斡旋所の裏庭。
「暑いですねぇ、プールにでも入りたいですねぇ」
ロペ子を発見して干し作業を手伝っていた神雷(
jb6374)は、ふとロペ子を見やる。
太陽光で熱された銀色のボディ。
神雷はそわそわしながら生卵を取り出し、ロペ子の頭にカンカンと打ちつける。白い殻にヒビが入り――
「新シイ依頼ガ 出タヨウ デス」
サーバーと同期したロペ子が、ウィームと振り向いた。
――パカッ べちょり ジュワッ
口からジジジと紙が出てくる。
『求:掃除対決者』
神雷はべりっと紙を取ると、目玉焼きを乗せたロペ子に手を振って受付へと向かった。
同じ頃。
「空戦型…だと…」
これは滷獲するしかあるまい!
センチメンタリズムな運命を感じた幸村 詠歌(
jc0244)は一も二も無く依頼を受け、心奪われた様子で飛び出していった――
●ロボ研の部室
「電子世界はあたしのフィールドよ!」
バァン!と乱入してきたのは、電脳大好き月丘 結希(
jb1914)。身構える部長を他所に、モニターの点いている端末の前へ。
目的はロペ子3体のデータ。と、
「掃除といえば端末内のゴミデータ削除も大事よね。嵩張ると重くなるし」
「なっ!?」
「心配しなくてもドライブフォーマットまでしたりしないわよ」
それは流石に可哀想だ。
結希は抵抗しようとした部長を縛り上げて『燃えるないゴミ』と書いた紙を貼り付け、ウキウキした様子でAIやらフレームスペックやらのデータを漁る。
そして彼女は、すぐに海型の致命的な弱点に気がついた。
仲間達に知らせるべく、自らの魔改造スマホを操作する。
海型の対応に向かったのはシェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)と神雷。しかしシェリアの携帯には繋がらず、神雷は電話に出ない。
「……まあ良いわ」
このデータからして、放っておいても水中ステージの無い今回の勝負で彼女らが負けることはない。それより、
「水中型の装備はスク水でしょう。常識的に考えて」
海型のデータを眺めながら物申す。なぜ儀礼服のままなのかと小一時間(ry
「ドラム缶に着せて誰得とかそんなのは関係ないわ、これは浪漫よ浪漫。あと、陸戦型にドリルはついてるんでしょうね!?」
「予算が足りんのだ……!」
標準装備を組むだけで一杯一杯。でも予算さえあれば実装したい機能はたくさんある。
結希は、燃えるないゴミ部長と浪漫を語り合った――
●廊下
掃除対決とはまた殊勝な依頼だと思って聞いてみれば、副部長が不健全な動機でゴミを撒き散らしているというではないか。
「これはちょっとお仕置きが必要ですわね…」
水入りバケツとモップを持ち、シェリアは廊下へと到着。現場は既にゴミだらけだった。
キリが無さそうなので、まずは副部長を見つけ出してゴミの散布を止めさせた方が良いか……いや、ただ追いかけるのも効率が悪い。ここは一つ、モップで水拭きしながらそつなくこなしてみせようではないか。
「ふふふ、天才のわたくしにかかれば容易いですわ。おーっほっほっほ!」
小指を立てて手の甲を顎下に添えるシェリア。小者臭ぷんぷんである。大丈夫か。
「さ、お掃除ですわ」
ボチャン
直後、ポケットから零れた携帯が水バケツにドボン。彼女は気づかぬままモップを突っ込み、バシャバシャ。大丈夫か。
そのまま濡れたモップを床につけた時、カドからロペ子(海)が現れた。
ムムッ、と互いの視線が交差する。
「汚れというのは見えない所に一番多く潜んでいるもの。いくら機敏でも、人のように柔軟で器用な動きがロボットに出来るわけがありませんわ」
生き物とロボ、どちらが上かいざ勝負!
モップを押してシェリアが地を蹴る。バケツも蹴る。ばしゃあ!
