――街中を練り歩く巨大猫。
「裏切ったな、僕の気持ちを裏切ったなで御座る!」
クワッ!と叫んだのは青いヲタク悪魔、源平四郎藤橘(
jb5241)。
“黒猫に会える”と聞いて『可愛いわけがない後輩』とか『ダークネスな金髪美少女』を期待してマッハで飛んできたら全然そんな事はなかったわけで、彼の怒りは有頂天。
ヤミの翼で飛びながら嘆いていると、巨大な黒猫が猫手を振り上げる。
ぶぉん!
ばちぃん!
「あべしっ」
四郎は虫のように叩き飛ばされ、錐揉みして落ちた先には河川敷。どぼん。
誰よりも早くやってきて、誰よりも早く落ちる。“あおいりゅうせい”の二つ名は伊達じゃなかった。
●
小さくしたら飼えるんじゃね?
内心でごちる武田 誠二(
jb8759)。向かった先は、ロボ研こと『ロボは人類のロマン研究部』の部室。
「おい、スモ●ルライト作れ」
「無理だな」
ずばっと切り出した誠二に、きぱっと言い切る部長。
「予算が足りない。具体的には版権料が払えない」
「ロマン部を名乗っているのに夢も希望もロマンも無いな…」
「ロマンというのものは語るのはタダだが、形にするには金が要るのだ。誰か私にお金をください」
「じゃああのデカ猫はどうするんだ。生き物は最後まで面倒見るのが常識だろ。製造責任で飼えよ」
「そういうのは製造元に言ってくれたまえ」
「製造元……そうか、この話を作った水音MSが飼えば解決だな」
誠二は仏頂面でくるりとカメラを振り返り、
「飼えよ」
いや、一MSが天魔飼うのは家の広さ的に、ていうかクラウドゲート的にちょっと――
「引き取り手いなかったら始末するぞ?」
ちょっと本社ビル爆破してくる。
ガタガタッとカメラが揺れ、床にゴトリ。傾いた画面の端に、赤鉢巻で機関銃を担いだMSの後姿がちらりと映った――
●
「でっかいもふもふでござる!」
現着したエイネ アクライア (
jb6014)は大次郎を見て、ふおお!と興奮した様子で叫んだ。
以前、別の依頼でまみえたもふもふ…というかもこもこは危険もこもこで、もふれなかった。
「今回は思う存分もふるのでござr――」
ねこぱんちボゴォ!
一拍遅れてぶおっと風が巻き、大次郎が手をどかすとエイネがぺらんぺらんと揺れながら地面にぺしょり。
どこからともなく黒衣装に身を包んだ黒子が現れ、エイネの頭に空気入れの針をぷすり。シュコシュコ。
「はっ、このもふもふも危険もふもふでござった?!」
むくりと復活。
一方、不退転の覚悟で依頼に…もとい大次郎に挑もうとしていたのは若菜 白兎(
ja2109)。
どんな危険があろうとも、そこに至高のもっふもふがあるのなら……
両手で盾をしっかりと持ち、じり、じり、と近寄る。
そんな白兎をスンスンと見下ろしながら、大次郎は「?」と小さく首を傾げ――
だいじろうの すごい ねこぱんち!
