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マスター:水音 流
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/10/09


みんなの思い出



オープニング

 ――怒号。銃声。
 素人では無いがそこに技術や練度などというものはなく、手にした武器を息巻いて振り回すだけの粗野な喧嘩。いつもの事だ。
 ただ、今回はちょっと当たり所が悪かったらしい。

(あー……死ぬな、こりゃ……)

 だくだくと赤が零れる自らの腹を押さえながら、黒髪黒眸の青年は人気の無い倉庫街をフラフラと歩いていた。支えを欲してコンテナの壁についた手が滑り、べしゃりと前のめりに倒れる。

(ま、いいか……)

 幸いにも周りは無人。掃き溜めそのものだった人生をこれほど静かに終えられるというのなら、願ったり叶ったりだ。邪魔が入らぬうちにさっさと逝くとしよう。
 寝返りを打って空を仰ぐ。ポツポツと降り始めた雨を頬に感じながら、すぅっと小さく息を吸って目を閉じ――

「撃たれたのですか?」

 いつの間にか、脇に女が居た。
 車椅子に乗った、長く嫋やかな金髪の女。虚無的な深みを孕んだ、青とも緑とも取れぬ色の瞳で、こちらを見下ろしている。

「あァ…? 何だよ、お前……」

 車椅子に乗ったその女は物腰こそおっとりとしてはいるが、声や喋り方に抑揚が無いせいか、どこか底知れぬ冷たさのような空気を纏っていた。

「死ぬのですか?」
「……ああ、そうだよ……。だから邪魔すんな……。最後くらい静かに寝てえんだよ……」

 もはや声を出すのも気だるいといった様子の青年に、女は眉一つ動かさずに言葉を続ける。

「よく、わかりません」

 静かに寝たい――死にたい。それは望みか。
 何故そう望んだのか。生に興味が無くなったからか。あるいは意味を失ったからか。
 失う前は、どうやってソレを手に入れたのか。

 “生”への執着。
 “死”への願望。

 己自身に、ひいては“世界”というモノに興味や意味を見出せない自分は、何の為に存在しているのか。
 そもそもそれは、存在していると言えるのか。

「ンだよ、宗教の勧誘かよ……これから死ぬっつってんだろーが……。見出せねえなら…テメエで作りゃあ良いだけだろーが……それに、今テメエは俺と話してんだ……ちゃんとここに居る証拠だろ……」

 などと答えたものの、思い返してみれば自分の生きてきた日々とて、特に意味など無かった気がする。
 弱々しく舌を鳴らす青年。

「……ああ…そうだな……。持って行く先があの世で良けりゃ、俺が……ここにテメエが居た“意味”に……なってやるよ……」

 重くなった瞼に逆らわず、掠れゆく意識で声を絞る。
 すると、彼の息遣いを眺めていた女の髪がほんの僅かに揺れ、

「では、私はあなたの“意味”になりましょう」

 呟かれた言葉に、青年はもう一度だけ目を開いて女を見た。
 そしてぼんやりと、彼は目の前の女が人間では無いことに気づく。



「……まあ…それも悪くねえ……な…………」




●オカマバー『Heaven's Horizon』
「えーっと……スワイプがこうで、ピンチインとアウトがこう……」

 テーブルに乗ったぬいぐるみがマニュアルを広げて持ち、その説明を読みながらスマホの上で指先を滑らせるエリス。
 画面が横に流れ、縮小し、拡大し……ふむふむと頷きながら、買ったばかりの自分用の端末を夢中になって弄る。

 ――長らく彼女の右目を覆っていた眼帯も、今は無く。

 ルディとの一応の決着を見たあの日。ゲートの中で全開の“アウル”を行使したあの時から、エリスの右眼は以前の色を取り戻していた。
 元々傷は残っておらず、疼きと変色も解消されたので保護しておく必要も無くなった。

 無くなったのだが、しかし。

 どういうわけかその日の天候によって、偶に疼きやオッドアイがぶり返す時がある。
 『血圧』ならぬ『アウル圧』とでも言うべきか。特に体調が悪いという訳では無いのだが、そういう時には眼帯を付けて過ごすのが最近の彼女の日常だった。
 そして今は平常時、というわけだ。

