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マスター:水谷文史
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/10/30


みんなの思い出



オープニング

●猥雑なる平和

 通行人の服装と街路樹の葉の色が、街を包む季節を鏡のように反映する。

 半袖の人は、かなり減った。
 街路樹も、紅葉こそまだだが、夏の日をいっぱいに含んで輝いていた深緑は褪せ、どこか郷愁を感じる気配を漂わせ始めていた。
 秋である。
 風は冷たくなってきたが、繁華街には、多くの人が行き来している。
 豊富な衣類店にレストラン。ゲームセンターに玩具屋。本屋にペットショップにスポーツジムに、ジャンル分けが難しいような奇妙な店まで。
 猥雑にあらゆる店の揃ったこの街は、一年を通して近隣住民の生活の中心部になっているのだ。
 そして、今日。
 依頼を受けた何人かの撃退士達と、依頼主である芸能人達もまた、この街に足を踏み入れていた。


●本土。繁華街。アイドル三人娘。

「はぁい! 皆さんこんにちはぁ!
 頑張る学生さんたちの休日に密着! イマドキの日常をご紹介していく『密着学園☆ホリデーレポート』! 今週もスタートしましたぁー!」

 ふわふわとした栗色の髪を揺らす少女が、テレビカメラの前で、マイクを握っていない方の手を元気に掲げた。
「いえーい!」
 彼女の隣に並ぶ二人の少女――栗毛の少女にとても良く似ている――が、ぱちぱちと拍手をする。
 拍手が豪快なほうは肩までのストレートの茶髪をしていて、拍手が謙虚なほうは黒のボブカットに大きな青い石のついたヘアピンをつけていた。
「お伝えするのは、あたし、丸月 春花(まるつき はるか)とぉー?」
 と栗毛の少女。
「今日も今日とて元気いっぱい! 丸月 秋絵(あきえ)と!」
 と茶髪の少女。
「‥‥丸月 冬菜(ふゆな)です」
 と黒髪の少女。
「「よろしくお願いしまーす!」」
 春花と秋絵が笑顔で言い、冬菜は無表情に、ぺこりと頭を下げる。
「それではさっそく! 今回の密着対象、久遠ヶ原学園の生徒さん達に突撃したいと思いまーす!」
 ふわふわとした雰囲気のまま、春花が歩きだす。
 カメラマン以下スタッフ陣も、それに続いた。

 ――トークをしながら、待ち合わせ場所までの移動中。
「ところでさっ春花。テレビの前の皆さん向けに、撃退士ってどういう人達なのか説明はしなくていいの?」
「え?」
 秋絵の問いに、春花が目をぱちぱちとさせる。
 アイドルなだけあってその仕草にも愛嬌があるが、答えに窮しているのは明らかだ。
「そ、そうだねぇ。‥‥えーっと、撃退士というのは‥‥うん、簡単にいうとスーパーマンみたいなものでして‥‥‥‥?」
 焦る春花。
 スタッフの一人が苦笑いをし、カンニングペーパーに文字を書きだした。
 その時だ。
「‥‥撃退士(ブレイカー)は、アウルに覚醒して特殊な能力を得た人達の事」
 冬菜がぽつりと呟いて、テレビカメラが彼女に向けられた。
「V兵器と呼ばれる特殊な武器を扱って、たまにテレビにも出るような怪物を倒してくれている。
 地球を襲う天魔達の透過能力を無効化し、対抗することができる、人類で唯一の存在。
 フリーランスでやっている人もいれば、撃退庁や企業で活躍している人もいるし、学園に在籍したまま任務をこなしている人もいる‥‥‥‥です」
 春花と秋絵、スタッフ一同の視線の集中に気づき、冬菜が目をそらした。
 無表情だが、照れている。
「‥‥えええ!? すごいじゃん冬菜っ! なんであんた、そんなに詳しいの!? というか、なんで今日そんなにテンション高いの!?」
 テレビでも日常生活においても、感情表現と口数が少ないのが冬菜の特徴であった。
 無表情であっても、彼女がこれだけ喋るのはかなり珍しい。
「今日のフユちゃんはやる気マンマンみたいですねぇ。久遠ヶ原学園の生徒さんに会えるのが楽しみなのかなぁ?」
 春花がにこにこと笑う。
 そして、ふと街の一角に目を留め、ぱっと瞳を輝かせた。
「‥‥あっ! 彼らですよね?
 カメラさんこっちこっち! 撃退士の方々を発見しましたよー!」
 取材の依頼を受けて集まった撃退士達に手を振り、三人娘とスタッフ達が駆け寄る。
 半袖で歩く人のいなくなった、秋の繁華街。
 降り注ぐ陽光のなかで輝く彼らの表情はどれも若く、穏やかで、華やかで――、


