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マスター:水音 流
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2015/01/13


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


「ぅ……」

 小さな呻き声を洩らし、眼鏡を掛けた学園生はゆっくりと目を覚ました。
 全身に走る鈍い痛みに顔を顰めながら身を起こし、辺りを見渡す。

 地獄絵図。

 家屋が崩れ、道路は抉れ、千切れた電線がバチバチと火花を噴いている。
 黒く焦げた瓦礫には今なお燃え盛る炎がこびり付き、風で飛散した煤や煙が、黒い雲のようになって空を覆っていた。

「い、いったい何が……」

 動揺を必死に抑えつけて、気を失う前の事を思い浮かべる。

 ――いつもと変わらぬ風景。変わらぬ朝。
 道行く人々に混じって登校し、交差点の信号待ちでひらりと降ってきた雪に気づいて空を仰いだ時、閃光が尾を引いて走っていた。
 それがミサイルの類だと気づく間もなく、少し離れた場所に光が落ち――……

「……そうだ、他の皆は?」

 自分が生きているのだから、他にも助かったヒト達が居るはずだ。
 彼はジリジリと熱い瓦礫の中から這い出ると、焼け朽ちた街中をふらふらと歩き出した。

 少し進んだところで、スクランブル交差点の中央に見慣れたシルエットを発見。
 銀髪ツインテールで大学部儀礼服を身に纏ったドラム缶――ロペ子だ。よかった無事だったか。

「ロペ子ー!」

 知り合いを見つけた安心感に溜息を吐き、大きく手を振りながら声を掛ける。
 だが、ウィームと駆動音を鳴らして振り返ったそれは、彼の知っているロペ子とは少し違っていた。

 黒色だったはずの儀礼服は深緑色に染められ、頭には陸軍兵士のような防弾ヘルメット。

「抹殺」

 アイレンズがヴンと赤く点り、ロペ子が何かを呟く。直後、

「抹殺」
「抹殺」
「抹殺」
「抹殺」

 曲がり角や瓦礫の陰など、あちこちから同様の緑ロペ子がブオーっと現れた。
 ドラム缶の群れはぐるりと彼を取り囲み、正面に居た1体が、配線剥き出しの無骨なデザインのライフルを構える。

「人類 抹殺」

 銃口から飛び出したプラズマ粒子が、テュン!とメガネを貫いた――……



 20XX年。激化する天魔との生存競争を打開するべく、撃退士に代わる“より効率的な兵士”を求めていた各国の軍に対し、日本のとある学生がこう言った。

 必要なのは“機械(マシーン)”だ、と。

 久遠ヶ原学園に数あるロボ研のうちの一つ。そこで部長を務めていたその男子学生は、V兵器技術を応用した既に稼動済みの実在モデル――ロペ子――を各国に公開。
 潤沢なバックアップを得て、戦闘用に強化して量産されるロペ子シリーズ。
 痛みを感じず、恐れを知らず、物量で劣ることもない機械の軍勢は、瞬く間に地球上から天魔陣営を駆逐していった。
 だがある時、全てのロペ子シリーズを統率していたオリジナルモデルの人工知能が、一つの極点に至る。

 地球ヲ 守ラネバ

 プログラムの暴走。既に防衛システムの奥深くに根付いていたロペ子が各国の軍を乗っ取るのに、そう時間は掛からなかった。
 ミサイル制御のハッキング開始から約1時間。人間の時代は、一瞬にして終わりを告げる。

 だが、全ての命が根絶されたわけではない。
 はぐれ天魔を含め、僅かに生き残った人類は投棄されていた古い地下シェルターに拠点を移し、必死の抵抗を続けていた――……


●日本のとある山奥にある、シェルター施設
「おい、戻ってきたぞ!」
「手に入れたらしい!」

 そんな誰かの声が聞こえ、石造りの地下通路にバタバタと幾つもの足音が響く。
 出迎えられていたのは、銃火器で武装したリーゼとエリス、そして元冥魔陣営の悪魔ルディ。更にエリスの足元を、彼女のぬいぐるみ魔具が拳銃を抱きかかえてぽてぽてと付き従って歩いている。
 煤だらけで装備の所々が焼け焦げた彼らの姿を見て、出迎えた人々は心配そうに労いの言葉を掛けた。

