「飲めばたちどころに大きくなる魔法の牛乳…それさえあれば、私もお姉ちゃんみたいに熟れ頃バインバインに!」
天宮 葉月(
jb7258)が拳を握る。
私は知ってる…拘りが無いとか何とか言っても、男の子は大きい方が嬉しい…。お姉ちゃんが悪戯してくっ付く度に彼、微妙に嬉しそうだったし…。
「だけどこれで負けない!」
「もう大きくなる必要無いと思うのですが…」
「大きく…」
そんな葉月に嫉妬の目を向けたのは夜雀 奏歌(
ja1635)とRehni Nam(
ja5283)。既にEランクの葉月の胸を見ながら、自らの絶壁をペタペタ。
その横で、エリスもこっそり自胸をペタペタ。
気づいた奏歌がエリスにハグしながら、胸をペタペタ、頬スリスリ。
ぺたー
「エリスちゃん、大きくなろうね!(こくり」
「いま何を納得したの(ぎりぃ」
「ね、エリスちゃん!!(ぽむ」
手を取る奏歌、歯軋りするエリス、肩ぽむするレフニー。
一方、
「大きくなる、か…今度こそ当たりだといいんだが」
志堂 龍実(
ja9408)。大きくなれると聞いて参加。胸が、ではない。身長が。
とは言え、やはり胡散臭い。
「その割に随分なフル装備ね」
「あぁ、何事も用意は必要だからな!」
強く頷く龍実。
サファリハットに双眼鏡、方位磁針、フラッシュライト、テントに寝袋etc.
やる気勢である。
「宝探しっ! 楽しそうですねっ!」
同様に、青鹿 うみ(
ja1298)もウキウキ気分。
ヒップバッグに冒険グッズ満載。大自然の中を探検するなど、故郷の村に居た時以来だ。
そして元気印では負けていない、お茶汲み天使マリス・レイ(
jb8465)。
「正直ひほーとやらに興味は無いが川くだりで遊べると聞いてついてきました!(きりっ」
自分の大小には頓着せず。
しかし、もしリーゼ(jz0289)が大きいのが好きと言うのなら秘宝を探すのも吝かではない――
――くしゅん
「……?」
リーゼは小さなくしゃみを零し、誰かに呼ばれたような気がしてキョロキョロと首を巡らせた――
「でもエリスちゃんは背も胸もそのままで可愛いと思うけどなー…複雑なオトメゴコロってやつだね!」
「お嬢が望むのならば…手に入れて見せよう、その秘宝とやらを!」
「1万年前に滅んだ古代文明の秘宝とはパチもんk…浪漫ですね。エリスが手に入れたいのなら俺も協力しましょう」
そう宣言したのはディザイア・シーカー(
jb5989)と樒 和紗(
jb6970)。
「秘宝はお嬢に献上しよう。俺はこれ以上でかくなってもな」
「ああ、俺の分もあげますよ。特に大きくなりたいところはありませんので」
身長166cm、バストE。
「むきゃー!」
奏歌のアホ毛がぶんぶんと暴れ狂う。
対してうみも、
「私も小さいのは別に、お母さんが好きといってくれるので問題ありませんっ。だからエリスちゃんが使っていいですよっ!」
「みんな……」
3人の優しさ?に(小さい)胸を打たれるエリス。
「さぁ、ぼうけんはここからだ!」
全力で護ってやろう、全てはお嬢が秘宝を手にする為だけに!
●
「さて…冒険家たる者、細心の注意を払って進まねば…!」
意気込んで龍実が切り出す。
謎掛けその1:青き道
「やっぱり、川のことですよね…」
うみの言葉に全員が頷く。
地図には「溺れぬ魚だけが彼の地を見る」とある。一同は筏を造って川を下る事に。
さっそく和紗が霧氷で手頃な木をバッサバッサ切り倒――せなかった。
「疲れました、後は任せます」
近接武器の扱いに慣れておらず、1本目で挫折。射手だからね、仕方ないね。
代わりに葉月が一刀両断。長さはレフニーが包丁一閃で整える。
「滝が3箇所程あるようだ、ロープで掴まる所を幾つか設けとくと良いだろう」
「組み立ては頑張ります」
ディザイアが丸太を担ぎ、和紗も伐採をサボr…もとい手伝えなかった分を取り戻すべく、縄で丸太をせっせと縛る。マリスや奏歌もお手伝い。
その間、葉月は川の様子を見に探検へ。
1人だと不安なのでエリスも(道)連れに。
お喋りしながら、隣を歩くエリスを撫でる。
「私の知り合いにもっと背が低い娘も居るから気にしなくていいと思うよ? 可愛いし」
「べ、別に私――」
「まあ、その娘はCだけど」
「……」
「ところでエリスちゃん、友達が度々お世話になってます」
「友達?」
「ほら、あの金髪お嬢様」
「……ああ、もしかしてリd――」
ぱしゃんっ
その時、不意に大きな水音がして2人はびくりと固まった。
ガサガサ
次いで、後ろで草むらが揺れる。それは徐々に2人の方へと近づいてきて――
「筏が出来たぞ」
現れたのは龍実だった。
2人はハァ〜っと安堵し、皆の元へ引き返した。
予備の丸太も乗せて、筏完成。
が、これで滝落ちに耐えられるかどうか。奏歌が不安げにごちる。
「落ちるの怖いし、濡れたら服が…」
「飛べる人は筏支えてゆっくり着水できないかな?」
「落ちる時に掴まって翼を展開すれば衝撃を和らげれる筈だ」
マリスとディザイアの言葉に、龍実も頷く。
そして川下り開始。舵は和紗が取る事に。
岸壁にぶつからぬように舵取り棒で水を掻いていると、
ごりっ
「…あ。今何か突いたような」
刹那、
ざばぁ!
水中から巨大な白ワニが飛び出してきた。
バキィと舵取り棒を食い折られる。更にその直後、1つ目の滝が迫り、川が激流へと変化。
「お嬢、大丈夫か? しっかり掴まっとけよー!」
ディザイアが叫ぶ。同時に、レフニーが筏にアウルの鎧を纏わせて耐久強化。
最初の滝は大して高低差が無く、飛行スキルを使うまでもなく着水。ワニも着水。
そしてすぐに2つ目の滝が近づき、落下。1つ目よりは高かったが、強化筏で悠々クリア。ワニも追随。
そして最後の滝は……
下が見えなかった。高すぎる。
だが今更止まれず、強制ダイブ。
落下風と飛沫に濡れながら、縄で編んでおいた取っ手にしがみ付いた。飛行組も即座に翼を広げ、筏を支える。しかし、
どしっ
一緒に落ちてきていた白ワニが筏に便乗して大暴れ。飛行組を尻尾で蹴散らし、再び自由落下を始めた筏の上で大口ガパァ!
瞬間、奏歌が積んであった予備の丸太をワニの口に差し込んだ。
よろけて筏から放り出されるワニ。再度エアブレーキをかける飛行組。だが勢いは殺しきれず――
どっぱーーーーん!!
「ぶはっ。し、死ぬかと思った……」
何とか全員、無事に水面から顔を出した。
仰向けでプカリと浮かんでいる白ワニを尻目に、岸に上がる。
一旦テントで服を乾かしてから、再出発。
やがて、遺跡が見えてきた。
●
「この先に秘宝が…頑張るです!」
謎掛けその2:背の高き贄を捧げよ
「「背の高き贄…」」
ディザイアに注がれる視線×8
「はこぶのはまかせろー!」
バキバキー、と筏をバラして贄用の丸太にするディザイア。
だからそのめを…おれをいけにえにするのはやめるんだ!
「…はっ! だ、大丈夫ですっ、きっと丸太で何とかなるのですっ!」
それを見て我に帰ったうみは、気を取り直して入口を観察。天井だけ色が違う。吊り天井トラップで間違い無さそうだ。
床の小石が粉々に砕けている事からして、天井は相当に重いらしい。
「というか、全力で走っても間に合わないのです?」
首を傾げたのはレフニー。
自身のヒリュウ『大佐』を呼び出して、試す事に。
大佐は葉巻を咥えたふてぶてしい態度で渋々頷くと、宙を翔けて入口に突入――
ぶおん!
カーン!
