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マスター:宮沢椿
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2016/03/22


みんなの思い出



オープニング

●逢魔が時の邂逅・1
 少し前だな。夕暮れ時に駅前を歩いていたんだよ。給料日後で人が多かった。
 その時、見覚えがあるヤツを見かけた気がした。両手に本屋の大きな紙袋を持ってた。すぐに人ごみに紛れてしまったけれど、何だか気になってね。

 誰だったっけ……って何日か考えて、もしかしたら葉守じゃないかって気付いて。
 ああ、高二の時、同じクラスだったんだよ。目立たないヤツで、空気とかユーレイとかって言われてたな。いや、友達じゃない。友達はいなかったんじゃないかな。
 正直、顔はうろ覚えだった。髪も赤くなってたし、間違いないかって言われたら自信はないけど。

 アイツ去年の夏に事件起こして逮捕されたはずだろ? だから思い出してすぐに警察に連絡したんだけど。え、死んでるの? ヴァニタス?
 じゃ、俺が見たのは何だったのかな……ホントにユーレイだったりして。


●逢魔が時の邂逅・2
 葉守さんの息子さん。はあ、まあ会ったことはありますけれどね。近所ですから。
 事件の時にマスコミにも聞かれましたけど、何も知らないですよ。そんなに密な付き合いじゃないですしね。息子さんの印象も薄くて。顔も覚えてないですよ。
 え、最近見かけたかって? 逮捕されたんじゃなかったですか?
 ……いや、分からないなあ。言ったでしょう、顔、覚えてないんですよ。

 それにしても、葉守さんも不運ですね。お父さんの方。一昨年、奥さんが亡くなって、去年は息子さんがアレで。年末、ご本人も天魔関係の事件に巻き込まれたんでしょ? それで急に引っ越しちゃったとか……え、まだ引っ越してない? 家を離れてるだけ?
 おかしいなあ。葉守さんの隣りの家の人がね、若い男を見たって。宅配便を受け取ってたって言ってたんですよ。だから新しい人が移って来たのかなって。
 誰も住んでない? 撃退署が定期的に巡回してたから間違いない?
 え……じゃあ、あの話、何なの。


●依頼
「連続行方不明事件……」
 斡旋所職員の越野理沙は、依頼の資料を見て眉をひそめた。アルバイトの女子中学生が帰宅前に出していってくれた関連資料と合わせて眺める。
 
 ある民家の周辺で、次々に失踪事件が起きている。
 場所は、神奈川県川崎市。先日開かれてしまった横浜ゲートの外縁からほど近い。

 家は無人。唯一の住人は年末に起きた天魔関係の事件の被害者で、名を葉守広という。事件の主犯はヴァニタス・葉守庸市。……広の息子だった男だ。
 つまりその場所は、件のヴァニタスがかつて暮らしていたところでもある。

 再びヴァニタスが姿を現す可能性を考え、地元撃退署はその家を見張ってきた。しかし、そこに降ってわいた横浜の事件。地元署も小さな事件に関わっていられなくなった。
 
 そして少し落ち着いてみれば、失踪事件がいくつも周囲で起きていた。
「失踪したのは……電力会社の社員と近所の認知症のおばあさん。付近の配達をしていた宅配業者。計三人」
 声を出して読み上げる。

 そして、ヴァニタスらしき人影を見たという同級生の証言。勿論それだけで、ヴァニタスが犯人だと決まるわけではない。
 新しいゲート周辺も何かと落ち着かない。位置的に、天界の配下が動いている可能性もある。
 天魔には関係ない事件の可能性もある。

 どちらにせよ、目の前にゲートが出来てしまったせいで地元署は手いっぱいだ。天魔関連かどうか分からない案件のために積極的に動けない状態にある。
 だから少数で辺りを探り、そこをハッキリさせてほしい……そんな依頼だ。

