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マスター:水音 流
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/05/27


みんなの思い出



オープニング

「ふひひ……待ち合わせのカップルなんて、みんな吹っ飛ばしてやるわ」

 薄暗い部屋の中で赤と青、2つのコードを埋め込んだ小振りな箱をパタンと閉じる。包装紙で丁寧にラッピングしてリボンを結び、完成したソレを掲げて彼女は歪んだ笑みを浮かべた。
 徐に、床に広げてあったファッション雑誌に目をやる。

『明日一番ラッキーなのは、乙女座のあなた! 恋愛運、金運、健康運すべてがパーフェクト! ラッキーカラーは赤! でもでも、運命の赤い糸が切れないように努力するのも大切かも!?』
『そしてごめんなさい、明日一番アンラッキーなのは水瓶座の子。何をやってもダメダメ行き遅れ。婚期に焦ってガッツクと、恋人だけじゃなく友達にまで引かれちゃうかも。明日はどこにも出かけずに家で1人大人しくしてましょう』

 初めから男も友達も居ないわよ。つーか接客業で日曜でも仕事あるんだから外には出なきゃダメだっつーの。ラッキーカラーに振り回されて爆死しろ。
 ブツブツと忌々しげに呟きながら、女は雑誌をバサリとゴミ箱へ投げつけた。


●とある病室
「2人っきりでデートだと!?」

 個室のベッドに横たわっていた全身ギプスだらけの少年――守木 怜司――は、親友――春咲 優輔――の言葉に戦慄を露わにした。

「うん。明日の日曜に、駅前の噴水広場で待ち合わせしたんだ」
「駄目だ! 絶対に駄目だ! 何かあったらどうするんだ!」

 いや、絶対に何かある。それも息をするくらい当たり前のように命に関わるアクシデントが次々と。
 怜司がガバッと身を起こして叫んだ次の瞬間、中庭に面した窓がけたたましい音を立てた。

 ――ガラスを突き破って飛び込んできたのは、野球のボール(硬式)。

 怜司は光の速さでそれに反応し、ベッドから包帯まみれの身体を跳ね上げて優輔の前に割って入る。
 めきりと深い音がして、硬式ボールが怜司の頬にめり込んだ。

「だ、大丈夫?」
「あ、ああ。これくらい平気だ」

 ブレーキが壊れて信号待ちの歩道に突っ込んできた昼間の大型トラックに比べれば、蚊に刺されたようなものだ。
 頬にボールをめり込ませたまま、怜司は再度優輔に進言する。

「デートは延期しろ。少なくとも俺が退院するまで」

 2人の恋路を邪魔する気など毛頭なかった。優輔とその彼女――江見原 奏――は、幼い頃からの大切な親友だ。中学に上がって2人が付き合う事になった時も、怜司はまるで自分の事のように心からそれを祝福した。
 高校に入ってからも、3人はいつも一緒だった。
 登校も、休み時間も、放課後も。常に共に行動し、怜司は文字通り『身体を張って』幼馴染を見守ってきた。
 できる事なら2人っきりでデートさせてやりたいが……

「僕、昔から怜司に頼ってばかりだったからさ。一度くらい怜司のサポート無しで、奏をエスコートしてやりたいんだ」

 いや死ぬから。お前絶対何かに巻き込まれてポックリ逝くから。俺もアウルに覚醒してなかったら今頃とっくに墓の下だから。
 しかしそうとは口に出せずハラハラと心配する彼を他所に、優輔は手を振って病室を出て行こうと踵を返す。瞬間、天井の白熱灯がガコンと外れて彼の頭上に落ちてくる。

「なんとー!?」

 怜司は点滴を引き倒しながらベッドを蹴ると、両手足のギプスをまるで翼のように広げながら高々と飛び上がった。アーチを描くように優輔の頭上を飛び越えながら空中で蛍光灯をキャッチし、満足に受身も取れずにべしゃりと床に落下。

「ど、どうしたの急に? 大丈夫?」
「だ、大丈夫だ。ちょっと鳥になりたくてな。家まで送ろう」
「気持ちは嬉しいけど、手足骨折してるんだからベッドで安静にしてなよ」

