当日、控え室。
リア充爆発しろ。
この呪文は2次元コメにおいてのみ許された大魔法なのであって、3次元では禁呪指定である。
「犯人は笑顔動画でも見て幾らでも弾幕張ればいいのです」
スレンダーラインの白いドレス(動き易いサイドスリット入)とマリアヴェールに身を包み、樒 和紗(
jb6970)がごちる。
隣には、白のフロックコートを着用した新郎役。
「そんな訳で今年も宜しくお願いします、リーゼ」
「よく分からんが、宜しく頼む」
そこに、着付けが終わったマリス・レイ(
jb8465)がシャッとカーテンを開けて姿を見せる。ピンクと赤のプリンセスライン。もう1人の新婦役。和紗と一緒に一夫多妻。リーゼ爆発しろ(大魔法)。
和紗とリーゼの白に対してベールガールっぽいカラードレスを選んだマリスだったが、当の本人にも自覚無し。
「わあいドレス…! ね、似合う? にあうー?(くるくる」
「元気なマリスらしくて綺麗です」
「えへへー♪ 和紗ちゃんも可愛いキレイ…! すっごく似合ってる…! ね、ね、リーゼくん和紗ちゃんかわいい…!」
和紗をはぐはぐしながら、リーゼの袖もくいくい。
「リーゼくんも似合っててかっこいいよ! なんかすごく王子様っぽい…!」
「ふむ」
言われて、テレビで見た王子像を思い浮かべる。
「白馬に乗って砂浜を駆ければ良いのだろうか」
×:王子様
○:将軍様
別の鏡の前では、新郎衣装のディザイア・シーカー(
jb5989)と新婦姿のエリス。
2組目の新郎新婦。
「うむ、可愛い可愛い」
「あ、ありがと……。でもこれから爆破されに行くのよね」
ふと、ディザイアのすぐ横を、刺す様な目つきで葉巻を咥えたヒリュウが飛んでいた。
会場に着いてからずっと彼に張り付いている。
「何やら監視されてる気がするんだが」
「神は、イツでも、見ておられマース」
そっとディザイアの肩に手を置く、カタコト牧師役のミハイル・エッカート(
jb0544)。
サングラスは外して法衣を纏い、徹夜で作った架空の聖典片手に微笑む。
一夫多妻、葉巻ヒリュウにガンを飛ばされている新郎、手書きの聖典牧師。
絵面からして既におかしい。
「きっと素晴らしい結婚式になりますね!」
だがそれに笑顔で太鼓判を押すユウ(
jb5639)@聖歌隊。
傍らには、がっちりと腕を組んで捕まえたオペ子とロペ子の姿。
「頑張って成功させましょうオペ子さん!」
「オペ子まだ死にたくないです」
ずるずる引きずり、撮影開始。
●
オルガン奏者は夜桜 奏音(
jc0588)。
髪をアップにしたネイビーのドレス姿。パールのネックレスとシルバーのパンプスがきらりと光る。
「パイプオルガンは使ったことないけれどもきっと弾けるはずです」
鍵盤にそっと指を乗せ――
「さぁ、爆発になんて負けない素敵で幸せな結婚式を始めましょう」
瞬間、爆発。
音符の踊る五線譜は、一拍目から既に犯人の手中にあったのだ。
だが奏音は微塵も揺るがない。
鍵盤を1つ弾く度に轟音が爆ぜ、飛び散るパイプの破片を首を左右に傾けて躱し、炎熱を照明代わりにして華麗に演出。結婚式の定番クラシックを、入場者の雰囲気に合わせて奏で続ける。
ぶっちゃけ爆音しか聞こえなかったが、なんか凄い。
新郎新婦入場。
ディザイア&エリス。リーゼ&和紗&マリス。そしてウェディングドレス姿の御供 瞳(
jb6018)が1人…おや? 新郎役はどこに…?
「おらあの旦那さまぁはここさいるべ」
カメラに向かって、自分の隣に新郎の輪郭をジェスチャーしてみせる瞳。
――御供 瞳の旦那は幽霊である。
かつて四国戦争の折、結婚式当日に悪魔の襲撃を受けて故郷は壊滅。その1年後、旦那(になるはずだった男)が帰らぬヒトとなった事を知らされた。
だが男の残留思念は、なんとその最後を看取ったという大剣へ憑依。以来その剣を譲り受けた瞳は、剣に宿った旦那と結婚式を挙げる事を夢見てきた……らしい。
「おめさんがだも澄んだ心でよぐみればきっどみえるべ」
旦那が宿っているという大剣(刀身にイケメン男性が描かれている)をドレスの背に担ぎ、乙女の表情で祭壇へと進んでいく瞳。
カメラの裏で「お、おう」と頷くスタッフ達。
爆破騒ぎだろうと何だろうと、今まで「幽霊と結婚するとか無いわー。無理だわー」と数々の式場から挙式を断られてきた瞳に、ようやく舞いこんで来たウェディングチャンス。
ヒトの幸せに水を差すまい。
参列者は爆風に髪を揺らしながら、満面の笑みと拍手で3組の新郎新婦を迎える。
だがその中で、ウェディング衣装に身を包んだディザイアとエリスを見たRehni Nam(
ja5283)は、
「くっ、やはりそうなのですね…」
依頼受諾者一覧にディザイアの名を見つけた時に、予測していた光景。
大佐(葉巻ヒリュウ)に彼を見張らせ、視覚共有で見た控え室でのやり取り。
2人が礼装していたのはあくまでも参列者としてオシャレしているだけなのだと、見たくない現実(偽ウェディングだけど)に蓋をするように己に言い聞かせていたが、もはや2人が新郎新婦として式を挙げようとしている事(偽マリッジだけど)は確定的に明らかだった。
「え、エリスちゃんには結婚も婚約も、告白もまだ早いのです!」
飛び出すレフニー。妹離れできない姉感。
「どうしてもと言うのなら…」
シックなドレスをばさぁと脱ぎ捨てたその下には、白スーツ。
男装モード、レフ夫。妹離れできない兄感。
俺 の 屍 を 超 え て い け
「エリスと結ばれたいと言うのなら、まず壁その1である僕を超えて貰おうか!」
瞬間、大太刀を抜いてディザイアへと斬り掛かっていた。
「あらあら、なんだかおもしろい展開になってきました」
突然の乱入者に、奏音は曲目をバトルっぽいものに変更。
幸せ?を煽っていくスタイル。
レフ夫の鬼神一閃。
「今日の僕は阿修羅すら凌駕する存在だ!(ジョブ的な意味で」
「負けるわけにはいかん、認めて貰うぞ!」
対するディザイアも、両手に死のソースを握りしめて迎え撃つ。
ソース瓶ごとズバァされるディザイア。
飛び散った死ソースが目にドバァするレフ夫。
「「ぐわー!」」
「大変!」
刹那、赤いものが滲み掛けたディザイアに何かを投擲するユウ。
レフ夫が落としたカラーボール。赤色べっとり。
流血じゃないよ! 塗料だよ! 当社のウェディングは安全です!
悶絶している2人の姿を誤魔化すように、エリスはディザイアの足を掴んでずるずるとバージンロードの続きを歩く。
その間に何とか立ち上がったレフ夫はカメラに背を向けつつ、
「エリスを幸せにしなければどうなるかわかってるだろうなぁ?(血涙」
当社のウェディングは、笑顔が溢れるウェディング!