 天界も冥魔界も大きく動いている。明日、何が起こるか分からない状況で、これは小さな依頼であるが。
「また被害者が出るかもしれないんだから、受けないわけにもいかないわよね……」
 呟いて、越野は依頼を掲示板に張り出した。


●暗い部屋
 液晶テレビの画面の中を、不気味な姿の深海魚が泳ぐ。大きな口が、小さな魚をひとのみにする。
 悪魔グムルはほほう、と歓声を上げた。
「人間はろくな魔力も持っていないくせに、なかなかやるではないか。どうやってこんな映像を撮ってくるのだ? まあ、この生物たちの面白さに比べたらどうでも良いことだがな」

「そりゃー、深海探査船作ったり、いろいろやってるんだろ? 科学のチカラで」
 葉守庸市は雑な説明をしたが、答えは返ってこなかった。彼の主は映像に夢中である。今の問いは、真実どうでも良いのだろう。
 
 グムルと出会って、約四ヶ月。葉守が理解したところでは、彼の主は『生き物オタク』である。人界の変わった生き物を研究し、それに似せたディアボロを作る。その過程が何より楽しいらしい。
 ヴァニタスになってからの彼の任務の大半が、主の好奇心を満たすためのものだった。端的に言えば、図鑑だのDVDだの、面白い生き物の資料になる物を集めてくるだけである。

「ううむ、実に興味深い。やはり本より実際に動く姿の方が良いな。エンハンブレでもこれを見られたらいいのだが」
「ムリ。あそこ、電気通じてないじゃん。魔力じゃパソコンもテレビも電源が入らないだろ」
 答える声を聞いているのかいないのか。グムルは映像に見入って返事もしない。

 葉守は壁にもたれかかる。自分の手を眺めた。あんなに憧れた撃退士と同じ力を手に入れたはずなのに、実際やっていることと来たら。
「……ただのパシリかよ」
 呟いた声に、反応はなかった。

 主の命には逆らえない。この力を得た時から、それは決められている。
 息をするように自然すぎて葉守はまだその事実に気付いていないが、どんなに不満を募らせても彼には主を裏切る自由はない。
『主である自分の言葉に絶対服従せよ』
 その言葉が、グムルによってヴァニタスとしての存在の根幹に刻み込まれている。だから、忠実なイヌのように葉守は待つことしか出来ない。

 足元に転がる死体を見下ろす。
 子供の頃から知っている隣家の主婦だ。中村さんちのおばさん、といつも呼んでいた。
「気が付いちゃうんだもんな……気が付かなきゃそのままにしておいたのにね」
 唇をゆがめ、酷薄に呟く。

「また殺したのか」
 ようやく死臭に気付き、グムルが振り返った。
「言っただろう。息の根を止めずに連れてこい、と」
「加減が難しいんだよね。すぐ死んじゃうんだよ。それにオッサン、死んでてもいいって言ったじゃん」
「状況が変わった。死体からでは吸魂が出来ん」
 悪魔は言う。
「あの方は生きた人間を集めろとおっしゃっておるのだ。わしも多少は成果を見せんと、趣味にばかり没頭しているわけにもいかなくなる」
 やれやれ、とグムルはため息をつく。
「分かったな? これからは殺してはいかん。吸魂の出来る状態で人間を集めろ」

 血への衝動を内に秘め、殺戮を制限されることにいら立ちながら。
「へえへえ」
 と気のない様子で、葉守はうなずいた。



リプレイ本文

●警察
 事件の詳細を知るため、三人の撃退士が地元の警察署を訪れた。
 ミハイル・エッカート(jb0544)が身分証を見せ、狩野 峰雪(ja0345)が人当たり良く事情を説明する。鈴木悠司(ja0226)は後ろで黙って立っていた。

 悠司は被害者の失踪時間帯について資料を求めた。犯人の行動時間を絞り込みたい。
 失踪場所に血痕があったら、その量で殺されたか、拉致されたかの想像もつく。考えるだけで胸糞が悪いが、確認しておくべきだろう。

