(自分の名前とか嫌いなのはわかるけど…後悔するのは君なんだよー…?!)
と、かつてフランス人を自称していた九鬼 龍磨(
jb8028)は思う。
アウル覚醒者らしいので、益々他人事とは思えない。依頼目的であるグッズの死守は勿論だが、それとは別に花子も何とかしてやりたい。
一方、その後ろでは、
「目的は『美少女グッズの死守』? おう、助けてやるよ(依頼主を助けるとは言ってない)」
含みのある物言いで馳せ参じたJC、玉置 雪子(
jb8344)。
契約大事。契約遵守。依頼書とネトゲのアップデート内容は細かい文字まできちんと読むのが雪子のマナー。ただしユーザー規約は読まずに登録。どうせどのゲームも内容同じですしおすし。
雪子はマンション近場にトランクルームを手配し、隆司の部屋からせっせと美少女グッズを運び出した。
一緒に居た桜花(
jb0392)や武田 誠二(
jb8759)もそれを手伝う。
「隠すのが部屋の中じゃ、アウル暴発したらアウトだろ」
「1ヶ月ぐらい入れときましょう。今回止められても、後々また来ないとも限りませんし」
隆司に説明する誠二を見て、龍磨も参加。
グッズを痛めないように布で包んだり新聞紙を詰めたりしつつ、段ボールに入れてトランクルームにIN。
「え。1ヶ月もグッズ無しの部屋とか、それはそれで心が痩せるんですけど」
何とかして、と縋りつく隆司を振り解きながらある事を思いつく誠二。
「ついでだから、一部始終動画に撮って残しとくか」
明日来るであろう電波娘の姿を。
将来万が一にでも更正したら、クッションに顔を埋めて身悶えるがいい。
彼は「デジカメ貸してくれ」と隆司を引きずっていく。
それを他所に、興奮した様子でグッズの数々を漁るファリオ(
jc0001)。
「これは限定バージョンのフィギュア! ネットオークションが高騰しているのに……っ!!」
アニメとか大好き。
「電波少女にロックオンされるなんて運が無いね」
ま、私としては非常に愉快で楽しめそうなんだけれど。
作業を手伝いつつも、俯瞰的な態度で微笑を浮かべるハルルカ=レイニィズ(
jb2546)。
ほどなくして、グッズ退避完了。
「これで目的の『美少女グッズの死守』は完 全 達 成したので以下レスひ不要です。雪子、ちゃんと仕事したので帰ります」
謙虚な雪子は踵を返して帰ろうと――
背中に突き刺さる、一同の視線。
「アッハイ、サーセンしたちゃんと仕事します」
とんずら失敗。よろしいならば戦争だ。
とは言え、花子が来るのは明日。
「皆さんでお泊り会するんですわ? お?」
大丈夫。お菓子とジュースは持ってきた。
●
「花山の家に着いた、これから聞き込みする」
向坂 玲治(
ja6214)は受話器越しに誠二へと告げ、携帯をしまう。
――隆司が拾った保険証に記載されていた住所。
花子の自宅を見つけた玲治は、近隣住民に彼女の話を聞いて回った。
曰く、愛想は良いが夢見がちな変わった子。
両親も娘の妄想癖には困っているとぼやいていたが、親子仲が悪いわけではない。
要するに、普段から電波ゆんゆんらしい。対して親はまともそうだが、抑止力としては期待できそうにない。
聞き込みを終えた玲治は薄ら寒いものを感じながら、物陰に隠れて花山宅を監視。すると、家の中から花子が出てきた。
隠密スキルも駆使してこっそり後をつける……が、何の事は無い。スーパーで夕飯の材料を買っただけだった。
玲治は携帯のカメラで花子の姿を隠し撮りし、翡翠 龍斗(
ja7594)の携帯へと送信した――
斡旋所で借りたバイクを停め、眼前のアニメショップを見やる龍斗。
