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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/04/18


みんなの思い出



オープニング

 須賀部邸。

 竹箒片手に気だるそうに庭を掃く、ミニスカメイドのリョウコ。
 徐にスマホを取り出して、画面を眺める。

 つい先程インストールされたアプリのアイコン。
 光纏バイタルアプリ。光纏を電気信号に変換して予め入力しておく事で、アウルの状態を検知して心拍数や血圧といったバイタル情報を確認できる…らしい。バイタル情報は、アプリに相互登録している別のユーザーの端末にも転送して表示できる。

「まだ試作段階だけどね」
「不具合や要望があれば、忌憚なく聞かせて欲しい」

 2人分の声に振り返る。双子の兄弟が、ロングスカートのメイド――ミコト――に案内されながら屋敷から出て来た所だった。
 式葉 陸と、海。その傍らには刑務所の監察官も1名、付き添っている。

「バイタルに異常が出るまで庭掃除とかカンベンして欲しいけどな」

 リョウコはスマホをしまいつつ、2人に尋ねる。

「お前らって、何でまだムショに居んだ?」
「執行猶予とかもあったらしいし〜、本当はもうシャバに出て良いはずよね〜?」

 同じく気になったミコトも問う。

 以前、リーゼへの復讐目的で火災事件を起こした式葉兄弟。
 刑期を終えた今も、何故か自ら望んで収監施設に残っていると言う。

「自分に課した贖罪」
「今は施設内の工場で、刑務でやっていた電子工作の仕事を続けさせてもらってる」

 この試作アプリは、その一環。
 今日ここに来たのは、身寄りの無い自分達の引き取り手として声を掛けてくれた須賀部 京埜への挨拶も兼ねて、アウル能力者でもある須賀部邸のメイド達にアプリの試験運用をお願いする為だった。
 尤も京埜から申し出に関しては、前述の通り保留にしてもらっている。

「ふーん…。ま、良いんじゃねえの。あたしらも似たようなもんだったしな」

 そう言って、リョウコはミコトと共に3人を門の外まで見送りに。
 すると屋敷からスマホを持った京埜が歩いてきて、

「ふむ、これは素晴らしいアプリだ。完成すれば、被災現場や戦地に立つ事が多い撃退士の大きな助けになるだろう。ところでリョウコよ。足先の体温が少々低いようだが冷え性か? 日頃から不規則な生活をしていると体に良くな――」
「テメーが年中ミニスカなんか穿かせてるせいだろーが」

 げしげし踏みつけ。

 にこにこと小さく手を振るミコトに見送られ、式葉兄弟と監察官は車に乗って帰って行った。



 果てなく続く青。空と海が融け合い、白く大きく伸びる雲を追って悠然と翼を広げる竜がいた。

 背に在るは、一つの人影。其は笑う。

 夢にも等しき蒼穹の中で、一人と一匹は悠久の不羈へと身を委ねていた――



「なんです? その話」

 日本の遠海。その上空を飛行中の、旅客機の操縦室。
 隣で操縦桿を握る機長の話に、副操縦士が首を傾げる。

「中国のとある村に伝わる、古いおとぎ話だそうだ」

 一人の天使が友である一匹の飛竜と共に、何事にも縛られず、何者にも邪魔されず、どこまでも続く青に彼らだけの時を刻む話。

「へえ〜。で、それってどんなオチなんですか?」
「特に何もない」
「え」
「竜に乗った天使が、広大な空をただひたすらに飛び続けているだけの話だ」
「いやいや普通あるでしょう、おとぎ話と言ったら。とんちの利いた洒落だとか、教訓だとか」
「さてなぁ…。だが飛行機乗りの俺達には、案外他人事じゃない話かもしれんぞ」
「どういう事です?」
「思うに、この天使と竜は――」