 悪魔関連の失踪事件と聞いて、ミハイルは北で体験した別の依頼を思い出した。激化する争いの中、天使も悪魔も人間集めに力を入れだしたのかもしれない。
「ここ最近、関東内で失踪事件は急激に増えていないか?」
 悪魔関連と判明しているかは問わない。アクラシエルの横浜ゲートに対抗し、冥魔はつくばの巨大ゲートに人を送り込んでいるのではないか。

 峰雪は葉守のことを考えていた。
 彼はネット上で活動することが多かったかもしれない。学校に友人がいなかったし、引きこもりだった。前回の事件では動画サイトを利用している。
(警察が過去に家宅捜索した際のパソコンデータを見せてもらおうかな)
 ネット上に友人がいたかもしれない。顔の見えない相手の方が、本音を話せたりもするし。匿名掲示板への書き込みも手掛かりに繋がるかもしれない。
 過去の報告書を読み、気になった。なぜ力を欲しがるのか。撃退士になりたかった理由。母親の人柄。人間だった時に犯罪に走った切っ掛け。そして血を求めるようになった理由。
 記録のどこかに、その答えがあるかもしれない。


 しばらくして調査結果が出る。
 事件は昼前から夕方少し前、住宅地が閑散とする時間に起きているようだ。血痕は見つかっていない。
 失踪についての通報は関東全域で増加している。だが名のある天魔が次々にゲートを開いたことで、怯えて関東を逃げ出していく人々がいるらしい。近所への挨拶も役所への届出もしないので実態は不明。警察もまだ混乱しており、正確な状況がつかめていない。
 ネット関係では、葉守の学生時代のことが判った。
 大学時代、彼は撃退士応援のサイトを作って精力的に活動していた。だが就職失敗に続き母の死を経て、サイト更新は止まった。ネットの知人との交流はそこで途切れた。
「撃退士に憧れを持つということは、過去に自身か近しい人間が助けられたことがあったのかな」
 峰雪は聞いてみたが、警察にもデータはなかった。


●親族
(葉守さんはヴァニタス……でも心は人のまま、人として考え行動してる)
 華澄・エルシャン・ジョーカー(jb6365)は、黒く染めた髪を指に絡めた。
 力だけは冥魔のそれ。けれど。
(倒すにしろ……人としての葉守さんを知り、寄り添わずに事件は終息しない)

 彼女は他県に住む葉守の叔母を訪問した。
「失礼ですが、葉守さんが『家庭の事情』とおっしゃったのが気がかりで……」
 葉守が撃退士に憧れたきっかけや、家族関係について質問してみる。
 頻繁に行き来していたわけではない、と叔母は前置きした。夫にもう少し庸市を構ってほしい、と義姉は言っていたそうだ。
「兄は仕事人間だったので。『傍観』ですか……庸市はそう感じていたのかもしれないですね」
 言葉の間にため息が混じる。
「義姉は控えめな人でした。庸市のことは『優しくて控えめだから損をする、もっと皆に分かってもらいたい』と言っていましたね。庸市は母親想いでしたよ。母子仲は良かったです」
 天魔事件との関わりや自宅周りの不審な気配、庸市の思い入れのある場所については、離れて暮らしているので分からないとのことだった。

 華澄は葉守の従弟にも話を聞いた。彼も、最近のことはよく知らないと言った。
 庸市の得意なことを聞く。
「うーん。遊んだ後の片付けを一人でしてくれたりしてたかな……得意とは違うかもしれないけれど」
 撃退士について何か話していたかと聞いた時、はっきりと答えが返ってきた。
「通学の途中で天魔事件を見たことあるって。いや、戦いは終わった後だったらしいけど。撃退士は血まみれで喝采を受けてて、やられた天魔はグチャグチャで凄かったって。それから憧れてたみたい」


