に羽交い絞めにされる。
「服でしょ!」
「はあっ!?」
某CM風に言い放つ絢。隙をついた楓が「デバック、デバックだから」と杏に触れ\テレレ〜♪/した。
【『「板」チョコ』 を入手しました ▼】
「こんの……剥ぎ取られたら剥ぎ取り返しっ!」
杏も楓への剥ぎ取りに成功。勝ち誇った笑みと共に後退し、入手した「薄い本」を開く。
硬直。
赤面。
ぼんっ。(爆発)
「――よくもやったわねっ!!」
半分以上涙目で激昂した。一方の楓は、満足気に板チョコを齧る。
「剥ぎ取り最高ー! しかも私は板チョコを堪能しちゃうっていう――」
\ぺこっ/
「……ぺこ?」
ふいに体から聞こえた音に、楓は手を胸に運んだ。
胸が板になっていた。
「 」
「か、楓ちゃーーん!! しっかりして!」
恐怖のバステ『絶壁』で魂の抜けた楓を、絢が必死に揺する。
「だ、大丈夫ですよ嵯峨野撃退士! きっとただの演出でありますから…」
「きっとって……」
「そうだよ楓ちゃん! ほら、見た目だって元と大して変わらなうわあぁぁああああああああああああ」
合 掌 。
「なんで私からそんな道具が取れるのよっ!!」
杏もまた絶叫。
「あっ、やっぱり草むらからも剥ぎ取れるんだね」
アルクスが地面から食品券を入手して喜ぶ。ほのぼのと野菜を採取するその姿は、まるで大自然での狩猟生活を楽しむエリアにいるかのような――
●――そういうゲームだったわこれ
轟音が鳴る。
岩肌が崩れ、巨大な影が這い出てくる。その両翼は天を遮り、金剛像が如き筋骨を持つ四肢は一歩を踏むごとに大地を粉砕する。
剛力の権化。巨大な神竜。出現したその敵こそ、圧倒的な迫力と荘厳な美を感じさせる撃退竜エリュシェn
「麻痺玉ぽい」
びかーっ。
「今だ! 皆で突っ込もー!」
「「「おおおおおおおお!!」」」
いきなり全員がガチになった! アルクスの合図で総員突撃。絢が痺れさせた撃退竜に、楓と古代が立て続けに手榴弾、麻痺玉を投げる。
「悪いけど容赦も遠慮もしないわよっ」
だって相手は超強いのだ。杏が叫ぶ。
「黒峰先輩、援護射撃お願い!」
「はい!」
「いい? きっっっちり当てて下さいよ!?」
「…………は、はいっ!」
「さて、必中を期した一射だ」
古代が高台から弩砲を構える。彼が着ているのは甚平に似た上衣に袴風のズボン。腰布付の南アジア風衣装は砂色と黒で統一され、岩場に見事に紛れている。
(――当てる)
集中した、その時。
撃退竜の背で『彼』が起き上がった――!
「えっ! なにあれ……?」
アルクスが愕然とする。
「すっごく白い!」
えっとなぜか真っ白な頭巾をかぶっているが(しかも全身が痒そうで、かつ尻を押えているが)それはキング黒子だ!
「やばっ、投げてくるよ!」
絢が警告する。キング黒子は背負った大樽から大量の手榴弾を握り出し、撃退士達を妨害すべくそれを振りかぶった、が、古代が黒子の大樽を撃ち抜いた。
「あっ」
ちゅどおおおおおおおおおおん。
……倒した。
大爆発して瞬殺されたキング黒子はその辺に落下。撃退竜も、いきなり背中が爆発するという意味不明な大ダメージに激しく暴れ出す。
「まだ来るよなそりゃ……」
古代が睨む先で、黒子たちが次々に湧いてくる。あっという間に岩山を埋め、ボス不在のなか手を次々と伸ばしてくる。
「あー鬱陶しいっ! 何なのよ!」
「黒子達、僕らから食品券を剥ぎ取ってるね」
杏が喚き、アルクスが分析する。
「本当ね。お腹でもすいてるのかし」
ぐぅ〜↑
「……ら――」
「…………。ねえ、もしかして萩乃さんもお昼食べ忘れ――」
「へ、平気よっ。別に空腹感なんてカンタンに誤魔化せる」
きゅる〜↑
「……し――」
「でもお腹鳴っ」
「聴くの禁止っ!!」
食品券を使うのを完全に忘れていた! 唯一具現化させた薄いアイテムもいろんな意味で腐ってて食べられなかったし!
「このままだと黒子が邪魔だな」
古代が黒子と竜を砲撃で牽制しながら合流する。
「何か食いモンがありゃあ、こいつらを引き付けられるんだが」
「そんなこと言ったってねぇ」
食品券を撒こうにも持ち合わせが無い。ならば入手すれば良いのだが、すぐ剥ぎ取れるような怪獣なんて――
「あ、さっき落ちたキングがいるか」
杏が叫び、駆ける。
「アレから食料剥ぎ取ってくるっ! 竜の足止め、頼んだわよ!」
仮にも遊園地のメインキャラであるキング黒子。そのレア度は間違いなく上級だろう。が、今はとにかくある程度の食材があれば万事OK――
「悪いけど利用させて貰うわよ!」
杏が地面で潰れているキング黒子に剥ぎ取りを使った!