 返事もそこそこに、3人と1体は司令室への通路を進む。扉を開けると、待っていたのは局長とオペ子。
 リーゼが胸ポケットから1枚のメモリーカードを取り出してオペ子に手渡すと、彼女はネットには繋がっていないパソコンを起動して、そのメモリをロード。

 中に入っていたのはオリジナルを含むロペ子シリーズのスペックデータと用途不明のプログラム、そして音声データだった。
 局長が頷き、音声データをダブルクリック――

『あれは究極のマシーンだ』

 その声は、ロボ研部長のものだった。

『ヒヒイロカネで出来たボディはあらゆるアウル攻撃に耐え、撃退士や天魔が持っていた一般人に対するアドバンテージなど何の意味も成さない』

 V兵器やスキルが通用しない鉄の兵士。従来の通常火器でなければ傷1つ負わせることができず、しかしその通常弾であっても、特殊合金の塊であるロペ子シリーズを破壊するのは容易な事ではなかった。
 加えて、オートメーション化された生産ラインはもはやヒトの手を必要とせず、どれだけ倒そうともロペ子シリーズの個体数が減る事はない。

『だが同時に、あれはどこまでいってもただのマシーンだ。オリジナルモデルのロペ子が発信している統率プログラムを受けて動く、ただの人形なのだ。万が一ロペ子が暴走した時のために、私はここに1つの保険を残しておこうと思う。この音声データと一緒に入っているプログラム入りのメモリカードを、オリジナルモデルの口に挿し込め』

 プログラムは、常に無線による送受信でオリジナルモデルと繋がっている全てのロペ子シリーズへとウイルスのように広がり、その活動を完全に停止させるだろう。

『ただしカードを挿入してから各ロペ子へプログラムの送信が始まるまで、約3分掛かる。なぜそんなにも時間が必要なのか? ヤツラの回線はダイヤルアップ接続だかr――(ブツッ』

 音声は、そこで終了していた。

「このメモリーカードはどこにあった?」

 局長がリーゼに尋ねる。

「予想した通り、学園クラブ棟のロボ研部室だ」

 淡々と答えるリーゼ。だがしかし、久遠ヶ原は今や敵の中枢。本拠点である学園地下から少し離れているとは言え、そこへ行って帰ってくるのは言葉ほど簡単では無い。
 故に、少数精鋭による隠密作戦だった。だが結果的に激しい戦闘状態に陥ったであろう事は、ボロボロになった3人の格好を見れば明らか。
 それでも彼らは、何とか任務を達成して戻ってきた。

「部長本人は居たのか?」
「……」
「そうか……」

 局長は短く呟いた後、マイクのスイッチを入れて施設内の全所に放送を掛けた。

『明日の朝、久遠ヶ原への突入作戦を決行する。総力戦だ。人類の生きる未来を、人類の手で取り戻すぞ』


リプレイ本文

 人類は必死の抵抗を続けていた。

 ――次は自分が死ぬかもしれない。

 それ故、せめて自分が生きていた証を残そうとする者も居た。
 そしてそれが、本当に形見となってしまった者も。

 今は亡き撃退士――佐藤 としお(ja2489)――の面影を残した、ブリキ玩具のような外見のロボ。

「トシオサン モウスグデ……」

 胸部を開くと、そこには笑顔で映るとしおの遺影があった――



「ようやく戻ってきたのね…私達の学園(ふるさと)に」

 学園島に降り立ち、かつての学園生活を懐古するシェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)。
 その出で立ちはまるで歴戦の戦士の如くどっしり構えられ、遠くに見える様変わりした校舎を厳しく睨み据える。