●家の周辺
 葉守がどんな力を求めヴァニタスとなったか。ロジー・ビィ(jb6232)もそれを気にかけていた。
(彼の悲鳴に……気付けますように)

 まずは宅配業者を調べる。本なら自身で調達していたらしい目撃談もある。『わざわざ』宅配を使った理由を知りたい。
 運良く二軒目に訪れた業者で情報を得ることが出来た。
 送り主は大手通販会社。中身は本やDVD。一度だけDIY用品を買っている。品名は記録にない。配達は年明け後から定期的にある。

 移動しようとして、時間短縮に翼を広げようとした。その時『天使が襲って来たら』と言う誰かの声が耳に入った。
 ここは横浜ゲートの外縁にほど近い。騒ぎにならないよう、ロジーは移動方法を目立たないものに切り替えた。

 電力会社では葉守家の電力の使用状況を調べる。自動検針装置が設置されていたので正確なデータが手に入った。
 無人のはずの家で、年明けから月二回ほどのペースで電気が使われていた。メモを確認すると宅配の配送日と重複していた。
 思いついて悠司に連絡をとる。失踪事件の発生日とも一致した。


「正義の味方になりたかった……か」
 以前、葉守が漏らした言葉を、浪風 悠人(ja3452)は呟いた。
 彼は町内会長を訪問した。この辺りは住民の出入りが激しい。会長も葉守家のことをよくは知らなかった。
「奥さんは、町内会の当番をしっかりやってくれていましたよ。評判の良い方でした」
 葉守家と親しい人間を尋ねると、少し考えてから一軒の家を紹介してくれた。

 母親とは友人だったがご家族はよく知らない、と前置きしてからその女性は悠人の質問に答えた。
 失踪した住人とは親しくはなかったと思う。誰とでも無難に接するが、深い付き合いは少ない人だった。息子さんのことを心配していた。
 息子さんが急に撃退士に興味を持った時は、葉守の母も驚いていた。


●家宅捜索
 警察を出たミハイルは葉守家へ向かった。警察では鍵を管理していなかったのでスキルで開錠する。
 一連の事件の犯人は葉守だろう。ディアボロの材料集めに人を殺して回っているのではないか。ならば、この家に死体を置いたことはないだろうか。
 居間に入って唖然とした。炬燵の上に、清涼飲料水の空き缶や菓子の袋、弁当の箱などが散乱していた。もし夏だったら大変なことになっていただろう。それほど古くない。確かに何者かがここに出入りしている。
 台所の隅に真新しいブルーシートが無造作に畳んであった。黒い髪の毛が数本と、甘酸っぱい独特の臭気が残っている。……後は警察の仕事だ。
 彼が調査を終えた頃、悠人と華澄が現れた。家の捜索を引き継ぎ、ミハイルは次の場所へ向かう。

 悠人は居間にあったアルバムを開いた。母親と庸市の写真が多く、父親の姿は少ない。
 居間のゴミの間に道路地図があるのを華澄は目に留めた。つくば市西南郊のページが開いていた。

 庸市の部屋では、悠人が卒業アルバムや作文を、華澄は手紙類を調べたが、成果はなかった。華澄は日記を探したが、葉守に日記をつける習慣はなかったようだ。パソコンも調べたかったが、警察が押収していた。
 悠人は抽斗の中から書きかけの履歴書を見つけた。庸市の経歴が記してある。地元の中学からそこそこの公立校、そこそこの私立大学。そして無職になったようだ。

 華澄は屋根裏から納戸まで徹底捜索した。広の部屋の仏壇を眺める。中に位牌はなかったが、花が無造作に活けてあった。枯れ具合から、そう古い物ではなさそうだ。
 足下に小さなカフスボタンが転がっていた。炎で出来た翼を持ったグリフォンが刻印されていた。