 その時、機長の言葉を遮って鳴り響く警告音。
 異常接近警報。レーダーが、自機の真横に所属不明機の点を示す。

「馬鹿な、何処から…!!」

 突如として現れた機影。

 だが次の瞬間、レーダーの反応が忽然と消失。
 念の為、警報システムの指示に従い高度を下げて自機を旋回させつつ、窓の外を見渡す。

 青く広がる空の中には、遠ざかる航空機も接近してくる航空機もいずれも確認できず。

「……誤報、ですかね?」

 でなければ、今頃はとうに衝突しているような警報だった。
 そう思ったのだが、

「…どうやらそうでもないらしい」

 その機長の言葉に副操縦士も気がついて、もはや唖然とした表情を浮かべる事しか出来なかった。

 操縦席前方の窓から一瞬、室内に影が落ちる。
 機体の真上すれすれに貼り付くようにして飛んでいたソレは、彼らが操縦する旅客機を一息で追い越してその姿を顕わにした。

 悠然と翼を広げて進む、巨大な飛竜。
 真っ白な体躯が、まるで大きく伸びた雲のように青い空に浮かんでいる。

 すると飛竜は速度を緩め、操縦席のすぐ傍まで下がって来て……

 目が合った。

 窓越しに機長を見据える、竜の静かな眼光。
 機長にはそれが、まるで何かを探しているような眼に思えた。

 やがて飛竜は、再び加速して先行。
 あっという間に旅客機を引き離したかと思うと、しかし前方の空域で大きく旋回して、その首を旅客機へと向ける。

 大きく開いた顎門の奥で灼熱の色が揺らめき――



「以上が事件の発端です」

 集められた撃退士達の前で、オペ子がロペ子にモニターを操作させながら話す。

 主翼にブレスの直撃を受けた旅客機は墜落。機体は海に沈んだものの、着水に成功したおかげで乗員乗客は全員無事に救助されたと言う。
 機長の話によれば、飛竜は落ちていく旅客機を必要以上に攻撃しようとはせず、最初にブレスを吐いた後は落ちていくこちらをただ眺めているだけだったらしい。

