「美味しいラーメンは何処ですか〜♪」
豪華客船の豪華ラーメンを求めて、一同の先頭をずんずん進む佐藤 としお(
ja2489)。
そのすぐ後ろでは、天険 突破(
jb0947)が素振り用の竹刀(V兵器)をぶんぶこ。
夏と言えば海、海と言えばスイカ割り。よし早く割ろうぜ。スイカ持ってないけど。
ラーメンとスイカ…じゃなかった、船員を探して船倉区画へと下り、分厚い水密扉を開ければ、しかしそこに居たのは巨大なタコ。
「謀ったなオペ子ちゃん!?」
「オペ子さんどこがバカンスですか騙しましたね…後で覚えていなさい…フフフ」
砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)が白目を剥いて叫び、夜桜 奏音(
jc0588)はユラ〜っと黒いオーラを立ち昇らせる。
「去年のパターンですね」
ジェンティアンのすぐ後ろで、樒 和紗(
jb6970)が言う。
確かあの時はヒトデだったか。
「2度も騙されて働くのは遠慮します」
「ヒトデも大変だったもんねー」
和紗の腕に抱きつきながら頷くマリス・レイ(
jb8465)。
「ちょっと待って!? ヒトデの時に働いたのって僕だけだよね!? 2人ともリーゼちゃんやエリスちゃんと遊んでたでしょ!」
「ちょっと何言ってるか分からないですね。日本語でお願いします」
「砂原君、もうお昼だよー? はやく起きないと」
「寝ぼけてないし、ちゃんとひらがなとカタカナと漢字だったよね!?」
などとやっている間に、バックがタコに攫われる。
そうだ見なかった事にしよう。
タコとバックなど知らぬと踵を返し、さっさと船倉を後にするバカンス強行派の面々。
だがその一方で、その場に留まる者も多数居た。
その内の1人…突破は、ざっと室内を見渡し状況確認。
タコは居るが、船員の姿は無し。
「ふむ、誰も居ないのか」
どうしたものか。
「別に、アレを倒してしまわなくても構わんのだろう?」
イケメンボイスで尋ねたのは玉置 雪子(
jb8344)。
触手にお手玉されているバックを他所にブツブツ。
だって正式に依頼を受けたワケじゃないんですよ? 倒せば報酬はでるでしょうけど戦うと決めてここに来たのではないので、むしろ雪子たちは被害者。
ろくに準備もできず、命の危機に遭ったのならこれはもう斡旋所の責任!
よって、倒すかどうかは別として、
「謝罪と賠償を要求するニダ」
わざとタコに殴られ(たフリをし)て、慰謝料を請求していくスタイル。
汚いなさすが雪子きたない。
しかしそんなきたない雪子とは対照的な者も居た。
「困りましたね」
深森 木葉(
jb1711)。
「とりあえず天魔ではなさそうです。自然のものならば無理に退治する必要もないでしょう」
とは言え、このまま放っておいて暴れられると、いずれは船が沈んでしまうかもしれない。実際タコが開けたと思しき穴で、既に少し浸水している。
必要なら自分が船倉の前で見張っていようかとも思ったが、
「おや、このタコって天魔じゃないんですか? それは貴重ですね、ぜひ戦ってみたい」
遊び心を擽られたエイルズレトラ マステリオ(
ja2224)。
興味本位でタコにけんかを売ろうとする。
「取り敢えず、退治した方が良いよな」
こちらは礼野 智美(
ja3600)。
荒事を推す訳では無いが、自分達と同じくバカンスを楽しみにしていた乗客も多いだろうし、放っておくと旅行会社の損害はどんどん増える。
「船倉の荷物だったのかもしれないけど、まぁそれについてはお客様に涙を呑んでもらうという事で…食材だったら良いけど、水族館のメインとかだと退治して文句言われるだろうけど」
その言葉に、隣に居た恋人の水屋 優多(
ja7279)も点頭。
「そうですね、レストランでは美味しい物食べたいですし。透過しない辺り、多分一般の海洋物だと思いますけど。排水の機能が何処にあるかわかりませんから、船内を壊さないように戦って下さいね」
苦笑しながら互いの手を取り『絆』を発動、戦闘モード。
タコはカップルへの生贄にされる事が決定いたしました。
それを見て、突破も方針把握。
スイカは無いがタコなら在る。
「タコ割りな、了解」
自分が今使える攻撃スキルは、発勁と飛燕。得物は竹刀。
どうせ調理の過程で肉をほぐす為に叩かなきゃいけないんだ、倒すときに叩いても同じだよな。
ヤる気満々。
対して、どこか釈然としない様子の逢見仙也(
jc1616)。
「騙された人の噂は聞いてたけどさ…武器持ってきたけどさ…」
「マジか! ちくしょう、俺、すっかり遊ぶことしか考えてなかったぜ」
ミハイル・エッカート(
jb0544)も慌てて自身の荷物を漁る。常夏仕様のカラフルなサングラス、真っ赤なハイビスカス柄のアロハシャツ、皆で乗っても大丈夫バナナボート。
これではバカンスしか倒せない。
「何か貸そうか?」
「いや、大丈夫だ心配ない」
そう言って彼はヒヒイロカネに入っていたとある装備を取り出して、がぽっと装着。
くまの着ぐるみと熊手。
休暇と言えば遊び、遊びと言えば熊。完璧なロジック!
『ふっ、お前は既にタコヤキだ』
くるりとタコに向き直って、忍法『魔笑』でニヒルなベアスマイル。
殺気(食欲)に満ちる船倉。
「落ち着いてください」
その時、木葉が前へ出た。無意味な殺生は好まない。
タコは知能の高い生物だ、きっと話せば分かってくれるはず。
「タコさん、海へお帰りなさい。この船はあなたの場所じゃないわ」
するとタコは、にゅるっとした顔でじーっと木葉を見つめ……
触手でひょいっと木葉を捕まえてしまった。
所詮タコだった。
こうなっては仕方が無い。
ラーメンさえあれば他に何もいらなかったとしおも、覚悟を決めて光纏どーん!
