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マスター:水音 流
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:20人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/21


みんなの思い出



オープニング

 ゲインは1人で外を歩いていた。

 知人の結婚式に乗じてシャバへ出ようと画策したものの、色々な所をボコボコにされてゴミ捨て場送り。ひどい目に遭った。
 まあ、結果として脱獄には成功したからよしとしよう。

 でも腹立たしかったので腹いせに、一緒に投棄されていたJC撃退士の靴下を脱がせて足の裏に『肉』と書いてやった。書いた後で靴下を元に戻しておいたから、たぶんまだ気づいていないだろう。

(何度も書きなぞってやったからな。簡単には消えまい)

 ほくそ笑みながら、特に行くアテもなくテキトーにぶらぶら。
 気がつけば、景色一面が田畑や山ばかりの田舎町…っていうか村?に入っていた。

 村の中央には全高50mはあろうかという異様に巨大な1本の笹が立っていて、その根元で村民と思しき人間達が何やら頭を悩ませていた。

「少子化だべな〜」
「こんままじゃ、村さ無くなってしもうべ」
「んだ。なんぞ村興しとかせんといがんばってん。村長、なんぞ良いあいであーとかねぇんだかや?」
「そったら言うても、こん村ぁ、ノッポな笹くらいしかねぇべしなぁ……」
「充分な客寄せになると思うが」

 彼らに近づき、そう口を挟んだゲイン。
 何せ50mの笹である。存在そのものがファンタジー。そして丁度良い事に、世間ではもうすぐ七夕だ。七夕と言えば短冊、短冊と言えば笹。これを利用しない手はない。

「祭りを開くのだ」

 催しをこじつけ、屋台を出し、笹を使って観光客を呼び込む。
 ゲインは落ちていた小枝を手に取ると、土の上にガリガリと計画表を書き出した――


●七夕当日
 祭り会場の様子を見て回る村長。
 久遠ヶ原の斡旋所にもチラシを配っておいた甲斐があり、立ち並んだ屋台の中には若者(学園生)が出している店も幾つか見受けられた。

 出店の売り上げで学生一儲け。
 ショバ代の徴収で役場丸儲け。
 Win-Win。

 そして夜には、この祭りの目玉企画である『笹昇りレース』も控えている。

「だども村長。こげな事さ言っちまって、ほんに大丈夫かのう」

 ふと、一緒に歩いていた村民が祭りのチラシを改めて眺める。
 そこには祭りの日程以外に、とある伝承の一説が紹介されていた。

『笹昇りの伝説。七夕の夜、天の川の星の下で村にある大きな笹の頂に短冊を飾ると、どんな願いでも叶うと言われている』

「オラんち、先祖代々ず〜っとこの村で暮らしてっけど、こげな言い伝え聞いた事ねぇべよ」

 伝説(数日前に思いついた)。

「こげな安請け合いしちまって、願いさ叶わなかったら苦情さ言われんじゃねぇべか?」
「心配ねぇず。所詮ただの昔話でしたぁ言うとけばなんぞでも誤魔化せるて、ゲインさんも言うとっちゃべし」

 伝承を訴訟して勝訴。ハハッ、ワロス。

「そういや、ゲインさんさどこ行ったべ」
「あんヒトは、祭りの締めに使う花火さ作る言うて、小屋に篭もっとーよ」
「ほんに親切なヒトだべな〜」
「んだなぁ。こん祭りも、全部あんヒトのおかげだべ」
「きっと笹の神様の使いに違いねぇべ」
「ありがてぇ、ありがてぇ」

 ここには居ないゲインに向けて、村長達は一様に手を合わせてなむなむ拝んだ。



 その頃、小屋の中では。

「今の内に精々祭りを楽しんでおくがいい。最後に盛大な発破をお見舞いしてくれる」

 ゴリゴリと火薬を固めながら、クククッと口端を吊り上げていた――




リプレイ本文

 村に到着した黒百合(ja0422)は、キレイな笑みを浮かべた。

「あァ、今回はレースには参加せずにのんびりしたいわねェ…うふふふふゥ♪」

 キレイな笑みを浮かべた(ダイジナコトなので2度言いました。テストには出ない
 一方、

「ここにある短冊全部くだしあ」

 そう言ったのは、玉置 雪子(jb8344)。
 INI21を使って普通ならまだ付かない時間できょうきょ参戦すると、雪子は伝説の短冊を買い占めるのだった。

「もうついたのか! はやい! きた!雪子きた! メイン雪子きた! これで勝つる!」

 フヒヒ、と1人でぶつぶつ言いながら短冊を抱えて出ていく雪子。
 それとは別に、黒百合もスーっとどこかへ歩いていく。

 他方で、真面目な面持ちで村長へ詰め寄る者がいた。
 雁鉄 静寂(jb3365)だ。

「嘘はいけませんよね?」

 願いが叶うとかそんな甘い餌で客を釣ろうなどと言語道断。ぎるてぃ。

「お願い事がきっちり叶うまで責任を取ってもらいましょう」
「だ、だども、こげな伝説さ本気で信じるもんなんていねっぺよ」
「信じたらどうするんですか」
「彦星と織姫のおる場所まで数十光年も離れとるっちゃこと説明すんべ」

 あれだ。彦星まで16光年、織姫まで25光年離れてるから、願いが届いて帰ってくるのにも往復数十年掛かるんですぅ〜、とかそういうあれ。

「数十年後に嘘がバレますよ?」
「流石に時効じゃねぇかいのぅ…」

 しかし静寂は取り合わず、徐に自らの腕に臨時職員としての腕章をペタリ。

「宣伝を嘘にしない為に、私も手伝います」

 目的:伝説の笹の天辺に短冊をつけた人の願いを叶える。
 だが当然、必要な人材や物品は村が持つのが筋というもの。

「勿論言い出したことは最後まで責任取りましょうね」

 ぽんっ、と村長の肩に手を置く静寂。
 おら経費だせよ(にっこり

 その時、

「お話は聞かせてもらいましたですの」

 役場のドアをばぁんして現れる純白の紅茶神、斉凛(ja6571)。
 祭りも笹も、全ては村興しの為。ならば、

「紅茶で女子の心をゲット、新規住民招致ですわ」

 紅茶を淹れ、紅茶を売り、紅茶で話題になれば村の知名度紅茶上り。
 手始めに今日の祭りの屋台で紅茶の実演販売をして、売り上げは全て村に寄付。
 その代わり、紅茶以外の飲料(特に珈琲)は全て弾圧すrげふんげふん。