●周辺・2
 峰雪は葉守の幼馴染の家を訪れた。
「庸市ですか。子供の時は遊んだけど……」
 誰とでも話すけれど特別に仲のいい相手がいない子供。成長に従い、何となく集団の輪の中から外れて行った。そんな感じだったという。
 葉守の母は優しい人で、親子仲も良さそうだった、と話した。

 悠司は失踪者の親族に話を聞いて回った。不審な電力使用の確認に行った電力会社の社員と、配達中に消えた宅配業者は除外する。
「後は……認知症の婆さんの家族に聞いてみるか」
 認知症であるならば一人で居るのは少し不自然だと感じた。
 娘が面倒を看ていたそうだが、体は強壮な老女は隙を見てひとりで外出してしまったらしい。家は葉守家の目と鼻の先だった。

 ミハイルは近所の大きな書店に向かった。目撃者の話にあった店だ。
 葉守の特徴と目撃された日にちを伝え、売上明細を調べてもらう。何を大量に買ったのか知りたかった。
 記録にあったのは子供向けの図鑑やDVD、理系の専門書。全てが生物に関する物だった。
 動物といえば……葉守が連れていた妙にリアルなカンガルー型ディアボロが思い出された。


●逢魔が時の邂逅・3
 薄暗くなってきた頃、葉守家に集まり全員で情報交換をする。
 退去しようとするときになって、鍵がないことに気付いた。無人の家とはいえ開けたままには出来ない。
 玄関先でどうしようかと首をひねっていた時。
「アンタら何やってんの。人の家の前で」
 薄暗がりに声が響いた。

 家路をたどる学生たち、買い物袋を持って歩く主婦、自転車に小さな子供を乗せて走る母親。そんな当たり前の風景の中に、赤い髪の鬼がいた。

「知った顔が多いな」
 葉守庸市は顔をしかめた。
「見つかっちゃったか。もう使えないな、ここ」
 
 姿を現したことがダメ押しだ。犯人は彼だろう。捕えるべきか、撃退士たちは迷った。ここで戦闘になれば周りに被害が及ぶ。
 それを読んだかのように、ヴァニタスは嗤った。
「戦闘とかやめようよ。俺、弱いからさ。その代わり、何か知りたいんなら教えてやるぜ? 一人ひとつな」
 本当のことを言うか保証しないけど。そう嘯く。
 撃退士たちは目を見かわす。今回の依頼は調査だ。向こうが素直に退き、情報もくれると言うなら……条件を呑もう。

「葉守くん、初めまして」
 峰雪が前に進み出た。
「なぜこの家に、いまだに出入りしているのかな。この家に思い出とか愛着があるのかな。それともゲートに近くて獲物を運ぶのに便利だから……とかかな?」

「意味なんかないよ」
 葉守は顔をゆがめる。
「通販の注文に住所が要るだろ? ここなら勝手分かるし。でも今度からコンビニ受取りだな、めんどくせー。はい次」

「じゃあ俺だ」
 ミハイルが前に出る。
「死体集めの次は大量の生物図鑑やDVDを集め、お使いは大変だ。お前の主は動物ディアボロが好きらしいな。最近、別の悪魔が生きた人間を集めていた。悪魔のエネルギーは人の魂だからな」
 揶揄するように言いながら、失踪者たちの写真を見せる。
「お前の主は死体を集めたいのか、生者を集めたいのか、どっちだ?」

「別にどっちでもいいみたいだけど」
 葉守は興味なさそうに答える。
「偉い人が生きたまま集めろって言ってるらしいぜ。遠くから見たけど、えれー美女だったよ」

 次、と促されて悠司が代わった。
「悪魔の配下になって得た力は如何? まあ、所詮アンタもどっかの悪魔に貰っただけの、見せかけの力を得ただけだろ。強い主様だと良いね。アンタの主様が」
「何ソレ」
 葉守の声が苛立ちを帯びた。
「力に見せかけも本物もあるかよ。俺はもう無力じゃない、アンタたちと同じように力がある。それで十分だろ。次!」

