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マスター:三咲 都李
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2017/09/22


みんなの思い出



オープニング

●2017・久遠ヶ原で思うこと
「空が青いって‥‥いいよね〜!」
 夏だ。雲だ。いい天気だー!
 進級試験も終わって、学園は賑やかだ。色々なことがあった。卒業していく先輩たちもいるのだと聞いた。そうしてまた学園の日常は戻りつつある。
 ボクは‥‥まだここにいる。まだやり足りない。やりたいことがたくさんあるから。
 中島 雪哉(jz0080)が見つめる青い空の向こうに、夢はまだ広がる。
 けれど、不安もある。
 本当にここにいて、それは叶うのか。他にやれることはあるのではないのか?
 そんなことを考えられるようになったのも、ここにきて成長したおかげといえる。
 なにか残したいよね‥‥未来に。
「そうだ! いいこと考えた!」
 中島はまた、何かを考え付いたようだ。
 

●未来へのメッセージ
「ということで、この指とーまれ!」
 また唐突にそう言いだした中島は可愛らしいお菓子の缶を取り出してにっこりと笑う。
「何年か後にみんなで集まって、掘り出したらきっと素敵だと思うんだ! こうなっていたいとか、こうなってたらいいなとか‥‥今の大事なものでも未来の自分に渡したいものとか‥‥そういうものを入れておけたらいいなって思って‥‥どうかな!?」
 まだ何も入っていないこの缶の中にたくさんの希望を詰めておきたい。
「よければ‥‥一緒に作らない? タイムカプセル!」

 最後に一緒に、何かを残しておきたいんだ‥‥。


リプレイ本文

●集まってくれた仲間
 掲示板に募集を貼りつけると近くにいた生徒たちに声高にそう叫ぶ中島。そこに居合わせた黒夜(jb0668)は呟く。
「タイムカプセルか。ま、こういうのも有りか」
「タイムカプセルだなんて、わくわくするじゃないかー! 君、素敵な事を考えるなぁ。俺ってば、そういうの良いと思うぜ! うんっ」
 そう言ったのはこちらもたまたま居合わせた大狗 のとう(ja3056)だった。
「‥‥これ、どこに埋めるとか書いてないな。考えてあるのか?」
「!?」
 黒夜にそう言われると、中島はハッとする。どうやら何も考えていなかったようだ。
「埋める場所はどっか分かりやすい目印があるとこがいいな! 学園長の像の裏とか! 入り口の傍の大きな木の下とか!」
「ふふっ、初等部の中庭に誰かが学園長の像を建てたそうだけど‥‥そこはどうかな?」
 ラズベリー・シャーウッド(ja2022) が微笑みながら声をかける。
「やあ、雪哉君お久しぶりだ。また楽しい思い付きだね 今回も是非乗らせていただくよ」
「シャーウッド先輩! ありがとうございます。いつの間に学園長の像ができたんだろう‥‥」
 初等部の中庭には中島やラズベリーが尽力してできた畑がある。それは今もそこにあり続けている。
「じゃあ時期はどうする? おたくの卒業年度か区切りよく10年って感じか?」
「卒業‥‥」
 中島は顔を少しだけ曇らせる。といつの間にか来ていたのか、後ろから聞きなれた声がした。
「そっか、皆卒業やなんやら‥‥進路が違うんだな」
「カズヤ君! ‥‥その、カズヤ君は?」
 相馬 カズヤ(jb0924)は中島にそう聞かれると相馬は少しだけ目を逸らす。
「‥‥オレはまだ学園に残るけどな‥‥タイムカプセルって浪漫あるし、やってみたかったんだ」
「ホント!? ありがとう!」
 にっこりと笑った中島に相馬は頷いた。
「で、どうする?」
 黒夜が訊ねると、中島は「じゃあ10年後で!」と答えた。卒業を機会にはしたくなかった。
「じゃあ、こっちにもそう書いとく」
 黒夜は募集要項に『開封:10年後』を付け足した。
「私ももうすぐ卒業だよ、雪哉ちゃん」
「文歌先輩! ‥‥文歌先輩は卒業しちゃうんですね」
 『アイドル部。』の部長・水無瀬 文歌(jb7507)はにっこりと笑う。
「あの、私も混ぜてもらっていいかな?」
 桐生 凪(ja3398)がそっと顔を出す。相馬と中島の間の空気を読んで少しだけ声をかけるタイミングを見失っていた。‥‥人妻は空気を読むもの、なのだ。
「もちろんです、凪先輩!」
 嬉しそうに即答する中島に桐生は思う。先程読んだ空気は幻だったのかもしれない‥‥。
「私も卒業しちゃうから、思い出に‥‥ね」
「凪先輩も!?」
 ちょっと涙目になった中島の頭を桐生はナデナデする。そんな2人を見て水無瀬は微笑む。
「‥‥卒業の前に大事な事を1つ済ませておかないとね」