やがて3組の男女は牧師の前に辿り着き、シーンは聖歌隊による斉唱へ。
ユウに捕まったままのオペ子。ロペ子と頭上の小次郎はガウン姿だが、本体は頑なに儀礼服である。
「危険が危ないです」
「大丈夫ですよ、オペ子さん。確かに爆破されるかもしれませんが、骨の1つでも残っていれば回収して貰えるんです」
そして歌が始まり――
ロペ子が爆ぜた。
咄嗟に、奏音は用意しておいた赤いバラの花びらを撒く。
「皆様の新たなる門出に祝福を」
式場に吹き荒ぶ祝福の風(という体に)。
一方で、逃げようとするオペ子を笑顔でホールドして無事に歌いきるユウ。サツイを感じる。
次いで場面は誓いの言葉へ。
「ナンジ、健や〜かなるトキモ、病めるトキモ、共に愛し敬い、これを助けることを誓いマスカ〜?」
当然、ここでも爆発が――
「申し訳ありません。そこ変更で」
と思いきや、唐突に和紗が挙手。
偽挙式と言えども、自分は妻とは誓えない。
「俺は、リーゼと未来を共に歩むと誓います」
妻じゃなくて友人なので。
和紗は隣のリーゼを小声でちらりと見やり、
(これなら嘘じゃないです(こくり)
(なるほど(こくり)
発破のタイミングを横取り?して、無事に指輪交換へと移る。
ミハイルが、預かっていたサンプル用の指輪ケースを開け――
爆散。
「危ないお嬢!」
両腕を広げてエリスの前に飛び出すディザイア。新郎炎上。
新婦を想う気持ちはまさに火の如し! 当社のウェディングは熱々の新郎新婦を全力でサポートいたします!
更に迫る爆風の余波と炎。瞬間、瞳が光纏してスキル発動。
足下にアウルによる謎の通風孔と地下鉄が出現し、風圧で爆炎を押し返す! ついでにドレスのスカートがワァオ(はーと)。
その隙に、自前のアイテムで交換の儀を執り行う一夫多妻組。
対の虹霓リングを互いの指に嵌める、和紗とリーゼ。マリスとは、お揃いのイヤーカフを相手の耳に装着し合う。
え? 指輪じゃない? うるせえコンニャクをくらえ!
恙無く進行し、キャンドルへの点火シーン。
明らかに導火線! もちろん爆発だ! 吹き飛んだ祭壇の破片が降り注ぎ、あろう事か瞳のドレスに穴が開いてしまった!
だがそれがカメラに映るよりも早く、再びスキルを発動する瞳。超絶イケメンな旦那様を描いたアウルによる痛々しいボディペイント…もとい厳かなペイントで全身を彩り、穴を上書き。
ついでにその旦那様が、瞳の背後にアウルやら愛やらのなんか途方も無い力で顕現し、ドッギャアァンと文字を背負ってパンチを猛打。破片を全て粉砕した。
せっかくなので、顕現した旦那様の幻影と指輪交換もしておこうそうしよう。
一方、絶賛火達磨状態のディザイアは、
「マジで痛くも痒くも無ぇな(満面の笑み」
新婦姿のエリスを愛でながら幸せ満喫中。
よく見ておけ犯人よ、これが愛だ。
次は祝福の言葉。
「愛は寛容で、愛は親切デース。また人をねたみまセン」
聖典をチラ見。
ページを捲r
炸裂。
カンペを失い、焦るミハイル。
それでも決してその大らかな笑みは崩さず、何事も無かったかのように神の言葉を続ける。
「髪はアナタ方を愛してマース! とにかく愛してマース」
髪は長いトモダチ、トモダチ。
「毛根がそんなこと言ってるに違いないのデース」
何とか乗り切ったな!
そして、式はいよいよ誓いのキスへ。
するとマリスが、
(ちゃんとリーゼくんからキスしないと駄目だと思うの)
真剣な顔でリーゼと和紗に吹き込む。
(映像に残るお仕事だし、ちゃんと唇にしないと…! 和紗ちゃんも、積極的にハグとかキスとかしていこ!)
(むぅ……)
そうこうしている間に、ミハイルは一同を見やり、
「それデハ、誓いのキs――」
その時、なんとミハイルが爆ぜた!
眼前で起こった大爆発に、和紗とマリスが咄嗟にリーゼを押し倒して床ドン。こんな事もあろうかとマリスがスカートの中に仕込んでいた大量の花びらが舞い散り、ハリウッドロマンス的な絵面を演出。
(大丈夫ですか? 怪我は?)