 死の恐怖に怯え泣くことになる数十分後の姿とは、似ても似つかない。


●本土、繁華街、数十分後。

 「それ」は、ずるずると地面から這い出てくる。

 黄色く濁りきった眼球に、無花果のような皺だらけで紫色の皮膚。
 爛れ腐った上半身には、ぐるりと六本もの腕が、祈りを捧げる修道女の様に折り畳まれている。
 二本足で、それは路上に立つ。
 2メートルを越える穢れた体躯が、細いが巨大な影を地面に落とす。
 ねちゃりと粘液を引きながら、六本腕が、ゆっくりと胴から剥がされて――

 ぼとり。

 丁度、六つ。開かれた腕から、赤黒い粘液の塊が落下した。
 人間の頭部ほどもある塊は痙攣をひとつすると、ぬるぬると滑るように蠢きだす。
 それは、赤く巨大なヒルだった。

 街中で動き出した七つの異形。
 自分達を凝視する瑞々しい生を見回し、彼らは、ちゅるりと舌嘗めずりを始めた。



リプレイ本文



「ね、螺子巻ネジなのです! 歌とダンスで世界を救うアイドル撃退士になるため修行中なのです♪」
 マイクを向けられて、螺子巻ネジ(ja9286)がカメラの前でポーズをとる。
 その目はキラキラ輝いて、鼓動はとくとくと高まっていた。
(テレビなのです! ロケなのです! 本物のアイドルなのです!)
 内心で拳を握りしめる。
(いつかネジもこうやってカメラの前で笑顔を振りまくのですよー♪)
「えーっと、ネジちゃーん‥‥?」
 声をかける秋絵。妄想を振り切り、ネジは、さっと振り向く。
「あ、頭のネジですか!?」
「えっ、聞いてな――」
「ネジはこのネジを巻かないと動けないのですー! 巻いてみますか? どうぞなのです♪」
 屈むネジに、スタッフ達は苦笑い。
 そんな中、秋絵は恐る恐る手を伸ばす。

 じぃーこ。

 ‥‥‥‥。

「うわああ!回った! スゴいよこれ!」
 まさかの好反応。
 いや実際、興奮せざるを得ない完成度。
 じぃーこじぃーこと巻き巻かれ、秋絵とネジが、はしゃぐ。
「おー! 何だーテレビか! 俺写るのか!」
「取材を受けるなんてなんだか面映ゆいですね」
 それを見つつ、彪姫 千代(jb0742)が目を輝かせ、楊 玲花(ja0249)がくすりと笑む。
「そうか! 俺もアイドルなのかー!」
「え?」
「じゃあアレだな! 脱ぐぞ!」
「どういう理屈です!?」
 開始2分での緊急事態に、玲花が慌てて千代の裾を押える。
「は、はやまらないでください!」
 不慣れさの滲む玲花のツッコミに、千代が首を捻る。
「お? でも俺、フレッシュだぞ?」
 意味不明。
「脱ぎたてアイドルってヤツだな!」
 需要ねえし!
「あのぅ、インタビュー大丈夫ですか‥‥?」
 マイクを持って立ち往生をしていた春花に、玲花が笑顔で振り向いた。

 ――Q、持ち物のこだわりは?

