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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/25


みんなの思い出



オープニング

 1人で戻ってきた涼介を見て、ウォランは小さく首を傾げる。

「孤児達はどうしました?」

 事情を話す涼介。
 情報が漏れていた事にウォランが小さく呻く中、涼介は僅かな躊躇いと共に、

「紫電の悪魔を見つけたとして、俺達は本当に勝てるのか?」

 そんな、自身の心に芽生え始めていた猜疑を口にしていた。

「……何故そんな事を聞くのです?」
「撃退士に遅れをとる力量で、撃退庁の部隊を壊滅させた悪魔相手にどうして勝てる」
「貴方自身はどう思っているのです? 勝つ自信が、仇を討つ自信が無くなりましたか?」

 その言葉に、涼介の歯が強く音を立てる。

「聞くまでもない。どんな事をしてでも、俺は仇を討つと決めた」
「ならば何の問題もありません。その強い怒りの感情は、きっと貴方に力を与えてくれますよ」

 強烈な感情は、時に肉体の限界を超える事もある。
 自分の傷が、まさしくそれを実証している。

「仇を討ちたいと願う貴方ならば、必ず勝機はあります」
「……わかった」

 やがて涼介は、納得する事を無理矢理受け入れるかのように頬を強張らせたまま、しかし酷く弱々しい様子で頷く。

「それから、学園生達はハルやその主は俺達が追ってる紫電の悪魔じゃないと踏んでいるようだった。アンタに嫌味を言うつもりはないが、ハルの主は力の全てをハルに譲渡していて、とても戦闘が行なえるような状態じゃないらしい」

 瞬間、目深に被ったウォランのローブがぴくりと揺れた。

(主が眷属に全ての力を移譲……?)

 ローブの下で、ウォランは密かに眉根を寄せる。そんな愚かな主が存在する訳がない。
 だがそれを見せる事無く、彼はこくりと頷きだけを返す。

「……そうですか。ではその件についても、もう一度慎重に調査する必要がありますね」
「ああ。……それと、あの男は本当に信用していいのか」

 涼介が問うたのは、リーゼの件。
 廃屋でその名を聞いた時の学園生の素振りが、少し気になっていた。リーゼと学園生側は顔見知りなのではないか。

「そうでしょうねぇ」
「味方と思って良いのか」
「少し前に貴方が栄一と戦っていた時、すぐ傍で撃退士達の横槍を防いでくれたのは他でもない彼です」

 あの時に学園生の邪魔をしておいて、今更こちらの邪魔をするとは考え難い。
 そして何より……

「貴方は、彼の眼を見ましたか?」

 あれは人の世に絶望した者の眼だと語るウォラン。
 嘆き、悲しみ、怒り、その果てに全てを見限った、憂いの瞳。なればこそ、復讐を果たさんとする自分達の志に同調してくれた協力者なのだと。