「事件後に該当空域に無人機を飛ばしてみましたが、すぐに撃墜されてしまいました」

 無人機から送られてきた映像をモニターに再生。
 旅客機が飛んでいたのと同じ空域に入った辺りで白い飛竜が出現。すると飛竜は即座に炎を吐いて無人機を破壊した。

 という訳で、

「航空機だと対抗しようがないので、撃退士に直接飛んでもらう事にしました」

 おう、ちょっとスカイダイビングして竜倒してこいよ。

「ひどい無茶振り」

 集められたメンバーの中で、エリスがごちる。
 一方、同じくメンバーの中にいたリーゼはじっと何かを考え込んでいた。

 レコーダーの記録に残っていた機長達の会話。そのおとぎ話には、自分も覚えがある。

「一人の天使が竜と共に、永遠に続く自由を空に馳せた話だと聞く」

 だが提示された情報によれば、現れたのは単独の竜。
 その傍らに天使と思しき存在は確認されていない。

「うーん……。でもそもそも、そのおとぎ話とこの竜が関係あるとは限らない訳だし」

 それは確かに、そうかもしれないが。
 しかし、救助された機長の証言。竜の眼に、何かを探しているかのような様子を感じた…という言葉が気になる。

 まあそれはそれとして。
 流石に旅客機ほどではないにしろ、結構なサイズの飛竜だ。歩兵の火力でどうにか出来るものだろうか。

「トドメに関しては心配ご無用です」

 オペ子がそう言うと、ロペ子は船舶に搭載された固定砲台の画像を表示。

「試作のアウル式高射砲を使います」

 一同の役割は、飛竜がいる空域の更に上空(高度20000m)からダイブして、高射砲の射程域まで飛竜を誘き寄せる事。

「つまり餌です」
「「言い方」」

 ちなみに砲手はリーゼ。
 リーゼ本人としては、エリス達のリスクを軽減するべく危険な囮役の方を選ぼうとしていたのだが、

「空中戦なら飛べる私の方が何かと便利だし。それに、『もっと皆に頼るようにしろ』って前に言われたでしょ」

 と、エリスに諭された。

 そんな訳で、

「気をつけてよろしくどうぞです」




リプレイ本文

 話を聞き終え、ディザイア・シーカー(jb5989)は小さく唸る。

「ふむ、何ともロマン溢れる話だが…」
「解せん」

 隣でジョン・ドゥ(jb9083)がごちる。

「この巨大な、しかも高速でカッ飛ぶ龍が何故この海域のみを縄張とし執着するのか」

 いや、そう考えてしまうのは、自分がこのおとぎ話を耳にしてしまったせいもあるのかも知れないが。
 するとディザイアが、彼の肩を軽く叩く。

「まあ、このままだと誰の得にもならん。さっさと終わらせて話し合いと行こうか」

 飛竜に言い分があるなら尚の事。

 一方、樒 和紗(jb6970)は囮部隊の作戦方針をリーゼへと伝達。

「命は奪わずに討伐が出来ればと思います」
「リーゼ、殺すって言ったら逃がすよう撃つでしょ?」

 言いながら、リーゼの頭を笑顔でがしぃと掴む砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)。

 追い払ってしまっては同じ事を繰り返すだけ。
 滅してしまっては竜の言い分が聞けず。

「貴方も竜が何かを探している様子、気になっているのでしょう?」

 逃がさず殺さず。

「竜の為にも…と言うのは傲慢ですが。誘導は俺達に任せて下さい。俺はリーゼを信じて頼ります…ごめんなさい。傷つける事は苦しいでしょうけれど」
「ちゃんと願いは分かってるから。…お前はお前の役目を果たすといいよ」

 髪をわしゃわしゃされながら、リーゼは頷く。

「分かった。皆も気をつけてな」

 そんな流れの中で、ジェンティアンはふと考える。

(無事を祈るいってらっしゃいのハグくらいなら……まあ許してあげなくもない)