「遊びに行くには無粋かな、とも思ったのですが、」
 玲花は隠し持っていた苦無と胡蝶扇を取り出す。
「何時どこで天魔と遭遇するかも分かりませんし、備えはしておきたいですね」
「これが、武器‥‥ですかぁ」
「無粋な武器はともかく、撃退士用のアクセサリには普段使い出来るもの多いですよ。これとか、頭巾をかぶった子犬が可愛らしいと思いません?」
 見せたのは『忍犬のイヤリング』。これには春花も思わず声を洩らす。
「わたしも女の子ですから、付けるなら出来るだけ素敵なモノが良いですね」
 優しく微笑む玲花に、春花は感慨深く頷いた。

 Q、服装のこだわりは?

「うん。ファッションには気を使っているんだ」
 と、刑部 依里(jb0969)が頷いた。
「今年はレザースカートが人気だね、ブーツと合わせてみたのだがどうかな?」
 問われ、春花は彼女を眺める。
 服も容貌も髪型も、全体的に鋭く、洗練された印象があった。
「かっこいい、です」
 正直に答えながら、思う。
 やはり、撃退士も女の子なのだ。
 可愛いものが好きだし、おしゃれもしたい。
 少女らしい可憐さが、彼女等にも――

「撃退士になった理由? ンなもん、チンピラ相手にするより天魔ブッ飛ばしたほうが楽しいからに決まってンだろ」
 別所。
 断言した冴城 アスカ(ja0089)に、質問をした冬菜が固まっていた。
「‥‥ということで、こちらは撃退士の生態暴露コーナー」
 いつの間にかマイクを持ち、カメラに向かってユウ(ja0591)が言う。
 撃退士に興味があるらしい冬菜に、魔具を選ばせユウは解説を始めた。
「この、主人公が探しているのは?」
 めくる魔法書。冬菜が、描かれたパラパラ漫画を指差す。
「‥‥バナナオレ」
「?」
「‥‥バナナオレこそ理想。世界の真理。‥‥そういうこと」
 じっと見つめあう、冬菜とユウ。
「‥‥じ、じゃあ次の質問です。貴女が持つ、撃退士としての誇り‥‥とは?」
「‥‥バナナオレ」
「え」
「‥‥バナナオレこそ至高。命の源。私の生きる理由」
 はっとする冬菜の視線を、ユウは真っ直ぐ受け止める。
「あ‥‥貴女はその為に戦っているの‥‥?」
「‥‥過言じゃない」
「まさか‥‥」
 ごくりと唾をのむ冬菜。
「バナナオレこそが、撃退士の力の源だったり‥‥?」
 冬菜の仮説。無表情なユウは、静かに、
「‥‥その通り」
 頷く。
「そこ!!全国放送で嘘を教えるでないわっ!」
 叢雲 硯(ja7735)がびしりと2人を指さす。
 秋絵が苦笑をしつつ、硯にマイクを向けた。
「じゃあ、硯ちゃん! 休日の過ごし方を教えてくれる?」
「おお! オフは基本的にスイーツ買い食い食べ歩きなのじゃー」
 そう笑って、硯は持ってきた紙袋をがさごそ漁る。
 取り出したのは、クレープにジェラート、シュークリーム、ドーナツ、たい焼き、タピオカドリンク‥‥、
「多いっ!!」
 秋絵が中断した。硯は満足げである。
「普段はこうして食べ歩きながら繁華街をぶらぶらしておるぞー」
 割とノリ気な秋絵を見とめ、硯は喜ぶ。
「お? おぬしもいけるクチかの? よし、わし行きつけのスイーツ店を教えてしんぜよー!」
 2人はカメラマンの1人を引き連れ、歩き出す。

 ‥‥さて、他の面々は何処に行こうか?