 肩を貸す優輔に「問題ない」と返し、怜司は車椅子のタイヤをギプスの先で器用に回して親友を家まで送り届けた。

 そうして、病院への帰り道。病室を出た時よりも更に傷だらけになっていた怜司は、ギプスの先で巧みに携帯を操作して斡旋所の番号を呼び出した――……


●デート当日の朝
 待ち合わせ前に立ち寄った、とあるカフェ。

『俺の代わりに、優輔を陰からこっそりと護ってほしい』

 怜司からの依頼を受けた一同は、変装と尾行の必須アイテム『サングラスと新聞紙』を広げながら遠巻きの席に陣取り、カフェで1人コーヒーを飲む優輔を監視していた。
 周りでは、怜司以外にも様々な客が朝の軽食に舌鼓を打っている。周囲を警戒していた一同の目に、その様子が映る。

「いいか、計画通りにやるんだぞ」
「わかってんよ」
「これが成功すれば、俺達一生遊んで暮らせるぜっ」

 頭を寄せ合って、ヒソヒソと話す3人組。テーブルの上には、銀行の見取り図。

「コーヒーのおかわりはいかがですか?」

 ウェイトレスに声をかけられ、3人は慌てて地図をポケットに捻じ込みながらおかわりを断った。店員は次の客の元へ。

「おかわりはいかがですか?」
「おー、親切にあんがとさんだべやー。んだどもオラ、そろそろ戻らねえとなんね。向こうの道路に停めたトラックの荷台で、花子さ待たせってからよー。あんまし長ぇこと待たすっと、花子のやつ寂しがって暴れだしちまうっずらなー。あ、んでももう一杯だけ飲むっちゃーよ」

 店員の女はニコリとした営業スマイルを浮かべてコーヒーを注ぐ。そして次の客へ。

「おう、ありがとな姉ちゃん。もう一杯頼むわ」

 工事現場の作業員と思しき男は、携帯で誰かと話しながら小さく手を挙げる。

「――だから、鉄骨固定用のワイヤーが予定してたのより細いやつしか届いてなかったから、使う時は2重にしろってんだよ。そのまま使ったら千切れて落ちるぞ」

 その声を背に、店員は次の客へ。

『ターゲットは、結婚記念日の為に花屋で赤いバラを買う』

 そう書かれた紙の切れ端を眺めていた黒服の男は、テーブルの灰皿の上で火をつけて紙片を燃やす。

「おかわり、いかがですか?」
「いや、結構」

 男は小銭を置き、床に置いてあった長いジュラルミンケースを持って向かいのビルへと歩いていった。

「コーヒーいかがですか?」

 店員は最後に、客用に置いてあったファッション雑誌に視線を落としていた優輔に声をかけた。笑顔で頷いた彼のカップに、そっとポットの中身を注ぎ足す。

「……もしかして、これからデートですか?」

 うきうきした様子で占い欄を読んでいた彼に、ウェイトレスの女が尋ねる。

「はい。初めての2人っきりで何か緊張しちゃって……でも僕、乙女座なんですよ。今日の運勢は最高だって言うし、ちょっと安心しました」
「彼女さんとはどこかで待ち合わせを?」
「はい。駅前の噴水広場で」
「あら偶然」
「え?」
「いえ、何でも。乙女座ということは、ラッキーカラーは赤ですね」
「はい。あ、そうだその前に銀行でお金おろさないといけないんだった。ついでだから、花屋さんにも寄ってバラでも買っていこうかな。ラッキーカラーって事で。工事現場前の近道を通れば、充分間に合うだろうし。となると、まずは向こうの道路まで渡らないと……」
「そう、赤ですか……ふひっ」

 そわそわしながら計画を立てる優輔を見て、ウェイトレスが一瞬――そうほんの一瞬だけ――わずかに口元の笑顔を歪めたような気がした。

「デート、頑張ってくださいね」

 にこりと笑う彼女に優輔は丁寧にお辞儀を返してコーヒーを飲み干し、お代を置いて店を出る。



 一同は新聞紙を畳んで静かに立ち上がり、こっそりと後を追って死地への道を踏み出した――


リプレイ本文

「さっきのウェイトレスさん、優輔さんと話した最後ちょっと悪い感じの気配しなかった…?」
「何か企んでるような笑い方、にも見えたなぁ」

 カフェを出る間際、ぽつりと違和感を口にするエリス・ヴェヴァーチェ(jb8697)と神宮陽人(ja0157)。

 優輔の言っていた『占い』も引っかかる。
 ウェイトレスの隙を見て、陽人はテーブルに残っていた雑誌のタイトルをちらりと確認してから一同を追いかけた――……


●道路の花子さん
 陽人と御堂 龍太(jb0849)が道路を渡ろうとする優輔についてそっと尾行を始める。カフェでの前振りからすると、この辺りで『花子さん』なる何者かが待ち構えているはずだが……

「花子って言う位だから女子だよね! いや神宮くん女子に優しい系男子ですし…」

 美人希望。
 とりあえず運転手の訛りっぷりからして、件の花子inトラックは恐らく地方ナンバーのはず。そう考えて探していると、1台だけ条件に合う車両を発見。そしてその荷台には――

 誰も居なかった。

 2人が首を傾げたその時、

「暴れ牛だー!」

 通行人の悲鳴。
 振り向くと、少し離れた位置で何とも立派な毛並みの黒毛和牛が鼻息を荒げて地面を蹴っていた。

 花子さん3歳。職業、牛。
 あ、でも雌っぽいぞ。やったね陽人くん!

 荒ぶる花子嬢は、既に通りを渡り終えて背を向けていた優輔の方へ。周囲の悲鳴に気づいた彼が、何事かと振り向き――

「いやぁん! あのアイスクリーム屋さん素敵ぃ――ぬぅん!!(雄牛声)」

 瞬間、『さりげなく』横から飛び出した龍太が花子にタックルをかます。花子の軌道が僅かに逸れ、車道を振り返った優輔の死角側をすり抜けて行った先には、

「おーよしよーし!」

 回りこんでいた陽人がドシンと花子の突進を受け止める。
 重い一撃に息を詰まらせながらも根性で耐え、黒毛の太い首に両腕を絡めて全力で地面に引き倒す。

「わーしゃしゃしゃぃ!」

 頭突きや蹄キックを浴びながらも笑顔で花子を撫で繰り回すその様は、動物王国の国王が乗り移ったかのようだった。
 優輔が再び前を向く前に、そのまま花子を引きずって路地裏へと消える陽人。
 対して優輔は、悲鳴が聞こえたから振り返ってみたものの特におかしな点も見当たらず首を傾げる。

「あぁん、ストロベリーべりうまー!」

 しいて言えば、ガッシリとしたオカマがガツガツとアイスを貪っている事くらい。
 まあいいか、と優輔は再び前を向いて歩いて行った。

 ――彼の視界から外れた直後、陽人は龍太と共に花子を宥めつつ、片手でスマホを操作して件の占い内容を調べた。


●寿命の残高
「見守られていないとデートの一つもまともにできない、そんな男には説教の一つでもしてやりたいところだが……」

 轟 社萌(jb9981)が見ていたのは、カフェに居る3人組。
 銀行の見取り図を調べていた上に、その様子をウェイトレスに見られかけて慌てていた。

(まさか銀行強盗か?)

 これは優輔から遠ざけた方が良さそうだ。
 銀行に先回りすると言うセインツ(jb9982)と一旦別れ、社萌はカフェに残って3人の様子を窺う。

「警備員はどうする?」
「心配するな。俺達にはコレがある」

 懐に手を入れ、ちらりと覗かせたのは紛れもなく拳銃。

「銃をチラつかせりゃ、警備の1人や2人――」

 どうやら強盗で間違いなさそうだ。
 となると、先んじて『足』を潰しておきたいところではあるが……

 どれが犯人の車か判らない。かといって本人達が乗り込むまで待っていては、潰すどころかそのまま置いて行かれかねない。
 ここは諦めて、早々にセインツと合流すべきか。

 社萌はそっとその場を離れ、優輔が向かった銀行への道を駆けた。



 ――銀行が襲われるとタレコミがあった。

 セインツは銀行員に久遠ヶ原の生徒手帳を見せながら、小声で言う。
 表情は努めて沈着を装ってはいるが、内心では久しぶりの依頼活動にワクワクだ。

 職員が相談の為に警備員を呼ぶ。
 そこへ社萌も到着。2人は警備室にあった予備の制服を借りて警備員に成りすまし、彼らの代わりに受付近くで警備に立つ。本当は警察に変装できれば良かったのだが、流石に警官服を調達している時間は無かった。
 一方、肝心の優輔はと言えば、ATMコーナーで順番待ちの列に並んでいた。
 彼の様子に注意しつつ周囲を警戒する2人。やがて――

 例の3人組がやってきた。

 セインツと社萌はこくりと顔を見合わせ、手筈通りに会話を始める。

 ――強盗が来ると通報があったが、本当だろうか。
 ――その前提で警備していれば、犯人達も容易には動けないだろう。

 優輔や他の客の耳には届かないように、しかしすぐ傍――受付窓口の近く――に居る犯人には聞こえる微妙な音量。

(な、何でバレてんだよ!?)
(ど、どうする。中止するか?)

 犯人が怖気づく。
 よし。このまま何もせず帰ってくれれば……

 しかし。

(ビビんな! コレがあるっつったろ!)

 リーダー格の男が懐に手を伸ばす。
 まずい。
 男は手にした拳銃を頭上に掲げ、躍り出るように受付カウンターの上に飛び乗った。

「全員動くn――」

 瞬間、社萌がカウンター上の男に飛びつき、セインツも下っ端2人の首に両腕でラリアットをかましながら台の向こう側へと身を隠す。

「今何か聞こえたような…?」

 はてと受付を振り返る優輔。が、銀行員が引きつった笑みを浮かべているだけで何も異常は無い。
 気のせいかと視線を戻し、彼はお金を下ろしていそいそと銀行を後にした。

(んー! んー!)

 カウンターの裏側で、羽交い絞めにされて口を塞がれた男達がもがもがと抵抗する。
 社萌とセインツがそおっと首を伸ばして行内を見渡すと、窓の外に優輔の背が見えた。

 はあーっと大きく安堵しながら、2人は犯人達の首をこきりと捻る。
 あふんと鼻息を漏らし、男達はそのまま牢屋へ直行した――


●血のように赤いバラ
「ツイて無い人って、居るよねぇ…」

 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)は顎に手を当ててごちる。

 フラグにはフラグで対抗だ!
 花屋への先回り途中、見かけた雑貨屋でオシャレな赤い懐中時計を買って胸ポケットに入れる。せっかくだから友人達と撮った写真も添えておこう。

「これが終わったら、皆とご飯でも食べようかな♪」

 鼻歌混じりで呟きながら、花屋に到着。カフェで見た指令書のようなメモを思い返しながら、赤いバラを全て買い占める。
 これで優輔はバラを買えず、胡散臭い黒服から『標的』と間違われる事もないだろう。

(さてと。後は本人に見られる前に退散s――)

 バスン、と。

 振り返った刹那、1発の弾丸が彼の胸を穿った。バラの花がパッと血飛沫のように散り乱れる。
 コンマ数秒後れて銃声が聞こえ、真っ赤な花弁の中で倒れるジェラルドの姿が、まるでスローモーションのように流れていく。

「ああ…死に際までイケメンで、ごめん……」

 パタリ。
 と思ったら、胸元の懐中時計が銃弾を受け止めていた。

「ふぅ、危なかったねぇ……。これが無ければ、死んでいたかも…☆」

 驚いて駆け寄ってきた店員に笑いかけ、彼は顔を上げる。
 目を凝らした先――狙撃元と思しきビルの屋上――には、既に敵の姿は無かった。

 ジェラルドは店外の物陰で待機していたガイル・アシュー(jb9985)に合図を送り、散らずに残った分のバラを渡す。
 彼はこくりと頷いてそれを受け取ると、こちらに向かっているはずの優輔を目指して歩道を逆方向に歩き出した。

 少し行った地点で優輔を発見。ガイルは徐に近づき、

「デートに行こうと思っていたでござるが、断られたでござる。バラがかわいそうだから、ミーの代わりに使ってやってほしいでざる」

 通りすがりの失恋おじさんを装って花束を差し出す。
 優輔は「じゃあお言葉に甘えて」と素直にバラを受け取り、そのまま花屋前を通り過ぎて行った。



 ――ビルの出入口。

 狙撃銃の入ったジュラルミンケースを持って、黒服の男が出てくる。

「任務完了。これより撤収s――」
「若者の恋路を邪魔するなんてダメでござる〜!」
「な、何だ貴様ら!?」

 突如現れた謎の桃髪中年とチャラ男に襲われて、黒服は抵抗も敵わず取り押さえられた。


●鉄の雨
「災難を引き寄せる体質ってのは辛いわねぇ…」

 第4フラグと思しき工事現場へ急ぐエリス。その隣で、藤井 雪彦(jb4731)が相槌を打つ。

「まさしくトラブルメイカーなのかねぇ…」
「でも、身を呈して守ろうとしてくれる親友がいるなんて、素敵ね」
「怜司が護ってきた幸せを台無しにしちゃうワケにはいかないもんねっ♪ …ボクも力を尽くすよ☆」

 その時、陽人から着信。雑誌の占いに関してだ。

「ははぁ…。なんか赤だと逆に悪い感じの気配かしらぁ…ちょっと気に留めておこうかしらねぇ――って、今日あたし全身真っ赤なんだけど大丈夫かしら」

 たぶんダメだろう。
 やがて2人は工事現場に到着。

「電話じゃワイヤーが細いとか言ってたよねぇ」

 by カフェに居た作業員。
 既に吊り上げられていた鉄骨を見上げると、

 うわまて。2本にしろっつってたのに1本のところあるじゃない。

 エリスは翼を広げて飛び上がり、上階に居た作業員に声を掛ける。

「ねぇあのワイヤー1本でしかくくってないけど……」

 強度的に大丈夫なの?
 突然空を飛んで現れたエリスを訝しんでいた作業員だったが、彼女に指摘された宙吊りの鉄骨を見た瞬間、サァと顔を青くする。

「仕方ないわねぇ…ほら、もう1本貸しなさい。繋げてきてあげるから」

 ふよふよと宙に浮きながら、危なげに吊られていた鉄骨の束に鋼線を追加するエリス。
 対して地上部分を警戒していた雪彦は、蓋の開いたマンホールを発見。すぐ傍に鉄蓋が退屈そうに転がっている。

「危ない危ない☆」

 よいしょと持ち上げる雪彦。
 丁度その時、角の向こうから優輔が姿を見せた。上空に居たエリスがいち早くそれに気づく。と同時に、ある事を思いついた。

 赤が不吉かもしれないという事を、さり気なく彼に印象づけておこう。

 エリスはすうっと息を吸い、

「きゃあああああちょっなにまた!? なによ赤がラッキーカラーって嘘じゃない! 災難ばっかり!!」

 叫んでから、服の端に鋼線を刺して引っ張った。彼女の真っ赤な洋服がビリリと裂ける。
 よし、これで上手く――

 しかし、その勢いは思いのほか大きかった。

 ほつれさせる程度のつもりだった裂け目はまるで連鎖崩壊でも起こすかのように全身に行き渡り、しかも引っ掛けたつもりの無いアンダーウェアにまで鋼線が刺さっていたからさあ大変。

 エリスの衣服は止める間もなくズタズタになり、網のように穴だらけになった布の隙間からは、彼女の白肌がこれでもかと言うほど自己主張。

 予期せぬ悲鳴に顔を上げた雪彦はそのラキスケに思わず手が滑り、持っていたマンホールの蓋を自らの足の上に落とす。
 蹲る。
 穴に落ちる。
 綺麗に蓋が閉まる。

 ミラクル!

(緊張するなあ……。約束の時間までもう少しあるけど…ひょっとして奏、もう着いてるのかな。会ったら何て言おう……)

 ぶつぶつ。
 頭上のエリスに気づく事も無く、雪彦の消えたマンホールの上を華麗に通過する優輔。

「運命の赤い糸が消えそうな勢いだわ……」
「げ、下水も滴る良い男……とか?」

 げんなりした顔でビニールシートを羽織るエリスと、ぷるぷる震えながらマンホールから這い出る雪彦。
 身を呈してフラグを回収した2人は、優輔の後を追ってトボトボと歩き出した。


●エンドレスワルツ
「ごめん奏。待たせちゃった?」
「ううん、今来たとこ」

 8人がこっそりと見守る中で、噴水の前に居た幼馴染の少女と待ち合わせを果たした優輔。
 まずはどこへ行こうかと話す2人だったが、

「あれ?」

 ふと、優輔がベンチの下に小包を発見。『開けてみてください』と書かれた紙が添えられている。
 首を傾げながら開封。
 出てきたのは、びっくりするほど判り易い時限爆弾。
 タイマーの横には赤と青、2本のコード。

 物陰から見ていた8人がぎょっと目を剥く。直後、爆弾が起動。
 爆発まで残り60秒!

 確率は五分。
 優輔と奏は正義感から何とか解体しようとソーイングセットの鋏を手にするが、どちらを切るか決められずに手が止まる。

 真っ先に動いたのはジェラルド。彼は携帯を自らの耳に当て、

「……ぁー、こないだ言ってた雑誌の占いコーナーあるじゃん? そうそう☆ めっちゃ当たるって言ってたヤツ☆」

 携帯の画面は待受け画像のまま。通話なんてなかった。
 しかしこれは、赤の他人アピールをしながらさり気なく優輔&奏に『青』を印象づける為の、極めて高度な情報戦。
 断じて『ぼっちなのに見栄を張って友達がいるフリをしてる人』ではない。

「ホント当たるねー☆ ボク、おとめ座なんだけどさ、今日のラッキーカラーは赤で――」

 言いながら2人の横を通り過ぎる、3月3日生まれのジェラルドさん。

 追撃を入れる陽人。
 携行品の赤いリボンを小指に巻き、号泣しつつ2人の傍でがくりと膝をつく。

「うわー彼女(花子)との赤い糸が切れたー! もうだめ爆発四散したも同然…」

 地面に突っ伏して絶望を表現しながら、這って噴水の裏側へ消える。
 一方、爆弾のタイマーと睨み合っていてそれ所ではない優輔と奏は見向きもしなかったが、その声は確かに2人の耳へ。

「や、やっぱり…赤い糸を切るのは良くないと思うんだ」
「う、うん……」

(そう、青よ! 青を切るの!)

 物陰で龍太が念じる。優輔の不運っぷりを考えると、『ラッキーカラーが赤だから、赤を切れば正解!』とはどうしても思えない。

 残り3秒!

 サブリミナル効果のような8人のサポートを受け、優輔が意を決して青を切る。結果は――

 ぴたり、と。タイマーの数字はそこで止まった。



 と思わせてからの再起動! ふひひ、正解は赤よ! 振り回されたわね!



 その時、噴水の裏から飛び出す影があった。オカマだ。
 クラウチングスタートで飛び出して2人に接近。

 ――2

 優輔の手から爆弾を奪い取る。

 ――1

 胸元に抱えてその場を離れる。

 ――0

 カッ!

「いやあああぁぁぁん!(重低音)」

 ちゅどーん!と火柱が上がり、花火の中心でオカマのシルエットが影絵のように映る。

「いやーイベントの花火が綺麗だなー。真昼間だけど」

 噴水裏から陽人の声。

 何だイベントだったのか。
 優輔と奏はほっと胸を撫で下ろす。

「それじゃ、とりあえずショッピングにでも行こうか」

 奏の手を取り、ほのぼのと歩き出す優輔。

 任務達成。
 7人は「やれやれ」と打ち上げムードで顔を見合わせ、人々で賑わう噴水広場にそっと背を向けr――

「ねえ聞いた? 動物園から虎が逃げ出したらしいわよ」
「大変だ。さっき公園で不発弾が見つかったって警官が騒いでたぞ」
「「…………」」

 立ち止まり、くるりと進路を変える撃退士達。

 時刻は午前10時。
 彼らの永い一日は、まだ始まったばかりだった――


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

俺の屍を越えてゆげふぁ!・
神宮陽人(ja0157)

大学部5年270組 男 インフィルトレイター
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
君との消えない思い出を・
藤井 雪彦(jb4731)

卒業 男 陰陽師
V兵器探究者・
エリス・ヴェヴァーチェ(jb8697)

大学部5年48組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
轟 社萌(jb9981)

大学部3年68組 女 阿修羅
撃退士・
セインツ(jb9982)

大学部7年60組 男 ダアト
撃退士・
ガイル・アシュー(jb9985)

大学部4年108組 男 ディバインナイト