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マスター:宮沢椿
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/27


みんなの思い出



オープニング

●戦いは終わった
 世間全体が。ざわめいている。
 秩父での大事件。種子島での騒ぎ。それ以外にもあちこちで、様々な事件が起こる。新聞やニュースに、天魔関係の話題が出ない日はないと言ってもいい状態だ。

 そして、今日。首都圏の端っこに位置する、静かなベッドタウン。
 総合病院や保育園、公園などが集まる場所に、突如ディアボロが現れた。目的は不明。ただ暴れるだけの低級な相手で、組織立った動きもない。主人から見捨てられた出来損ないだったのかもしれない。

 それはそれとして。被害は出た。
 病院施設の何か所かに大きなダメージ。患者や病院職員、医師や看護師などにも怪我人が出ている。周辺の家屋も損害を被っているし、道路のあちこちにも大穴があいている。
 救急車や撃退庁の車両がかけつけ、現場の整備や怪我人の救出が行われている最中だ。

 病院と向かい合って立つ保育園も、無傷とはいかなかった。柵のあちこちが歪み、園庭にも穴があいている。侵入しようとするディアボロから子供たちを守ろうとして、かなりの数の職員が負傷していた。
 普段なら、昼食が終わった後、園児たちがお昼寝をし。職員もひと息つける時間。そこを襲った惨事だった。
 目を覚まして泣いている子供たちもいる。今までは、それに対処することも出来なかった。恐ろしい化け物を、何とか園の敷地から遠ざけようと。それだけで精一杯だった。

 園長の加江田春子は、負傷した職員たちが救急搬送されるのを見送った後、園内の見回りをしていた。どの部屋からも泣き声が聞こえる。
 子供たちには恐ろしいトラウマになってしまったかもしれない。それでも……命を守れただけで僥倖だった。そう思う。
 無事だった職員には、保育室へ行き、子供たちをフォローするように言ってあるが。

 四歳以上の子供のいる幼児棟を見て回った後。三歳以下の子供のいる乳児棟に向かう。そしてすぐに、春子は異常に気付いた。

 乳児棟の一室。今年度に二歳の誕生日を迎える子供たちを預かっている、「ぺんぎん組」の保育室、その出入り口の引き戸が。開いている。
 普段は必ず、担任の保育士二人のどちらかが在室し、開け放しにすることはない。そのはずなのに。

 そして春子は思い当たる。この部屋が、もっとも通りに近い場所であることを。壁の向こうに迫った天魔の注意をそらすため、ぺんぎん組の担任二人は外に飛び出し、今は重傷を負って病院に搬送されてしまっているのだ。

 春子も動顛していて気付かなかった。今、このクラスには子供たちを守るべき担任がいない……!
 あわてて飛び込んだ。何人かの子が、お昼寝布団から起き上がり、くすんくすんとべそをかいている。ぐっすり眠っている子もいるが。
 春子はあわてて子供たちの数を数えた。ぺんぎん組の子供は十五人。そのはずだが。

 足りない。
 何度数えても、足りない。
 お昼寝布団の上には、九人しか子供がいない。
 春子の顔から、血の気が引いた。

●よちよちキッズを捜せ!
 後の始末は地元の撃退署にまかせ、撤収しようとしていた久遠ヶ原の撃退士たちに、現場の指揮を執っていた署長が声をかけた。
「すまん。疲れているところ悪いのだが、もう少し手を貸してくれないか。向かいの保育園から子供がいなくなったそうなんだ。知っての通り、保育士にかなり負傷者が出て、今あそこには捜索に割ける人手がない。園内のどこかに隠れているだけかもしれないが、その確認も難しい状況なんだ」

 署長の話によると、所在の分からない園児は六人。一歳の誕生日を迎えて間もない三月生まれから、二歳の誕生日を既に迎えた四月生まれまで。個性も能力差も大きい園児たちとのことだ。

「園長の話では、下駄箱の近くに子供たちの靴がいくつも並べて置いてあったそうだ。誰かの靴が足らないかどうかの確認は出来ていない。そして見てのとおり、園の正門がディアボロに壊されてしまい、半開きのままになっている」
 署長は保育園の壊れた正門や、歪んだ柵を指さす。

「どさくさにまぎれ、外に出てしまった子供がいるかもしれない。部下に確認したところ、子供を見かけた気がすると言う者が数名いた。付近の道路にはまだ非常線が張られたままだから、一般車両の通行はないが。ディアボロの攻撃で路面のあちこちに穴が空いているし、緊急車両の行き来もある。どうか、手を貸してもらいたい。子供たちの安全確保が最優先だ」

 それから彼は、口許にほんの少し、笑みを浮かべた。
「私にも子供が三人いるが。一歳から二歳の子供たちはなかなかの強敵だぞ。まず、言葉が通じそうで通じない。意外に機動力がある。素早くて頑固だ。そしてこちらは、有効な反撃手段を持たない。ヤツらはある意味、最強の敵だ」

 病院の敷地から、署長を呼ぶ声がする。瓦礫の撤去や、下敷きになっている人たちの救出に手間取っているようだ。
「私たちはこちらを受け持つ。すまんが、一刻も早く子供たちを捜索してくれ。……出来れば、三時のおやつに間に合うように、ということだ。あと二時間あるから、大丈夫だろうが」

 おやつは麦茶と、調理員さん特製の黒糖蒸しパン(レーズン入り)だそうだ、と言い置いて。署長は去って行った。

 というわけで。
 戦闘に疲れた撃退士たちの前に、新たなる最強の敵が立ちふさがった!(違)
 よちよち歩きの子供たちを、至急確保してください!


リプレイ本文

●捜索開始!
「子供達を守るために、保育士さん達がディアボロの注意を引き付けたんだ」
 六道 鈴音(ja4192)は、歪んだ鉄柵を眺め、呟いた。
「なかなかできることじゃないわね。怪我をした保育士さんに応えるためにも、園児達が怪我をする前に、全員保護しないとね!」
「この状況で姿が見えないのは心配だな」
 藍那湊(jc0170)が、うなずく。鈴音も眉を寄せた。
「道路には穴もあいてるし、瓦礫もある。緊急車両だって走っているから危ないわ」

「赤ん坊の足ではそんなに遠くには行けないでしょう」
 雫(ja1894)は首をかしげる。
「迷子になって心細い思いをしているのかも知れません。早く見つけてあげたいですね」
 眠(jc1597)も静かに言った。その横で、
「大きな事故になる前に見つけないと」
 と、低い位置から声がした。他の面々の視線が集まる。一人目発見か?!
「あ、あたしは小さいですが、園児ではないですよ?」
 深森 木葉(jb1711)はあわてて否定した。幼いが、彼女は立派な撃退士である。もちろんみんな承知だが、ここはお約束。

「これが園周辺の地図です」
 スマホを操作していたレティシア・シャンテヒルト(jb6767)がにっこりと微笑んで、画面を皆に向けた。
「園内の見取り図も確認しておきましょう」
 手際が良い。必要な段取りは考慮済みのようだ。

「私は、まずは保育園から公園に至るルートを探してみますね」
 一刻も早くみつけてあげないと。そう思い、鈴音はすぐに園を出た。他の面々は、下駄箱前に向かう。(レティシアは何やら作成中)
「脱いだお靴、きれいに並べられるのって、えらいですね」
 並べられた靴を見て木葉が言うが。保育室にいる子供の分まで靴が出されているようだ。
「靴箱に入れて、何足たりないかで外に出た人数を判断できるんじゃないかな」
 提案する湊。靴には全部、名前が書いてある。対応する靴箱に入れてみると、ないのは二足分だ。
「上履きで出て行った子がいなければいいけどなぁ」
 湊は呟いた。

「ではまいりましょうか」
 そう言ってレティシアが掲げたモノを、表情こそ変えなかったが眠はじっと見つめる。それは『お出かけ園児捜索中なう』のプラカード(手作り)。
「周辺で働く方々が新しい目撃情報を仕入れていれば、と」
 微笑むレティシア。情報収集は眠も考えていたので、その方針に異存はないのだが。
 プラカードと、微笑む彼女を見比べて、眠は思った。読めない人だ、と。

 というわけで。病院付近で作業している者で、緊急の作業中でなさそうな相手を狙ってレティシアと眠は聞きこみを開始。
 確実な情報は得られなかったが、公園方向に向かった子供を見たような気がする、という話の他に。反対側の路地を歩く子供を見た気がする、と言う者がいた。
 公園には、既に鈴音が向かっている。二人は、路地に向かうことにした。


●見つけてからが本番です・1
 雫と湊は園庭を捜索する。雫は目線を低くし、大人からは死角になる箇所も丹念に調べるが成果はない。
「少々甘く見ていたかも知れませんね。中々の強敵揃いです」

 湊は裏庭に向かった。
「プールに近寄っていたら危ないな。水が無くても落ちたら大変だ」
 『生命探知』を発動させる。反応する気配があった。
「れーかちゃん? それとも、そよちゃん?」
 六人の名前を次々に呼びかけてみる。茂みが揺れ、女の子が現れた。
「えーと、誰ちゃん?」
「れーかちゃん」
 と返答が。一人目発見に湊は安堵した。

「もう大丈夫ですよ。怖い事は終わりましたからね」
 合流した雫が、安心させようと微笑む。普段、笑顔を浮かべないので表情筋が攣りそうだ。意識しないと無表情に戻ってしまう。

 そんな努力にもかかわらず、れーかちゃんは動かない。それなら、と雫は用意していたチョコマシュマロやホットチョコレートを取り出した。
「美味しい御菓子はどうですか? 一緒に戻ってくれるなら皆には内緒であげますよ」
 
 それを見た途端。れーかちゃんが反応した。予想とは逆の方へ。
「もらっちゃ、メッ、なのよー!」
 目じりを吊り上げ。叱りつける口調で雫を指さす。
「メッ、よー! にげるのよ!」
 れーかちゃんは叫び。脱兎のごとく逃げ出した!
 
『知らない人がお菓子をくれると言っても、ついて行っちゃダメよ』
 れーかちゃんは。家族からそう厳しく教えられていたのだった。

 とはいえ、膝上ほどの背丈しかない二歳児。つかまえるのは簡単……と思いきや、これが意外に速い。短い脚を動かし、大人がスタート体勢に入る前にとっとと駆け去ってしまうのだ。狭い通路も、園庭の大穴の横も最高速度で走り抜ける。あっという間に半開きの門にたどり着いた。撃退士の速度をもってしても、すぐには追いつけない。

「ま、待って」
 湊は叫ぶ。敷地の外に出してはならない。
「戻ってお兄さんたちと遊ぼう!」
 れーかちゃんの足が、停まった。振り返る。
「ちわうっしょ! おねーさんれしょ!」
「え、いや。お姉さんじゃなくてお兄さんだから」
 れーかちゃんは首を横に振る。
「うそはメッ、れしょ! おねーさんれしょ!」
「いや、お兄さんだから。お兄さんだからねー?」
 湊の叫びはむなしく。子供は首を横に振り続けるのだった。

「どうですか? もふもふですよ。楽しいですからこっちに来ませんか?」
 雫がケセランを招喚し、ようやく確保。知らないケセランについて行ってはいけない、とは言われていなかったことが幸いした。
 敷地内での短い追走劇だったが。そのわずかな距離が星より遠い気がした雫と湊だった。

 だが。男らしくあろうと心がけている湊の一人称が。いつの間にか『俺』から『僕』に変わっており。
 笑顔を浮かべるのに苦労していたはずの雫も、いつか自然に微笑んでいる。
 そのことに、二人は気付いていなかった。


●見つけてからが本番です・2
「ぺんぎん組さーん。もうすぐおやつの時間だよー。お部屋にかえるよー」
 時折しゃがんで小さいコの目線の高さで辺りを見たり、裏道や茂みの中も見たり。普通なら五分ほどの道を、時間をかけて鈴音は進む。
 上下四車線の広い道路を横断し、公園にたどり着く。そこに一人で座っている男児を発見した時には、彼女はホッとした。

「こんにちはぁ。一緒に保育園に帰ろう?」
 近付いて名前を聞くと、
「しょうくん」
 元気な答えが返ってくる。「しょう」と書かれた白い上履き。湊の懸念通り、靴にはきかえずにお出かけしてしまった園児だ。

 園に発見の報告を入れ。連れ帰るため抱き上げようとする、と。彼はいきなり、
「ばしゅ!」
 と叫んだ。腕の間から暴れて抜け出し、道路際で再び「ばしゅ!」と言う。理解不能だ。

「ちょっといいかな?」
 鈴音は手を伸ばし、素早く子供の額に触れた。『シンパシー』発動。これで、対象の記憶を知ることが出来る。……もしかして、これだろうか。母親を力ずくで引き止め、バスを指さし『ばしゅーっ』と叫ぶ記憶が、彼の中に。
 どうやらバス好きなこの子は。見るまで帰らない、そう言っている。そんな気がする。

