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マスター:水音 流
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
形態:
参加人数:22人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/11/03


みんなの思い出



オープニング

※作中に登場するPC及びNPC達は非常に高度な訓練を受けています。PLの皆さんは決してマネをせず、車を運転する際は交通ルールを守って正しく乗りましょう。


 ――ある日の斡旋所。

「樫崎」
「オペ子です」

 局長の呼び声に、オペ子はいつもの条件反射――頑なに、オペ子と呼ばれたがる――を返しながら振り向く。

「お前、確か車の運転免許を持っていたな」
「オペ子は何でも持ってます」

 デスクの上に、携帯ゲーム機やらマンガやらラノベやらお菓子やら小次郎やらをずらりと並べて見せる。
 思い出したようにポテチの袋を開けてばりばり。

「免許も持ってます。ペーパードライバーですが」

 ちなみに大型二輪も運転できる。無駄に。

「丁度良い、お前も参加してこい」

 そう言って局長が差し出した1枚の書類。それは斡旋所名義で申請された依頼書だった。
 内容は、交通安全教習を受ける事。

 曰く、

「この間、魂回収屋の悪魔を撃退する際に学園生が事故を起こしたろう」

 軽トラックに乗って町内を暴走、追走、衝突。

「幸い、怪我人は出なかったが――」
「約1名尊い犠牲になりましたが」
「――幸い、一般人に怪我人は出なかったが、上の一部から撃退士の車の運転技能を強化するべきだという声があがっている」

 撃退士は、撃退士免許を所持していれば年齢に関係なく車やバイクを運転する事も認められている。
 そこで斡旋所のほうで教習会を開き、できるだけ多くの撃退士に改めて交通安全について考えてもらう事にしたらしい。学園の授業とは違って依頼形式なので、報酬も出る。
 ついては、研修を兼ねて斡旋所からも職員を1人派遣する運びに。

「オペ子もお金貰えるんですか」
「お前は月給を貰っているだろう」
「じゃあ行きたくないです」

 安全教習なのに危険が危ない事になる予感しかしないです。

「つべこべ言わずに行ってこい」


●当日
 集まった学園生達やオペ子の前で、教習会の教官が一言挨拶。

「教官を任された、撃退庁のバック・ジャウアーだー! よろしく頼むー! 車は安全運転が第一だという事を忘れるなー! 法定速度を破って良いのは逃亡中のテロリストを追っている時と、外出先でアニメの録画予約をし忘れた事に気づいた時だけだー!」

 たぶん人選ミス。

「まずは縦列駐車エリアだー!」

 教習用の特設会場。
 コースの一角で、2台の乗用車が丁度1台分のスペースを空けて縁石沿いに停まっている。

「よしオペ子ー! 停めてみろー!」

 名指しされたオペ子は頭に小次郎を乗せたまま教習車に乗り込み、エンジンどぅるるん。
 シートベルトもしっかり締めて、ブオーッと発進して行き――

 2台の車の間を素通りして、先頭車の更に前へ普通に車を停めた。

「この程度オペ子には造作もないです(どや」

 縦列エリアに停めろと言われたが、2台の間に停めろとは言われてない。



 続いて、信号の無い横断歩道エリア。

「いつ歩行者が飛び出してくるか分からないー! 常に早めのブレーキを心がけろー! エリスー! やってみろー!」

 歩行者役はロペ子。
 エリスは横断歩道から少し離れた場所に停められていた教習者に乗り込み、ゆっくり発進。学園の授業で数回習っただけの運転に緊張しながら、やがてロペ子が待つ横断歩道へと差し掛かる。
 白線縞模様の上を渡ろうとしているロペ子を見ながら、ブレーキペダルに足を乗せて減速――

 と思ったその時、ひっそりと道路に落ちていたバナナの皮を踏んで車がスピン!

 そのままロペ子を撥ね飛ばし、路肩の縁石に引っ掛かった前輪が破裂。前のめりに躓いた車は大きくバウンドして空中大回転。
 高々と弧を描いて芝生を1つ飛び越え、ブオンブオンぐしゃあ!と隣のコースに叩きつけられて爆発炎上した。

「歩行者が見えているからといって油断するなー! 今のがバナナの皮ではなくテロリストが仕掛けた地雷だったらどうするー!」
「バナナの皮でもえらい事になってますが」

 引っくり返って炎上する車と、ベコベコに拉げて転がるロペ子。

「車の運転は常に危険と隣合わせだー! 道路の状況にはくれぐれも注意しろー!」

 そうして参加者達は、用意された各々の教習車へと乗り込んでいった――


リプレイ本文

 ――教習準備期間。

 とあるコンビニの前。
 ヤンキー座りで、1人ボーっとしていたゼロ=シュバイツァー(jb7501)。

「暇やな……MSでも呼ぶか」

 携帯プルルル…ガチャ。

「おう俺や。コーヒー買って来い」
『なんたる横暴』
「はよ。3秒以内な。いーち、にー、さーn」
『よかろう。受け取れ、スチール缶だ(ポチッ』

 受話器の向こうで何かのスイッチ音が聞こえた次の瞬間、

 ヒュゴッ ズドォォォン!!

 レールガン的なナニカで射出されてきた缶コーヒーがゼロのこめかみに着弾。衝撃波で地面が窪み、コンビニの窓は粉々に。
 透過能力? まだ使用宣言されてないですしおすし。

 小さなクレーターの中心で、動かなくなるゼロ。
 するとコンビニ入口の自動ドアが開き、中から店員が出てくる。店の制服を着たロペ子。

 ロペ子は道端に転がるゼロを袋に詰め、建物裏の物置へと引きずっていった。



 運転教習のお知らせを見た、ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)。

「運転講習…ああ、撃退士がいかにカッコよくキメるか…という重要性に学園も気がついたのか☆」

 久遠ヶ原もハリウッドに負けてはいられない。かもしれない。
 「うむうむ」と1人で納得したジェラルドが向かった先は、知り合いなようなそうでもないような怪しげな自動車整備工場。デキる男はマイカーから!
 中に入り、主任のおじいちゃんに声を掛ける。赫々然々。

「ちょっと車が入り用で☆」

 にこにこしているジェラルドとは対照的に、おじいちゃんは「またか」と露骨に嫌そうな顔をしながら、

「車は無傷で返してくれよ、ダブルオーセb(ry



 オカマバー『Heaven's Horizon』に、教習会のお知らせを持った砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)がやって来る。