「もうしょうがねぇ割り切って蛸退治だ!」
としお達はうおおぉぉ!と鬨の声を上げ、怪獣のような巨大タコへと飛び掛かった――
●その頃
タコは放置して、各々自由にバカンスを楽しむ事にした組。
船の上層へと戻ってきたディザイア・シーカー(
jb5989)。
両肩には、浸水した床で濡れないようにと、麻生 白夜(
jc1134)とお嬢(エリス)を乗せていた。
「確かにただで乗船は出来たな(こくり」
タコもタダ乗りしていたが。
だが今のこの状況、これはむしろチャンスではあるまいか。船員が居ないなら、普段は入れないような区画にも行ける筈。
「お嬢は初乗船だったか…なら客の立場では見れねぇとこに探検に行こうぜ!」
船倉(タコ)は見たから他のとこな!
女子2人を肩に乗せたまま、ディザイアは子供のように無邪気できらきらした笑顔を浮かべる。
その光景を見て、「ぐぎぎ……」と唸るRehni Nam(
ja5283)。
エリスとバカンスをエンジョイしにやってきた筈が、そのエリスはいつの間にかディザイアの肩の上。
最近エリスに猛アプローチを掛けている男子である所のディザイアを、レフニーはとても警戒していた。
「え、エリスちゃんには結婚も婚約も告白も抱っこもまだ早いのです!」
妹離れできない姉感全開で、通路の先に立ちはだかる。
322歩ほど譲って、浸水区画でエリスが濡れないようにと気遣った心意気は認めてやっても良い。しかし、
「もう床は濡れていないのです!!」
今にも斬り掛かりそうな勢いのレフニー。
それに対してディザイアは、クククと余裕の笑み。
「俺を攻撃すれば、肩に居るお嬢にも危険が及ぶぜ?」
「?!」
レフニーがたじろぎ、その隙に脇を抜けて先へ進むディザイア。勿論、肩にはエリスと白夜を乗せたままだ。
「うぅ…エリスちゃん……エリスちゃあーーーん!」
レフニーは滝の涙を流し、遠ざかっていくエリスに手を伸ばすが届く事叶わず。
エリスはおろおろと心配そうに振り返り、せめてうさぬいだけでもと、レフニーの頭上に残していく。
「置いてっちゃっていいのかしら…?」
「何、すぐに追いついてくるだろう」
その前に少しでも肩乗りお嬢を堪能せねば!
「ん…観察日和」
頭を挟んで反対側に座っていた白夜が、クスクスと声を漏らす。船に到着してからずっと、彼女はじっとエリスを見ていた。
エリスが反対隣の肩に乗る前から、じー。
船倉に下りてエリスが肩に乗せられてからも、じーー。
遠隔操作のうさぬいがレフニーの頭に飛び乗った時も、じーーー。
じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「な、なんかすごい見られてるんだけど……」
「おー、仲良しだなー(ククク」
そんな会話も含め、エリスの一挙手一投足を観察する白夜。
たまに何か納得した風に頷いては、自分の髪型をツインテールに結い直してみたり、背負っていたネコリュックをエリスのうさぬいのように動かそうとしてみたり。
が、当然リュックは動かず。
気づいたエリスは、なんとなく申し訳無さそうに苦笑いを浮かべる。
「うーん、私のぬいぐるみ操作能力って生まれつきの体質みたいなものだし、他の子にはちょっと難しいかもしれないわね」
「(じー)」
すると白夜は何を思ったか、エリスのほうをガン見したままディザイアの頭に抱きついてみせる。
「おお? どうした?」
(あれ? もしかして私、張り合われてるのかしら?)
そんな調子で、普段は客が立ち入れなさそうな機関室や船長室、ブリッジ等々を見て回る3人。
エンジンや発電機は動いていたがスクリューが止まっていたのを良い事に、肩から降りてブリッジの舵にもちょっと触ってみたり。
「船員気分で眺めるのも乙なもんだろ」
「自爆スイッチとかないのかしら」
冗談めかして笑いながら、計器のスイッチにも触れるエリス。勿論、触るだけで、本当に押したりはしない。
少なくともエリスはそのつもりだった。
「(じー)」
その行動を観察していた白夜は、目の前にあったスイッチ――何のスイッチかは知らない――をぽちり。
「よし次は船長室だな」
そうとは知らずディザイアは再び白夜を肩に乗せ、エリスも促されるまま反対隣に担がれてブリッジを後にした――
「御中元を持ってきました」
日頃の感謝をこめて、と。和紗は持参した荷物の中から綺麗な水色の和紙で包装された品を取り出し、ジェンティアン、リーゼ、マリスへと差し出す。
「迷惑でなければ、受け取っていただけると嬉しいです」
「勿論貰うよ。ありがとね」
「いただこう(ぺこり」
「わーい♪ なんだろー」
受け取って開封すると……
男子達にはシルクのトランクス、マリスにはシルクのリボンが入っていた。
4月に自分で種を蒔いて育てた蓼藍の生葉で藍染めした、業物な一品。
残念ながらペット不可で養蚕までは出来なかったので素材のシルクだけは購入せざるを得なかったが、割と自信作である(心なしか得意気な顔
ちなみにリーゼには、ケセラン召喚用の桐箱(白)も入っていた。
「……」
トランクスを広げて、無言のジェンティアン。
何処の世界に真顔でトランクス御中元にする女子がいるの。しかもリーゼちゃんとお揃いとか…複雑な。
「…またリーゼちゃんに着たとこ見せろとか言わないよね?」
「流石に言いませんよ(ジト目」
「穿き心地が良さそうだ(こくり」
「すべすべー♪ 和紗ちゃんありがとー!(はぎゅ」