●商店街にて
「それじゃボク、商店街に買い物に行くので」
 中島は皆にそう告げると、水無瀬と桐生と黒夜が一緒に行ってくれることになった。ワイワイと商店街の文房具屋へとなだれ込む。
「そういえば中島。母親とはあの後どうだ?」
「時々手紙とメールくれます。いつも『頑張れ』って励ましてくれて‥‥」
 いつかの夏、来襲した中島の母を黒夜は思い出す。勝ち気で早とちりだったが悪い母ではなかった。
 黒夜は他愛もない会話をしながらレターセットを選ぶ。紫、黄、赤‥‥様々な色の中で最終的に手にしたのは少し明るめな青を基調としたものだった。
「こう、入れても大丈夫なもの、だよね」
 桐生は頭の中でふわふわと形になりつつある思いを作ろうとしている。手にはピンク・白・緑の発色はっきり目の色画用紙。
「何を作るんですか?」
 中島がそう訊くと、桐生は一瞬考えて笑う。
「まだナイショ、うまく作れるかわからないから‥‥」
 桐生の思いはきっと素敵な形になるに違いない。
「そういえば、雪哉ちゃんは何を買うの?」
「ボクは‥‥レターセットを。手紙を書こうかなって思って」
 水無瀬の問いに中島は照れたように笑う。
「誰に書くの? あ、もしかして‥‥」
 桐生の人妻の勘が中島のど真ん中を射抜く。
「い、いや! ち、ちがっ‥‥ボクは‥‥」
 真っ赤になってうつむいてしまった中島に、水無瀬はくすっと笑う。
「あのね、雪哉ちゃん。私、子どもができたみたいなの‥‥」
 突然の告白に『えっ!』と驚きの声が重なる。
「お、おめでとうございます!」 
「ありがとう♪ 元気な赤ちゃんを産むねっ。この子はね、私の大好きな人との絆なの。‥‥ねぇ、雪哉ちゃんは気になる男の子はいないの? 手紙ならきっと素直に書けると思うよ?」
 水無瀬の言葉に中島は何か考えているようだった‥‥。


●ラズベリーの思い
『未来の僕は、夢見た姿に少しでも近付いているだろうか。
 それとも全く違う僕になっているだろうか。
 それでもきっと、後悔はしていないに違いない。
 僕は僕だからね。
 願わくば未来の君の周囲にいる人々と、変わらぬ良縁を繋げているといいな』
 ラズベリーは自室で未来の自分に宛てた手紙をしたためる。白が基調のふんわりとした便せん。今の自分から未来の自分へのメッセージ。
 この手紙ともう1つ、今の自分を象徴するものを入れようと思った。
 それが手元になくなってしまうのは寂しいけれど、未来で会うその日の再開を楽しみにしたらいいのだ。
 ラズベリーはそっと胸に手を当てた。


●黒夜の思い
『10年後の黒夜へ

 チアキは生きているか?
 こっちのウチは教師か司書かで進路を迷っているが、そっちの黒夜はもう決まったか?
 ウチは生きようと思っているが、そっちは生きたいと思っているか?
 まだ黒夜であり続けているか?

 久遠ヶ原学園に来た理由を覚えているか。
 封都の事件を起こした天使たちにお礼を言う為に、月子でも陽子でもない誰かとして死ぬ為に。
 その目的は果たされなかったけど。

 姉さんができて、兄貴分ができて、妹分もできた。
 名前をつけることもした。

 家族嫌いが治った。
 この学園に来たことを後悔していない。
 10年後の黒夜はどうですか?

 この手紙を開く時まで死んでいないことを願ってる。

 追伸
 またどこかで花見を』
 青いレターセットはしっかりと封印した。未来の自分以外が読むことはないだろう。
 どうなっているかわからない未来、けれど未来が暗いとは今は思えなかった。

 
●桐生の思い
 桐生はこの夏で卒業を決めた。専攻科がある大学か専門学校に進学し、栄養士を目指すためだ。
 学園で様々な人や天魔と出会った。自分の心の傷に向き合えただけでなく、大切な人と人生を歩み始めるという大きな変化があった。
 改めて自分がしたいことを考えた結果、好きなことで大切な旦那様やたくさんの人を支え、笑顔にしたいと考えたゆえの進路の決定だった。
 もう、後悔はしない。未来に花開くように今種を植えるのだ。
 買ってきた色画用紙を器用に切っていく。頭の中にあったイメージを時間の許す限り桐生は作り続けた。