ぶちまけた水や携帯に気づかぬままモップと共に走り抜ける残念貴族。ドヤ顔で海型の方を振り返ると――
ウィ〜〜〜〜ム……
亀が居た。
スタート地点から数cmしか進んでいない海型@陸上ではゴミ同然
とその時、折り返して戻ってきた副部長がゴミ袋を抱えてエンカウント。貴族激おこ。
「公共の場でゴミを撒き散らすとはなんて下品な…! お待ちなさい、そこのゴミ製造人間。略してゴミ人間!」
「言い過ぎじゃない!? ねえそれ言い過ぎじゃない!?」
しかし捕まるわけにはいかぬと、全力で走り去る副部長。
追いかけるシェリア。しかし床には先ほど自分でぶちまけた水が――
つるっ べしゃあ! ガシャンパリーン!
ゴミ人間と運動音痴のドジっ子貴族、鬼ごっこ開始――
●スーパーメイドタイム
「部屋を汚す人ごとぽぽいのぽいですの」
廊下の一角に現れたのは、純白メイド斉凛(
ja6571)。今こそメイドの掃除スキルを見せつける時。女子力アッピル。
凛は右手に火炎放射器、左手に掃除機を構え、
「ひゃっはー。燃やせ燃やせ! ゴミは抹消ですわー」
散乱していたゴミを灰にしながら掃除機で一気に吸い、ワックスも掛けてピカピカに。さすがメイド。
次は陽光の翼で飛んで窓磨き。取り出したのは濡らした新聞紙。
「新聞紙で磨くとピカピカになるのですわ」
サッシ部分は新聞紙を巻き付けた割箸で隅までほじほじ。
開始からココまで僅か数分。驚異的な早さだ。さすがメイド。
お掃除の出来る可憐な女の子ってポイント高いよね。
だがそこへ、
ヒュゴォー!
宙を翔けて現れたのはロペ子(空)。
凛の速度を更に上回る超常的な手際で、窓や天井を磨き上げていく。このままではあっという間に負k
ズドン!
刹那、空型にイカロスバレットが直撃。制御を失って中庭へと落下していった。
スナイパーライフルをシュルルとスカートの中に戻す凛。さすがメイド。
さあ残りもぱっぱと終わらせ――
「庭に埋めて花壇の肥料にして差し上げますわ!」
ダダダ、と。目の前を、ゴミ袋を背負った副部長とビショ濡れのシェリアが横切る。
綺麗にした床がゴミ塗れの水塗れ。
「……」
“お掃除”の出来る可憐な女の子ってポイント高いよね。
凛の瞳からハイライトがスーッと消えた。
●家庭科室
(…なんだってロボに…。普通の自動掃除機じゃあ…ダメだったのだろうか…あ、ロマンかな?)
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)、現着。
部屋に入る前に、彼は入口上の表示板を摩り替えておく作戦に出た。
家庭科室→3年167組
もしもロペ子ズが表示板でフィールドを判別しているのなら、これでココには入ってこないはず。
リングに上がってすらいない相手ならば、勝つのは容易い。
念のため中から鍵も閉め、彼は悠々と作業を開始。しばらくして、
ブオー……ガタッ、ガタタッ
扉の擦りガラスに映る、ヘルメット頭のシルエット。陸型だ。
どうやらココが家庭科室であると分かっているらしい。
「どうやって場所を見極めてるのかねぇ?」
座標データでも入っているのだろうか。
直後、鍵穴を弄る音がしてガチャリ。合鍵機能も搭載済みだ。
扉を開けて入ってくる陸型。しかし――
「ちゃんと、ウォータープルーフ?☆」
ジェラルドがニコリと笑った瞬間、仕掛けてあったトラップが作動した。
陸型の頭上で水バケツが引っくり返り、足元ではサラダ油がお出迎え。ショートでもしてくれれば御の字。
……と、思ったのだが。
7級防水。
水油など何のその。水を吸い、油を拭き取り、一瞬にして自身と足元をクリーンアップ。そのまま室内もあっという間に清掃完了。
ジェラルドには目もくれずに次へ行こうとする陸型だったが、
