●ティラノサウルス(以下、REX!)
「恐竜ハンティングか、うんうん、たくさんとれるといいっすけどね」
虎牙 こうき(
ja0879)はそう言うと、茂る緑に囲まれた空を見上げた。‥‥明らかに鳥じゃないものが飛んでいる。
「この世界はいったい?いや、興味は尽きぬところですが、今はひと狩りいこうと致しましょう」
好奇心よりもまずは食料調達。グラン(
ja1111)はそういうと地形の探索を始めた。
「恐竜は得意分野です、任せてください!」
ソリテア(
ja4139)は青いツインテールを揺らしてにっこりと笑い、それぞれの恐竜の特徴を解説し始めた。
「まず1番小さいシノサウロプテリクス。羽毛の痕跡を残した状態で発見された初めての恐竜といわれ、恐竜が鳥類に進化した有力な証拠のひとつとされています。ですが、彼らの羽毛は飛ぶためのものではありません。次にフクイラプトル。日本で発見され命名された恐竜で、アロサウルスの仲間だといわれています。イグアノドンは通常は4足歩行で走るときだけ2足だったと言われています。特徴としては前足の大きな親指です。そして恐竜という言葉がない時代に初めて研究された恐竜です。ティラノサウルスは有名ですね。俗称T−REX。頭部が異様に大きいです。巨体でそれにふさわしい後肢とかぎ爪を持っていましたが、前肢が極端に小さいのです」
解説し終えたソリテアにイアン・J・アルビス(
ja0084)は「ありがとうございます」と小さく頭を下げた。
「今日の夕食となるわけです。確実に行きましょ‥‥」
イアンが全てを言い終える前にガバッと立ち上がった少女が居た。
「やっぱりREX狙いさー!美味い!強い!言うことなしだぞ」
やや興奮気味に与那覇 アリサ(
ja0057)そう言うと、「楽しみさー!」と雄たけびを上げた。
「REXのうまうまお肉を食べるのですよ〜」
おーっ!とキラキラと目を輝かせたRehni Nam(
ja5283)。彼女の瞳に映るのはすでに料理になったREXである。
「わかりました。ならば1頭ですむREX狙いでいきましょう。でも、どうやって仕留めますか?」
「落とし穴にはめましょう。トラップツールを持ってきました」
イアンの言葉に、ソリテアはそう返した。
「落とし穴っすか‥‥どこにどうやって掘るっすか?」
何気なくやり取りを聞いていた虎牙はそう質問した。
「地形は今簡単ですが、私が調べてきました。あちらに崖下の行き止まりがありました。窪地になっていて程よくぬかるんでいます」
地形探索から戻ったグランは「あとは掘る方法ですか」と考え込んだ。
「罠だって作るならいいものを、です」
イアンはそう言ってアイアンシールドをおもむろに取り出した。
「?それ、どうするっすか?」
「スコップの代わりにこれで掘ります。狩りに妥協は許されません」
「あ!待ってください!まず私にやらせてください。それでダメなら私も盾で一緒に掘ります。グランさん、案内お願いしていいですか?」
Rehniの言葉に、グランは頷くと先を歩き始めた。その後を与那覇たちも追った。
グランが見つけた場所は、確かに恐竜1匹追い込むのには最適な場所に思えた。
「では、試してみます」
Rehniがふぅっと息を吐き、武器にアウルを集中させていく。すると、その形状は見る見るうちにある調理道具そっくりになった。
「お、おたまさー‥‥」
「てぇい!」
目を丸くする一同を背に、Rehniは思いっきりそれを振り下ろした!
カーン‥‥
響き渡る音。澄み渡る空。えぐれる大地。
「やれば出来るものなのですね」
ソリテアが感心した。見事なまでに落とし穴はRehniの一撃で完成した。
「見事です。Rehniさん。ではトラップを仕掛けて落とし穴をカモフラージュしましょう。その後はREX探しです」
満足そうに頷くと、イアンは草や木の枝を集め始めた。
「‥‥そういえば、2人ほど足りないっすね?」
2人とは一騎 イェーガー(
ja1796)とレナ(
ja5022)の事だ。
虎牙が草を採取しながら辺りを見回すと、Rehniは言った。
「だいぶ前に2人して『競争だ!』って走っていきました。私もちょっと合流してきますね」
そう言うとRehniは別れた。
「REXの前に、ノルマを達成しておくのです」
●シノサウロプテリクス(以下、シノ!)
