●各々の決戦前
「そういえば、大学部に浮気癖のあるプレイボーイが居ると聞いたのだが知らないか?」
鳳 静矢(
ja3856)は歩美の依頼を受けることを決め、証拠集めた。
「大学部?あーアイツだろ?田村透」
それとなく聞いて回ると簡単に話を聞くことが出来た。そして出てくる浮気の証拠の数々。
チュープリクラなどを手に入れて鳳は既婚者として、男として考える。
浮気などする男は‥‥許せんな‥‥。
一方、宮本明音(
ja5435)は歩美に話しかけた。
「あぁ、今回依頼受けてくれた人なのね」
歩美は宮本にジュースを渡してベンチへと並んで座った。
「えーっと参考に聞いておきたいのですが、なんて言われて別れたのですか?」
「あの男、気の強い女は嫌いだとかいって冷却期間を置こうって。その矢先に、今回の結婚式よ?冷却期間じゃないじゃない!大体透は‥‥ぶつぶつ」
歩美はどうやら話し始めると止まらないらしい。
まぁ、後学とかの為に?と苦笑しながらも宮本は話に相槌を打った。
聞きながら、私は歩美さんとヒナさんが笑顔ならそれでいいんですよね‥‥と思った。
とにかくそれが最大目標!
透さんは、まぁ次の次の次くらいで‥‥あ、与一さん透さん側に行くって言ってましたっけ。
そんな宮本の思いを知ってか知らずか、字見 与一(
ja6541)はグラディウスと魔法書、そしてぴこぴこハンマーを用意していた。
「一度やってみたかったんだよね」
そういいながらふと横を見るとガラスに映る自分の顔。ニヤリと悪そうな顔を作る。
何をやろうというのか、宇見が何故悪そうな顔を練習しているのか?
全ては決戦当日のため!
「総統殿!会場のボーイの服が手に入ったのでござる!証拠写真も手に入れたでござる!」
「でかしたのだわ!『しっと団』暗躍の時は近いのだわ!」
虎綱・ガーフィールド(
ja3547)と天道 花梨(
ja4264)はぬいぐるみクラブ‥‥と表向きには登録されたしっと団にて作戦会議を開いた。
しっと団とはカップル撲滅を掲げて学園内にバカ騒ぎを起こすモテない撃退士による特殊テロ組織であるっ!
「二股をかけるような男は許すまじ!爆!破!粉!砕!」
「おー!」
事前に極秘にヒナに接触する予定だったが、一足先に実家に戻っており失敗に終わった。
しかし想定の範囲内。慌てることはない。
神埼 葵(
ja8100)は礼服をチェックした。
3人とも幸せに、なんて都合の良い展開は難しいってわかってるけど‥‥。
それでもすべてが上手く道はないのか。
ギリギリまで道を模索する。それが神埼に今出来ることだった。
斡旋所の依頼を見てラインハルト・フェバーライト(
ja7207)は考える。
どっちが悪いって問題でもなかろう。そんなことで他人の幸せを邪魔するなんて迷惑なやつだな。
そもそも自分が浮気されたからといって、わざわざ友人の結婚式で暴露しようとするのが気に食わん。
それを友人のためなどといってるのが、余計に気に障る。
ラインハルトは透の依頼を受けることにした。だが、思うところがないではなかった。
「どれにしようかしら?」
青木 凛子(
ja5657)は結婚式に着ていく服を選びながら思う。
両方の依頼を同時に受けたからこそ、第三の選択肢を選べないかしら。
花嫁さんに答えを出させてあげたいわ。
そして、この青のドレスか赤のドレスどちらにしようか‥‥。
それぞれの思惑をはらみつつ、結婚式の当日はやってきた。
●決戦の主役
結婚式場はこじんまりとしたチャペルで、庭が併設されていた。
庭ではガーデンパーティーの用意がされている。
まだ列席者もまばらな2時間ほど前に、ゴスロリ服の天道とボーイの姿の虎綱は透の控え室へと潜入した。