エリスの分もあるが、早々に拉致されていったようなので後で渡すとしよう。
「俺も持ってきた」
ふと、リーゼからの申し出。
彼が差し出したのは、布に包まれた2つの桐箱。中身は各種包丁のセットと、焼き物の急須と湯呑みのセット。
包丁セットは和紗に、急須セットはマリスに。
「(料理の)修行が捗ります」
「いっぱいお茶淹れるよ!」
そしてジェンティアンには、赤や緑の各種タバスコ詰め合わせ。
「そのチョイスもどうなの」
でも有り難く貰っておく。
夏の贈り物を渡し終えた一行は、船内にあるジムへ。
何やら和紗が、やってみたい事があると言う。
「ぴったりかと思いまして」
手に持っていたのは、アクロヨガと書かれたDVD。
ざっくり言うと、2人以上で行なうアクロバティックな組体操。筋力や柔軟性の向上にも役立ち、心の解放を促すステキヨガである。
和紗がベース(下)、リーゼはフライヤー(上)。
「俺に全てを任せて」
微笑みながら手を差し出し、リーゼをひょいっと上へ押し上げる芋ジャージ和紗。
それを横で体育座りして「おー」と見物するマリス。
と、何を思ったかリーゼが手を伸ばしてマリスをひょいっ。
「おおー?」
3段式ばばーん。
「…ごめん、もうツッコミ追いつけないわ」
それを見つめるジェンティアン。
うちのはとこ殿は一体どこでアクロヨガなど見つけてきたのか。ていうか何故自分が一番下になろうと思ったのか。
「「ジェンちゃん、ここに居たのねぇ〜!」」
その時、野太い声のオカマ達が、筋骨隆々としたガタイをくねくねさせながら群れを成してやって来た。
「この船、ショッピングもできるんですってぇ!」
「お買い物付き合ってぇ〜ん!」
「うん、じゃあ行こっか」
ヨガーズはそっとしておく事にして、ジェンティアンはジム不要なぱーふぇくとぼでーのオカマ達に囲まれながらその場を後にした。
パラソルの下でデッキチェアに寝そべっている黒百合(
ja0422)。船内の探索には加わらず、ヘリを降りてからすぐ、ずっと昼寝をしていた。
そこへ、船内を一通り見てきた赭々 燈戴(
jc0703)が声を掛ける。
「よ、可愛いお嬢ちゃん。観光はしねぇのかい? 船底に怪獣みてぇなタコとかも居たぜ?」
「天魔かしらァ…?」
「いや、でけぇけど普通のタコっぽかったな」
それを聞いて、興味(主に食欲)が湧く黒百合。
「巨大な蛸ねェ…んー、今晩の刺身ねェ…♪」
立ち上がり、教えてくれた燈戴に礼を言うと、徐に透過能力発動。
壁や扉をすり抜け、船内備え付けの消火器を手当たり次第に集め始める。
すると、肩に女子2人を乗せたディザイアが、再び追いついてきたレフニーに刀を向けられている場面に遭遇。
だがレフニーは肩に居る2人にも攻撃が当たってしまう事を恐れて、斬り掛かれずにいるようだった。
「あらァ…そういう時は袈裟に斬らずに、刺せば良いと思うわァ」
「あ、なるほど」
気づいたレフニー。
これならエリス達には当たらない。
というわけでディザイアを刀でぶっすー。ぐわー。
「ところでクロユリさんは消火器を抱えてどちらへ?」
赫々然々。
「え? 天魔じゃなくて、普通のタコ? なら、食べられるのです?」
レフニーはしばし考えた後、こくりと頷く。
狩って、たこ焼きにしよう。
「というわけで行きますよー!!」
倒したディザイアからエリスを奪還し、ソラ(金毛九尾の狐の姿をしたスレイプニル)を呼び出して2人で騎乗。床を透過で下りていく黒百合を追って、船倉へと駆け出す。
対して白夜もエリスを観察すべく、お腹に刀が刺さって倒れたままのディザイアを引きずり、船倉へ向かった。
●
黒百合達が到着すると、船倉では激戦が繰り広げられていた。
壁や積荷を透過してタコの裏を取り、確実に距離を詰めて攻める仙也。だが柔軟でありながらも密度の高い筋肉の触手は、撃退士の一撃を以てしても怯まず。
透過しているのでタコからの攻撃を食らう事はなかったが、取り押さえる事も出来なかった。
一方で、透過能力を持たない智美。
痛打、薙ぎ払い、烈風突と次々にスタン属性の技を放つ。
バッドステータスは通る。が、そのサイズと同じく超自然的なまでの生命力で即座に復帰し、反撃してくる巨大タコ。
優多がウィンドウォールや異界の呼び手を駆使して智美の近接戦闘を支援。
また、奏音も四方八方へと蠢く触手を二振りの小太刀で受け流す。
『俺は最強の熊、グリズリーだ!!』
触手を掻い潜り、ミハ熊がストライクショットを乗せた熊ぱんちドゴォ!
直後に飛んできた触手は熊の手シールドで受け防御…するも、8本あるタコの足であっという間にシールド残数が尽き、7本目の触手が直撃ドゴォ!
浸水した床にべしゃあっと叩きつけられてしまった。
水を吸い、着ぐるみの中まで海水ぐっしょり。動きづらいどころか、このままでは呼吸も危うい。
それでも「俺は熊だから」と頑なに着ぐるみを脱ごうとしないミハイル。
そんな着ぐるみに興味を示したのか、8本目の触手が熊顔を脱がそうと巻きついてくる。ミハ熊は自らの顔をぐぐぐっと押さえて、必死に耐えた。
それを他所に、己の欲望を曝け出していたのは東風谷映姫(
jb4067)。
「木葉ちゃーん、今日も可愛いねー☆」
触手の先に捕まったままの木葉のちっぱいを触る…もとい救出するべく、褌サラシ姿で正面からタコへと突っ込んでいく。
瞬間、触手にボディブローされてサッカーボールのように跳ね返ってくる映姫。
木葉ちゃんが殴ったんじゃないよ! タコだよ!