「オ…ロペ子さん? ここ、まだ汚れているようですけど?☆」
窓枠を人差し指でつつーとなぞるジェラルド=コジュウト&ブラックパレード。
実際はピカピカ。だがしかし、
「ヤリ直シ マス」
「うむうむ♪ しっかりね☆」
如何に優秀だろうと、最終的に判断するのはヒトである。
甲斐甲斐しく働くロボを尻目に部屋を出るジェラルド。向かった先は男子トイレ。
用具入れから『STOP!清掃中』の衝立を持ってくると、家庭科室出入口の前に設置。
今度こそ部屋を出ようとしていた陸型は、それを見て出口手前で停車。
「オ掃除中ナラ 仕方アリマセン」
「賢いのかポンコツなのか、微妙なAIだねぇ?☆」
汚いなさすが小姑きたない。
その後、陸型は気づくのに1時間かかった。
●化学準備室
「陸、海、空と来て何故合体出来ないのか……」
ロペ子チェェェェンジ!とか言いながら変形合体しないんですかそうですか。
ぶつぶつと呟くシエル・ウェスト(
jb6351)。
作った研究者達は浪漫が足りない(予算も足りない)。虚無らせるくらい頑張りましょうよ。
彼女は独りごちながら化学準備室の掃除を開始。
手にしたエモノは唯一つ、伝家の宝刀クイ●クルワイパー。乾拭きは勿論、水拭きからワックス掛けまでこれ一つで事足りる。伸縮タイプで高い所も楽々だ。
流石の伝家の宝刀である。
価格にしても、量産型ロペ子は恐らく一台ウン百万。対してこちらは替えシートを含めても五千未満。
流石の伝家の宝刀である。
柄を投げつければ武器にもなる。
流石の(どんだけクイ●クル好きだよ
その時、扉を開けて陸型が入ってきた。だが予定通りだ。
シエルは即座に髪芝居を発動。捕縛した陸型を部屋の隅に押し込み、自分も一緒に身を屈めて息を潜めた。
しばらくしてやって来たのは、ゴミと貴族とメイド。
ゴミを撒き、備品に躓き、釘バットを振り回して嵐のように去っていく。
予定より2人ほど多かったが、その光景を陸型に見せたシエルは、
「見ましたよね? 我々の掃除個所を汚していく不届き者の姿を……」
ウィームと頷くロボ。
悪魔とドラム缶はスッと立ち上がると、標的を追って静かに走り出した――
●プール
「ふっ、床掃除なら私が最も得意とするところ! 言うなれば私は床上手です!」
それは絶対に人前で言わない方が良いだろう。
学校指定の水着に着替えて廊下に現れた神雷。
――ロッカーの中で携帯が鳴っている事など露知らず。
ふと彼女は、貴族に敗れて(?)ウロウロしている海型を発見。
「マリンタイプ様、プール掃除勝負です!」
まさかの場外指定。しかも海型相手に水中ステージとは。
神雷は、打ち上げられたウミガメ並の速度しか出ない海型を抱っこしてプールまで移動――
――到着。
プールには部活動に励む他の生徒も居たが、
「依頼です!」
ほれほれ、と生徒達を追い払う。
依頼だから大丈夫。それは魔法の言葉。
「しかし、一応部長さんには筋を通さなければいけませんね」
彼女は“一番偉いオーラ”が出ていた生徒の元へ行き、
「ごめんね?」
てへっ、と上目遣い。
イラッ☆とする水泳部部長@女子
どむっ!とビート板のカドで鳩尾を突かれる神雷。が、許可は貰えた。
涙目になりながら勝負開始。神雷はプールサイド、海型はプール内を担当。
だがココは規定の場所ではない。海型がいくら掃除しようが得点は無し。
「くひひ、完璧な作戦です」
お前の得点も無いけどな。
水泳部が黙っている前で、デッキブラシを手に磁場形成で滑りながら神雷スタート――
と思った矢先、プール内の海型が光の速度で清掃終了。何故か水の入れ替えまで完了していた。
「早いっ!?」
「水 得意 デス」
だがその時、双剣を携えた詠歌が突如として乱入!