「誰だ!?」
「依頼により参上致した。若輩では御座るが良しなに」
虎綱の言葉に透は胸を撫で下ろした。だいぶ緊張しているようだった。
「浮気は本当のことなのかしら?」
10歳の天道からはっきりと聞かれ、「あ、まぁ‥‥ね」と動揺して本音が出てしまう。
「では、歩美殿に邪魔される心当たりがある、と?」
「心当たりがあるからって、そんな事するヤツの方が悪いだろ!?」
反省の色なしなのだわ。
天道は虎綱を見てコクリと頷くと、虎綱はすばやく透の鳩尾に1発食らわせた。
透はその場に崩れ落ちて気を失った。
赤いミニドレスを着た人影がチャペルへと歩いてくる。
「渡辺歩美さんですね?」
鳳がそう話しかると、歩美はぴたりとその足を止めた。
「そうだけど‥‥何?」
鳳の隣には神埼、そして木陰にラインハルトが歩美の動向を探っている。
鳳はまず、自分達が依頼を引き受けたことを伝えると次のように続けた。
「本当に相手が可哀想と思うなら、乱入する前に新婦には伝えておかないとそれこそ可哀想ではないか?」
「それは‥‥まぁ、一理あるわね。でも私花嫁と面識ないのよ。突然行って話したところで信じてもらえるかどうか」
そんなことを口にした時、どこからともなく虎綱がささっと現れた。周辺の警戒と称し、歩美を探していたようだ。
「その件に関しては我々が現在手はずを整えておるゆえ、ご安心を。何はともあれ、チャペルでの暴露は難しいでござる。今しばらく時間を下され」
虎綱の言葉を補足するように、神埼は歩美に言う。
「これは前園さんと田村さんの問題です。貴方が泥をかぶる必要は無いんですよ。ここで大事になれば、前園さんだって困ると思うんです。知らなかったとしても、その浮気男を結婚相手に選んだのは彼女だから」
「‥‥‥‥」
その言葉に歩美は考え込んでしまった。
心境の変化があればそれもよし。だがラインハルトは、まだ歩美への警戒を解こうとは思わなかった。
トントンと、ドアが叩かれた。
「はい、どうぞ」
聞こえた可愛らしい声に、2人はささっと花嫁の控え室へと潜入した。
「えーっと?透さんのお知り合いですか?」
予想に反して花嫁は和服を身に纏っていた。
「あ、いえ!そうじゃなくて、あの‥‥り、凛子さぁん」
説明に詰まった宮本は青いドレスも煌びやかな青木に助けを求めた。
青木はよしよしと宮本を慰めてから花嫁、ヒナに向かった。
「結婚式当日に野暮な話でごめんなさい。実は‥‥」
青木は淡々と依頼の件、そして浮気の件をヒナに話した。宮本はハラハラと2人を交互に見比べる。
「それは、本当のことなのでしょうか?」
「残念だけれど浮気癖があったことは本当みたいね。証拠がほしいのなら見せることも可能だけど?」
その言葉に、ヒナは首を横に振る。
「いいえ、あなた方が私に嘘をつく必要はありません。本当なのでしょう」
消え入りそうなヒナの言葉。宮本はその心痛を思い計ると胸が張り裂けそうだった。
「結婚するのは貴女だわ。彼の本性を知った上で、挙式するかどうか、貴女が決めるのが良いと思うの」
そして青木は告げた。
「今日は大事な人たちが来ているんでしょう‥‥?集まっている方たちには気づかれないように、一芝居打とうと思うの」
●邂逅、そして
「チャペルのガーデンの隅に道具小屋があります」
そう言ったのは他ならぬヒナだった。
青木と宮本はこっそりとヒナをその道具小屋まで連れ出した。
行った先には「待ちくたびれましたよ」と宇見が疲れた顔で待っていた。
「はっ!いけない。怖い顔、怖い顔」
虎綱は不意に顔を上げた。
「何か動きが合ったようでござるな。自分、行くでござる!」