「キャシーちゃん達、快気祝いにドライブしよう」

 おう教習だって言ってんだろ。

「「ぃやぁん! ドライブデートだなんて、ジェンちゃんってばモテ男ぉ〜!(大型車ボイス」」

 対してミニタイトのバーテン服姿でカウンターに居た樒 和紗(jb6970)は、はとこの手からお知らせを毟り取って事情を把握。

「俺が呼びだした故に事故らせたのですから、責任持って一緒に受講しなくては」

 言いながら、隣でグラスを拭いていたリーゼへと向き直り、

「まず免許証を見せて下さい」

 ずいっ、と迫る。

「公的書類でファミリーネームを確認しようかと。家族に連なる大切なものでしょう?」
「(こくり)」

 リーゼは財布から取り出した免許証を手渡し、和紗は瞬きもせずにそれを確かめる。

 見てる。

 すっごい見てる。

 彼の免許証に書かれていた姓は、ルフトハイト。

 これは本名。らしい。
 自分では覚えていないが、自分を拾って育ててくれた老婆はそう言っていた、と答えるリーゼ。
 ちなみにその老婆本人の姓はヴィッセン、名はエラと言うそうだ。

「なるほど」

 和紗はこくりと頷き、それらをぶつぶつと何度も復唱して心に刻み込んだ。



 とある田舎の山奥。
 月乃宮 恋音(jb1221)は、そこにある管理放棄されたキャンプ場のコテージを訪れる。

 出迎えたのは、10mを超える巨大猫型ディアボロの大次郎と、その頭上に乗っているはぐれ悪魔のフェルミ。

「今日はどうしたー?」
「……実は、こういう催し物があるのですよぉ……」

 教習会のお知らせを差し出す恋音。
 が、次の瞬間、大次郎が読まずに書類をむしゃむしゃ。

「…………お、おぉぉ…………(ふるふる」

 仕方が無いので口頭説明。

「……四足歩行の動物は軽車両扱いになりますので、フェルミさんと大次郎さんも教習に参加して、交通法に慣れておいた方が、良いのではないかとぉ……」
「なるほどなー。じゃあ遊びに行くか大次郎ー」
「……えと、その、それと、もうお一人、お誘いしたい方が……」

 フェルミと一緒に大次郎の頭に乗った恋音は、その“もう1人”の住処を目指し――……


●当日
 教習所の車庫で、使われていない車を発見したΩ(jb8535)。せっかくだからこれに乗ろう。

「…そういえば…車は、燃料が、必要(こくり」

 燃料と言えば食べ物。
 食べ物と言えば豆腐。
 携帯していた豆腐の1つを給油口に捻じ込み、ついでに安全運転を祈願して車体に(水ω音)マークをペイント。すると、

\ちゃんとシートベルトも締めるのよ/

 運転席のドアが自動でオープン。

 乗り込んで、挿さりっぱなしになっていたエンジンキーに手を伸ばして……
 ふと、アクセルを踏んでからのほうがエンジンがかかり易いという、どこかで聞いた知識を思い出す。

 Ωはアクセルペダルにも足を置きながらキーを掴み――

\あ、最近の車はアクセル踏まなくても大丈b/

 グゥン!踏んでギュン!と回す。

 瞬間、エンジン破裂。
 ボンネットが吹き飛び、マフラーからも豆腐が飛び散ってびしゃあ。
 乗車して2秒で廃車。

「…げせぬ…」

 動かなくなった車を降りて、真顔で眺める。

「…神様の事…忘れない…」

 その後、車庫から出て、何故か地面を掘り始めるΩ。

 マイカーが無くなってしまった。仕方が無いのでマイホーム(ダンジョン)掘ろう。
 丁度、お金が掛からず1人暮らし出来るような物件を探していたのだ。自分で建てれば(掘れば)施工費も掛からない。
 学園棟の地下は親の真っ黒悪魔が散々やってブラックリストに乗っている気がするので、新しく見つけたこの土地で。

 防護マスクを付けて、教習所の地面を勝手にざくざく。
 1人暮らしの練習エンヤコラ。

 更に、夢中で掘っている内に光纏。皮膚が黒く変色し、金色に発光した目は動く度に眩い尾を引く。
 地中を黙々と掘り進むその姿は、親である例の悪魔と実によく似ていた――



 教習会の原因…もとい参加者の1人、ディザイア・シーカー(jb5989)。

「オレハワルクヌェ! オレハワルクヌェンダ!!」

 …え? マジで俺悪くないよね?
 教官のほうをチラリ。

「安心しろー! テロリストを撥ねても罪には問われないー! 俺が保証するー!」

 但し担保は無し。

「まあ、安全は大事だと思うがね」
「確かに、依頼の時にしか運転しない身としては改めて交通安全を確認する必要がありますね」

 ユウ(jb5639)が頷く。

「基礎が疎かになっていては、大切な時のミスに繋がりかねませんね」

 そう言って、真面目に教習を受ける。オペ子を連れて。
 そして久遠ヶ原では何が起こるか分からない。この機会に、状況把握と危険予知の訓練も行なうとしよう。オペ子を連れて。

「オペ子は『君子危うきに近寄らず』という諺を提案します」
「大丈夫です。私も記録員として、教習の合間にオペ子さんをお手伝いします」

 既に危険域に突入している臭いがした。

「車の運転教習ですか〜。あたしの運転できる車はあるかな〜」

 一方、こちらは深森 木葉(jb1711)。
 幼女の手足でも届く専用車を探してきょろきょろしていると――

 エリスがクラッシュ。

「お嬢が飛んだ…!?」
「大変! エリスちゃんの車が事故って炎上してるのです!」

 助けなければ!
 全力で駆け出すディザイアと木葉。

 ――だがその時、ディザイアめがけて後ろから刀が突き刺さる!

 いや、よく見るとそれは刀ではなかった。
 鋭いフォルムと機能美で、まるで日本刀のそれを彷彿とさせるバイク。

 エリスを助けにバイクで飛び込んできたRehni Nam(ja5283)だった。

「可及的速やかに救出を!!」

 ぎゃるん!とディザイアの背を2輪で踏み倒しつつ。
 それに先駆け、車に近づく木葉。

「まず、ドアを開けて……。熱いけど我慢です。火傷など怖くないのです。エリスちゃん救出が第一なのです」

 逆さまになった車の中を覗き込み――
 直後、引火して大爆発。衝撃で車体下の地面が陥没。
 レフニーの目の前で、エリスと木葉は炎上する車ごと地中に消えた。

「え、エリスちゃーん!? コノハちゃーん!?」



 せっせと地面の中を掘り進んでいたΩ。
 すると突如天井の一部が崩れ、燃えた車が落ちてきた。中にはエリスと木葉の姿。

「…すごい、妻(エリス)が降ってきた…怪我してない…?」

 だめかもしれない。

 Ωは大量の土を被って鎮火した車から2人を救出し、ボコッと地上に顔を出してレフニーにパス。
 回復スキルで救急治療。
 コメディ重体になりかけていたエリスが、何とか意識を取り戻す。

