.


マスター:宮沢椿
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/28


みんなの思い出



オープニング

●バカはLUK高い
 群馬県東部。山桜の堂々たる巨木はいっぱいの花をつけていた。
 そろそろ花も終わる。風が枝を揺するたび、雪のように花びらが舞い散る。その姿もまた夢幻のように美しかった。
「アルファール様」
 空から降り立ったジュルヌは、桜を見上げぼんやりと座る主に声をかける。
「何」
「お申し付けの通り、一帯に所有権を示す境界票を配置してまいりました」
「うん」
 執念と言うかラッキーと言うか。曖昧な情報しか得られなかったはずの悪魔二人は、何とかそれらしき場所にたどり着いていたのだった。

「悪い報せがあります」
 ジュルヌは咳払いした。
「一つ。辺りはほぼ山で人間がいません。二つ。この辺りは既に収奪しつくされ、全体的に人間がいません」

「そう」
 絶対聞いてない。その態度にジュルヌはキレた。
「少しは真面目にやって下さい! いいですか、他の方はみんな真面目に指令をこなしているんですよ。ボケーっとしてるのはあなた一人ですよ! あなた一人!!」
「だってさあ……」
 アルファールは降りしきる花びらを手にすくう。
「ここはこんなに美しいじゃないか。美しいものを楽しむ時間も持たずに生きることに何の意味がある?」

「お頭様の覚えがめでたくなると思いますが」
 ジュルヌはイライラしながら言った。
「近々ルシフェル様がこちらにいらっしゃるという噂が流れていますよ。そうなったらお頭様がどうなるか分かってますよね? あなたのことなんか頭から全消去されますよ?」

 さすがにアルファールは反応した。
「……わかった。何かすればいいんだろ? でもこの場所は僕のものだよ。こんな美しいもの、誰にも渡さないからね」
 仕方なさそうに立ち上がる。
「やれやれ、面倒くさい。美しくもないものを支配したって面白くもなんともないじゃないか……あ、そうだ!」
 何かを思いついたように、上着の中をごそごそ探り出す。

「この前会った人間が、美しいもののあるところを教えてくれるって言ってたんだ。なんとね、コウシュウデンワというものを使えばソイツがいつでも呼び出せるんだよ!」
 もらったメモを得意げに見せびらかすが、ジュルヌは眉をひそめただけだった。
「何ですかそれは。そんな都合のいい……だまされてませんか?」
 足元に冷たい目を向ける。
「貴様ら。その話に信憑性はあるのか?」

 そこには五人の人間がうずくまっていた。
 観光資源であるこの桜の状況を確認するために、県と観光協会の職員たちがフリー撃退士の護衛を連れ足を運んだのだが。
 護衛の二人は倒され、離れた場所に虫の息で転がされている。残ったものに抗う術はなかった。

 彼らから電話は実在すると聞き、ジュルヌはようやく納得した。
「ね、言ったとおりだろ? だからさ、ソイツに聞いてみよう。僕好みの美しいものがあって人間がいっぱいいて、収穫し放題のいい場所をさ」
 場所を教えるなど一言も言っていないのだが、記憶が都合よく改竄されているようだ。


●エンカウント
 公衆電話が確実にあるのは村役場だろう、と人質たちの意見は一致した。
 この辺りはいくつもの尾根に挟まれた川筋ごとに集落が分散している。桜の咲く山奥から役場は、尾根三つ越えた向こうだった。
 悪魔たちには大勢での移動手段がないので、人質たちが乗ってきたワゴン車が使用される。
「狭い。臭い。居心地悪い。僕は飛んでいくよ」
 アルファールは文句を言った。
「ダメです。どうせ疲れたとか飽きたとか言うでしょう。あなたがデンワを使いたいと言うから行くんです!」
 今回ジュルヌは強硬である。