●中庭にて
「覚えてるかい? 雪哉君。君と初めて縁が繋がった、君からのガーデニング依頼だ。‥‥懐かしいね」
 ラズベリーは感慨深げに初等部の中庭を見渡す。小さなスコップを持ち寄って彼らはこの時を迎える。
「君ってば面白い依頼ばかり出してたのな! 嫌いじゃないぜっ」
 バンバンと中島の背中を叩いて大狗はタイムカプセルに入れるために持ち寄った品を興味津々で眺める。
「これは、ペンタスという花ですよ、のとー先輩」
「おぉっ!」
 桐生の手の中にある沢山の花の切り絵を見て大狗は感嘆の声を上げる。
「花言葉は『希望が叶う』。‥‥学園に来て、幸せになりたいってお願いは叶ったから。次の夢も叶ってるといいなって」
 恥じらうように笑う桐生。にこにこと大狗は頷いた。そして視線を黒夜に移す。
「うちは手紙とこれ」
 黒夜はそういって胸ポケットに飾られていた桜のヘアピンを取り出す。
「死んだ従兄がくれたものなんだ。色々吹っ切れてウチの手元に置いてたが、また10年後に‥‥」
 そう言って黒夜は言葉を切った。
「オレは手紙と中島とフロルと三人で撮った写真とか‥‥昔一緒に遊んだビー玉」
 相馬の手の中に写るのはフロル・六華(jz0245)と中島と一緒に撮った写真。手紙には‥‥
「ボクの名前?」
「これは未来の中島宛だから!」
 中島の名が書かれた手紙に思わず中島がそう言うと、相馬が慌ててそれらを後ろ手に隠した。
「う、うん‥‥」
 勢いに押されてそれ以上聞けなかった。
「私はね『アイドル部。』の皆が出演してる動画サイト用PVや一緒に歌った歌のデータを用意してきたよ」
 空気を変えるように水無瀬はポーチに入れた電子機器を取り出す。
「将来どんなメディアがあるかわからないから、複数メディアに同じものを入れておいたよ。振り返ればあっという間の学園生活だったね‥‥あ、雪哉ちゃんの出ているPVもいっぱいあるよっ? 今スマホにも入ってるから見る? 懐かしいよ〜?」
 ニコニコと笑顔の文歌に中島は「じゃあ後で!」と返事をした。
「ボクは‥‥手紙入れます。全員宛てに!」
 5通の手紙を出して中島は笑う。
「10年後のみんな宛てだから今は読んじゃダメです」
 中島はちょっとだけ悪戯っぽく笑う。
「僕はね、よく身に付けていたラズベリーを象ったピンブローチと、そして未来の自分への手紙を入れるよ」
 ラズベリーの胸元にはいつもついていたあのブローチがなかった。
「俺ってばな! これを是非とも入れたいのだっ!」
 そう言って大狗がいそいそと取り出したのは、小さな1つのヒヒイロカネ。
「俺ってば、みーんなの写真を撮ったのな! 記念であるっ! 友達や、そうじゃない人や、先生も天魔もみーんな! あと、久遠ヶ原の写真を撮ったのだ。 ペットのチョコQの写真も撮ったし、他にもいろいろ入ってるのなっ‥‥」
 ‥‥と、聞いてもいないのに楽し気に説明する大狗は手の中できらりと光を反射するそれを嬉しそうに見つめた。いや、愛おしいのかもしれない。
「っていうかここに隠しておかないと、あれだ、没収されちゃいそうなのでな! うむ! だははは!」
 ‥‥どうやら無許可で撮った写真があるようだ。
「名残惜しいけど、そろそろ埋めましょうか」
 桐生の言葉に、宝物たちはお菓子の缶に収められていく。大狗が学園長の像の裏に穴を掘る。
「ここ掘れワンワン〜♪ 宝は今から〜埋めるーのなー♪」
 10年後までさようならだ。スコップで少しずつ土をかけていく。
「あのね、雪哉ちゃん。私はもうすぐ卒業だから、まだしばらく学園に残る雪哉ちゃんに『アイドル部。』の今後を託したいの。きっと雪哉ちゃんになら後輩の子たちが憧れるような立派なアイドルになれるから。‥‥お願いできる?」
「ボクがですか!?」
 水無瀬の突然の指名に中島は驚いた。
「ふふ、学園最高のアイドルである私が言うんだもん。だから自信をもってっ。雪哉ちゃんらしさを発揮して、もっともっと素敵な部にしていってねっ」
 水無瀬にエールを贈られて、中島は頷く。それがこの学園で中島の『まだやれる』ことだ。
「そういえば雪哉君は、本格的に芸能界デビューを目指すのかい?」
「一応、そのつもりで頑張るつもりです」
「そうか。僕も暫くは学園に留まるし、ライブなどをする際は是非呼んでくれたまえよ。ファンクラブの早い番号、今から予約しておくからね」
 ふふっと笑うラズベリーに「はいっ!」と中島は元気に返した。
「これは僕からの提案なんだが‥‥最後に一緒に記念写真を撮らないか? またタイムカプセルを開封する時に、今この時間を‥‥繋がった縁を、再確認できるように。思い出も一緒に、時間を越える事ができるように」
 ラズベリーの提案に、一同は頷く。別れの時は近い。