「え?なに?」
歩美がきょとんとした顔で鳳に尋ねた。鳳は「始まったか」と小さく呟いた。
ラインハルトも動き出した。
「花嫁が逃げ出したようです。追いましょうか?」
神埼がそう言うと、歩美は訳がわからないまま頷いた。
「透さん、起きるのよ!花嫁が誘拐されたのだわ!!」
控え室で失神していた透を起こしたのは天道だった。
虎綱も駆けつけ、2人で透を担ぎ起こす。
「あ、あれ?俺なんで寝て‥‥?」
「そんなことはどうでもいいのよ!花嫁が誘拐されたといっているのだわ!」
「ホシの目処はついて御座るか?そなたが行かんで誰が行く!早く!」
まだぼんやりとする透を引きずり、ガーデンへと歩き出す。
彼らは外に出ると外から鍵をかけた。列席者への配慮である。
「さて、役者が揃ったわね」
青木がそう言うと宇見はヒナにグラディウスを突きつけた。
「おっと、どうか抵抗しないでいただきたい。ついうっかり、『手元が狂ってしまう』やもしれませんので‥‥」
「な、何これ!?」
驚きの声を上げる歩美。
「ヒナ!?」
「動かないでいただこう。この位置ならばそなたが動くより早く終わるぞ」
ヒナに駆け寄ろうとする透を虎綱が首元に金属を当てて制止した。もっともその金属はスプーンだったが。
「お、お前らグルか!?歩美とグルになってヒナを‥‥!」
「グルとは人聞きが悪いのだわ。私達は私達の考えによって動いているのだわ‥‥なぜなら私達は、しっと団なの!」
「ていうか!透!私は花嫁の誘拐なんてしてないわよ!?」
憤慨する歩美を鳳と神埼はなだめた。
「あの、すいません。一応人質取ってるので皆さん動かないで‥‥あ、悪い顔悪い顔」
宇見はそう言うとなんとか悪そうな顔をして「くけけけけ」と笑った。あの努力はこの時のためだったようだ。
「さて、歩美さん。言いたいことがあるのだろう?」
「え?こ、ここで!?」
鳳に促され、歩美は少々戸惑ったものの決意を新たにヒナを見つめた。
「あのね、あなた二股されてたのよ。浮気相手は‥‥私よ!」
ヒナは青木からすでに話を聞いていたとはいえ、辛そうだった。
「‥‥実は、歩美さんの言い分だけでは無く、こういう物もあってね」
鳳が証拠を出そうとしたが、ヒナはそれを拒否した。
「見たくありません」
「‥‥それでもヒナさんは透さんと結婚して一緒になりたいだろうか?」
●粛清!?
鳳の言葉にヒナは深く息を吸い込むとはっきりと言った。
事の成り行きを見守っていた宮本も、ラインハルトもそれは予想せぬ答えだったと思う。
「私は透さんと結婚します。ですがここまで多くの人を巻き込み、事を大きくしてしまった以上、日本男児としてケジメをつけるべきかと思います」
「ちょ、待て、ヒナ!俺が悪かった!歩美とは終わってるんだ!」
「歩美さんの中ではまだ終わっていなかったから、このような事態が起きたのです。透さん、私と結婚するのであれば覚悟を決めてください」
まさかの花嫁から断罪宣言。
いそいそと天道がぴこぴこハンマーやハリセン、ビニールバットを配りだす。
と、鳳が釘バットを用意している。
「りゅ、流血沙汰は可哀想だと思うのだわっ!」
焦った天道に鳳はしばし釘バットを見つめたが、あっさりと仕舞った。
「では代わりにぴこぴこハンマーを貰おう」
過度な暴力はダメなのだわ‥‥「って何で私がこんな役をっ!?」天道は思わず我に返ってしまった。
『結婚式での暴露』は防いだ。
これで透の依頼は成功というわけだ。ラインハルトは天道から受け取ったハリセンを持ったまま壁にもたれた。
粛清に加担するつもりはない。だが、やりすぎは止める必要があるだろう。
「くけけけけ、悪に天罰を!」