 川筋に沿った細い道路から、県道に出て更に下っていく。そこで。
 彼らはサーバントを引き連れた天使に道を阻まれた。

「ここで何をしている。境界票があったはずだ、ここはジルガイア家の土地だぞ」
 車から飛び出し文句を言うジュルヌに、長い傘を持った眼鏡の天使はやれやれと肩をすくめた。
「荒れ果てた場所でようやく人間を見つけたと思ったら、悪魔付きでしたか……。境界票? これのことですかね」
 ケッツァーとジルガイアの紋章が刻まれた金属片を懐から取り出し、地面に放り投げた。靴でそれを踏みにじる。
「こんな物に効力はありませんよ。魔界の慣習は存じませんが、ここではゲートを開いた者勝ちです。そんなことも知らないとは」
 見下した口調だ。

「ケッツァーの紋章ですな。まだ名乗っておりませんでした、私はネメシスのフェデリコと申します」
 眼鏡の奥からねっとりした目で彼は悪魔を見た。
「わが組織とあなた方の上司との因縁は当然ご承知のことかと思いますが……まあ、今回は見逃してあげましょう。こちらも堕天使狩りを後回しにしなくてはならない事情がありましてね。ではさっさと立ち去って下さいますか。この場所には私がゲートを張り、人間たちの牧場としますので」

「待て」
 空気が。バチバチと音を立てた。
 フェデリコは振り返る。アルファールが立っていた。

「まだ悪魔がいましたか……」
 天使はため息をつく。
「何か? 不戦協定はご存知でしょうな」

「もちろん知ってるさ」
 アルファールは嗤った。
「あの方のご命令だからね。だからお前たちの薄汚い白い羽根を吹き飛ばすのを我慢していたんだよ。けどさあ……。僕が僕のものと決めた場所に図々しく入り込んでくる間抜けがいたら、それは話が別だよね?」
 ゆっくりと上げた片手の周りで電光が舞う。
「それにさあ。あの方を勝手に追いかけていいのは、僕たち≪ケッツァー≫だけなんだよ……っ!」 

 雷鳴とともに光の束がフェデリコ目がけて飛んだ。
 現れ出た水の壁が天使を守る。水面で電光がいつまでもバチバチと音を立て続ける。
「……やる気ですか」
「当たり前だろう」
 アルファールは華やかに笑った。
「ジュルヌ、どこかへ行ってろ。後で迎えに行く」

「そうは行きませんよ。そちらがその気ならあなた方を倒し、人間も奪わせていただきます」
 フェデリコが傘を構える。
 人気のない山奥で、天使と悪魔が激突した。


●あきらめない
「貴様ら、ここに隠れていろ」
 しばらくワゴンで走って、サーバントの追撃を振り切れないと悟ったジュルヌは人質たちを手近な建物に押し込んだ。山の方ではアルファールが放つ雷鳴が轟いている。
「安心しろ、お前たちはジルガイア家の財産だ。天使などに渡しはしない」
 そう言って彼は建物を出る。風を使った防御陣を張る。ここでサーバントを迎え撃つつもりだ。

 残された人間たちは互いに顔を見合わせた。
 ……このままでは。どちらが勝っても自分たちは天魔に連れ去られる。

 彼らは群馬の人間だ。あの長い長い間、絶望の中で悪魔の圧政の下を生き延びた。
 大切な人を幾人も失った。それでもようやく、自由と希望を持てる生活を取り戻した。
 取り戻した、ばかリなのだ。
「……負けられねぇ」
 一人が呟いた。
「ああ。最後まであがこうね」
 他の者もうなずく。

 打ち捨てられた電話を手に取った。彼らは無力だ。出来ることは少ない。それでも希望にすがる。それだけが自分たちに出来ること。
 助けを求めたくても外に連絡することが出来なかった。誰も自分たちを助けに来てくれなかった。あの日々の辛い記憶がよみがえる。息を殺しながら、生きていた電話線が伝えてくる呼び出し音を聞く。