「よぉ、アンタら」
 アスカが、メンバーに声をかけた。
「せっかくだ。一つ、勝負でもしねェか」


●ゲーセン内

 騒音の中。カメラの前で、撃退士達がシューティングゲームに興じる。

「へェ‥‥アンタもやるじゃねェか」
「ふ、ジョブ的に負けられん感じ‥‥!」
 高速のリロードでスコアを稼ぐアスカと、七種 戒(ja1267)の戦いが白熱する。
 一方、依里は隣で、じっとガンコンを覗き込んでいた。
 どうしたのかと訊ねる春花に、彼女は一言。

「‥‥弾が出ないじゃないか」

「ええっ!?」
 ゲームの根底を揺るがす発言に、アイドル驚愕。
「現実との相違があり過ぎるんだよ。ま、実戦と思って臨めば、それなりに出来るかな」
 ゲーム開始。ユウと依里は、同時に2匹の敵を撃つ。
 敵の喉元にヒットエフェクトが点滅し、醜悪なゾンビは仰け反って画面下に消えた。
「すごーい! お上手ですね!」
 春花が手を叩く。が、
「‥‥まだだよ」
 ユウが呟く。
「天魔はこの程度では死なないさ」
 依里の表情も厳しい。
「え? だ、だから、これはゲームであって――」
 春花の苦笑を、2人は意に介さない。
「‥‥油断が招くのは、死」
「過剰な程に、撃破しなきゃ駄目さ。――さあ立ちな、しっかりトドメを」

 ごりん。

 -【GAME OVER】-

 当然のように、横から次々と涌き出たゾンビ達によってライフを刈られるユウと依里。
「「‥‥‥‥」」
 無言で立ち尽くす2人の背中は、なんというか、もう‥‥。




 思わず光纏しシューティング場を追放された戒と、気を取り直したい依里は、ダンスゲームを始める。
 軽快な音楽と、次々と光るポーズの出題。
 得意種目なだけあって、依里はクールに3×3のパネルを踏んでいく。追う戒も流石に撃退士で、2人はあっという間に高スコアへ。
 勝負終盤。
 出題されたポーズは、

『 前、右前、左前、中央、右後、左後 』。

「えっ!? 無理くね!?」
 戒が驚愕。足、何本ある計算!?
 でも、これを逃せば依里に勝つのは不可能で。
「ええいっ! 乙女は気合じゃあっ!」
 叫び声が既に乙女じゃないとかそんな事は無く()、足を持ち上げ戒は光纏を――。

 ずりん。

「うぇ‥‥っ!?」

 足を滑らせ、宙に浮く。

 ゴッ! と四肢と頭でパネルに突っ込み、奇しくもそれで出題をクリア。
 電子音が前人未到のスコアを告げるも、倒れたまま動かない乙女()であった。




「ふ。ハンドル握ると人が変わるって評判でな?」

 ハンドルに食らいつく戒(※復活した)が、今度は千代とカーレースゲームに臨む。
「ウシシ! 俺ゲームも好きだぞ!」
 笑う千代。その実力やいかに。

 3、2、1――、GO!

「そおいっ!!」
 開始早々、戒の車が千代の前に滑りこむ。
「おお!?」
 派手にハンドルを回した千代は、ハイウェイ上で大回転。
 完全な逆向きとなり、画面上には『逆走』の警告が点滅した。
「お? なんだこれ? 俺を応援してくれてるのかー!」
 違います。
「よし! 負けないんだぞ!」
 違いま
 千代の車が爆走(逆)を開始した。

「ちィッ!」
 千代を排し、CPUと熱戦中な戒。だが、長くは続かない。
 気付いた時には、遅かった。
 真正面から千代がやってきた。
 猛スピードの戒は止まれない。
「お?」
「ちょ」

 大正面衝突。

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」」

 -【GAME OVER】-

「ななっ、なんでレースゲームに体力があるん!?」
「おおー! 派手だぞ! いい勝負だったな!」
 ばんばんとハンドルを叩く戒と、やりきった感満点で笑う千代であった。




