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マスター:水音 流
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/13


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 ――早朝。

 珍しく私服を着たオペ子。しかし頭上にはいつものように小次郎を乗せ、彼女は窓口から手を振っているマンション管理人に挨拶をしてから、エントランスの自動ドアをくぐって外に出る。
 まだまだ寒いこの季節だったが、今日は良い天気だ。
 オペ子は本土行きのフェリーチケットを持って、小次郎と共に朝方の市街を歩き出した。


 ――同時刻。学園高等部クラブ棟。

「ついに完成したぞ」

 モニターの明かりだけがぼうっと辺りを照らしている薄暗い室内。白衣を着た男子が呟いた。

 ネジの1本から装甲に至るまで、あらゆるパーツをヒヒイロカネで構成した汎用人型マシン。大気に満ちているアウルを取り込む事で稼動する半永久機関を搭載し、それは同時に、アウルによる攻撃を自身のエネルギーへと転換する防御機構も兼ねている。
 まさに攻防一体の完璧なシステムだ。
 ついでに潜入任務などを想定して、頭部には相手を洗脳する特殊電波を発するマイクロチップが埋め込んである。何という高性能ロボ!

「これで、我々『ロボは人類のロマン研究部』の崇高さを世に知らしめることができる。早速、実稼動に入るとしよう」
「しかし、『本人」と鉢合わせしてしまう恐れが」

 隣で、同じく白衣を着た後輩部員が懸念する。 

「心配ない、既に根回しは済んでいる。本物は今頃、私が出した偽の臨時休暇許可証を受けて本土へ日帰り旅行中だ」

 暗がりの中、部長は口の両端を引き上げながらロボのスイッチを入れた――……

●斡旋所
 銀色のドラム缶体型に、大学部儀礼服。卵を横にしたような楕円形の黄色いアイレンズを点灯させ、銀髪ツインテールの頭上には黒い仔猫のぬいぐるみを乗せている。
 そんな『いつも通りの姿』で、オペ子はマジックハンドのようなC字形の手をウィンウィンと動かして仕事に励んでいた。
 そこへ出勤してきた局長は、既に仕事を始めていたオペ子を見つけてその様子に僅かに首を傾げる。

「どうした樫崎。私の気のせいかもしれんが、今日はやけに……何と言うか、ロボっぽいな」
「オ構イナク 若サ故ノ肌ツヤガ 溢レテイルノデス」
「そ、そうか。肌ツヤというより、金属ツヤっぽい気もするが……」

 オペ子です、と食い下がることなく言葉が返ってきたことに少し驚きつつも、「素直に返事をするに越したことはないか」と頬を掻きながら、局長は踵を返して自分の仕事に取り掛かった。


「何か依頼入ってるかな」

 眼鏡を掛けた男子学生は、ロビーに入って受付へと歩いていく。依頼、というのは実は半分口実で、本当はオペ子目当てだったりもする。いや依頼目的なのも決して嘘ではないが。
 メガネは窓口から首を伸ばして、銀髪ツインテールの後ろ頭に声をかけ――

「コンニチハ。ゴ依頼デスカ」
「誰だよ!?」

 カッと目を見開いてそうツッコんでいた。

「オペ子デスガ」
「いやどこからどう見てもオペ子ちゃんじゃないよね!? ていうかロボだよね!?」

 愕然としながら叫ぶメガネとは裏腹に、

「やっほーオペ子ちゃん」
「オペ子ちゃんオーッス、元気?」

 道行く学園生達は誰一人として疑問を抱く事無く、オペ子に挨拶をしながら通り過ぎていく。
 困惑するメガネ。

「どうしたメガネ。何かあったのか?」

 集まってきた学生達が、彼の肩に手を置く。

「私ノ様子ガ オカシイト 言ッテイルノデス」
「おいおい、そりゃオペ子ちゃんに失礼だろ。いつも通りじゃねえか」
「どこが!? ねえどこが!?」
「信用デキナイト仰ルノデアレバ 証拠トシテ 私ノ情報担当官トシテノ能力ヲ オ見セシマショウ」

