――斡旋所。
「あ、あの…樫崎様、これ…戦利品なのです」
依頼を終えた華愛(
jb6708)が、オペ子に1枚のメモリカードを差し出す。
「オペ子です」
条件反射で答えつつそれを受け取り、PCに挿して再生――
●変態紳士を捕まえて 〜白鳥は二度死ぬ〜(題字:花一匁(
jb7995))
ビデオカメラの電源が入り、映し出されたのは金髪眉毛と碧眼のドアップ。近すぎたアングルが徐々に引いていくと、それはマイケル=アンジェルズ(
jb2200)の顔だった。
向けられているカメラに気づいた彼が、ニカッと白い歯を覗かせる。
「Oh! 撮影デスネー? 拙者、ジャパンに来る前はハリウッドでスターもやってマシタ。是非ベリーダンディに撮って欲しいデース☆」
「が、がんばります、なのです」
カメラの後ろから華愛の声がして、画面がこくりと縦に揺れる。
「今回の撮影でハリウッドを目指しましょう。キャッチコピーはタイタニ●クっぽく、『運命のタイツ。誰もそれを裂くことはできない』で」
別の声と共に、画面左から馬の頭がニュッと映りこむ。カメラが向けられると、それは本物の馬ではなく、アニマルマスクを股間に装着した水無月 ヒロ(
jb5185)だった。
股間部分以外は全裸――いや、よく見ると肌色の全身タイツか。セフセフ。
まあ股間に馬が生えてる時点で充分アブナイのだが。
準備を終えた一同は、転移装置を抜けて現場へと到着。2人のフリー撃退士が、女子中学生を介抱していた。それとは別に、「自分も白鳥に助けられた」という少年も居る。
「通報にあった変態さんは貴方達ですか?」
声を追うようにカメラが映したのは、花一匁の姿。にっこり笑って、フリー撃退士達を見ている。
(おい、この赤ずきんちゃんは一体何を言ってるんだ? まさか俺達が犯人に見えるってのか)
(よせ、相手は久遠ヶ原の撃退士だぞ。下手に刺激するな)
フリー撃退士は、恐る恐る事情を説明。
「正義の味方…白鳥の魔法使い……? まさかっ!?」
声の主――神雷(
jb6374)――にカメラが向く。
ババーン!と効果音が流れて神雷の顔がズームアップされるが、意味深っぽく言ってみただけで意味はなかった。
神雷はチラッチラッとカメラ目線になりながら、
「こんな時にロペ子様がバイクに変形してくれたら便利なのですがっ!」
真剣な表情でギリッと歯噛みしてみせる。
カメラも回っているので、シリアス路線でカッコイイししょーを演出です。
すると彼女の弟子――柘榴姫(
jb7286)――が無表情のままパチパチと手を叩いた。
「ししょー、しりあす。……しりあす? しり…しり……おしり。ししょー、おしり」
おしりのじゃまをしたら、いけないわ。
頷いた柘榴姫は、珍しく神雷とは別行動へ。走り出した神雷を見送り、1人違う方向へと駆けて行った。
「けったいな生き物の対処に困るって投げられても困るんだけどな」
一方、新たに口を開いた人物を追って画面が動く。チャイナ服姿の蓮城 真緋呂(
jb6120)。
「何か電波(←)で専門家に云々受信したけど、私専門家じゃないから。いたって普通の大食い少女だから」
普通に電波で大食いの撃退士。
「でもお仕事受けたからには頑張るわ」
言い終えるよりも前に、ふと、ロードレーサーに乗った自転車便が彼女の横を通り抜k
「ふんっ!」
真緋呂ラリアット。
首を狩られて吹っ飛んだ運転手の代わりに、彼女はロードレーサーに跨る。
「ど、ドロボー!」
「いいえ撃退士よ! 普通よ!」
猛スピードで市街を駆け回っているという白鳥とアヒルに対抗すべく、真緋呂は普通に譲り受けたロードレーサーのペダルを普通に全力で踏み込んだ。
「ジャパンの黒髪美少女はパワフルデース☆」
ロケットスタートであっという間に見えなくなった真緋呂に負けじと、マイケルが叫ぶ。
「光・纏! スターダスト☆ファントムここに検算デース☆」
×検算
○見参
イントネーションのおかしいマイケルの叫び声に合わせ、華愛はカメラを回したままスレイプニルのスーさんを召喚。ブレスによる爆炎が、ダイナマイト代わりに変身シーンを盛り上げる!