ぴこん!と察知した白兎は、盾に付いていた一角をアンカー代わりに地面にドカリ。
刹那、弾き飛ばされないようしっかりと踏ん張り、正面からぱんちを受け止める。
凄まじい衝撃でありつつも、盾越しにぷにゃっとした感触が伝わってきた。
(あんな小さいのに頑張って……偉いな)
ビルの陰から顔を半分だけ出して見ていた誠二は、鼻からフスーッと白い湯気――じゃなかった、煙草の煙を噴く。
おっさん悪魔が見守る中、白兎の後方からエイネが飛び出す。
「危険もふもふめ、こうしてくれるのでござるー!」
翼を展開して弾丸のように大次郎へと突撃。
上空から背中側へと回り込み、振りかぶった刀で一刀両断――
もふんっ
――するかと思いきや、眼前に迫った黒い毛並みに吸い寄せられるかのように、武器を捨ててしがみ付く。
もふもふ、ふかぁ
「やはり、危険でござる……!!」
ふへへ、と至福の表情で黒毛に顔を埋めるエイネ。
「この危険もふもふ、久遠ヶ原にて保護し、生体解明の必要性を訴えるのでござるよ! さすれば、いつでもこのもふもふを味わう事が出来るでござ……はっ、拙者、何も言ってないでござるよ!」
ここぞとばかりに白兎も動く。
とてとてと駆け寄って、友達汁を発動しながら巨大な猫手に触れる…というか乗る。
もこもこのソファーのようだった。
「?」
手の甲にちょこんと乗っかった白兎を見下ろして、大次郎は小首を傾げながら手の甲をひっくり返す。
ぽてりと地面に落ちた白兎を、丸めた指先でちょんちょん、ころころ。
巨大な肉球でぷにぷにと転がされ、白兎は慌てながらも幸せそうな表情を浮かべていた。
猫と戯れている白兎を遠巻きに眺めながら、鼻息を立てる誠二。鼻から白い煙が漏れる。
「すぅ…はぁ……すぅ…はぁ……」
純粋な子供好きである彼は、大次郎と対峙する白兎が心配で仕方が無い。しかし、頑張っている彼女の邪魔をするわけにもいかず、できる事と言えば煙草で気を紛らわせながら彼女を見守る事のみ。
建物の陰に身を潜めながらすわった目で幼い少女をガン見し、フスーと鼻から煙を吐く。
おかしい。ただの危ないおっさんにしか見えない。
「……そこで何してるのかな?」
その時、後ろから誰かが誠二の肩を叩いた。
振り返ると、現場の封鎖に駆り出されていたお巡りさんが2人。
「ちょっとパトカーの方でお話聞かせてもらえます?」
「いや俺は今(依頼で)忙しい」
「(覗きで)忙しいとかダメでしょ。いいから来なさい」
両側から腕を掴まれ、誠二はひっそりと連行されていった。
封鎖されているはずの現場に、一台の大型トラックがやってきた。
それを待っていたのは月乃宮 恋音(
jb1221)。彼女はふるふると震えながら、荷台の開閉スイッチを押す。
積まれていたのは、大量のねこまんま。
「おお、餌付けでござるな」
「……はい、その、お腹が空いているのではないかとぉ……」
いつの間にか大次郎の頭上に居座っていたエイネ。彼女は「食べても良いのよ」と伝えるべく、意思疎通を発動。大次郎の意識に直接語りかけ――
「ご、ごごごは、ごはんん」
瞬間、エイネの様子が一変。
「飯寄越すでござるー!」
意思疎通が暴発して大次郎の思考に汚染された彼女は、刀を手にして恋音に襲い掛かった。
だが、そこに現れるもう1人の“御座る”。
「いやいや少し頭冷やそうかな感じに熱暴走も収まったで御座るので――」
日曜朝のブルーなバスターよろしく、保冷剤代わりの川水を滴らせながら四郎が颯爽と降臨。
恋音を背に庇い、滑空してくるエイネに魔法書を向ける。
「ここからは自分もターンでステージで御座るな」
情け無用ファイヤ――
ぶぉん、ばちぃん!
刹那、大次郎の手がエイネと四郎を薙ぎ払う。
「……お、おぉ……?」
ふるふると震えながら、星になった2人の悪魔を見送る恋音。
その横で大次郎は、はぐはぐと夢中になって荷台に顔を突っ込んでいた。
「猫を手懐けるなら、マタタビでしょ」
けぷっと息を吐く大次郎の前に現れたのは、蓮城 真緋呂(
jb6120)。
ぶわさぁ、と大量のマタタビ蔓を抱えている。やだマタタビ臭い。
大次郎がぴくりと反応。
「つかまえてごらんなさーい♪」
わさわさと葉を揺らしながら走り出す。
砂浜おにごっこのようにキラキラうふふ――
なんて可愛らしいものではなかった。
ゴォッ!と風を圧して迫る10mの黒い猫。
ドドドッ!とスプリンタースタイルで猛ダッシュする真緋呂。
カーブをドリフトで抜け、振り回した大次郎の尻尾がビルを薙ぎ倒す。
追いついた大次郎が音速ねこぱんち。直撃を受けた真緋呂がメコッと地面に埋まる。
めり込んだ彼女を手でほじくり出し、がぶがぶと齧る大次郎。だが彼女は、だくだくと頭から流血しながらも恍惚とした表情を浮かべていた。
大次郎の口の中から這い出て、彼女が取り出したのは猫槍エノコロ。釣竿サイズのその猫じゃらしを大次郎の鼻先でふりふり。
ヒンッ、ばちぃぃぃぃん!