「レナ、おいらと勝負だ」
「負っけないのだー!ガンガンいくのだ!シノサウロプテリクスをいっぱい狩るのだ!追いかけるのだー!」
森の中を疾走する一騎とレナ。その先には逃げ回るシノ2匹。2匹は反撃を狙うものの迫り来る一騎とレナに混乱している模様だ。
「レナちゃん、マジ一騎に負けないのだー!」
すでに一騎は3匹、レナも2匹と接戦を繰り広げる2人だったが、実際のところレナはシノを倒すよりも追いかけるのが楽しくてたまらない。
いや、一騎と一緒に駆け回っているから楽しいのかもしれない。
「一騎、もっともっとなのだ!ニンジャは恐竜も狩って食べるのが基本なのだ!」
レナの言葉に一騎は満面の笑みで「おう!」と答えた。
その時、「一騎さん!レナさん!こちらです」と一騎たちを呼ぶ声が聞こえた。
はるか左前方に微かにRehniの声が聞こえる。
「そういやRehniが罠を仕掛けるって言ってたな。レナ!行こう!」
「わかったのだ!」
2人は息もぴったりにシノをRehniがいると思われる方向へと追い込み始めた。
「レナちゃん!ニンジャなのだ!いくのだ!アウルの力でニンジャダッシュー!」
前方にRehniを捕らえ、ぎりぎりまでシノを追い詰めると2人は急ブレーキをかけた。と、同時にRehniはぐいっと縄を引っ張った。足を引っ掛ける単純な仕掛けだ。
「ギャッ!」
単純な仕掛けほど引っかかりやすいものはない。縄につまずいた一騎の追っていたシノがこけた。そこをすかさず一騎が捕らえる。
しかし、もう一匹は縄を飛び越えた。野性の本能。だが、Rehniは第2の手を考えていた。
縄を飛び越えた先の樹上に重石のついた網を用意しておいたのだ。それを作動させる。
「グギャッ!?」
よくわからない網に捕まえられて、シノは混乱する。
「Rehni、お手柄なのだ!むっ!?いち‥‥にい‥‥うにゃー一騎すごいのだー!レナちゃんの負けなのだー!さすがは男の子は違うのだ!」
「でも、最後のはRehniのお手柄だからなぁ。あ、でもおいらが勝ったのか!?」
「すごいのだ!すごいのだ!!」
勝負の余韻に浸る2人にRehniはシノの数を数えた。
「後一匹しとめればノルマは達成です。それが終わったら果物を探しながらREX班に合流しましょう」
「レナちゃんサクランボが好きなのだ!」
レナが感激してキャーっと言った。
その時、がさっと茂みから唐突に虎牙が現れた絞められたシノを一匹持って現れた。
「REX探してたら、シノ一匹しとめたっすけど‥‥」
レナとRehniは顔を見合わせた。
「これで最低限のご飯は確保なのです」
「サクランボ取りながら、REXなのだ!」
「あ、そういや木の上に木の実見つけたんっすけど‥‥もしかしたらあれ、サクランボだったのかも」
そんな会話が花咲く3人に、一騎は笑って「おいら、ちょっと知恵比べしてくる!!」と森の奥へと消えていった。
水飲み場にいた1匹のフクイラプトルに一騎は目標を定めた。まずは、気がつかれないように高い木の上から動きを観察した。
どうやらこちらにはまだ気がついていないようだ。大きなかぎ爪‥‥あれに一番注意しなければ‥‥。
1対1でやるからには、確実に、逃げられないように相手の思いつかない方法で。
木からするりと飛び降りて、一騎は風のように全速力で走るとフクイラプトルの背中に飛び乗って首をぐいっと捻った!
「ヒギャッ!」と、フクイラプトルは変な声を上げる。奇襲成功だ。
これなら、きっといける気がする!!
●VS REX
REXを探しながら木の実や果物をわんさか見つけた。
「野菜のようなものを見つけましたけど、食べられるでしょうか?」
「イモの仲間だと思いますので大丈夫かと」
グランが持った球状の根っこにソリテアはそう答える。今日の夕飯はなかなか豪華になりそうだ。
その時、地響きを立ててどこかから大きな咆哮が聞こえたかと思うと、次に人間の叫び声が聞こえた。
「あの声は与那覇さんだ」
地響きは段々と近づいてくる。ソリテアとグランは罠のある崖下へと駆け出した。
「暴君竜 おれ お前 超える。そしておれが 王!」
REXの咆哮に対して咆哮返しで野生を開放し、周囲に金色のオーラをまといながら瞳が深紅に髪は金色になった野菜人‥‥じゃない与那覇がいた。
「罠まで誘導しましょう」
与那覇の声にいち早く駆けつけたイアンの冷静な言葉に与那覇は頷きながら、煮えたぎる血を押さえられない。
「さぁ、ここです!食べれるならどうぞ!」
与那覇は顎に蹴りを食らわせたり、アウルを集中させた重い一撃を食らわせる。進路が逸れそうになるとイアンが石を投げたりタウントで集中を集め、軌道を修正する。
「遅くなったっす!加勢するっす!」
虎牙が合流して左右から進路修正をさせながら罠へと導く。与那覇の攻撃のより、REXはやや脳しんとう気味なのかふらふらしている。
3人は罠を手前に道を外れた。しかし、REXは急に止まれない。そのまままっすぐに罠へと突っ込んで行った。
罠にはまるとREXはもがいて外に這い出ようとするが、ぬかるみに足を取られ外に出ることは出来ないでいる。
「仕留めますよ!」
イアンはファルシオンで切りつける。‥‥が、ギリギリ届くか届かないかの距離なので、合間合間に石を投げつけてみたりもする。
グッと手に力をこめて、虎牙はハンドアックスを振り下ろす。これも、届くか届かないか微妙な位置である。
「‥‥ちょっと穴深すぎたっすかね?」
「遅くなった!」
「わ、見事に落ちてますね!」
遅れてきたソリテアとグランが加勢する。
薄紫色の光の矢を雨のように降らせるソリテア。
そして‥‥
「グラン!合体技!」
「え?」
スクロールの呪文を唱えて終わったグランに、与那覇は駆け出した。行き先はグランの放った光の玉と同方向!