「……はい。久遠ヶ原学園です」
 電話の向こうから聞こえてきたその声に、彼らは涙した。


リプレイ本文

●危険地帯へ
 山道をグレーのワゴンが走っていく。この先の集落は先日天魔の襲撃を受け、今は無人だ。
「辿り着くトカ、凄くね?」
 ヤナギ・エリューナク(ja0006)は驚いていた。件の悪魔が聞いた桜の情報は、ごく曖昧なものだったはず。バカの執念、またはLUK値恐るべし。

「ケッツァーを惹きつけてやまない彼女……興味あるな」
 桜のことを教えた本人、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)も呟く。別の依頼で出会った悪魔・ロウワンもべリアルに心酔していた。彼女にはどれほどの魅力があるのだろうか。とはいえそれは個人的な興味。
「ま、今は人質奪還が最優先ね」

「人質優先だって知ってるよ! だから頼みに行くんでしょ?」
 その声を聞きつけ、やや唐突に雪室 チルル(ja0220)が言った。
 人質の救出が第一。天魔をまとめてやっつけたいとか言わないで空気読むあたいって大人。(しかし本音を抑えるのに必死)

「こっちの思惑通りに嵌ってくれると嬉しいですね?」
 ハンドルを握る佐藤 としお(ja2489)は改めて今回の作戦と各々の動きを確認する。依頼の目的は人質五名の救助だが、出来れば護衛役の撃退士二名も助けたい。

「けど」
 疑念を呈するのはラファル A ユーティライネン(jb4620)。
「正直、こんな山奥に撃退士が雁首揃えて現れたらどんな頭のあったけぇ悪魔だって俺達が人質を取り返しに来たことくらい気づきそうなもんなんだが」
 隠密作戦で天魔共の目を盗んで人質をかっさらうのか、と思っていた彼女としては実効性に疑問を感じる。が、やると決まったなら文句はない。
「悪魔をだまくらかすことに勝算があるってーんなら、俺に否やは無いぜー」
 ただし交渉が決裂した際は早々にバックれる程度の算段くらいはつけておこう、と華奢な背中をシートに押し付けて思う。

 隣の席の逢見仙也(jc1616)は何も言わない。作戦に沿う様に行動しようと思う。

「それじゃ、これでお互い連絡を取り合って連携を取って行きましょう」
 としおは人数分の光信機を差し出した。現場が山奥なので申請しておいたのだ。
「ちょ、ちょっと待って」
 チルルが慌てた。彼女もさいきょーの気配りで人数分の無線機を申請していたのだ!
 光信機と無線機×人数分……かさばるがまあ、ないよりはあった方が。


 ヤナギが出張所に電話を掛ける。人質とは打ち合わせ済みだが、最終確認だ。
「窓の近くに寄って、俺らの車が近付いたら大袈裟に助けを求めてくれよ?」
「クラクション鳴らすから、それ合図によろしくね」
 ジェンティアンも念を押す。

 悪魔と面識がある二人は変装した。今回は印象を変えておきたい。
 ヤナギは変化の術で髪の色や服を変え、英雄の面具で顔の下半分を覆う。ジェンティアンはかつら(アフロ)を装着し、伊達メガネの代わりにサングラス。……とても怪しい二人になった。


「そろそろですよ」
 カーナビを見てとしおが言う。
 雷鳴が近く聞こえた。


●交渉
 建物近くの路上にはサーバントが集まっていた。刺激しないよう徐行して近付く。クラクションを鳴らすと芝居の開幕だ。
「おーい、助けてくんなぃー」
「天使に襲われてるんですー」
 建物の中で人質たちが騒ぐ。

 サーバントが車に気付き、武器を振り上げる。としおのハンドルワークで攻撃を避け、トカゲたちと単身戦っている悪魔の方へ近付いた。
「おい、悪魔! 一時共闘しないか」
 ヤナギが窓から身を乗り出して叫んだ。普段とは違う口調だ。
「共闘?」
 ジュルヌは怪訝そうに振り向いた。
 撃退士だと名乗ると、物珍しそうな顔をした。撃退士を見るのは初めてなのだ(と思っている)。