 オペ子はそう告げると、

「3.141592653589793238462643――」

 カタカタと小気味の良い音と共に、口から円周率が延々印刷された用紙がジーッと吐き出されてきた。

「おかしいよね!? 人間が口からレシートとか出さないよね!? これもう情報担当官とか関係ないよね!!?」
「流石はオペ子ちゃん。機械操作にも精通しているとは……!」
「もうコレ操作とかってレベルじゃないじゃん!? 完全に口の中に機械組み込まれちゃってんじゃん!?」
「平伏スガ良イデス 豚ノヨウニ」
「豚って! 今、豚って言ったよね! オペ子ちゃん、人のこと豚とか呼ばな――いやこれは合ってないこともないか」

 はたと冷静になって頷くメガネ。

「いやでも、やっぱりどう考えてもオカシイよね!?」
「こら。ロビーで何を騒いでいる」

 局長が顔を覗かせる。と、その直後――

「☆$○#=%∞℃□▽」

 急にオペ子がガタガタと小刻みに揺れだし、地面を滑るように移動して斡旋所の外へと飛び出していく。メガネや局長、他の学生達も慌ててその後を追う。すると――

 なんとオペ子は、熱した気球のように見る見るうちに全長15mのサイズへと巨大化した!

「ふむ……どうやら学園に充満している濃密なアウルを吸収しすぎたようだな」
「ハァ!?」

 ふらり、と。どこからともなく現れた白衣姿の高等部男子の言葉に、メガネは眉を潜めて振り返る。局長や他の学生達は、高々と聳え立つオペ子を見上げて慌てふためくばかりで、2人の声には気づいていない。
 だがそうこうしている間に、巨大化したオペ子は内臓されていたビームやらミサイルやらを撒き散らして大暴れ。敷地内はあっという間に炎上粉砕大崩落の地獄絵図と化していた。

「どうしたというんだ樫崎! まさか、お前に借りたゲームのセーブデータを私が誤って上書きしてしまった事をまだ怒っているのか!?」
「何その理由!? そんなんで巨大化できたらもう人類にアウルとかいらないよね!? てか何度も言ってるけどコレ明らかにオペ子ちゃんじゃなくてロボだよね!? つーかコイツ巨大化とかどんな原理だよ!!」
「我々ロボ研の技術力とアウルの万能性があれば不可能は無い」
「うるせーよばか!!」

 メガネが部長のケツを蹴り飛ばした刹那――

 ズドン!

 マジックハンド型のオペ子の両手がギュルルと高速回転しながら射出され、メガネと部長を直撃大爆発。

「メガネと白衣がやられた!? くそっ、こうなったら俺が!」
「待て、迂闊だぞ斉藤!」

 魔具を手にして飛び出す斉藤。しかし――

 ズドン!

 今しがた消費したはずのロケットパンチが、再び間髪容れずに発射されて大爆発。吹き飛ばされた斉藤が、どさりと降って戻ってくる。 

「馬鹿野郎! ロケットパンチの後でも腕があるのは、昔のアニメのお約束だろうが!」
「そうか……そうだよな……。俺、平成生まれだからさ……最近のリアルなアニメしか、知らなかったんだ……」

 握っていた斉藤の手が、パタリと力なく地面に落ちる。

「クソッ! リアリティなんてつまんねえモンに振り回されやがって……馬鹿野郎が!」

 親友高橋は、動かなくなった友の身体をそっと大地に横たえ、静かに立ち上がりながらオペ子へと向き直った。
 足元で眠る友の安らかな顔を肩越しに振り返り、

「見てろよ、斉藤。俺がお前の分まで、このたたk――

 ビーム!
 じゅっ

「た、高橋ー!」
「マジかよ……。セリフの最中に撃つなんて、人間のやることじゃねえ……」

 恐怖と哀しみに動揺する学園生達。
 そんな彼らを叱咤するように、局長は高らかに声を張り上げた。

「もはや考えている猶予は無い! この場の総力を以て樫崎を止めろ!」


リプレイ本文

 何か依頼が出てないかな。そう思ってふらりと斡旋所を訪れた或瀬院 由真(ja1687)。すると職員から学生まで、人々が吃驚しながら外へと駆けて行くではないか。

「皆さん、何をやっていらっしゃるのですか。演習……?」

 首を傾げながら、ぽてぽてとその後を追ってみると――

 巨大化して荒ぶるオペ子の姿が!

「オペ子さん!? でか!?」
「なんでオペ子はあんな事になってんだよ!?」

 同じく偶然居合わせた猪川真一(ja4585)も、高々と聳える情報担当官を見上げる。

「だ、だから……どう見たってオペ子ちゃんじゃなくてロボ……ロペ子……」

 隅で炭化しているアフロメガネが虫の息で何かを呟く。それに気づいた月丘 結希(jb1914)はもう一度オペ子を見上げるが、オペ子はオペ子だった。他の学生達も、彼1人以外は皆一様にオペ子オペ子と叫んでいるというのに。いったい何を言っているのかこのメガネは。

(……あれ?)

 しかし結希は、ふと違和感に気づく。メガネ以外は誰も眼鏡を掛けていない。
 いやただの偶然でしょうよ眼鏡くらい。とコンタクト派のツッコミがあった――かどうかは分からないが、何となく気になった結希は、倒れているメガネから親の命より大事なその眼鏡をぶん取r

「別にそこまで大事じゃないよ!?」
 別にそこまで大事じゃなかったその眼鏡をぶん取ると、自らの顔に掛けてみる。すると、

 何とオペ子だと思っていたものが、雑な造形の銀色ドラム缶ロボに早変わりした!
 なんと、と驚きながら眼鏡を外して再びロボを見ると、今度はオペ子そのものに。掛け直して見てみると、ドラム缶。

「おもしろいコレ」

 結希は「見てみなさい」と言って、近くに居た秋桜(jb4208)や由真達にその眼鏡を貸してやる。

「お、まじだぉ」
「……とりあえず、作った人のデザインセンスを疑ってもいいですか?」

 その瞬間、ヒビキ・ユーヤ(jb9420)の中で1つの事実が符号する。

 ――セリフの最中に撃つなんて、人間のやることじゃねえ。

「なるほど」

 こくりと頷くユーヤ。実際に人間じゃないなら仕方ない。
 とにもかくにも、どうやら眼鏡フィルター説は偶然では無かっt

「落ち着け樫崎!」

 その時、局長がオペ子――いや、ロペ子へと叫ぶ。その顔には小振りな眼鏡が。あれ? この人、眼鏡掛けてんじゃん。
 やっぱり眼鏡説は偶然でした まる
 どうやらメガネの眼鏡はそんじょそこらの眼鏡とは眼鏡の質が違うらしい。さすがメガネ。

「止めてオペ子ちゃん! こんな事したって何にもならない。正気に戻って!」

 天宮 葉月(jb7258)。カラクリに気づいたユーヤ達とは違い、メガネの眼鏡を回し借りしていなかった彼女もまたボケた……じゃなくて必死な様子で、ロペ子へと呼びかけていた。

 そして同じくメガネの眼鏡を掛けなかった浪風 威鈴(ja8371)だが、本物のオペ子を見た事が無かった彼女の目にはロペ子がきちんとロボの姿で見えていた。だが同時に、元々それが正しい姿なのだと勘違い。初めてのロボ。興味津々だ。
 それが洗脳電波の影響なのか、単に威鈴がちょっと変な子だからなのかは分からない。たぶん両方だろう。

 そして威鈴とは違った意味でテンションの上がっている女子がもう1人。リーア・ヴァトレン(jb0783)、その人である。
 彼女は拳を握ると、高らかに声を張り上げた。

「胸部ミサイルの無いロボなど巨大ロボに非ず!! 腰部というか股k――


 しばらくお待ちください。(この番組は、クラウドゲート倫理機構の提供でお送りしています)


――キャノンつけたロボには物申す所存だけど、おっぱいミサイルの無いロボには抗議しかなi……あ、装備品チョイスは本人準拠? ごめーん(てへぺろ☆」



 ――その時、本土では。
 
 眠たげ半目な薄表情のまま、脳裏にピキーンとエフェクトが走るオペ子(本物)。
 ラーメン屋台のオヤジが、固まった彼女を見て首を傾げる。

「お嬢ちゃん、どうかしたかい?」
「いま何かとても理不尽な誹りを受けた気がしました」
「おやおや、人気者だねえ」

 にこにこ笑いながらオヤジがラーメンを差し出す。オペ子は頭上の小次郎にチャーシューを一切れ食べさせてやってから、熱々のラーメンをズズズと啜った――……



 メガネの眼鏡を付けていない者にはオペ子そのものに見えているという事が分かり、ユーヤがふとした疑問を口にする。

「…そういえば、あの格好で、15m近く巨大化したら、スカートの中、危ないね?」
「「…………」」

 しばしの沈黙。刹那――

「「うおおおおおお!!」」

 それまで戦々恐々としていた男子学生達が一変。雄叫びと土煙をあげながらオペ子(ロボ)の足下へと駆けて行く。それを見た葉月はジトッとした目つきで、

「やらし」
「馬鹿野郎、天宮! 俺たちはパンt――オペ子ちゃんを止めたいだけだ!」
「そうだ! でかい敵を相手にするならパンt――足元を狙うのはセオリーだろうが!」

 我先にと押し合いながら武器も持たずに全力で走る漢達。しかし――

 ズドン!

 右のロケットパンチが直撃して爆発。一方で、左のロケットパンチは、

「わぁ…腕とべる……凄い!」

 服の後ろ襟が引っ掛かり、ジェット噴射するマジックハンドと一緒に遥か上空へと飛んでいく威鈴。

 そのまま爆発。

 空中で炎に包まれた彼女は、黒焦げアフロになってベシャリと地面に落下した。
 死屍累々。

「どこの怪獣映画よ、この惨状」

 結希がむうと唸る。
 その横で、リーアが地面に転がっていたロボ研部長をツンツンと棒でつつく。

「ところで地下からせり上がってくる系基地とか無いの? 溶解する万能変身型お供とかどっかから生えてくる巨大な塔みたいな基地とかでも可」
「ふふ、抜かりは無い。そう言われると思って密かに斡旋所の地下に出撃用のドックを建造しておいた」
「お前勝手に何してるんだ」

 怒る局長を無視し、部長はごそごそと懐から箱型のスイッチをを取り出してそれを押そうとすr――

 ビーム!(流れ弾)

 ジュッ、と芳ばしい音がして部長がトーストに。

「火力の高い兵器は、オーバーヒートが、お約束」

 ぼそりと言ったのはユーヤ。
 そして、それらを固定武装として内蔵・直結させている本体もまた然り。

「なら…許容量以上の、アウルを叩き込んで、爆発してもらおう」

 独白して頷き、彼女が手にしたのは――

 ハリセン。
 洗脳電波でおかしくなったか。

「さぁ、行こう?」

 彼女は小さく呟くと、強く地面を蹴って死地へと身を躍らせた。
 まあやるしかないか、と再び眼鏡を掛けた結希は一同の周囲にデバイス化させた電子スキルEvocation[Kouryuu]を顕現。防壁を纏った由真が、その背に友人――秋桜を庇いながら前に立つ。

「秋桜さんを倒したくば、まずは私wあわーっ!?」

 伸縮パンチ。

 ロペ子の金属ホースのような腕が伸び、ボグシャア!と殴り上げられた由真がぼてりと地面に落ちる。
 しかしすぐに立ち上がると、ふんす!と気合を入れなおして秋桜の前で再び盾を構えた。

「さあ秋桜さん! 攻撃は私が受け止めますから、その隙に距離を詰めてください!」

 直後、口の荷電粒子砲が照射。と同時に、胴部がパカリと開きマイクロミサイルが大量に火を噴いた。

「なんとー!?」

 ジュッ!
 チュドドドドドン!

 それに対して抗議の声を上げたのは、遠くに居た葉月。

「目からレーザーとか両手がロケットパンチは色々居るけど、口から荷電粒子砲は恐竜型でしょ!? それにミサイルは羽根とか肩とか脚とか腕とか、とにかく外付けの方がカッコイイって幼馴染が言ってたよ! 内蔵型は迫り出すタイプならいいらしいけど! というか、髪はただの放熱板なの? 何かこう、ヒー○ロッド的な何かじゃないの?」

 わかりすぎて困る。
 しかし並々ならぬ拘りを捲し立てる葉月を他所に、真一は爆炎に埋もれた由真の援護に向かう。頑丈乙女な由真はむくりと身を起こすと、

「だ、大丈夫。まだ生きてます。なんで生きてるのか不思議ですけど!?」

 操盾術をリジェネに切り替えてゆんゆんと自己回復。だが、ロペ子の猛攻は止まらない!
 頭上に設置されている巨大な猫の置物から、無数の何かが飛び出してくる。それは、肉球を模した遠隔機動兵器。