「おれ おまえ 超える!!」
光の玉に乗っかって、与那覇のスーパードロップ三段キックがREXに炸裂した!頭蓋骨の粉々に砕ける鈍い音がした。
「そんなのありですか!?」
夢の世界ですから、ありです。
かくて、壮絶な戦いを繰り広げたREXとの死闘は終わった。
「がんばれー!まけるなー!力の限りー‥‥って終わってるのだ!?」
サクランボだの桃だのたくさん抱えたレナとRehniが着いた頃、すでにイアンたちはREXをツタで結んで地上に引き上げる作業をしていた。
引き上げるだけでも一苦労だったのに‥‥虎牙はポツリとこう漏らした。
「‥‥ところで、コイツどうやって持って帰るんだろ‥‥」
●いただきます
持ち帰る方法がないのなら、その場で食べてしまえばいいじゃない!
と、いうことで早速夕飯作りに入ることにした。
グランとレナは取ってきた果実でジュースを造った。生絞りジュースだ。
「では、いかせていただきます」
Rehniはそう言うとアウルを武器に纏わせて、巨大な包丁でレックスを一撃で切り裂いた。
「おぉ〜!」
シノを捌いていた虎牙が感嘆の声を上げる。
「それで全部出来ないっすか?」
「残念ながら、回数制限が‥‥」
イアンとソリテアは木の実や野菜などを切りながら何を作るかを話し合っている。
その間に与那覇は火をおこす。
「ところで一騎君が戻ってきてないみたいなんですが‥‥」
グランは沈む夕日を見ながら、まだ戻らぬ一騎を心配する。
「そう言えば知恵比べするっていってたのだ!」
レナがそう言うと、ボッと赤い炎を燃え上がった。与那覇の火起こしが成功した。
「‥‥どこに行ったのでしょうね?」
ソリテアは、果物に魔法の氷の錐を浴びせてシャーベット状にした。
「こんな使い方も出来るんですよ。ですよね、お姉様?」
遠い空を見つめながら、ソリテアは姉のことを思った。
「肉肉〜♪」
捌き終えた肉を運びながら、虎牙は嬉しそうに鼻歌を歌う。
「濃厚な燻製やハムなども作って食べてみましょうか」
岩塩を振った肉を焼きながら、グランは燻製の用意もする。
イモのサラダやスープも揃って、夕飯はまさにフルコース並みである。
REXの骨付き肉を直火で焼いていた与那覇は、まずRehniに渡した。
「あいよ!」
もぐっと一口かぶりついたRehniは目を見開いた!
「REX肉、うーまーいーぞー!」
目から怪光線が出そうな勢いでRehniは叫んだ。いや、むしろちょっと出たかも‥‥?
「う〜なんかいい匂いがするぅ‥‥あれ、肉食って‥‥?」
ガサガサっと茂みが揺れた。
「あぁ!?マジ一騎なのだ!?」
ボロボロになった一騎は何か尻尾のようなものを持っている。
「どうしたんですか?一騎さん」
イアンが聞くと、一騎は眉根を寄せてぷくぅっと膨れっ面になった。
「フクイラプトルと戦ってきたんだ!勝ったんだよ?おいら‥‥なのに、途中でシノの群れが来て‥‥フクイラプトル持ってかれたぁ!!」
地団太を踏んで、一騎は本当に悔しそうだった。
「戦利品として尻尾だけ持って帰ってきたけど‥‥くやしーーー!!」
そんな一騎に与那覇は焼けたばかりのREXの骨付き肉を差し出した。
「まぁまぁ、REXの肉食うさー。美味いぞ?」
「え?与那覇のねえちゃん、REX狩れたの!?ちっくしょー、おいらも一緒に狩りたかった!」
「一騎さんの勝利祝いに尻尾だけでも調理できないでしょうか?」
「一騎のためにやるのだ!レナちゃん、マジ頑張る!」
「にしても、少々多すぎではないですか?」
「え?私、全部食べるつもりでしたけど?」
「先生に持って行けばいいでしょう。残して捨ててしまうのはあれですしね」
「あーそれ、いいっすね!‥‥持って行くの、俺たちが食ってからでもいいかな?」
すっかり日は落ちた。食卓に笑顔を囲み、狩の宴はまだまだ続く。
ここはクオン・ガ・ハーラ。1日限りの恐竜パラダイス。