 ――ゲームを満喫し、撃退士達は外に出た。
 降り注ぐ陽光。若く華やかな彼らを街が彩るかのように。


 悲鳴があがる。


「!」
 彼らが一斉に目を向ける。
 ゲームから飛び出たようなゾンビ。赤黒く濡れた6匹のヒル。
「なに、あれ‥‥」
 その醜悪さに、春花が口を押える。その脇、玲花が嘆息した。
「全く、無粋極まりないですね。早々に、片付けてしまいましょう」
 逃げる人々の流れに逆らい、彼女は地を蹴る。跳躍し、光纏し、密集する敵を眼下に捉え――
「はぁっ!」
 巻き上げる硬質の土が、天魔達を一斉に襲った。
 呻くゾンビが、腕を振る。春花の視界の真ん中で、先程まで取材をしていた玲花の血が舞った。
 春花が、へたり込む。その隣。
「あれ? 何か来たぞ? 特撮でもするのかー?」
 千代が、上裸になっていた。
 くずおれた春花が、涙目で見上げる。
「ウシシ! 俺、かっこよく写るからな!」
 両手に纏う炎。楽しげな笑みを春花に見せ、駆ける。
 彼に飛び掛かったヒルが、後方から投擲されたユウの紫剣に刺し貫かれる。弾け飛ぶ肉塊。その中を、千代はゾンビに達する。
「ドッカーン!」
 クレセントサイス。翻った無数の刃が、紫の体躯を削った。
 ヒル達が蠢く。
 予想外に素早く滑り、転んだ一人の少女に飛び掛かった。宙に踊る赤。その直後。

 飛来した弾幕の束が、ヒルの体ごと空を貫く。

「‥‥かわいこちゃんは襲わせんよ、と」
 戒が、天魔が豆腐のように砕け散る様子を照準のなかに確認する。
 だんと踏み込み、アスカが息を吸う。仰け反って、
「ウォラァ! 死にたくなかったらとっとと失せろ!!」
 咆えた。
 逃げ遅れた者まで、叫びながら撤退する。残ったのは、天魔、撃退士、芸能人。

「これは阻霊符と言ってね、天魔の透過能力を無効化するものだ」
 カメラに札を示しながら、依里が天魔を見据える。
「地面から奇襲されちゃ鬱陶しい。‥‥さて、逃げるなよカメラ。プロだろう?」
 光纏し、冬菜達の前に出る。
「仕事は仕事。きみ達がカメラの前に立つように、僕達は戦場に立つわけだ」
 ヒルが動く。跳ねた一匹。その先には、

「なんじゃ。天魔か?」

 シェイクを吸う、硯がいた。

 不敵に笑んでハルバードを具現化。スイーツを秋絵にパスし、
「丁度良い腹ごなしよ! 我がハルバードのサビにしてくれるわーっ!」
 薙ぐ斧槍で、蛭の体を両断した。秋絵の手を掴み、仲間と合流すべく走り出す。
「皆様こちらへ! ネジは光の加護を受けたアストラルヴァンガードなのです!」
 ネジが、春花達に声をかけた。必死なのも無理はない。
 ネジにとって、春花達はいつか仕事を共にするかもしれぬ人。
 彼女の夢、そのものなのだ。
 硯を待って『アウルの衣』を使うネジ。その横顔は健気に、そして頼もしく、カメラに写った。

 飛来した蛭をネジが盾で弾き、戒がアジュールで細切れにする。

 最前線の玲花が、やっとのことで、体からヒルを引き剥がす。
 蛭は、赤く、中身を透かし膨張。原型を失って猶、転がる。
 そして――『光る』。
(これは‥‥)
 知っている。この、天魔の能力は――。
 玲花は咄嗟にバックステップ。苦無を投げる。彼女を追う蛭に命中、敵が弾み、その直後。

 爆発。

 アスファルトと肉塊が、爆風に乗って吹き飛んだ。
 玲花は、避ける。移動した別の蛭が、アスカに飛びつく。
「!? チッ‥‥!」
 腕に食らいつく蛭に舌打ちながら、アスカが叫ぶ。
「こいつァ自分が片付ける! アンタらはあの腐れ野郎をぶちのめしてくれ!」