「簡単な話だ。全部のサーバントを相手するより俺達もあんたも良いだろ」
 淡々と言うのはジェンティアン。彼も話し方を変えている。
「こちらはその人たちを救いたいだけだ」

 ジュルヌはちょっと考えた。
「つまり、ジルガイア家にお仕えしたいと言うのか?」
「そんなこと言ってないでしょ」
 つい素でツッコんでしまってから、ジェンティアンは立て直す。
「この人達を護るのが先だ。後の事は後で考えればいい」

「スキルでこの場所を守っているみたいだが、無限に使えるわけじゃないだろう?」
 言いながらヤナギは、ジュルヌのスキルの性能をはかるため建物や周囲の様子をそれとなく観察する。
「今のままじゃ膠着状態だし、このままだと何か不測の事態が起こったらお前も主人も困んじゃねー」
 ラファルも援護射撃。

 ジュルヌはもう一度考え込み、
「話を聞こう」
 と言った。『風の護り』の効果が切れた隙に撃退士を中に招き入れ、再び防壁を張る。

 としおは交渉を仲間にまかせ屋上へ上った。準備が整うまでサーバントを見張り、必要なら迎撃する。スナイパーライフルXG1を構えると同時に、近くで雷鳴が響いた。雨粒が小石のように降り注いだが、離れていたためかかすり傷で済んだ。

「分かった。お前たちの奉仕を受けよう」
 割と簡単にジュルヌは共闘を承諾した。
「ではお前たち、トカゲを倒して来い」
「いや、山桜の木を目指す」
 指揮官気取りの悪魔の言葉をジェンティアンは遮った。
「争っている天魔たちも桜の方へは行かないようだしな」

「あそこはアルファール様のお気に入りの場所だ」
 ジュルヌは反対したが。
「足枷抱えて上も下も気にするより良いだろう」
「な、目前の敵さえ倒せば、何でも出来ると思わないか?」
 二人にプッシュされ、結局押し切られた。(押しに弱い?)


 皆で車に乗り込む。 
「あんたはこっちよ」
 悪魔が人質と一緒に乗りこもうとするのをチルルは止めた。
「なぜだ」
「何で? 何でかしら……とにかくこっちよ!」
 強引に引っ張るとジュルヌは結局言うとおりにする。(押しに弱い・確定)
「あんたは空から敵の様子を監視してくれ」
 ジェンティアンが言った。避雷針代わりだ。

 人質たちの乗る白いワゴンの運転席にはジェンティアンが座り、仙也も同乗する。
 最後まで屋上で警戒を続けていたとしおは建物の出っ張りを利用して身軽に地面に降りた。そのままグレーのワゴンの運転席へ。仲間たちも乗車済みだ。
 風の障壁が消えると同時にスタートする。待ち構えていたサーバントたちが襲いかかった。

 仙也は窓から身を乗り出した。アウルで作り出した彗星が群がった敵に降りかかり、二体の動きが鈍くなる。
 その隙に車は県道を走りだす。
 二台は速度を調節し、サーバントを振り切ってしまわないよう気を付けながら進んだ。


 事前に決めておいた場所が近付いたところで、運転席からジェンティアンが顔を出す。
「振り切れないな。敵連れて行って桜が傷つくのは拙くないか?」
 言葉の辻褄が合っていないのは承知の上。ジュルヌを誘導出来れば良い。
「よし、俺たちがサーバントどもを引き受ける」
 ラファルが打ち合わせた言葉を口にし、としおは車を停めた。ジュルヌは困惑する。
「おい、なぜ停まる。あっちの車は行ってしまうぞ?!」
「ここから先に行ったら桜のある場所も戦場になってしまうよ?」
 としおが言った。
「人質が一緒だと不利だぜ。大丈夫、アイツらは桜のところで待ってる」
 ヤナギは片目をつぶって見せる。
「俺たちはあんたをサポートする。トカゲたちを桜に近付けちゃダメなんだろ?」
「それは……そうなんだが」
 去っていく白ワゴンを見る目にまだ迷いがあったが、結局ジュルヌは流された。(押しに弱い) 


●戦闘
 その間にとしおは物陰に、ラファルは風景に同化と、それぞれスキルで気配を消しサーバントを待ち伏せする。
 トカゲたちはすぐに追いついてきた。
「さっさと散れ! 行け、『鎌風』!」
 前に出たジュルヌが腕を振ると、巻き起こる風がサーバントたちを傷つける。ヤナギはその射程、範囲、威力をしっかりと見極めた。
「さあっ、さいきょーのあたいが相手よ!」
 チルルはサーバントたちの真正面に立ち、斬りかかった。
「俺もいるぜ。こっちへ来な」
 ヤナギはニンジャヒーローを使用してリザードマンを引き付ける。

 としおは敵を一度やり過ごし、背後を狙い『アシッドショット』を撃ち込んだ。『腐敗』を与える一撃が敵に大ダメージを与える。
 ラファルの活躍は目ざましかった。光学迷彩の陰から繰り出される『謳技、死閃「プラネッツフォールダウン」』は正に星をも墜とす勢いだ。サーバントが次々に斃される。

「乱戦だな……これでは技が使えん」
 ジュルヌはレイピアを抜き、空からサーバントに切りかかった。
 が、厚い表皮に細い剣は跳ね返される。剣は扱い慣れていない様子。

 気付けば、サーバントは二体に減っていた。リーダー格の一体は無傷だが、もう一体は満身創痍。
 撃退士たちは顔を見合わせた。予定時間より早いが、撤収計画を遂行するにはここらが潮時のようだ。
 チルルが無線機を手に取った。


 一方、天魔を引き離した白いワゴンは順調に山へ向かっていた。
「まだ終わっていません。安心するのは早い」
 ホッとした様子の人質たちを仙也が諫める。ジェンティアンもうなずいた。
「この先の道ってどうなってるのかな」
 普段の口調で尋ねる。負傷した撃退士を救出し、土地勘のある者に裏道を聞いて逃走するつもりだったが。
 当てが外れた。桜より先の道に詳しい者がなかった。
 カーナビには山中深く分け入る道が表示されている。林道かもしれない、と一人が言った。だとしたら群魔事件の余波で整備が行き届いていないかもしれないという。
 だが、他に逃げ道はなさそうだ。

 その時、無線機からチルルの声がした。
『こっちはあと二匹でおしまいよ!』
 どうやらジュルヌの足止めも限界らしい。ここからが計画の山場だ。
 仙也は車から降り、後方の仲間の元へ翼を広げて飛んでいく。
 ジェンティアンは人質と共に先を急ぐ。少しでも早く桜の木のある場所へ。


●落雷
 戦いの最中、空から落ちるように仙也が現れた。胴や足から血を流している。(註:自分でやった)
「何があった?!」
 驚くジュルヌに、
「敵の伏兵に襲撃された……」
 血に汚れた(註:同上)顔を上げ、仙也は息も絶え絶えに言う。
「応戦はしましたが、人質は全員連れ去られて……。追跡も阻まれ……」
 力尽きたようにアスファルトに倒れ込む。大げさになりすぎず、程よい演技だ。

「行ってくれ」
 ヤナギは言った。敵の攻撃を一身に浴びた彼は傷だらけだ。時間を稼ぐため、わざと受けた傷もあった。チルルがこっそり治癒してくれたが、それでもボロボロだ。
「俺はもう戦えそうにないし、な……」

 ここで悪魔には主人の援護に向かってもらい、彼らはその隙に逃走する。
 桜に向かった班も、悪魔が到着する前に負傷した撃退士を回収して山に隠れる。
 それが彼らの計画だったが。

 ジュルヌは負傷した仙也とヤナギをじっと見てから、厳粛に言った。
「私はジルガイア家のため戦った者を見捨てたりはせん。アルファール様なら大丈夫だ、天使が何人来ようが問題になどなさらない。微力ながら我々もここで天使の手先を倒して連れ去られた者たちの弔い合戦としよう。皆死ぬな、エンハンブレに行けば治療してもらえるぞ!」

