何か依頼が出てないかな。そう思ってふらりと斡旋所を訪れた或瀬院 由真(
ja1687)。すると職員から学生まで、人々が吃驚しながら外へと駆けて行くではないか。
「皆さん、何をやっていらっしゃるのですか。演習……?」
首を傾げながら、ぽてぽてとその後を追ってみると――
巨大化して荒ぶるオペ子の姿が!
「オペ子さん!? でか!?」
「なんでオペ子はあんな事になってんだよ!?」
同じく偶然居合わせた猪川真一(
ja4585)も、高々と聳える情報担当官を見上げる。
「だ、だから……どう見たってオペ子ちゃんじゃなくてロボ……ロペ子……」
隅で炭化しているアフロメガネが虫の息で何かを呟く。それに気づいた月丘 結希(
jb1914)はもう一度オペ子を見上げるが、オペ子はオペ子だった。他の学生達も、彼1人以外は皆一様にオペ子オペ子と叫んでいるというのに。いったい何を言っているのかこのメガネは。
(……あれ?)
しかし結希は、ふと違和感に気づく。メガネ以外は誰も眼鏡を掛けていない。
いやただの偶然でしょうよ眼鏡くらい。とコンタクト派のツッコミがあった――かどうかは分からないが、何となく気になった結希は、倒れているメガネから親の命より大事なその眼鏡をぶん取r
「別にそこまで大事じゃないよ!?」
別にそこまで大事じゃなかったその眼鏡をぶん取ると、自らの顔に掛けてみる。すると、
何とオペ子だと思っていたものが、雑な造形の銀色ドラム缶ロボに早変わりした!
なんと、と驚きながら眼鏡を外して再びロボを見ると、今度はオペ子そのものに。掛け直して見てみると、ドラム缶。
「おもしろいコレ」
結希は「見てみなさい」と言って、近くに居た秋桜(
jb4208)や由真達にその眼鏡を貸してやる。
「お、まじだぉ」
「……とりあえず、作った人のデザインセンスを疑ってもいいですか?」
その瞬間、ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)の中で1つの事実が符号する。
――セリフの最中に撃つなんて、人間のやることじゃねえ。
「なるほど」
こくりと頷くユーヤ。実際に人間じゃないなら仕方ない。
とにもかくにも、どうやら眼鏡フィルター説は偶然では無かっt
「落ち着け樫崎!」
その時、局長がオペ子――いや、ロペ子へと叫ぶ。その顔には小振りな眼鏡が。あれ? この人、眼鏡掛けてんじゃん。
やっぱり眼鏡説は偶然でした まる
どうやらメガネの眼鏡はそんじょそこらの眼鏡とは眼鏡の質が違うらしい。さすがメガネ。
「止めてオペ子ちゃん! こんな事したって何にもならない。正気に戻って!」
天宮 葉月(
jb7258)。カラクリに気づいたユーヤ達とは違い、メガネの眼鏡を回し借りしていなかった彼女もまたボケた……じゃなくて必死な様子で、ロペ子へと呼びかけていた。
そして同じくメガネの眼鏡を掛けなかった浪風 威鈴(
ja8371)だが、本物のオペ子を見た事が無かった彼女の目にはロペ子がきちんとロボの姿で見えていた。だが同時に、元々それが正しい姿なのだと勘違い。初めてのロボ。興味津々だ。
それが洗脳電波の影響なのか、単に威鈴がちょっと変な子だからなのかは分からない。たぶん両方だろう。
そして威鈴とは違った意味でテンションの上がっている女子がもう1人。リーア・ヴァトレン(
jb0783)、その人である。
彼女は拳を握ると、高らかに声を張り上げた。
「胸部ミサイルの無いロボなど巨大ロボに非ず!! 腰部というか股k――
しばらくお待ちください。(この番組は、クラウドゲート倫理機構の提供でお送りしています)
