――遠ざかっていくバスとリムジン。
「私達は招待されただけ! 依頼を受けるとは一言も言ってないし、招待された以上は遊覧する権利もあるはず!」
という訳でリーダ、お願い!
天宮 葉月(
jb7258)は、隣に居たリディア・バックフィード(
jb7300)にがしりと抱きつく。
「詐欺紛いの理屈、逃がすはずがありません」
即座に頷くリディア。バスを目指してスキル『瞬間移動』発動。
フッと消え、スッとバス内にワープする事に成功。乗っていたオペ子達が「ん?」と振り向く。
「遊覧できない、とも書いていませんよね……」
言葉遊びです。こんな理屈で私の休日は無駄にはさせません。絶対に遊覧させて頂きます。絶対にです。
こほんと座席に腰を下ろすリディアと――
「……あら?」
葉月が居ない。
「待ってえええぇぇ!」
窓から外を振り返ると、走って追いかけてくる葉月の姿。
すまない。瞬間移動は1人乗りなんだ。
「ふんっ!」
鎖鎌型の魔具を投げてバスの尻に引っ掛ける葉月。
その様はまるで、主人公の車のトランクに液体金属の爪を突き立てて追いすがる某ターミネーターのようだった。
「私は豪華リゾートホテルでのスイーツ目当てに来たんだからー!」
ずるずるずるー!
●
――そして完全に取り残されたヒト達。
「うわー…えげつな」
げんなりとビーチを見渡す、砂原・ジェンティアン・竜胆(
jb7192)。
「そっちがその気なら、また夢の国ネタで歌ったりs」
すいませんまじ勘弁してください。
まあほら、来ちゃったもんは仕方ないじゃん? 諦めてディアボロ退治しよ?
「ディアボロ退治? 知らないなー、招待はされたけど依頼は聞いてないもん☆」
「いくら俺でも、この状況で素直にディアボロ退治する程お人好しではありません――」
マリス・レイ(
jb8465)と樒 和紗(
jb6970)。
だよねー、と相槌を打つジェンティアン。置いて行かれてしまったのは今更どうにもできないが、
「ともあれ僕が真面目に退治する訳ないじゃん。遊ぼう遊ぼ――」
「――という訳で、任せましたよ竜胆兄」
「――う?」
輝く笑顔。
固まるはとこ。
「今、和紗さん何ておっしゃいました? 任せたって何を? その輝く笑顔が怖いんですけど」
ハハハご冗談を、と聞き返すジェンティアンを放置して日陰へと歩いていく和紗。
一緒に遊びに来て同じく取り残されていたリーゼやエリスと共に、マリスもるんるんと彼女の後ろをついていく。
「くっ、お兄さんはそんな子に育てた覚えはなーい!」
ぼっち化したジェンティアンは叫びながら、ディアボロが居るという砂浜に範囲攻撃をぶちまけ始めた。
一方、それどころではない男が1人――
「…バスなんざ大っ嫌いだ」
うっぷ、と口を押さえる麻生 遊夜(
ja1838)。
乗り物酔い。始まる前から負けていた。
「俺は強いほうで良かったぜ…」
同寮生のディザイア・シーカー(
jb5989)が、心配しつつも、他人事で良かったと肩を竦める。
とりあえず荷物を漁って、水やらタオルやらを探す。
「相変わらず乗り物に弱いねぇ」
「…大丈夫?」
来崎 麻夜(
jb0905)が背中をさすり、ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)がディザイアから受け取った水を飲ませてやる。
と同時に、タオルで額の汗も拭ってやるユーヤ。
(むむ、ここはゆっくり休ませると言う名目で膝枕をするべきかな?)