興奮した大次郎の光速ねこぱんちが、真緋呂ごと猫じゃらしを捉えた。
真緋呂がペチャンコになってからしばらくして、満腹&遊び疲れであくびを零し始めた大次郎。それを見計らって、恋音がスリープミストを展開。
大次郎すやぁ。
ふるふる
ぷにぷに
無抵抗の巨大肉球を思う存分堪能する。
「二次元になってる場合じゃない」と膨らみを取り戻した真緋呂も、よじよじと大次郎の顔をロッククライミング。頭上に陣取って、ふわもこの毛並みを味わう。
次いで恋音は背中へと登り、ゆったりもふもふ。
一方、白兎は陽光の翼で上ふわりとだいぶ。抱きしめたり、転がってみたり。
しかし巨大な分だけ回復も早いのか、大次郎は女子3人を乗せたまま、むくりと目を覚ました。
3人を乗せた巨猫がのしのしと街を散歩していると、
「ぉぉ‥まさに大次郎くんですねぇ〜♪」
自家製の絶濃厚マタタビ団子を腰から下げた支倉 英蓮(
jb7524)エンカウント。
大次郎まっしぐら。
「ぉ〜よーしよしよし」
どしゃあ!と潰されながらも、某動物王国の国王のように全身で受け止める英蓮。
ガブッ
「あー噛んでますねぇ? これはねぇ〜この子にとってはスキンシップなんですねぇ〜」
ガブガブッ
「よーしよしよしっ」
メキメキッ
「よーしよしよs」
メキャァッ
「ふしゃああああ!!」
甘噛みから本気噛みになり耐え切れなくなった英蓮は、毛を逆立てて大次郎を威嚇。噴き上がったオーラが、なんと白獅子の姿となって顕現した。
『猫風情が、王たる獅子に楯突くか』
おや? 英蓮の様子がおかしい。
彼女はエコーの掛かった声で尊大に言い放つと、突如、白獅子オーラと一体化。
最終フュージョン、巨大獅子王『獅子蓮牙(ガオレンガー)!』
黒猫vs白獅子(♀)の巨大怪獣バトル勃発。超展開ェ――
「フフフ…ついにこの漆黒の頭脳をお披露目する日が来たようやな」
その様子を遠くの屋上から見ていたゼロ=シュバイツァー(
jb7501)が、不敵な笑みを浮かべる。
用意したのは、突貫工事で巨大アーマーを着せた全長10mの超合金グレートロペ子。
「よし、戦力は整った…! あとは総司令のゴーサインだけやな」
ゼロは通信機を取り出し、
「総司令!! 水音総司令!! グレートロペ子の発進許可を!! いろんなところに負けずに発進許可を!!!」
ザザッ――
タタン! タタタン!
チュドーン!
『このままじゃ大次郎が始末されちゃうでしょうがぁ!?』
『ええいトチ狂いおって! 構わん、撃て撃て!』
ドパラタタタタ!
ドゴォン――ブツッ
「……」
通信機沈黙。
「ま、ええか。ぽちっとな」
グレートロペ子発進。プールが割れ、迫り上がってきた巨大なドラム缶ロボが大次郎と獅子王の前に立つ。
それにムムッと反応したのは真緋呂。
「行けー! 大次郎!」
頭上に乗ったまま、ぺしぺしと大次郎の額を叩く。
あれ? これ確か、大次郎を鎮圧する依頼……
ねこぱんちで張り倒されたロボがぶつかり、ビルが倒壊。
どえらい大惨事だが、怪獣バトルでは日常茶飯事だから大丈夫。
「薬は、飲み薬に限るぜG●dzillaさんよ。で御座る」
その時、なんちゃらタワー的な建物に四郎の姿が。まだ生きてた。
気づいた大次郎がじゃれつこうと大口を開けて迫る中、彼はその口内へスタンエッジをブチかまs――
『そうはさせぬ!』
獅子王が吼えた。
“強敵”と書いて“とも”と読む。大次郎を庇って、ねこぱんち(獅子ver)が唸りを上げる。
ぶぉん! ぐしゃあ!