――キャノンつけたロボには物申す所存だけど、おっぱいミサイルの無いロボには抗議しかなi……あ、装備品チョイスは本人準拠? ごめーん(てへぺろ☆」
――その時、本土では。
眠たげ半目な薄表情のまま、脳裏にピキーンとエフェクトが走るオペ子(本物)。
ラーメン屋台のオヤジが、固まった彼女を見て首を傾げる。
「お嬢ちゃん、どうかしたかい?」
「いま何かとても理不尽な誹りを受けた気がしました」
「おやおや、人気者だねえ」
にこにこ笑いながらオヤジがラーメンを差し出す。オペ子は頭上の小次郎にチャーシューを一切れ食べさせてやってから、熱々のラーメンをズズズと啜った――……
メガネの眼鏡を付けていない者にはオペ子そのものに見えているという事が分かり、ユーヤがふとした疑問を口にする。
「…そういえば、あの格好で、15m近く巨大化したら、スカートの中、危ないね?」
「「…………」」
しばしの沈黙。刹那――
「「うおおおおおお!!」」
それまで戦々恐々としていた男子学生達が一変。雄叫びと土煙をあげながらオペ子(ロボ)の足下へと駆けて行く。それを見た葉月はジトッとした目つきで、
「やらし」
「馬鹿野郎、天宮! 俺たちはパンt――オペ子ちゃんを止めたいだけだ!」
「そうだ! でかい敵を相手にするならパンt――足元を狙うのはセオリーだろうが!」
我先にと押し合いながら武器も持たずに全力で走る漢達。しかし――
ズドン!
右のロケットパンチが直撃して爆発。一方で、左のロケットパンチは、
「わぁ…腕とべる……凄い!」
服の後ろ襟が引っ掛かり、ジェット噴射するマジックハンドと一緒に遥か上空へと飛んでいく威鈴。
そのまま爆発。
空中で炎に包まれた彼女は、黒焦げアフロになってベシャリと地面に落下した。
死屍累々。
「どこの怪獣映画よ、この惨状」
結希がむうと唸る。
その横で、リーアが地面に転がっていたロボ研部長をツンツンと棒でつつく。
「ところで地下からせり上がってくる系基地とか無いの? 溶解する万能変身型お供とかどっかから生えてくる巨大な塔みたいな基地とかでも可」
「ふふ、抜かりは無い。そう言われると思って密かに斡旋所の地下に出撃用のドックを建造しておいた」
「お前勝手に何してるんだ」
怒る局長を無視し、部長はごそごそと懐から箱型のスイッチをを取り出してそれを押そうとすr――
ビーム!(流れ弾)
ジュッ、と芳ばしい音がして部長がトーストに。
「火力の高い兵器は、オーバーヒートが、お約束」
ぼそりと言ったのはユーヤ。
そして、それらを固定武装として内蔵・直結させている本体もまた然り。
「なら…許容量以上の、アウルを叩き込んで、爆発してもらおう」
独白して頷き、彼女が手にしたのは――
ハリセン。
洗脳電波でおかしくなったか。
「さぁ、行こう?」
彼女は小さく呟くと、強く地面を蹴って死地へと身を躍らせた。
まあやるしかないか、と再び眼鏡を掛けた結希は一同の周囲にデバイス化させた電子スキルEvocation[Kouryuu]を顕現。防壁を纏った由真が、その背に友人――秋桜を庇いながら前に立つ。
「秋桜さんを倒したくば、まずは私wあわーっ!?」
伸縮パンチ。
ロペ子の金属ホースのような腕が伸び、ボグシャア!と殴り上げられた由真がぼてりと地面に落ちる。
しかしすぐに立ち上がると、ふんす!と気合を入れなおして秋桜の前で再び盾を構えた。
「さあ秋桜さん! 攻撃は私が受け止めますから、その隙に距離を詰めてください!」
直後、口の荷電粒子砲が照射。と同時に、胴部がパカリと開きマイクロミサイルが大量に火を噴いた。
「なんとー!?」
ジュッ!
チュドドドドドン!