それに対抗心を燃やす麻夜。
「どこか日陰日陰」
シートを広げ、べしゃりと転がった遊夜の頭を自らの膝に乗せる。
「ありがとさんやぜー……」
夜になったら本格始動だ!と意気込む遊夜。
その腕に絡みつきながら「すやぁ」とお昼寝モードのユーヤ。
3人を見守りながら、ディザイアはビーチに置かれていたキャンプセットの準備に取り掛かった。
「リゾートご招待というから、あとは満喫できるものと思っていたが…」
こんな展開まじ久遠ヶ原。
呆れる元 海峰(
ja9628)。するとそこへ、
「オペ子さん達の様子が少し変だったのはこれが理由ですか……」
笑顔の中に少しだけ困惑の色を見せたユウ(
jb5639)がやってきた。
依頼の為に仕方が無かったとはいえ、できれば初めから本当の事を言って欲しかった。が、今更言っても始まらない。
「皆さん、景色は素晴らしいことは間違いないですし、キャンプ合宿だと考えて頑張りませんか?」
気持ちを切り替え、いつものように柔らかい笑みを浮かべて一同を諭す。
「う、うむ」
女人という生き物に慣れていない海峰は、微妙に距離を開けながらも小さく頷く。
「ディアボロ退治はまあいいでしょう」
同様にヴェス・ペーラ(
jb2743)も協力の意を示すが、
「しかし何故絵美さんをここに残すんですか」
一同の中に紛れていた猫鍋亭の従業員――芳野 絵美――を見ながら眉を顰めた。
死人が出たらどうするつもりか。
「だまされた……」
対して、ぽかんとした顔で立ち尽くしている絵美。どうやら知らされていなかったらしい。
丁度いい。彼女が放心している間に仕事を終わらせてしまおう。
「ヒャッハーするならこっちの方で」
ヴェスはウェットスーツを着込み、どこからともなく火炎放射器を取り出す。汚物の消毒と言えばコレだ。
砂浜の中の砂粒型ディアボロ。索敵スキルを持ってしても正確な位置の把握は到底不可能。だが大まかな場所なら分かる。
アタリをつけた場所目掛けてゴォッと炎を噴射しながら、ビーチを練り歩くヴェス。
海峰もそれに続き、騙された鬱憤を込めてスキル『火遁・火蛇』で砂を焼き始める。
「砂の中に紛れているのなら、砂ごと焼き尽くすまで」
するとその攻撃が隠れていた1匹にヒット。星の砂型だったディアボロは、むくむくとヒトデそっくりに姿を変えて飛び上がり、海峰の顔にへばりついてきた。
べちょりと張り付いた敵をべりっと剥がし、べしんと砂浜に叩きつけて小太刀でざくり。
夏の日差しと波の音に挟まれながら、一同は根気強く砂を焼き続けた。
「ふむ。なかなかに、興味深い、ディアボロ、だな」
爆炎吹き荒ぶビーチの一角で、仄(
jb4785)が1人しゃがみ込んで砂を掘っていた。
夏の海だが儀礼服。しかし本人はすっかり慣れたもので、この日差しの中でも汗一つ掻いていない。
「上手く、収集して、保存。コレクション、に、したい所、だ」
砂遊び用のプラスチック熊手で、ちまちまざくざくと探索。
平時は星の砂型、しかし身の危険を感じるとヒトデ型になるというディアボロ。掘っていれば意外と容易に見つかるかも?