が、ちょっと炎の勢いが強すぎた。
「Oh, shit! スーツに引火したデース!」
取り出した衣装に火が回り、慌てて手で叩くマイケル。画面がガタガタと揺れながら彼に駆け寄ったところで、ブツッと暗転。
そして再び映像が点ると、そこには着替え終えたマイケルがバッチリとポーズを決めて立っていた。
筋肉質な肉体を全身黒タイツ(尻部分に若干焦げ穴)で包み込み、コンビニで買ったビニールテープと油性マジックで作った黒鳥の首を股間に装着している。
更に、そこへポーズを合わせてシュタッと躍り出る肌色タイツのヒロ(馬)。遠くから見たら全裸っぽいかもしれないが気にしない。
黒鳥と馬がターゲットの追跡を開始。
残ったメンバーも、だらだらぞろぞろとテキトーに行動に移った。
●空撮り協力:スーさん
「……変態紳士とキモ可愛いなら、キモ可愛いを取りたいなぁ…」
白鳥男はないわー、と。飛行スキルで上空を進みながら花一匁はごちる。
その様子を華愛がスーの背に乗って空撮りしていると、ふと花一匁が地上を爆走する影を見つけた。が、すぐにビルの死角に入って見失う。
とりあえず下に降りて、辺りを探索。
彼女は自らのヒリュウを呼び出す為に、必殺技っぽく掛け声をシャウト。
「コンセプショn――」
だがその時、
「そこの赤ずきん君。この辺りで怪しいアヒルを見なかったかい?」
股間から白鳥を生やした三十路男が出現。ハァハァと息を荒げながら近づいてくる。(注:走り疲れです)
やせいの げきたいし が あらわれた▼
コマンド
たたかう▼ ける▼ どうまわしかいてんげり←
▼ ハイキック
▼ INAZUMAキック
スキル▼ ひりゅう▼ ブレス
どうぐ
にげる
「こっち来んなぁぁぁ!!」
上から順にコマンド連打。
はないちもんめ は どうまわしかいてんげり を はなった!
「待つんだ。僕は敵じゃない」
ミス! やせいの げきたいし は こうげきをよけた!
その時、画面の奥にちらりとアヒルの嘴が映る。
気づいた白鳥男は、敵を追いかけて凄まじい速度で走り去っていった。
「ええと、変な生き物と聞いたが…………」
画面に映ったのは、桜雨 鄭理(
ja4779)。
若干カメラの方を気にしつつ、てくてくと市街を捜索していると、目の前を異形の鳥2匹が猛スピードで横切っていった。
「うわぁ……」
聞きしに勝る変態的状況。
まあこれも仕事か。とりあえず後を追う鄭理だったが――
速すぎて全く追いつけない。
仕方ないので、上空を旋回している警察ヘリに位置を聞いて先回り。
正面から両手を広げて通せんぼするも――
完全スルーで脇を突破される。
ぷつん、と何か小さい音がした。
「そうか、そんなにOSHIOKIされたいか……」
ぶつぶつ呟きながら、鄭理はフラリとどこかへ消えた――
ヘリからの情報を頼りに、待ち伏せしていた神雷。そこへ土煙を上げて対象が近づいてくる。
どうにかして足を止めなければ。
「華愛様、ちょっといいですか?」
神雷がカメラ目線で手招きする。
首を傾げて横向きになった画面が近づいた瞬間、神雷はむんずとその襟首を掴んだ。
ししょーが考えた、すごい足止め方法:華愛型ミサイル『なのdeath』
1 華愛様の襟首を掴む
2 アヒルに向かってぶん投げる
3 やったね、ししょーの大勝利!
完璧なロジック!