悪い顔で宇見はそう言うとぴこぴこハンマーをピコピコ言わせる。
「明音ちゃん、本当のいい男っていうのは女に涙を流させたりしないものなのよ」
「そういうものなんですか?あー、私がいうのもなんですが‥‥南無」
ビニールバット片手に青木は宮本にそう諭し、宮本は透に合掌した。
「顔はやめておくで御座るよー」
虎綱の顔はにこやかだが、どこか鬼気迫るものを感じる。
最後に、歩美を見れば手に持ったハリセンをじっと眺めて憂鬱そうだ。
透は全ての元凶が自分だと認識した。
「‥‥‥‥」
透は正座すると、目を瞑った。
「これが!某の!個人的な恨みだ!」
虎綱の獲物が透目掛けて振り下ろされ‥‥
「君達は、どうしてそうっ、す、すぐに暴力に訴えようとするんだ‥‥!」
それを止めたのは、今まで成り行きを見守っていた神崎であった。
●幸せに爆発しろ
「もうその位にしておいてくれないかな。俺達の仕事は彼を殴る事じゃないだろう。それに‥‥」
神埼はヒナと歩美を見た。
「お仕置きをする権利があるのは、前園さんと渡辺さんだけだと思うんだ」
そう言われ、歩美は困惑顔で小さく呟いた。
「私に、透を殴る資格なんかないわ。ヒナさんが許すのならそれでいいわ」
一方、ヒナは歩美を見たあと透を見た。
「歩美さんにその意思がないのであれば、私からは何も申しません」
神埼は透の前に屈んだ。
「自分の決めた事には、責任を持ってください‥‥幸せにして、幸せになってくださいね」
「わかった。2度と浮気はしない」
透は神埼の言葉を重く重く受け止めた。
「皆様、式に列席していただけませんか?」
小屋を出たヒナはにっこりとそう誘った。
「あら、いいの?」
青木がそう言うと「はい」とヒナは微笑んだ。
「依頼の件だが‥‥俺が悪いのはわかってるが、減額することを許してくれ」
透はこそっと神埼に呟いた。
「歩美さんはしっと団に入るといいのだわ。このしっ闘士の血を引く私が見込むのだから‥‥一緒に戦いましょう!」
「総統殿の言うとおりでござる。拙者たちは同士でござる」
「か、考えておくわ」と言葉を濁した歩美に、天道はコソッと付け加えた。
「しっと団に関わるとリア充になったり、新しい出会いがあるというジンクスがあるのだわ」
「!?」
歩美と天道はグッと硬い握手を交わした。
「総統殿、我らも引き上げるでござる。‥‥我らには縁遠いことだからこそ、恋人たちに幸多からんことを」
虎綱と天道はどこへともなく去っていった。
「きみは帰るのか?」
ラインハルトが言うと歩美は頷いた。
「依頼は成功よ。お幸せに」
「あ‥‥ご結婚おめでとうございますっ。では私は別件あるので!」
歩美を追うように宮本が慌てて頭を下げて式場を後にした。
「これで大団円、と。とりあえずは一安心ですね」
宇見はそう言うと頬をグニグニとほぐした。
「あれ?顔が戻らない‥‥」
そんな宇見を横目に、鳳はヒナに訊ねた。
「余興をやりたいのだが、飛び入りでもかまわないだろうか?」
「かまいません。むしろ皆喜びます」
「そうか。ならば‥‥」
ぴこぴこハンマーを後ろ手に鳳はにっこりと笑った。
「大丈夫ですか?歩美さん」
歩美に追いついた宮本は心配げにそう聞いた。
「大丈夫よ。あなた達に頼んでよかった」
「それならよかったです。どうですか?これからご飯でも一緒に‥‥って何かついてますよ?」
「え?」
宮本が歩美の後ろについていた紙を剥がして見ると‥‥
『私は友人の幸せより自己満足を優先する女です』
「何これー!いつから!?」
自己満足のために、友人の幸せを邪魔しようとしたのだから罰を受けるのは当然であろう?
歩美の背後に紙を貼った犯人は式に参加しながら、そう微笑んだ。