その時、熊手で抉った部分からむくむくと1匹のヒトデが現れる。
ぴゃっ、と飛び上がって仄の頭にべちょり。
「ふむ。本当に、変身、した、な」
頭にヒトデを貼り付けたまま、砂を掘り続ける仄。
退治…? そんなものは、知らん。
「畜生! どーせこんなことだろうと思ったよ!!」
バシーッ!と砂浜に浮き輪を叩きつけるアレス(
jb5958)。
回想――
「今日は<アレスを海に連れて行くのです>という指令を受け取ったので海に行くよ!」
電波をゆんゆんさせながら、わはー!とアレスの襟首を掴んで斡旋所が用意したバスに乗り込むニナ・エシュハラ(
jb7569)。
「おめーはいったい毎回どっから指令を受け取ってんだよ…」
ずるずると引きずられながら毎度の溜め息。
「まぁ海で遊べるんだからいいんじゃないかな?」
そう言ったのはイリヤ・メフィス(
ja8533)。
「イリヤもか。まぁ海を満喫できるっていうならいいかな」
タダだし。
ふむ、と頷いたアレスはすっかりバカンス気分になって、発進するバスの中でわいのわいのと燥いでいた。
――回想おわり。
「報酬もないっていうのがやる気削ぐわよね」
というわけで、退治をほっぽり出してのんびり海で遊ぶ事にしたイリヤとアレス。
対するニナはと言えば、我先にと飛び出して砂をほじくり始めていた。
見つけた星の砂を摘み挙げ、
「これちっちゃい瓶に入って売られてるの見たことある! バカ高いの!」
わはー!と大燥ぎ。
物によってはワンコインでもお釣りがくる筈だが、元天魔勢の彼女的には高価に映ったのかもしれない。
「でも売ってるやつみたいにきれーなのってなかなか無いねー……あ、なんかかわいい星型のが」
と思ったら、むくむくとヒトデに変貌。
「おーまーえーかーっ!」
ばしーんっと砂浜に叩きつけて、次の砂を探す。
「ディアボロいるかもしれないからって全対象で範囲攻撃すればふつーに環境破壊だから、ああやって一個一個であったらぷちぷち殺す感じでいくしかないんだろーねー」
ぷかぷかと海面を漂いながら、その様子を見守るイリヤ。
イリヤちゃん、完全にやる気なし?
「ホテルで豪遊してる連中へのヤる気しか無いわ」
あ、はいサーセンした。
一方で、イリヤの傍を浮き輪で漂いながら、砂やヒトデと戯れる二ナの行動をのほほんと眺めていたアレス。しかし心なしか、浮かんでいる腰が引けている。
もしかして泳げない?
「いや泳げるけど、浮き輪に転がって海をぷかぷか浮きてぇじゃねぇか、こう、悪魔として」
なるほど悪魔として。
あれ? じゃあなんでそんなへっぴり腰?
「アレス、海の生き物系だめだっけ。そーいやナマコもダメだったのよね」
過去を思い出しながら肩ぽむするイリヤ。
「まぁ、海に来たら嫌でも遭遇するから。イソギンチャクとか、アメフラシとか」
「やめろよまじで……」
想像してげんなりしながら、浜辺の様子を窺う。
運よく(?)大量のディアボロの群れを引き当てたニナが、ヒトデと化したソレにびちびちと張り付かれて転げまわっている。
助けに向かうイリヤ。が、すぐに彼女もヒトデまみれになってびたんびたん。
海に退避したまま、ニナ達をのほほんと見守るアレス。
「……わりと楽しそうだな……」
「ちっちゃいままだったら瓶に詰めて飼うっていうのにっ」
「飼う気かよ!? そこは倒しとけよ撃退士として!?」
楽しんでもらえてるようで何よりです。
「ほわぁ」
錣羽 瑠雨(
jb9134)は、ぽかんと口を開けて目をぱちくり。
「『うまい話には裏がある』というのはこういう事ですのね…」
タダより高いものはない。
百目鬼 揺籠(
jb8361)と尼ケ辻 夏藍(
jb4509)の2人が、瑠雨に相槌を打つ。
「でも早く終わらせたらホテル行けるかもですし、頑張ってお掃除しましょうですの!」
ぐっと握りこぶしを作って意気込む瑠雨。
服が濡れては大変と、まずは水着にお着替えタイム。
「覗いちゃダメですのよ?」