 千代が叫び、両拳をゾンビの腹に叩き込んだ。衝撃がほとばしり、腐肉が散る。だが、

 ――倒れない。

 ゾンビは黄ばんだ眼球で千代を睨み、六本腕を振り回して咆哮する。
「! 避けろッ!」
 硯の叫び。
 千代がナイトミストで天魔を覆う。されど闇から突きだされた鋭い爪は、正確に彼の脇腹に吸い込まれ――。

 貫通。

 大量の血が、彼の背後に撒き散った。
「千代様っ!!」
 ネジが叫び、そして、目を見開く。

(ゾンビが――)

 まだ、止まっていない。

 千代の体から腕を抜き、叫んだ天魔はさらに別の腕を振る。
 殴り飛ばされる千代。瑞々しい程に散る鮮血と共に、彼の体が硯達の眼前に落ちた。
 あろうことか、冬菜が気絶した彼に駆け寄ろうとする。ゾンビが当然、彼女を睨む。
 天魔が腕を伸ばしたのと、ユウが地面を蹴ったのは同時だった。
 冬菜を庇うように立ち、彼女は弓を構える。
「‥‥コレはゲームの銃弾より痛いよ」
 ぴきぴきと凍て固まる矢は、白き槍。
 弦を離す。放たれた『槍』は紫の腕を竹のように裂いて飛び、通り抜け様にゾンビの肩を削り飛ばした。
 ネジと硯が千代を回復させるなか、叫ぶゾンビは止まらない。
「無理だよ‥‥こんなの‥‥」
 春花の呟き。それに重なるように。

 「――ちッ」

 アスカが、ゾンビを睨む。
「調子にノってんじゃねェ」
 暴れる敵に突進。依里が見とめたアスカの手には、膨張を始めたヒルがあった。
(‥‥まさか――)
 ジャンプしたアスカを天魔が迎える。牙を剥いた、その口に、
「――ほらよ、てめェのツレだろ」
 アスカは、『爆弾ヒル』を――、
「返すぜ!」
 思いきり、叩き込んだ。
 目を剥くゾンビ。彼女を引き剥がすべく六本腕を振るう。
「怖ェか? あ? 怖さなンて感じねェよなァ?」
 アスカが笑む。
 ゾンビの口内で、ヒルが、『光る』。
「自分の腕とてめェの頭――、どっちが吹っ飛ぶか試そうぜェェェッ!!!」



 大爆発。


 飛んでくる全てから、依里のストレイシオンがスタッフを守る。
 唖然とする面々。カメラがまわる。
 血を拭い飛ばしながら、煙の中を歩いてくるアスカの姿に。
「‥‥無茶するねえ」
 依里が思わず、呟いた。




 じぃーこじぃーこ。

 へたり込むネジの螺子を、硯が両手で巻いていた。
 戦い終わってもカメラの前。笑顔を浮かべて立ち上がる。
「‥‥復活なのですっ!☆ 皆さん、ご無事ですかー?」

 きらきら輝く彼らの顔。
 どれも若くて華やかで。

「よーし!動いて腹も空いたことじゃし、本格的にスイーツ巡りをするかのー!」
「まだ巡ってなかったのです!?」
 驚くネジに、笑う硯。

 色づく秋に、学生たちのロケは続く。

〈了〉


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・冴城 アスカ(ja0089)
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
冴城 アスカ(ja0089)

大学部4年321組 女 阿修羅
『九魔侵攻』参加撃退士・
楊 玲花(ja0249)

大学部6年110組 女 鬼道忍軍
ちょっと太陽倒してくる・
水枷ユウ(ja0591)

大学部5年4組 女 ダアト
あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
身を滅ぼした食欲・
叢雲 硯(ja7735)

大学部5年288組 女 アストラルヴァンガード
めざせアイドル☆・
螺子巻ネジ(ja9286)

大学部2年213組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
彪姫 千代(jb0742)

高等部3年26組 男 ナイトウォーカー
スーパーネギリエイター・
刑部 依里(jb0969)

大学部6年302組 女 バハムートテイマー