 まだまだ力の制御が完璧ではないせいだろう、とはリーゼの言葉。
 だがその一方で以前の感覚を取り戻しつつあるのも確かなようで、右目を負傷して以降は一度に2つ以上のぬいぐるみを動かす事はできなかったのだが、今は徐々に同時操作できる数が増えてきている。
 もっとも、それが直接戦闘力に結びつくような能力ではないという点は、今も昔も変わらず。

 せっかく遠隔操作できるのだから、ぬいぐるみ魔具を複数同時活性でも出来れば良いのだが、そうそう上手くはいかないものだ。

 その時、エリスは店の二階――居住スペース――から降りてきたリーゼの姿に気づいて、スマホを弄る手を止めた。

「どこか行くの?」
「撃退士の仕事でしばらく戻らない。ママには言ってある」

 答えた彼の格好は、普段着を兼ねたいつものバーテン服ではなく、兵装着。
 バーテンダー業務の傍らでフリーランスの撃退士をやっているとは聞いていたが、実際に撃退士としての能力を使っているのを見たのは、先のルディとのゲート攻防戦が初。

 相手がゲート作成直後で消耗していたとは言え、単独で悪魔相手にも引けを取らずに立ち回った彼の実力が自分などよりも遥かに上である事は、考えるまでもない。

「だからって不死身じゃないんだから、無理しないようにね」

 どんな依頼かは知らないが、「私もついていく」というのは却って足を引っ張るかもしれない。何より、これはもう1人で行くと決めている空気だ。
 そう思ったエリスは、言葉で釘を刺すに留めて見送る事に。

 頷かず――しかし決して無視する訳でもなく――、リーゼはただ無言の眼差しを返して店を後にした。



「ったく、こんな搾りカスみてーなディアボロで喧嘩売ろうなんざ」

 足元で転がる3体の狼の骸に悪態をつき、黒髪赤眼のヴァニタス――ハル――は部屋の中をぐるりと見渡す。
 テナント募集の看板が掛けられたまま放棄された、空っぽのビルの一室。床に積もった埃には、今しがた屠った狼達と自分以外の足跡は無し。
 孤児をつけ狙うクソッタレな悪魔の足取りを追って来たはいいが、どうやらフェイクだったらしい。

「とりあえず戻るわ」

 自身の主――クラウ――に念話で告げ、踵を返した時、

「また貴様か……」

 辟易とした溜め息を零し、金髪碧眼の男が出入口から姿を現した。

「そりゃこっちの台詞だ、ロンゲ野郎」

 対するハルも露骨に顔を歪めながら、金砂のような長髪のそのシュトラッサー――アーリィ――を睨める。

「貴様、こんな場所で何をしていた」
「あァ? ンでテメエに教えなきゃなンねーんだコラ」
「まあ、その足元の狼を見れば察しはつくが」
「って事ぁ、テメエもあのクソッタレに用事かよ」
「貴様に教える必要は無い」
「邪魔だからスっこんでろ」
「それはこちらの台詞だ」

 ぎり、と。
 互いの気配が埃臭い空気にヒビを入れる。

 膨れ上がる殺気はちりちりと音を立て――



 雷撃と剣閃が、ビルを一つ吹き飛ばした。




リプレイ本文

(おぉ…ど派手にやってるのです…)

 現場に到着した華愛(jb6708)は、上空で爆ぜる剣閃の光や雷撃の轟音を見上げながら内心で呟く。
 地上では、警察や消防に誘導されながら道路を右往左往する人々の姿。一方、周辺の建物は傷ついてはいるものの、倒壊するほどのダメージは受けていないようだった。
 だがそんな中で唯一、少し離れた位置に文字通り瓦礫の山と化している建物があった。恐らくあれが、喧嘩が始まった際に吹き飛んだというビルだろう。