「それでも気になると言うのであれば、直接彼と話してみてはどうです?」
「……いや、別にいい」

 正直、リーゼそのものについては大した関心は無い。自分の目的はあくまでもこの手で仇を討つ事だ。その邪魔にならないのであれば、何でも良い。
 それよりも今は、

「直にあの人が来る。今度こそ、ケリをつけてやる」
「この場所を教えたのですか!?」

 明らかな動揺を見せるウォラン。

「俺の目的は仇を討つ事で、あの人はその内の1人だ」
「……いいでしょう。貴方の気の済む様になさい」

 言われるまでもないと、涼介は栄一を迎え撃つべく部屋を後にする。

「……どうやら、彼ではこのあたりが限界のようですねぇ」

 涼介が居なくなった後、ウォランはぽつりと呟いた。
 すると、それまで奥の部屋へと続く扉の裏で息を潜めていたリーゼが、姿を見せる。

「急拵えの感情では、ブレも大きいのでしょうか」
「……」
「ここを引き払う準備をしておいたほうが良さそうですねぇ。子供達を呼んできて貰えますか?」

 そう言ってローブの悪魔は、腰掛けた車椅子を進めて奥の部屋へと消えた。

 涼介やウォランとは別の扉をくぐり、無言で部屋を出るリーゼ。携帯を取り出し、先刻届いたメールを改めて開く。
 協力要請の意も含むそのメールに対し、

『死者を出したくない』

 返信。

 遠い理想。
 だがそれでも――

「どうしたの?」

 その時、1人の少女が通路の奥から歩いてきた。
 亡くなった母親から貰ったという赤いリボンで髪を結った、幼い少女。ウォランが集めた孤児の1人だ。

「リーゼ、泣きそうな顔してる」

 リーゼはいつもと変わらぬ無愛想な仏頂面。
 だがこの少女の目には、彼のそれが、そういう風に見えたらしい。

「涼介もまた泣きそうな顔して出て行ったよ? ケンカしちゃったの?」

 くいくいとリーゼの袖を引く。

「大丈夫だ」
「みんなで仲良くしないとダメなんだよ?」

 片膝をついて身を屈めながら返事をした青年の帽子頭を、少女はその小さな手で優しく撫でる。

「……そうだな」

 リーゼはこくりと頷くと、やがて少女に1つの頼み事をする。

「これからとても恐い思いをするだろうが、耐えて欲しい」

 ともすれば、それは冷酷な願い。

「リーゼ、助けてくれる?」
「……約束は出来ない。だが全力を尽くす」
「……うん、わかった。待ってる」

 不安げながらも頷いてくれた少女と共に、リーゼは他の子供達を呼びに部屋の扉に手を掛けた――


●夕刻
 学園生達と共に、涼介から知らされた情報を頼りに郊外の廃墟区画へと足を踏み入れた栄一。目的のビルが見えてきた時、その入口に面したスクランブル交差点の中心で涼介が待っていた。
 学園生達に下がっているよう頼み、単身、涼介の許へと歩いていく。

「涼介……」
「……俺はアンタを許さない」
「それが、お前の望む結末か」

 涼介は答えない。その姿は、迷っているようにも見える。
 だがそれを振り払うように、やがて彼はその手に双剣を握り締めた。

「……いいだろう」

 応じ、栄一も双剣を手にする。
 一呼吸の後、

 踏み込んだ互いの剣戟が甲高い音を立てた。

 幾度もの衝突。その度に閃光と衝撃波が辺りに轟く。
 優勢はやはり涼介。目まぐるしく得物を切り替え、ついには栄一の剣を弾き飛ばしてその身を地へと叩き伏せるに至る。

 だが、そこまでだった。
 切っ先を栄一の喉元に突きつけたまま、最後の一手が押せない。

「どうした、涼介」

 見つめ返してくる栄一の声がひどく優しくて、涼介の頬には知らず涙が零れていた。

「俺は……俺はただ、幸せになって欲しくて……」

 ――ねえ? あなたの大切な人は、今のあなたを見て、安らかに眠れるでしょうか?

 ――誰かに責められて楽になる心があるように、誰かを責めてないと、ダメになってしまう心もあるんですね

 わかっている。こんなものはただの八つ当たりで、もし幸恵が生きていたら決して見過ごしはしないであろう事も、榊 栄一という人間がこういう男だからこそ、幸恵も、部隊の皆も、そして自分も、心惹かれていたのだという事も。
 本当は、わかっていた。
 ただ、他に感情のやり場を見つけられなかっただけなのだ。

 逃げていたのは、自分のほうなのだ。

「俺は――」



 その時、何かが涼介の胸を背後から穿った。



 何が起きたのか分からず、頽れた涼介を栄一が咄嗟に抱き止める。

「使えませんねぇ」

 顔を向けた先には、ウォランの姿。

 その両腕に紫電を纏い、立っていた。

「ま…さか……」
「えぇ、そうです。私ですよ、貴方達の部隊を襲ったのは」

 もはや駒としての価値どころかただの足枷でしかなくなった涼介を切り捨て、全ての真相をぶちまけた。

「貴…様ァァアア!!」

 叫んだ彼の口から血が零れる。

「煩いですねぇ。もういいです、消えてください」

 そう言って、ウォランは多数のディアボロを嗾けた。

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リプレイ本文

 ――少し前。

「やっぱり通報全部リーゼちゃんが絡んでるんじゃないかなー」

 少なくとも直近のはそうだよね、と砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)がごちる。
 彼は樒 和紗(jb6970)にリーゼからの返信の有無を尋ね、メールを見せてもらう。