「腐の世界を…あ、間違えた。人類達の世界を取り戻しましょう!」

 これ取り戻さない方が良いんじゃ……。

「まぁロペ子については迷惑千万だが、対処法を残しておいてくれた事には感謝だな」

 それとは別に、千葉 真一(ja0070)がごちる。

「後は俺たちがやり通すだけだ」
「明日が来ないのは困るしねぇ」

 んーと伸びをしながら相槌を打つ砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
 イタリア製マシンピストルやドイツ製PDWを提げ、自身のポケットにメモリーカードが入っている事を確認。

「わたくしが敵を引きつけますので、皆様はその隙に」

 そう言ったのは斉凛(ja6571)。道端に放置されていた乗用車に1人乗り込み、配線を弄ってエンジンをかける。
 瞬間、路地裏や曲がり角など、至る所から陸型ロペ子が姿を見せた。

 敵弾の中を掻い潜りながら遠ざかっていく凛の車。陸型達もそれを追ってホバーで走り去り、やがて見えなくなった。

「行きましょう」

 樒 和紗(jb6970)が告げ、一同は物陰から飛び出す。
 乗り捨てられていた車両を拝借。真一はロードレーサータイプのバイクに、和紗はリーゼが運転するバイクのタンデムシートに、そしてシェリアは――

 ピザ屋のステッカーが貼られた屋根付きバイク(原付)。
 ルディが思わず声を掛ける。

「おい、本気でそれで行く気かよ」
「屋根付きだからロペ子(空)の対地攻撃も安心! やったね!」

 その時、2体の陸型が角の向こうから現れた。
 大半を凛が引きつけてくれたおかげで数は少ないが、悠長に相手をしている暇は無い。

 ジェンティアンは深森 木葉(jb1711)やルディと共に小回りが利きそうな車に搭乗。
 後部座席に座った木葉がリアウィンドから外を見ると、敵が今まさにこちらに銃口を向けようとしていた。

「撃ってくるのですぅ!」
「飛ばすから確り捕まっててよ、深森ちゃん! …ルディちゃんも」
「おまけみたいに言うんじゃねぇ!」

 ハンドルを切りながらギャギャッと急発進。寸前まで車があった場所を、プラズマ弾が横切った。
 バイク組が先行。しかし1人だけ足の遅い原付に乗っていたシェリアは、

「ぎゃー! ま、待って! 死ぬ、死んじゃう!」

 最後尾で悲鳴。陸型の集中砲火に曝されていた。
 助手席の窓から身を乗り出したルディが、後方へ向けて対戦車ロケット発射。シェリアのすぐ後ろで、陸型の1体が吹き飛んだ。

 一方、先頭を走るバイク組も、

「右、空から!」

 和紗が叫び、リーゼが車体を傾ける。迫っていた空型のバルカンが、道路に無数の穴を開けた。
 アサルトライフルを掃射する和紗。銃弾がミサイルの弾頭にカンッと刺さる。

 刹那、誘爆。

 姿勢を崩した空型が、バルカンを乱射しながら錐揉み落下。その流れ弾にシェリアが咄嗟に頭を下げると、次の瞬間、車体の屋根が薙ぎ払われるように吹き飛んでいた。
 間一髪。
 シェリアは安堵して視線を前方に戻――

 墜落した空型のボディが、視界一杯に広がっていた。

 爆発。
 助ける間もなく、シェリアは陸型諸共、爆炎の中に消えた。



 凛を追っていた陸型達。
 角を曲がると、エンジンが掛かったままの車が乗り捨てられていた。エンジンタンクからガソリンが漏れ出している。運転席に凛の姿は無し。
 首を回す陸型達。

 飲食店の中からその様子を窺っていた凛は、ガスボンベを抱え、食料庫にあった小麦粉の袋も持って一気に飛び出した。

 ボンベを車の横に放り投げつつ飛翔し、上空から小麦粉の袋を叩きつける。
 粉が舞い散り、陸型が一斉に凛を見上げる。プラズマ銃が向けられるより早く、凛は持っていたライターを点けようとして――