 中は崩れてしまっているので、とりあえず外部の捜索から。華愛はスレイプニルを呼び出し、その背によじ登る。

「お願いします、なのです」

 彼女の声を聞き、スレイプニルは宙を蹴って翔けた。
 倒壊現場の上空を旋回しながら、華愛は周辺を見渡す。真下に地下駐車場でもあるのか、瓦礫は地中に陥没するように積み上がっている。隙間から中に入れそうだ。

 ふと、ビルの近くにまだ一般人と警官達が居た。
 地上に降りて、駆け寄る華愛。数人が怪我をしているようだが、話を聞くと、避難中に転んだりぶつかったりして出来た軽いものであり、ハルとアーリィが直接の原因ではないらしい。
 とは言え、喧嘩の副次被害には違いない。

「大丈夫、なのです…?」

 怪我人にライトヒールを掛けつつ、

「…あのお二方も、悪いヒトではないと、思うのです」

 当人達に代わって頭を下げながら、ダメ元で2人の喧嘩の原因等について尋ねてみる。だが情報は無し。
 一旦仲間達と合流するべく、華愛は再びスレイプニルの背に。

 と、その前に――

「消火器を、お借りしたいのです」



 花火のように轟く戦闘音を頭上にしながら、青鹿 うみ(ja1298)は現場を忙しなく走り回っていた。
 警官から借りた小型無線機を付け、連携して誘導と救助にあたる。

 すると、地下鉄へ降りる階段からヒトの呻き声。
 中を覗き込むと、大勢の人間が重なり合って倒れていた。慌てて逃げようとしてドミノ倒しになったらしい。

「これは私一人では手に負えないですっ、手伝ってくださいっ!」

 無線機へと呼びかけ、警察や消防に場所を伝える。やってきた隊員達と協力して介抱。だがその時だった。

 上空でハルが弾き返したアーリィの魔法弾が、流れ弾となってうみ達の近くで炸裂。
 破砕したガラス片が無数に降り注いでくる。

「ちっ!」

 瞬間、大きく舌打ちしたハルが急降下。滑空しながらうみ達の前に割って入り、一際大きな雷球を放ってガラス片を一つ残らず消し飛ばしていた。

「助かりますっ!」

 そう声を張ったのはうみだった。皮肉などではなく、心からの礼。
 だが、そのまま風を巻きながら止まる事なく再上昇して戦闘を続行するハル。彼女の声にも気づいていないかもしれない。

 代わりに、介抱されていた人達の中から反感の声があがる。

 元はと言えば連中のせいだ。
 なぜ礼など言うのか。

「私たちにも、戦わなければならない理由があります」

 天魔との争いの中で、人命と天秤にかけるような選択で苦渋の決断を迫られる事もあった。
 今の自分には、彼らの是非を量ることはできない。
 だが仮に相手に悪意がなく、ましてや守ってもらう事があったとすれば、それに「ありがとう」と言う権利もまた自分にはあるはずだ。

「その権利は、どれだけ強い天魔さんにも侵すことはできないのですっ」

 顰蹙に臆する事なく、うみは堂々と胸を張った。



「――だそうだ。噛み付くしか能の無いどこぞのヤンキーに見習わせたいものだな」

 雷撃を剣で切り払いながら、アーリィが毒づく。

「知るかよ!」

 対するハルは牙を剥きながら、しかし少女の言葉を否定するでもなく、ただ荒々しく吼えるのみ。

「気にいらねぇからブッ飛ばす! 喧嘩ってのはただそれだけだろうが!」



「器用なんか不器用なんか…」

 その光景を眺めながら、ゼロ=シュバイツァー(jb7501)は溜息を零す。
 足元には水を張ったバケツが一つ。

「ガキの喧嘩か…で済ますわけにもいかないわね。人的はともかく物的被害が考慮されてない」

 指の間に煙草を挟み、紫煙を吐き出す鷹代 由稀(jb1456)。
 彼女の言う事も尤もだ。しかし、

「酌量の余地は充分あると思います」

 そう言ったのは樒 和紗(jb6970)。
 これまでにあの2人が関わっていた報告書を読む限り、悪意のある天魔ではない。現在の戦闘も通行人を庇いながらのものだ。そういう相手を、自分は『敵』とはみなさない。
 周囲の状況をきちんと認識できれば、戦闘をやめてくれるのではないだろうか。