 全員が対応に困り、表情をこわばらせた。
 こっちの出まかせをあっさり信じてはくれたが……よりによって一番困る方向へ暴走した。この悪魔、意外に熱血だったらしい。

 まずいことになった。このままサーバントを倒してしまったら、彼らの方が敵の本拠へ連行されかねない勢いだ。
 ラファルは戦闘のどさくさにまぎれて姿を消す作戦も考えていたのだが、悪魔がこうも自分たちに興味を持っていると『潜行』の効果も半減してしまう。

 誰もが次の一手に迷った時、みたび雷鳴が山々に谺した。
 空気が電解質を帯びる。風が水滴を運んでくる。天使と悪魔の戦場が近付いてくる。
 
 ちょうどジュルヌの死角にいたチルルは、とっさに武器を和弓に持ち替えた。
 注意をそらすきっかけになればと、飛んでいく黒い翼を広げた影に矢を放つ。
 戦闘に夢中で辺りへの警戒を怠っていたアルファールの脇腹に、その矢はあっさりと命中した。


 アルファールは追跡を止めた。黙ったまま傷をまさぐる。白い指が朱く染まった。
 ゆっくりと彼は地上を見下ろした。その顔が憤怒に歪んでいる。
「いかん、この場を離れろ。すぐにだ!」
 ジュルヌが叫び、その場から全力で離脱した。


「誰だか知らないけど。人が楽しんでいる時に邪魔した対価は高くつくよ」
 アルファールが血に濡れた右手を上げる。指の間をバチバチと電光が走った。
「僕の邪魔をしたヤツ……消えて無くなれ!」

 同時にいくつもの『雷撃』が地上に向けて打ち込まれた。
 圧倒的な光と熱、そして爆音が辺りを覆い尽くした。


 全てが収まった時、そこに立っていたのは半死半生のサーバント一体だけだった。残るサーバントは息絶え、撃退士たちの姿はなかった。
「どうやら痛み分けですな」
 声がした。フェデリコが生き残ったサーバントの横に立っている。
「この辺りで手打ちとしましょうか」
「仕方ないね。残念ながら僕も手持ちの弾を打ち尽くした」
 アルファールは息を整えながら言い捨てた。
「でも忘れるな。べリアル様のためにお前たちを狩る猟犬が、僕たちケッツァーだ」
 フェデリコは肩をすくめ、傷付いたサーバントを連れ立ち去った。

「何てことをなさったのです。骨も残さず吹き飛ばすなど……!」
 ジュルヌは主人に向かい、忠良なる六人の撃退士と無力な人質たちの悲劇の結末を涙ながらに物語ったが。
「ふーん。別にどうでもいい、桜さえ無事なら。それより傷が痛いんだけど」
 元々資源の調達に無関心な主は、あまり興味を示さなかった。


●帰途は遠く
 立ち去る悪魔たちを、撃退士たちは道路下の草むらからこっそり見ていた。
 雷の直撃を受けたとしおとラファルは気絶しており、回復スキルを使ってもすぐには意識を取り戻さなかった。
 しかし残る面々の傷も深く、ジェンティアンに連絡を取って現状を伝えるのが精一杯だった。
 天使が本当にこの地を去ったかもまだ分からない。しばらくこの場で息を潜めるしかなさそうだった。


 ひときわ大きな雷鳴が鳴り響いた時から嫌な予感はしていた。ぐったりした二人の撃退士をワゴンに乗せ、重体の一人に『生命の芽』を使用する。
 ちょうどその時仲間からの知らせを受けた。急いで山に逃げなくてはならない。
 五人の一般人と二人の怪我人を抱え、不確かな地図を頼りに白いワゴンは荒れた山道を走った。


 どちらの班も自力での脱出は出来なかった。
 無線機と光信機で応援を頼み、最終的に人質を含む全員が帰還した。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
 ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
重体: −
面白かった!:6人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト