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虎松が久遠ヶ原学園の6人の学生……雫(
ja1894)、ユリア・スズノミヤ(
ja9826)、樒 和紗(
jb6970)、葛葉アキラ(
jb7705)、玉置 雪子(
jb8344)、逢見仙也(
jc1616)に声を掛けていたのが先日の事。
「たこ焼きパーティーをしよう!」というお誘いをしたところ、嬉しい事に、皆やって来てくれたのだった!
「わーもうほんまありがとう! 大好きっ!」
生徒ラブで初対面だろうと馴れ馴れしいのが虎松先生……。
今日はいつにも増して浮かれているようだ。
そんな彼とは知り合いであるユリアは、おっとりと微笑みを浮かべる。
「ハロウィンではお疲れ様ー☆ 今日もお世話になるねん」
「おーう! 此方こそ宜しゅうな!」
虎松も頬を綻ばせ喜びながら、「ほな行こか♪」と早速皆を連れるだろう。
たこパの材料を買う為に学園の近隣にある大型スーパーへ。
皆でお喋りをしながら歩く道中は、楽しくて和やかな雰囲気で満ち溢れていた。
「たこパか……エエ響きや! やっぱ、パーティと言えば、関西人のソウルフード、たこパに限るわぁ」
アキラは明るく朗らかな笑顔を浮かべ、たこ焼き愛をさりげなく語る。
和紗はそんなアキラを見、こくりと頷いて。
「たこパ……参加しない訳がありません」
――きっぱりと明言。
「たこ焼き好きなのか?」
聴いていた仙也が訊ねてみた。
すると、和紗は凛々しく真剣な面持ちで云う。
「粉モノは生活の一部です」
「……!」
1家に1台たこ焼き器、1人1本千枚通し(?)が常識の大阪出身として腕が鳴る――
そんなふうに燃えている和紗の名言にアキラは反応するだろう。
彼女達はお互いに確信していた。
関西の同士だ、と!
心の握手を交わす和紗とアキラ。
そんな彼女達の横で雫は、ふと零す。
「たこ焼きと明石焼きの差って、付けるソースの差なのでしょうか?」
たこ焼きと明石焼き……。
確かに一見よく似ている両者だが、やはり全然違うとアキラがすぐに首を振る。
明石焼きも勿論美味しいが、折角のたこ焼きパーティーだ。雫にもたこ焼きならではの魅力を是非知ってほしいところ!
「うちはこれでも料理人やさかい、今日は美味しいたこ焼きをいっぱい作ったんで!」
「本当ですか? それはとても楽しみです」
雫が頼もしそうに云うと、アキラが任せといて〜、と笑った。
見ていたユリアも、ふふーっとふんわり微笑む。
「一緒に楽しもうね♪ 皆で美味しく楽しくって素敵なことだよねん」
その気持ちはきっと皆も同じ――
益々和やかな雰囲気が流れているのだった。 そしてもう間もなくスーパーに到着という頃。
そういえば……と仙也は切り出した。
「中身はどうする?」
たこ焼きの中身と言えばたこ。
だがしかし――
「たこ焼きの具がたこだけだなんてつまんないよねん」
ユリアの意見に、アキラも頷く。
「うんうん。変り種具材も一緒に買っておきたいトコやな!」
他の具材を入れても美味しい。
それがたこ焼き。
「とりあえず何でも入れてみてもええかもな!」
虎松も賛成派で、さらーっと一言。
すると雪子が――。
「ん? 今何でも入れていいって言ったよね?」
「あっ」
雪子の意味深さにビクッとしつつ、失言をしてしまった気がしてならなくなった虎松。
「しっかり聞いたで○○!」
「○○ぃぃ……!」
「「……」」
雫と仙也はそんな二人の会話を眺めながら、
何か事件が起きるかもしれない……そんな予感を覚えていたのだった……。
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スーパーに到着し食品売り場へと辿り着いていた彼らは、各自入れてみたい具材を調達していた。
そして虎松は具以外の必要な材料を調達する係を希望していたのだが……
この時彼はある重大なミスをうっかり犯していた!
たこ焼き粉、卵、ネギ、天かす、ソース、青のり、紅しょうがを、籠に入れるだけで満足しきっていたのだ!
「……」
という訳で、和紗はそっと鰹節を追加する。
「あ」
虎松は自身の失態に絶望した。
たこパをするのに鰹節が無いまま始まっていたら、流石に悲し過ぎだった件。
「ほんまありがとう、ごめんー!!」
虎松は両手を合わせ助かったァと頭を下げた。
そんな彼を見た和紗はぐっと親指を立てる。
そしてソース用として醤油と共に使用したいと考えていたアキラも、うんうんと頷く。
こうしてたこパの運命は密かに救われつつ――
「ねーねー虎松先生ー、お菓子買ってー(」
「おう、ユリアちゃん☆ 好きなもん買い♪」
やったー☆と喜ぶユリアの姿を眺めながら、虎松の表情は緩みきっていた。
生徒に甘えて貰えると嬉しいようだ。
そこへ偶然、雫が通りかかる。
「あ、雫ちゃんも好きなん買ってええんやで〜」
「そうですか?」
なら……、と少女が持ってきたものは――
「ん!?」
虎松はまさかのチョイスに凝視した。
好きな人と苦手な人とではっきりと分かれる事で有名なあの飲み物……
>ドクターペ○パー!<
「私は好きなのですが、他の人に勧めると断られるんですよね……癖になる美味しさなのに」
どうやら雫は好きな方のようだが、虎松にとっては実はというと生まれてこの方ずっと敬遠していた炭酸飲料。
「先生も飲みますか?」
「えっ。お、おう……!」
しかしノリで頷いた為、ドクターペ○パーを二つ買う事に。
さあ、果たして虎松はこの味を好むだろうか――?
そんなこともありながらな数十分後。
各自の調達は終了。彼らは集合すると共に、籠の中身を見せ合っていた。
雫:キャベツ/チーズ/餅
ユリア:(生地用 )山芋 (こってり具用)ミートボール/明太子/餅 (あっさり具用)プチトマト/ブロッコリー/蒟蒻 (デザート具用)チョコ/蜜柑の缶詰 (ソース用)塩マヨ/ポン酢/ゴマ油/大根おろし (こっそり)にんにく/山葵
和紗:柚子/大根/チーズ/海老/アスパラ
アキラ:砂肝/キムチ/餅/醤油/山葵醤油
仙也:たこ/いか/キャベツ/林檎/マンゴー/里芋
「ふむ、なるほど」
和紗は皆が選んだ具を興味津々に眺める。
そして仙也も呟いた。
「こうしてみると具も様々だな」
集まった具は相性が良さそうな物から、滅多に入れないような珍しい物まで!
中にはちゃんと合うかなぁと気になる声もあったかもしれないが、和紗は心配いらないと真顔でこくりと頷いて言った。
「たこ焼きは懐広いですから、何物をも受け入れます」
一方、雫は自身の選んだ物に視線を落とす。
「私の選んだ具は皆さんとかぶりましたね」
なんと選んだ3種とも皆と一致するミラクル!
好みが一致したのだと考えるとなんだか微笑ましい。
そして振り返った虎松が、雪子を見て訊ねる。
「ところで雪子ちゃんは……、」
何やらびくびくしている様子。
スーパーに入る前の会話のやり取りの事があって、もしや恐ろしい具を追加するのでは!? と、ドキドキしているのだ。
――が。
「雪子は大丈夫です!」
にこっ。
「え」
虎松はきょとんとした。
買い物中、雪子は皆の相談や提案に参加しつつ、積極的にお手伝いをしていたようだが……
個人的に追加した具は一切無さそうなのである。
「ほんまに何も買えへんの?」
「はい」
「あ、あれ……? そうなん?」
こくこくと頷く雪子。すると虎松は、ほっとした。
「なんや、入る前のあれはノリやったんかいな〜」
そのまま会計のレジへと進み、財布を出そうとする仙也に「ええてええて!」「いや、でも」と攻防する彼の顔には何かを疑っている様子は無い。
眺めていた雪子は、口角を上げつつ秘かに笑んでいた。
(計画通り!)
――雪子は何も買っていない。
>但し、何も目論んでいないとは言っていない!<
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たこ焼きパーティーは虎松のマンションで催す事となっていた。
聞いていた通り広くは無いが、部屋は意外と綺麗だった。生徒が遊びに来るからと張り切って掃除をしていたようだ。
そんな虎松宅に到着したばかりではあるが、丁度お腹も空いてくる頃。先ずは和紗の言うように「粉から作る生地も準備しておきましょう」となるのは自然な流れだ。しかし、問題が発生。
ずっと隠れて見えていなかった粉の袋。そこに書かれてあった文字、というのが――
「たこ焼き……粉……?」
和紗は我が目を疑う様に呟く。
「甘い……甘いわぁ……っ! 甘過ぎるわぁ……っ!!」
アキラは衝撃を受けていた。
それに間髪入れず虎松も続く――
「ほんまやで! 誰やっ、これ買ったん!!」
そして打ちひしがれた!
「俺やぁぁぁ!;;」
生粋の関西人と名乗りながら、何故小麦粉ではなくたこ焼き粉を選んだのか……!
鰹節を忘れていた件といい、色々と詰めが甘い先生。
けれど大丈夫。
「持参しました」
「なんやって!」
和紗に感嘆の声が漏れるアキラ。
「MY石臼で挽いた手製の小麦粉と米粉です」
「えっ、粉から作るってそういう意味なん……!?」
――という事で、早速皆で生地作りを開始!
和紗とアキラは共同で、出汁を混ぜながら本格的に。
一方仙也とユリアはふんわりな生地を目指す。
入れるとふわっとなって美味しいと聞いたことがある――仙也は里芋で、ユリアは山芋で。
「どれぐらいの分量が良かったんだっけな……」
少しずつ里芋を加えながら、仙也が混ぜる。
ユリアも山芋の分をくるくると混ぜながら、
「ふわふわの食べ比べができるねん♪」
里芋と山芋の共演に想いを馳せた。
「雪子もお手伝いします!」
「私も……」
雪子や雫も協力し、そうしてたこ焼きの生地が豊富に完成する!
具も入れやすいように切り整えたところで、準備は万端に。
「さて、たこパ開始!」
ユリアが両手をわきわき動かしながら云って。
「ほな、作ってくでェ!」
アキラは予め温めておいたMYたこ焼き器に生地を流し込んだ。
続く、和紗も。
「はい」
ご飯を盛ったお茶碗を前に置いて、キリッと。
関西人にとって、たこ焼きはおかずです。
そして、
「油は多めの方が、外はカリッと中はトロっと焼き上がります」
美味しく焼く方法はばっちり!
皆、好きな具を想い想いに楽しく投入し、くるくると回す!
そしてソース、青海苔、鰹節の順でかければふやける事はないというのは和紗談。
きっちり守りつつ、皆が一口。
「はぅ、はふはふで美味しー♪」
ユリアは思わず美味しさに蕩ける。
色んな生地に、色んな具。色んなソースから選べて楽しい、たこ焼きパーティー!
和やかな雰囲気を眺めつつ、和紗は頷く。
「米粉のたこ焼きは、塩がお勧めです」
塩美味しいですよね!
その折、雪子はある事に気付いた。
「杏仁豆腐に、金平蓮根、テンペ、……それに死のソースって買いましたっけ?」
「いや、買ったんじゃなくて持ってきたんだ」
――と、言ったのは仙也。
かなり挑戦的なラインナップ!
色々試す良い機会だし、という事だそうで……
「自分で食べる様にするけどな」
変わり種をもぐもぐ。
少し葱を焦がしてみたりと、様々なアレンジも楽しんでいた。
一方でユリアは三色団子のように色んな味のたこ焼きを刺して食べてみたり、和紗はご飯に鰹節とチーズ、醤油を混ぜた、一口焼きおにぎりを作ったてみたり、アヒージョをしたりと、楽しみ方は様々。
味付けのソースも皆が準備したおかげで、沢山のバラエティーに富んでいる。
中でもおろしポン酢は人気で、たっぷりの刻み葱に柚子を皮ごと摩り下ろした和紗のアレンジもとても美味しい。
「新しい発見があると良いのですが……」
その自由度の高い選択の中から、絶品の組み合わせと巡り合えればいいなという想いで雫はこぼした。
そんなふうに和やかに楽しんでいた最中で、また新たな事件は起こる……。
<invisible-file.exe>!
「えっ」
虎松は雪子が消えたと驚くのも束の間、突然電気が消え、暫くあたふたと慌ててから、電気をつけなおした。
すると、買い出しにもお手伝いにも積極的な良い子だった雪子が豹変――
生き生きとしながら宣言するだろう。
「さぁ、久遠ヶ原名物の闇鍋……改め、闇タコ焼きゲームの始まりなんですわ? お?」
ナ、ナンダッテ!
皆はたこ焼き器のたこ焼きを見つめる。
どうやらこの中に一部、とんでもないものが入っているらしい。
聞くと、スーパーでは買わなかったそうなのだが、こっそりとこの為に持参してきたそうで……
「闇たこパですよ、おうあくしろよ」
――という事で、闇のゲーム(?)の始まり!
各自たこ焼きを選んで、一斉に食べる事に。
ドキドキした緊張感が流れる、不思議な状況。
「……!」
その時、雫は何かに気付いた。
直感で察知したのだ。
このたこ焼きは危険である、と!
「よし。じゃあ食おうか……」
仙也が切り出すと、皆は頷く。
その折にさりげなく雫は自分の皿と虎松の皿を入れ替えて、
「せーの……」
そしてこの後、二名分の悲鳴が響くのだった……。
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雪子と虎松は蹲っていた。
激辛且つ、主張が激しい栄養が混ざり合った結果カオスとなった胃に優しくない味に悶えているのだ。
つまり闇たこパの犠牲者なのである。
「こ、これが……インガオホーってやつなんです……?」
雪子はお腹を抑えつつ、ずーんと沈んでいて。
「神や……神の飲み物や……」
虎松はカオス味をカバーする為にドクターペ○パーを流し込むように飲んでいた。
今の彼のタイミング的に救済の味だったようだ。
「……何度やっても穴が開くんですよね」
雫は和紗やアキラの鮮やかに華麗なMY千枚通し捌きに憧れつつ、ぽつり。
和紗もアキラも、そんな雫にたこ焼きの回し方を優しく教えるだろう。
そして綺麗に回せて、穴の無いたこ焼きが完成すると、なんだかほっこりと和やかに。
一方で仙也は、恐らくお腹に優しい筈の、柔らかくてもちもちな里芋を摩り下ろした生地で作ったたこ焼きを雪子にと渡す。
闇たこの色々も含め、そんなふうに仲良く生徒が楽しんでくれて、嬉しいなって。
密かに喜んでいた虎松に、ユリアは笑顔を。
「にゃふふっ、私は先生の生徒だけど、これからも先生と一緒にハッピーな時間を過ごしていけたらって思うよん」
「ユリアちゃん……」
思わず感動を覚える先生。
「というわけで、お近づきの印に、はい、あーん♪」
ユリアの柔らかな明るさに、じーんと胸を打たれつつ、めっちゃ優しいと感じながらぱくり。
「わぁん;;;」
だがしかし中身はロシアン!
にんにくとわさびのハーモニーに嘆く彼を見つめ、無邪気なユリアはふふーっと笑っていた。
そして、ユリアは想う。
食べることは幸せなこと。
だからこそお残しはせずに皆でガッツリペロリと頂いて、皆はお腹いっぱいに。
たこ焼きを作って回したり、食べたり、色んな味に挑戦して新たな発見を探したり。
きっと皆の想いや喜びが、たこパをより一層楽しいパーティーへとしてくれる。
(皆の笑顔が何よりのご馳走や!)
心の中で呟いたアキラの気持ちを察したのだろうか。
和紗も静かに、こくりと頷いていた。