 だが現在、この区画には非常線が張られ、道路は緊急車両以外通行禁止。つまり。
「バス……来ないんだけど」
 呟く鈴音としょうくんの間を、夏の暑い風が吹き抜ける。
 長期戦になりそうな予感がした。


●保育園のアイドル
 一方、木葉は園内の捜索をしていた。まずは保育室の中から調査にかかる。隅に置いてある椅子や机の陰や、トイレも念のために確認。
 その彼女の後を、ぺんぎん組の園児たちがついて歩く。彼女は、園児から見ればちょうど「憧れのお姉ちゃん」の年頃。子供は子供が好きなのだ。
 大正浪漫な服装も珍しいのか、長い和服の袖や、袴の裾にそっと触れてみる子供もいる。

「押し入れを念入りにチェックです。おもちゃ箱の裏側に隠れてないかな?」
 じっとのぞきこむ。動くものは見えないが、彼女の中の何かが、ここを探せと訴えかける!
 一つずつ、おもちゃ箱を動かしていく。その奥に。にっぱー、と微笑む女の子発見!
「まりちゃん。どうしてそんなところに?」
 呆れる園長。再びにっぱーと微笑むまりちゃん。ただ隠れたかっただけらしい。

 そして、まりちゃんも嬉しそうに木葉に寄って行く。大人気だ。
 木葉も楽しくなってきた。自分より小さな子供たちに囲まれ、笑顔を向けられると。家族を失って凍えてしまった心が、少しだけ暖まる。そんな気がする。
「何だか、かくれんぼしてるみたいでワクワクです。次は誰ですか〜」
 張り切って、園舎の他の部屋の捜索に向かった。

 給食室。展示される見本が美味しそう。いやいや、おやつの時間までおなかを空かせて待たなければ。
「絵本コーナーはどうかな。ご本が好きな子なら読んでるかな?」
 のぞきこんで見ると……発見! 女の子が絵本をたくさん並べ、真ん中でページをめくっている。
「お気に入りのご本は見つかりました?」
 優しく微笑みかけると、女の子は木葉を見つめ、それからうなずいた。
「お部屋で一緒に読みましょうね」
 と言うと、本を持って黙ってついてくる。木葉パワー最強だ! 子供を連れ帰る苦労は、彼女には無縁だった。


●がんばれ撃退士たち
 「お出かけ幼児捜索なう」のプラカードを掲げたレティシアと眠は。路地の隅にうずくまる男の子を見付けていた。黄色い靴には、「たける」の文字が書いてある。
 レティシアはかがみこんで子供と視線を合わせた。それだけで相手は、怯えたように目をそらし、後ずさる。
「こんにちは、たけるくんですよね?」
 にっこりと挨拶する。
「私はレティシアと申します。こちらは眠さん」
 微笑んでいる彼女をたけるくんはチラリと見て、また目をそらす。これは、時間がかかりそうだな。レティシアはそう思った。
「眠さん。ここは私にまかせていただけますか?」
 眠はすぐにうなずいた。まだ、見つかっていない子がいるなら、それを探す方が効率的だろう。

 それを見送り。レティシアはまた、たけるくんに向かい合う。こう見えてたいそう年寄りな彼女は、子供に優しい気持ちを持っているのだった。
 焦るつもりはなかった。相手が心を開くまで、忍耐強く待つ。彼女には難しいことではなかった。


 眠は状況を確認するため、一度ぺんぎん組に戻るつもりだった。だが、園の傍で。ぼんやりたたずむ男の子を発見した。靴にはひろき、と名前が書いてある。行きには出会わなかった。お散歩した後、自分で帰ってきたのかもしれない。
 
「おやつの時間に遅れちゃいますよ。そろそろ、一緒に帰りませんか」
 彼女は、姿勢を低くし、落ち着いた声音で話しかける。
「おやつ」
 子供の目が輝いた。
 ひろくんは食べ物に弱かった。その言葉だけで、園の門に向けて走り出そうとする。その手を、眠はそっと握った。彼はちょっと彼女を見上げたが。つないだ手をギュッと握り返して、楽しげに保育園の門をくぐった。
 この時点で六人全員発見、四人が確保済み。任務達成は目の前であった。


