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\ハッピーハロウィン☆/
パンダの着ぐるみを着たユリア・スズノミヤ(
ja9826)が謎のコサックダンスで登場しつつ明るく挨拶をした。片目は星型の瞳。カボチャパンツを履いて、キラキラ煌めく光球を連れながらちょっぴり不思議さを演出すると、ミナコは釘付けになって見つめる。
「ミナコちゃんだねん? ミナちゃんって呼ばせちくりー。ユリもんだよーん。さあ、ユリもんとあくしゅー☆」
人見知りさんさようならー、ほっぺにニコニコこんにちはー☆
ユリもんがフレンドリーにパンダの両手でミナコの手を握手してからぎゅっと抱き着くと、ミナコの頬がほんのり染まった。
人見知りで照れるけれど、内心は嬉しいらしい。
「そうだ。ユリもんからお菓子のプレゼントだよ! この前、星屑が落ちてたから金平糖にしちゃった。どぞー☆ 」
七色の淡い星々。
可愛らしくて甘いお菓子がミナコの掌にいっぱい。
不思議なパンダさんからの不思議な贈り物を貰って、ドキドキが止まらない。
そしてユリもんの隣に、ずずいと並ぶユリもんのお友達の白い着ぐるみ。
「Σ……」
ミナコは一瞬びくっとした。
本物そっくりの白熊がいる……!
ちょっと怖い!
「うん。熊ではなく白熊だ。その辺白黒付けなきゃいけない。そう、パンダな彼女の様に……! まぁ、おいらは白熊だから、白しかつけられないけど……! HAHAHAとりっくおあとりーとー」
「Σ……」
あ、でもなんだか気さくっぽい!
リアル過ぎて全然ユルくないからと言っておっかないと決めつけてはいけない……白熊ジョークだってほらこの通りな白熊なのだ。
因みに中の人は夏雄(
ja0559)である。
「ご機嫌如何? 可愛い魔女さん」
「!!」
ミナコは振り返りながら驚いた。
背後に樒 和紗(
jb6970)が立っていたなんて、全然気付かなかったのだ。
和紗は微笑みを浮かべる。
そして和紗が身を隠していた真っ白なマントを外すと、ミナコは眩い光のように感じていた事だろう。
流麗な白翼を持つ美しい天使――。
思わず見惚れてしまっているミナコに、和紗は言った。
「この子ともお友達になってくれますか?」
彼女が召喚したのはケセラン。ミナコはぱちりと瞬きをしながら一生懸命見つめていた。
(かわいい……)
そのままケセランを手を伸ばし受け取ろうとすると、自然と和紗と指が触れて――光が闇へと変貌する。
「くっ……!」
和紗が突如一歩後ろへと下がった。
光を彷彿とさせた天使はもうそこには居ない―
あの姿は幻想。
本来の姿は此方であったかのように。
「流石魔女。魔法を見破るとは……!」
――和紗は漆黒のドレスを纏う吸血鬼となる。
「見破られたからにはお前の血を吸いましょう。……それともお菓子をくれますか?」
首を傾げ、尋ねた。
微笑むならば僅かに牙が覗くだろう。
ミナコの反応は、というと。
「格好良い……」
微かに聞こえる程度の小声だったが、無口だったミナコが彼女達の前で初めて口を開いた。
瞳がキラキラと輝いて喜んでいるミナコを見ていると自然と眉が下がる。
頬を緩める和紗は、優しく紡いだ。
「その答えは後で改めて、お聞きするとしましょう」
ユウ・ターナー(
jb5471)はというと童話にちょっぴりダークテイストを。題材は殺戮の赤ずきんちゃん。持っているものは血濡れの大きなレプリカの斧と、甘い苺が入ったバスケット。そして頬や顔に血飛沫のような赤がこべりつく、その理由は――
「さっきね……森中の狼さんを殺して来たの!」
ユウは無邪気に、天真爛漫に、にっこりと笑顔で言った。赤ずきんちゃんに登場する狼といえば、物語の中でおばあさんと赤ずきんちゃんを食べてしまった悪い狼が浮かぶだろう。
だがユウの演じる赤ずきんちゃんは、物語の少女とは一味違うらしい。
ダークなそのアレンジはまさしくミナコの好み。
可愛いけれど格好良いと憧れの眼差しをむけていた。
「あ! ユウの苺も美味しそうだけど、その林檎もとっても美味しそうだねッ☆ 誰の為の林檎なのかな? ユウのはおばーちゃんの為なんだよ♪」
尋ねられて、ミナコはもじもじしながら返す。
「白雪姫に、あげるの。……ええと」
悪い魔女になりきって小声で呟いた。
が。言ってみた後で白雪姫は居ないんだった、と言葉に詰まる。
その時。
「なるほど……白雪姫は不在だったようですね」
心を融かすような優しい声。
声の主を見上げたミナコは心臓が跳ねた。
御祓 壬澄(
jb9105)が扮していたのは、華やかなオペラ座の地下の闇に身を潜ませる怪人。
仮面で表情を隠すミステリアスさに魅せられながら、綺麗な瞳にも惹きこまれる――まるで特別な今宵の夜の色のようで。
「やぁ、女王様。僕も愛しのバレリーナに逃げられまして、良かったらご一緒しましょう」
壬澄が穏やかに手を差し伸べるとミナコは真っ赤になりつつ俯いた。
そして遠慮しながらも伸ばしてくれている手へとそっと、繋ぐ。
小さな魔女は胸が高鳴った。
なんて素敵な事が起こりそうな夜なのだろう――
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髪を後ろで束ね、白シャツベストにネクタイとパンツ。
細身が映える中性的なスタイルで、背中には黒い羽根と尻尾を。
「なだめすかしもいいけどさ、べったりくっつくだけが子守りじゃないっしょ」
悪魔に仮装した夏木 夕乃(
ja9092)がばばーんと言った。
仲良しな夏雄とユリもんも夕乃のノリにいぇーいと楽しそうである。
今回、夕乃には秘策があった。
面白おかしくハロウィンを盛り上げる為の秘策が!
「見よ、この日のために編み出したお菓子巻上げ術を!」
この時。ちょっと離れた所から夕乃と夏雄とユリもんをじーっと見つめていたミナコの傍で翡翠 龍斗(
ja7594)はなんとなく使命感に駆られていた。
此処は俺がやらなければ。
そんなツッコミ役の使命感に……。
〜その1、ツンデレ作戦〜
「べっべつに、お菓子なんて好きじゃないんだからねっ。でもどうしてもっていうならもらってあげてもいいよっ」
赤面しながらそっぽを向き、しかし本当はちょっと気になっていてちらちらと窺うという。
そんなツンデレ少女を完璧に演じる夕乃。
ばっちりである!
これでお菓子を巻き上げ――
(られている……だと………)
龍斗はツンデレの安定した人気ぶりを目の当たりにしながら、夕乃の更なる巻き上げ術に驚愕する!
〜その2、どっかで見たアレ作戦〜
「お菓子をッ、くれるまでッ、つっつくのをッ、やめないッ!!」
「なっ何をするだー!!」
あ……ありのまま今起こった事を話そう。
夕乃は今にも『ドドドドド……』という効果音が流れてきそうな凄みのある表情で屋台の人をつんつくしていたと思ったら、いつの間にかお菓子を巻き上げていた。
な……何を言っているのかわからないと思うが、龍斗にも何が起きているのかわからなかった……。
「夕乃おねーちゃん、凄い、ね」
着々とお菓子をゲットしている夕乃を見て、そこに痺れる憧れるゥなミナコは、隣の龍斗の服をくいくいしながら見上げる。
「うん……本当にな」
見守りながら呟く。夕乃のお菓子巻き上げ無双は止まらない。
「龍斗おねーちゃんも、できる?」
「いや、お姉ちゃんではないけどな?」
龍斗はそこのとこハッキリ否定。
しかしミナコは首を傾げていた。分かって貰えていないのだろう。だが期待されてる事だし、まあとりあえず……。と、龍斗は近くに居た屋台の青年にトリックオアトリートする。中性的な声で、妖艶に。
「お菓子をくれないと首をねじ切り血を飲む―――」
「……!」
青年は衝撃を受けた。
品の良い薄化粧の麗しいキョンシーに扮するチャイナドレスの美女(?)にそんなふうに言われるなんて………ご褒美です!
「ねじ切ってくださいいいい」
お菓子を丁重に献上されながらなんか頼まれた!
「すごいっ」
ミナコの純粋な尊敬!
「……」
しかし龍斗、精神ダメージ大!
現実逃避するように空を見上げながら悟っていた。
(また新たな黒歴史が刻まれてしまった……)
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「……気のせいだよね。お菓子というか、果物ばかり貰っている気がするのは気のせいだよね……」
こんにちは
世界地図の上の方の生き物です
ひとつトリックオアトリートといきませんか?
――と。無双をしていた夕乃の横で、お菓子を求めていた夏雄。
「白熊かな……? 白熊だからかな……?」
トリックオアトリるとお菓子が貰える筈なのになぜか果物しか貰えないという奇妙な摩訶不思議体験に遭遇してしまっていた。
小豆、パイナップル、桃、蜜柑……。
夏雄の収穫物を見て夕乃は「これは……!」と真剣な顔で確信する。
そしてユリもんもうんと頷く。
「あとはさくらんぼだね!!」
もうここまで来たらコンプリートを目指す流れとなりながら、ミナコの方もバスケットがお菓子で溢れるほどいっぱい集めていた。
それもこれも皆のおかげ。
皆が一緒にトリックオアトリートをしてくれた分がこのお菓子の山なのだ。
顔を上げて、やっぱり俯いて、少し寂しそうな顔をしているミナコに、心を癒すよう和紗が言う。
「ありがとうが言えないのは俺の友人もなので……大丈夫、気持ちは伝わっていますから。きっと、皆にも」
ミナコの瞳は驚くように見開いて、少しだけ瞳が潤んだ。
そして和紗に甘えるようにぎゅ、とする。
その折。
みゅみゅみゅみゅ、っと動くユリもん。
\ぱかっとにゃー☆/
アクションに見入っていたミナコは吃驚する。
ユリもんが脱皮()すると、不思議の国のアリスなユリアが。
「今日は白兎じゃなくてミナちゃんを追っかけるんだ♪ だから、好きなだけ行きたい所に行っていいよん。ちゃんとおねーちゃんが追っかけてあげる♪」
「……!」
行きたい、ところ。
「シンデレラの魔法使いの所、だろ?」
そう切り出したのは龍斗だった。
「え……」
「このキャンディ、欲しいんじゃないのか?」
網のきんちゃく袋から取り出したのはキャンディの指輪。
気付いたのは指輪を見ている視線を感じていたから、だった。
「う……」
その答えは正解だった。
しかしその場所は他の所とは違ってちゃんと一人で言えないと貰えない指輪だから、ミナコには難しくて、俯いてしまう。
「指輪キャンディ私も欲しい、ミナちゃんとお揃いのつけたいにゃ♪」
ユリアは満開の笑顔で、「欲しいものにはGOしなくちゃ☆」とステップを踏んで踊るように誘った。
「ゎ、ぁ」
きっと言えないと思う。
そんなふうに弱音を吐くミナコに、ユリアは優しい声で紡ぐだろう。「大丈夫だよ、きっとミナちゃんは言えるよ」、と。
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「あれ、欲しいですが…俺は貰いに行くと灰になってしまうのですよね」
「そうなの……?」
欲しいなーと零す和紗の為なら頑張れるような気がした。
でも。
いざシンデレラの魔法使いの所まで行くと、ミナコは緊張で固まっていた。
『とりっくおあとりーと!』
知らない子供達がなんてことないように元気よく言っている姿を見る度に気持ちが負けてしまっていく。
「ミナコちゃん♪」
手を繋いでくれていたユウの声にはっとして、見上げた。
ユウはにこっと笑っていた。
「今日は魔法の苺マシュマロを持って来たんだッ!」
ユウはお菓子作りが得意で、今度ミナコの為にも作ってくれるとさっき約束したばかり。