 卒業後は産休を挟みつつ天魔の人達と人間を繋ぐ架け橋を目指して人間の文化を伝える為の歌手兼外交官を目指す水無瀬。
 アイドルはいつだって『今』が一番輝いている‥‥彼女は卒業しても永遠のアイドルとしていつまでも輝き続けるだろう。
 
「本当に、たくさん出会って、たくさん変わったなぁ」
 大切な人と大切なもののために未来を歩き始める桐生、

「学園に残ることにしたが‥‥まだ進路は決めかねている。何年後かのウチは、そういうのが決まっているといいんだが」
 黒夜に大切なことを気づかせてくれた人とともにある未来はきっと明るいだろう。

「これも、此処で過ごした君との思い出の一つになるな。ありがとうな!」
 大切な写真の中に中島の写真も隠し撮りして、大切な時間を10年後の自分へ送り出す大狗。

 写真を撮り終えるとラズベリーは中島と向き合う。
「君はいつだって誰かの為に一生懸命で、誰かの笑顔の素になれる子だったね。そんな君が、僕は大好きだよ。この学園に来て恵まれた、無二の友だ。僕は君を誇りに思う」
 ぎゅっと中島を抱きしめてラズベリーは囁き願う。
「ありがとう、これからも僕の良き友でいて欲しいな‥‥」
「ボクもシャーウッド先輩と知り合えてよかったです。ずっと友達でいてください」
 さあ、最高の微笑みで、未来の僕達に希望を繋ごう。
 そうしてそれぞれの道は開かれていくのだ。


●未来の絆をつなぐ手
 みんなと別れた後、中島は相馬からメールで呼び出された。先程別れた中庭だ。
「‥‥タイムカプセルにはあんな事書いたけど、やっぱり気持ちをきちんと伝えないとって思って‥‥」
「あんな事?」
 確か未来の中島に宛てた手紙があったはずだ。
「転入してすぐの頃から、俺は中島のことが気になってた。だけど本当に恋だと自覚したのは中学に入ってからで‥‥中島にはなかなか会えなかったりもあったけど」
 すぅっと息を吸ってはっきりと声に出す。

「でもずっと好きだった。今も、きっとこれからも」

 自分宛てに将来の事とか中島に未来できちんと気持ちを伝えろとか、中島宛に今の自分が中島のことを恋愛という意味で好意を持っていて手紙を開けた時の自分に返事を下さい、という手紙を書いたのに‥‥。
 でも、今伝えるべきだと思った。
「‥‥答えもらえるまで、待ってるから」
 伝えた。言いたいことは言えた。「それじゃ」と言って去ろうとした相馬を中島は止めた。
「待って! ボクも今言うから‥‥」
 中島は大きな深呼吸を1つする。
「ボクは‥‥アイドルになりたいってここに来たんだよ。だから、誰かを好きになったらダメなんじゃってずっと思ってた。だけど、文歌先輩がボクらしくていいって言ってくれたから、手紙に書いたんだけど‥‥」

「ボクはカズヤ君が好きです」

 中島は最高の笑顔で言う。
「ボクと一緒に未来に行ってくれないかな?」
 差し出された右手。相馬は左手で手を繋ぐ。
「手紙、ボクも書いたんだけど‥‥無駄になっちゃったね」
 一緒に笑って行こう、未来へ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

carp streamer・
ラズベリー・シャーウッド(ja2022)

高等部1年30組 女 ダアト
絆を紡ぐ手・
大狗 のとう(ja3056)

卒業 女 ルインズブレイド
君のために・
桐生 凪(ja3398)

卒業 女 インフィルトレイター
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師