「あだ?!」
瞬間、通路の壁から岩の柱が飛び出してきて大佐をホームラン。
召喚主であるレフニーのおでこも赤くなる。
「ぎゅい! ぎゅい!!」
タンコブ大佐に「無茶させやがって」的なお説教をされて、めそっと正座するレフニー。
立ったまま入るのは無理らしい。
しかしそれを喜々として受け入れたのは奏歌。
「匍匐全身で進みましょう!(胸が潰れるが良いのです…(ぼそっ」
零れた怨念には気づかず、一同頷き。
「ついでに台車でも作っとくか」
ただ這うより楽だろ、と。一旦丸太を降ろし、その内の1本を板状や車輪状に削り始めるディザイア。試作1号完成。
だが、出来上がった台車の調子を確かめようとしたその時、
グルォアー!!
突然背後から白ワニが襲いかかってきた。
まだ生きてた。
「うお!?」
咄嗟に試作1号を盾にするディザイア。
台車バキムシャア!
「今のうちだ!」
ワニが台車を噛み砕いている間に、各自丸太を持って遺跡に突入。匍匐で。
吊り天井作動。ゴゴゴと落ち始めた天井に向けて、丸太を立てる。今度は壁から柱は出てこなかった。
そのまま這い進む9人。
メキメキと砕け始める丸太。
ふと、葉月が少し遅れていた。
「何がとは言わないけど引っ掛かって上手く進めない!」
「「すり減ればいい(ぎりぃ」」
ぺたーずからの温かい声援を受けて、葉月も何とか通過。直後、全ての丸太が粉砕されて天井ずしん。
間一髪だった。
やがてゆっくりと戻り始める天井。ワニが入ってくる前に先へ進もう。
●
謎掛けその3:されど手を触れるなかれ
「壁は元より、足元や天井も危険です、分担して見ましょう」
右手の法則。
ペンライト片手にペンデュラムを吊り下げ、自分達が上っているのか下っているのかを確認しながら、慎重に右壁に沿って進むうみ。
レフニーとマリスも星の輝きを使って辺りを照らす。
「ああ、なんか冒険してるって気分になるな」
槍型魔具を10フィート棒代わりにして先頭を歩いていたディザイアが、感慨深げにごちる。
一方、オイルライターで足下を照らしながらメロンパンを千切る奏歌。道標にパンくずを撒きながら、曲がり角では地面に矢印を彫る。
「右…右…頑張る…右、右」
「お絵描きですー♪」
時折ラクガキを織り交ぜる奏歌を見て、レフニーもレフにゃんマークをカキカキ。
地図の言葉に従い、決して壁には近づかずに歩く一同。
だが、そんな中で和紗が、
「壁に手は触れ…ませんよ?…多分…少しだけ(うず」
……ぺた
がこんっ
瞬間、何かの作動音。
地響きを轟かせながら、前方から大岩が転がってきた。同時に、後方の床がパカリと開いて崖と化す。
が、全力で跳べば越えられない幅ではない。
即座に助走をつけて穴の向こうへ退避…と思いきや、エリスが躓いて転倒。滑り落ちるように穴の中へ。
ぱしっ
それを見事にキャッチしたのはうみ。壁走りで崖に張り付きながらエリスの手を掴んで引き上げる。
直後、転がってきた岩だけが穴の中へと吸い込まれていった。
再び穴を跳び越えて前進再開。壁の所々に、ヒト1人が入れそうな隙間のある通路に出た。
地図の絵にある矢を警戒して盾を構えるマリス。
「仮にもアスヴァンだし頑張ってエリスちゃん守るよ!」
「あ、ありがと」
嬉しいやら申し訳ないやらで、地図で顔を隠すエリス。
そしてもう1人盾を構えていたのは、葉月。転ばぬよう慎重に歩k――
ガッ べしゃあ
かちっ
ヒュン ドスッ
龍実の頭上を矢が掠め、サファリハットが壁に縫い付けられる。
頭は無事だ。あと1cmでも身長が高かったら危なかった。
「助かったのにあまり嬉しくない……」
矢を抜いて、帽子を被り直す。
だが作動したのは矢だけにあらず。地響きがして岩ゴロ再び。
それぞれ壁の隙間に身を隠して退避。
が、何やら和紗が焦っていた。
「くっ…岩と壁の隙間に逃げ込めない。邪魔で」
「「もげればいい(ぎりりぃ」」←隙間に入ってなお隙間がある者達の声
咄嗟にデッキブラシ型の魔具を実体化して、床の凹凸につっかえる。
ガカァ!と、けたたましい音がして岩停止。
「これが無ければ危ないところでした」
しかしこれでは通れない。
するとマリスが岩へと近づき、
「ぱーんち☆」
ドゴォン!
インパクトの一撃で粉砕した。
壁伝いに行ったり来たりで、そろそろ方向感覚が危うい頃。
「大丈夫です。目印残してますし」
「千切ったメロンパンもあります」
レフニーが頷き、最後尾の奏歌がパンくずを振り返――
グルルル……
サーベルタイガーが居た。
「はぅあ!?」
奏歌のアホ毛がぴーんと逆立つ。
遺跡内で放し飼いにされていたらしいその猛獣が、パンくずむしゃむしゃ。
こんな事なら自分で食べれば良かった!…もとい、無駄に戦いたくない!
パンくずに気を取られている猛獣を刺激しないよう、息を潜めて後退る奏歌。だがしかし、
「かわいいもふもふだー!」
目をきらきらさせて突撃するお茶天使。おいばかやめろ。
がぷっ
あぐあぐ
ぺっ
お茶がやられた!
こちらに気づいた猛獣が、ゆっくりと歩いてくる。
とその時、レフニーは猛獣のすぐ足下に怪しいスイッチがあるのに気づいた。
このままでは踏まれる!
盾を構えて飛び出すレフニー。
肉球ぱんちドゴォ!
レフニーもやられた!
こいつ強い!
だが幸いにも敵は後方。ならば……
和紗は猛獣対策に隠し持っていた胡椒爆弾を投げつけ、目鼻潰し。その隙にディザイアがマリスを、葉月とエリスがレフニーを抱えて全員脱兎。
更に、うみのヒップバッグから漂う美味しい匂いに気づいた奏歌が、中身をごそごそ。カツサンドぽーい!
「うわん、おやつのカツサンド――!」
何とか振り切った。
●
そして辿り着いた最奥。いかにもな宝箱を開けると、入っていたのはパックの牛乳。
胡乱げな目をする和紗やディザイアとは対照的に、エリス達は何の疑いもなく目を輝かせる。
エリスたちは ひほうを てにいれた!
さっそく宝箱から取り出すと――
急に遺跡全体が揺れだした。
「崩れるぞ! お約束だ!」
どこか嬉しそうに龍実が叫ぶ。
宝箱ごと抱え上げて脱出。
崩壊が始まっている為か、既に猛獣の姿は無く、トラップも作動しない。降り注ぐ瓦礫を避け、穴を飛び越え、『右右頑張るレフにゃんマーク』を辿って全力疾走。
出口から飛び出した瞬間、遺跡は跡形も無く崩れ落ちた。
●ひほう
崩れた遺跡の前で喜びを分かち合うレフニー、奏歌、葉月、龍実、エリス。
「これで憧れの…!」
「これが…秘宝。年相応の身長と胸が手に入りますように…」
「せっかくだからあたしも飲もー!」
マリスも加わり、6人は腰に手を当てぐびっと――
ぶほぁ!
噴いた。
「…やはり腐ってましたか」
1万年前の牛乳。
口から白液を垂らして横たわる6人を見て、和紗が呟く。
「ピクピクしてるお嬢も可愛いな」
頷きながら、ディザイアとうみは奏歌が握っていた発煙筒で回収要請の狼煙を上げた――……
目を覚ますと、病院のベッドだった。
「撃退士じゃなかったら今頃死んでますよ」
医者の言葉を聞きながら、死んだ魚のような顔で天井を見上げる。
ぼんやりと自分の胸や身長をぺたぺた。
「「あれ!? でもちょっとおっきくなった!?」」
「気のせいですよ」
ばっさり。
「お薬出しておきますから、1日3回毎食後に飲んでくださいねー」
悲報。
泣かない。
泣かないったら泣かない。
運ばれてきた病院食の牛乳を啜る。
少しだけ、しょっぱい味がした。