「少なくとも、俺はそう信じたいです」

 その時、一同の元へ1匹のスレイプニルが翔けてきた。背に乗っているのは、消火器を抱えた華愛。
 彼女は有益な目撃情報が得られなかった旨を一同に伝える。

「もう少し、探してみます、なのです」

 ゼロに消火器を手渡し、華愛は再びスレイプニルと共に倒壊したビルへと向かった。

「ほな、俺らもそろそろ始めよか」

 ゼロの言葉に頷き、和紗は身に付けた阻霊符にアウルを込めた――



 現場にほど近い建物の陰。所々血の滲んだ包帯姿で重い体を引きずる少女が居た。
 斉凛(ja6571)。
 
 ――戦闘の余波に巻き込まれて怪我をした通行人の少女を装い、ハルとアーリィの気を引く。

 しかしハルとアーリィに面識のある自分がそれを実行する為には、何らかの変装が必要だった。
 そこで彼女は別任務で重傷を負った事を逆手に取り、その包帯で顔の半分を隠す事に。『負傷した少女』という部分もあながち演技ではなくなり、そういう意味では好都合と言える。

 だが誤算もあった。
 それは相手が空中戦をしていた事。注意を引いた後、2人近づく為にはこちらも空を飛ばねばならない。陽光の翼があるので飛翔自体は可能だが、それでは『一般人』という演技に無理が出る。
 『負傷した少女』を気遣ってこちらに降りてきてくれる可能性も無くはないが、通報時点で「通行人を庇いはするが、戦闘はやめない」というほど頭に血が上っている2人だ。少なくとも誰かの負傷を『見ただけ』では、クールダウンはしないだろう。

 もっとも凛にとって、注意を引くというのはあくまでも目的の為の手段に過ぎない。
 とにかく2人の足を止める事さえ成功させれば、ゼロ達も動き易くなるはずだ。

 また、2人が自分の姿に気づいてくれるのをただ待っているつもりは、初めから無い。
 気づいてもらうのではなく、気づかせる。

 凛は狙撃銃を実体化させると、上空を目まぐるしく飛び回る2人の方へと銃口を向けた。



(ハルちゃんとアーリィちゃんですか……。面識がない人たちなので、お話を聞いてくれるかどうか……)

 2人が空中戦をしている真下へと、小走りに近づく深森 木葉(jb1711)。
 通行人に被害が出ないようにしているらしいので、いい人たちなのかな?とは思ったが、建物はボコボコだ。避難時の混乱による副次被害も出ている。
 それに、やはり喧嘩はよくない。

 彼らのすぐ下までやって来た木葉は、涙目になって語りかけた。

「えううぅ……。おふたりともけんかはやめてくださぁ〜い!」



 スコープを覗いていた凛は、小さく唇を噛んでいた。

 ――重体で本調子でないとは言え、照準の精度はそれなりに維持している。そのつもりだった。

 実際、その精度は決して悪くは無かった。問題は、ハルとアーリィが想定よりも強力だった事。
 狙いが定まらない。

 目的は仲裁。手段は説得。
 その為には、攻撃を直撃させるわけにはいかない。最悪、こちらを完全に『敵』とみなして話をする余地が無くなってしまう可能性がある。
 かといって全く見当違いな方向に撃ち込んでも、互いを潰す事に躍起になっている2人にはあまり効果がない。

 命中させるだけならばやれる。だが射線をより効果的に2人の間に割込ませるとなると、彼らはあまりにも速すぎた。

「みんな、こまっているのですよぉ〜。ぐすんっ」

 スコープの視界の外で、木葉の声が聞こえる。だがハルとアーリィは気づいてもいない。
 完全に無視されたショックも相まって、木葉の目に大きく涙が溜まり――

「びえ〜ん。やめてぇ〜、くださぁ〜い!!」

 瞬間、面食らったように2人の動きが鈍った。

 一瞬の点を捉え、トリガーを引く凛。
 火線が鼻先を掠め、2人は反射的にブレーキをかける。そして、



 ばしゃあ!