 その頃、鈴音は。
「もう、おやつになっちゃうよ」
「ばしゅ」
 まだ、戦いを続けていた。

 ため息をつく。他の園児の捜索にも行けない状態だ。
 それでは、とヒリュウを招喚した。小さな龍が、嬉しげに鈴音にまとわりつく。
「いい? 園児をみつけたら私に知らせるのよ?」
 解き放とうとした時。彼女は、隣りにいるしょうくんのキラキラした瞳に気が付いた。
「さわりたい?」
 たずねると。しょうくんは、こくりとうなずいた。


●泣く子と古きもの
 人見知りが強く、知らない人が話しかけるだけで泣き出す。たけるくんはそんな子だ。だが、そんな彼も。距離を置き、黙ってずっとこちらに微笑みかけているだけのレティシアに、少しずつ興味を持ち出したようだった。
 こちらを見る時間が長くなってきた。頃合とみて、レティシアは隠し持っていた玩具を出す。籠絡の一手に、と、園から借り出しておいた子供たちのお気に入り玩具のひとつだ。

「きしゃ」
 それを見て、子供は呟いた。
「そうですね。汽車ですね」
 レティシアはうなずく。
「いーい?」
 少しだけ彼女に近付いて。小さな手が突き出される。持たせてくれ、と言っているのだろう。
「いいですよ。でも、遊ぶのはぺんぎん組に帰ってからにしましょうね?」
 汽車を渡すと。たけるくんはそれを、大切そうに触った。

「……おばけ」
 ぽつりと、彼の口から言葉が漏れる。
「おばけ、こわーいってエーンしたら。るりせんせー、いっちゃったの」
 そう言って。涙をこぼす。
 この子は。帰って来ない先生を、探しに来たのか。怯えて泣いた自分を、責めているのか。
 怖かったのだろう。淋しかったのだろう。
 レティシアは手を伸ばし、彼を抱きしめる。他人に懐かない子は、黙ってそれを受け容れた。


●おやつの時間
 午後三時。その少し前に、何とか全ての園児がぺんぎん組にそろった。レティシアとおとなしく手を洗うたけるくんの姿は、園長を驚かせた。
 鈴音はヒリュウと共に、しょうくんを連れて無事帰還。長い戦いだった。

 そして、ボロボロになっているのは子供たちの遊び相手を務めた湊。
 どうしても「おねーさん」と呼ばれてしまう彼は、子供たちを肩車したり馬になってやったりして、お兄さんらしさをアピールした。結果、体力を絞り尽くされたが、それでも呼称は「おねーさん」のままだった。残念。

 木葉も、絵本を読んであげたりかくれんぼの相手をしたり大活躍だ。

 園児たちと共においしいおやつをいただく。食べ終わると、子供たちは一人、また一人と眠そうに目をこすり始めた。襲撃でお昼寝が中断され、眠りが足りていないのだろう。
 しょうくんを、鈴音は抱き上げる。寝顔はとても可愛い。眠も、ひろくんを抱き上げてお昼寝布団に運んだ。
「まったく。散々、迷惑を掛けておきながら幸せそうに眠って」
 れーかちゃんの髪をなでながら、雫が優しく言った。

 その脳裏に。不意にある光景が閃く。
「昔……、今回の様に誰かの面倒を見ていた様な……」
同年代の誰かの面倒を、溜息を付きながら看ている自身の姿。記憶の中の相手の顔は、霞がかかったようにはっきりしない。
「ん? なぜ、同年代の面倒を私が看ているのでしょう?」
 首をかしげる。けれど、それに答えはなかった。

(疲れたけれど、小さい子と触れ合うのって楽しい。将来は、保父さんなんて良いかもしれないなあ)
 と湊は思った。面倒見の良さは、祖父譲り……なのかもしれない。
 レティシアは帰りに病院に寄って重傷を負った保育士達を癒していこう、と思っていた。彼らにも一日も早く戦線に復帰し、いつも通りの日常に戻ってもらわねばならないのだから。

 非常線が解かれる、と病院の方から声がする。
 我が子の無事な姿が見たくて。やきもきしていた親たちが、もうすぐ駆け込んでくるだろう。

 こうして最強の敵との戦いは無事、終わったのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 刹那を永遠に――・レティシア・シャンテヒルト(jb6767)
重体: −
面白かった!:6人

歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
魔法使いの用心棒・
眠(jc1597)

高等部1年7組 女 阿修羅