『死者を出したくない』
「ふーん……」

 何か思う所があったのか、徐に自分の携帯を取り出してリーゼ宛のメールを打ち始めるジェンティアン。

『利用と協力は違う。意味分かるよね? 僕は和紗ほど人を信じない。だから和紗裏切ったら許さないよ(はぁと』

 送信。
 彼の性格は知っているつもりだし、嫌いでもないが、それはそれ。しかし顔には出さず、ジェンティアンはしれっとした様子で携帯をしまった。

 一方、和紗は、

『リーゼが正しいと思う事を。1人でない事は忘れないで』

 彼が誰かを…ともすれば関わる者全てを守ろうとしている事は、想像に難くなかった。故に、彼を信じる。
 メールを打ち、彼女は送信ボタンに指を乗せた――



「おや大変」

 頽れた涼介と呼び出された銀の群れを見て、駆け寄るジェンティアン。

「あれは紫電の悪魔?!」

 群れの後ろに立つ悪魔の姿に、Rehni Nam(ja5283)も反応。
 だがすぐに涼介の状態を思い出し、庇うように位置取って『生命の芽』を試みる。

 出血が止まり、傷もぴたりと塞がった。

「これで傷は癒えました。…大丈夫ですか?」

 涼介の顔を覗きこむレフニー。

「まだ戦えますか?」

 その問いは、体の傷に対してか。……いや、

「戦い、ますか?」
「当たり前だ!」

 地面に剣を突き立てながら身を起こし、吼える涼介。

 漸く見つけた紫電の悪魔。
 騙され、利用されていた事実。
 殺す。今すぐに。

 だがそれを、青鹿 うみ(ja1298)が制止。

「助けを呼びました。今は撤退してくださいっ!」

 涼介が負傷した旨をいち早くバーのママへと連絡していた彼女は、携帯をしまいながら涼介や栄一の前に出る。
 しかし涼介は納得せず。対してジェンティアンが、

「興奮したまま斬りかかって返り討ちにでもされたら困るでしょ」

 別に僕は良いけど、と内心で付け加えつつ。
 次いで栄一のほうを振り返り、

「宍間ちゃんの護衛、頼めるよね?」

 そう言って、ヒールを掛けた。

「あ、ちなみに拒否権とか無いから」
「拒否などしない」

 彼は小さく頷き――

「だが、退く気が無いのは私も同じだ」

 涼介の隣に立ち、双剣を握り直していた。

「……わかりました。但し、今はまだ私より前に出ないでください」

 2人の返事を受け、涼介に3回分のライトヒールを掛けながらレフニーが言う。
 どのみち、撤退中の応戦は避けられない。

 斉凛(ja6571)はスッと目を細め、銀ではなくその奥に立つ紫電の悪魔へと尖った視線を向ける。

(あの悪魔が…ウォランなのかしら? 自分の部下を簡単に殺すなんて…気に入らないわ)

 そして学園生達の中でも、抑える事なく怒りを露わにしていたのは佐藤 としお(ja2489)。

「何してんだよっ!」

 普段のお調子者な彼からは想像も出来ないほどの怒気。大きく歪ませた眉が鼻筋にまで皺を刻み、荒々しい怒号をウォランに叩きつける。

「漢同士の喧嘩になにちょっかいだしてんだよ! ……待ってろよ絶対清算させてやるからな!」

 その為にも、まずは目の前の障害を排除する。
 主を護るように横並びに立ちはだかる銀。仲間達の視線も、自然とそちらへ注がれた。

「…あの甲冑さん、見覚えが…。今度は、動くのですね」

 華愛(jb6708)がストレイシオンのスーを召喚。
 防御効果を展開しつつ、こちらへ進攻し始めた銀を少し観察してみる。

 製薬会社の地下で遭遇した銀よりも、剣が小さい気がする。
 あの時は仲間が相討ちの一撃で何とか撃破した。しかし逆に言えば、たったの一撃で倒せるほど本体の防御力は薄いという事でもある。
 装甲面ではこれ以上節約の余地が無いので、移動能力の付加で増加したコスト分を相殺する為に剣を削った……のだろうか。また、その移動も何やら統率に欠けており、捕捉した敵にとりあえず突進しているだけというように見える。思考回路のコストも削っているのかもしれない。