 紅茶は正義。

「紅茶帝国建国の第一歩…こほん、村おこしですわ」

 植民地か。
 凛は早速ガスマスクを装着すると、給湯室にあった珈琲メーカーをゴミ箱へぽいちょした。



 あても無くふらふらする逢見仙也(jc1616)。
 しかし財布の口は固い。

 りんご飴――

「お、兄ちゃん1つどうだい!」
「いや別に(匂いもぐもぐ」

 たこ焼き――

「よお、食ってくかい?」
「いや別に(香りもぐもぐ」

 焼きそば――

「美味しいよ!」
「結構です(焼音もぐもぐ」

 匂いと見た目で脳内もぐもぐ。うめぇ。
 すると暖簾に『しゑる屋』と書かれた店を発見。そこには、ピックを持ってたこ焼き機の前に立つシエル・ウェスト(jb6351)が立っていた。
 商品としてパックに詰められている丸い塊は、たこ焼きそのもの。しかし、

 シエルは鉄板の丸穴にとろりとした“ チ ー ズ ”を流し込んでジュワー。シュバシュバとピックで転がして、まんまるふっくら焼いていく。
 たこ焼き機でチーズを焼く奇跡(奇人)の発想。

「何屋とは言ってませんし(しゑる屋とは書いた」

 するとシエルは仙也へ顔を向け、

「食うかね?」

 チーズ焼きにチーズを掛けて、ずいっと差し出す。

「遠慮しとく」

 それを丁重にお断りする仙也。でもとりあえず匂いだけすんすn
 瞬間、団扇で風向きを変えるシエル。

「嗅ぐかね?」

 しゑる屋は匂いも有料です。

「もしくはこのチーズ教入信の書類にハンコをですね――」

 仙也はそっと逃げ出した。



 再び会場を彷徨う仙也。
 そういえば夜には笹昇りレースとやらもあるらしいが…

(笹に特定の短冊使うと願いが叶うなんての聞いた事無いんだよな)

 それに今ちょうど村に笹の神様の使い?が来ていると言うではないか。
 せっかくだからちょっと顔でも拝んで行くか。そう思って村外れの小屋に向かうと、ラファル A ユーティライネン(jb4620)と遭遇。

 祭りの手伝いに来てみたら花火を作っている奴がいると聞かされて、嬉々として駆けつけたラファルさん。
 仙也と共に小屋の中へ踏み込んでみるとそこに居たのはあのゲイン。

「あ、こいつこないだの結婚式にいた悪魔じゃねーか」

 それを聞きつけ、ミハイル・エッカート(jb0544)も登場。

「ほほう、あのゲインが村おこしを手伝っているとな?」

 俺のオシオキが効いたのか。
 感心だ。

「花火作りなら俺も手伝おう」
「発破芸ならまかせなー」

 押し入ってくるミハイルとラファル。
 対して、警戒心を露わにするゲイン。

「またしても私の邪魔をするつもりか撃退士共(火薬ごりごり」
「改心したそうじゃないか! 遠慮するな、一緒に黒焦げになった仲じゃないか(善意ごりごり」

 ミハイルは見様見真似で花火を拵え始める。
 作り方は知らない。とりあえず火薬に色々混ぜて丸めるのは分かる。

 後で皆で遊ぼうと思って携帯していた手持ち花火セットを分解し、中身の火薬をほぐし出す。元が花火なのだからいけるだろう。
 そこに、学園の購買で売っていたぁゃιぃ粉――ミイラっ粉、吸血っ粉、魔女っ粉――を混ぜ混ぜ。押し固めて球体に。

 ――それを、こっそり陰から眺めていた仙也。

 小屋に入る前にペイントスキルで気配を消し、小屋の隅で傍観。
 火薬がいっぱい置いてあってよく燃えそうだなーとか、悪魔のくせに神の使いとか呼ばれてる奴にマッチ擦って近づけてみたいなーとかは全然思ってない。
 思ってないけどちょっとやってみたい。
 よしやろう。

 仙也はどこからともなくマッチを取り出し、シュッと一擦り…

 ガチャリ。
 唐突に、小屋のドアに鍵が掛けられた。

「花火の事故って、こえーよなー」

 男子3人を中に閉じ込めたまま、外で阻霊符を展開するラファル。そしていつの間にかその隣には雫(ja1894)の姿も。

「小屋は近隣から隔離されてますから、爆発させても問題無いですね」

 ロケット花火片手にライターかちかち。
 着火したがり多すぎワロタ。

 ラファルも、両腕を変形させて魔装誘導弾式フィンガーキャノンを構える。
 火薬満載の小屋の中で男子達が必死にドアノブガチャガチャ。

『おのれこの悪魔共め…!』

 発射――



 1機のヘリコプターが村の上空を飛んでいた。
 遊覧席に座っているのは、佐藤 としお(ja2489)と華子=マーヴェリック(jc0898)。

「今日はお祭りの花火を見に行こう!」
「ヘリコプタークルージングなんて初めて〜♪」

 空から間近に花火を見るのだ。
 スカイクルーズで素敵な七夕を。

「初めて見る空からの花火はとっても綺麗なんだろうなぁ」

 華子はわくわくしながら、悠々と田畑が広がる景色を見渡していると――

 突如、村外れの小屋が大爆発。
 花火かな?(すっとぼけ



 農道を大次郎がのしのし歩いていた。
 もふもふの頭上には、フェルミと月乃宮 恋音(jb1221)が乗っている。

「……暑くなってきましたので、新しい避暑地を探しに行くのは、いかがですかぁ……?」

 そう言ってフェルミと大次郎を祭りに誘った恋音。ド田舎という事で、村の近くには川や山、洞窟も多い。
 ついでに、前回入手したBIG MILK…その複製品が出来たのでその実験もするつもりである

「そうだなー。前に貰った迷宮の別荘は、いつ立ち退かされるかわからないしなー」

 すると大次郎が伝説の笹に興味を示して広場の方へ。
 そこでは、黒百合が笹の周りでせっせと土木工事に勤しんでいた。

 笹の飾り付け。
 枝葉を彩る煌びやかなイルミネーション――200Vの工事用電源に繋がれた剥き出しの電球。至る所でバチバチ漏電中。ブレーカーは壊れた(壊した
 笹を育む為に汲んできた新鮮な栄養水――大量の不純物を含んだ導電率マッハな水。
 祭りの喧騒を引き立てる派手な爆竹――向きを調整して対空も兼ねたクレイモア地雷。
 鳥獣被害を防ぐ竹製のカカシ――落下式の竹槍トラップ。鋭くて痛い。

「ふゥ、イイ仕事したわァ♪」

 キレイな笑顔。

「命懸けのレースになりそうだなー」
「…………お、おぉ…………(ふるふる」



 ヘブホラの出張屋台。
 白地に青い花の浴衣姿で髪には桜の簪を挿した木嶋 藍(jb8679)が、ひょこっと店を覗く。

「やっほぅ和紗。リーゼさん達とお店出してるって聞いて、来ちゃった!」
「どうぞ、ゆっくりしていってください」
「(ぺこり)」

 いつものバーテン服で出迎える樒 和紗(jb6970)。その隣でリーゼも小さくお辞儀。
 が、何やら和紗は目の下にくまが出来ていた。

「ん? 和紗元気ない?」
「いえ大丈夫です」

 と言う傍から、和紗は小さなミスを連発。

「あらあら。無理しちゃダメよ」

 見かねた華宵(jc2265)が和紗に言う。

「ふむ…すみません。では、其方のテーブルはお任せします」
「任されたわ」

 華宵はカクテルをトレイに乗せて、村民(じじばば)達のテーブルへ。

「お兄さん方、美味しいカクテルいかが? お嬢さんもいらっしゃいな」
「ほっほっ。こげな若ぇべっぴんさんに童扱いされるっちゃ、びっくらこぐだなぁ」
「うふふ、十分若いわよ。私の10分の1くらいでしょ…坊やだわ(艶笑」
「は〜、アンタどん見ても20かそこらだがに、そげん長生きしとるんかいね」
「歳さとってもピチピチなままっちゃ、羨ましいのぅ」

 華宵さん、じじばば達に大人気。
 昭和や大正どころか鎌倉時代まで遡れる年季は伊達じゃねえ。

 一方、和紗は藍のおもてなし。

「何か飲みますか?」
「じゃあ、せっかくだから和紗のお勧めを!」
「承りました」

 氷を入れたグラスに絞りたてのレモン果汁とメロンシロップ、炭酸を注いで軽くステア。
 丸型にスライスしたレモンをグラス縁に飾り付け、ストローを挿して完成。

 甘味の中で広がる爽やかな酸味。

「わっ、美味しい! ありがとう和紗!」
「口に合って良かったです」

 お辞儀しつつ、和紗はふと思い出したように隣のリーゼを見る。

「織姫と彦星は年に1度の逢瀬ですが、リーゼは奥さんといつ逢うのですか?」
「奥さん??」

 それを聞き、藍も「リーゼさん既婚者なの?」と顔を向ける。

「…?」

 あれ? この前ちゃんと、恋人はいないって伝えたような…。
 困惑するリーゼ。

「ええ。恋人ではないという事は、既に夫婦の間柄なのですよね?」

 あ、そういう方向に行きましたか。
 察するリーゼと藍。

「妻もいない」
「いない…では旦n」

 その時、和紗の肩にぽむっと置かれる1つの手。
 浴衣姿の蓮城 真緋呂(jb6120)が立っていた。

「お店があぁでも、旦那さんは無い無い(首ふるふる」
「うん、旦那さんもいないと思うよ、和紗」

 藍も反対側の肩に手をぽむり。
 要するに、リーゼは紛う事無き一人身である。

「そうでしたか…」

 そもそもが勘違いであったのだと漸く気づき、「いなくて良かった」と、ほっとする和紗。
 だが同時に何故自分が安堵したのか分からず、内心小首を傾げてもいた。

 誤解も解けた所で、真緋呂は席に着いてシュバッと挙手。

「ごはんください!」

 目的:リーゼの借金(ごはん)取り立て。

 頷いたリーゼは、ブロック肉を丸ごと使ったカルパッチョや、村で収穫された新鮮野菜をたっぷり使ったサンドイッチなどでおもてなし。
 真緋呂はそれらをぺろりと平らげる。

「ご馳走様♪(器山積み」

 すると彼女は徐に中央広場にある笹の方を見つめ、

「…喪ったもの、家族や故郷は星にお願いしても返らないわよね」

 兄弟とかいたら良かったな、私一人っ子だったし。

「リーゼさん、髪や瞳が同じ色で親近感。…お兄ちゃん代わりになってくれない…よね」

 寂しげにぽつり。
 その様子をじっと見つめていたリーゼは、

「家族が増えるのは嬉しい(こくり」

 瞬間、ぱぁっと顔を綻ばせる真緋呂。

「じゃあ真緋呂って呼んで。私は兄様と呼ぶわね♪ あ、別に兄妹になればいつでもタダ飯集れるとかそんな事は思ってないから。思ってないから」

 なんという財産目当て。
 末代まで差し押さえる気だわこの子…!

「やっほー和紗。来たよ」

 そこへ、千歳緑のしじら織浴衣を着た砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)が到着。
 後ろには榊 栄一と、どこから拾ってきたのか宍間 涼介を連れていた。

 ジェンティアンは2人を席に座らせつつ、

「実はさー、早上ちゃんがいつまで経ってもお店の修理費払ってくれないんだよね」
「「はぁ…」」

 いつぞやのヘヴホラ襲撃事件。

「でもあれってさ、そもそも宍間ちゃんがヴァニタスになっちゃったり、榊ちゃんが失踪したりしなければ起きなかった騒ぎなわけじゃない?」
「「え」」
「だから早上ちゃんが払うよう協力してね(輝笑」

 その為に連れてきた…というだけではなく。

「…で、あれから2人で話す事とかなかったでしょ。今日はゆっくりしていきなよ…僕は藍ちゃんとデートしてくる(キリッ」

 すると和紗とリーゼが、揃いのカクテルを2人の前へ。
 栄一と涼介はしばし顔を見合わせた後、互いにグラスを合わせて小さく音を鳴らした。

 そしてジェンティアンは藍と屋台巡りへ。

「今日はどーんと奢るよ」
「えっ、奢ってくれるの? 結構食べるよ?」
「大食いなら慣れてる」

 屋台の一角をチラ見。
 真緋呂嬢が建築した空の食器タワー。

「ふぉー、ふとっぱら…!」

 ジェンティアンのイケメンっぷりを目の当たりにした藍は、屋台を指折り数える。

「じゃ、じゃあ、えっと! タコ焼きお好み焼き焼きそばに、唐揚げクレープりんごあm(ry」

 しばらくジェンティアンのお昼は素うどんコースかな?

「七夕の夜、楽しみなさい」

 華宵はパワフル女子に連れられて遠ざかっていく彼の背を、ふふっと微笑しながら見送った。



「ささのはぁ〜、さぁ〜らさらぁ〜♪」

 微妙に音程のずれた歌を口ずさみながら屋台を見て回る、深森 木葉(jb1711)。

「美味しい物はあるかなぁ?」

 すると一風変わった屋台が目についた。
 豚侍達が人力…豚力?で牽引する移動屋台。

「紅茶にあわない料理など、この世に存在しませんわ」

 紅茶を売りながら布教して回る凛の屋台だ。
 ちなみに固定屋台も村の各所に設置してある。店番は豚侍。

「夏の陽射しの下でロリっ娘メイド女帝にこき使われるこの仕打ち」
「なんという甘美」
「なんというご褒美」
「無駄口を叩いてないで、きりきり進みなさいですの」

 シルバートレイでぺしぺし。

「紅茶ですかぁ…あたしでも飲めるかなぁ?」

 木葉がじーっと見上げていると、凛は豚侍をぶぎゅっと踏んで停車。

「いらっしゃいませ。紅茶はどなたでも気軽に飲める万能の飲み物ですの」

 お1つどうぞ、と木葉に提供。

「ありがとうございますぅ〜」

 ぺこりと受け取る木葉。
 そして凛が豚侍を踏むと、屋台は再びゆっくりと通りを進み始める。

 貰った紅茶をくぴくぴ少しずつ飲みながらその背を見送り、木葉も散策を再開。
 視界に入ってきたのは、短冊を売り歩く雪子の姿。それは、役場でのみ売っているはずの伝説の短冊だった。

「役場でのみ? 今は雪子のみが販売してますしおすし」

 独占転売。
 皆さん欲しいですか? 買い取ってくださいね。

「1万久遠だよ、あくしろよ」

 幼女から万札を毟り取る雪子。

「さすが伝説の短冊は高級ですねぇ〜」

 何の疑いも持たずに2枚ほど購入する木葉。
 そして偶然それを目撃する雫。

「…随分と阿漕な値段設定された短冊ですね」
「……う、うぅん……?」

 更には、キングベヒんもス…もとい大次郎に乗った恋音&フェルミも通り掛かる。
 じーっと見てくる雫や恋音を強いと感じた本能的に長寿タイプな雪子はしかし、

「も、もう(販売権の)勝負ついてますから」

 すると恋音は、まあ仕方ないといった様子で渋々1枚購入。
 一方の雫は元々レースに参加するつもりが無いらしく、それ以上言及せずに出店巡りへと戻っていく。
 その隙に雪子はとんずらした。



 まずは何から食べようか雫が迷っていると、小次郎を頭に乗せたオペ子を発見。

「ここで、小次郎さんに出会えたのに奉納出来る者が無いなんて…」

 何か食べ物の屋台はないかと思い、しかし目についた店の看板には『イカ』の絵が書かれていた。

「…流石にイカ焼きとかは嫌ですよね?」

 猫にイカは駄目ゼッタイ。まあ加熱すれば大丈夫らしいけどな!
 でも消化悪いから、やっぱりあげ過ぎには注意した方がいいんじゃなイカ?

「小次郎はグレートなにゃんこなのできっとイカ焼きもへっちゃらです。むしろオペ子がイカ焼き食べたいです」

 という訳でイカ焼きを買うオペ子と雫。
 雫がゲソを抓んで慎重に小次郎の口元へ持っていくと、小次郎はその指を両手でがっちりホールドしながらゲソむしゃむしゃ。なかなか噛み切れず、その間、雫の指先はぷにぷにの幸せを味わう事に成功した。

 が、食べ終わるや否や、ぴゃっと雫から距離を取る小次郎。
 次の…次の囮を用意しないと…!

「オペ子さん、何か美味しい物を出しているお店はありませんか?」
「困った時は小次郎センサーの出番です」

 オペ子は再び小次郎を頭に乗せると、その視線が示す方へと歩き出す。

 辿り着いた先は『しゑる屋』。
 店の前に、口一杯にチーズ焼きを捻じ込まれたジェンティアンが転がっていた。
 それをつんつん突っついている藍。

「食い倒れ人形でしょうか」
「きっと美味しいに違いないです」

 購入。

 焼いたチーズでチーズを包んでチーズを掛けたチーズの塊。
 食感も香りも後味も全てがチーズだった。
 チーズしか入ってないしな。

 雫達はチーズ臭を漂わせながら他の屋台も食べ歩いた。



 広場へとやってきて笹を見上げる木葉。

「大きな笹ですねぇ〜。ところで、笹と竹はどう違うのでしょう?」

 きょと〜んと首を傾げた幼女の疑問に答える声が1つ。

「オペ子知ってます」

 振り向くと、屋台料理を頬張るオペ子と雫がいた。

「竹の葉脈は格子状で節から出る枝の数が2本です。あと筍の時の皮が成長すると剥がれ落ちてツルツルになります。笹は葉脈が平行で枝の数が3本以上あって筍の皮も枯れるまで残ります。まあ特に枝数は品種によっても変わるらしいですが」

 なるほど、わからん。

「オペ子ちゃんは物知りさんですねぇ〜」
「インターネットを駆使すれば造作もないです(えっへん。もぐもぐ」
「見事な他力本願ですね(もぐもぐ」
「あらァ…? そんな所にいると危ないわよォ…」

 新たな声に一同が首を回すと、『KEEP OUT』と書かれた黄色テープの束を抱えた黒百合がそこに。
 笹のトラッp…飾り付けに一般人が触ってしまわないように、テープで囲っていく。

「レースが終わるまで立ち入らない方がイイわァ。今スイッチ入れるからァ…」

 言いながら、イルミネーション()用の電源に手を掛ける黒百合。

「少しだけ待ってほしいのですぅ〜」

 木葉が、てててと笹に駆け寄る。
 短冊を取り出し、自らの欲望(ねがい)を書き込もうとして…何故か途中でくしゃっと丸めた。

「あたしの欲望は…、叶いませんね…」

 代わりにもう1枚の短冊を手に取り、一首詠む。

『短冊に 綴る想いの 欲望星 天を流るる 川になりぬる』

 そして祈るように手を合わせ、

「みなさまの欲望、叶いますように……」

 詠んだ短冊を笹の天辺…ではなく、根元へ飾っておく事に。
 するとオペ子が、

「きっとママさんとパパさんも天の川から見てくれています。小次郎レーダーで深森さんの座標をお知らせです」

 そう言って、木葉の肩にそっと小次郎を乗せる。
 ちょっとだけ、チーズの香りがした。



 夜。
 ジェンティアンと藍がヘヴホラ屋台まで帰ってくると、何やら和紗がリーゼや華宵らの制止を振り切って出かけようとしていた。

 和紗の手には、リーゼの願いが叶うようにと購入したレース用の短冊が10枚。だがその足取りはフラフラである。

 それを見咎めた藍とジェンティアンは、

「こら和紗、無理しちゃダメ! 笹登りはジェンさんと私と宍間さんに任せて!(きらん」
「僕が代わりに登るから休んでなさい(溜息」

 加えて、真緋呂も言う。

「店番なら私と華宵さんもいるから大丈夫!」
「……分かりました。お願いします(ぺこり」
「うん、お願いされたよ」

 ジェンティアンと藍は短冊を受け取り、涼介を捕まえてレースへと向かう。

「待て、レースだなんて聞いてないぞ?」
「さあ宍間さん、優勝目指して頑張ろう!(きららん」

 ずるずる引きずられていく涼介。
 ジェンティアンも後を追おうとして…その前に、リーゼに耳打ち。

「…去年の大雨の時の、あれ(心音抱き)和紗にやったげて。リーゼちゃん眠れてたでしょ」
「ふむ…」


●レースのお時間です
 黒百合の敷いた規制線の外側に集まる観客達。その声援を浴びながら、参加者達がスタート地点に立つ。
 対して、妨害組の行き過ぎた行動により笹が傷つかぬよう見張る事にした雫。

「腹ごなしには丁度良さそうですね。競争者の排除程度で止まってくれれば良いのですが」

 一方で静寂は、参加者達が短冊に何を書いたのか聞いて回る。

 静寂の目的は、伝説の笹の天辺に短冊をつけた人の願いを叶える事。

 お金で無理なものは適切な状況も用意させる。
 告白や復讐は2人きりにしてあげたり、必要なら隠れて応援、焚き付け、カンペ等々。

 とにかく全力で願いをサポートするの自分の仕事。
 だからこうして事前に各自の願いを聞いて回り、リストアップ。そして、


 叶い得ぬ願いを書いたヒトを妨害する。


 そうとは知らず、素直に自らの願いを答える参加者達。
 静寂は、まず最初にラファルのもとへ。

「ラファルさんは短冊に何を書いたのでしょうか?」
「『ヒナちゃんともっと撃ラブに』って書いたぜー。ま、短冊なんか無くっても自力で叶えるけどなー」
「なるほど」

 メモメモ。
 お次は雪子。

「雪子の要望はこれです」

 『アカレコ新スキル実装オナシャスみそかさん』と書かれた短冊ばばーん。

「なるほど」

 メモメモ。
 さて次は…

「お嬢、レースに参加しようぜ」

 良い笑顔でエリスを誘うディザイア・シーカー(jb5989)。

「願いが叶う…ならば、俺がやることは1つだけだ!」

 何としても優勝させてお嬢の願いを…!

 つまりはエリスの願い=ディザイアの願い。
 となると、

「エリスさんのお願いは?」
「これよ」

 静寂が尋ねると、エリスは怨念にも似たオーラが漂う短冊を見せてくれた。

『ぺたーずに光を』

 それは、ぺたーず共通の悲願。

「なるほど」

 メモメモ。

「俺達ならやれるはずだ!」

 ディザイア気合MAX。
 このレースの為に、ロボ研へ行って空ロペ子の協力を要請してきた。そしてこれがその新たな力だ!

 空子のスイッチぽちっとな。
 瞬間、全身のパーツがパージされて大空へ舞い上がる空子。空中で立体軌道を描いていたパーツがディザイアの身体を覆い、ジャキーン!と装着合体。
 背面のスラスターを翼のように大きく広げ、青白い閃熱をヒュゴッと吐いて滞空ポーズ。空戦加速型ディザイア爆誕!

「どんな高みでも昇りつめてみせよう! ただし30mより上は勘弁な!」

 自前の翼で飛べよとか言ってはいけない。
 ついでに空子の余剰パーツでエリスにも装着。これで飛行時の出力は(気持ち)2倍に!

「張り切ってますねぇ…」

 その様子を陰からこっそり見ていたRehni Nam(ja5283)。

 祭りの知らせを見た時は、

「願いが叶う?! エリスちゃん 共に夢の為に行きましょう!」

 と思ったが、

(ディザイアさんのあのテンション…。先日の疑心暗鬼っぷり、ちょっと同情しますし、今回は彼に任せるとしましょうか)

 レフニー、フェードアウト――
 
「それじゃァ、レースを始めましょォ♪」

 工事用電源をONにする黒百合。設置したイルミネーションが一斉に点灯し、レース開始。

 と同時に、静寂がエレキギター型魔具を雪子の尻めがけてフルスイングしていた。

「アッー!?」

 ぶち飛ばされて頭から笹に突っ込んだ雪子を、漏電した200Vの電圧が襲う。
 新スキル実装とかPCにはどうしようもないからね仕方ないね。

 だが今のスパークに耐えられなかったのか、笹に繋いだ電球や電源は1つ残らず吹き飛んでしまった。
 これではもう感電させられない。

「お、チャンスだぜー」

 ラファルが壁走りで笹の幹を一気に駆け上がr

 ギュンッ
 ズシャア!

 上から無数の竹槍が落ちてきて串団子になるラファル。落下。
 短冊の願いは手伝えそうだけど、黒百合ちゃんの妨害は無差別だから気をつけよね。

「今だお嬢!」

 どうやら笹の近くは危ない。ならば空から行けば良いのだ。
 ディザイアはエリスを肩車してスラスター全開。高々と飛翔し、一気に高度を稼g

 カチッ
 チュドーン!!

「「あばー!?」」

 対空式クレイモアに引っ掛かり爆散。

「きゃはァ♪ HIT数、爆上がりねェ…」

 愉悦の笑みを浮かべる黒百合。
 今の内に消費したトラップを再装填しておこうと、予備の機材に手を伸ばす。

 だがその時、殺気を感じて反射的に振り向きながら魔具を展開。
 振り下ろされた雫の大剣を寸での所で受け止めた。

 衝突の反動で、互いにザァッと距離を取る。

「あらァ…? 邪魔する気ィ…?」
「これ以上は笹が傷みます」

 電撃とか地雷とか。

「大丈夫よォ、あんなに大きくて立派なんだものォ」
「やらせはしません」

 2人は高々と跳び上がり、ぶつかり合った巨槍と大剣がガカァ!と閃光を散らした。



 レース組とは別に、笹の裏側から天辺を目指すジェンティアン&藍 feat. 涼介。
 和紗から預かったこの短冊を彦星と織姫に届けるのだ。

「リーゼちゃんの願いを叶える為っていうのが気に入らないけどっ(笹の葉ぎりぃ」

 でもそれが和紗の願いだっていうなら全力で叶えるよね。

「お兄ちゃんはやさしいなー」

 笑いながらジェンティアンの片手を握る藍。
 そしてもう一方の手は涼介が。

 飛行できる2人に限界高度まで引っ張り上げてもらい、そこから更に天辺めがけブン投げてもらえば一気に頂上へ辿り着けるはず…という寸法である。
 というわけで、スイーっと上昇。

「それじゃジェンさん、いってらっしゃーい!」

 投擲。
 飛行スキルの限界高度が30m。笹の全高が50m。その間の20mをぐいーんっと昇りながらジェンティアンは――

「コメディ補正よろしく、みずおとますた!」

 すると、天の川の中に煌く星々の中から声が。

\任せてもらおう/
  (星ω光)

 星の引力でジェンティンを吸引、そのまま大気圏の彼方へ。
 天の川まで直接デリバリー(きらーん

 ジェンティアンは星になった☆ミ

 その姿を見送りながら藍は、

「いい運動になった☆」



 ラファル、再起動。穴だらけにされた怒りで頭部はガブフェイスに切り替わり、キエー!と赤い眼光を噴き上げる。
 一気に笹を駆け上り、天辺の天辺まで侵攻して頂点に自分の短冊をセット。
 だが、レースはこれで終わりではない。

「まだだお嬢! まだやれる!」
「ぺたーずに光を…!(ぐぎぎ」

 地雷によって立ち込めていた土埃の中が晴れると、そこにはディザイアとエリスの姿が。
 再び肩車モードでドッキングし、揃って上昇。

 それを上から阻むラファル。
 背面にポップアップした大型ミサイルポッドから無数の亜重力弾頭を発射。ミサイルの雨がディザイアとエリスに降り注ぐ。

 対して、中央突破。
 ミサイルをギリギリまで引きつけつつ限界高度まで昇り詰め、エアロバーストで加速させながらエリスを射出。

「お嬢! 『一番高い位置』だ、頑張れ!(サムズアップ」

 直後、ミサイルの爆炎に消えるディザイア。
 彼の犠牲を背にエリスは勢いのまま残り20mを昇r

「申し訳ありませんがここで落ちてもらいます」

 途中の枝に静寂が立っていた。
 ぺたーずの悲願はたぶん無理。無理な願い潰すべし、慈悲は無い。

 静寂の構えた銃口がエリスを捉え――

 シュカッ

 その時、下から飛んできた1枚の笹の葉が静寂の銃を弾いた。

 視線を向けると1匹のシロクマが…いやパンダが、幹の表面を走って猛追してきていた。
 その正体は、フェードアウトしたはずのレフニー。

 ――今回は彼に任せるとしましょうか
 なんて言うと思いましたか?
 
\がおー/(白くまーフェードイン!

 億歩譲って仮にレフニーがディザイアに優しくとも、白くまーは厳しいのだ。
 そして笹といえばパンダ。パンダといえば熊猫。つまり、くまー猫。
 今回は白くまーの目の周りや耳を黒く染めた、くまー猫仕様で参戦である。

 というわけで、くまー猫、突貫しまーす!

 キグルミで正体を隠したレフニー改めくまー猫は、ぺたーず共通の願いである『ぺたーずに光を』の短冊を咥えながら物凄いスピードで笹を登ってくる。

 銃を構え直した静寂の攻撃を、シュバシュバと残像を散らしながら回避。
 笹の上でパンダが負けるはずがないのだ。

 更に、登ってくる途中でキャッチしたディザイアシールドを展開。チュインチュインッと弾丸を逸らしながら一直線に距離を詰める。
 そしてこのディザイアシールド、自動で砂嵐スキルを発動して敵の視界を削いでくれるスグレモノである。まるで生きているかのようだ!

\生きてるんですがねぇ/(ディザイアシールドの声

 ならばと、ラファルが笹の先端をギュンギュン揺らしてくまー猫を振り落とそうとする。
 ジャキーンと笹に爪を立てて耐えるくまー猫。エリスや静寂も枝にしがみ付いて何とか堪え――

「皆さま、紅茶はいかがかしら?」

 不意に、給水所がそこに在った。
 枝の上に設置された大神聖紅茶帝国給水所で、凛が紅茶を淹れて手招き。

「暑い季節の水分補給は大切ですの」

 熱中症になったら大変だからな!

\がおー(こくり/
「あ、じゃあ私も」
「いただきます」
「俺も俺も」

 くまー猫とエリスと静寂がテーブルに着き、ラファルもするすると降りてきて紅茶をぐびぐび。
 ふーっと一息ついた後、各々の位置に戻り…

「おらおらおらー!」

 再び笹を揺らし始めた。
 静寂も銃撃を再開。

\がおーん!/

 耐久値が減ったディザイアシールドを治癒スキルで回復して限界まで使い倒しつつ、それでもくまー猫が攻めあぐねていたその時、

「ケツバットのおつりを返しに来ました」

 静寂の頭上にいつの間にか雪子が居た。

 飛行スキルの<extension.exe>で30m付近の人を足場にして更に飛行すれば、残り20mくらい余裕ジャマイカ?
 念押しに<scroll.exe>と<protect.exe>で移動力と回避も強化した今の雪子はきっと無敵に違いないンゴねぇ。

 そう考えた雪子は、先程の仕返しも込めて静寂を足場にチョイス。

「じゃけん踏みつけるなら靴と靴下は脱いどきましょうね〜」

 靴と靴下は笹の根元に置いてきた(この辺の心配りが人気の秘訣
 くまー猫に気を取られていた静寂は回避が間に合わず、眼前に雪子の素足が迫り――

 足の裏に『肉』の文字。

「なんですか、その『肉』の文j」

 ぶぎゅり。
 落下。

「肉? お前は何を言っているんだ」

 足の裏を確認する雪子。
 肉。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 そういえばゲインニキも雪子と一緒にゴミ捨て場に埋められてたって風の噂で聞いたんですわ? お?
 これはきっとゲインニキの仕業に違いない罠。
 雪子の怒りが有頂天。

 攻略目標が笹からゲインに変わった雪子。

 一方、ラファルは笹揺らしを続行。だがそこへ、

「見つけたぜこんちくしょう!」

 地上からの声。
 見ると、全身包帯まみれのミイラ姿で魔女帽子を被った八重歯のミハイルと仙也が立っていた。

「よくも発破してくれたな! 倍返しだ!」
「怒ってるとかそういう事は無いですし。ただちょっとピンポイントに花火撃ちたいなーなんて思いまして」

 花火玉の導火線に点火し、50m上空のラファルめがけて全力投球。
 しかし、

「うるせーこのやろー。もっかい爆ぜろー」

 ミサイルの雨。
 弾幕と共に押し戻されてきた花火玉が目の前で炸裂し、ミハイルと仙也は再び爆散。

 他方で、その騒ぎに紛れて登ってきていたのはゲイン。
 こっそり近づいてラファルに仕返ししようと――

「会いたかったぞ、ゲインニキ!」

 飛び込んでくる雪子。
 <bind.exe>でゲインを捕縛。

「ぬぅ!?」
「あなたの足の裏に野菜って書いてやりますねぇ!」

 組み付いて靴を脱がせ、マ●キーの極太の方でゲインの足の裏に文字を書k

「テメーらも落ちろ」

 気づいたラファルがミサイルぶっぱ。
 消し炭が2つ落下していった。



 風の噂でゲインがいると聞いてうろうろしていたシエル。
 レース会場を訪れた所で、空から振る黒い塊を目撃。

 そう言えば
 あの消し炭は
 ゲインかな

「ひょっとしたら違ったかもしれない……!」

 はーい、再襲撃しまーす。

 人垣を掻き分けつつ、しゑる屋から持ってきた熱々チーズを観客達の口にシュートして通り魔的に布教しつつ、『全世界チーズ計画の達成』とか書いた短冊を握りしめつつ、シエルはレースで白熱する笹へと急いだ。



 一方、流れ弾が来ない程度に距離を置いて笹を見上げていた恋音。

「……うぅん……。……そろそろですかねぇ……?」

 ラファルやくまー猫達のスタミナが切れ始める頃合。このタイミングで天辺に短冊を付ければ、逆転される事無く頂点を確保できるだろう。
 飾る短冊は『研究成就』。

 BIG MILKの複製品を取り出し、ぐびっと一口。瞬間、全高60mに巨大化。
 その状態で普通に笹の一番高い場所に短冊を飾ろうと…

\がるるる!/

 瞬間、くまー猫が威嚇。
 エリスもぎりぎりと歯軋りしながらビッグ恋音(の乳)を見上げる。

 巨乳もぐべし。

「…………お、おぉぉ…………?(ふるふるふるふる」

 更には黒百合と交戦中だった雫も動きを止め、じとーっとした目で恋音(の乳)を見る。

「もぐべし」
「大は小を兼ねるって言うしィ…。こっちの方が刈り甲斐ありそうねェ…♪」
「天辺は渡さねー!」

 黒百合とラファルも照準を恋音へ。
 一斉攻撃。

 気絶から復活したミハイルと仙也も、その騒ぎに気づく。

「お、何だ巨人退治か。俺も混ぜろ」
「じゃあせっかくなんで俺も」

 花火玉に点火してぽいぽい投擲。

「…………そ、そのぉ、そんなに攻撃されると、益々大きくなってしまうのですよぉ…………」

 怪我やアウルの反動が発育を促進させてしまう特殊体質。
 そういえば前回は巨大化と同時に乳のサイズが420m強にまで肥大したのに、今回は通常比率のまま。
 それは、胸に巻いた特殊さらしが頑張って抑え込んでくれているからに他ならず――



 上空を飛ぶヘリの中から、祭りの様子を眺めていたとしおと華子。ド派手で壮大な光景。
 初めはキラキラとした瞳でそれを見ていた華子だったが、ふととしおが顔を向けると、その目はいつの間にかギラギラとした眼光に変わっており、ただ一点――笹の頂点――のみに注がれていた。

 裏華子。

「あれ? 華子さん、なな、何だか目つきが怖いよ……」
「としおさん、私…私……」

 その手には予め購入してバッグに忍ばせておいた短冊が。

「……b(`・ω」

 全てを察したとしおはサムズアップ。
 華子は嬉々として翼を広げ、彼を抱えてヘリからダイブ。

\じぇろにもー!/

 としおが笹の頂点にマーキングを撃ち込み、それを目指して滑空する華子。
 だがその時、ラファルが2人に気づいた。

「やらせねー!」

 対空砲火。
 いかん、このままでは2人共撃墜される!

 としおは咄嗟に華子を突き飛ばすと、

「グッドラック!」

 ぐっと親指を立てて単身落下。
 人間弾頭と化してラファルへ体当たりをぶちかました。

「おぶっ!?」

 轟音と共に地面に落ち、小さなクレーターを刻むとしおとラファル。
 その隙に天辺に近づいた華子は、すれ違い様にシュパッと短冊セット。ラファルの短冊を押し下げつつ、見事一番高い位置に自分達の短冊を据える。
 そして翼で減速して無事着地。
 華子は静かでありつつも猛々しくガッツポーズを決めた。

 その姿はまるで、天に向かって手を掲げるラ●ウの如し。
 万が一の為に発動しておいた起死回生で目を覚ましたとしおは、その勇姿を眩しそうに見上げていた。

 しかし逆転の余韻も束の間、恋音のさらしがとうとう限界を迎えてしまった。

 はち切れるさらし。
 直後、爆発的に膨張する乳。そのサイズは前回と同じく420m以上にも及び、上空にいたヘリをも飲み込む。

『メーデー! 空が! いや乳が! 巨大な乳が落ちてくる…!』

 レース終了3秒前。

 2――

 1――

 だがその時、

「諦めたらそこで試合終了なんですってよ!」

 飛び込んでくるシエル。
 その手に熱々のチーズボールを携え、地面に転がっていたゲインの口めがけて――

「ブザービータァー!!」

 ダンク。
 ラスト0.1秒の奇跡。

 直後、服ごと420m強に膨張した恋音の乳が辺り一帯を闇で包む。


 乳に潰される寸前、静寂は頂上に飾られた華子&としおの短冊に目印を撃ち込んでいた――……






















 恋音が元に戻った後、なんと村は無事だった。
 ビッグでストロングな笹は押し潰されて撓りながらも決して折れる事は無く、そのおかげで出来た僅かな隙間が村を乳の圧力から守ってくれたのだ。

 レースが終わった後は、賑やかな祭りの続き。
 だがその裏で、ひっそり静かな光景も。

 屋台裏の休憩スペースでぎゅっとリーゼの胸元に抱きつき、彼の心音に耳を寄せる和紗の姿。

「自信の持ち方が解らなくて…考えて眠れなくて…」

 寝不足の原因。

「俺は、如きじゃないのです…?」
「如きじゃない」
「ではキスして貰えるのでしょうか?」

 大胆発言。だが本人はそうとは気づかず。
 困惑するリーゼ。

「やはり嫌ですよね」
「……」

 嫌という事はないが、やはりマズイとは思う。
 だがそれは唇同士では、の話だ。
 リーゼはふと、幼少の頃にエラから施されたまじないを思い出し…

 ふわり、と。
 胸元にある和紗の頭に、そっと唇で触れた。

 すると和紗は、

「ありがとう」

 ほにゃっと笑み、健やかな寝息を立て始める。
 耳に届く心音は、一瞬、ほんの少しだけ速まったような気もして――

 その様子をこっそり覗k…見守っていた友人達。
 藍は和紗が起きぬようそっと近づき、

「リーゼさん、和紗をよろしくね。すっごくいい子なの、って、貴方なら知ってるか!」
「(こくり)」

 その頷きは、たぶん今はまだ、色恋だとかそういう形のものではなく……

 一方、屋台の表側ではレースの祝勝会兼残念会が行なわれていた。

「そうだお嬢、この地図なんだが…」

 ディザイアは先日入手した新たな秘法の地図をエリスに差し出す。
 エリスはぷるぷると震えながら地図を広げ…

「さ、3度目の正直って言うものね!(希望」
「そうだお嬢! 今度こそ、今度こそ…!(切望」
\がおー/

 くまー猫に背中をザシュザシュされながら、ディザイアは希望に震えるエリスの姿で眼福を得た。

 そして華宵は、そんな僚友らを眺めて口元を緩める。

(リーゼ君&和紗ちゃん。ディザイア君&エリスちゃん。お店のこの子達は今後も見守り(別名:でばがめ)たいわ)



 静寂が撃ち込んだ目印を頼りに改めて短冊を確認した結果、優勝者は華子&としおペア。
 だがその短冊には肝心の願い事が書かれていなかった。
 というかプレに書かれていなかった。