――隆司本人から聞いた、行きつけの専門店。
花子はいったいどうやって隆司をターゲットに選び、その自宅を突き止めたのか。それが気になっていた。
その時、龍斗の携帯が鳴る。玲治から花子の写メ。
仮に花子が店でバイトでもしているとしたら、会員情報などから隆司の住所を特定する事は容易い。客として訪れた彼に一目惚れし、凶行に及んだ……そう推測したのだが、
「いやー、こんな子、ウチには居ないっすね」
どの店員に聞いても、返ってくる答えは同じだった。
ふと、斡旋所で依頼を受けた時に雪子が言っていた言葉を思い出す。
『まあどうともなく、多分その辺ですれ違って一目惚れした後にスネークしたんだと思うんですけど』
結局、そういう事だったらしい。
龍斗は一旦、玲治と合流する事にした。
その頃、お泊り会で盛り上がる雪子達。
せっかくなので隆司セレクトのアニメがどんなものなのか見てみよう、という流れになるも、BDやDVDはトランクルームの中。
と思いきや――
「じゃあコレ見ましょう」
喜々として、隠し持っていたアニメのBDを取り出す隆司。しかもロリっ子モノ。
「ここにあったら意味ないだろコレは俺が預かる」
ガタッと立ち上がって懐にしまう誠二。
断じてロリに反応したとかそういう個人的理由などではない。はず。
●翌朝
合流して花山宅前で張り込んでいた玲治と龍斗。
2人が監視する中、玄関を開けて花子が出てきた。隆司の家に向かうようだ。
龍斗と共に彼女の後をつけながら、玲治は誠二の携帯を呼び出した――
トゥルルルル
着信音が鳴り響き、誠二達はハッと目を覚ます。しまった。夜通し騒いで寝てしまっていた。
慌てて電話に出ると、玲治から「花子が家を出た」との知らせ。
電話を切り、誠二はデジカメの準備。龍磨は着替えの為に隆司の寝室を借りた。
やがて、インターホンが鳴り――
「おはようお兄ちゃん!」
遥もとい花子襲来。
こちらが返事をするよりも早く、交換したばかりのチェーンと鍵を引き千切って押し入ってくる電波娘。だが、
「梅原邸へようこそ。歓迎しよう、盛大にな!」
サメ帽子を被った雪子が、リビングの真ん中でお菓子とフルーツとジュースを広げて待ち構えていた。
何も最初から敵対する必要はない。1000年前の生まれ変わりという妄想にもフレンドリーに付き合ってあげる所存。
「だ、誰あなたっ。サメの頭……ハッ、まさか海神ポセイドンの…!?」
「そこに気付くとは…やはり天才ですね」
同じ時代を生きただけのことはあるなー。
「世を忍ぶ為に今は雪子と名乗っています」と自己紹介しつつ、先読みスキルも織り交ぜて『遥』の妄想に乗っかる雪子。するとそこへ、
「お姉様! あれから2万年、ようやく巡り会えましたね!」
寝室の扉をバァンと開け放って、龍磨が飛び出した。
筋骨隆々ピッチピチの水色アイドル衣装で。
「性別の壁で結ばれなかった私たちですが、見て下さい! ステキな殿方になれたでしょう!?」
自らの“盛装”を見せ付けながら、花子へとにじり寄る25歳男――いや、今は古代アトランティス巫女の生まれ変わりか。
「えっ?」
それに驚いたのは花子…ではなく、隆司。
いきなりどうした、と目を丸くして固まる。
肝心の花子はと言えば、
「うっ、頭が……」
頭痛が痛いと呻いてよろめく。直後、
「アムスタティク……あなたまさか、アムスタティクなの!?」
思い出したよ!と顔を上げて龍磨の存在に順応してきた。電波って恐い。
「思い出してくれたのですねお姉様!」
嬉しい!と逞しい両腕を広げて飛びつこうとする龍磨。しかし――
「でもダメよ!」
ドゴォ!
花子は、龍磨の鳩尾に抉りこむようなアッパーを叩き込んでいた。
水色タイツの巨体が軽々と打ち上げられ、天井にぶつかって再び床に落ちる。
「どうしたのですかおねーさまああぁ!」
「今の私はもうお兄ちゃんのものなの!」
花子は起き上がろうとする龍磨をぶぎゅっと踏み越え、リビングに入る。
だがそれを待ち受けていたのは、
「やっと…やっとあえたね、魔女ペトロニッチァ…」
右目に眼帯を付けた桜花。だが様子がおかしい。
「忘れた? あなたは忘れても私は忘れてないよ、あなたに潰された右目の痛みは半万年経っても消えた事はないんだから…」
電波ゆんゆん。ブルータスお前もか。
対する花子は――
「うっ、頭が…!」
額を押さえて歯を食い縛る。
「あなた、アクォね!?」
思い出したらしい。
「あなたを見てから疼いて仕方ないんだよ! この右目の傷がさ!」
桜花は眼帯を外すと、光の無い義眼と右目を覆う火傷の痕を露わにしながら光纏。
「ずっと会いたかったよ! 目を潰されてからずっと貴女に会って復讐したかったんだから! アハハハハハ!」
どす黒い光の触手を撒き散らしながら、狂ったように嗤い続けた。
そこに割り込む、白い影。
「捜していたよ、エリス! 僕だよ、カールだよ! 1万年と2千年前から続く転生の輪廻! ようやく出会えた!」
割って入ったのはファリオ。
「あぁ、可愛そうに。まだ記憶が戻っていないようだね。遥というのは偽りの記憶……邪神モホロビチッチの仕業だよ!!」
「地盤か」
ぽつりと突っ込む隆司。
そして花子は、
「うっ頭が…!!」
頭痛多いなこの子。
「さぁ、一緒に行こう? 僕には君が必要なんだ。生まれる前から、転生を繰り返しても、君は僕の隣にいたんだよ……」
口説き落とすように右手で花子の手を握り、左手を彼女の頬に添えr
「許してカール!」
どんっ
突き飛ばす花子。
がんっ
柱の角に後頭部を強打するファリオ。
「さあお兄ちゃん、約束だよ。遥と一緒に行こう。雪子ちゃんそこどいて」
隆司との間に立つ雪子を見る花子。
……ん? そういえばレイニィズはどこへ――
「おや、賑やかだと思ったらお客さんかな?」
脱衣所から声がして、一同は振り返る。バスローブ姿のレイニィズが居た。
「な、なななな……」
「何も無いところだけれど、どうぞごゆっくり」
わなわなと震える花子を他所に、彼女は寝室のベッドに腰掛けて隆司に手招き。
困惑している彼を横に座らせ、優しく頭を抱き寄せて膝枕をしてやった。
蝙蝠のそれに似た自身の翼をこれ見よがしに広げ、いかにもな笑みを浮かべて花子や龍磨達をちらり。
「それで、キミ達はどちら様かな? 今日お客さんが来るとは聞いてなかったのだけれど」
2人きりじゃなかったのかい、梅原君。なんて。
花子だけでなく、龍磨達の事も含めて状況を煽ってみる。勿論、演技だ。
「出たわねサキュバス!」
「サキュバス? あんな色狂いと一緒にしないでほしいね。私はハルルカ、愉悦と享楽を司る雨の御使いさ。ちなみに清純派で売ってるよ」
クスクスと微笑するレイニィズ。
キリキリと胃を痛める隆司。だれかたすけて。
「そもそも、瞳からハイライト消せばヤンデレなんて、随分と安くなったものだね」
レイニィズが不意にダメ出しを始める。
望む相手には病的な程に一途かつ献身的で、けれど重さを感じさせない。近付く女は彼の目が届かないところで処分する。ヤンデレとはそうあるべきだ。
「『遥』君、その点キミは重すぎる。だから逃げられるんだよ。45点」
だがそれに異を唱えたのはまさかの隆司。
確かに一理ある。だがしかし、趣味が多様化した現代社会。ヤンデレにも様々なパターンがあるのではなかろうか。
ベッドの下に隠していたエロ本を発見した妹が、お兄ちゃんの前でハイライト消しになる作品とか結構あるよ?
「キミが擁護してどうするんだい」
肩を竦めるレイニィズ。
そしてそれとは別に、
「梅原ニキもベッドの下にエロ本隠す派?」
wktkした顔でベッドの下に手を伸ばす雪子。すると――
なんということでしょう。
そこにはお泊り会中に無くした(自分で仕掛けた)雪子のラビットインナーが。
「「!!」」
「oi みす おい どうして雪子の下着がこんなところにあるんですか 紀伊店のか」
滝汗を浮かべて首を横に振る隆司。
「やつはとんでもないものを盗んでいきました。雪子の下着です」
隆司に幻滅させる作戦。
怒りの矛先をグッズから隆司へと向けさせる事で、グッズの安全を確保。隆司本人の身の安全は考慮しない。
(何故なら依頼書には1文字も『梅原ニキを守る』とは書かれてませんから)
そこに気付くとは…やはり――
ずぬ
その時、雪子の体が僅かに揺れた。
すぐ後ろに花子が立っていた。
腰の後ろが熱い。
顔を向けると、深々と刺さった包丁。
「な、なんじゃこりゃあああ!?」
真っ赤に濡れた手を見て絶叫する雪子。
アカン、普通に事件や。
「大丈夫だよお兄ちゃん。お兄ちゃんを陥れようとする女は、みんな遥が処分してあげるから」
レイニィズめがけて包丁を投擲。
彼女は紫雲を纏った防御で受け止め、赤暁の光で自己回復。
「ああ、怖い怖い。怖くて死んでしまいそうだ。梅原君、どうかこのか弱い私を助けておくれ?」
「やめてください しんでしまいます」
代わりに龍磨が止めに入る。
だが花子は龍磨の腕を両手でぐっと掴み――
パァン!
瞬間、尋常ではない握力に圧迫された彼の腕の肉が爆ぜた。
それでも龍磨は、並渦虫を使ってニュクニュクと傷口の肉を再生させながら、花子へと向かっていく。
「おねーさまああぁ!」
「やめるんだエリス!」
「さぁ殺し合おうよペトロニッチァァァ!」
「雪子に……黄金の時代を……」
「まともなヤツが1人も居ないな……」
服の下にロリアニメのBDを抱えながら他人事のようにごちて、カメラを回し続ける誠二。
目的には入っていないが、このままでは依頼主のSAN値が危ない。命も危ない。
とその時、どこからともなく某忍者ロボ的なBGMが流れる。
玄関を蹴破って現れる龍斗と玲治。
烈風突で容赦なく花子を吹き飛ばし、ダークハンドで縛り上げて電撃制圧。
ようやく現れたまとも?な2人によって、事態は何とか収拾された。
「もっと現実見ろよ」
縛った花子に、ぶっきらぼうに言い放つ玲治。
誠二もカメラから顔を離し、面と向かって彼女を諭す。
「学園に来たら良い」
お兄ちゃんを守りたいなら、まずは力の正しい使い方を学べ。
その間、お兄ちゃんとはメールや電話で話せば良い。
しかも学園生になれば、もれなくヒヒイロカネプレゼント。
言いながら、虚空に魔具を実体化してみせる誠二。
「かっこいいぞ」
中二的な意味で。
「彼に相応しい人になれ」
そう言ったのは龍斗。
顔を上げた花子はむすっとしながらも……
「わかった。遥、お兄ちゃんの為に頑張る」
こくりと頷いた。
ほうっと胸を撫で下ろす一同。
玲治がにやにや笑いながら隆司の肩を小突く。
「よかったな、血のつながらない妹は好きなんだろう」
「いや、命に関わるのはちょっと」
「誰かそろそろ雪子を助けて欲しい罠」
放置されて転がっていた雪子は、龍磨の治療で一命は取り留めた。
●後片付け
作業を他所に、食い入るようにロリアニメを見る誠二。
「けしからんな」
一方でファリオも、
「こ、これは試写会限定バージョン!? オークションにも出回ってないのに!」
片付けそっちのけ。
物欲しそうな目でチラチラと隆司を見ては、その度に首を横に振られてしょんぼりしていた。