「葉守さん」
 声が響く。長い黒髪を、葉守はじっと見る。
「あれ……アンタ金髪じゃなかった?」
 華澄は答えず、質問だけを口にした。
「あなたの仕事はつくば市のゲートに関係ある? 大きな仕事に関わって新参なのにすごいわね。もしそうならそちらへ向かうためにこの近辺から離れなきゃいけなくなるかもね。心残りはないの?」

「心残り……ないよ。こんな町、嫌いだ」
 葉守は吐き捨てるように言い、次、と言った。

「俺のこと、覚えてますか」
 丁寧だが冷ややかな口調で彼の前に立ったのは悠人だった。
「一つ質問をよろしいでしょうか。念願の力を手に入れましたが、それは何処のなんていう名の悪魔から頂きましたか?」

「何だよ。メガネくん、前と態度違わない?」
 葉守が挑発するが悠人は相手にしない。葉守は肩をすくめた。
「ええと、オッサンの名前ね。グムル。ディアボロ作りだけが生き甲斐のオタクだよ。正直キモイ」
 返答を聞き、悠人はうなずいた。
「その主がどの程度の悪魔かは知りませんが、その力が本当に貴方が欲しかった力なのか……いえ失礼」
 そのまま下がる。
「どういう意味だ!」
 葉守は気色ばんだが、代わって白く細い影が立つ。

「力が欲しいのか、血を求めるのか。それは全く以って非なるもの……」
 ロジーの凛とした声が響く。
「それでもそれを顕示する理由は何ですの?」

「理由とかないよ」
 葉守は厭そうに言った。
「力は誇るものだろ? アンタたち天使だって、ゲート開いて好きにやってるじゃん。力のある者は弱いものを好きに出来る。そういうもんだろ」

 葉守はひとつ息をつき、くるりと背を向けた。
「じゃ、俺行くわ。鍵、植木鉢の下にあるから。入るんならソレ使って。あ、後ろから襲うのはナシな」
「そっちも一般人に手を出すなよ」
 ミハイルが答え、そして付け加えた。
「生き方が不器用だな。待てば覚醒したかもしれないぜ、俺の覚醒は二十七歳だった」

 葉守は一度振り返って、陰鬱に答えた。
「周りが待ってくれねーんだよ。人生にはタイムリミットがあるんだ」
 後ろ手に軽く手を振って、鬼は夕暮れの人ごみに消えた。


●力の意味
 その少し後。仲間たちと離れて、悠司は煙草を吸っていた。その傍に白い影が近付く。
 悠司は顔を上げて彼女を見た。彼女は知人……いや、友人。そして『本当』の天使と感じる相手。
「ロジーさん。……俺は力が欲しい」
 力を得る事が本当に出来るのならば、見せかけだとしてもそれを得たい。
 だから知りたかった。葉守が力を得たことを、どう思っているのか。
「ロジーさんは、力を、如何思う……?」

 ロジーはすぐには答えなかった。暗くなった道端で、街灯の下に立つ彼をじっと見た。
 以前の陽気な彼とは別人のようになっても、悠司は悠司だ。彼女の寄せる想いは変わらない。
「心の……魂の……悲痛な叫び、かもしれません」
 彼女は痛まし気に言った。
「力を以ってしか、届かない叫び……。それは……あたしにとってはとても哀しいこと……ですわ」

 返るのは沈黙。彼女も何も言うことなく、バッグから出した煙草に火をつけた。
 二筋の紫煙が薄暗闇の中、ぼんやりと天を指し昇っていった。



依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: Eternal Wing・ミハイル・エッカート(jb0544)
 愛する者・華澄・エルシャン・御影(jb6365)
重体: −
面白かった!:3人

撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
ロジー・ビィ(jb6232)

大学部8年6組 女 ルインズブレイド
愛する者・
華澄・エルシャン・御影(jb6365)

卒業 女 ルインズブレイド