「これならカメラも、猛スピードで敵に接近する大迫力の映像が撮れます」
「ぴっ!?」
投擲。
短い悲鳴が聞こえ、空中を直進する一瞬の映像の後、ガシャンザザッとカメラがアヒルと衝突。
しばらく地面に転がっていた映像は、やがてよろよろと起き上がるようにアングルを変えた。
頭を振りながら立ち上がるアヒルと白鳥の魔法使い。
そこへ追いついてきたのは、黒鳥と馬。
瞬間、馬の口(股間)から封砲が火を噴いた。直撃を受けてよろめくアヒルに、馬が飛び掛る。
「クアドラプルアクセル!」
まさかの4回転ジャンプ。鞭のように撓った馬の首がアヒルの頬を殴打。一方、白鳥も馬に負けじと4回転を決めてみせた。
「まるで舞を踊ってるような優雅な立ち回り。中心線も全くブレていませんね」
神雷は解説もそこそこに、助太刀するべく白鳥男へと駆け寄る。
股間に付いてるコレはコンテンダーかな。発射できるかな。
白鳥部分をさわさわしたり口を無理矢理開かせて刺激を与えrってこの描写は色々マズイィ!
「王子はあのアヒルデスネー?」
その時、さながら舞台公演のような体で話しかけたのは黒鳥男マイケル。
「王子をおとした方の価値という訳デスネー☆ 心得たデース☆ 白鳥GUYに主役としてどちらが名演か勝負を挑むデース☆」
「君も魔法使いなのかい?」
「NONO、拙者は魔法使いではないデース☆ スターダスト☆ファントム…ディバインナイトデース☆」
そうこうしてる間にアヒル男が逃走。
しまった、と振り向いたところへ柘榴姫が到着。
「けりーおにごっこ? じーくんつかまえるのね」
久遠ヶ原/zero。どうやらケリー(白鳥)とジーくん(アヒル)が鬼ごっこをして遊んでいると勘違いしたようだ。
ていうかケリーじゃないよ! モデルはケリーだけどケリーじゃないよ!
「けりー、かたぐるま」
MSの訂正も虚しく、すっかりケリーだと刷り込まれた柘榴姫は彼に肩車を要求。
穿いてない幼女が、足を広げて彼の顔面に飛び込mいやこれ描写するとか無理だから! MSの首が社会的に飛ぶから!
飛び乗りに失敗してずり落ちた柘榴姫は、そのまま彼の股間のコンテンダーもとい白鳥の首にライドオン。
「君の体重は、ワルサーよりは重いようだ」
ハイライトの消えた瞳で微笑む白鳥男。
「じーくん、おうのね」
彼はこくりと頷き、股k…じゃなくて白鳥部分に柘榴姫を乗せたまま、走り出す。
「ぶううううーん、ぶーううーんっ」
柘榴姫の騎乗スキルが発動。テンションにあわせて上下左右斜めに腰を揺rだからダメだってこれ!
「それにしても逃げ足の速い王子デース」
マイケルは先行のアヒルに追いつくべく、アウルの力を解き放つ。神の翼を生やしたアウルのアヒルが顕現し、股間の黒鳥飾りと融合。(股間に)翼を広げ、上空から敵を狙い撃った。
「王子マイラブ☆忍法☆髪芝居をくらうデース☆」
髪どころか鼻毛と腋毛も伸びる謎仕様。
が、見た目に違わずアヒル並の脳しか無いアヒル男は、意にも介さず走り続けた。
『対象は時計回りに市街を逃走中。繰り返す。対象は――』
スーの背から地上を見渡す画面に、警察無線を傍受しつつロードレーサーで急行する真緋呂の姿が映る。ペダルを回す度にチャイナ服のスリットがかなりアレな事になっているが、本人は全く気にしていない。
横から飛び出してきた車を、真緋呂は「そいや!」と跳び越した――
ゴォッと風の鳴る空撮画面に映し出されたのは、壁走りスキルでビルの壁に張り付いていた鄭理。
まるでスパイダ●マンのような体勢で見下ろす先には、激走するアヒルと白鳥(+柘榴姫)。
鄭理は壁から飛び降りると、体重に落下速度を乗せてアヒル頭を踏みつけた。嘴が勢いよく地面に突き刺さり、アスファルトの破片が舞い上がる。
殺気を感じ、咄嗟に柘榴姫を退避させる白鳥男。鄭理は間髪容れずに白鳥へ金的を見舞っt
「あぶなーい!」
寸前、叫び声。時速70kmでロードレーサーを駆る真緋呂の姿。
車と撃退士は急に止まれない。
ゴリュッと車輪の鳴る音がして、鄭理は白鳥ごと轢き潰されていた。
真緋呂はザァ!とブレーキをかけてUターンした後、再度ペダルをスプリント。
改めて勢いをつけてから自転車ごとジャンプし、
「轢き逃げあたーっく!」
アヒルと白鳥と鄭理の3人を纏めて踏みつけた。
もはや虫の息。
だがそこへ、花一匁や馬が乱入。
「ご当地ヒーローって言ったらダ●ライザーですよね!!?? ダルラ●ザー本気(マジ)かっこいいよ!? 見習お?? まず、見た目から見習お??」
粘土でも捏ねるかのように白鳥男の全身を蹴たぐる花一匁。
対して、馬はアヒルの毛を力任せに毟り始めた。嘴で噛まれぬように縦にした蒲鉾板を突っ込んで口を固め、ガムテープまで持ち出して執拗に毛を毟る。
「必殺! 北京ダック!」
毛を抜かれて鳥肌を晒したアヒルに、真緋呂が『炎焼』スキルによる火刑を実行。
「ねぇ? 今どんな気持ち? どんな気持ち??」
毟られ、焼かれ、嬲られて。
映像には、アヒャヒャと笑い狂う3人の声が響き渡っていた――……
●突発! てーりん先生! 〜おにちく教師・お説教編〜
でーでん!とテロップが走り、眼鏡を装着した鄭理が映る。ちなみに、顔には薄っすらとタイヤの跡が付いていた。
「まず聞こうか。お前たちはなんだ? 天魔か? 人間か? いや、あっちの北京ダックはどう見ても人間じゃないな…」
正座させられているのは白鳥男――と、馬とチャイナ服と赤ずきん。アヒルは既にこんがり焼けている。
「僕はね、(もうすぐ)魔法使いなんだ」
「……魔法使い? つまり、ダアトと…違う? …あ、成程、童帝か」
察して頷く、妻帯者のてーりん先生。
「そんなに捨てたいならソ●プでも何でも行けばいい」
大丈夫? その発言、奥さん的に大丈夫?
だがそんな彼を制するように、神雷が割って入る。
「もう、一人で戦わなくても良いんですよ」
一つの夢を追いかけた男の末路が孤独だなんて悲しすぎる!
そう言って彼女は、正義の味方の魔法使いに味方した。
しかしてーりん先生の怒りは収まらず、彼のお説教は実に2847文字にも及んだ。
その後警察を呼び、1人満足して撤収するてーりん先生。まじフリーダム。
やがて警察が到着し、
「お疲れ様です。後の処理は我々が」
運ばれていく北京ダック。
「Oh! 王子がいなくなってしまったデース」
少し残念そうにそれを見送るマイケルだったが、ハッと思い出したように自らの股間に目をやる。
――神の翼を生やした黒アヒル。
「拙者が王子だったデース!」
「あー、君。その格好について聞きたい事がある。ちょっと署まで来てもらえるかな」
肩を叩いたのは、背広姿の刑事達。
白鳥ケリーと黒鳥王子、連行。
だが咄嗟にそれを庇う馬…もといヒロ。
「待って! この人達は悪い人じゃないんです! ボクの仲間なんです!」
「そうか。君『も』仲間か」
馬も連行。
ついでに、刑事の目はすぐ隣に居た神雷にも向けられ、
「君も仲間か?」
「いえ知らない子ですね」
彼女は迷わず味方を辞めた。
タイツの変態達を乗せて遠ざかっていくパトカー。
「あ、電池切れ、なのです……」
カメラの後ろから華愛の声が聞こえる。慌てたように画面が揺れ――ブツンッ