「まだだ! まだ終わらんよ!」
懲りずに何度も突撃して、タコにタコ殴りにされる。
「アホだ」
それを見ていた数多 広星(
jb2054)がぽつり。
『もちろん知っていたさ』とプリントされたTシャツ姿で、飲み物片手にタコバトルを見物していた。
頭上にケセランを乗せ、スポーツ観戦気分で撮影していたデジカメの映像をチェック。
「あ、東風谷写ってる。消さなきゃ(使命感」
その間に、何とかタコ足から抜け出したミハ熊。
タコの体をよじ登り、ひょっとこ口のような穴に潜り込んでみる。
『どこに繋がってるんだろうな』
熊頭を突っ込んだ瞬間、ぶぱぁと墨が発射。砲弾のような勢いで広星のほうへと飛んでいく。
ひらりと躱しつつ土爆布を叩き込む広星。
だがその真っ黒な塊は、墨に塗れたミハ熊であった。
「すいません、敵かと」
しかし広星のTシャツに書かれている文字は……。
ハハッ、きっと偶然だよね☆ 味方だもんね★
一方、タコが墨を吐いたのを見ていた仙也は、何かを思いついて船倉内をきょろきょろ。手頃なビニールシートを発見。引っ掴み、自らの体の前でバサァと広げた。
直後、2発目のタコ墨ビームびしゃー! 仙也は墨が零れ落ちる前にシートを翻し、袋状に丸く包んでキュッと縛る。
タコ墨ゲット。
真剣?に挑んでいた彼らとは対照的に、完全にナメプでタコと向き合う者の姿もあった。
透過能力持ちのエイルズ。わざとタコの足に捕まっては透過で抜け出したり、天魔の真似をして相手の攻撃を一歩も動かず透過だけで無効化してみたり、壁走りでタコの体を走り回ったり。
「所詮タコですねえ」
目を瞑っていても負ける気がしない。
そんなエイルズに便乗して、透過できないミハ熊もタコ足を滑り台にして遊びだす。
――と、次の瞬間、光纏状態であるミハ熊を掴んでそれをエイルズ目掛けて振り下ろすタコ。
光纏熊を透過できずに、エイルズはゴ〜〜〜〜ン!と頭を打つ。
彼の回避値ならば、なめていなければ容易に躱せたものを。
タコは知能の高い生物である。
ナメプ、ダメ。ゼッタイ。
●
1人ぶらぶらと船内を散歩していたルーカス・クラネルト(
jb6689)。
船倉にいた面妖なタコは、あれだけの人数で挑むのなら問題無いとは思うが……
(まぁ無理をする必要もあるまい。せっかくだ、楽しむとするか)
とりあえず差し迫ってピンチという訳でもなさそうなので、休日らしく酒でも飲む事に。
案内板を頼りにラウンジへと出て、無人となったバーのカウンター席に腰を下ろす。
今まさに飲もうとしていた時に避難せざるを得なかったのだろう。開封しかけのままで放置されていたウイスキーボトルを拝借し、グラスに注いで一口。
ツンとした独特の香りが鼻腔の奥をくすぐった。
「お? なんだ坊主、1人酒か? さびしいねぇ」
坊主、と慣れない呼びかけに内心で首を傾げながら振り向くと、そこに居たのは燈戴。
成人しているルーカスから見れば、むしろ燈戴のほうが年下であり坊主な外見であるのだが、久遠ヶ原には天魔の血が混じっている人間も多い為、見かけはあまりアテにならない。
実際、燈戴は1933年生まれ且つ孫持ち。言葉通りのおじいちゃんである。
「悪ぃ悪ぃ。冗談だって」
燈戴は「かはは」と笑いながら歩いてくると、当たり前のようにカウンターの内側に入ってルーカスのほうへ向き直る。
「酒屋【梵天】の出張営業だ。付き合うぜ坊主」
本来の店員がいなくなったバーを占拠。
ストレートの酒は勿論、カクテルだってお任せあれ。青い珊瑚礁やマイアミビーチといった海でのバカンスにぴったりな物や、デザート気分で楽しめるフローズン系、ソフトドリンクやツマミも何でもござれだ。
尤も、仕入れをしたのは顔も知らぬ船員だが。
ルーカスも自分でバーテンダーっぽい事が出来なくもなかったが、特に拒否する理由も無いのでお願いする事に。
「へぇ、元軍人なのか。撃退士になる前から銃弾の雨ん中だったわけだ、大変だったろぉなぁ」
「まぁ、ヒトに聞かせるような話じゃない」
「ま、色々あらぁな」
自分でもグラスを呷る燈戴と一緒に、タダ酒ぐびぐび。
雨の日も酒、休日も酒、そして船の上でも酒酒酒の飲兵衛スタイル。こんな軍人で大丈夫か。
でも昔いっぱいつらい思いしたからね。これからは楽に生きてもいいよね。
その頃、カジノエリアでは――
「今日は楽しいサマーバケーション!」
大燥ぎで無人の遊戯台を遊び倒すエル・ジェフェ・ベック(
jc1398)。
ディーラーが居ないので、勝手に遊べるスロットをガッチョン。しかしあと少しの所で7が揃わない。
すると幾度目かの7リーチ。熱中して椅子の上で立ち上がり、
「7来い! 7、7、なな雪崩式ブレーンバスター!」
受ける相手もいないのに、後ろへ全力ダイブ。どがしゃーん!とけたたましい音を立てて引っくり返る。
ちなみにスロットの絵柄はスイカだった。
ショッピングエリアでキャシー達とドレスを見て回っていたジェンティアン。すると隣の洋服店に、ヨガを終えたマリス達がやって来た。
きゃっきゃっと服を漁りながらリーゼを着せ替え。
「夏だし明るめの青もいいなー…あ! このVネックのシャツ似合いそう…! 和紗ちゃんはどんなのが似合うと思うー?」
「そ…う、ですね……」
眉尻を下げ「うむむ……」と唸りながら棚を睨む和紗。
洋服センスに自信無し。
見かねたジェンティアンが、近づいて一言。
「和紗が着せたいと思うの選べばいいじゃない」
彼女はこくりと頷き、勇気を出して手に取った服をリーゼへ差し出す。
試着室に入って着替えたそれは、白のサマーセーター。
「似合います(こくり」
「恐縮だ(こくり」
他にも黒シャツや、マリスが選んでくれたVネック等も。
マリスは和紗に抱きつきながら着せ替えリーゼをきゃーきゃーと楽しんでいたが、
「ね、ね、リーゼくん! あたしたちにもお洋服選んで欲しいな…!」
おい無茶振り…!
マリスや和紗から貰った服飾以外はバーテン服と魔装しか持ってないリーゼに選べと申すか。
見かねたジェンティアンは「しょうがないなー」と苦笑して、
そのまま何も言わずにすたすたと歩き去ってしまった。
おいぃ? 助けてくれるんじゃないのか。
「僕、キャシーちゃん達の服選ぶのに忙しいし」
置き去りにするに決まってるよね!
「……………………………………………………」
悩みに悩んだ末に恐る恐るリーゼが手に取ったのは、襟元から長めの紐が垂れているプルオーバータイプの白いノースリーブパーカー。一方で、布地の少ない服に抵抗がある様子の和紗には、ジッパータイプの長袖サマーパーカー。こちらも白。
スーツや作業着を選ばなかっただけでもどうか彼を褒めてあげて欲しい。
マリスはいそいそと試着室へ向かい、選んでもらった服にお着替え。
和紗から貰った藍染めのシルクリボンも付けて、鏡の前でくるくると回り、
「…えへへー♪」
嬉しそうにはにかんだ。
そのまま3人は、水着を確保してジムに併設されたバスルームへ。
「やはり遣り掛けはよくないです」
「ふっふっふー、リーゼくんをぴかぴかにするよっ!」
遠慮気味のリーゼをずるずると引っ張っていき、いつぞやのお風呂リベンジ。
リーゼを座らせて、ごしごし洗う和紗とマリス。
「……(無心でごしごし」
「和紗ちゃんの背中も流してあげるねっ」
言いつつ、マリスは「はい!」とリーゼに丸投げ。自身も背中を向けて和紗の隣に座る。
「う、むぅ……」
他人の背中――それも女子の――を洗う力加減が分からず戸惑いながらも、リーゼは備え付けのヘチマを手に取って、女子2人の背中を(びくびくと)洗い流した。
その頃、プールエリアでは――
ひゃっはー、とプールサイドを駆けるエル。
ふと、水面に1匹のアメンボを発見。
「アメンボスイスイスイ垂直落下式ブレーンバスター!」
虚空を抱えて、服のまま後ろへ全力ダイブ。ばっしゃーん!と大きな水柱を上げる。
が、納涼用のプールは思いのほか水が冷たかった。
震えながら慌てて水から上がり、
「寒い、さぶい、サブミッション!」
虚空に腕ひしぎ逆十字固めを決めて、ごろびたばっしゃーん!
また水に沈んだ。
●
人気の無い船内通路に、某ドクターのスランプ的なテーマソングに似た鼻歌が響く。
「鬼畜ダアト灯さん〜♪ お仕置き弾で どかどかどっかんか〜ん 照れ隠しでね 殺(や)っちゃ(ピーーーーーーーーー
だがしかし色々ぎりぎりすぎてこれ以上は放送できない!
歌っていた地堂 灯(
jb5198)は音声がカットされている事に気づかず、るんるんと口ずさみ続けながら船内を練り歩く。
一頻り歌い終えたところで、何やら船倉のほうでドッタンバッタン物音が。
黒百合と同じくヘリから降りてずっと上層階で遊んでいた為にタコ騒ぎを知らず、彼女は首を傾げながら下りていく。
水密扉を開けて中を覗いてみると、撃退士vs巨大タコの図式。
幼女(木葉)と熊(ミハイル)とアロハ(バック)が触手に絡め取られていた。にゅるにゅる。
「新手のプレイ?」
とりあえず見なかった事に。とは言っていられないか。
「これって逃げ出した食材…ってわけじゃないのよね? まぁ、いいわ。遊んであげる」
あ、幼女や熊を救出してあげるわけじゃないのか。
灯は中へ入ると、(安全そうな場所から)タコを攻撃し始めた。
一方、果敢に飛び掛かっていたのは雪子。予測回避やrecovery.exe、restore.exeも惜しみなく使ってダメージは最小限に抑えながら、常にタコに肉薄。
が、その手には何故か武器は無く。
避けて、躱して、たまにちょっと当たってみたりしてを繰り返すだけの謎雪子。
大切なのは既成事実! 騙されて準備不足のままタコに攻撃されたという被害者的絵面!
か弱い自分を演出!(ゲス顔
(あとでこの映像持って船会社を強請ってやるんですわ? お?)
その時、あまり痛くなさそうな右フック(触手)が飛んできたのを見て、被害を装うチャンスとばかりに自分から当たりに行く雪子。
触手に触ってやられたフリ!
ぴしゃーん!
刹那、雪子の尻がスパークしていた。
やたらビリビリした光線が背後から雪子の尻に直撃。
「あら? ごめんなさい。すっかり存在忘れてたわ?」
鬼畜ダアトの灯さん。
触手を狙ったら雪子が飛び出してきたからね仕方ないね。
怯んだ雪子はそのまま触手に絡まれて粘液ぬっちょり。
「ほう、これは…」
それを見ていたペルル・ロゼ・グラス(
jc0873)が、雪子のサービスカットをノートに描き書き。
タコと戦うヒトをスケッチするだけの簡単なおシゴトー。
×:戦うヒト
○:なんかえっちぃ事になってるヒト
「勇姿を書きとめているかと思ったか! 同人誌のネタにしてくれるわ!なのー☆」
いかん! このままでは雪子のあられもない姿が夏の即売会の新刊になってしまう!
「雪子まいっちんぐ!」
満更でもない雪子。
しょうがないにゃあ、とタコに捕まったまま仲間達のほうを見やると――
「鯨は逃がしたからな、タコは確実に頂くぜ(突破)」
「そろそろ飽きてきたので、食材になってもらいましょうか(エイルズ)」
ペルル以外は誰も見向きすらしていなかった。
更にそのペルルも、
「うーん、いまいちだな…なのー☆」
没ネタ行き。
取り繕ったのは語尾のみ。
タコ料理>>>>(越えられない壁)>>>>雪子のサービスカット
ただ斬るだけでは切れないタコの足を断つ為に、仙也がフラーウムで縛ってぎゅっと肉を固める。
そこへすかさず智美が連想撃を放ち、エイルズや広星らが刃を落とし、奏音も桜月を振りかぶる。
「これが終わったらタコパーティーです」
タコ足スパァ!
捕まっていた木葉や雪子も無事救出。
直後、気絶している木葉に近づく映姫の影。
介抱するフリをして、さりげなくちっぱいさわさわ。
褌からカメラを取り出し、鼻血を垂らしながら余す事無く隅々まで盗撮。
「ふむふむ…余は満足じゃ…」
おい誰か海上保安庁呼べよ。
ともあれ8本ある触手の内、4本を切断。続く5本目を狙って、レフニーが叫ぶ。
「さあ、食材は大人しく調理されるのです!」
ディザイアに刺さっていた刀を引っこ抜き、ソラと練気でブースト。
「タコヤキー!」
スキル『包丁一閃』、スパァ!
5本目ゲットだぜ。
窮地に陥って大暴れしだす巨大タコ。
残り3本の内の1本が、エリスへと迫る。
「危ないのです!」
咄嗟にレフニーがスキルを発動。
ディザイアを引っ掴んで触手の軌道にポイ。
ディザイアシールド
(ディザイアシールド)
種別/分類:対抗/アクティブ
範囲:ディザイア
射程:レフニー
対象:エリス
近くにいるディザイア・シーカーを取り出し、緊急活性化することで受け防御をおこないます。ディザイア・シーカーの能力を加算した形で受けが可能になります。ディザイア・シーカーそのもので受けることも可能です。
むしろディザイア・シーカーそのもので受ける以外出来ない。
更に広星が、
「え? 撃退士がまさか天魔でもないただの蛸にやられるわけ…ないですよね?」
影縛の術でディザイアを射線上に縫い付けて、不動の盾に。
その光景が、ペルルの感性を刺激する。
「ハッ…タコとの…禁断の愛…いける!」
「俺を新世界の住人にするのはやめるんだ!」
身の危険を感じてディザイア復活。
タコ足を齧って受け止めつつ、別のタコ足を脇に抱えて壮絶な格闘戦ボカスカ。
「今こそロペ子達の真の実力を見せるときですよ部長!」
高らかに言ったのはシエル・ウェスト(
jb6351)。
ロボ研部長の傍に居た3体の量産ロペ子を縦に並べて合体ポチッとな。
チェンジロペ子3にして、自身はその頭上に腕組みして仁王立ち。
水中専用機は不遇なんていわせない。
刹那、浸水した床の上を亜音速で飛び出すロペ子3。
振り落とされないように必死で立ち続けるシエル。
音速で駆ける抜けるロペ子3。
落ちかけて必死で掴まるシエル。
壁穴から海中へと飛び出して音速を超えるロペ子3。
水圧で鬼のような形相になりながら瀕死でしがみ付くシエル。
そんな顔で大丈夫か。乙女として。
「生きるのに必死なんですよ……!(がぼぼぼ」
そのまま海の彼方へと消えたロペ子3とシエルを見て、思い出したように映姫が立ち上がる。
「今日こそはあの眼鏡の眼鏡を海の藻屑にしてやる…絶対にだ!!」
即ち、広星の眼鏡。
背後からこっそり近づき……
春一番で一気に強奪!
「HAHAHHA〜私の勝ちだな〜ヒロポンよ〜!!」
「……」
くるりと振り向く広星。
瞳が赤く光っていた。
「あ。私しんだ」
カコーンと空き缶のように映姫が打ち上がる。
落ちてきた眼鏡をキャッチした広星は、切り落としたタコの足を1本抱えて何事も無かったかのように船倉から出て行く。
途中、吸盤部分を切り取って、扉をくぐる際の頭上あたりに設置しながらてくてく。
一方、船倉内では黒百合がタコのトドメに入っていた。
道中で集めた消火器ごと、透過でタコの体内に侵入。
体の中で消火器を1つ手放し、異物として実体化させた直後に銃で撃ち抜いて破裂。
透過したまま体内を少し移動して、また1つ消火器を放擲、破裂。
「どこで破裂したら死ぬのかしらねェ? 心臓ォ? 胃ィ? それとも頭ァ? まァ…楽に死ねる事を願いなさいねェ♪」
エグすぎワロタ。
ぼぐん、ぼぐん、と1発ごとに膨れて仰け反るタコ。
だがまだ生きている。
「きゃはァ…♪ そんなになってもまだのたうち回りたいなんてェ、ドMねェ…♪」
代わりに業を煮やしたのは、としお。
「面倒くせぇ『パレード』で一気に方を付けてやるぜ!」
温厚な割に意外と短気な物言いでバレットパレードどっかん。
タコの居る場所ごと一切合切吹き飛ばし、漸くタコ沈黙。が――
海水どぱーん。
「なん…だと? 船底に穴が開いている、だと?」
当たり前だろおいどうすんだおい。
明らかにポンプの排水量を上回っている。というかいつの間にかポンプが停まっている。
船倉内ぷちパニック。
「ちょっと待て、焦ってちゃダメだ。ここは冷静に考えよう……」
スッとジョ●ョ立ちになって、としおは名前からして冷静になれそうなスキル『クリアマインド』を発動。
クリアマインド。精神を練磨することで一時的に気配を断つとともに――
それ浄化スキルやない。ブーストスキルや。
「しまった!? 名前だけで使い所間違った!」
「慰謝料貰うまでは死ねないんですわ? お?」
真っ先に船倉から脱出する雪子。
とにかく生き残る。後で慰謝料ふんだくる。
他のメンバーもタコ足やらタコ墨やらを抱えて続々と扉を抜け、最後に黒百合も脱出。
クリアマインドで気配の薄くなったとしおが残っているとは気づかず、
「もう誰も残ってないわよねェ…? 残ってたとしても閉めるけどォ」
成仏してねェ、と雪子と2人で水密扉のハンドルぐるぐるガッチャン。急がないと沈んじゃうからね仕方ないね。
「ふぅ、あぶないあぶない」
木葉を抱えていた映姫。
何故か頭髪の大部分が無くなり、ツルツルになっている。
「ん? あ」
広星が頭上付近に仕掛けた吸盤に吸われたヅラが、閉じた水密扉にがっちりと挟まっていた。
●タコパーティー
「…早めに退治した連絡しないといけませんよね」
上層に戻ってきた優多は、智美と共にブリッジに立ち寄って衛星電話で斡旋所へ連絡。
電話に出たのはオペ子。
「あの、タコが居たんですけど」
『はい』
「倒しました」
『おつおつです。では今から船長さん達と一緒に合流します』
通信終了。
優多は受話器を戻してから、待っていた智美に尋ねる。
「ちょっと見学しても良いですかね? 普通見れない所を見学できる事なかなかないですから」
頷く智美。
その時、彼女は計器のスイッチが1つ点滅している事に気がついた。
『displace(排水)』と書かれたスイッチ。
同じスイッチは複数あるが、船倉区画用と思しきパネルのそれだけが点滅。どうやら「オフになっているのでオンにしろ」と警告しているらしかった。
「ああ、だから船倉の排水ポンプが止まっていたのか」
という事で、今更かもしれないが一応ぽちり。オフからオンへ。
これでよし。
2人はその流れでブリッジ内を見学した後、船員専用エリアをぐるっと一周。ちょっと風変わりなデートをして、次に行き着いたのは乗客用のバー。
無人だと思っていたカウンターには、燈戴とルーカスが立っていた。
「お、そこのはカップルか?」
燈戴が、智美と優多を見て言う。
促されるまま席に座る2人。
ルーカスがツマミを出し、燈戴がシロップやフルーツジュースでノンアルカクテルを作って話しかける。
「女子はタダだが男のほうは…200万」
「「はぁ」」
「なんてな。かはは、冗談だ。仲良くやんなよ、若いの」
じじいジョークに困惑しつつ、2人はお揃いのカクテルを並べてバカンスの続きを楽しんだ。
タコ足を刺身にしてレストランのテーブルに並べる黒百合。
厨房では突破も調理に参加。蒸したり焼いたり。
それを隣で見ていたミハ熊が、リクエストを出す。
『タコヤキも作ろうぜ』
「作り方よくわかんないから知ってる奴に任せる」
「たこ焼きと聞いて」
和紗出現。
タコは無視してもたこ焼きは無視出来ませんよね人類的に考えて。
などと言っている間にも、ちゃかちゃかと焼き上がるたこ焼きの山。
対して向かいの調理台では、奏音が厨房にあった材料も使って多様なタコ料理をもりもり作っていた。
タコをサバイバルナイフで薄切りにして刺身やカルパッチョ、たこわさに。氷結晶で生成した氷を細かく砕いて装飾や保冷に有効活用。他にも炎焼で火力を調整して唐揚げや茹ダコ(足)なども。
なぜ厨房に居ながら調理器具ではなくわざわざサバイバルナイフやアカレコスキルなのかという疑問はさておいて、タコ墨パスタを作る仙也や、広星、ディザイアらも加わって、メニューはどんどん豪華になっていった。
「はーい、皆さん集合ー!!」
ぱんぱんと手が鳴らされ、一同が振り返る。
青ジャージに着替えたシエルが居た。てっきりあのままワカメになったかと思ったが、生きていたようだ。
完成した料理を並べて、皆でいただきます。
成人組には、燈戴からタコ料理に合う日本酒や焼酎の差し入れ。といっても船のバーにあった酒だが。
高そうな酒からガンガン飲み干していく仙也。タダ酒うめぇ。
そんな中、動きたくないので陸ロペ子の上に座りながら移動するシエル。あれ? この光景どこかで……。
ジャージ…偽夜…うっ頭が。
頭痛を和らげるべくひたすらタコを貪る。
ついでに部長に宇宙ロペ子は出来たのか尋ねると、「予算が無いので試してすらいない」などと答えやがったので、そっと海子の中に詰めてやった。
右を向いても左を向いてもタコ料理。
それらを順番に皿によそっていくエイルズ。
「日本に来てからタコは食べられるようになりましたが、生きてるときの姿を見ると、さすがに食欲がわきませんねえ」
と言いつつモリモリ食べる。
あっという間に皿が軽くなり、次の料理を探してうろうろ。そこへ出来たての手作りタコ料理を持った灯が登場。
いや、間違えた。
料理じゃなくて、バイオ兵器だった。
足しか無かったはずのタコの肉に頭が生えて、唐揚げのような衣を纏ってにゅるにゅると皿の上を歩いている。
「なんだか、また動く生命体が出来ちゃったわね。私の才能が怖いわ」
「生きてるときの姿を見ると食欲が急下降ですねえ」
と言いつつ、エイルズは灯産以外のタコをモリモリ食べた。
「エリスちゃん、あーんです♪」
「あ、あーん……」
レフニーがふーふーと冷ましたたこ焼きを差し出し、少し気恥ずかしそうにしながらもぱくっと頬張るエリス。
「ディザイアさんも、あーんです!」
「うおお!?」
次いで、あっつあつのたこ焼きをディザイアの口へ突っ込むレフニー。じゅっと音を立てて転げ回るディザイア。
転がった先には、ペルルが居た。
色気より食い気。男らしくガツムシャアとタコを食い千切っていた彼女の鞄からハラリと何かが落ちてきて、ディザイアの目に留まる。
繊細な画力でスケッチされたタコ×ディザイアの原稿。
SAN値をそぎ落とされ、ディザイアは動かなくなった。
御中元を持って、改めてエリスの元を訪れる和紗。
マリスに贈った物とお揃いのシルクリボン。
「わ、ありがとう!」
早速そのリボンでツインテを結い直してみる。
マリスがにぱーっと笑いながらエリスにハグ。
「えへへー、エリスちゃんお揃いー(ハグハグ」
「(じー)」
するとそれを見ていた白夜が、ニヤァっと口の端を吊り上げた。
精一杯の笑顔(のつもり)。
(え、えーっと、これは友好の印と受け取って…いいのかしら…?)