 寸前、空型のホバリング音が聞こえて反射的に回避行動を取った。
 鼻先を掠める空型の銃撃。
 一瞬にして取り囲まれる凛。だがその時、1発の砲撃が空型を穿った。

 バーニアから青白い噴射炎を吐きながら現れたのは、としおロボ。空を翔け、両腕のレールガンで空型達を狙い打つ。
 その隙に、凛は着火したライターを地面に溜まっていたガソリンの上へ投げ入れた。

 爆発。

 ガスと粉塵による燃焼も重なり、陸型の赤外線カメラは機能障害に陥った。
 直後、背後から近づいた凛は陸型が持ったままの銃にワイヤーを絡め、トリガーに指を重ねて無理矢理発射させた。銃口の先に居たのは、別の陸型。
 銃撃された個体は即座に反撃するが、陸型の陰に隠れている凛には当たらず。

 互いのプラズマ銃で鉄屑と化すマシーン。凛はそのまま、動かなくなった陸型を盾にしながら銃を掃射。そこに居た全ての陸型を撃ち潰した。

 だがその時、上空のとしおロボが空型の物量に押されていた。
 それでも空を制するべく、敵の群れへと突っ込んでいくとしおロボ。

「アイルビーバーック」

 刹那、大爆発。
 無数の鉄の残骸が降り注ぐ。

 爆風が収まり凛が空を仰ぐと、そこにマシーン達の姿は無かった。

 としおロボの犠牲を無駄にする訳にはいかない。
 凛は敵の残骸からライフル銃を取り、手近なバイクで最深部を目指した。



 突破を最優先にしてアクセルを踏み込むジェンティアン達。
 時折ハンドル片手に窓から腕を伸ばして、握り締めたマシンピストルで敵の武器を狙う。上手く誘爆させられれば御の字だ。

 そんな中、シェリアが炎に消えるのを目の当たりにしていた木葉は、すっかり恐怖に駆られてしまっていた。

「あううぅ…。もう、だめなのです。あんなのに、勝てるわけないのですよぉ…。あたしたちみんな、殺されちゃうんだぁ…」
「諦めるな!」

 叫んだのは、バイクで並走していた真一。
 自分の知っているヒーロー達は、いかなる絶望的状況でも決して諦めない。振り向かない。

「最後の最後の最後まで戦うぜ!」

 真一はバイクに跨ったまま拳を天に突き上げて、己がアウルを解き放つ。

「変身っ! 天・拳・絶・闘、ゴウライガぁっ!!」

 咆哮が空を貫き、真紅の姿がそこに在った。

「ゴウライソード、ビュートモードだ!」

 鞭剣を振るい、追い縋る陸型の銃へ巻き付けるゴウライガ。銃口がブレ、明後日の方向へ吐き出されたプラズマ弾が道路標識を吹き飛ばした。

 直後、陸型が鞭剣を掴んでゴウライガごと振り回す。しかし彼は、その遠心力を逆に利用して別の陸型へ強烈な飛び蹴りを見舞い、蹴った反動でジェンティアンが駆る車の屋根に着地。
 乗り手が居なくなった事で暴れ転がったバイクは、陸型の1体に直撃して諸共爆炎を上げた。

 ゴウライガの姿を見て、木葉の心に熱が戻る。

「そう、ですね…。あたしたちが頑張らないと…。えへへっ、ありがとなのぉ。やりますよぉ〜」

 だが次の瞬間、車の進路上に空型達が自ら落ちてきた。
 特攻。
 空型のボディに乗り上げて横転する車。同時にリーゼと和紗が乗るバイクにもミサイルが降り注ぎ、2人はバイクから飛び降りて地面を転がった。