でもそれとはまた別の、特別なマシュマロ。
「ね、ミナコちゃん……これにどんな魔法が掛かってるか、試してみる?」
「う、ん……」
期待しながら、ひとくち。
マシュマロはふんわりと口溶けて、苺はほんのり甘い。
もぐもぐするミナコに、ユウはこっそりと耳元で秘密のお話を囁く。
「実は此処だけのお話だけど……勇気が出るって言う魔法なんだよ!」
「……!」
ミナコは大きく、目を見開いた。
そして魔法はもう一つ。
「女王様は声を掛けるのが苦手なようですね」
壬澄が屈んで目線を合わせると、照れて視線が泳ぐミナコ。
そんな少女の頬に、持参したかぼちゃのキャンディポットからフェイスペイント用のマジックで描く。『Trick or Treat!』。
「相手に見せながら呪文を唱えると良いですよ」
と、自身の頬をさしながらアドバイス。
鏡が無くてペイントが見えなくても、頬に施された彼の魔法も温かい。
「じゃあ行ってみよっか?」
きっと一緒に行けば、魔法のマシュマロも、魔法のフェイスペイントも、効果が倍になって勇気が更に出てくるかも――、とユウが手を繋いで見守ってくれながら。
ミナコは緊張で声が震えながら、弱弱しく、でもちゃんと、確かに言った。
「とりっくぉあとりーと」
*
「ミナコの魔法で俺も貰いに行けました。だからお前の血を吸うのはやめにしましょう」
和紗が言うと、ミナコはふにゃっと笑った。
ミナコ、ユリア、ユウ、和紗の指には、色とりどりの指輪のキャンディ。
「お揃いだねッ♪」
ユウが破顔すると「うん……♪」とミナコも微笑む。そして。
「頑張りましたね」
微笑みに心の優しさが滲む壬澄に頭を撫でて貰うと、心地良さそうに目を細めた。
ご褒美には壬澄からは飴を、夏雄からはドーナツを。
しあわせ。
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「可愛らしい魔女さん、僕と一曲踊って頂けますか?」
夕乃は胸に手を当てて恭しくお辞儀しながら手を差し出した。
時刻はもう午後七時五十分。
「わ……っ」
「ほらほら、まだハロウィンは終わってないよ!」
夕乃はミナコの手を取ると軽快なステップを踏みながらリードして、くるくると回した。
踊り慣れていなくてふらつきやすい少女を確りと支えながら。思わず口ずさみたくなるような歌に合わせ、まるで踊り明かすような勢いで、全力で楽しみ、楽しませていく。
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃソンソン。
バカで大いに結構じゃないか。お祭りではバカやらないやつがバカなのさー」
だから、皆で一緒に踊ろう。
そこで和紗が虎松の背中を押す。
「ぐいぐい行って、それで嫌われた方が諦めもつきませんか?」
苦手がられているからと遠慮し過ぎるのも如何かと――ですから一緒に踊りましょう? と、手を差し伸べながら。
「おじさんは嫌われてると思って僕たちにお願いしに来られたんですよ、楽しいハロウィンにしてあげて欲しいって。おじさんの事……嫌いなんですか?」
壬澄もミナコの方に窺っていた。
苦手な人な事には変わりないけれど、でも――
「嫌いじゃあ、ない……けど、」
「ミナコちゃんッッ」
「良かったな虎松」
「龍子……!」
「龍子じゃない」
和紗に手を引かれ、踊るミナコと虎松はとても楽しそうだっただろう。
実はこっそりハロウィンに挑むミナコの様子を撮影していた夏雄が、アラスカで鍛え上げられた盆踊りを披露していると見せかけて、写真にひそりと収めていた。
楽しい時間はあっという間。
ミナコは帰りたくなくて泣きだしそうになりなが ら、皆に言うだろう。
「ありがとう」