 一方の木葉は、自身の治療もほどほどにエリスに治癒膏。
 更に、路上に転がっていたロペ子にも治癒膏。ロボなので効果があるかは疑問だが、

「アリガトウ ゴザイマス」

 ロペ子はベコベコに凹んだまま、ウィームと起き上がった。

 これで一安心。
 と、木葉は教習の事を思い出す。

「あっ、運転教習…。えっと…。事故時の対応教習ってことで…、だめぇ?」

 運転に自信なし。
 教官に上目遣いで懇願してみる。

「確かに救護班は必要だー! 許可するー! だが自分自身の安全も忘れるなー!」
「なら一緒に教習するのですー」

 そう答えたのはレフニー。

「エリスちゃんは継続的に治療が必要です。具体的には私の治癒技。というわけで、エリスちゃんは私がおんぶしますね」

 どっこいしょ、とエリスをおぶってバイクに跨りつつ、

「さあ、木葉ちゃんも」

 エリスの更に後ろへ木葉を手招き。
 3人乗りは交通法違反? 撃退士特権で上書きです。

 それを見届けたΩは、マイホームを掘る作業へと戻っていく。
 また、潰れたカエルのようになっていたディザイアもむくりと起き上がり、

「…ま、お嬢が無事ならいいか(儚い笑顔」

 大地の恵みで自己回復。
 俺は1人寂しくバイクで教習を受けるとするかね。

 そうして各々車両に乗り込んでいく中……

「皆様に人気のエリスさんは、わたくしにはつりあわないのですわ」

 コースの物陰から視線を向けていた、誰かの影。

「だからひっそりこっそり、見守り(ストーカー)致しましょう」

 純白メイド服を着た謎の黒い影は、音もなく自分の車に搭乗した――……



「既に始まっているようですね」

 店から直行して来た和紗とリーゼが到着。
 それぞれ、菫色チュニックと青カットソーという私服姿だった。

 隣では、同じくキャシー達と共に直行して来たジェンティアンが、リーゼの格好に苦言。

「ドライブデートみたいな服で来てっ!(イチャモン」

 どの口が。

 対して和紗は、はとこに構う事なくリーゼの手を引いてさっさと車に乗り込んでいってしまった。
 スルーされてハンカチぎりぃ!

「くっ。和紗、昔はあんなに僕にべったりだったのに…!(一部誇張」
「ほら、元気だしてぇん!」
「私達もドライブデートしましょぉ〜!」

 皆で乗れる車を探しに、ジェンティアンはズルズルとオカマ達に引きずられていった。



 のっしのっしと会場に到着する10m級の軽車両、大次郎。頭に乗っているのは恋音とフェルミ。
 そしてもう1人。大次郎に後ろ襟を咥えられてぷらーんしている男悪魔の姿があった。

 仮称ミスターTR(トイレットロール)@レフニー命名。

「私、何でココにいるんでしょうが?」
「……大元を辿れば、一応『事故の原因』という事に、なりますのでぇ……」

 きちんと教習を受けて、ちゃんと免許を取れ、と。
 降ろされたTRは促されるまま用意された車に乗り込み、大次郎共々教習開始。

 運転席(大次郎の頭上)にいるフェルミに、助手席(大次郎の頭上)でもふもふを堪能しながら各コースのナビゲートをする恋音。

 まずは縦列駐車。
 大次郎は2台の間にある駐車スペースの横までのしのし歩いてくると、そのまま横歩きで1歩2歩。見事すっぽり収まった。

「四足歩行だからなー」

 続いてTR。
 彼は空きスペースの横に車をつけ……徐に運転席から出てくる。
 そして腕力に物を言わせて車をひょいっと持ち上げると、駐車スペースに直接どっこいしょ。

「これで問題ないでしょうが?」
「……う、うーん……?」

 まあ、ぶつけずに停められるのなら同じ事か。



「運転なんて楽勝なんですわ? お?」

 余裕綽々のJC、玉置 雪子(jb8344)。

「セ●ラリーで鍛え上げた雪子の腕前を確かみてみろ!」

 早速、目の前のMT車に乗り込む。すると足元に、アクセルとブレーキ以外にもう1つペダルを発見。

「ペダル大杉ワロタ。製造ミス乙」

 イミフなペダルには構わず、キーを回す。
 だがエンジンがかからない。

 もう一度回す。
 やはりかからない。

 更に回す。
 それでもかからない。

 ヒント:アーケードのレースゲームにはクラッチペダルがない。

「エンジンすらかからないなんて、やっぱりリアルはクソゲーですね」



 用意された教習車の中に、国産戦車の形をしたゴーカートが混じっていた。
 手配したのは東風谷映姫(jb4067)。

 だがその更に後ろには、改造ではなくモノホンのガチ戦車が2台。
 キュラキュラキュラ、とゆっくり近づいてきて停車。国産のハッチから頭を出す雫(ja1894)。

「残念ながらどんなにスピードを出しても法定速度を超える事はなさそうですね」
「そんな事は無い」

 と、もう1台の戦車(ドイツ製)からルーカス・クラネルト(jb6689)も頭を出す。

「戦車の足回りは履帯だ。走破性能が高い上にもちろん硬い。一般的な道路ならば70km/hは出る」

 不整地でも50km/h。勾配だって何のその。
 そして何より、この圧倒的な鋼のボディ。

 安全運転(装甲的な意味で)。

 3人は再び頭を引っ込めると、キュラキュラと威圧的な音を響かせて教習を続けた。



「いっつも気になってたんだよね〜」

 とある車両を眺めながら、誰かに語りかけるように呟く佐藤 としお(ja2489)。

 今のこの世は乱れている。
 目的は交通安全、免許を持っている者なら一般道に出ても安全運転当たり前。
 撃退士ならば尚の事、お手本になるくらい安全運転当たり前。

 乱れたこの世に、模範となる姿を示さねば。

「……その為に今日、僕は来た!」

 パリッと糊の効いたスーツに革靴姿。
 白の手袋をはき、片手には書類等の必要なモノが入っている鞄を持つ。

 左右の安全をきちんと指差し確認してから、運転席のドアを空け乗車。
 座席に着き、ドアが閉まっている事を再び指差しで確認した後、帽子の鍔をくいっと直し……

「さぁ出発進行だ!」



 赤信号に捕まり、続々と一箇所に集まってくる教習車達。
 排気音が徐々に厚くなっていく。ブオンブオン。

 その中の1台。
 リーゼ車の助手席にいた和紗は、停まっている間、自分が運転した場合のイメージトレーニングを行なっていた。

「加速、減速…クラッチ……」

 ぶつぶつ。
 すると、ようやく信号に動きが――おや? 何やら様子がおかしい。

 点滅し、カウントダウンを始めるシグナル。
 やがて……

 ポーン…

 ポーン…

 ポーン…

 ポーン!