 迫る陸型。まずは運転手を始末しようと、銃口をジェンティアンに向ける。
 だが、飛び出した木葉が身を呈して彼を庇っていた。

 応射しながら、木葉を抱えて物陰へと駆け込むジェンティアン達。

「あ、あたしは…、大丈夫、だから…、先に、進んで…」

 よろりと立ち上がり、殿になる事を選んだ木葉。

「本当は休ませてあげたいけどね、ごめん」

 木葉の意志を酌み、ヒールを掛けるジェンティアン。
 ここで止まる訳にはいかない。
 彼らは、少女に背を向けて走る。

 後ろで、幾重にも銃声が響いた……



 学園入口に到着。
 そこにプラズマ銃を抱えた凛も合流。一同は正門を抜けて校舎の中へ。

 敵がここまで入ってくる事は想定されていなかったのか、校舎内で稼働しているマシーンは生産作業用のものだけだった。

 だが後ろを振り返ると、無数のマシーンが集まって来ているのが見える。

「リーゼ、良いですか?」

 隣で和紗が呟いた。
 察したリーゼは、ただ黙って頷く。

「此処は俺達が。皆は先を急いで下さい」

 そう告げた和紗に対し、ジェンティアンは――

「任せた」

 ただ一言。
 和紗も「はい」とだけ頷く。

 ――2人なら大丈夫だと信じてるから。
 ――きっと俺達はその信頼に応えます。

 和紗とリーゼにヒールを掛けた後、ジェンティアンはPDWを構えて振り向かずに最深部へと駆けていく。

(僕は何が何でも辿りつくよ)

 他の仲間も、それに続いた。
 彼らの姿が見えなくなった後、眼前の広場には迫り来る敵の大群。

「リーゼ」
「?」

 不意に名を呼ばれて振り向く。

 瞬間、和紗は彼のシャツの胸元を握り引き寄せ、その唇に自らの唇を重ねていた。

 思いもしなかった彼女の行動に、リーゼは微かに目を見開く。

「謝罪は後でします。…ですから生き残りましょう」
「…わかった」

 棚やそこに積まれていた資材を蹴り倒して、簡易バリケードにする2人。

「射手の意地です」

 冷たい駆動音を轟かせる鉄の軍勢へ向けて、2つの銃口が瞬いた。



 最深部に到達。
 天井のあちこちから、配電用のケーブルがカーテンのように幾重にも垂れ下がっている。中央には電力を供給する為のプラグが刺さった台座が1つだけあり、そこには――


 何も居なかった。


 そんな馬鹿な。
 だがその瞬間、ケーブルカーテンの向こうから何かが飛び出してきた。

 ジェンティアンは咄嗟にシールドで受けるも、凄まじい力で突き飛ばされる。

 銀髪のツインテール。黒い大学部儀礼服。
 それは紛れも無く、オリジナルモデルのロペ子だった。

 ――スペックデータ上はオリジナルに戦闘機能は無いという事になっているが、生産ラインすら自分達だけで回せるようになったロボの本体がいつまでもそんな脆いスペックのままかどうかは……

 ウィーム
 ロペ子の首が振り向く。

 だが今更怯んでなどいられない。

「人類の底力を思い知りなさいませ」

 凛がプラズマ銃を撃ち放つ。
 だがオリジナルは陸型よりも装甲が強化されているらしく、プラズマ弾を受けても衝撃で僅かに揺れるだけだった。

 今度はゴウライガが飛び出し、ロペ子の両腕を押さえ込む。
 一瞬でも良い。カードを差し込む隙さえ作れれば……
 しかし大型重機並の出力を持つロペ子は、逆にゴウライガの手を掴んでねじ伏せようとしてくる。彼の腕が軋みを上げたその時――

 1台の原付が、真横から猛スピードでロペ子に激突した。

 屋根のもげた、ボロボロの原付。

「私が居なくて寂しかったですか?」

 スロットル全開でロペ子を壁に押し付けながら振り返ったのは、にやりと口端を上げて笑うシェリア。
 更にその彼女の腰にしがみついて同乗していたのは、

「ロペ子ちゃんにお仕置きなのですぅ。メッ! なのですよぉ!」

 木葉だった。

 だが次の瞬間、ロペ子の首がギュルンと振り向き、アイレンズからレーザーを照射してきた。
 慌てて原付から飛び降りて躱す2人。

 左半身が壁にめり込んでいたロペ子は、刺さって抜けなくなった左アームを強引に引き千切って壁から抜け出ると、無人になった原付を右手で掴んで鈍器のように振り回した。

「仕方ないね、本気出すわ」

 倒壊した機材に埋もれていたジェンティアンが、むくりと身を起こす。
 眼鏡を投げ捨て、凛のプラズマ銃が原付を吹き飛ばした隙に、破片を浴びるのも厭わずロペ子の懐へ接近。
 その左手にはメモリーカードが。