瑠雨は組み立てたテントの中へと消え、するするごそごそと衣擦れの音。律儀に背を向けた男共が、ぽりぽりと頬を掻く。
「さっさと終わらせて遊んで帰りましょうね」
やがて着替え終わって出てきた彼女に、揺籠は軽妙な笑みで言った。
「あー…だりぃ…」
それとは正反対に、まるで死んだ魚のような目でぼやいたのは恒河沙 那由汰(
jb6459)。
「いちいち調べんのめんどくせぇな…巻き上げりゃ直ぐ済むか…」
圧倒的にやる気不足な口調でダラ〜っと光纏。砂嵐で浜を巻き上げ、エアロバーストで粒を吹き飛ばす。
環境破壊ぃ? あー……だりぃから聞こえね。
那由汰がテキトーに巻き上げた砂に混じっていたディアボロが、むくむくとヒトデに変わる。
瑠雨が遠距離からぺちぺちと撃ち落としていると、風に乗ってブーメランのように飛来したヒトデが1匹、彼女の背中にべちゃりと張り付いてきた。
「ひゃぁっ!?」
べっちょりもぞもぞ。
「取って、取ってくださいですの〜っ!」
じたじたと転げまわる瑠雨。
「おめぇ…何やってんだ?」
那由汰はディアボロを摘んで剥がしてやると、煙管をふかしていた揺籠へとポイ。
揺籠はくるりと回した煙管でソレを叩き落とした。
「瑠雨君は下がっておいでね」
スッ、と瑠雨の前に歩み出る夏藍。
その更に前で、新しい刻み煙草を煙管に詰めながら、揺籠が着物の懐で遊ばせていた右手を出す。
「他2人は(どうでも)いいとしても、瑠雨サンに近付けちゃいけねぇや」
びちびちと跳ねているヒトデの群れにスキルをぶっぱ。
後衛に位置した夏藍も手にした符で地道に1匹1匹射抜いていたが、途中から面倒になったのか、炎陣球で直線上を丸ごと焼き払い始める。
そのうちの1発が、前に居た揺籠を掠め――
「ぅあっち!? おい尼サン前出なせぇよ!!」
「熱い? 本当の炎じゃないんだから気のせいだよ」
「そういう問題じゃあるめぇよ!!」
てめえに背中が任せられるか後衛クビだクビ!!
語気を荒げて揺籠が猛抗議。
そこへ撃ち込まれるエアロバースト。
「あ、わり」
態とじゃねぇよ?
欠伸をしながらボリボリと頭を掻く那由汰。
「危ねぇでしょうよ海に落ちたらどうすんだよ!!」
「おめぇ本当は泳げねぇんじゃねぇの?」
びくりと肩を揺らす揺籠。
「え、あ、泳げ……ねぇわけないじゃないですか!」
「ふーん……」
やいのやいのと争い出した彼らを見て、夏藍はやれやれと首を振りながら2人の襟首をむんずと掴み、
「もういいから二人とも。頭を冷やしに――」
ぶん投げ。
「――いくといいよ」
水柱を上げる狐と百々目鬼。
「じじぃ! てめぇなにしやがる!」
ぶはぁ!と水面から顔を出した那由汰の頭には、擬態が解けて狐の耳がぴこぴこ。水の中では尻尾も出てしまっていた。
ばきばきと指を鳴らして海から出ようとするが――
「がぼぼぼっ!」
ぶくぶくと泡を立てて沈む揺籠が、咄嗟に伸ばした手で那由汰の尻尾を鷲掴み。
「あっ! 馬鹿! てめぇそこはにぎr……」
瞬間、ふぅっと脱力して引っくり返る那由汰。
ザザーンと飛沫を立て、妖怪2匹が波に消えた。
「瑠雨君も海に入るかい? 私は影で見守っているから楽しんでくるといい」
×:影で見守る
○:テントで引き篭もる
夏藍の言葉に、瑠雨はパァッと表情を綻ばせて海へと駆けていった。
「騙されてしまったものは仕方無い」
腕を組み、潮風に髪を揺らしながらごちる幸村 詠歌(
jc0244)。
「過ちを認めて糧とする、それが撃退士の特権だ」
…まぁ、それはそれ、これはこれ。
「さぁ、遊ぶぞ!!」
ばさぁ!と軍服を脱ぎ捨てた下にはパイロットスーtじゃなかった、タンキニタイプの水着。
岸辺には、期限は一週間でお願いした黒塗りのカスタムジェットスキー。
「壮観です、プロフェッサー」
しかし隊長、我々にはディアボロ退治という任務が。
「熟知している」
ふっ、と俯き気味に口元を緩める詠歌。そして、
「さぁ、海を満喫するぞ!」
だめだ聞いてねえ。
カスタムフラッgじゃなかった、ジェットスキーに跨りエンジンどぅるるん!