「――クラッチ、フル加速!」

 瞬間、和紗はリーゼの膝を上から押して強制スタートダッシュ。ハンドルぎゃぎゃっ。
 それと同時に他の車も一斉発進。教習会場は、一瞬にしてレース会場へと変貌した。

 一方、芝生の上(に寝転がる大次郎の上)で休憩していた恋音はその様子を見て、未だ信号機の前で停車しているTRに声を掛ける。

「……良い機会ですので、レースに参加されてはいかがですかぁ……?」

 が、TRのマシンは謎のエンストに見舞われていた。



 ――スタート30秒前。

 TR車のイグニッションカットスイッチ――緊急時に外部からでもエンジンが停められるように車体表面に設置されている装置。レースマシンには大体付いてる――をさりげなく押す、誰かの人差し指。

「勝負はすでに始まっているんですよ」

 夜桜 奏音(jc0588)。
 ぼそりと呟きながら、自身のマシンへと戻る。

 そこにあったのはミニパトだった。
 ボディやフレームにネフィリム鋼を使い、ターボとニトロも搭載したフルチューンのMT車。

 奏音は運転席へ戻るついでに、周囲をきょろきょろ。探しているのはオペ子。
 ラリーカーなどでは助手席にナビ役を乗せる事も珍しくない。乗せないと。

 気配を察したのか、背を向けて逃げようとしていた銀髪ツインテの後頭部と黒猫の尻尾を発見。肩ガシィ。

「オペ子危うきに近寄らずです」

 すると一緒に居たユウが笑顔で答える。

「大丈夫です。オペ子さんの代わりに皆さんの記録は確りと取っておきます。ロペ子さんも手伝ってくれますので心配ありません♪」

 いってらっしゃい。

 が。
 次の瞬間、むんず、とユウを掴んで巻き添えにするオペ子。

「あ、あら…?」

 危険が危ない予感。

 奏音は2人まとめて助手席に押し込み、

「大丈夫です、運転は過去に山とアニメで覚えましたから」

 さあ、教習を始めましょう――



 右へ左へ進路を目まぐるしく入れ替えながら走る先頭集団。
 トップは僅差で和紗&リーゼ。
 それに食いつくのは、エリスと木葉を背負ったレフニーのバイク。そしてその後ろをピッタリとついていく白い影、斉凛(ja6571)。

「ふふふ。エリスさん。わたくしから逃げられると思いまして? どこまでもお供しますわ」
「ひえ!?」

 エリストーカー。
 横に並ぶ訳でもなく、ましてや追い抜く訳でもなく、ただひたすらに金髪ツインテの後方に張り付く。

「振りきれないのです…?!」

 サイドミラーを見ながら驚愕するレフニー。

 完璧なドライビングテクニック。
 直線だろうとS字だろうと常に一定の距離を保ち、ねちっこく追尾。エリスに熱い視線を浴びせ続ける。

「斉ちゃんこわいのです〜!」

 木葉も、赤い眼光の白い悪魔に怯えてエリスとレフニーにしがみつく。

 その隙に2位へと飛び出したのは、サイドカーを接続したアメリカンなバイクを駆るミハイル・エッカート(jb0544)。
 サイドカーには、なんと人狼(ディアボロ)が乗っていた。

 以前に依頼で遭遇した、おつかいの人狼。その辺を歩いていたので拾ってきた。
 まったくもう。ちゃんと後で野に帰すんですよ。

 互いにガ●ラ型の怪獣着ぐるみを身につけ、ダンボールで作った甲羅を背負うその姿はまるでク●パとコク●パ。

「とりあえずだな、バナナ食べて皮をその辺に捨てればいいんだ」
「ぐる?」
「言葉通じてるのかこれ」

 まあいい、バナナ食わせておけ。

 最初のコーナーが見えてきた。
 ミハイルは重心とハンドルを傾けようと――

 突如、銃撃!
 ハンドルの端にアウルの弾をくらうミハイル。

 撃ったのは先頭車のリーゼ。
 運転席の窓からリボルバーを持った手を伸ばしている。

「ハンドルとギアは俺が(キリッ」

 そう言って和紗は、リーゼにペダル操作と他車の狙撃を要求。

「戦闘時想定ですので本気で行かないと皆も教習になりません」
「なるほど(こくり」

 あれ? 今日ってこういう催しでしたっけ?
 っていうかこれ、和紗ちゃんが撃つ役をしたほうが効率的なのでは……。

「くそー、やってくれるぜ!」

 予測回避で直撃は免れたミハイル。
 だがそのせいで僅かにコーナーを曲がりきれず、コースアウトは避けられないと悟った彼は、

「こうなったら芝生を横切ってショートカットしてやるぜ」

 そのまま真っ直ぐコース外へと飛び出し、前輪を芝生に乗り上げt

 瞬間、慣性も無視してピタッと停止するミハイル。

 視界暗転。
 気がつくと謎の雲に釣り上げられて道路の真ん中に復帰していた。

「おい!? 前に見たゲームは砂や芝生の上くらいは普通にセーフだったぞ!」

 ちょっとなに言ってるかわからないです。

 そんなミハイルを他所に、先頭を猛追する奏音のミニパト。ヒールアンドトゥでエンジンを吹かせながら、アウトインアウトのライン取りでコーナーに突っ込む。
 が、明らかにオーバースピード。

「オペ子さん、足ブレーキ」
「オペ子にお任せです」

 頷いたオペ子は唐突に助手席のドアを開け、自分の足…ではなくユウの足を出させる。
 足ブレーキ=足で直に踏ん張って曲がりきる。

 ドガガガガガ!!

 がんばれユウちゃん。



 スタート地点で必死にエンジン復帰を試みていたTR。
 ふと、その横に現れたのは新たな1台のマシン。

「俺様の車はスーパードラッグレーシングカーだぜー」

 ラファル A ユーティライネン(jb4620)。
 持ち出してきたのはペンギンカラーの、安全教習には最もそぐわないであろうスーパーまっすぐにしか進まないドラッグマシン。ブレーキなんてちゃちなモノは無く、減速にはパラシュートが必要なアレである。

 スタート争いには乗り遅れたが、これしきの差、何の問題も無い。
 ついでに、リセットされていたシグナルが赤のままだったが気にしない。無視してなんぼ。赤も黄色も気を付けて走れ。
 関西ではよくある事(アカン

 瞬間、どばーん!とロケット加速していくラファルさん。
 あっという間に第1コーナーへ。

 が、当然曲がらない。

 芝生に乗り上げた瞬間、ミハイル同様ピタリと強制復帰……かに思われたが!

「芝を刈ってしまえば乗り上げたことにはならないぜー」

 ジョリジョリジョリ!