「私が!」
海型の右腕と両脚を切断、
「スーパーブレイカー!」
左腕、
「幸村 詠歌だぁー!」
胴体真っ二つ。爆散。
プールサイドに銀色の残骸が転がった。
●
「おそうじしょうぶぅ〜?」
掲示板を見て、きょとんと小首を傾げる深森 木葉(
jb1711)。
「みんなできれいにするのですねぇ〜。がんばりますよぉ〜」
彼女はにっこり微笑むと、竹箒片手にトテトテと中庭へ駆けて行った――
――到着。
早速お掃除、と思いきや、ふと木の枝に引っ掛かっているロボを発見。凛に撃ち落とされた空型だ。
竹箒でつっつくと、ゴシャッと落ちてきた。
「だいじょうぶですかぁ〜?」
葉っぱや小枝を優しく手で払ってやる。
「一緒に頑張ってきれいにしましょうね〜」
「オ手伝イ シマス」
ロボの恩返し。木葉がゴミを袋に詰め、空型が運ぶ協力作業。
勝敗には拘らず、とにかくキレイに。
「後に使うヒトが心地よく使えるように、目につくゴミを掃き清める。それがお掃除なのですぅ」
なにこれ眩しい。
だがそこへ、ドジっ子と釘バットに追いかけられながらゴミ人間…もとい副部長がやってきた。
担いだ袋からボトボトとゴミが零れている。それを見た木葉は慌てて追いかけ、
「あのぉ〜。落し物ですよぉ〜」
3人を呼び止めていた。
「なくさないように気を付けてねぇ〜」
ただのゴミの塊を、汚れの無い笑顔で3人に手渡す。
なにこれ眩しい。
しかしその直後、飛び込んできたのはシエルと陸型。
前後から挟むように副部長へ突進し、すれ違いざまクロスボンバー。ゴミの元、轟沈。
「首が飛ばなくて良かったねぇ♪」
様子を見に来たジェラルドが、「こわいこわい☆」と自身の首を撫でる。
後はもう一度掃除するだけだが、海はただの役立たず、陸と空は寝返った。もはや勝ったも同然。
対決終りょ――
「ココに居たか!」
そこへ轟く詠歌の声。
彼女はスペシャルで2000回で模擬戦のような勢いで陸型を切り刻むと、返す刃で空型へと襲い掛かる。
キュルルンと謎のSEが鳴り、アウルコマンド“てかげん”が発動。
「斬り捨て御免!」
斬ッ!
動かなくなった空型をリアカーに乗せる詠歌。鹵獲完了ご満悦。
直後、海型の残骸を抱えた神雷が遅れて合流。
一方、無残に散ったロペ子ズを見て、木葉が酷く悲しそうに肩を落とす。
彼女はそれぞれの残骸を撫でながら、
「きれいな子たちですねぇ〜。生徒たちが校舎を心地よく使えるように、頑張ってお掃除してくれる…。なんて素敵な子たちでしょう〜。また一緒にお掃除しましょうねぇ〜。今度はお掃除のコツ、教えてくださいねぇ〜」
もう動かなくなったロペ子達へ、優しく笑いかけた。
「「眩しっ!?」」
直視できない、心の汚れたオトナ達。
だがその時、突然空型が再起動。
機密保持の自爆モード作動。まずい……!
そこへ現れる、黒銀の個体――ロペ子(オリジナル)。
頭上に目玉焼きを乗せたまま、ロペ子は空型を抱え上げて猛スピードでその場を離脱。
寸前、神雷の方を振り返り――
カタコトの電子音に、爆音が重なった――……
●
会計係が下した総合評価はポンコツ、予算はオジャン。オリジナルの修理費という予定外の出費が上乗せされて、量産計画は水の泡。
「どうせならキャラクターを立体表示させるくらいしなさいよ」
首にギプスを巻いた副部長に、魔改造で空中投影を可能としたスマホを見せる結希。
一方部屋の隅では、シエルが体育座りしている部長の肩をつついていた。
「ロペ子エンペラーが欲しいであります」
ゲ●ター的な。
予算が足りないってレベルじゃねえ。
キレイになった部室に、部長の啜り泣きが虚しく響いた。