ゆくぞ撃退士。ゴミの貯蔵は充b
「投げる物があると埒が明きません」
その時、樒 和紗(
jb6970)がいきなりバレットストームをぶっぱ。
最初からクライマックス。荷台の廃品をトレペ諸共、木っ端微塵に吹き飛ばしにかかる。
「なんとぉ!?」
超反応で射線に飛び出し、腕やら翼やら魔力やらを目一杯広げてトレペを守る名も無き悪魔。えげつないHIT数を表示させつつも、大部分の廃品とトレペを何とか死守。
よかった。危うく開始数行でリプレイが終わってしまうところだった。ナイスガッツ悪魔。
すると和紗は、
(何やらトイレットペーパーに執着があるようで。ならば…)
スマホを取り出し、番号呼び出しトゥルルル……ガチャリ。
『……』
「……」
『……』
「…もしもし?」
『む?』
「あ、繋がってましたか」
電話の相手はリーゼ。無口だからね。
和紗は事情を説明。
「赫々然々、大至急お願いします」
求:トレペ(香り付Wロールのシルク保湿タイプ)。
「特売は1人2袋まででしたので、エリスやキャシー達と一緒に人海戦術で。リーゼは配達もお願いします」
『……(こくり)』
と頷いたような気配がして、通話が切れる。
和紗は、とりあえずブツが届くまですみっこで体育座りして待つ事に。
その間、他のメンバーが悪魔の説得を試みる。
「そこの悪魔、仮称・ミスターTRー(※トイレットロールの略)。白昼堂々の魂収集とは言語道断ー。さっさと退散して、楽にお仕事完了させてくださいー。向ってくるなら、一切合財すべて焼き払いますよー」
だるーっと呼びかけるRehni Nam(
ja5283)。
アホっぽい事件で、やる気出ず。
代わりに月乃宮 恋音(
jb1221)が歩み出て、
「……えと、その、何も問題が無ければ、トイレットペーパーを取り上げる気は、無いのですよぉ……。…………何も問題が無ければ、ですけれどぉ…………」
その問題を今からチェックする。
最初に問うたのはディザイア・シーカー(
jb5989)。
「等価交換と言うが、回収業者としての許可に対する対価は払ったのか?」
そも、魂や肉体がトレペと同価値扱いとはこれ如何に。
「…いや、価値観は人それぞれだからそういう奴もいるということか」
ふと、トイレに人生を捧げている学園生とはぐれ悪魔の知人を思い出した。
一方、物陰でディザイアの言葉に無言で頷いていた人影が1つ。
仁良井 叶伊(
ja0618)。弓の射程を保ち、潜行待機して誰にも気づかれることなく状況を監視。
(人間の魂は…連中にしてみればトイレットペーパー並の価値なのは納得は出来ない物の分らないでも無いです)
価値というものは状況によって如何様にも変わる。
種族間での価値観の違いは当然ある訳で……。
(でも、人間世界でそれは勘弁して欲しいですね。特に違法にやるのなら…まあ、許可は取れないでしょうが、退治せねば被害が広がりそうなのでガンバリマスか)
ガンバる。とりあえず監視を。
(まあ、一応対価を払おうとしてるだけマシかね)
ディザイアは顎に手を当てて考える。
とりあえず、他の悪魔よりは優しい対応してやるか。
「トイレットペーパーやるから地元に帰れ」
すると彼の言葉に相槌を打つように、逢見仙也(
jc1616)が前へ。
差し出したのはトレペ(Wの香り付き)。急な任務だったが、出掛けに1つだけ確保してきた。
だがタダでは渡さない。
「どうしても聞きたい事が」
仮に魂を差し出したとして、引き換えに貰ったトレペは誰が受け取るのか。
「差し出した本人でしょうが?」
「当たり前でしょうが?」と答える悪魔。
(魂が無くなっているのにどうやって受け取るのでしょうか)
物陰で首を捻る叶伊。
対して、仙也が続けて問う。
「荷台のトイレットペーパーの材質が気になるんですが…」
なにせ魂と交換するくらいだ。さぞ良い物なのだろう。この香り付きWロールと交換してくれないだろうか。
でもディアボロ製の紙とかだったら面倒だな……とも思いつつ。
だが返ってきた答えは、
「普通に再生紙ですけどー」
だって魂って生まれ変わるって言うじゃん? 再生紙みたいなものじゃん?