 なんと車の先端にスーパー芝刈り鋸を搭載。強引にショートカットして、踏切エリアへ一直線。
 カンカンと警鐘が鳴り響いて遮断棒が降り始める。

 が、当然止まらない。

 降りかけだったバーをへし折って、なおも爆進。

 どこまでもカッ飛んでいくラファルさん。
 不正なんてなかった。 

 でもたぶん、そのうちコース端で壁に刺さる。



「盛り上がっとるな〜」

 エキゾースト音やら悲鳴やらが木霊するレース会j…もとい教習会場に辿り着いたゼロ。
 うん、コメディカラスだもんね。スチールレールガンくらいじゃしねないよね。知ってた。

「さぁオッズはこちらです」

 レースと見るや、早速賭け遊びを始めるゼロ。『オッズ表(水ω音)』と書いた看板設置。
 教習所のスタッフ達を呼び集めてやんややんや。

 コース脇からレースを観戦しながら、熱々のたこ焼きを取り出して自らの口に運――

 ファアォン!

 消えるたこ焼き。
 眼前スレスレを通過したミニパトの窓から手を伸ばしたオペ子が、皿ごと掻っ攫っていってしまった。

「ぺーちゃんの燃費はレースカーより低いんやな〜」

 それはそうと、

「レースか…障害物ないとおもんないよな。よし! 水音神! 出番ですよ!!」

 言いながら看板の(水ω音)の部分を消して、どこからともなく取り出した大量のピンポン玉に1つ1つ(水ω音)をカキカキ。

「さぁ楽しんでおいで♪」
『おいばかやめr』

 コースにばら撒き。
 続々と通過する教習車。
 粉々に踏まれる無数のMS。

 ああ、残機がどんどん減ってゆく……。



 その頃、雪子。

\ヤーヤーヤーヤーヤー!(BGM)/

「う〜ゴールゴール」

 今ゴールを求めて全力疾走している雪子は、クレイジーな黄色いオープンカーのタクシーに乗るごく一般的な女の子。
 強いて違うところをあげるとすれば、逆走してるってとこかナ…。

 スタートからして皆とは一線を画す(スタートライン的な意味で)とか、雪子まじ孤高の走り屋。

「おい今ぼっちって言ったの誰ですか」

 なおMT車はクソゲーなので諦めてAT車に乗った模様。
 カーオーディオの曲をぽちりと切り替える。

\デイトォナァーーーーッ!!/

 なおも逆走。

「逆走でもちゃんとTIME EXTENSION!!されますしおすしゴールだってできるんですよ? どうしてって? 隠し要素ならやりたくなるに決まってるジャマイカ!」
 
 そんな事より逆走してますよ。

 踏切だってなんのその。ラファルがへし折って遮断棒が無くなったのをいい事に、カンカン鳴っている警報機を無視して反対側から突入。

「ユッキーしってるよ。教習所にある踏切は偽物だって」

 逆走してるって言ってんだろ!

「これがアウトランナ●ズと呼ばれた雪子の、掟破りの地元走りです!」

                                                                   逆走。

 そのまま一直線に線路へと飛び込み――

「この勝負勝ちました! ローリンスタァァァッ!!!」

 刹那、やって来た電車に横っ腹ドゴシャア!

 電車の運転席に乗っていたのは、としお。

「いつも気になってたの」

 教習所の踏切に何故本物が走らないのか。
 臨場感が無いから大抵のヒトが踏切前で一時停止をしないのでは? と。

 だが今日はそうはいかない。

「油断してるヤツは本物の電車で吹っ飛ばしてやる!」

 交通安全の目的どこいった。

 一方、車体の横っ腹を弾かれてサッカーボールのように飛んでいく雪子のタクシー。
 地元走りは空中に描くライン。
 見事な放物線。さすがだな雪子。



 一方、事故の規模ではこちらも負けてはいなかった。

 シェリー・アルマス(jc1667)。
 某ス●ルドライブの如く、ゴールまでのタイムと損害賠償金(の低さ)を競って大爆走。

 操るマシンは黄色のアヒルちゃん。
 ハンドルを切るたび車体が左右に傾き、愛くるしくおしりをふりふり。

 しかしそのスピード、侮るなかれ。
 卓越したハンドル捌きでライバル達の妨害を掻い潜り、なんと1位に躍り出ていた。

 タイムと賠償金は、コースの外でそろばんを持ったロペ子が全員分をしっかり計測。

「ガンバッテ クダサイ」

 そろばんパチパチ。

 現在無事故。絶好調で先頭をひた走るアヒルちゃん。
 やがて赤く点った踏切が見えてくるが、タイムの為には止まってなどいられない。幸い、ラファルが先に壊してくれたおかげで、自分は遮断棒の賠償金を心配する事無く突入できる。
 今しがた雪子を吹き飛ばた電車が1周して帰ってくる前に、一気に通り抜けr

「油断してるヤツは本物の電車で吹っ飛ばしてやる!」

 としおリターン。
 全力でバックしてきた電車がガシャーン!

\グワー!(アヒルの声)/

 大惨事。

 だが真っ赤になった視界が暗転すると、アヒルちゃんはボディに大きな絆創膏を貼った姿で再び道路に復帰していた。

「…はっ!? ゴールに急がなきゃ!」

 再び走り出すシェリー。
 すると後方にミニパト登場。

『そこのアヒルちゃん、止まってください』

 スピーカーから奏音の声。
 しかしタイムの為には止まってなどいられない!

 振り切ろうとするシェリー。
 対して奏音は並走し、ミニパトをアヒルちゃんに横付けしつつ窓から片手を伸ばし、

「秘策、カット」

 何故か付いていたイグニッションカットスイッチぽちり。

 瞬間、ガクンッとエンストするアヒルちゃん。
 バランスを崩し、蛇行して電柱激突グシャア!

\グワー!/

 重大事故。
 絆創膏ぺったん。



 道路前方に謎のはてなブロックが浮かんでいる事に気づくミハイル。
 どうやら取れるらしい。しかし、

「どうやってゲットするんだ? 撃てばいいのか?」

 試しに発砲。
 しかし弾は箱をすり抜けてしまった。

「もしかして体当たりすればいいのか? クラッシュしないだろうな?」

 などと迷っているうちにみるみる距離が近づく。
 更にここで、恋音とフェルミを乗せた大次郎が障害物として登場。

 ミハイルは、思わず握っていた銃を大次郎目掛けて発射。
 が、もふもふの毛並みに弾かれて有効打にならず。

 代わりに、恋音の反撃が飛んでくる。
 高命中高威力のライトニングぴしゃーん!

 クラッシュしたミハイルと人狼は再びコース脇の芝生に乗り上げ、謎の雲に釣り上げられた。



 はてなボックスに張り付いて、何やらぶつぶつ言っているディザイア。
 レースには参加していないが、箱の出現位置に留まって何度もアイテムを取ってはアタリが出るまで繰り返していた。

「●レサ出ろテ●サ出ろテレ●出ろ…」

 仕様が古い。
 どうやら誰かから何かを奪いたいようだが……。

 その時、念願かなってテ●サをゲット。
 丁度そこへ、エリス&木葉を乗せたレフニーのバイクとエリストーカー…じゃなかった、凛の乗る車が差し掛かり、

「お嬢は返して貰うぜ…!(私怨」

 1人寂しく教習を受けると言ったな、あれは嘘だ。
 テ●サ発動。
 するとレフニーの背に居たはずのエリスがすぅっと消え、ディザイアが乗るバイクの後部座席に。

「「!?」」

 直後、ディザイア急発進。

「エリスちゃんがさらわれたのです〜!」
「エ、エリスちゃんは渡さないのです!」

 慌てて追いかけ…る前に、箱を取るレフニーと木葉。が、狙ったアイテムはすぐには出ない。大急ぎで何度もゲットを繰り返した。

 その間に距離を稼ぐディザイア。

「お嬢…この教習が終わったら俺と――」
「逃がしませんの」

 ふと声が聞こえて、背中のエリス越しにちらりと後方を振り返る。
 凛がいた。
 攻撃するでもなく、奪還するでもなく、赤い瞳をびかー!と光らせながらひたすら追従。

「(ごくり……)」

 唾を飲む音は、果たしてディザイアのものかエリスのものか。

 だが敵は凛だけにあらず。
 コースに復帰したク●パもといミハイルが、ディザイアの少し前を取る。

 そんな3組の視界に飛び込んできたのは、巨大な崖とジャンプ台。

「崖は飛び越えるものだ」

 先行するク●パ&コク●パ。
 ジャンプ台に乗った直後、

「コ●ッパ! 今だ、バナナの皮だ!」
「ぐる?」

 皮ごとむしゃむしゃ。

「手下だろ、少しは仕事しろー!」

 飛。
 バナナ設置失敗。

 続いてディザイア&エリスもジャンプ台に乗ろうと――

「エリスちゃん追いてけー!」

 レフニーの声。
 木葉がゲットしたキノコ的なアイテムで加速して追いついてきた。
 更にレフニー自身がゲットした緑甲羅を射出。

 今まさに飛び上がろうとしていたディザイアのバイクにヒット。クラッシュしたままエリス共々空中へと打ち上がる。

 それを追って凛とレフニー&木葉もジャンプ。木葉がエリスをキャッチして、レフニーと凛が空中でディザイアをぶぎゅると轢いていく。
 エリスを失ったディザイアは、バイクと共に谷底へと消えた。



 その頃、最後尾では。

「私のマッスィーンは凶暴ですよ!!」

 陸ロペ子搭載型のバイクで参戦、シエル・ウェスト(jb6351)。
 ぶっちゃけ陸子が重くてスピードが出ない。

 ともあれ、はてなブロックをゲット。
 中にはなんと決闘用の円盤が!

 デュエルデ●スク。
 シエルディスク。
 この親和性。

 対して隣を競うは、1台の貨物付き大型トレーラー。

「これからの時代は大きい車を運転できないとね!」

 雪室 チルル(ja0220)。
 撃退士たるもの、戦場で避難民を運ぶ際にはより大きな車両を運転できたほうが都合が良い。っていう建前。

「だいはしょーをかねるのよ! さいきょーのあたいなら大きい車に乗るのがとーぜんね!」

 っていう本音。
 どうせなら大きいやつに乗りたい。

 でもやっぱり重くてスピードが(ry
 しかし2人共そんな事には構わず、アクセル全開で全力突撃。僅かにシエルが先行してクランクエリアへと差し掛かり――

 入口直前でテラーエリアを発動するシエル。後続のチルルの目からクランクの入口を隠蔽するという、姑息な手に出る。
 デ●エリストかと思ったが、どうやらリアリストだったようだ。

 だが、暗闇を意にも介さず突っ込んでくるチルルのトレーラー。ポールをどっかんどっかん薙ぎ倒し、強引に狭路を通過。
 どうせ速度が遅いので、多少のミスは気にしないで全力全開。

「ほう、闇のフィールに耐えましたか」
「それに最下位はアイテムいいのが出るのよ! サンダーとか!」

 言ってる傍から箱からサンダーゲットのチルル嬢。
 早速使う。

「……おぉ……。……おめでとうございますぅ……。……はい、了解いたしましたぁ……」

 返事をしたのは恋音。
 彼女はこくりと頷くと、大次郎の頭上から会場中に魔法を撃ち放った。
 まさかのサンダー係。
 凄まじいフィールが雷となって降り注ぐ!

 咄嗟に腕につけていたディスクで防御するシエル。
 カードが剣なら、ディスクは盾なのだ。

「ところでカードって何の事ですかね?」

 偉いヒトに怒られないか心配です。



 エリスを取り戻したレフニー&木葉。凛はなおもその後ろにぴたりと張り付く。
 やがて前方に見えるは絆創膏を貼ったアヒルちゃん。それと、

「「アニマルカーはシェリー殿だけではないでござるぅ!」」

 豚型の車に乗った、豚侍の群れ。
 アヒルちゃんに対抗心を燃やし、その後ろをブヒブヒと追走。

 が、遅い。
 アヒルちゃんに追いつくどころか、後から来たレフニーのバイクにあっという間に追い抜かれていた。
 更に、

「邪魔ですの」

 進路上にいた豚を数匹、ぶぎゅると撥ね飛ばす凛。

\ぶひー!/

 事故発生。
 轢き逃げ。

 戦慄する豚とアヒル。
 だがこれで凛にも損害賠償が加算……されなかった。

「ひき逃げ? デフォですわ。いつもの2人を轢けないのが残念なくらいですの」

 こんなの事故の内に入りませんわ。
 コーヒーは挽けないが、ヒトなら轢ける。

「ひき方なら負けませんの」
「なら私もひいてください」

 映姫乱入。
 戦車型ゴーカートのハッチから頭を出し、対向車線を逆走しながら凛に迫る。

「ハリー!! ハリー!!」

 急かすように主砲からスライム発射。

「そんなにひかれたいのでしたら、遠慮なくひいて差し上げますわ」

 凛はスライムを躱しつつ、すれ違いざま――

 釘バットフルスイングぐしゃあ!

 一振りで映姫をひき肉に。
 違うそうじゃない。

「でもこれはこれで……ぐふっ」

 映姫はモザイク処理を受けながら戦車からすっぽ抜け、恍惚とした表情で地面に転がった。



 一方、本物の戦車組。

「安全運転で一位を狙いますか」

 縮地を使用してスピードを上げる雫。
 高速回転した履帯でゴガガガ!とアスファルトを削りながら激走。

「残念ながらどんなにスピードを出しても法定速度を超える事はなさそうですね」

 法定速度(日本のとは言ってない)。
 同じくルーカスの戦車も、道路をゴリゴリと抉りながら進撃。

「それにしても道路が荒れますね」
「戦車だからな。うっかり近づいたら大変だ」

 近づいた奴が。

 などと言ってる間に、前方に豚とアヒルちゃんを発見。
 瞬間、雫が主砲発射。

\ぶひー!/

 どっかんどっかん散っていく豚の群れ。
 対して、必死に躱すアヒルちゃん。

 雫は容赦なく拘束スキルでアヒルちゃんを縛り、黄色いボディに砲撃ずどん。

\グワー!/

 絆創膏追加。

 と、前方からナニカが生身で走ってくる。
 頭にモザイクがかかった映姫だった。

 雫は咄嗟に車体の向きを変え、飛び掛ってきた映姫を鈍角で受け流す。
 装甲に弾かれて後ろへ流れる映姫。瞬間――

 グシャア! ゴガガガガガ!

「ん? 今何か履帯に巻き込んだか……」

 ルーカスの戦車。
 まあいいか。

 2台の戦車はギュンギュン前へ進んでいった。



 (水ω音)と書き直した看板の横で、新しいたこ焼きを食べながら酒を呷りつつ観戦するゼロ。
 隣にはいつの間にやら呼び出した局長も居る。

 この機会にと、ゼロは局長に対して以前から気になっていた質問を1つ。

「そろそろ名前押してください(まがお」
「私のか? 私の名前は、さ――」

 ブオオォォォキキィィィィブオンブオン!!

 騒音。
 レース中だからね仕方ないね。

「なんでこのタイミングや」

 MS顔の看板を小突くゼロ。

『私のせいじゃないし? 走ってるのは皆だし?』
「やかましい喰らえ!」

 看板バキィ!

「まあまあ落ち着いて☆ 1つエキジビションゲームでもいかがかな♪」

 現れたのはジェラルド。
 路肩に停めてある同じ色同じ形をした2台の高級車の前で、ゼロに手招き。

 いかに魅せる走りが出来るかを競う、スタントマン顔負けのカーチェイス。

「ええで、吠え面かかせたるわ」
「それじゃあ本気の勝負といこうか☆」

 後方のマシンに乗り込むジェラルド。
 必然的に、前方のマシンにはゼロが乗ることに。

 バックミラーに映るジェラルドが頷いたの確認し、ゼロはタイヤを鳴かせて発進。
 ジェラルドはそれを追い、しかし決して追い抜こうとはしなかった。

 勿論、ゼロの操縦技術も卓越していて、そう易々と抜ける相手ではない。
 だがそれとは別に、ジェラルドはニコニコとしたポーカーフェイスの下で、内心意地の悪い笑みを浮かべていた。

 同じ形同じ色のマシン。
 しかし実は両者には決定的な違いがあった。

 1台の天井には、大口径の機銃。
 もう1台のトランクには、大量の火薬が仕込んであるのだ。

 当然、ジェラルドが選んだのは機銃のほう。

「撃退士同士の本気(任意ではない)のカーチェイスなら、十分テクニックも披露できるね☆(ゲス顔」

 そんな訳でわざとゼロに先行させていたジェラルド。
 適度にドリフトショーもやってみせたし、そろそろ頃合か。

 火薬を背負ったゼロを後ろから撃って遊ぶべく、ジェラルドはシート脇に組み込んだスイッチを押し……押し……?

「あれ? スイッチはどこかな?」



 前を走っていたゼロ。
 ふと、シート脇に用途不明のボタンを発見。

「ん? なんやこのボタン(ぽちっ」

 天井から銃ガッチョン。

「なんか凄いの出た」

 ニタァと口端を吊り上げて、急ブレーキ。
 ジェラルドの後ろに回り込み、容赦なく後ろから機銃を撃つ。

「やあ、これはまずい☆」

 蜂の巣にされて、どっかんどっかん火を噴くジェラルドの車。
 爆発。
 インガオホーとはこの事か。



 道に転がっていた豚的な連中を撥ね飛ばしながら爆走するチルルとシエル。
 前方に見えるは坂道発進教習用の丘。

「今こそあたいのさいきょーの力を見せる時よ!」

 目指すはダウンヒル。
 助走をつけてクライム側を一気に上りきった直後、下を向いたトレーラーは重さも相まって物凄い速度に。

 長い車体をグオオォォと振り回し、ドリフトでコーナーを駆け抜ける。

「さすが、さいきょーのあたいだわ!」

 一方、シエルも陸子の重みと特性を活かして下りで超加速。
 心なしか衝撃波が発生している気分。

 だがまだだ! まだフィールが足りない!

「もっと速く走れぇぇぇ!!」

 自身だけでなく、陸子のフィールも回す。
 我武者羅に加速してもフィールは高まらないのだ。

「ところでフィールって(ry」

 同時に丘を抜けるチルルとシエル。

「むむ! 中々やるじゃない! でもさいきょーはあたいよ!」

 待ち構えるは崖。
 だが彼女達の車体重量では、例えジャンプ台を使ったとしても……。

 その時、シエルがトラップカード発動!

 臆せずジャンプ台で飛び出し、空適性0の陸子を抱えて闇の翼で飛翔。と同時に、ヤツを呼ぶ。
 そう、空適性MAXの空型ロペ子を――

 空と海は現在オーバーホール中です。

 ――ファンブル!

 シエルとチルルはマシンと共に遥か谷底へと落ちていった。



 その頃ジェンティアンはと言えば、キャシー達を乗せて教習用のバスをのんびり走らせていた。

 とりあえず何か危なそうなのには参加しないスタイル。
 バス停(を模した擬似看板)の横でバスを停車。一応教習メニューに従って乗降口をプシューと開くと、なんと乗り込んできたのはペンギン達。

「なんで!?」

 教習会特別協力:水族館。

 ジェンティアンを見るなり一斉にふくらはぎをつつき始める。

「い、いたっ、痛い!?」

 するとキャシーがペンギンをひょいっと抱え上げ、

「メッ!(野太い声」

 ピタリと鎮まるペンギン。
 下肢に深刻なダメージを負ったジェンティアンだったが、まあレースで事故を起こすよりはマシか。

 とは言えまだまだ何があるか分からない。
 いや、そもそもこちらはバスだ。

「こっちが大きければ潰されないよね! やれるもんならやってみよ水音MS!」

 その時、不意にバックミラーを埋め尽くして後方に現れる獣の影。
 大次郎。
 バスより大きい。やばい。

 ギアを入れて急発進するジェンティアン。

 狭路を突っ切り、
 踏切を突っ切り、
 坂道を突っ切り、
 崖を突っk…!?