 彼らの頭に、大量の水が落ちてきた。

「さて? 頭は冷えたかいな? そっちにも事情があると思うけどこっちにもあってな。つーか喧嘩ならよそでやれ。迷惑や」

 見上げると、翼を広げてバケツを持ったゼロの姿。

「ンだテメェ!」

 掴みかかろうとするハルだったが――

 銃声。

「ストップ、はいそこまで。とりあえずアンタ達、その辺にしときなさい」

 拳銃を手にした由稀が地上から呼び止めた。その横には、リディア・バックフィード(jb7300)や和紗も居る。

「なんなら消火器もあるで?」
「御免被る」

 ノズルを向けたゼロに答えたのはアーリィ。
 びしょ濡れな上に粉塗れにまでされては堪らんと、彼は不機嫌そうに地上へと降りていく。

「逃げんなコラ!」

 追いかけてハルも地に足を着けた刹那、

 ヒュッ
 カシャン

 リディアが瞬間移動でアーリィ側に割って入り、和紗がハルの右手に手錠をかけていた。
 そしてもう片方の輪を自分の左手にカシャリ。

「借り物ですから壊したら泣きます」
「知るかよこの――」
「泣きます」

 真剣。

「……ちっ」

 そっぽを向くハル。そこへ、

「痛いよ…苦しいよ…どうして…喧嘩なんてするの?」

 弱々しい子供のフリをし、足を引きずる凛が顔を見せた。

「見てみぃ。お前らのせいでこんな小さい子が怪我したやないか」

 翼を解いたゼロが、よしよしと凛を庇う。
 完全に大人しくなったハルとアーリィを前に、由稀は至極面倒臭そうにしながら冷めた目でお説教を始めた。

「どんだけ他所様に迷惑かけてると思ってんの? 見た所、人は庇ってたみたいだけど、他…建物とかは? ビル1つ潰れるだけでどれだけの人に被害出ると思う? 命じゃなくて、明日以降の生活について。咎められたら『怪我人は出してない』って反論したいのかもしれないけど、やってることが中途半p――」
「うるせぇ女だな。歳のせいか」

 瞬間、ハルの眉間にゴリッと銃口を押し当てる由稀。

「何か言ったかこら」

 一方、アーリィは、

「貴方達は脳みそが付いているのですか?」

 いつに無く不機嫌かつ威圧的な様相のリディアに捲し立てられていた。

「破壊行為をしながら一般人は護る? 偽善にもならぬ愚行です」

 迷惑だと理解していながらやめられないような者に比べれば、生存本能に衝き動かされているだけの畜生の方がよほどマシだ。

「脳まで筋肉ならば闘争以外の手段を知りませんか」

 自らの我を通す為だけの力の行使など言語道断。

「そこに正座して猛省しなさい」
「何故私が――」
「Hurry!」
「はい……」

 そこでゼロがアーリィの方へと近づき、

「自分らが何もせんのやったらこっちから特になんか仕掛けることはないで? とりあえず喧嘩の理由、さわりだけでも教えてくれるか? 自分の方が頭良さそうやし、話も出来そうや」
「ちょっと待て。そのロン毛野郎より頭悪ぃとか聞き捨てなるかよコラ」

 再びムキになるハルだったが、即座に腕の手錠で和紗にぐいっと引き戻される。
 彼女はハルだけでなくアーリィにも顔を向け、

「お2人とも、周りを『見て』頂けますか?」
「ンなもんさっきから見えてるに決まってんだろ」
「『見える』のではなく『見て』もらいたいのです、自分達の行動の結果を」