それに対して抗議の声を上げたのは、遠くに居た葉月。
「目からレーザーとか両手がロケットパンチは色々居るけど、口から荷電粒子砲は恐竜型でしょ!? それにミサイルは羽根とか肩とか脚とか腕とか、とにかく外付けの方がカッコイイって幼馴染が言ってたよ! 内蔵型は迫り出すタイプならいいらしいけど! というか、髪はただの放熱板なの? 何かこう、ヒー○ロッド的な何かじゃないの?」
わかりすぎて困る。
しかし並々ならぬ拘りを捲し立てる葉月を他所に、真一は爆炎に埋もれた由真の援護に向かう。頑丈乙女な由真はむくりと身を起こすと、
「だ、大丈夫。まだ生きてます。なんで生きてるのか不思議ですけど!?」
操盾術をリジェネに切り替えてゆんゆんと自己回復。だが、ロペ子の猛攻は止まらない!
頭上に設置されている巨大な猫の置物から、無数の何かが飛び出してくる。それは、肉球を模した遠隔機動兵器。
「ビット!? …そっか、オペ子ちゃんは強化の影響でこんな事を…」
刻の涙を見る葉月。
肉球ビット。シュバシュバと鋭い軌道を描いて飛翔する大量の機動兵器を見て由真は、
「あれはとても危険です。なので、私がぷにぷにすrもとい受け止めます!」
鬼気迫る様子で飛び出していた。何故か盾を捨て、両腕を広げながらビットの群れへと突進していく。
そんな彼女に、無数の肉球ビットが襲い掛かり――
「ぷにぷに!」
頬を殴打する柔らかな感触に、由真は「うふふ」と鼻血を流して地に伏す。
一方で、助けに入るべきか放っておいてやるべきか迷っていた結希や葉月の元にも、肉球ビットが飛来。縦横無尽に飛び回るそれを捌ききれず――もとい捌かずに直撃を受けたその2人も、ぷにぷにとしたこの世ならざる感触の前にがくりと膝を折った。
周りの味方の動きもよく見て、相手の動きもよく見なければ。
そう肝に銘じていた真一は、次々とリタイアしていく仲間達の代わりに剣を取って駆けた。
囮となるべくあえて目立つように動きつつ、脚部破壊を狙って距離を詰めようとする。だが遠中近と隙のないロペ子の武装の前に、思うように懐に近づけない。
ビームを躱し、ミサイルを避け、ロケットパンチを切り払う。そんな彼を援護するように、黒焦げアフロから復活した威鈴が射程ギリギリの距離からロペ子を銃撃してその注意を引こうとする。
「とりあえずとっとと止まってくれェェェーッッ!!」
彼の叫びに応えるように、リーアが立ち上がる。
「シオンちゃん、らっしゃい!」
ストレイシオン召喚。攻撃を引きつけている真一や威鈴とは別方向に回り込んだシオンが、その鎌首を擡げて口を開けた。
「あたしのキャノンを喰らいなー!」
撃つのはあたしじゃないけど!
――閃光。
ズアッと紫電を帯びて放射された極大のアウル砲が大気を穿ち、下から突き上げるようにロペ子の胴に直撃。
発射の風圧と着弾の爆風でロペ子のスカートがバタバタとはためく。
「見えた!」
カッと叫んだのは秋桜。ここしかない!と由真の陰から飛び出し、一気に駆ける。
ずざーっと滑り込み、オペ子の足下へ辿り着く事に成功した彼女の手には――
録画モードのビデオカメラ。
メガネの眼鏡を付けていないそのローアングルからの視界には、えも言われぬ絶景g――ああっと、謎の光が!?
無修正版はDVD/BDをお買い求めください。(クラウドゲート倫理機構)
――生映像を盗撮もとい記録していた秋桜は、ドタンバタンと暴れるオペ子の踏みつけ攻撃を虫のようにチョロチョロと回避しながらカメラを回し続ける。
(あとでオペ子氏(本物)にも報せてあげるぉ)
しかし今は目の前のお宝映像を最高画質で保存しなければ!