「…なんだか、ケチさん、なのです?」

 だがカウンター特化の能力が厄介である事は確かだ。
 あの時一緒に戦っていた凛やレフニーも、同様の思いを浮かべる。

「あの甲冑には手こずりましたのよね…今度こそ駆逐してさしあげますわ」

 あの時とは違い、カウンターを突破する方法は判明している。有効なのは、連続攻撃ではなく多方向からの同時攻撃。
 ならばと、合図役を買って出る和紗。

「甲冑の剣戟を凌ぐ為、同時攻撃を。俺の攻撃を合図に合わせて下さい」

 仲間達の後方に位置して銀との距離を保ち、戦況とタイミングの把握に努める。

 瞬間、としおが頷き、

「まずはご挨拶程度にっ!」

 ウォランの動きには細心の注意を払いつつ、迫って来ていた銀達へバレットストームを見舞った。
 銃弾の悉くを、視認できない程の剣速で切り払う銀達。だがその猛射撃に紛れて、としおは右側面から銀の斜め後方へと回り込む。

 銀に目は無い。いや、感知機能としてのそれを指すのであれば、銀はその全身が目に相当する。
 弾幕に紛れるのでなく、遁甲の術のように自身の気配そのものを薄める技であれば多少は銀の感知から逃れ易くなる事は出来たかもしれない。尤もそれはあくまでも追われ難くなるという意味であり、もしも剣の射程内に入れば、瞬きをするよりも前に斬撃されるであろう事に変わりは無い。
 どちらにせよ銀が物理的な死角を持たぬ以上、としおはすぐに追走されるはずであったのだが……そうはならなかった。

 銃の射程ギリギリを保っていた彼よりも、より近い位置に別の敵が居たからだ。

 扇形の魔具を構えたうみ。
 囲まれないようにと意識しながら、側面から回り込むとしおを援護するように正面から銀へと接近。数体を引きつけて群れの密度を下げる事で、和紗や仲間達の射線を通り易くしようとしたのだが――

 数体どころか、8体全てが一斉にうみへと群がった。

「うわん、怖い怖い怖い―――!」

 戦場支援の白兵、陽動は忍の役目。でも、正面切っての戦闘なんて…!
 そこへ、

「…女の子怪我させるとか絶対あり得ないでしょ」

 うみが距離を詰められる寸前、防壁陣を使って体と盾を割り込ませるジェンティアン。直後、先頭に居た銀がジェンティアンを剣の射程内に捉えた。
 和紗、凛、としおの3人が咄嗟に回避射撃を試みる。

 ――だが銀の剣が速すぎて、支援する余地が無い。製薬会社の地下で遭遇した銀と同じ。
 あの時の銀よりも剣の威力は下がっているが、その絶対的な剣速は健在だった。

 初めからうみを庇うつもりで盾を構えながら飛び込んだ為、体を斬られる事は無かったが、盾越しに伝わる強烈な衝撃が鈍痛となってジェンティアンの腕に響く。
 その隙に、他の銀達も彼へ迫ってきた。

 助けなければ。
 味方を射線に巻き込まぬよう右側面から状況を見ていた華愛は、ジェンティアンに肉薄しようとしていた後続の銀が一列に重なるタイミングを見計らって、スーによるアイアンスラッシャーを放つ。
 貫通力の高い衝撃波による直線攻撃。

 しかしその一撃は列の手前に居た銀の剣で完全に打ち消され、他の銀へと抜ける事は無かった。
 どれだけ貫通力に優れた攻撃であっても、必中ではない。ならば、対象を貫ききれずに止まる可能性も然り。

 スーの攻撃と入れ替わるように、今度はとしおが銀の後方からアシッドショットによる一射。不可視の剣速は当然のようにそれを切り払うが、触れた刃先は腐蝕してぐずぐずになっていた。

 本来は相手の装甲を溶かす為の毒であったが、剣しか持ち得ず、武器と防具の区別が無い銀にとっては組成が崩れるという一点において同じ。
 流石に折れるとまではいかなくとも、ジェンティアンを襲う剣撃の威力が明らかに落ちている。

「剣を持たない騎士はどうする?」

 試すように問うとしお。しかし銀に得物の状態を考慮するだけの知能は無し。尚も構わず、不可視の速度で剣を振り続ける。

 その時、レフニーが1つの確信と共にコメットを詠唱。ジェンティアンやうみを巻き込まぬよう起爆点をずらし、アウルによる小隕石を落とす。
 ダメージを与える事は出来なくとも、切り払う際に触れた剣を通して重圧効果を与える事は出来る。

 そして、その見通しは正しかった。

 銀の動きが僅かに鈍る。
 鈍って尚、剣速の優位を覆すには至らず。それでも、多少の余裕は出来た。
 一度剣を振った後の僅かな硬直を狙って、ジェンティアンとうみが銀と距離を取る。

 再び追いつかれる前に、ジェンティアンはヒールで自己回復。

「ま、この程度どうって事ない」

 だが銀の攻勢は変わらず。

(戦わないと、みんなが傷ついちゃう…)

 意を決して顔を上げる、深森 木葉(jb1711)。
 自らの髪を結っていた大切なリボンを解いて、懐にしまう。

 それは、不殺を誓ったはずの形見のリボン。

(お父さん、お母さん、しばらく目を閉じていてください…)

 群れを率いているリーダーを止めれば、銀も停まるかもしれない。
 そう考えた木葉は、大きく迂回して、戦いを傍観していたウォランへと魔法書を向ける。

「ウォランちゃん!!」

 叫び、注意を引きながら攻撃。
 当たらなくてもいい。当たらないほうがいい。そう願いながらの一撃は明らかに直撃とは程遠い軌道であったが、ウォランは大袈裟とも思えるほど大きく飛び退いて確実にそれを回避する。

 直後、ジェンティアンへと向かっていた銀達が反転。
 主に迫った敵――木葉へと狙いを変える。

 それならそれで構わない、と。木葉は魔法書をしまい、そのまま囮になる事を選んだ。
 追走する銀。

「お、鬼ごっこですかぁ〜。捕まりませんよぉ〜」

 ここで転びでもしようものならあっという間に剣の餌食にされてしまうだろうが、その時はその時だ。

「鬼さんこちらぁ〜ですぅ」

 それは、きっと罰だから。
 誓いを破り、人を傷つけた――傷つけるかもしれなかった――事への罰。

 しかしそれを良しとしなかったジェンティアン。

「いくら深森ちゃんが可愛くても、ストーカーは頂けないなぁ」

 木葉を庇うように、けれど邪魔はしないように、彼女の元へ急行。万が一の際の盾となるべく傍に添いながら、鬼ごっこに加わった。
 銀を引き離しすぎないよう、誘引して逃げる2人。

 その隙に、凛が敵群の最後尾へと狙いをつける。

「鬼さんこちら〜ですの。わたくしを無視させませんわ」

 重圧で動きが鈍っていた銀を選び、あえて接近しながら攻撃。瞬間、ウォランから既に離れていた事もあり、その1体はくるりと向きを変えて凛へと向かってきた。
 剣の射程には入らぬよう後退しつつ、孤立した銀を誘導。