(天魔に消化された魂でも生まれ変われるのしょうか)
物陰ですげぇ首を捻る叶伊。
輪廻の輪の守備範囲広すぎじゃないですかね?
今度は恋音が、予め用意しておいたファイルを悪魔へと差し出す。
中身はリサイクル法の資料。
「……回収業には、きちんとした許可が必要なのですけれど、手続きはお済みですかぁ……?」
と一応聞いてはみたものの、魂の回収に許可が出ているはずもない。
が、恋音は「許可が無いならこの機会に申請してみてはどうか」などと言葉巧みに誘導し、悪魔に申請用書類を手渡す。
ふむふむと耳を傾けながら書類に目を通す悪魔。
ついでに氏名や住所も判るかもしれないと、恋音はさりげなく運転免許証の提示を求める事に。
「……車を運転されているようですけれど、運転免許証はお持ちですかぁ……?」
「え。持ってないですし」
「……うぅん……。……それは困りましたねぇ……」
無免許運転となれば、重大な過失として厳罰処分が下る。
だが彼はまだ人類に帰属していない悪魔だ。
「……大人しく投降していただければ、ある程度、不問になる可能性も有りますけれどぉ……」
それを聞いた悪魔は、頭の中でポクポクと状況を想像。
投降→取調べ→とりあえず押収まったなし。
「やはり私からトレペを全て取り上げるつもりですか貴様方ぁ!?」
「…………お、おぉぉ…………? …………そ、そのようなつもりでは、ないのですよぉ…………(ふるふるふるふる)」
「ところで、ふと思ったのですが」
そこへ、仲裁ついでにだるーっと割って入ったレフニーが質問。
「魂……自分のでなくても良いのでしょうか?」
もしOKなら、2人ほどイケニe…もとい尊い犠牲を出すのも吝かではないとか思ったり。
「うち1人はここにはいないので、後日別途引渡しですが」
「ここに居るというもう1人は、いったい誰の事なのか……」
ごくり、と尋ねるディザイア。
ひょっとしなくても:ディザイア・シーカー(
jb5989)
任務中の事故に見せかけて抹殺。
エリスちゃんは渡さないのです。
「あははー。冗談、冗談ですよー。私がそんな事本気ですると思いますー?」
言いながら光纏。謎のやる気↑↑。
いかん、このままでは御香典が必要な事態に!
その時、1台の軽トラがやってきて一同の横で停止。
運転していたのはリーゼ。荷台には大量の高級トレペ。
「配達ありがとうございます」
和紗が立ち上がり、悪魔との交渉開始。
「貴方は魂をトレペと交換出来ると言った。つまりトレペは魂と交換出来る。完璧な三段論法です」
二段しかねえ。
「此方は大量の高級トレペ。相応の等価が必要です…さあ」
ずいっと迫る和紗。おう魂よこせよ。
×:交渉
○:恐喝
このままではヤられる!
身の危険を感じた悪魔は自トラックの荷台へ手を伸ばし、ラジオを投擲。
だがその直後、横から飛んできた謎のCDラジカセとぶつかって空中で砕け散るラジオ。
振り向いた先には、雁鉄 静寂(
jb3365)。新たな軽トラを運転しながら登場。
荷台には大量の最新家電が積まれていた。
「商店街の電器店から日焼けした展示品を貰ってきました」
「奪ってきました」の間違いかもしれない。
家電には家電で対決がセオリー。
静寂は車から降りると、王者の如き立ち振る舞いで悪魔を見下す。
「廃品家電が新品家電に勝てる道理があるとでも?」
「旧型が新型に劣るとは限らんでしょうがぁ!?」
「ふっ、思い上がりましたねこの悪魔!」
瞬間、静寂が荷台の新型家電を掴んで投擲。
「最新型林檎携帯、一括価格10万です!」
対して、FAXを投げ返す悪魔。
空中で衝突。相殺。
間髪容れず、静寂は次々と新型家電を発射。
最新型冷蔵庫、約30万!
最新型洗濯機、約25万!
80vの大型テレビ、約60万!
最新型タブレット、約13万!
健康マッサージチェア約35万!…は、もったいないので投げずに貰っておこう。
対して悪魔も同系統の旧型家電で迎え撃つ…否、悪魔のほうが徐々に静寂を圧していた。
でかくて重い旧型のほうが、薄くて軽い新型より運動エネルギーの大きさがどーたらこーたら。
静寂は王者(新型)の器で潔くその事実を受け入れる。
「認めましょう、確かに古い家電は強いです(重量的な意味で)」
しかし、と。
悪魔にびしっと指を突きつけ、
「最新型を舐めていただいては困るのですよ。何しろ携帯で全て管理ができるのです」
言いながら、携帯ぽちぽち。
前もって車のバッテリーと繋いでおいた家電の山が、一斉に稼動。あら便利!
「トイレットペーパーなど、今やウォ●ュレットの補佐のようなもの! 新品家電に囲まれた生活がしたくはありませんか? わたしはしたいです!」
「でも最新家電だとビデオテープとか見れないですし?」
DL版がない旧世代機のゲームとかも遊べないですし?
完全互換はよ。
そんな極めて高度な心理戦を他所に、いつの間にか悪魔トラックの荷台に乗って廃品を漁る熊(の着ぐるみを着た齢85の爺、上野定吉(
jc1230))の姿があった。
「む、これは!」
古本の中に、ある物を発見。
全世界川魚大辞典。
ふおおお!と狂喜乱舞する熊。
逸る気持ちを抑えながらこっそりトレペも1つ手に取りつつ、悪魔の肩をとんとん。
「この全世界川魚大辞典を、このトレペと交換して欲しいのじゃ」
おいそれどっちも悪魔さんのじゃねえか。
案の定、すぐにそれと気づいた悪魔は申し出を拒否。
「むう、ならば仕方ないのじゃ……」
定吉はトレペを置き、全世界川魚大辞典も元に戻…すと思いきや徐に後ろを向いて着ぐるみの腹にあるチャックを開け、ごそごそと懐にしまい込む。
そして次の瞬間、なんと小天使の翼で空を飛び、上空から三節棍で悪魔へと殴りかかった。
ころしてでもうばう。
どんだけ全世界川魚大辞典欲しいんだ熊。
一方で叶伊も、定吉を援護するべく物陰から矢を射って悪魔の肩を狙う。
死角から突き刺さった矢はしかし、その強肩を破壊するまでには至らず。悪魔はダメージに怯む事無く、横に跳んで定吉のダイブを回避する――
「離れるとトイレットペーパーやその他がボロボロになりますよ」
寸前、ガトリングを構えた仙也の声。
直後、踏み止まって廃品…いやトレペを庇おうとした悪魔の脳天に定吉が三節棍を叩き込み、腹に全世界川魚大辞典を仕込んだ不恰好な体型で華麗に荷台に着地。
だが、コメディ補正で生命力も上がっている悪魔は倒れる事無く仙也に抗議。
「貴様さん、トレペを交換したがってたでしょうがぁ!?」
「材質とかが気になっただけなので、手に入らなかろうがどうでもいいです」
怒った悪魔は仙也の射線からトレペを庇うように陣取りつつ、廃品を投げて反撃しようと荷台に手を伸ばす。
が、虚しく空を切る指先。
廃品が荷台ごと消えていた。
振り返ると、ブオーッと全速力で遠ざかっていく軽トラの後ろ姿。
運転席に居るのはディザイア。
「なぁ悪魔。ゴミの貯蔵は充分か?」
バックミラーを覗き込みながら、ニヤリと呟く。
家電砲を封じると共に、トレペを人質にする高度な戦略。荷台には熊も乗っているが、まあ支障あるまい。
ついでに家電とトレペは幾つか押収して持って帰…
「…む、嫌な予感がする!」
刹那、ピキーン!とエフェクトが走る。
今までの経験から考えて、この後、酷い目に遭うに違いない!
「予測防御で防げ! 防ぐんだ俺!」
アウルの導きに従い、対ショック姿勢を取るディザイア。
直後、軽トラのタイヤをレフニーのヴァルキリージャベリンが貫いた。
タイヤがバースト。
からの電柱激突ぐしゃあ。
「証拠物件を勝手に持って行こうとするのが悪いんです。ええ、私はそれを止めようとしただけです」
証拠物件と書いてエリスと読む。
重体になっていてもおかしくない事故り方だったが、予測防御の甲斐あって気絶の範囲で済んだ様子のディザイア。
更に恋音の神の兵士が発動して、気絶を回避!
フラフラと車から降りて任務続行。
「トレペを確保せねば(使命感」
その時、エンジンから火が。
トレペを取り、慌てて車を離れる。
対して、荷台でひっくり返っていた定吉が逃げ遅れ――
直後、ガソリンに引火。爆発。
じじい炎上。
だが被害はそれだけに留まらず、
「貴方は不要な魂と言ったそうですが、魂に不要なものなどありません」
焼き熊を他所に、悪魔へと語りかけていた和紗。
「魂とはトレペと交換するもの? 否。――燃やすものです!」
ディザイア(が抱えているトレペ)目掛けてアンタレスをぶっぱ。
魂は燃やすもの。つまり魂と等価であるというトレペも燃やすもの。
「燃えても尚、甦る――不死鳥の様に」
ばさぁ、と不死鳥のポーズを取る和紗。
ディザイア炎上。これは死ぬかも分からんね。
だが予測防御していた彼に再度恋音の神の兵士が発動し、気絶から回復!
任務を完遂するまで死ぬ事すら許されない。
辛うじて燃え残ったトレペの切れ端を握りしめながらディザイアが乗り込んだのは、静寂の軽トラ。
荷台に新型家電を乗せたまま、発進ブオーッ。
「わたしのマッサージチェア!」
静寂激おこ。
リーゼの軽トラの荷台に乗り込み、追ってくださいと屋根を叩く。
「証拠物件!」
レフニーも荷台に飛び乗り、
「燃え損ねられては困ります。不死鳥的に」
和紗は助手席へ。
急発進。壮絶なカーチェイス。
やがて町内を一周して戻ってきたディザイアの車は銃弾やら魔弾やらでもはや真っ直ぐ走る事もままならず、暴走した先にはあろう事か恋音と悪魔が…!
――直撃。
けたたましい音と車の破片が飛び散る。
そこへ後続のリーゼの車も突っ込み、爆発。炎上。
大惨事。
と思いきや、なんと拉げた車体の下から恋音が無傷で這い出てきたではないか。
どうやら胸に装備していた2つのエアバッグが機能したようだ。
また、衝突寸前に荷台から飛び降りて電柱にしがみついていた静寂とレフニーも無事。
更に、燃え盛る炎の中から2つの人影が。
「燃えても尚、甦る――不死鳥の様に!」
和紗&リーゼ(不死鳥のポーズ)。
燃えカスのトレペを庇おうとして透過しなかった悪魔は、瓦礫と共に埋もれたまま。
こうして違法業者は、1人の尊い犠牲によって撃退される事となった――
●
「はい、あーん」
包帯の塊と化して横たわるディザイアに、うさぎリンゴを差し出すエリス。
それを横からぱくっと掻っ攫うレフニー。
「エリスちゃんのリンゴは渡さないのです」
がんばれ男の子。壁は高く分厚いぞ。
一方、事故現場では。
掘り起こされ、恋音に延々と正座でお説教される悪魔。
「あの、もう帰ってもいいです?」
「……まだ、お話は終わっておりませんよぉ……?」
その後ろでは、守り抜いた全世界川魚大辞典を手に狂喜乱舞する、焼き熊の姿があった。