 というわけで賞金は2人で半分こ。願いは保留。
 まあそれはそれとして、ラーメンの屋台を見つけて意気揚々と足を運ぶとしおと華子。

「「いただきまーす!」」

 だが、

「「ぶふぉ!?」」

 スープが紅茶で出来ていた。



 食べ歩きを再開した雫。
 出来立ての焼きそばをずぞぞ〜っと口に含み、

 だば〜っとリバース。

 ソースの代わりに紅茶が絡められていた。
 口直しにたこ焼きを買ってぱくっと頬張り、

 ぽんっと吐き出す。

 鰹節だと思ったら紅茶葉だった。
 そして被害に遭ったのはどうやら自分だけではないようで、屋台通りでは大勢の学園生達が半ばマーライオンと化していた。
 いつの間にか村中のあらゆる食材や飲料が紅茶にすり替えられている。

 阿鼻叫喚の光景の中ふと目を向けると、るんるん上機嫌で歩いている凛の姿。
 紅茶屋台の売り上げは上々だ。この実績を元に『紅茶の村』として村興しイベントの企画案を提出しましょそうしましょ。

 おっと、そうだ。

「かき氷の氷も紅茶で作りましょ♪」

 凛は一同の目の前で、かき氷屋の氷を赤色の氷と入れ替える。
 おのれキサマの仕業か。

 殺気立つ一同。
 凛もそれに気づき、

「なんですの!? わたくし何も悪い事してませんですの!」

 うるせえやっちまえ!

「あばばば…!」



 短冊の独占転売で数十万もの利益を得た雪子。
 半日にして懐ほくほく小金持ち。

 しかしその裕福さとは裏腹に、靴も履かずに裸足で笹の根元周辺をうろうろ。

「誰か、ここに置いてあった雪子の靴下とタラリア(Lv7強化済み)知りませんか」

 いくらJCの脱ぎたてだからって勝手に持っていくのはノーマナーなんですわ? お?
 脱いだ靴=タラリア Lv7

 すると向こうから、そのタラリアを持った静寂が歩いてくる。

「よくも踏んでくれましたね」
「すいません、装備没収は許してください! なんでもしますから…」

 ん? 今なんでもするって言(ry

「実は墜落したヘリの所有会社に修理費兼見舞金を持っていこうと思っているのですが、その金額と玉置さんの今日稼いだ金額がほぼ一致するのですね」
「こ、これは雪子が頑張って稼いだ雪子だけのお金ですしおすし」
「嫌だと言うならこのタラリアLv7はアイテム交換部に出荷します」
「そんなー」

 その時、通りの方から集団が戦闘音を撒き散らしながら走ってきた。
 集団は団子になって、故障して停まっていたヘリの方へ。

 直後、流れ弾でヘリが爆散、消滅。

 それを見た雪子は勝利を確信。

「存在してない物に見舞金は払えないンゴねぇ」
「では代わりに弁償金を玉置さんにツケておきます」

 大借金。

「ちょとsYレならんしょこれは…?」
「売り上げの1万久遠は差し上げますから、借金はゆっくり返していきましょうね」

 その後、集団の方は恋音がライトニングとスリープミストで鎮圧。
 原因と思しき凛にお説教。

「……えと、そのぉ、何事も、ほどほどにですよぉ……?」
「はいですの…(ぺしゃ」



 笹の元を訪れた華宵。
 枝には惜しくも天辺を逃した短冊がたくさん飾られており、根元にも、ひっそり置かれた木葉の短冊が1つ。そして…

 足元に小次郎が駆けてきた。口に何かを咥えている。
 それは木葉が書きかけで丸めてしまった短冊だった。肩に乗った時、こっそりすり取ったらしい。

 咥えていた短冊を華宵の掌に置く小次郎。

「ええ、そうね。この短冊も飾っておいてあげないとね」

 くしゃっとなっていた紙を丁寧に伸ばし、枝から拾い集めた皆の短冊と一緒に天辺へ運ぶ。

「皆のお願い全てが叶いますように…」

 ひゅるるる…

 不意に、何かが空へ上がる音がする。
 直後、

 パッと夜空に咲く、光の花。

 広場の隅で、次々と大玉を打ち上げるミハイルとゲイン。
 色とりどりの花が、天の川を水面を流れていく。

 その光景を、新たなヘリから眺めるとしおと華子。

「わ〜、綺麗〜♪」

 初めて見る空からの花火。

「んふふ、幸せ〜♪」

 華子は隣に座るとしおの肩に身を寄せながら、幻想的な夏の姿に見入る。

 また、村外れの高台に登っていたのは木葉。
 空と地上、双方の星を見つめながら、高く昇っていくそのねがいに想いを馳せていた。



 花火も終わり、再び屋台が賑わう頃。
 華宵に店番を代わってもらって、屋台ツアーへ出かけていた真緋呂がいた。

 屋台が出るなら食べ歩くしかない。

 ×:食べ歩く
 ○:食べ尽くす

 村人に娘や孫的な雰囲気で懐けば、たくさん奢ってくれるに違いない。
 そしてそれを実行して屋台を総なめにしていると、唐突に後ろから誰かに肩を叩かれた。

「血縁詐欺に遭ったと通報があったんですが、ちょっと交番でお話聞かせてもらえる?」

 どうしてこうなった。
 真緋呂はお巡りさんにズルズルと連れていかれた。


●後日談
 ぁゃιぃ粉の効力が切れたにも関わらず、ミイラの格好をしたまま病院のベッドに横たわっていたミハイルと仙也。
 花火の火傷。

「おかしい。コメディのはずなのに、俺達だけ怪我が治らないんだぜ」
「これ誰にクレーム付けたら良いんですかね?」

 それをじーっと眺めていたオペ子は、

「オペ子、丁度よい責任者を知ってます」



 ――局長の自宅。

 箱で荷物が届き、差出人を確認する局長。
 自分の実家からだった。

 はてと小首を傾げながら開封。
 中に詰まっていたのは、塩漬けされた大量のニシン。


 その日、局長の住んでいるマンションでバイオテロの誤報が流れた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 紅茶神・斉凛(ja6571)
 ねこのは・深森 木葉(jb1711)
 朧雪を掴む・雁鉄 静寂(jb3365)
 氷結系の意地・玉置 雪子(jb8344)
 その愛は確かなもの・華子=マーヴェリック(jc0898)
 来し方抱き、行く末見つめ・華宵(jc2265)
重体: −
面白かった!:16人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
氷結系の意地・
玉置 雪子(jb8344)

中等部1年2組 女 アカシックレコーダー:タイプB
青イ鳥は桜ノ隠と倖を視る・
御子神 藍(jb8679)

大学部3年6組 女 インフィルトレイター
その愛は確かなもの・
華子=マーヴェリック(jc0898)

卒業 女 アストラルヴァンガード
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト
来し方抱き、行く末見つめ・
華宵(jc2265)

大学部2年4組 男 鬼道忍軍