 最初のビルは吹き飛び、それ以外の建物も倒壊こそしていないものの、ガラスは割れ、壁には亀裂。
 和紗の指摘に、リディアも頷く。

「命があっても家がなくては生活が出来ませんよ。復興費用は誰が払うのです? 貴方達の生活や目的がくだらない理由で破壊されたらどう思います?」
「こうなった原因を知る権利、俺達にはあると思うのですが」
「喧嘩の原因は何なのですかぁ?」

 木葉が首を傾げ、他の者もじっと目を向ける。

「気にいらねぇからブッ飛ばす。喧嘩の理由にそれ以上も以下もあるかよ」

 最初に答えたのはハルだった。

「気にいらねぇからブッ飛ばす。邪魔する奴もブッ飛ばす。ごちゃごちゃお利口な文句並べたところで、結局は『自分が正しい』ってのを押し通そうとしてるのに変わりねぇだろ」

 だったら、最初からぐだぐだ言ってねぇでブッ飛ばす。

「さっき、くだらねぇ理由って言ったな?」

 ハルがリディアを見る。

「くだらねぇって誰が決めンだよ?」
「同感だな」

 頷いたのはアーリィ。

「チンピラ風情が私と同じ意見だというのは極めて遺憾だが」
「俺がテメェと同じ事言ったんじゃねぇ、テメェが俺と同じ事言ってんだろうがッ。間違えんなコラ」
「寝言は火葬されてから言え」

 掴み合いになる前に再度割って入る和紗。

「何故同じビルに居たのですか?」
「言ったろ、気にいらねぇ奴をブッ飛ばそうとしてただけだ。潰れてなけりゃディアボロの残骸でも残ってンだろ」


●ビル跡
 上階ごと陥没した地下駐車場をスレイプニルと共に探索していた華愛は、瓦礫の中で狼型の骸を発見。
 弔うように頭を撫でてやってから、何か手掛かりになるようなものは無いかと調べようとしたその時――

「動くな」
「う……?」

 突如、銃火器系の魔具で武装した特殊部隊がどかどかと踏み込んできて、あっという間に取り囲まれる。
 銃口を突きつけられ、華愛は両手を上げて固まった――……



 幾度目かの口喧嘩を始めるハルとアーリィ。
 それに対し、一般人のフリを続けている凛が、

「喧嘩…ダメだよ。私も友達と喧嘩した…仲直りしようと思ったのに、もういないの。攫われたの」

 大粒の涙を流しながら、迫真の演技で仲裁に入る。

「仲良くできないなら…2人ともおうちに帰ればいい。ここで喧嘩を続けても意味は無いの。2人を待ってる人はいないの? 心配してるよきっと」
「せやな。水入りついでに穏便なうちにお引取り願おか」

 そう言って、ゼロが2人にタオルを差し出す。

「気持ちだけ受け取っておこう」

 飛んでいるうちに乾く、と辞退するアーリィ。
 ハルも和紗に手錠を外してもらいながら、ヒラヒラと手を振る。

「今度、喧嘩する時は状況を見てして下さい……」

 リディアの睨みを背で受けながら、2人は別々の方向へと飛び去っていった。
 だがその直後、

「久遠ヶ原の生徒だな?」

 聞きなれぬ声がして、同時に、銃火器で武装した部隊に取り囲まれるゼロ達。
 部隊の後ろには、頭の上で手を組まされた華愛とうみも居た。

「なんやお前ら」
「撃退庁だ。後を引き継ぐ。帰っていいぞ」
「遅れてきて偉そうに」

 眉を顰めたゼロが詰め寄ろうとすると、四方八方から銃口が向けられる。

「わかったわかった……ったく、これやからお役人は」

 口を挟む余地もなく、彼らは現場から追い出された――


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

星に刻む過去と今・
青鹿 うみ(ja1298)

大学部2年7組 女 鬼道忍軍
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
Rapid Annihilation・
鷹代 由稀(jb1456)

大学部8年105組 女 インフィルトレイター
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
竜言の花・
華愛(jb6708)

大学部3年7組 女 バハムートテイマー
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
金の誇り、鉄の矜持・
リディア・バックフィード(jb7300)

大学部3年233組 女 ダアト
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