「さあ…いらっしゃい。おもてなししてさしあげますわ」

 そして射線を確保するに充分な位置へ引っ張り出した時、戦場を静かに虎視していた和紗が叫んだ。

「斉の北!」

 聖弓で射った矢が炎の尾を引いて飛び、標的とした銀をより判別しやすい形で示す。
 その一射を、当然の如く切り払う銀。
 直後――


「銃撃のフルコースはいかが?」


 一斉射撃。


 魔弾、銃撃、破魔の射手、ハイブラスト――
 多方からの同時攻撃が、銀の剣速を貫いた。

 痛みを感じる事の無い物言わぬ鎧は、ただ無機質な音だけを残してその場に崩れ落ちる。

 それを見たウォランの眉が微かに揺れたのを、華愛は見逃さなかった。
 驚いている…のだろうか。
 だがそれを仲間達に伝える暇は、今は無く。

 戦術の有効性を実証した一同は、銀を1体ずつ引っ張り出しては撃破する事を繰り返していく。
 破魔の射手やハイブラストを撃ち尽くした凛と華愛は、それぞれ銃やロザリオによる通常攻撃に切り替える。それでも、同時攻撃による火力を以てすれば銀を仕留めるには充分だった。

 囮になっている木葉とジェンティアンの負担を減らす意図も兼ねて、レフニーはコメットによる重圧を付与を継続。
 1体、また1体と数を減らしていく銀。

 頽れる敵を見ながら、うみは思う。

 痛み、恐怖、悲しみ…或いは怒り。それはマイナスの感情。
 何故、こんないらないモノが人には備わっているのだろう。
 それはやはり、無くてはならない、必要で大切なものだからだろうか。

「せめて痛みは教えておくべきでした」

 ぽつり、と。
 7体目の銀を屠り、小声で呟く。

 痛覚を持たない銀には、どの攻撃が危険であるのかという判断が出来ない。
 それは思考以前の本能。
 如何に装甲を強固にしようと、如何に速さを研ぎ澄まそうと、無闇に前進するだけの鉄屑であるならそれは鎧足り得ず。

「なんて、そんなこと教えてあげませんけど!」

 独り言のように発しながら、最後の銀も撃破。
 レフニーはコメットを撃ち切ってしまったが、味方の損害はゼロ。

 だがウォランに切り捨てられた涼介は、このままではいずれ……。

 ヴァニタスがその身を保つには悪魔との繋がりが要る。そして和紗とジェンティアン、そしてレフニーとうみには、その当てとなる悪魔の顔が1つ思い浮かんでいた。
 尤も、その悪魔がすんなりと聞き入れてくれるかどうかは――

「考え事をするには、まだ早すぎるのではありませんか?」

 ウォランの声。
 退却する気配もなく、一同を見ていた。

 華愛がおずおずと話し掛ける。

「あの…アナタが、ウォラン様、なのです?」

 改めての確認。
 何故栄一の部隊を襲い、何故涼介を選んだのか。
 ここに居た銀は、製薬会社に居た銀と何か関係しているのか。
 そもそも――

「アナタが、孤児達を…?」

 集めていた張本人なのか。

「えぇ、そうですよ」

 ウォランはそれら全てに頷き、

「どれも大して使えませんでしたけどねぇ」

 見下すように、はっきりと言った。

(…この悪魔も、リーゼは死なせたくないのでしょうね…)

 メールにあった文言と、彼の異形を孕んだ青い瞳――そこに秘められているであろう生い立ち――を想像する和紗。
 一方で凛は、

「わたくしは貴方を許さない。覚悟なさいませ」

 射抜くような紅い瞳をウォランへと向けていた。
 対して、ウォランは薄ら笑いを浮かべ、

 ――現れたのは、新たなディアボロの群れ。

「ディアボロのストックはまだあるんですよ。そもそも貴方達、コレが何で出来ているか分かって攻撃しているんですかねぇ?」

 材料は、集めた孤児達。
 それを聞き、木葉が着物の胸元を握り締めながら尋ねる。

「どうしてこんなことを…? あなたは孤児たちを引き取って育てている“優しいウォランせんせー”じゃなかったの?」
「えぇ、そうですとも。生きていても何の希望も価値も無い孤児達に駒という存在意義を与える、優しい優しいウォランせんせーですよ。ねぇ、リーゼ?」

 ウォランが視線を向けた先。
 そこには、無言でディアボロと共に立つリーゼの姿があった――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 前を向いて、未来へ・Rehni Nam(ja5283)
 ねこのは・深森 木葉(jb1711)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
重体: −
面白かった!:6人

星に刻む過去と今・
青鹿 うみ(ja1298)

大学部2年7組 女 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード