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マスター:瑞木雫
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/24


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。
 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●君の行きたい場所に

 貴方は見覚えのない白い世界に居た。
 その中央に立っている久遠ヶ原学園の26歳似非関西弁教師・紀之定 虎松は零れるような笑顔を浮かべ、訊ねる。
『行きたい所あるんやったらどこにでも連れてったるで』――――、と。

 いつもの場所。
 ずっと行きたかった場所。
 夢で見た場所。

 どんな場所にだって連れていけると虎松は微笑む。
 ただ本当に何処へでも連れていけるのは今だけのこと……。
 だから叶えられる時に、叶えたいのだと言った。

 ……実は此処はあなたの夢の中。
 現実世界のあなたが目醒めるまでの世界なのだ。
 ――夢に浸れる時間は限られている。
 その事を知っているからこそ急かすように、夢の中の虎松はもう一度問い掛けた。

「どこに行く?」

 そして貴方が行先を伝えるなら……。
 虎松はパチンと指を鳴らし、白世界はあっという間に別世界へと塗り替え、染めていくだろう。

 ――その世界は勿論、“君の行きたい場所”。


リプレイ本文

●どうか、力と罰を
 鈴木悠司(ja0226)には酷く悔やんでいる事があった。
 ずっと苦しみ続けて来た事が――……。

○贖罪を求めて
『霧で覆われた世界』に立ち尽くしていた悠司はこの光景に見覚えがあった。
 ――そして考えるより先に、我武者羅になって走りだす。
 嗚呼、此処は『あの時の場所』だ。
 痛い程心臓を締め付けられながら、脳裏に焼き付く面影を探す。
 ――ずっと、後悔していたんだ。
 そうして、見つけた。
 悠司は思い切り手を伸ばした。
 今度はちゃんと届く筈だ、と。
 ……しかし、あと、もう少しの所で。
「……」
 手は届かず、彼女は血に染まっていた――あの時と同じように。
「……っ、」
 悠司の顔は真っ青になっていた。
 そしてそんな悠司の横を、誰かが通り過ぎていく。
 ――まるで抜け殻のように虚ろな表情をする少女。
 悠司は少女を知っていた。
 少女は自分が救えなかった彼女の、妹だ。
「……!」
 ――謝りたかった。
 この悔いを、後悔を、無力を、懺悔したかった。……でも。
 謝りたくて声に出そうとした瞬間、彼女の妹は深い霧に呑まれるように何処かへと去って行ってしまう。
 悠司は沈黙した。
 とうとう何も伝える事が出来なかった――……そんな自分に、過去の自分が皮肉な笑みを浮かべて問い掛ける。
『今のアンタなら助けられるとでも?』
「そんな傲りはない」
 否定の言葉を返すと、過去の自分も霧に呑まれていく。
 そして、悠司は己を無力に感じ、自分を責めた。
 ――失くしたモノは、過ぎたモノは、もう、二度と戻らない。
(解っている。解ってはいるけれど……)
 それでも、
 自分に絶対的な力さえあればと心は叫んでいた。
(何を置いても、全てを捨てても、力が、欲しい……。絶対的な、力が……)
 彼女を救えなかったのは、自分にそれ程の力が無かったからだ。
 ずっと、そう感じながら生きて来た。
 罰を受けたい。
 ……そして赦しをくれる誰かに、罪を吐きたい。
 しかしそれすらも、叶わない。
 ――だから。
 悠司は、贖罪を求めるように力を求めた。

(……力が、欲しい)

 そうして、悠司は。
 夢の中でも赦しを得る事が出来ないまま、深い闇の底に溺れていく――……。

 ――目が醒めた悠司は、現実世界の天井を見上げていた。
 伸ばした手は何かを掴む訳でもなく、届く訳でもない。
 そこにあるものは色褪せる事のない記憶と虚無感だけ。
 悠司の眸は光を映してはいなかった。






●夢ならば
 ――紅 鬼姫(ja0444)には、もう一度逢いたい人が居た。

○最愛の追憶
 瞬く星夜の海に、煌々と輝く満月。
 息を吐けば白く凍るような冷たい風が優しく吹いている浜辺の砂浜で――。
 黒い長髪をうなじで結んだ男性は座っている。
 そして鬼姫は、その背中を見つめるように立っていた。
 ……しかし彼は振り向かずに、彼の膝の上に乗っている幼い少女と会話する。
『ほら、手を伸ばせば掴めそうな星空だ』
『黒羽はバカですの。空にある星が掴めるはずありませんの』
 夢見るような彼の言葉に、少女は可愛げなく、冷めた答えを返した。
 ――しかし鬼姫は知っていた。この少女が本当は少しの期待を持っていた事を。素直に返せなかっただけだと言う事を。
 何故ならこの子は、過去の鬼姫なのだから。

 鬼姫は『この場所』を知っていた。
 此処は、黒羽と鬼姫の最愛の思い出の地。
 一つ一つの色さえも鮮明に憶えていた――
 どれほど心が切り裂かれ、叩きつぶされ、焼き尽くされ、灰燼すら残さず轢き潰されたとしても、たった一つ、捨てる事の出来なかった想い。
 そして、この手で殺した最愛の人との二人だけの秘め事。

(もう一度……彼に――黒羽に愛される為に……殺しますの……)

 鬼姫は殺意を全開にし、緩やかに歩んだ。
 しかし、彼は振り返らない。
 彼は再び鬼姫によって殺される――刃は頬に触れる程近いというのに、彼はまだ振り返らなかった。
 だから、

(所詮は鬼姫の見た夢……唯の追憶。なら……、)
(夢で位……貴方を殺さない未来を……)

 ――心変わりすると同時に両手に握り込んでいた二刀は、零れ落ちるように儚く消えていった。

 そして縋るように彼の背中に寄り添い、抱きしめる。
「黒羽……鬼姫は、今でも貴方を忘れられませんの」
 腕の中に感じる彼の体温は、温かい。
 すると、抱きしめる鬼姫の腕に、彼の手が添えられた。

『識ってる……それが俺の想いだから……』

 ――鬼姫はキラキラ輝く光となった。そして淡く融け、元の世界に、彼の零した言葉を持ち帰っていくのだろう。

『何をしっていますの?』
 少女は不思議そうに訊ねた。
『何でも無い。ただ、未来のお前に逢えたんだ』
『……?』

 ――少女はまだ知らない。この先の未来を。……しかし。この時の事を、ずっと憶えていただろう。


 優しい月の光に照らされて、鬼姫は目を醒ました。
 眦を伝う雫と心を締め付ける温かさの余韻に、浸りながら――。







●失った記憶
「記憶を失わなかった私は、どんな感じなのでしょうか」
 雫(ja1894)は、過去の記憶を失っている。それは自身の苗字も覚えていなかった程で、初めは天涯孤独の寂しさを経験していた。
 ……今では学園での生活に慣れ、友人にも囲まれているが、それでも『記憶を失わなかった世界』というのはやはり興味がある。
 決心が付いた雫は、真っ白から変化していく世界をまっすぐ見据えていた。

○記憶を失わなかった世界
 雫はとある少女の後を追いながら、こっそりと身を潜めつつ見守っていた。
 ――その少女とは、平行世界の『自分』。
 此処は雫を大きく変えた、あの襲撃を受けていない『平行世界の場所』。
 過去の記憶を失っていない雫が存在する場所である。
「ふむ……私よりも穏やかな目をしている程度で交友関係は余り変わり無いみたいですね」
 そしてどうやら、少女は今から天魔の討伐依頼に向かうらしい。
「専攻しているジョブはまるで違いますね。前に出るというよりも後ろでサポート役に回っているのでしょうか?」
 見た所、ディバインナイトをメインにダアト、アカシックレコーダーのスキルを持っているのだろうと推測する。
 ――それにしても、
「幾ら隠密を使用しているとはいえ、此処まで気付かれないのも問題があり過ぎるのでは……」
 言いたい事は既に色々とあるが。
 先ずはお手並み拝見とする。
 ――しかし。
 少女は苦戦していた。
 敵は大物のような装いをしているが、どうにもそこまで強敵であるとは思えない。
 しかしそれ以上に、少女の実力が目に付いていた。
 余りの戦況にはらはらし続け、苛立ちが募る。
「まったく、見ていられません。あの程度なら直ぐに片が付くでしょうに」
 顔を見られないようにフードを深く被り、雫は静かに前に出た。
『……ッ! あなたは……!』
 そうして禍々しく紅い光を放ち戦神をその身に宿すが如く――大剣で敵を薙ぎ払った瞬間、驚いた。
 共闘する迄もなく、敵が悲鳴を上げ、あっけなく倒してしまったからだ。
『す、すごいです……。あの大物を、こうも一瞬で……。あなたは一体……?』
 少女や仲間は驚嘆していた。
 しかし、雫は違った。
「……幾ら何でも弱すぎませんか?」
 拍子抜けを喰らい、溜息を吐く。
「ここまで違う世界だと、聞いても役に立ちそうには無いですね」
『……?』
 自分の世界と大きく違うのだと悟った雫は、過去について聞く事を断念し、覚醒した。






●過去にやり残した事
(本当にどこにでも行けるのなら、家族を失った時に戻って、助ける事だって出来るのかもしれない)
 黒羽・ベルナール(jb1545)は夢の中で黙考した。だが。
 ――考えれば考える程、それは無理だろうという結論に辿り着く。
 敵は大群のディアボロだった。
 自分一人が助けに行った所で焼石に水で、それに夢で助けたって、いない現実と比べて苦しくなるだけだ。
 ――だったらそれよりも、俺がやり残した事をやりに行こう。

 黒羽が気持ちを固めると、世界は彼の戻りたい場所へと染まっていく。

○あなたに、感謝の言葉を
 黒羽は、『崩れた建物の土煙と咽返るような血の匂いが充満する場所』に立っていた。
 ずっと黒羽を苦しめてきた記憶に在る場所。
 収まらない激しい動悸。
 此処に居るだけで冷や汗が垂れ、硬直する。
 するといつの間にか近くに居たヒリュウのすももが心配そうにすり寄った。
「……すもも、ありがとう」
 我に返った黒羽は優しく頬を緩め、
(そうだ、俺は一人じゃない。大丈夫)
 意を決して歩く。
 そして少し進むと、……見つけた。

 ――そこには、二つの人影。

『何でもっと早く助けに来てくれなかった!』
 深い悲しみが心を引き裂き、少年はやり場のない想いをぶつけ、相手を責めていた。
 ……この少年が、過去の黒羽。
『俺の家族を返せよ人殺し!! 何で俺だけ助けたんだ! 一緒に死なせてくれればよかったのに!』
 そして黙って少年の言葉に耳を傾けていたのが、嘗て黒羽を救ってくれた撃退士だった。

(……こんな苦しそうな表情をしていたんだな)
 少年の前から黙って立ち去ろうとする撃退士の顔を覗き、胸が締め付けられる。
 そして黒羽が『この場所』に戻りたいと願ったのは、『この時』に、……恩人に、伝えたい事があったからだ。

 黒羽は撃退士が少年から離れた時を見計らって、近付く――

「こんにちはー! 未来から来た俺です! あ、こっちは相棒のすももね!」
 明るい笑顔。そして真剣な面持ちで、
「俺を助けてくれてありがとうございました」
 深く頭を下げた。
「あなたが助けてくれたから、俺は今こうやって、誰かを助ける為に力を使える。仲間と笑っていられる。
 死なせてくれればなんて言ったけど、俺はもう生きてる事を後悔してません。
 生きててよかったと思ってます」
 ――夢から覚めたら、本当のあなたにも伝えに行こう。
 ありがとうって。

 そうして世界は眩い光に包まれる。







●問いの答えは……
 ――ここは、夢……?
 ルチア・ミラーリア(jc0579)はこの世界を不思議に想いつつ、答えた。問い掛けられた、行先を。
「どこへでも、ですか? なら……」
 ――この時、私は、……。


○同志との再会
 ルチアは驚いていた。
「此処、は……」
 周りを見渡した際、一番初めに目に飛び込んできたのが、嘗て所属していた組織の旗である『交差する翼とハルバード』だった。
 そして『三民主義宣言』など見覚えるのある懐かしい書籍も並んでいる。
 どうやら此処は組織が前線に立てた基地の一室らしい。
 そしてこの部屋の奥には――。
 ルチアはもしかしてと想い、扉を開けた。
「――!」
 なんとなく出逢える気がしていた。
 同志、マルコ・モラーノ戦隊長。
 かつて組織が崩壊した後のとある防衛戦で行方不明となり死亡扱いとなった人物――ルチアにとって組織に入ってすぐからの親友であり、初恋の人。
 なのに彼が、優しい眼差しでルチアを見つめている。
『どうしたんだ? そんな泣きそうな顔をして』
 久しぶりに聴いた彼の声。
 何事も無かったかのように微笑みかけられ、胸が苦しくなる。
 少なくとも此処は、ルチアが例え行きたいと願っていたって行く事の出来ない場所だったから。
 ――そして気付くと、ルチアは自分の悩みを吐き出していただろう。
 積もる話が山ほどあった。
「天界で残党狩りが横行されはじめ、私は……堕天して半世紀以上、逃げるように人界を放浪し続けていました……。
 辿り着いた久遠ヶ原でも目立つこと無くのんびりと暮らしていて……、最近では恋人まで、出来ました………」
 生き残ったルチアは現在、穏やかな日々を過ごしていた。
 ……だがその事で、罪悪感を募らせていた。
 だから聴いてみたかった。それで良かったのか……と。
 すると、彼は語る。
『戦争は終わり、組織は崩壊した。
 もう君は同志ルチア・ミラーリア戦隊長ではなく、撃退士ルチアなのだ。
 恋人ができてもいいではないか、君は幸せになるべきだ』
 ルチアは優しい言葉を聴いて、目が潤んだ。
 そしてこくりと頷く。
 幸せを許された。
 その温もりを確かに受け取りながら、会話を続けて――……。




 ルチアは目が醒めると、頬に涙が伝っていた。
「……」
 彼が居て、懐かしくて、あたたかい夢だった。
 ……だが。
 夢の中の人物に問われた時、自分が何と答えたのかという事だけは、ずっと想い出せないままだった。






●愛しの人形
 小宮 雅春(jc2177)はふと疑問を抱いていた。
(……『これ』がなければ、何か違っていたんだろうか。それはそれで、少し物寂しいのだけれど)
 ――そして彼の夢が染めた場所は、

○ある筈がない未来
 雅春は気付くと、『どこにでもよくありそうな場所』に立っていた。
 此処は住宅街であるらしく閑静なところだ。
 そして、
(あんなところに冴えない顔のサラリーマンが……え、あれが僕?)
 雅春は驚愕する。
(お人形さんと戯れてない! 欠片も愉快じゃない! 誰? ありえない!)
 ――まさしく平凡。
 改めて同じ人間だと思うと妙にむず痒くなる程、平行世界の自分があまりにも「普通」だったから。
 人形を持たぬ代わりにビジネスバッグを持ち、スーツを身に纏っているもう一人の自分。
 それは――ごく普通過ぎて冴えないが、一方で、こうありたかったと密かに思う姿だった。
(どこに行くんだろう……)
 そうして雅春は彼が何処に向かおうとしているのか気になって、後を付ける事にする。
 彼が向かった先はなんとなく予想はしていたが、普通の会社だった。
 大勢の上司や部下、同僚達に囲まれながら、黙々と仕事に励んでいる。
(これが……僕……)
 先程から人形を持ち歩いている等の欠片も本当に無い。
 もしかして隠し持ってるのでは、と彼の机を覗くと――
(えっ!? 妻子がいるの!?)
 そこには一枚の写真が飾られてあり、自分と、自分に寄り添う女性と、二人によく似た子供が仲良く映っていた。
「……」
 結構、順風満帆なんだろうか。
 こちらの世界の僕は。
 そんなふうに考えていた。
 ――が。
 どうやら会社に勤める以上、人間関係というものは必ず付き物であるらしい――
 上司とも部下とも同僚とも、一見は仲良く付き合っているように見えたが、
 それは良好に築く為、努力してきた賜物であるようだ。
 彼は自分だから分かる。
 無理をして、人付き合いに疲れて、若干人間不信になってるっていう様子だ。
 ――彼は彼で、色々と苦労しているらしい。
 それを見た瞬間、雅春は今のままでもいいかと自己完結した。
(どちらにしても、今ある「僕」は変えられない。
 どう転んだって、楽な生き方なんて無いんだよね、結局)
 そう納得すると、元の世界へ戻れるよう導く光が眩しい程輝いて、雅春を連れていった。
 腕の中に居たジェニーちゃんを撫でながら思う。
 ――そもそも「普通」ってなんだっけ?



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
召喚獣とは一心同体・
黒羽・ベルナール(jb1545)

大学部3年191組 男 バハムートテイマー
悠遠の翼と矛・
ルチア・ミラーリア(jc0579)

大学部4年7組 女 ルインズブレイド
愛しのジェニー・
小宮 雅春(jc2177)

卒業 男 アーティスト