とりあえずそのつもりで、エリスもにぱっと笑顔を返す。
「あ、そうだ。私からもお中元!」
忘れる所だった、とエリスが和紗達に差し出したのは、瓶に入ったカノレピス(※現在、大人の事情により一部フォントが崩れております
夏の風物詩。
「原液だから、飲む時はちゃんと薄めてね」
目を覚ました木葉は、タコが料理されたと知って悲しみに暮れていた。
そんな木葉を慰める映姫。が、その口の端からはたこわさがはみ出ていた。
更にしょげる木葉。
慌ててタコを飲み込んだ映姫は、気づいたエリスと一緒によしよしと木葉を撫で続けた。
ほどなくしてオペ子達も到着。
遅れを取り戻すかのように、オペ子はもりもり料理を漁り始めた。
そんなオペ子に絡む奏音。
言いたい事も少し…いやかなりあるものの、
「タコもおいしく頂けましたし、まぁ楽しめました」
「何よりです(もぐもぐ」
――その頃、船倉では。
置いて行かれ1人ぼっちのラーメン王こと、としお。
「……ふむ、脱出だ!」
冷静にジョ●ョ立ちし続けていた彼は、漸くその結論に達した。
既に胸の高さほどもある海水を掻き分け、唯一の出入口である水密扉に手をかける。が、水圧で開かず。
ポンプは作動したものの、穴が広がった事により水嵩は増加し続けている。
このままでは海の藻屑と化して、どこかのお店で海鮮ラーメンの具材としてスープに浮かぶハメに。
とその時、大量の海水を浴びてなんと巨大タコが復活。あれだけのダメージを受けて尚、気を失っていただけらしい。
としおを見つけて残った3本の触手がにゅるりと蠢く。
このままではスープに浮かぶ前にタコの胃液に浮かぶハメに!
周りを見渡したとしおは、人が通れそうな太さのパイプが壁の中へ伸びているのを発見。船内に張り巡らされた浄水用管。
無我夢中でパイプの表面を叩き割り、としおは管の中を潜って船倉から抜け出した――
厨房で追加のタコ足を茹でていた突破。何やらの配管がミシミシと軋み、
大量の水と一緒にとしおがドバァ。
どうやら船倉と繋がってしまったらしく、次第に海水まで溢れてきた。
その時、使用済みの皿を運んできたロペ子(オリジナル)が目につく。
丁度いい。ロペ子を捕まえてパイプの穴にぎゅむっと押し込む突破。
キングストンロペ子。余ったタコでも食わせて膨らませとけば抜けるはずがない。
実際それで水漏れはぴたりと止んだ。一安心。
と思われた次の瞬間、轟音と共になんと天井の一部が落ちてきた。
塵埃の中心には、プロレス技で勢い余って上階の床をぶち抜いてしまったエルの姿。
そしてそれに呼応するかのように、ロペ子を押し込んであった穴がガタガタと震え始め――
轟音。
厨房からの物音に、一同は何事かと振り返る。
そしてその直後、頭上に乗っていた小次郎の耳がぴこんと動いたのを受けて、オペ子は厨房を無視して徐に食べるペースを上げた。
その様子を不審に思った奏音が首を傾げる。
「どうしました?」
「いえお構いなく」
口の中一杯に料理を詰め込み、抱えられるだけの皿を抱えてそそくさとどこかへと歩き去るオペ子。
首を傾げながら、自分も適当な料理を皿に盛ってなんとなくついていく奏音。
2人がレストランから出た直後――
厨房から、船を穿つほど巨大な水柱が上がった。
オペ子は船尾にあるヘリポートに辿り着くと、待機していたヘリに乗り込んでパイロットに一言。
「脱出です」
飛び上がるヘリ。
共に乗り込んでいた奏音が下を覗くと、沈没する船と仲間達、そして生きていた巨大タコの姿が見えていた――
●後日
あの後、オペ子が呼んだ救助ヘリで奇蹟の生還を果たした一同。
一応はタコを追い払った?という事で、報酬も出た。
だがまだ終わりではない。
雪子は作戦を完遂するべく、自らの銀行口座をチェックしにATMへカードをIN。
――とにかく生き残る。後で慰謝料ふんだくる。
そして画面に表示された金額は、正規報酬分プラス…………10久遠。
慰謝料少ねえってレベルじゃねえ。
「ちょとsYレならんしょこれは…?」
抗議してやるニダ!
斡旋所へ駆け込んだ先でオペ子を発見。しかし、
「会計からは『逆に船を沈められた損害賠償を請求するべきだ』という話も出ていますが」
「ファッ!?」
ゆきこは にげだした!
一方、報復を企てていた撃退士はもう1人いた。
仙也だ。
彼は夜中の内に斡旋所のポストへ何かを放り込むと、そそくさと撤収。
次の日の朝、出勤してきた局長がポストをチェック。するとそこには、何故か缶詰が。
「???」
ラベルには『鯖缶』の文字。
首を傾げながらタブ付きの蓋をペリッと剥がすと――
塩漬けされたニシンの強烈な臭気。
世界一臭いと名高いあの缶詰だった。ラベルは偽装。
直に吸引し、ふら〜っとその場に引っくり返る局長。気絶。
今年の夏も暑いなー。