「私は我慢弱く、落ち着きの無い女なのさ」
スロットル全開でロケットスタート。
全速旋回時には12Gも掛かる(かもしれない)機体を駆り、詠歌は大海原へと飛び出していった。
「かわいい? かわいいー?」
和紗セレクトによるパウダーオレンジのセパレートを身に付け、マリスはいつもの調子でリーゼや和紗にはぐはぐと抱きつく。
対する和紗は、マリスセレクトによる青のビキニ。が、布面積の少なさが落ち着かない彼女は、パレオを巻いたままそわそわ。
2人の少女に挟まれたリーゼはと言えば、相変わらずの無愛想面。見方によっては、目のやり場に困っているように見えなくもない。
「イルカとビーチボール!」
マリスは空気を入れた浮きボートとボールを両脇に抱え、元気一杯に海へと走っていく。
「エリスちゃん、アターック☆」
翼で飛んだマリスが、高角度からの弾丸アタック。ほぼ垂直に叩き込まれたビーチボールがエリスの足下を爆撃し、金髪ツインテールの眼帯悪魔は砂に埋もれて見えなくなった。
ちなみにエリスは、室内(ホテル)でのんびりするものだとばかり思っていたので、水着ではなくいつもと同じゴスロリ服だ。ていうか水着持ってないしな!
その光景を、もだもだと木陰から眺めている和紗。隣には、エリス同様普段着の裾や袖を捲っただけのリーゼ。
「和紗ちゃんもリーゼくんも早くおいでよー!」
水着ではないエリスをイルカボートに乗せながら、マリスが海面から顔を出して手を振っている。
「俺は…リーゼが泳ぐなら泳ぎます」
和紗は肌を隠すように体育座りで縮こまる。
燥いで泳ぐようなイメージがあまりないので、きっとリーゼは海には入らないに違いない。何より今は水着ではなく普段着だ。
そう見越した上での発言だったのだが――
「リーゼくんどーん!」
ドドドッと海から出てきたマリスが、リーゼの手を引いて強引に海へと放り込んでしまった。
「和紗ちゃん、リーゼくん泳いだよ! 和紗ちゃんも泳ご!」
「泳いだというより、落とされただけな気もするが……」
びしゃびしゃになりながら「むぅ」と上着を絞るリーゼ。
同じく「むぅ」と唸りながら、和紗は観念して立ち上がり、パレオを手放した――
岸辺に1人立っていたゼロ=シュバイツァー(
jb7501)。
「アドリブかかってこい!」
高らかに叫ぶ。瞬間、横から何かが飛んできて、かーん!とゼロの頭を打った。
飛んできた『アドリブ』がトサッと足下に転がる。
「ゼロくんごめーん☆ そのアドリブ取ってー?」
マリスがぶんぶんと手を振っている。
「うん……ええけど、気ぃつけてな……」
「はーい、ごめんなさーい☆」
てへぺろしているマリスにアドリブを投げ返し、ゼロは海を振り返る。
「海か…釣りでもするか」
家に釣り堀あるし(CM)。
コメディポケットからずるりと釣竿を取り出し、投擲。しばらくして、竿先が大きくしなる。
「お? 大物や! せーのっ!」
ざばぁ!と海面を押し上げて現れたのは魚――ではなく、なんとMS。
「…水音MSさんやないですか。何してんすかこんなところd――」
ばくんっ!
瞬間、水面を突き破ってきたサメが空中でMSを丸飲みに!
「おわっ!?」
突然の事で、ゼロも竿ごと引きずり込まれて海に落ちてしまう。
なんかそれっぽいBGMと共にザブザブと迫る背ビレ。
「アカン! 餌になるんは水音MSだけのはずやったのに……!」
濡れた包帯がまとわりついて、思うように泳げない! よもやこんな形で重体が仇になるとは!
だがその時――
「敢えて言わせてもらおう……幸村 詠歌であると!」
スペックの2倍以上のスピードで現れた詠歌が、フラッgジェットスキーでサメを撥ねる…かと思いきや、撥ねられたのはゼロ。
彼女はゼロを踏み台にして、機体を高々とバックフリップ。
「ヒト呼んで、詠歌スペシャル!!」
華麗に舞う機体。餌になるゼロ。
そして着水した瞬間、何故か「カハッ!」と血を吐く詠歌。
「この程度のGに、体が耐えられんとは……ッ!」
直後、まだ食べ足りぬと水面から飛び出してきたサメが詠歌をぱくりっ。
咄嗟に機体を盾にするも、頑強な歯に上下から挟まれてジェットスキーがメキメキと悲鳴をあげる。それに対し彼女は……
「これは死ではない。人類が生きる為の――!」
プラスチックカバーに覆われていた赤いボタンをぽちり。
水平線に、オレンジ色の華が咲いた――……
和紗に言われるがまま、砂浜を焼いていたジェンティアン。
だったのだが、
「少し飽きたよね」
パラソルの下でゲームをぴこぴこ。
魔法コマンドを選択して、隕石魔法をぽちり。液晶画面の中で派手な隕石が落ち――
「さぼりはダメですよ?」
「うおっ!?」
瞬間、パラソルを圧し潰してコメットが落ちてきた。
ごろごろと転がって何とか回避。顔を上げると、煌く笑顔のはとこ殿。
「和紗、コメットは人を狙っちゃいけません!」
「人など狙っていません。竜胆兄を狙っているのです」
「皆さん、そろそろ休憩してご飯にしませんか?」
そこへ、熱中症対策に水を配り歩いていたユウが声を掛けた。
「そうだな、確かに腹が減った。何でもいいから作ってくれ」
海峰が未だ放心したままだった絵美へと顔を向ける。
「チャーハン作るよ!」
条件反射のように起動する絵美。瞬間、誰よりも早く反応したのはヴェスだった。
索敵スキルが警報を鳴らし、火炎放射器を放り捨てて絵美の元へと全力移動。キャンプセットで調理を始めた絵美に張り付き、出てくるチャーハンをじーっと凝視する。
特に以上も無く人数分を作り終えようとしていたまさにその時、
「あ」
不意に絵美の声。
振り向いたヴェスに絵美が「何でもない」と答えた瞬間、和紗から逃げ回っていたジェンティアンがヴェスにぶつかる。
「あ、ごめんねー」
「いえ、大丈夫です」
(失敗したなー。もったいないけど、これは後で捨てよう)
やり取りを他所に絵美は既に出来ていた皿をどかして、そこに失敗作の皿を置き、切れたコショウを取りに一時離脱。
直後、ジェンティアンと話し終えたヴェスは絵美が居ない事に気づく。
目の前には、さっきから置かれていたと思しき皿と、先ほどまでは何も無かったはずの場所に置かれた皿。「あ」という声からして、どうやら後者がデスチャーハンのようだ。
ヴェスがそれを手に取ると、コショウを持って戻ってきた絵美が慌てて制止する。
「あ、ヴェスちゃん。それちょっとヤバイ失敗しちゃったから食べない方がいいよ。もう一皿作るから」
「そうですか」
頷き、ヴェスはゴミ袋の中へ手にしていたチャーハンをポイ。良かった、これでもう大丈夫だ。
ヴェスはもう1つの方の皿を持って席に座り、絵美を待つ。その間、
「ご飯くらいは一緒に食べたいなぁ」
チラッチラッと和紗に視線を送るジェンティアン。
和紗が「仕方ないですね」と頷いたのを見て、彼は喜々としながら和紗と黒髪男(リーゼ)の間に体を割込ませようと――
びっくりするほど冷たい視線。
「ごめんなさい」
和紗のじと目を受けて、ジェンティアンはとぼとぼと正面の席に移った。
やがて、絵美も自分の分を持って席につく。皆揃っていただきます。
ぱくり
べしゃ
1人動かなくなったヴェスを見て、一同ははてと首を傾げていた。
●真リゾート
交渉の結果、ホテルで遊べる事になったリディアと葉月。
「良いホテルですね。私が泊まるに相応しいです」
優雅さに拘りを持つリディアは、広々としたロビーの造りに満足して頷く。
葉月はと言えば、到着するや否や屋上にあるプールへとまっしぐら。今頃ちゃぷちゃぷすいーと楽しんでいる事だろう。
「さて、部屋に行きますか」
「オペ子腹ペコです」
「後でバイキング形式の食事会があるそうですよ」
リディアは客室係に荷物を預け、オペ子や小次郎、ロペ子と共にスイートルームへ。
食事もさぞ豪華だろう。
「よくもだましたなぁぁ!! 純真無垢な23歳のアヒル少年をだましたなぁぁぁ!!」
アレをナニしてゴニョゴニョした車を駆り、伊藤 辺木(
ja9371)はホテルへの道を爆走していた。
「絶対に許さんぞ主催者ども! 敵は豪華ホテルにあり!! ヒトデ退治? そんなもんは犬の餌だドチクショウ!」
ヒャッハー! あのホテルの飯を奪えー!
などと内心でモヒカンになりながら、しかし辺木は一般のお客さんの迷惑にならないようにきちんと駐車場の隅に車を止めた――
「行くぜ、野郎どもー!」
アレをナニしてゴニョゴニョした小型船の操舵室に立ち、腕組みスタイルを取って足で舵をきる佐藤 としお(
ja2489)。
置いてけぼり組が燻りだした大量のヒトデディアボロを一部こっそり拝借。網に包んだヒトデの塊が、船上でうごうごと蠢いている。
やがて着いた先は、ホテルの海側絶壁。
船を横付けし、ヒトデを担いで断崖をよじ登る。塀を越え、ベランダからベランダへと飛び移ってやってきました最上階。
天窓から中を覗くと、オペ子ら職員に混じって、リディアや葉月までもが豪華絢爛バイキング祭りだった。
だがしかし、本当のパーティーはここからだ。
「フフフ……」
ワイヤーをくくりつけて窓の上に立ち、
「レッツ、パァリィィィィイイイ!!」
ガシャーン!と天窓を蹴破って会場内に乱入。
ワイヤーでブランコのように滑空しながら、ヒトデを撒き散らすとしお。
「おお!? なんか分からんけどチャンスか!」
一方、こっそりホテルマンになりすまして会場に潜伏していた辺木はこれ幸いと制服を脱ぎ捨て、手当たり次第に料理をバリムシャア!
パニックになった一般客の一部が出入口の扉へと殺到するが――
「よくも騙したなぁ! 騙してくれたなぁぁ!」
バーン!とその扉を開け放って飛び込んできたのは、ラテン・ロロウス(
jb5646)。
貴族(自称)の怒りが有頂天!
逆襲の時! ホテルよ私は帰ってきた!
全身にヒトデディアボロを張り付かせてヒトデそのものと化した彼は、うぞうぞびちびちと蠢きながら会場中をこれ見よがしに走り回る。
「食欲を無くさせてやる! 大混乱だ!」
だがそこへ、野郎3人の侵入に気づいていた私兵警備部隊がまさかの銃装備で到着。カジノとかもあるからな!
直後、踵を返すラテン。
「ここまでのようだな! だがまだ終わりではないぞ! プロの実力を見せてくれる!」
追っ手を振り切り、向かった先はホテルの屋上。
屋外プールを横切ってアクリルガラスの塀を越え、警備員の制止も聞かずに迷わずダイブ。
「豪華スゴイタカイホテルから飛び降りる! サラダバー!」
ヒトデの塊のまま、迫る地面を見つめながら高笑い。
「あまりのショッキングな映像に豪遊等をしている場合では無いだろう! ふはは! リゾートが台無しだな! ふははは!」
学園から苦情が来そうだが私だと分かるまiグシャア!
これトラウマもんやで……
一方、としおと辺木――
「私の休日を台無しにした報いは受けて頂きます」
「豪華スイーツぅぅぅぅ!」
「発電室と厨房には弾を流すなよ! 引火するぞ!」
リディアと葉月と警備部隊が一斉攻撃。
射殺する勢いで降り注ぐ銃弾やら鎖鎌やらに追い立てられ、2人はホテル中を右往左往と逃げ回っていた。
●夜
「磯釣りなら任せろー!」
遊夜復活。
「もう大丈夫、そうだね、良かった」
「それじゃ夜釣りを楽しもうか」
ユーヤと麻夜も微笑みながら釣竿を手にし、ユーヤに至っては彼の膝にちょこんと座って直接手解きを受けていた。
「ん、こう?」
「ん…そうそう、そんな感じだ」
「むぅ…」
それを見て、唇を尖らせる麻夜。
(ボクも膝に座りたい…けど昼間に膝枕しちゃったから、我慢我慢)
でも擦り寄ってスキンシップはするよ! よ!
ぴたりと密着しながら、ふふんと得意気にリールを巻く。
「ボクだってあれから上達したもんね!」
「お手並み拝見といこうか」
ケラケラ笑う遊夜と、その膝上で頑張って大物を狙うユーヤ。
その頃、ディザイアはと言えば、
(こういうのには事故やハプニングが付き物だからなぁ)
女子2人の邪魔をするのも悪いので、見回りも兼ねて散歩していた。
(戻る頃にゃ良い感じに釣れてんだろ)
それに、夜の巡回というのも悪くない。
空の月が反射して、水面にも月1つ。肴にはもってこいだ。
ふとディザイアは、頭にヒトデを乗せて岸辺でぼーっと水平線を眺めている仄を発見。
声をかけると、彼女は夜の海に目を向けたまま呟くように返事をする。
「折角の、海、だ。UMA、の、一つも、見たいモノ、だな。ニンゲン、何かが、見れた、ら、最高だが…。南極海、でもないし、無理、か」
「よく分からんが、そういうのが好きなのか?」
頷き。
「せめて、クラーケン、位は、出てきて、欲しいモノ、だ。誰、か、釣りをする、なら、深海魚、でも、まあ、合格、か」
「磯釣りで深海魚は無理だと思うが……普通の魚で良いなら一緒に食うか?」
「アイス買ってきたよー☆」
「花火もありますよ」
ユウやエリスと共に翼を広げ、夜の空から降りてくるマリス。ちょっと遠かったが、3人の手にはコンビニの袋が。
一向に尽きる気配の無いヒトデを焼き続けていた一同が、わらわらと集まってくる。
マリスはアイスの袋を剥がし、
「リーゼくん、あーん♪」
口元に差し出した。
手に取ったアイスを開けかけていた彼は「ふむ?」と手を止め、マリスの差し出したアイスをしゃくり。そして少し考えた後、
「食べるか?」
手に持っていた自分の分を開け、無愛想な調子のままマリスの口元へと差し出した。
釣れた魚を網で焼くディザイア。
「はい、あーん」
ユーヤは大好きな家族と一緒に魚を齧り、にっこりと満面の笑み。
「…ふぅ、やっぱり夜は良いなー」
「ああ…良い夜だ」
「やっぱり夜が一番落ち着くよねぇ」
「ん、のんびりは、大事」
「UMA、も、大事、だ」
お呼ばれした仄も、魚をはもはも。
とその時、投げっ放しにしてあったユーヤの竿に特大のアタリが!
遊夜と麻夜に体を支えられ、ユーヤがリールを巻いて振り上げる。ざばぁと飛び出してきたのは、なんとゼロ……と彼にしがみ付いた詠歌とMS。
気絶したままの3人が、どさりと浜に転がる。
「大物?」
ユーヤは、かくりと首を傾げた。
手持ち花火で盛り上がる夜の砂浜。いつの間にか作られていたラテンの砂像が、煌く火花に照らされてゆらゆらと輝く。
そんな光景をアレスやイリヤと共に眺めながら、お土産にと、ヒトデではなく本物の星の砂を小瓶に詰めるニナ。
「あー土産かぁ…俺もなにか考えるかな」
「戦ってたらさー、こういう自然も壊しちゃったりするんだろーね」
しみじみと呟く。
「早く平和になるといいな」
その時、遠くの陸地で大きな爆発。確かホテルがあった辺りだ。
ガスか油にでも引火したのか、連鎖的に爆炎が噴き上がるその光景は、まるで打ち上げ花火のようで。
「たーまやー☆」
誰かの掛け声。
久遠ヶ原の夏は、まだ始まったばかりだ。
ヒトデの退治料? ホテル吹き飛んだから無理なんじゃないかな!