建物ごと光になる四郎。
そのままタッグを組んだ猫と獅子は、グレートロペ子へトドメのツープラトンねこぱんち。
勇んで発進したわりに何もしないままロペ子爆散。所詮中身はお掃除ロボだからね、仕方ないね。
「グレートロペ子ォォォォォ!? まだカラスクランダーとのドッキングとかモヒカン装備とか色々考えてたのにィィィ!!??」
メーカー(ロボ研)のサポート無しで無茶するから。
ガランガランと転がるロペ子の残骸。
一方、瓦礫の中で倒れていた四郎――よかった生きてた――は、ぷるぷると顔を上げて残骸を見やり、
「ハイカラだねで御座る」
一言だけ呟いて、がくりと力尽きた。
英蓮が元に戻った頃、女子達が考えていたのは大次郎の処遇について。
「本音を言えば連れて帰りたいのですけど、『ちゃんとお世話できないのに拾ってきちゃダメ』ってお母さんに言われてるですし……」
大次郎の背中でころころしながら白兎が言う。
やはり飼い主?に迎えに来てもらう方が良いのだろうか。
「……うぅん……。……では、ご本人に、聞いてみましょうかぁ……」
そう言うと、恋音は大次郎の首輪をずるずると滑り降り、そこにぶら下がっていた巨大な小型?携帯電話にしがみついた。
ふるふるしながらスイッチぽちり。
プルルル、がちゃ
『はいもしもしー?』
繋がるのかよ。
とりあえずスピーカーモードで事情を説明。
『かわいいっしょー! ちょっと思ってたのとサイズが違っちゃったけど、これはこれで「全身でもふれてうふふ」みたいな?』
曰く、逃げられたわけでもなく、ましてや捨てたわけでもなく、ただ大次郎自身が散歩に出かけただけ。
「……そういう事でしたかぁ……。……うぅん……」
だからと言って街中で暴れられては困る。
恋音がやんわりとお説教すると、
『あー、そりゃ悪かったわー。とりあえず今からそっち行くから』
ブツッと通話が切れた。
30分ほどして、翼を広げた若い女悪魔が飛んで来る。彼女を見るなり、大次郎はぴこんと耳を立てて飛びついた。
「いやーごめんごめん。人間の事情とかさっぱりでさー」
あっはっは、と笑いながら大次郎の鼻を撫でる。
敵意の欠片も無い彼女を見て、恋音達は学園への帰属を提案。
「マタタビ農園もありますよー」
英蓮が言う。しかし、
「でもワタシ、これでも一応冥魔だし。今の山暮らしも気に入ってるしねー」
まあ考えとくよ。
そう答えて、悪魔は真緋呂と入れ替わるように大次郎の頭上へ。少女達を降ろし、巨大猫はのしのしと山へ帰っていく。
「あの大次郎が最後の一匹とは思えないのでござる……」
瓦礫から這い出ながら呟いたのはエイネ。ござる勢しぶといな。
夕日をバックに去っていく大次郎の後姿を、白兎はぐっと涙を堪えて見つめていた――
●猫にヒドイことダメ、ゼッタイ
「オモロイ映像撮れたから、これで一儲けするか」
ゼロは小悪党感たっぷりにニヤリと笑い、踵を返す。だが――
「……こちらに、おいででしたかぁ……」
いつの間にか恋音が立っていた。
びくりと震えるゼロ。
「……そのぉ、先ほどの戦闘について、少し、お聞きしたいことがあるのですけどぉ……」
「尋問!?」
ふるふる
びくびく
「……いえ、『お話』するだけですよぉ……?」
「拷問!?」
「……え、えと、で、ですから、『お話』ですよぉ……?」
ふるふる
がたがた
大次郎鎮圧作戦――負傷者、2。逮捕者、1。行方不明者、MS+カラス?