 するとリーゼはその心中を察したのか、

 ハグ。
 ジェンティアンに。

「…僕にじゃねぇよ、和紗に決まってるだろ」
「む、なるほど」

 対して、それをじーっと見ていた和紗は、

「…薔薇(ぽつり」
「「Σ」」


●高度20000m
 飛行中の輸送機内。

「空中戦ですかあ。密かに憧れてたんですよね。こんな高い所とは思いませんでしたが」

 阻霊符を発動し、通信機とゴーグルを装着しながら鈴代 征治(ja1305)が言う。
 同じくRehni Nam(ja5283)も、

「高空からの降下戦闘! なんというか、こう……心躍るものがありますね」

 wktk。
 ……なんて言ってはいられませんが。

「今回は不幸中の幸い、死者は出ませんでした。でも、同じ事が繰り返されれば、次は……」

 また、何かを探しているようだったという飛竜の様子も気掛かりなままだ。

 陽波 透次(ja0280)はふと思い返す。
 竜に乗って心を通わせていた、とある使徒の姿。その光景を、件のおとぎ話に少し重ねつつ。

「主に見捨てられたサーバント達を守る為に孤軍奮闘した子を僕は知ってる」

 相手がサーバントでも助けたいと想うのは変じゃない。

「人への攻撃を止めてくれれば僕らで探し物に協力出来ないかな」

 その言葉に和紗も頷く。

「何とか話が出来れば良いのですが」

 討伐後に、治療や友達汁を介して話し掛けてみようか。
 攻撃せざるを得なかった事への謝罪と、探し物の手伝い等々。

「後、何者なのか…とかもね」

 そう付け加えたのはジェンティアン。
 和紗が再度頷く。言葉が通じるか分からないが、想いを伝える事を諦めたくない。
 レフニーも同意。

「人死にを目的としていなかった以上、殺さずに済むならそれで済ませたいところではありますね」

 その後、意思疎通でお悩み相談。

「……まあ、落ちた衝撃で死んでしまったなら仕方ない、という事で」

 その点だけはどうしようもない。
 ジョンも点頭。

「色々気になる竜だがまず仕事だ。敵なら殺す。追い払うだけでも手加減無しの殺す気で。それだけ危険な相手だろう」

 百獣の王を自負する身としては『獣王は竜を倒せるのか』に挑戦したい気もなくはないが、今回は相手の規模が違うので一先ず置いておく。
 他方でディザイアも、

「意思疎通ができるかはわからんが、何かしらの情報は掴めるだろうさ」

 最近身体が鈍り気味だったので、ここらで気合入れ直すとしよう。

「お嬢もいる事だしな、無様な姿を見せるわけにはいくまい!」

 そしてそのお嬢(エリス)だが、

「撃墜者のフォローをお願いします」

 透次の提案。
 自分達が飛竜と接触した後、高度を下げて他よりも低めの位置をキープ。誰かが気絶やスーツ破損による危機に陥った時の救援を担当して欲しい。

「わかったわ、やってみる」
「じゃあエリスちゃんを迷彩仕様に換装するのですー」

 そう言ってレフニーは、アーティストのペイントスキルを活性化。
 塗り塗りして潜行効果を付与すれば、飛竜に狙われずに救助活動が出来る…筈。

「じゃあ俺も、皆のフォロー及び壁役だな」

 立候補ディザイア。
 お嬢より少し上に位置取り、飛竜の目や鼻、耳の辺りを狙って気を散らせつつ嫌がらせの如くヘイトを稼ぐ。

「まぁあれだな、夏場の蚊の如く動けば良いんだろう? 目や鼻先、耳元でチロチロされりゃイラッと来るもんだしな」
「カトンボのように墜とされるフラグなのです?」

 そうこうしている内に作戦空域に到達。
 ハッチが開き、透次を先頭に次々とダイブ開始。

 降下しながら、ブレスで一網打尽にされぬよう散開。
 付かず離れずで援護し合える距離を図りながら飛竜を探す。

 通信機越しに佐藤 としお(ja2489)の声。

『ここまで高いともう何だか分からん!』

 輸送機から最後に飛び降りたとしおは、雲で仲間達の姿を見失わぬよう気をつけつつ、ウイングスーツの翼膜を張って周辺を旋回。
 依頼でもない限りこんな高いとこ御免です!(ガクブル

『ただ飛ぶだけなら気持ち良いんだろうけどねぇ…』

 こちらはジェンティアンの声。
 トカゲの餌とかシャレにならないよね、と。降下しながらくるくる向きを変え、360°に目を向ける。

 そして――

『…来たね』

 下から上へと流れていく雲を横切って近づいてくる、大きな白。飛竜だ。
 同じく気づいたとしおと共に、通信機を介して全員へ注意喚起。

 直後、透次が動いた。
 鳳凰臨で先手を取り、ウイングスーツで風を切りながら飛竜の視界へと躍り出る。

 対する飛竜は、眼前を飛ぶ透次の姿を観察するように追従。
 やがて、

 ――竜の咆哮。次の瞬間、全身に戦意を帯びて大きく羽撃いた。

 和琴型の魔具を構える和紗。絃を弾き、飛竜の体にマーキングスキルを打ち込む。しかし飛竜はそれを意に介さず、一息で透次へと追いついて牙を剥いた。
 咄嗟に体を傾けて横に躱す透次。飛竜の左頬を掠めるように後方へ流れ、そのまま巨体の死角へと逃げる。

 透次を見失った飛竜は、更に加速して一同を引き離しに掛かった。
 前方の空で大きく上昇しながら宙返りして方向転換。時速数百kmという速さで、斜め上から降下するように戻ってくる。
 流石にあの速度の巨体に衝突されてはタダでは済まない。

 そこへ、旋回して飛竜の下方側面に潜り込むように接近した征治が、発煙筒を焚きながら交差。飛竜の注意を逸らす。

『なにやら訳ありみたいですが、無差別に襲撃する時点で排除対象です。悪く思わないで下さいね』

 征治を追って軌道を変える飛竜。
 だが旋回して速度が落ちた瞬間、その後方から滑空してきたとしおが急接近。飛竜の後頭部付近を一気に飛びぬけて前へ出た。

 飛竜の目を引きつけ、しかし的を絞らせぬよう緩急をつけてジグザグに飛行。
 これならば牙や爪によるピンポイントの打撃はそうそう当たるまい。そう考えていたのだが、

『あっ、としお危ない!』

 エリスの声。
 直後、飛竜が急加速。
 点で穿てないなら面で潰す、とでも言わんばかりに、その巨体でとしおに体当たりを仕掛けてきた。

『うぉっ! あっぶねー!』

 既の所で外側へ逃れるとしお。突進で生じた風圧に押し退けられながら、冷や汗をかく。

 一方、としおを追い抜いた飛竜の顔面めがけて降下する“赤”が一つ。
 背に翼を広げたジョン。

『それだけの巨体だ。曝す部分も大きいだろう』

 そう言って、交差する一瞬、飛竜の眼を狙って矢を射掛ける。
 だが如何に体躯に比例した急所とは言え、時速数百kmという速度域においてそれは至難の業。矢は眼の中心を逃し、瞼を覆う堅固な白鱗に弾かれてしまった。

 大きく旋回して戻ってくる飛竜。
 しかしジョンの殺気に警戒心を強めたのか、今度の攻撃手段は体当たりではなく――

 口を大きく開き、喉の奥に灼熱の吐息が揺らめく。

『ブレス!』

 透次の声。
 誰よりも飛竜の挙動を注視していた彼は、警告すると同時に四肢を閉じて急降下。横ではなく、縦に回避行動を取る。
 和紗とジョンも、すぐさま下へ。

 刹那、閃光にも似た超高温の炎が空を焼き払った。
 首を左右に大きく振り、強引に範囲を広げる。

 縦に逃げる事で落下の加速度も加わり、ブレスの範囲から上手く脱した透次と和紗とジョン。
 一方で、ダメージを負ってしまった者達もいた。

 封砲でブレスの相殺を試みた征治。しかし敵の勢いを殺しきれず。
 範囲を広げたせいで炎の密度が薄れた事が幸いして致命傷こそ免れたものの、高熱の余波を浴びた皮膚がちりちりと鈍痛を訴えてくる。

(スーツは……大丈夫、まだ飛べる)

 体勢を整えながら、翼膜の状態を確認。

 また、同じく範囲から離脱しきれなかったとしおと、そのカバーに飛び込んでいたディザイア。

『俺の目が黒い内は早々やらせはせんぞ、特にお嬢には触れさせん!』

 ちなみにそのお嬢は、予め一同よりも低空を飛んでいたおかげで無事。

 ディザイアがとしおと自身に、レフニーが征治に、それぞれ治癒スキルを施す。
 その間、ジェンティアンは回避に成功した3人のカバーへ。

 飛竜は目に付いたジェンティアンを猛追。
 それを阻むように、得物を斧槍に持ち替えたジョンが正面から待ち構える。

『そろそろこの速度にも慣れてきたぞ』

 突進してくる飛竜の顔面めがけてフルスイング。先程と変わらず、狙うは眼。
 飛竜は咄嗟に片瞼を閉じ、その鋼のような鱗で眼を守るも――

 斬撃音。切っ先が僅かに鱗を貫き、白に赤を刻む。
 相対速度を乗せた一撃。だが眼を潰すには至らず。

 すれ違い様、尻尾でジョンを殴り飛ばす飛竜。

『ぬ…!』
『おや大変』

 すぐさまジェンティアンが旋回して治療しに近づく。

 その時間を稼ぐべく、再び透次が飛竜の気を引く。接近戦を避け、射程ギリギリから牽制。
 魔剣ティルフィング。その唯一無二の力をスキルに乗せ、編み上げた幻月の符を投擲。爆ぜた符が月光を撒き散らし、飛竜の五感を阻害する。
 そこへ和紗が射撃を重ね、追いついてきたレフニーと征治も遠距離攻撃。ダメージは二の次。落とす事よりも落とされぬ事に集中。

 多方向からの攻撃に、飛竜が苛立ちを顕にして吼える。
 翼を広げたまま横転。気流を乱して螺旋風の内側に一同を強引に引きずり込み、爪の射程に収める。

 だがその爪が振り上げられるよりも先に、征治が自ら距離を詰めていた。

 螺旋風に煽られて飛竜の背中側を横切る際、ワイヤーを絡めてその背に組み付く。

『やあっと捕まえた! さあ、撫でてやるよ!!』

 風圧と振動に歯を軋ませながら、渾身の一撃を叩き込む。
 光と闇の両方を内包した混沌のアウル。白鱗の巨躯が苦悶に大きく揺れる。

 振り落とされる前に離脱する征治。
 警戒すべきは直後の反撃。そのタイミングに合わせ、としおが銃を手に離脱を援護する。

『こんな程度で何とかなるかわからないけどっ!』

 イカロスバレット。
 直撃を受け、飛竜が微かに高度を落とす。

 ――否。

 スキル効果以上の距離を下りていく飛竜。落とされた勢いを逆に利用するように自ら降下し、反転して一同を見上げる。
 口を開け、顎門の奥で炎が揺れていた。

 ブレスの予備動作。
 下から撃つ事で、縦の回避も封じるつもりか。

『やらせはしないのです!』
『最初から負ける気ではいられないしね…!』

 レフニーとジェンティアンがシールゾーンを発動。
 魔法陣を展開し、飛竜のブレスを封じ込める。

 しかし飛竜は、炎を潰されたと知るや否や、即座に攻撃を体当たりに切り替えて急上昇してきた。
 標的にされたのはとしお。

 強烈な衝撃。
 巨躯の範囲から逃げ切れずに弾き飛ばされ、意識が暗転していく。

『あ〜こりゃラーメンエナジーが……でもっ!』

 起死回生で踏み止まった。
 和紗とディザイアが治癒スキルを飛ばし、透次が双銃で飛竜を攻撃して囮役を引き継ぐ。

 高射砲の射程域まであと少し。
 一同は陣形を整えながら、諦める事無く飛竜を牽き続けた――



 ――高射砲を装備した船の甲板。
 砲身の横に立ち、手を当てて装填部に溜めたアウルを維持しながら、じっと空を見上げて待つリーゼ。

 その時、雲の隙間から抜け出してきた影を見つけた。

 光纏した粒子が尾を引き、紅い流星のように先頭を行くジョンの姿。他のメンバーと代わる代わる位置を変えながら、その後ろに真っ白な竜を牽いて降りてくる。
 同時に、彼らの方も高射砲の位置を視認。

 瞬間、飛竜へと振り返ったレフニーが星の鎖を投げる。絡みついたアウルが枷となり、白い竜を雲の白から引き摺り下ろす。
 飛竜は抵抗を試みるも、そこへ征治が星鎖を重ねて多重拘束。

 翼を封じられ、真っ直ぐに墜ちていく白き竜。

 ――命は奪わずに討伐が出来ればと思います

 リーゼは心の中で和紗の声を聞きながら狙いを定め――


 砲撃。
 光の柱が空を貫き、蒸発した雲が一瞬にして円に散った。


 捉えたのは、飛竜の肩先。
 直撃はさせず。それでも掠めた首筋がジリジリと音を立て、白い鱗がオレンジ色の火燐を発して焼け焦げていく。

 脱力して自然落下する飛竜を見て、ウイングスーツのパラシュートを開く征治達。
 翼で飛んでいたディザイアも、ゆっくりと高度を下げながらその光景を見守る。

『流石リーゼだな、頼もしい限りだ』

 だがその時、不意に飛竜が咆哮。
 翼を広げて星鎖を破壊し、高空に留まりながら辺りを見渡す。


 その眼に映るは、果てなく続く青。

 空と海が融け合い、陽の光を携えた風が吹く。

 記憶に浮かぶ蒼穹と同じ景色の中、ゆらりゆらりと下りていく複数の影。

 されどその中に、共に飛ぶ人影は無く――


 再度、竜の咆哮。
 どこか悲しげに、静かに響いた鳴き声は、やがてその体と共に光の粒となって空の青へ溶けていった……。



 着水後、一同は無事に船に引き揚げられた。
 残ったスキルでそれぞれの傷を癒しつつ、

「あ〜生き返った〜」

 持参したカップ麺を啜るとしお。
 ラーメンエナジー補給。

「…言い分、聞きそびれちゃったわね」

 空を見上げながらエリスが呟く。
 だが確かに、あの竜は何かを探していた。もっと早い段階でそれが何か聞いてやれば良かったのか、それとも……

「まあ、可能性を追求しすぎて自分達が死んじまったら元も子もない」

 ディザイアがエリスの肩に手を置く。

「なんにせよ、俺の手が届く範囲は守って見せる。特にお嬢は絶対だ!」
「お、おう…」

 そう言って彼は、エリスを高く空へと向けて抱え上げた。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

未来へ・
陽波 透次(ja0280)

卒業 男 鬼道忍軍
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師