だがその時、
「☆$○#=%∞℃□▽」
急にロペ子がガタガタと大きく揺れだした。関節から蒸気を噴き、放熱板代わりの銀髪カツラが見る見るうちに真っ赤に熱ダレし始める。
「いかん!」
ロボ研の部長が叫んだ。まだ生きてたのか。
「急激にアウルを吸いすぎてオーバーヒートしている。このままではメルトダウンするぞ!」
「活動停止して一件落着だぉ?」
「リアクターが縮退して久遠ヶ原島がまるごと消し飛ぶぞ!」
「「うおぉい!?」」
その時、肉球ビットの猛攻から脱した結希の脳裏に『あるお約束』がよぎる。
――ロボならどこかに自爆ボタンがある筈。自爆機能を付けない科学者は居ないので。
「自爆ボタンを付けない科学者は、『こんな事もあろうかと』と言う資格すら無いのよ! つまり、科学者にとっては死活問題よ!」
リアクターがメルトダウンする前に、自爆させる。もはやこれしかない。
そしてその主張は正しかった。
「ボタンはヘソにある」
こくりと頷いた部長。
それを聞き、結希はバッと振り返って寸胴ドラム缶体型のロペ子を見る! が――
ヘソってどこだよ。
ドラム缶すぎて胸と腹と腰の区別がつかない。つーかドラム缶の状態でも服着てんじゃん。肌露出してねえし。押せねえし。
結希が二の足を踏んでいる間にも、奇声を発しながら大地を揺らしていたロペ子の火器が暴走。
ロケットパンチはガトリングのように連射され、荷電粒子砲が拡散ビームの如く噴き出し、胴部がパカリと開いてマイクロミサイルが豪雨となって降り注いだ。
学生達の身体と悲鳴が宙を舞い、蒸発したアスファルトや爆散する土砂がもうもうと煙のように立ち込める。だがその時、必死に目を凝らしていた結希は開いた胴部の内側にソレを見た。
――銀色のフレームにポツリと浮かぶ赤いボタン。
「ミサイル板の内側!」
叫んだ結希に、一同が頷く。
走り、飛び、爆砕し。1人また1人と荒れ狂う大火力の前に消えていく中、結希と真一と戦場カメラマン秋桜先生がロペ子へと接近。だがそこへ、熱ダレで真っ赤に焼け爛れた肉球ビットが襲い掛かる。
躱せない。
3人がぎりっと歯を鳴らしたその時、目の前に飛び込んできた無数の人影。
「「やらせはせん! やらせはせんぞお!」」
それは爆撃に沈んだはずの学生達と由真達だった。仲間達が3人の代わりに、熱弾頭と化した肉球ビットを受けて大爆発。
黒い塊となって転がった彼らに背を向けて、結希と真一(と秋桜)はロペ子の胴元へ辿り着く。ミサイルを撃ち尽くした事で閉じかけていたハッチを真一がこじ開け、結希が赤いボタンに手を伸ばす。
ポチッとな。
直後、ロペ子の全身を包んでいたアウルがリアクターへと逆流し、内方向に爆縮。
重力崩壊にも似た内爆発の後、そこにはほんの僅かなクレーターと元のサイズに戻ったドラム缶ロボの残骸だけが、物哀しく散乱していた……。
●後日談
――録画した映像。
例の洗脳電波はカメラ越しには機能しないらしく、映像では白パンツを穿いた銀色のドラム缶が暴れている様子しか映っていなかった。ぽろり的な感じで期待していた『肉球にやられた由真の恍惚顏』も、結局撮れずじまい。
「あるぇー」と唇を尖らせながら、しかしまあコスプレして暴れ狂うドラム缶というのもこれはこれでネタになるかー、などと考えていた秋桜。するとそんな彼女に、結希が声を掛けた。
ロボの構造に興味を示していた彼女は秋桜から動画データのコピーを譲り受けると、自室に戻って映像を解析。
魔改造を施した自身のスマホに分解・再構成したデータを入力し、各部兵装の作動原理、駆動系やリアクターの粒子変換率などを仮想アプリ上で再現。
他の人間には何に使うのかもわからぬ怪しげなシミュレーターを組み、結希はプログラムヲタ全開の徹夜生活を1人満喫した。