「これで僕達の勝ちだ」

 だがその直後、カードを持った彼の左手をロペ子の手が掴む。
 めきりと嫌な音がした。

 激痛に一瞬眉を揺らすジェンティアン。しかし――

「残念、本物こっち」

 彼は右手にもカードを持っていた。
 左のカードはダミー。
 瞬間、本物のカードをロペ子の口に突き入れる。強制ロード開始。

 プログラムの処理にCPUを占有され、一時的に動きが止まるロペ子。
 やがて強制ロードを終えたプログラムが発信――



 弾も切れ、完全に取り囲まれた和紗とリーゼ。ここまでかと死を覚悟した2人が手にしたのは、爆薬に繋げた起爆スイッチ。
 殿だけは必ずやり遂げる。
 眼前の敵ごと追手の進路を潰すべく2人がスイッチに手を掛けたその時、唐突にマシーン達の動きが停まった――



 ――だが、オリジナルモデルはまだ停止してはいなかった。

 密着したままのジェンティアンへ向けて、オペ子のアイレンズが赤い光を発する。

「危ない!」

 寸前、シェリアがジェンティアンを横から突き飛ばしていた。
 彼の代わりに胸にレーザーを受け、頽れる。

「最後に…ロペ子擬人化の壁ドンを書きたかった……がくっ」

 再度、ロペ子の目が光る。
 だがその時、天井を突き破って別のマシーンが落ちてきた。

 としおロボ。

 半壊した全身から火花を吐きながら現れたロボは、ロペ子に組み付いてガッチリと押さえつける。

「イマノウチニ 逃ゲテクダサイ」

 しかし出入口は戦闘の余波で倒壊。
 するととしおロボが、隅に設置されていた冷却用貯水プールの方を向いた。

 外の海面まで繋がっている。

 飛び込む一同。
 それを見送り、自爆モードを起動するとしおロボ。

 メモリーチップに、としおと楽しく暮らしていた頃の映像が走馬灯の様に再生される。

「トシオサン マタ 一緒ニ……」






 ――カッ!!



















 海から上がり、巨大なクレーターと化した学園跡地を見渡す一同。
 その中には、同じく海に飛び込んで爆発を逃れていた和紗とリーゼも居た。

 リーゼの方を向く和紗。

「…約束の謝罪を。如何様な罰も受けますので、どうぞ。申し訳ありませんでした」

 引っ叩かれても構わないと、目を閉じる。
 対してリーゼは、徐に自身の帽子を彼女の頭に目深に被せ、

「この戦いが始まる前、新しいカクテルを考えていたんだが中々上手くいかない」

 試飲に付き合ってくれ、と。
 和紗は帽子を目深にしたまま、

「…ノ、ノンアルコールでよければ」
「え、ちょっと何? 2人何かあったの?」

 隣でジェンティアンがハンカチぎりぃ。

「姉様……」

 一方、最後の最後で命を落としたシェリアの事を想う凛。だが、

「誰かー。引き揚げて欲しいですー」

 なんと木材にしがみ付いて海面に浮かぶシェリアの姿が。
 懐に入れていた腐本の表紙がラメ加工だった為、レーザーが拡散した。

 凛達の手を借りて、陸へ上がるシェリア。



 ――この日人類は、自らの手で未来を取り戻した。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 紅茶神・斉凛(ja6571)
 絆は距離を超えて・シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
重体: −
面白かった!:7人

天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
秋水 橘花(jc0935)

高等部2年18組 女 阿修羅