【 『ぱんつ(黒子♂)』 を 入手しました ▼】
「責任者覚えてなさいよ――ッ!!」
あまりに絶望的なぱんつに杏が絶叫する。異常な脱力感に地面にくずおれそうになるが、ここでOrzをしたら遊園地の思う壺。
ゲザ重力と怒りに根性で耐え、杏は息を吸い――
「……これってレアアイテムじゃ?」
ぴたっ。
黒子達が止まる。
「すっごく美味しい食材かもー」
わーーーーい!!
飢えに飢えた黒子達は一斉に、美味を求めてキングへと群がった。
「……骨は拾ってあげるわ。皆の“餌”になってなさい」
貪られるキングと、それに到達した端からすっっっごく惨めなOrzになって沈んでいく黒子達を尻目に、杏は仲間の元へ急ぐ。
●
竜の進撃は強烈だった。
麻痺玉を受けてもほぼ止まらない。動きは反則的に速く、アルクスによる防御支援がなければ抑えは一瞬で瓦解していただろう。
それでも何とか――楓が剣に噛み付かれたり、絢が防御を捨てた猛攻をしかけ防御を捨てたがために沈んだり、古代がまさかのジャンプ攻撃で潰されたり、杏と夏紀が決死の覚悟で死角から攻撃し「やったか!?」した直後に尻尾に引っかかったり――各々1回は体力を全損させつつ、何とかアルクスが罠を張る時間を稼いだ。
で、今。
「カーディスさん頑張れー!」
「食われるなよー!!」
精一杯の援護を受けながら、カーディスが撃退竜の鼻先を駆けまわり、誘導していた。
「美味しいお肉ですよ! こっちです、こっちです〜!」
流石は最上級ボス、餌への食いつきが悪く、鼻先で二本の肉を振って初めて一瞥するレベル。
「もう少し! あとちょっとだよカーディスさん!」
「ムフー! 竜さんこっちらです〜〜っ!」
「あ、危なっ……」
「それは近すぎ――」
ばくんっ。
「いやん」
「「カーディスーーっ!」さああん!!」先輩っ!」撃退士ーっ!」
また一人逝った。
が、これはチャンスだ……! カーディスを美味しく頂いた竜は落とし穴に見事に嵌っている。
「攻撃支援の曲いくよー! フレーフレー♪」
アルクスの応援。すかさず古代が砲撃を放ち、同時に楓と杏が手榴弾と麻痺玉を投げた。
「デカけりゃいいってもんじゃないんだからねっ!?」
ダブルミーニングな叫びと共に、杏が撃退竜の眉間に片手剣を思いきり突き立てる。だが、浅い。
「硬いししぶとい……!」
杏は再び地を蹴る。空中で光纏し、竜に刺してきた剣めがけて――
「いい加減に私のオカズに――なりなさいっつーのっ!!」
かかと落としを叩き込んだ。
鈍くも澄んだ音と共に、竜の鱗に放射状のヒビが入る。
「夏紀先輩っ!」
剣を上空に放り投げ楓が駆ける。夏紀が彼女をバレーのレシーブが如く高く跳躍させると、楓は剣を空中でキャッチ。
「私も一度やってみたかったんだこういうの!」
ばさり、と翼で飛んだ絢も楓に並ぶ。
二人で勢いよく回転し、落下の勢いを乗せたチャージ攻撃を竜の脳天に打込んだ。
今度こそ竜の鱗が砕け散る。
「お足を狙い放題ですよ〜!」
ごんごんごんごんとサウンドオンリーだが、落とし穴の中でカーディスも竜の脱出を防ぐ。
「あの悪魔ほどではなかったが、良い予行になったな」
ガチリ。古代が弩砲の銃口を向ける。紡ぐ言葉は何処へか。
「次は射抜く」
撃ち放たれた弾丸がホログラム竜の頭部を穿った。
●
「「「やっ……たぁーーっ!!」」」
ゲザの村にて一同ハイタッチ。
「皆、お疲れ様って言いたい所だけど……とりま、なんか食べさせて……」
結局、一人だけげっそりな杏。
「あ。まだ誰も撃退竜に剥ぎ取りしてないよね?」
「おお、そうだな。相当良いものが取れなきゃ割に合わないよなあ」
アルクスの閃きに、古代が苦笑する。この撃退竜は今回が初討伐。どんな食材が剥ぎ取れるのか見た者は一人もいないのだ。
「はやく剥ぎ取ってみようよ! 私もお腹すいた!」
絢が目を光らせる。
「ここは夏紀先輩、お願いしまーすっ!」
「いいですね、皆の代表でお願いしますよ〜!」
「わ、分かりました。では失礼してっ!」
\テレレ〜♪/
【 黒子ブロマイド を 入手しました ▼ 】
――誰が喜ぶんだよ……っ――
かくして遊園地にまた7つ、Orzの姿勢が輝いていく。
〈了〉