小声でリーゼの体を触診する和紗。さわさわ。
しかしすぐに今が誓いのキスシーンの最中である事を思い出し、
(任せます。好きな所へどうぞ)
そうは言われてもまさか本当にキスする訳にはいくまいと困窮するリーゼだったが、ふと何かを思いついて自身の懐をごそごそ。
直後、上に乗っている和紗の両頬に両手を添え――
互いの唇をスッと重ねた。
と見せかけて、2人の唇の間には重ね折りにしたハンカチ。
頬に添えた手が陰になって、カメラには映っていない。
同じようにマリスにもハンカチキス。
瞬間、ハンカチ越しとは言え自分の唇を押すリーゼの唇の感触に、マリスの顔がぼんっと音を立てる。
自分もキスされる側だという事を忘れていた。
マリスの目がぐるぐる。
だがすぐに仕事だという事を思い出し、変に冷静に。
コンマ数秒の壮絶な脳内会議。
大丈夫。
いつも通り。
にぱっとした笑顔に戻り、いつものノリでリーゼの頬にキス。そのまま和紗の頬にもキス。
「リーゼくん和紗ちゃん、しあわせになろーね(きゃっ」
なるほど、これが積極的という事か。
お返しに、和紗も頷いてマリスの頬にキス。
一方、彼らがキスをする度、何故か当人達ではなくミハイルが爆ぜていた。
「すみません、愛が溢れてしまったようです」
カメラ目線で(犯人へ)アピールする和紗。
対して、ミハイルはようやく収まった理不尽な爆撃にむくりと身を起こすと、
「主より祝福を授けマース!」
法衣の下に仕込んでいた大量の瓶に手を掛ける。中身はノンアル赤ワイン。
コルクを抜き、笑顔のままぶちまける。
「爆ぜろ!(祝言」
赤に染まる新郎新婦。
すると和紗もドレスの中からタバスコの瓶を取り出し、「幸せのお裾分け」と称して反撃。ついでに、床に転がっていた空のワインボトルもぽいぽい投擲。
もはや爆発関係ねえ。
そんな時、爆ぜてボロボロになっていたミハイルの衣服が激しい動きに耐え切れず、完全に焼け落ちようとしていた。その下はまさしく全裸。
いかん! このままでは犯人に見せ付ける前に偉いヒトにお蔵入りにされてしまう!
――かに思われたが!
(蔵倫よ、俺の尊厳を守ってくれ!)
寸前、手近なテーブルクロスを引っ掴んで、華麗な横回転で全身に巻き付けるミハイル。
「聖職者のたしなみデース」
笑顔。
だがクロスの端には、何やら導火線のような物が生えていて……
大 爆 発 !
それを引き金として、ついに式場全体から火の手が上がり始めた。
牧師とバトる新婦、火達磨で笑う新郎、砕ける鍵盤、崩れる天井。ダイナミック挙式!
「こんなこともあろうかと思って用意しておいてよかったです」
自前のラジカセで尚もBGMを演出し続ける奏音。
膨れ上がる幸せと愛の前に、建物は完全に倒壊し――……
がらり、と。瓦礫の下から笑顔で這い出てくる参加者達。
皆が聖灰という名の塵埃で浅黒くなっている中、ロペ子の残骸を被っていたユウとオペ子だけが無傷。
天井が無くなり、頭上には遥か高い日輪の輝き。まさに祝福の光。
「色々と大変でしたが皆さん素敵な新郎新婦で素敵な式でしたね」
晴れ晴れとした笑顔でユウが言う。
その後ろでは、鎮火したディザイアがエリスの前で片膝をついて何かの小箱を開けていた。
中には、リング『ETERNAL BRIDE』。
「蒸発させたくなかったんでな…一応、給料三ヶ月だぜ?」
せめて婚約指輪を! 受け取って頂きたい!
その申し出にエリスは、
「ま、まだ結婚とか、そういうの気持ち的によく分からないし……じゃ、じゃあ、その、と、とりあえず婚約の予約…って事で、私が“預かっておく”……っていうのじゃ、ダメかしら…?」
そっと、箱ごと指輪を受け取った。
だが、
「うー……やっぱり結婚なんて認めないのです!!」
叫んだのは、ドレス姿に戻っていたレフニー。
偶然落ちていた導火線付き巨大黒球爆弾を「うがー!」と持ち上げて投げつけ――
――カッ!!
後日この映像が各地の式場で広告に使われると、爆破騒ぎはぴたりと収束。
但し爆炎プランを希望するカップルは、未だ1組も現れていない。