「ビット!? …そっか、オペ子ちゃんは強化の影響でこんな事を…」

 刻の涙を見る葉月。
 肉球ビット。シュバシュバと鋭い軌道を描いて飛翔する大量の機動兵器を見て由真は、

「あれはとても危険です。なので、私がぷにぷにすrもとい受け止めます!」

 鬼気迫る様子で飛び出していた。何故か盾を捨て、両腕を広げながらビットの群れへと突進していく。
 そんな彼女に、無数の肉球ビットが襲い掛かり――

「ぷにぷに!」

 頬を殴打する柔らかな感触に、由真は「うふふ」と鼻血を流して地に伏す。
 一方で、助けに入るべきか放っておいてやるべきか迷っていた結希や葉月の元にも、肉球ビットが飛来。縦横無尽に飛び回るそれを捌ききれず――もとい捌かずに直撃を受けたその2人も、ぷにぷにとしたこの世ならざる感触の前にがくりと膝を折った。

 周りの味方の動きもよく見て、相手の動きもよく見なければ。

 そう肝に銘じていた真一は、次々とリタイアしていく仲間達の代わりに剣を取って駆けた。
 囮となるべくあえて目立つように動きつつ、脚部破壊を狙って距離を詰めようとする。だが遠中近と隙のないロペ子の武装の前に、思うように懐に近づけない。
 ビームを躱し、ミサイルを避け、ロケットパンチを切り払う。そんな彼を援護するように、黒焦げアフロから復活した威鈴が射程ギリギリの距離からロペ子を銃撃してその注意を引こうとする。

「とりあえずとっとと止まってくれェェェーッッ!!」

 彼の叫びに応えるように、リーアが立ち上がる。

「シオンちゃん、らっしゃい!」

 ストレイシオン召喚。攻撃を引きつけている真一や威鈴とは別方向に回り込んだシオンが、その鎌首を擡げて口を開けた。

「あたしのキャノンを喰らいなー!」

 撃つのはあたしじゃないけど!

 ――閃光。

 ズアッと紫電を帯びて放射された極大のアウル砲が大気を穿ち、下から突き上げるようにロペ子の胴に直撃。
 発射の風圧と着弾の爆風でロペ子のスカートがバタバタとはためく。

「見えた!」

 カッと叫んだのは秋桜。ここしかない!と由真の陰から飛び出し、一気に駆ける。
 ずざーっと滑り込み、オペ子の足下へ辿り着く事に成功した彼女の手には――

 録画モードのビデオカメラ。

 メガネの眼鏡を付けていないそのローアングルからの視界には、えも言われぬ絶景g――ああっと、謎の光が!?


 無修正版はDVD/BDをお買い求めください。(クラウドゲート倫理機構)


――生映像を盗撮もとい記録していた秋桜は、ドタンバタンと暴れるオペ子の踏みつけ攻撃を虫のようにチョロチョロと回避しながらカメラを回し続ける。

(あとでオペ子氏(本物)にも報せてあげるぉ)

 しかし今は目の前のお宝映像を最高画質で保存しなければ!

 だがその時、

「☆$○#=%∞℃□▽」

 急にロペ子がガタガタと大きく揺れだした。関節から蒸気を噴き、放熱板代わりの銀髪カツラが見る見るうちに真っ赤に熱ダレし始める。

「いかん!」

 ロボ研の部長が叫んだ。まだ生きてたのか。

「急激にアウルを吸いすぎてオーバーヒートしている。このままではメルトダウンするぞ!」
「活動停止して一件落着だぉ?」
「リアクターが縮退して久遠ヶ原島がまるごと消し飛ぶぞ!」
「「うおぉい!?」」

 その時、肉球ビットの猛攻から脱した結希の脳裏に『あるお約束』がよぎる。

 ――ロボならどこかに自爆ボタンがある筈。自爆機能を付けない科学者は居ないので。

「自爆ボタンを付けない科学者は、『こんな事もあろうかと』と言う資格すら無いのよ! つまり、科学者にとっては死活問題よ!」

 リアクターがメルトダウンする前に、自爆させる。もはやこれしかない。
 そしてその主張は正しかった。

「ボタンはヘソにある」

 こくりと頷いた部長。
 それを聞き、結希はバッと振り返って寸胴ドラム缶体型のロペ子を見る! が――


 ヘソってどこだよ。


 ドラム缶すぎて胸と腹と腰の区別がつかない。つーかドラム缶の状態でも服着てんじゃん。肌露出してねえし。押せねえし。

 結希が二の足を踏んでいる間にも、奇声を発しながら大地を揺らしていたロペ子の火器が暴走。
 ロケットパンチはガトリングのように連射され、荷電粒子砲が拡散ビームの如く噴き出し、胴部がパカリと開いてマイクロミサイルが豪雨となって降り注いだ。
 学生達の身体と悲鳴が宙を舞い、蒸発したアスファルトや爆散する土砂がもうもうと煙のように立ち込める。だがその時、必死に目を凝らしていた結希は開いた胴部の内側にソレを見た。

 ――銀色のフレームにポツリと浮かぶ赤いボタン。

「ミサイル板の内側!」

 叫んだ結希に、一同が頷く。
 走り、飛び、爆砕し。1人また1人と荒れ狂う大火力の前に消えていく中、結希と真一と戦場カメラマン秋桜先生がロペ子へと接近。だがそこへ、熱ダレで真っ赤に焼け爛れた肉球ビットが襲い掛かる。
 躱せない。
 3人がぎりっと歯を鳴らしたその時、目の前に飛び込んできた無数の人影。

「「やらせはせん! やらせはせんぞお!」」

 それは爆撃に沈んだはずの学生達と由真達だった。仲間達が3人の代わりに、熱弾頭と化した肉球ビットを受けて大爆発。
 黒い塊となって転がった彼らに背を向けて、結希と真一(と秋桜)はロペ子の胴元へ辿り着く。ミサイルを撃ち尽くした事で閉じかけていたハッチを真一がこじ開け、結希が赤いボタンに手を伸ばす。

 ポチッとな。

 直後、ロペ子の全身を包んでいたアウルがリアクターへと逆流し、内方向に爆縮。


 重力崩壊にも似た内爆発の後、そこにはほんの僅かなクレーターと元のサイズに戻ったドラム缶ロボの残骸だけが、物哀しく散乱していた……。



●後日談
 ――録画した映像。

 例の洗脳電波はカメラ越しには機能しないらしく、映像では白パンツを穿いた銀色のドラム缶が暴れている様子しか映っていなかった。ぽろり的な感じで期待していた『肉球にやられた由真の恍惚顏』も、結局撮れずじまい。
 「あるぇー」と唇を尖らせながら、しかしまあコスプレして暴れ狂うドラム缶というのもこれはこれでネタになるかー、などと考えていた秋桜。するとそんな彼女に、結希が声を掛けた。

 ロボの構造に興味を示していた彼女は秋桜から動画データのコピーを譲り受けると、自室に戻って映像を解析。
 魔改造を施した自身のスマホに分解・再構成したデータを入力し、各部兵装の作動原理、駆動系やリアクターの粒子変換率などを仮想アプリ上で再現。

 他の人間には何に使うのかもわからぬ怪しげなシミュレーターを組み、結希はプログラムヲタ全開の徹夜生活を1人満喫した。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 揺るがぬ護壁・橘 由真(ja1687)
 こんな事もあろうかと・月丘 結希(jb1914)
 エロ動画(未遂)・秋桜(jb4208)
重体: −
面白かった!:6人

揺るがぬ護壁・
橘 由真(ja1687)

大学部7年148組 女 ディバインナイト
処刑の時間・
猪川真一(ja4585)

大学部8年7組 男 ルインズブレイド
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
道指し示し夙志の召喚士・
リーア・ヴァトレン(jb0783)

小等部6年3組 女 バハムートテイマー
こんな事もあろうかと・
月丘 結希(jb1914)

高等部3年10組 女 陰陽師
エロ動画(未遂)・
秋桜(jb4208)

大学部7年105組 女 ナイトウォーカー
この想いいつまでも・
天宮 葉月(jb7258)

大学部3年2組 女 アストラルヴァンガード
夜闇の眷属・
ヒビキ・ユーヤ(jb9420)

高等部1年30組 女 阿修羅