 ジャンプ台の直前、向こう岸から飛んできた逆走対向車の姿が映る。
 TIME EXTENSION!!した雪子。

「ファッ!?」

 雪子も自らの着地点に迫るジェンティアンのバスに気づいて、短い奇声。
 ジェンティアンは慌てて氷の夜想曲を発動し、雪子を居眠り運転にして車の軌道を変えさせようと……

「ハハッ。氷天使の雪子には氷の夜想曲は効かn(すやぁ」

 そりゃアウル的な氷なら効いちゃうよね。

「…あれ余計危なくなった気が」

 衝突コースまっしぐら。

 落ちてきた雪子とぶつかる寸前、咄嗟にバスから飛び降りるジェンティアン達。
 ジェンティアンは運転席側の窓から。ペンギンを抱えたキャシー達は反対側の乗降口から。

 ゴシャア!とぶつかり、ぐるんぐるん回転しながらコースの外へと弾き飛ばされていく雪子車。

 対してジェンティアンは地面を転がった後、ふぅっと何とか立ち上が――

 ドンッ!

 和紗&リーゼの車に撥ねられていた。

「和紗。いま何か轢いた気がするが」
「気の所為です(キパ」

 走り去る和紗&リーゼ。
 レースはまだ続いています。



 ここにきて、猛烈な追い上げを見せる1台の車があった。
 ラファルのドラッグマシン。

 曲がれずにどこかで壁に刺さってオブジェクトになっているかと思われた彼女だったが、壁や電柱にドッカンドッカンぶつかりながら反動でちょっとずつ方向転換してまさかの追い上げ。

 ついでに他の車にもガッツンガッツンぶつけていく。
 豚にぶつかり、映姫に乗り上げ、居眠り運転している雪子を押し退けて、坂道も崖もスーパー最高速でと・つ・げ・き。

 常時スーパーキノコダッシュ。

「最高速なら負けねーぜー」

 
 ふと、進路上にク●パ&コク●パのバイク。

 構わず突進ドッカン。
 爆速で追突され、ミハイルと人狼はより前方へと弾き飛ばされていく。

 そして度重なるクラッシュにより、とうとう大破するミハイルのバイク。
 彼は人狼と共にむくりと起き上がると、追って突っ込んでくるラファルマシンへと向き直る。

 大破した以上、もはや走る事かなわず。
 だがしかし!

「何もせず散るわけにいくものか!」

 こうなれば、俺達自信が障害物となろう。
 銃を抜き、爪を構え、1人と1匹は「うおおぉぉぉ!」とラファルマシンへ向かっていき――

 ドンッ!

 高々と宙を舞った。



 ジェラルドを葬り、ヒャッハー状態で走るゼロの車。
 前方を走っていた黄色いアヒルめがけて機銃ドドド!

「このままじゃまた賠償金が増えちゃう!」

 シェリーは起死回生に残しておいた未開封のはてなブロックを取り出すと、『水音』と書かれた付箋を貼ってゼロへと投擲。

「神様、お願い! 私を守って★」
『よろこんでー』

 直後、機銃の銃身に刺さる水音ブロック。重みで銃身が真下を向き、屋根を貫通してゼロの車内をズドドドン。
 エンジンから火を噴いたゼロの車は、爆散してコースの染みと化した。



 地中を進み、ゴール近くのコース上にボコッと頭を出すΩ。
 生き残った教習車達が団子になって近づいてくる。

 互いに矢を射掛け、銃撃を浴びせ、砲弾を叩き込み、甲羅や雷が飛び交う大接戦。
 その中にはエリスの姿も。

 集団が通り抜けていく一瞬の最中、Ωは手を伸ばしてエリスの額に何かをぺたり。
 それは、地中で見つけた『星』。

 刹那、ピカー!と光るエリス。

\ヒァウィゴー!/

 彼女を乗せていたレフニー&木葉のバイクごと無敵モードと化し、あらゆる物を弾き飛ばしながら一気にトップへ躍り出る。
 だがゴール手前で効果が切れ、

「ニトロ、ON!」

 そのタイミング狙って、奥の手を起動する奏音。ボヒュッ!と加速して再び横並び。
 また、圧倒的な装甲値でスターエリスの体当たりから早急に復帰した雫とルーカスも、ギュララララ!とラストスパート。

 更にそこへスーパーまっすぐ追いついてきたラファル。

 しかしその車体からは既に轟々と炎が噴き出していて――



 カッ!!



 ゴールにド派手な花火が打ち上がった。






















「ふぅ、きちんと運転できましたね」

 ネフィリム鋼製のマシンに乗っていたおかげで、奇跡的に無傷の生還を果たした奏音。オペ子も無事。ユウは……うん、とりあえず足に湿布貼っとこか。

 一方、足を痛めたらしい女子がもう1人。

 エリスターに弾き飛ばされて大破した車に乗っていた和紗。
 めっちゃ足いたいわー。これはきっと捻挫してるに違いないわー。歩けないわー。

「そろそろ店の準備の時間なので俺達はこれで。リーゼ、運んで下さい」
「(こくり)」

 特に深く考えず、お姫様抱っこで和紗を運んでいくリーゼ。
 入れ違いに、キャシー達に付き添われて包帯ぐるぐる松葉杖で戻ってきたジェンティアンは、2人の後姿を見て歯噛み。

「ちょ!…くっ、今更だけど住込み賛成したのは間違いだったか(包帯ぎりぃ」



 結局、爆発で誰が1位だったのかは分からず。
 ゴールで待機していたロペ子は、タイムと賠償金の計測データもろとも丸焦げになっていた。

 事故いっぱい、怪我人たくさん。
 安全運転ってだいじだわー。

\ところで、フィールって何だったんですかね?/

 担架の上に横たわる包帯の塊の1つから、シエルの声がする。
 しかし答えを得る前に病院へと運ばれていく包帯達。
 いいフィールだったぜ。



 ちなみに地下に建造されたΩ嬢のマイホームダンジョンは、土地の所有権が無くて後日没収されました。
 諦めずに次の物件探そねせやね。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 紅茶神・斉凛(ja6571)
 Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 ついに本気出した・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
 氷結系の意地・玉置 雪子(jb8344)
 インファイトガール・Ω(jb8535)
 空の真ん中でお茶を・夜桜 奏音(jc0588)
重体: −
面白かった!:19人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
久遠ヶ原のお洒落白鈴蘭・
東風谷映姫(jb4067)

大学部1年5組 女 陰陽師
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
護黒連翼・
ディザイア・シーカー(jb5989)

卒業 男 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
暁光の富士・
ルーカス・クラネルト(jb6689)

大学部6年200組 男 インフィルトレイター
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
氷結系の意地・
玉置 雪子(jb8344)

中等部1年2組 女 アカシックレコーダー:タイプB
インファイトガール・
Ω(jb8535)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプB
空の真ん中でお茶を・
夜桜 奏音(jc0588)

大学部5年286組 女 アカシックレコーダー:タイプB
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード