オペ子が差し出した依頼書を見て首を捻っているマイケル=アンジェルズ(
jb2200)が居た。
「水…水…water…? water…!!」
水…!
生き物…!
水 鳥 !
「Oh! いつぞやの白鳥の湖対決を思い出しマース☆」
股間から白鳥を生やした野生の撃退士騒動。
「水鳥の擬態なら拙者にお任せアレデース☆」
「頼もしいです」
「銀幕の世界を惜しまれつつ引退した演技力見せてあげるデース☆」
大ヒット映画のエキストラでチラッと見切れただけだけどな。
という現実は脳内フィルターで濾過しつつ、元ハリウッドスター?のマイケル氏は「HAHAHA☆」と高笑いしながら水族館へ。
そして同じく依頼内容を聞いていた斉凛(
ja6571)。
人任せとはなんて情けない、と。何やら思案顔でぶつぶつ。
「これはオシオキしてさしあげなければいけませんわね」
そう言って、水族館へと向かう白メイド。
その後姿を受付から見送っていると、
「それでは私達も行きましょうオペ子さん」
ユウ(
jb5639)がそっと肩に手を置いた。
「何やら不穏な予感がするのでオペ子はお留守番してます」
「大丈夫です。オペ子さんが気にしているのは判っています」
オープン直前にも関わらず魚が居ない水族館。話を聞いたオペ子は自分も何か力になりたいと気を揉んでいるに違いない。
これは是非とも現場へ連れて行ってあげなくては。
「局長さんの許可は取っているので行きましょう!」
「解せぬです」
ユウはずるずるとオペ子を引きずりながら、にこにこと斡旋所を後にした。
――水族館のスタッフルーム。
「とりあえず時間を稼げば良いのでしょう?」
「よろしくお願いするよ」
樒 和紗(
jb6970)の問いにこくりと頷く京埜。
お願いされた和紗は、部屋の隅にあるカーテンで仕切られた更衣室の前まで歩いていく。
中には誰も居ない。しかし彼女が開け放たれていたカーテンをシャッと閉め、シャッと開くと、なんとそこにはリーゼの姿が。イリュージョン。
「む?」
リーゼは手にグラスとクロスを持ったまま、きょろきょろ。さっきまでバーでグラスを拭いていたはずが、気がついたら水族館の一室に。
そんな彼へ、持参した衣装をそっと差し出す和紗。
「これを」
たぬきの着ぐるみパジャマ(耳付きフードとしっぽ付き)。
「楽●で税込3564久遠です。請求書は依頼人に回すので心配なく」
自分の分もあるます。これで水辺の生物、一夫一婦の海狸(ビーバー)に。
「間違ってませんよね?」
漢字はな。
「なるほど、分かった」
分かったんかい。
こくりと受け取ってお着替え。
一方で、深森 木葉(
jb1711)も衣装について頭を悩ませる。
「水棲生物のフリですか〜。何がいいかな…」
水族館…水辺…海…ウミ……。
豆電球ぴこーん。
「ウミネコとか、聞いたことあります。海に住む猫でしょうか。こんな感じ?」
言うが早いか、木葉は更衣室に入ってごそごそ。
出てきたその姿は猫の着ぐるみ、ねこのは。これで岩場エリアでぴちゃぴちゃ水遊びをすれば、立派なウミネコノハに!
誰か木葉ちゃんに図鑑を早く。
珍種達がスタンバイしていく中、シエル・ウェスト(
jb6351)もムフー顔で黙々と思案。
水棲、呼吸、水中、陸上、両生類……。
やがて彼女は1つの結論を導き出し、人知れずどこかへと消えた――
俺は!
イルカになる!!
意気揚々とプールエリアへ現れたのはミハイル・エッカート(
jb0544)。
件のイルカの様子を確かめるべく『STAFF ONLY』と書かれたドアを開けると、口を半開きにしてプールサイドに横たわるイルカが居た。
胸びれでお腹をぽりぽり掻きつつ、体が乾いてきたので、ずり落ちるようにプールにぽちゃり。ふと、いつの間にか水生していたシエルそっくりの怪草――シエりじを(蓮型)――を見つけてむしゃむしゃ。
が、魚ではないと分かってぺっと吐き出すと、のっぺりと漂って再びプールサイドに打ち揚がる。
「なるほどやる気の無さMAXだぜ」
聞いていた通り。
きっとコイツは友達が欲しいに違いない。寂しくてやるせない気持ちなんだ。俺が何とかしてやろう。
するとそこへ黄昏ひりょ(
jb3452)がやってきて、
「トレーナー役なら任せてください」
力を合わせ、ショーを見事に盛り上げてみせる。
2人の撃退士はぐっと親指を立てて頷き合った。
その頃、別の飼育プールでは夜桜 奏音(
jc0588)がアシカの様子を見ていた。
オウッオウッと1人でボール遊びしているその姿は、遠巻きに観察している分には可愛らしいものだったが……
「なにやら珍妙なことになる気しかしません」
だがしかし、夜に催される盆踊りイベントを楽しく迎える為にも、ここは何とかして場を繋がねば。
ショーを成功させるべく、奏音はトレーナー役を引き受けた。
「何とかなりそうだな」
満足気に頷きながら、館内を歩いていた京埜。
そんな彼を突然後ろから襲う謎の人影。トゲの付いた鈍器のような物で後頭部を一撃。
そのまま気を失った京埜の足を掴み、大型水槽のほうへズルズルと引きずって行った――……
●開館
お客さんを最初に出迎えたのは、タコだった。
『みんな〜、元気オク〜?』
水族館の(非)公認マスコットのオクトちゃん。
中身はマグノリア=アンヴァー(
jc0740)。愛らしくデフォルメされたタコの着ぐるみに魔女帽子とステッキを持たせ、8本足をわさわさ揺らしながら手(?)を振る。
「なんだこいつー?」
「タコなのに魔女っ子だぜー?」
「墨の代わりに魔法吐いてみろよー!」
ようちえんじが あらわれた!
わさわさしているオクトちゃんを取り囲み、野次を飛ばしながらドカドカと足や腹を殴打。
パンチやキックがめり込んでメキョォ!と歪みながらも、オクトちゃんはお客様第一精神で必死に愛嬌を振り撒き続ける。
「夜には盆踊りイベントもありますよぉ!」
そこへ助け舟を出すように現れるもう1人の案内役、エル・ジェフェ・ベック(
jc1398)。
接客とかメンドイねぇ…などと内心でこぼしつつ、海色鮮やかな青の半被を纏って元気にガイドを務める辺り、存外お人好しなのかもしれない。
そんな光景を一般客に混じって眺めていたエリス。
砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)から「お客でおいで?」と誘われたキャシー達と一緒に、館内を見て回る事に。
「いや〜久々に神と遊べるな〜♪」
すると、ゼロ=シュバイツァー(
jb7501)に遭遇。
「ゼロもスタッフのヘルプ?」
「まあな。働き者やろ?」
まあ働くんは俺やないけどな、と付け足しながらMSを探してきょろきょろ。
なにせ“水”族館である。“水”音MSがその辺に浮いてるはず。いや、もしかしたら水槽の水そのものかもしれない。そう思って周囲を見回していると、1人佇んでいるΩ(
jb8535)を発見。
何やらじっとエリスのほうを見ているようだった。
「なんやオ嬢、えーちゃんと会うんは初めてか」
Ωはこくりと頷き、
「……(我の)妻(嫁)」
「妻!?」
飛躍。
どうしてそうなった。
どうやらまだ歳の近い同性の友達が居ない彼女は、エリスの事が気になるらしい。が、名前が分からなかったので、以前耳にした「俺の嫁」という呼称文化に倣ったらこうなった。
ともあれエリスからしても、交友が広がるのはとても嬉しい。
「初めまして、エリスよ。よろしくね」
「…我の名、Ω。よろしく…」
握手。
そのまま仲良く手を繋ぎ、Ωが男前を発揮してエリスをエスコート。
ゼロも保護者のような体で2人について回りながら引き続きMSを探していると、悠々と泳いでいる1匹のホホジロザメを発見。
「え? サメがおんのか…(身の危険」
今までMSを弄ろうとしてサメの餌食になること多々。
いやしかし焦ることは無い。今日のヤツは檻の中の獣も同然。水槽越しなど恐るるに足らず。
「悔しかったら肺呼吸してみい」
コンコンとガラスを叩いて余裕ぶっていると、
「あら〜、サメに興味があるの〜?」
背後にミコトが立っていた。
「ちょっと待ってて〜。もっと近くで見られるようにしてあげるわ〜」
返事も待たずに、金髪メイドはどこかへ歩いていく。
「……まあええか」
気を取り直し、MS探しを再会して辿り着いたのはペンギンの飼育プール。臨時スタッフ権限で、裏口から堂々と入室。
しかしそこでもMSは見当たらず。じゃあ召喚やなせやな。
ゼロは隅に置かれていた酸素ボンベをテキトーに引っ掴み、祈祷すること数分。
ゴトリ、とボンベが揺れた気がした。
「お、成功か?」
『……』
と思ったが、無音。
首を傾げつつ、試しにマウスピースを咥えて吸ってみる。すると、
『(シュコー)私だ(フー)』
まるで意思疎通スキルのように、酸素と一緒にMSの声が脳裏に響いた。
「え!? 水族館の面白い話を水音神がしてくれるって?」
『(シュコー)言ってないよ? 言ってないよ?!(フー)』
「じゃあイルカショーの前座でお願いします!! もちろん撮影してネットで全世界中継ですよね(サムズアップ」
『(シュコー)おいぃ、MSの話はちゃんと聞k(プツッ』
酸素切れ。
「燃費悪いな」
言いながら、今度はボンベではなくビニールボールに憑依させるゼロ。だがその直後、よそ者に気づいたペンギン達がプールからぞろぞろと上がってきた。
3人+ボールを取り囲み、メンチを切って威嚇。
「な、なんか荒ぶってるわね……」
「…想定の範囲内」
そう答えたのはΩ。
「…ご飯抜きだけじゃ、ダメそう」
傍若無人な飛べない鳥達をじーっと見下ろしながら、躾のメニューを考える。
時には叩いて分からせるのも大事。根本的な部分から身体に教え込むべきか。
とりあえず見せしめにMSで実験しようねせやね。
ΩはMSが憑依中のボール(とそれを持っているゼロ)をワイヤーでハムのように縛って、プールに投擲。
MS(とゼロ)が海水に浸ったところで、サンダーブレードを優しく添える。
スパークしてパァン!と破裂するMSボール。動かなくなるカラス。
まさに慈悲も無し。
するとそこへ、いつの間にか開けられていた水中の仕切り扉をくぐって何かの魚影が近づいてきて――
ザバァ!
ホホジロザメ。
バシャバシャぶくりと飛沫が上がり、やがて静かになった水面には、ビニールの切れ端とゼロの上着だけがゆらゆらと漂っていた。
おい誰だよペンギンのプールにサメ放した奴。…あ、ミコトか。
「…想定の範囲内」
「え、えぐい……」
夢の世界へと旅立ったカラスとMSを放置して、Ωはエリスの手を引きすたすた退室。何事も無かったように、オクトちゃんとエルが引率している集団客に合流した。
そうしてやって来たのはマンボウの水槽。
そこで待っていたのは、マンボウ専属飼育員?の玉置 雪子(
jb8344)。
「マンボウは天国に一番近い生物と言われてるんですわ? お?」
雪子おねえさんのマンボウ講座。
ある時は水が冷たくて。
ある時は食べたイワシの骨やエビの殻が喉に引っかかって。
はたまた、泡が目に入ったストレスで、カメラのフラッシュで、餌のダイオウイカに返り討ちされてetc.
マンボウとは突然の死。
突然の死とはマンボウ。
「(天国に)飛ばねぇマンボウはただのマンボウだ」
直後、子供の1人が疑問を口にする。
「じゃあこのマンボウさんは、ほんものじゃないのー?」
「そこに気づくとはやはり天才ですね。これは雪子がエリート飼育員としての腕を見せるしかないンゴねぇ」
ンゴとか言っちゃってるけど大丈夫?
「明日またここに来てください。本物のマンボウをお見せしますよ」
ですがその為には、運営資金が足りません。
「というわけでユキコ募金にご協力をお願いするんですわ? お?」
段ボールで作った募金箱を胸元に抱える、エリート飼育員。
皆さんの愛が雪子を救います。
瞬間、オクトちゃんが口から墨汁びしゃー。
「さぁさぁ皆さん、次の水槽へ!」
真っ黒になった雪子に背を向け、一同はエルに案内されてぞろぞろと奥へ進んでいく。
一際大きな水槽の前で足を止めて振り返るエル。
「このサメちゃんは今日限りで旅に出ちゃいます、皆さん今日しかこのサメは見られませんよぉ!」
が、一同が目を向けた水槽の中には、何も居なかった。
開館前は確かに居たはずのサメが居ない。
おかしいなと首を傾げながらしばらく待っていると、漸く(ペンギンプールから戻ってきた)サメが登場。しかし――
サメの歯にヒトの物と思しきの服の切れ端が。
これはまずい。飼育事故的な意味で。
「ちょっとサメちゃんの調子が悪いみたいですねぇ!」
『他の魚さんを見に行くオクー!』
咄嗟に水槽の前に割り込んでサメを隠すエル&オクトちゃん。
いそいそと誘導した先は、同じく大型水槽。
中には、手足の生えたカツオが水面で横たわるようにぷかりと浮いていた。
「…はっ」
目を覚ますカツオ(の衣装を着せられた京埜)。
誰かに後ろから殴られて、気がついたら水槽に。
「これはどうした事か」
ぷかぷかと漂いながらカツオ頭を捻っていると、水槽の奥からすぅっと三角の背ビレが1つ現れる。シャチだ。
ザブザブと水を掻き分けて迫る巨大なシャチ。これはいかんとバタフライで逃げるカツオ。
壮絶な水中鬼ごっこ。
だが次の瞬間、追い着かれたカツオがとうとうシャチに食べられてしまう。
ばりばり。
飼育事故@現在進行中。
『これは演出オクー!』
「事故じゃありませんよぉ!」
事故じゃないけど別の水槽へ行きましょうそうしましょう。
すると案内役2人の目に、サメとシャチの事故風景を鼻で笑う…もとい吻で笑うように回遊するカジキの水槽が映る。
中身はシエル。
時折水面から顔を出してパクパクと肺呼吸しつつゆったりと漂っていたカジキシエルは、お客さんが集まってきたのを見てシャカリキに尾びれを振って全力スプリント。
『カジキさんはギネスに載るくらい泳ぐのが速いオク〜』
カジキ補正で時速100kmをマークしながら水槽内を泳ぎ回る。
だがそんなカジキシエルも流石に疲れてきたのか、ちょっと休憩する事に。
中のヒトなど居ない。着ぐるみだと悟られぬよう、遁甲の術で潜行してからこっそり陸に揚がる。
そのままゆっくりカジキを脱ぎ……
出てきたのは宇宙人グレイ。
カジキの着ぐるみをアイロン掛けして丁寧に畳んだ後、のたのたと透過で壁の中へと消えていく銀色のUMA。
休憩入りまーす。
「……」
だがここに、偶然それを見てしまったチビっ子が1人。手にアイスを持ったまま、ポカンと口を開けてグレイが消えた壁を見上げる。
ふと、その壁に何か張り紙のようなものが。
『宇宙人グレイは両生類という説が有力』
つまり水族館にグレイが居ても何もおかしくはない。わけないよね。
水族館には不思議がいっぱいです(ステマ
次の水槽はビーバーハウス……であるのだが、そこには本当にハウスが建っていた。
干し草や小枝が敷いてあるような申しわけ程度の巣ではなく、釘を使わずに木材だけを上手く組み合わせ、明るさ確保用の天窓まで取り付けた見事な仮設住宅がプールの横に聳えている。
中に居るのはビーバー(と言い張る狸)に扮した和紗とリーゼ。
スタッフルームから拾ってきたオセロをしたり、ごりごりと石臼を回したり、グラスを磨いたり、ケセランをもふったり。
だがそれらは 全 く 見 え ず 。
ガラス越しのお客さんの目からは、ただプールと小屋があるのみ。
ひたすらビーバーハウスに引き籠ってごろごろ。
ふと、そんなご主人様に代わって2匹のケセランが出てきた。どうやら空調の温度変更を頼まれたらしい。
すいーっと宙空をゆっくり進む。
が、スイッチの前まで辿り着いたところで、何をしに来たのか忘れて静止。やがて浮かんでいるのも疲れたのか、ころんと床に転がる。
空調の風に煽られてふわふわと転がり、プールにぽちゃん。
白い毛玉が2つ、波に揺られてぷかぷかと漂っていた。
『癒されるオク〜』
「流石ビーバーちゃん!」
フォローしつつ次の水槽へ。
岩場のあるプールで遊んでいたのは、白くま。
もちろん着ぐるみだが、その作りはもはや本物の白くまそのものだった。
持参したその渾身の改造キグルミに着ているのは、Rehni Nam(
ja5283)。
(今日の私は、超リアル白クマーレフ!)
口の奥には防水加工の鳴き声レコーダーを搭載。更に背中の辺りにはエアタンクを入れるスペースもあり、本人の水泳技能も合わさって長時間の潜水にも対応可能だ。
というわけで、
(「=ω=)「がおー
ガラスの向こうのお客さんにあっぴる。ごろんと寝転がったり、水に潜ってスイーしつつ、肉球でガラスをぺったんぺったん叩いてみたり。
そこへ正規飼育員のおねえさんがやって来て、(急遽近くの漁場から買ってきた)生きている小魚をプールに放流。
白クマーレフは、くまぱんちで水面を掬い上げ、
ヽ(=ω=)ノとったどー
が、すぐにリリース。
「私、白くまって初めて見た…!」
興奮気味にガラスに顔を近づけるエリス。リアルすぎてレフニーだと気づかず。
しかし向こうはエリスに気づいたようで、ガラス越しにドアップでエリスに鼻を近づけてすんすん。徐にプールから上がり、ぶるぶると水気を飛ばした後、なんとドアを開けて脱走してしまった。
しかもドアが閉まる寸前、隙間からグレイ的なナニカが覗いていた気がする。
「あ、あれ? いいのかしら?」
「…銀色が、いた……」
エリスとΩが案内役の2人に尋ねようと振り返――
――こつん。
不意にエリスの足に何かが当たった。
下を向くと、そこに居たのは巨大な亀。
「おっとぉ! これはオサガメです!」
すかさずエルが解説。
のたのたと動き回り、エリスの周囲をぐるぐるするオサガメ。かと思えば急に立ち止まり、まるでチワワのようなつぶらな瞳でじっとエリスを見つめてプルプル。
『産卵オク〜?』
直後、オサガメはどこからともなく子亀の着ぐるみを取り出してエリスに差し出す。
「着ればいいの?」
こくこく。
人前でちょっと恥ずかしい気もしたが、せっかくだからとゴスロリ服の上から着ぐるみを被る。
するとオサガメの口がぱかっと開いて、中からディザイア・シーカー(
jb5989)がひょっこり顔を出した。
「よし背中に乗るんだお嬢!」
「えっ? えっ?」
言うが早いか、甲羅の上に子亀エリスを乗せる親亀ディザイア。
「このまま館内徘徊するかぁ(ものすごい幸せそう」
「…我も、ついてく」
「おう、どんとこいだ」
浦島太郎的なポジションでΩも背に乗せると、周囲のお客さんが物珍しそうに集まってくる。
親亀ディザイアは大地の恵みを使ってにょきにょきと頭にナツメを生やし、近くに来たお客さんへプレゼント。
「数量限定の健康祈願だぜ」
だがその時、一同の前に水槽から脱走した白くまが現れた。
(「=ω=)「がおー
捕獲される子亀エリス。
でも大丈夫。この白くまはすぐにリリースしてくれr――
そのまま巣までお持ち帰り。
――rなかった。
「なんで!?」
「やらせるわけにはいかん!」
親亀が、プールへ戻ろうとする白くまの前に立ちはだかる。いや、這いはだかる。
ダイヤモンドダストで吹雪を起こし、卵(※氷結晶です)をぽろぽろ産み落としながら不動でその場に踏みとどまr
ぶぎゅる。
のしのしと親亀を踏んづけて通り過ぎる白くま。
踏みとどまったけど、踏まれたらどうしようもないね。
白くまと子亀を追いかける、親亀とΩ。
エル&オクトちゃんは、気にせず次の水槽へ行く事にした。
ウミネコの写真と紹介文が置かれたエリア。
だが中に居たのはウミネコノハ。
ガラス越しに相手を見ているのは、何もお客さんだけでは無い。魚や動物達の側もまた、ガラスの向こうに立つお客さんを見ているのだ。
「ウミネコ…?」と首を傾げながら足を止めるお客さん達の中には、仲良く楽しげな親子連れも居て。水辺でちゃぷちゃぷと水遊びをしていたウミネコノハは、その様子をうらやましげに見つめ返す。
(あたしもお父さん、お母さんと一緒に水族館、行きたかったなぁ…)
見知らぬ家族に、今は亡き両親の姿を重ねる。
「みゅ……」
寂しそうな鳴き声がした。
次のエリアでは、水槽の前にオペ子が立っていた。
「よくぞ来たです。ここでは人魚の水中ショーをやってます」
そう言って手に持ったポップコーンをぽりぽりしながら、スイッチぽちっとな。
水槽に仕込まれた照明が幾重にも光り輝くと、2人の人魚が優雅に水の中へと飛び込んで登場。
衣装を着た、獅堂 遥(
ja0190)とユウ。
互いの位置を入れ替えながら、踊るように水中を泳ぐ人魚姫達。
やがてライトの色が一転。幻想的な揺らめきから、明るく活発なものへと変わる。2人の人魚は水槽の上へと姿を消し、代わりに2匹の可愛らしい動物が水の中へ。
愛くるしいペンギン姿の鳳 蒼姫(
ja3762)と、ラッコ姿の鳳 静矢(
ja3856)。
気のせいか、頭身も縮んでいる。
『キュゥ!』
水中でシズらっこが一鳴きして、ダンススタート。
軽快なリズムに乗って、仲良くほよほよと踊るアキぺんぺんとシズらっこ。全国のあにまる好きが鼻血を噴く事うけあい。
照明の切り替えに応じて組み合わせを変え、時には艶やかに、時にはキュートに。
『気持ちいいのです☆』
『キュゥ!』
見るものを飽きさせる事無く水中を舞う水辺の妖精達――
その舞台裏では。
照明が変わり、泳いでいた遥とユウはお客さん側からは見えないプールサイドへと上がる。大きく息を吸って酸素補給。
その間に、アキぺんぺんとシズらっこがアクアダンス。
またまた照明が変わり、今度はあにまる組が呼吸タイム。ざばぁっと水面から飛び出して、ぜぇぜぇと肩で息をしながら酸素缶スーハー。
交代。深呼吸。
交代。スーハースーハー。
かなりの重労働である。
――後半からは4人全員で踊って、ぺこりとお辞儀。
照明が消え、ショーは無事終了。
暗転して真っ暗になる寸前、水槽の隅っこに銀色のひょろっとした人型のようなモノが映った気がするが、たぶん見間違いだろう。
水族館のアイドル――アシカ、イルカ、ペンギン――によるショーの時間となり、屋外プールへと集まるお客さん達。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今からアシカちゃんのキュートなショーが始まります!」
『応援してあげてほしいオク〜』
司会のエルお兄さんとオクトちゃんが盛り上げる中、トレーナーの奏音お姉さんとアシカが登場。
奏音がぺこりとお辞儀をすると、見よう見まねでアシカもぺこり。手を振ってみれば、アシカもぶんぶん。
なんだ、従順な良い子ではないか。
奏音は舞台に置かれていた小さなゴムボールを取って、アシカへパス。緩い放物線を描いて投げ渡されたボールに、アシカは身をよじって尻尾を持ち上げ――
ドバシィ!!
チュンッ ドゴォ!
剛速球で打ち返されたボールが奏音の黒髪を掠め、ステージ後方の壁にヒビを入れてめり込む。
「ふふ、そうですか。やる気なんですね。分かりました」
ゴゴゴ、と文字を背負いながら笑顔で奏音が手にしたのは鉄扇(V兵器)。
新しいゴムボールを拾い、アシカにパス。瞬間、音速で跳ね返ってくるボール。
明らかに眉間を狙って戻ってきた一球を奏音は予測回避でヒラリと躱しつつ、すれ違い様に鉄扇で舞うように打ち返す。全力で。
まるで砲丸でも撃ち合っているかのような剛撃の応酬。
するとアシカは唐突に向きを変え、客席のほうへとバッティング。
すかさず捻りを加えた側転宙返りで射線に割り込む奏音。返球。
対してアシカは返って来たボールをスルーして、徐に大きいほうのボールを両手で挟んで持ち上げる。自らの頭上にぽーんと放り上げたそれを、客席目掛けて尻尾でホームラン。
この高さでは奏音は届くまい。
と思いきや、奏音は春一番でボールの勢いを削ぎつつアイスウィップで絡め取って、ステージへ叩きつけるように見事に投げ返してみせた。
なにこれ戦闘シナリオ?
拍手喝采の中、エルおにいさんから小話が1つ。
「海鮮は、怪鳥音で有名なあの中国の武道家も尊敬していました。彼は海鮮道(シーフード)をもとに、自身の武術を編み出したんです!」
出所の極めて怪しい情報を語りながら、「ホアチャア!」とハイキック。
瞬間、アシカにハイキックされて高々と打ち上がるエル。
「足癖の悪いアシカですね、お仕置きしてあげましょう」
奏音が鉄扇ジャキーン。
と、そこへ1匹のラッコが仲裁に現れる。
シズらっこ。
キュゥキュゥ鳴きながら、持っていたペン型の魔具で空中に文字を描く。
『私が相手だ。さぁ投げて来いアシカ君!』
挑発。
仲裁じゃなかった。
「では行きますよ」
応じたのは奏音。
ラッコ狼狽。
『え、いやどうか少し待ってほしい。私はあくまでもアシカ君のほうを挑発したのであって、決してトレーナーさんにケンカを売ったわけではなくてだね――』
とかなんとか一所懸命文字を書いている間に、ボールやらエルやらオクトちゃんやらグレイやらがぽいぽい飛んできて直撃ぐしゃあ。
『つ、次はイルカショー、オク〜……』
ぱたり。
トレーナーのひりょおにいさんが手を振りながら登場。
ホイッスルを咥えて一吹きすると、水中からザバァとイルカがジャンプ――
しなかった。
代わりに飛び出して来たのはミハイル。頭はイルカの被り物、体は潜水器具フル装備。
本物のイルカはと言えば、プールサイドの端に打ち揚げられていた。
ひりょが笛を吹き鳴らすも、微動だにしないイルカ。
ミハイルカはザブザブと平泳ぎで近づき、
『ヘイ! カモーン! 俺と水中デートしないか?』
というジェスチャー。
更に、
『俺のナイスな泳ぎでイルカの優雅なダンスを見せてやるぜ』
と、1人シンクロナイズを始める。
しかしイルカは無視。
「ははっ。イルカ君、照れてるのかな?」
笑って誤魔化しながら、ひりょがイルカをさりげなく転がしてプールに落とす。
すかさずミハイルカが友達汁を染み出させながら、「よしよし、よく来た」と手を伸ばす。が、それに噛み付くイルカ。かなり痛い。
それでもミハイルカは、じわりと滲みかけた赤いものを増量した友達汁で濁しつつ、笑顔を崩さない。
『ハハハ、こいつぅ♪(なでなで』
噛むのに疲れたのか汁の効果か、イルカは再び大人しくなってプカーっと水面で横たわる。
だがこのままではショーが立ち行かない。
やはりイルカショーといえば、イルカに跨って一緒に泳ぐあのワンシーン。
まずは試しに、イルカと友達になれた(はずの)ミハイルカが乗ってみる事に。
ひりょが笛を吹き、ミハイルカは横向きのイルカを回して真っ直ぐに。そのままバナナボートのように静止しているイルカの背に跨…れた!
客席から健闘を称えるかのような拍手が巻き起こる。
ひりょおにいさんの投げたご褒美の生魚が、ミハイルカとグレイの顔にべちり。
おう、いっぱい食え。
そして2匹?のイルカを見ている内に、ひりょは自分も乗ってみたくなってうずうず。
トレーナーだし良いよねとプールに入って、イルカ…ではなくミハイルカに乗って華麗にザブザブ。徐々にテンションが上がっていき――
「ヒャッハー! 俺が…イルカだ! 誰も俺の前は泳がせねぇぇっ」
何故か自力で泳ぎ始めた。
負けじと追いかけるように、ミハイルカは背負っていた水中ブースターON。ボヒュッと加速。しかし思いのほか速度が出すぎてひりょイルカにぶつかり、それでも止まらず2人揃ってプールの壁に突き刺さる。
浮かんでこない2人の代わりに、プカーっと水面を漂うイルカ。
『イルカ君、それで良いのかぁ!』
突然、空中に文字が。
シズらっこがプールに飛び込み、イルカの周囲でバッシャンバッシャン――
ガブッ。
頭を齧られて、シズらっこはぶくぶくと沈んでいった。
Ωの見せしめ…もとい調教だけでは足りなかったようで、未だ荒ぶるペンギン達。
しかも1匹増えていた。
「れっつ荒ぶりぃ☆」
アキぺんぺん。
本物のペンギンに混じってステージを占拠。
その時、もう1体の荒ぶる獣が現れる。
『あたしは貝になりた、いや、具になり、いや、ゴジ●になりたい…!』
黒い怪獣の衣装に身を包んだ、歌音 テンペスト(
jb5186)。
『有名な水生生物と言えばやはりゴ●ラだろう。水陸両用な気もするが、何、ペンギンのようなものだ』
身長50mのペンギンはいねえよ。
とは言え今は着ぐるみなので、大きさは人間大。
だがその完成度は極めて高し。
口の中にヒリュウを仕込んで、ブレスやハイブラストで熱線の再現も抜かり無し。
誰もこれが発泡スチロールで出来ているとは夢にも思うまい…!
思い起こせば過去2年、夏が来る度にゴジ●に踏まれて重体となってきた。その経験を活かし、重厚な動き、滾る戦闘力、圧倒的な恐怖感を観客に伝えたい。
そしてそんな自分を差し置いて、ペンギンなどという小粒な生物(身長的な意味で)が幅を利かせているとはけしからん。一喝してシメてやらなくては。
『あたしが必要以上に動くと、版権的に色々面倒な事になるぞ!』
と、吼えようとしたまさにその時。
ステージの袖から黒服を来たコワイおにいさん達が出て来て、ゴ●ラに電気銃発射。引っくり返ってびくんびくんしている怪獣を担ぎ上げ、早々に退場していった。
後でモザイク入れとくんで勘弁してください。
一方ステージの端では、荒ぶってないペンギンが1匹。
「……」
ぽってりしたペンギンの着ぐるみ姿で、ぼーーーーっと虚空を見上げてプールの縁に佇むラファル A ユーティライネン(
jb4620)。
普段は発破好きな豪快ラファルさん。今日も初めはペンギンと共に愉快(意味深)なショーを繰り広げようかと思っていたが、なにせ先の大規模作戦では重体級の負傷である。着ぐるみの中は実際包帯だらけ。
体とかめっちゃだるいし。
ていうかめっちゃ痛いし。
でもペンギン帽子がトレードマークのラファルさんとしては、ペンギンと聞いちゃあ捨て置けねえ。
故に直立。
故に無言。
リアル皇帝ペンギンよろしく、ひたすらズボラにぼーーーーっと過ごす事にした。
ふと、ステージを走り回っていたペンギンの1匹が、コーナーを曲がりきれずに彼女の背中に衝突。どんっと突き飛ばされてプールに落ちるラファルさん。
それでも動じる事無く、直立姿勢のまま空を見上げてぷかー。
対して、ペンギン達の暴挙を見かねたのは遥。
ステージ後方の大型モニターにとある映像を映し出す。
題して、『ペンギンにもわかりやすく』。
大海原を泳ぐ野性のペンギン。
そこへシャチが現れてスプラッタ。
だがそんなシャチをも調教して操る人間達。
つまり人間が上。人間がトップ。
教育チャンネルばりのショッキングな映像を見て、ペンギン達の脳裏にΩの見せしめがフラッシュバックしてガクブル。
ついでにアキぺんぺんもガクブル。が、すぐに自分の本職は人間である事を思い出し、1人立ち上がってペンギン達に対して上から目線でフッフー! 水族館の頂点に君臨すべく、スキルを乱舞して暴れ出す。
「どーん、はい、どーん」
だがその時、突然アキぺんぺんのものではない破壊光線が飛んできて、直撃を受けたエル&オクトちゃんとグレイが炎上。
そこに立っていたのはゴジ●。
戻ってきた。
危険を察知してプールに飛び込むペンギン達。
仰向けのままぶくぶくと沈んでいくラファルさん。
直後、アキぺんぺんが怪獣に対抗して掌にアウルを集め――
爆 発 !
アキぺんぺんと怪獣、そして逃げ遅れたエル&オクトちゃんとグレイが弾け飛ぶ。
爆炎が収まった後。
ちゃぷちゃぷ揺れる水面に仰向けのラファルさんだけが、ぷかーっと浮かび上がってきた。おなかぽりぽり。
爆散した第1会場から移動して、第2会場の特設ステージ。
プール脇のステージには氷が敷き詰められ、新種のペンギン達によるショーが始まる。
「ぴぃ!」
トップバッターは倭国のクイーンペンギン、川澄文歌(
jb7507)。
コウテイやキングがいるならクイーンもいるはずと、堂々の入場。
続いて出てきたのはネコペンギンの水無瀬 快晴(
jb0745)。
闇夜に溶け込み、不意に現れては「にゃっぴょ」と鳴いて去っていく。
夜行性かな?
最後は獅子蓮牙にペンギン風の迷彩を施した支倉 英蓮(
jb7524)。その名もガオレンギン! 鳥頭になってオバカ2割増し! やべえ!
『ひゃっふ〜!』
満員御礼の客席を見てテンション↑↑なガオレンギンが、腹スケートで滑走。が、下に向けた鋭利な足爪が氷をガリガリ。積み重なった削り節で巨大な氷山が聳え立つ。
頂上に飛び乗って更に腹スケート。すると今度は、崩れた山が“だまし絵”のような無限滑り台の形となってアイスアトラクションに。
夢中で滑り続けるガオレンギン。
一方、舞い散った氷吹雪をキラキラと浴びながらペンギンステップで踊っていた、クイーンペンギンとネコペンギン。
踏み固めた氷はいつの間にやらアイドルステージのお立ち台と化していた。
勢いに任せてペンギンライブスタート。
ネコペンギンがClavier P1で曲を奏で、 クイーンペンギンがマイマイクを持って客席に歌を届ける。
『ぴぴぴぃぴぃぴぃぴぴぃぴぃ〜♪ きゅぅきゅきゅぅきゅぅきゅきゅぅ〜♪』
歌詞が全部『ぴぃ』か『きゅぅ』。何を言っているのかさっぱりだったが、リズムは実に軽やかだ。
後ろではネコペンギンがガオレンギンに紛れて無限滑り台をスイーしていたり、バックダンスを刻んでみたり。だがその間も決して演奏の手は止めない。器用だな。
そんな愉快なライブに誘われて、第1会場のプールに沈んでいたシズらっこが目を覚ます。
大急ぎで駆けつけて楽器を手にし、ネコペンギンと並んでセッション。
『にゃっぴょ!』
『キュゥッ!』
滑り台に飽きたガオレンギンも無限空間から抜け出して、欲望の赴くままバックダンサーに。
ムーンウォークで輪に加わり、くるりと回ってビシッとポーズ。
『ポゥ!!』
そしてそのままムーンウォークで去っていく。
まじフリーダム。
最後は全員で大きくジャンプして、ダンッ!と地面を踏んで演奏ピタリ。
氷が崩壊。
グレイが下敷き。
アイスライブは、大歓声のまま幕を閉じた。
●午後の部
トレーナー役を引き受けて、ペンギンの飼育プールを訪れるジェンティアン。
中に入ると、ぼーっと立ち尽くしているラファルペンギンの後姿が。対して本物のペンギン達は、ジェンティアンの姿を見るなりてちてちと集まってくる。
丁度ガラス越しにキャシー達の姿を見つけたジェンティアンは、餌やりショーをする事に。パフォーマンスらしくダンスで軽やかに振る舞いながら、バケツの生魚に手を伸ばす。
するとペンギン達は、彼をじーっと見上げ……
ヒエラルキー計測。
遥、Ω>人間、天魔>シャチ>ペンギン>>>>ジェンティアン。
一斉に飛び掛かる。
「――って、僕は餌じゃない!」
啄み。
すごい痛い。
慌ててバケツから生魚を掴み出すも、
「ほら、こっちだy痛い痛っ!(手がぶがぶ」
思わずバケツを落として生魚ばっしゃーん。ひゃっはー!と好き勝手に拾って食い漁るペンギンとグレイ。
まるで追い剥ぎにでも遭ったかのような気分になりつつも、ジェンティアンはお客さんに向けて必死に笑顔を保ち続けた。
ごはんの後は、腹ごなしの館内散歩。
「ペンギンの散歩行列って可愛いよね……啄まれてさえなければ」
後ろから、執拗にふくらはぎを狙ってくるペンギン達。
ツンツンガブガブ。
だがこんな事もあろうかと、予め長靴の中に丸めた雑誌を仕込んでおいた。ペンギン敗れたり。
「ちょっとぉ、ジェンちゃんモテモテぇじゃないのぉ〜! 私、妬いちゃうぅ〜!(鯨ボイス」
ペンギン達と一緒に後ろをついてくるオカマの群れ。
そうこうしていると、ビーバーエリアの前に到着。和紗達の様子が気になってガラスを覗き込むも……
居ない。
いや、小屋の入口から僅かに尻尾がはみ出ていた。
「ちょっと和紗! 何ぐーたらしてるの!」
ガラスばんばん。
すると、だるーっとした様子でごろんごろんと寝返りをうちながら出てくる狸…いやビーバー和紗。
起き上がるのも面倒だと、寝転がったままフリップに文字を書いて掲げる。
『夜行性なので』
「ちゃんとお仕事しなきゃダメでしょ!?」
ガラスばんばんばん。
しつこく呼びかけていると、ビーバー和紗は徐に手鏡を取り出し、照明の光を反射させてジェンティアンの太腿辺りにチカチカ。
瞬間、雑誌でガードしてない太腿に大量のクチバシが群がる。
「ペンギンけしかけないでぇ!」
ヒエラルキーってこわい。
その頃、白くまエリアでは。
親亀の甲羅で、カンカンと貝を割る白くま。
取れた中身は子亀やΩにもお裾分け。
でもちょっと喉が渇いたので、皆でジュースを買いに行く事に。
当然のようにガチャリとドアを開けて館内のしのし――
シャチのお腹部分から顔を出して、尾ひれでぺったぺった二足歩行する凛。
ざわざわとしたお客さん達の目も気にせず、次の獲物を探して館内をうろうろ。すると、
「午前はひどい目に遭ったオク〜」
ベンチで休憩しているタコを発見。
目が合う。
「……」
「……」
ダッシュ。
わさわさと8本足ダッシュで逃げるオクトちゃんと、尾ひれダッシュで追いかけるシャチ。
その時、前方の曲がり角から白くまと親子亀とΩが出てくる。シャチはすれ違うついでに小亀(エリス)をばくっと咥えながら尚も爆走。
対して、子亀を取られたΩと親亀と白くまがスプリンターフォームで追走ドドド――
午後の部、特別ショー。
屋外プールに2匹の変t…水鳥が居た。
全身タイツで股間からアヒルを生やしたマイケルと、バレリーナドレスで股間から白鳥を生やしたケリー(仮称)。
「まさか君のほうから声を掛けてくれるとは」
「スター共演再びデスネー☆」
アヒルと白鳥がふわりと水の上へ躍り出る。
アウルの力で宙を飛び、水面を走り、まるで指先で鍵盤を奏でるように、優しく伸ばしたつま先でプールに優雅な波紋を広げていく。
「タウントで注目もバッチリデース☆」
更に、友達汁をきらきらと撒き散らしてビューティフォー。
白目を剥く観客。
「Oh! ビュリホー杉て、声も出ないようデース☆ 実にパーフェクトデース☆」
そろそろ誰か通報しそう。
そう思われた矢先――
どっかん!
ステージ側の壁をブチ破って、シャチ達が乱入してきた。
プールに飛び込んでクロールで逃げるタコ。
魚雷のようにざぶざぶ水を押し退けながら追うシャチ。
平泳ぎする親亀の上で波に乗るΩ。
すげぇ速い犬かき…いやクマかきの白くま。
それを見て飛び込んでくるミハイルカとひりょイルカ。ヒャッハー。
アヒルと白鳥を撥ね飛ばし、一団は午前中のショーでヒビが入っていたプールの壁に正面衝突。
亀裂から水が噴出し、そのまま完全に崩壊してザバー!
悲鳴と笑い声が入り混じる中、多数の生き物達とグレイが湾へと流れていった――……
●盆踊り
「最後に思いっきり騒ぎましょう」
奏音は浴衣に着替えて祭りに参加。傍らにはアシカも居る。
「祭りじゃあああ!!」
大声で走り回って、会場に活気を満たすエル。
そんな光景を背に、焼きそばを頬張りながらユウと会場を歩くオペ子。
「オペ子さん、今日は無理にお願いしてすみませんでした」
「美味しい屋台にありつけたのでオペ子は感謝でいっぱいです(もぐもぐ」
そこへゼロもやって来る。
「いやー、今日も九死に一生やったわ」
透過が無ければしんでいた。
そして透過が無くて無残な姿になったMS(ビニール)を不燃物入れにポイしながら、2人を誘う。
「なんか無性に海鮮丼食いに行きたくなったから行かへん?」
「水族館で海鮮丼とは物議を醸すチョイスです(もぐもぐ」
でもついていく。
カツオ姿のままたこ焼きを頬張り、会場を見て回る京埜。
(色んな意味で)どうなる事かと思ったが、無事に夜まで持たせる事が出来て良かった。
「どれ、もう一つ貰うとしよう」
言いながら新しいたこ焼きを買おうとしていると、
「あら…ご主人様。おかわりですか? たっぷりお召し上がりくださいませ」
白メイド姿に戻った凛がすっと現れ、熱々のたこ焼きを京埜の口にジュッと捻じ込む。
メイドスマイルで捻じ込む。
もっと捻じ込む。
ん? ちょっと待って、そのたこ焼きの具ってまさかオクトちゃん……
――櫓の下に、ひりょと歓談しながら盆踊りに興じているマグノリアの姿が。
よかった、違った。
互いに今日の事について話していると、つい夢中になりすぎて小石につまづくひりょ。転びはしなかったものの眼鏡が落ちてしまい、そこへ咄嗟に助け起こそうとしたマグノリアの足が出てきて――
メキャ
「俺の本体がぁぁっ」
カハァ、と吐血。
動かなくなるひりょ。
「あら!?」
マグノリアは慌てて眼鏡を抱きかかえ、
「誰か救急車を(汗」
眼鏡屋さん呼んだほうが良いんじゃないかな。
一方、会場の裏手では。
「脱いで下さい」
リーゼに壁ドンする和紗。
手をついたコンクリートの壁に亀裂ぴしぃ。
「持参の浴衣、脱がなければ着つけられません」
「なるほど」
浴衣を受け取ってこくり。でも着替えは更衣室でしようねせやね。
戻ってきた2人は、浴衣姿で櫓の前へ。
「踊りましょう」
エスコートしてリーゼの手を引く和紗。共に歩むと誓ったから。
男前だなぁ。
が、そこへジェンティアンが勢いよく割り込m――メキィ(和紗の肘が頬にめり込む音
「和紗ひどい!」
「竜胆兄が自分から突っ込んで来たのでしょう」
俺は何もしてないです、と。和紗はさっさとリーゼと踊りに行ってしまった。
しくしくしながら、1人寂しくたこ焼きを買ってベンチに座る。
その時、後ろで「もうすぐ花火も上がるんだってー」と誰かの話し声が聞こえて、「へぇ」と振り返るジェンティアン。そしてすぐに手元に視線を戻すと、
たこ焼きが空っぽ。
足元で何かをハフハフもぐもぐしているペンギン達。取られた。
「ジェンちゃんお待たぁ〜!」
そこへ浴衣姿のキャシー達が合流。
唯一の癒し。
オカマ達をエスコートしてジェンティアンも盆踊りの輪へ。
ふと思いついて、ファイヤーブレイクを活性化。
「ひとつ打ち上げてみよっか」
後で本物の花火もあるらしいが、せっかくだ。
シュパッと放って、夏の思い出に彩を。
すると、花火とあらば自分も負けてはいない、とアキぺんぺん登場。
櫓の上によじ登って大炸裂SHOWを発動し、
『たまやーなのですよぅ☆』
自爆。
その灯りを見上げながら、浴衣を着た文歌や快晴、そしてひたすらムーンウォークを続ける英蓮も盆踊りを楽しんだ。
薄暗い館内を1人見て回る木葉。
水槽には、搬入された本物の魚達が所狭しと泳いでいる。
その内の1つに顔を近づけ、
「お魚さん、いっぱいです〜。あのお魚さんは何かな? おおきいのですよ〜」
昼間見た子供達のように、隣にいる両親に語りかけるように振り向く。
だが、そこに立つ者は無く。
「……」
今にも泣き出しそうな表情で、木葉は静かに踵を返す。
「お祭り、行かないの?」
「!」
目の前に亀が居た。
子亀の姿で浴衣を着たエリス。その後ろには、親亀や白くま、Ωも居る。
あえて返事は聞かず。
子亀エリスはにぱっと笑って木葉の手を引き、浴衣を着た白くま達と一緒に盆踊りに加わった。
時を同じくして、花火が上がり始める。
「綺麗〜」
本物の花火やらアキぺんぺんやらが打ち上がっている夜空を眺めて、呟くエリス。
「…汝の方が、キレイ」
ぽつりと返すΩ。
「あ、ありがと……」
対するエリスも、思わず顔を赤くする。
それをニヨニヨと見守る白くまと、少し羨ましそうに見ている木葉。
4人が乗っているのは、親亀の背中。
空気を読み、ディザイアはひたすら重みに耐えてぷるぷるしていた。
●閉館後
静まり返ったペンギンの水槽で、ぼーと佇んだままのラファルさん。
そのうちだんだん人生について考え始めたり、ペンギンの生活もなんかいいじゃないかと思い始めたり。
こうして突っ立っているだけで飯も貰えるし。
「…生じゃなくて焼き魚にしてくれねーかな」
マンボウの飼育槽に近づく、セーラー服のシルエット――雪子――。
大量のイワシやエビをプールにどぼどぼ。ありとあらゆる氷系スキルをぶっぱして水温を下げ、水面を叩いて気泡を作り、トドメはスマホカメラでフラッシュぱしゃぱしゃ。
「これでただのマンボウも本物のマンボウになれるんですわ? お?」
フヒヒと笑う。
が、次の瞬間ガシッと肩を掴まれて振り返る。
リョウコが立っていt――……
翌朝。
出勤してきた正規飼育員が、うつ伏せでプールに浮いてる雪子を発見した。