●クリスマスに必要な‥‥
中島 雪哉(jz0080)が決めたパーティーの時間よりも早く、わっさわっさと大きな飾りのついていないモミの木をが学園の食堂に運び込まれた。
「はーい! ここで大丈夫です。一旦寝かせてくれますか?」
川澄文歌(
jb7507)の声に、モミの木を持っていた地堂 光(
jb4992)と黄昏ひりょ(
jb3452)がゆっくりとそれを床に寝かせた。今回のカレーパーティーの参加者から有志を募ってクリスマスツリーを購入してきたのだ。
やっぱりクリスマスパーティーにはツリーがないと始まらない。
床に置かれたモミの木のてっぺんに、川澄は持参した大きなお星様の飾りを最初に飾る。
「それじゃ、立ててもらえますか?」
「よし! まかせろ」
「せーのでいくよ、光」
地堂と黄昏の息の合った作業で、大きなツリーはクリスマスの準備に入った。
一方厨房から、ひょっこりと現れた一組の夫婦がいた。鳳 蒼姫(
ja3762)と鳳 静矢(
ja3856)だ。彼らもツリーに賛同した有志だ。
「おぉ! 素敵なツリーが買えたのですねぃ☆」
「お疲れ様。外は寒かっただろう? そろそろカレーもいい具合に出来上がるから、もうひと頑張りだ」
蒼姫と静矢はカレーが足りなくなることを考え、自ら手伝いをかってでたのだ。厨房は中島がオーダーしたカレーとは別に、鳳夫婦特製カレーも美味しそうに出来上がりつつあった。
この厨房の中で、カレーの仕込みをしていたのは蒼姫と静矢だけではなかった。
スパイスを駆使してカレーを作るのはリーガン エマーソン(
jb5029)。
戦場において大きな意味をもつ調味であるがどこはあえて触れないようにしよう。人の心浮き立つようなカレーを用意していく事を目指す。
ラズベリー・シャーウッド(
ja2022)はチキンをホワイトソースで煮ている。このチキンがカレーにどう関係するのかはまだ謎である。
浪風 威鈴(
ja8371)の取り出した保存食用の鹿肉を見て、浪風 悠人(
ja3452)は微笑む。
「ありがとう、威鈴。これで一緒に浪風家カレーを作ろうな」
「美味しいの‥‥作る」
威鈴が既にしっかりとした処理をしてきたので、悠人は包丁で筋を叩いて柔らかくして用意されていた野菜と共に小さく刻んで煮込むことにする。威鈴は野菜を星や動物の形に切って盛り付けの用意もしておく。手際の良い共同作業が繰り広げられている。
「ツリーの飾りに‥‥じゃーん☆ 幸せの鳳凰は鳳家の証!」
蒼姫がぬいぐるみの鳳凰を持ってきて、ツリーに飾り付ける。他にもキラキラと眩しいオーナメントを多数持参してきた。
「つけるのを手伝ってもらえるか?」
サンタやトナカイの人形の飾りを取りだし、静矢は黄昏と地堂に渡す。
「もちろんですよ、静矢さん。光、上の方頼める? 俺、下の方やるよ」
黄昏自身が持ってきたキラキラした紐状の飾りも飾り付けの準備をしながらそう言うと、地堂はニヤリと笑う。
「そうだよなぁ、そうそう。ふふん、身長ならひりょに勝ってるからな。高いところは任せろよな!」
嬉しそうに地堂はツリーの高い部分に飾りをつけ始める。静矢の分、蒼姫の分、そして自分が持ってきたボール型の飾りも吊るす。
「こうやって光と戦闘以外で協力してやるのって久しぶりだよな」
「そうだっけ? まぁ、でもこういうのもいいよな」
飾り付けが始まり少しすると、約束の時間にも近くなってきてチラホラと参加者が集まり始めた。
「おー、美味そうなカレーじゃん! デコるのかっ? じゃあ俺はあれにしよっと!」
花菱 彪臥(
ja4610)は入ってくるなり、徐々に食堂に運ばれているカレーを見て歓声を上げる。とと、その前にクリスマスツリーに飾りをつけねば。
カレーの匂いに誘われてやってきたのは不破 十六夜(
jb6122)。
「カレーは好物の一つだから楽しみだな〜」
「遅れてすいませーん!」
食堂に最後に走り込んできたのはフロル・六華(jz0245)の手を引いた中島だった。
「! おっきなクリスマスツリーだぁ!」
入った途端に歓声をあげた中島は、六華と共にまだ飾り付けの終わらないツリーに近づく。
「サンタさんに、林檎もある! あ、ステッキ型の飴だ。可愛い〜!」
「それ俺な! どんな飾りにしよっかなっていっぱい考えたんだぜ」
「クリスマスって感じですね!」
花菱の飾りを見ながら中島ははしゃぐ。と、ジンジャークッキーが2種類あることに気が付く。
「こっちのラッピングがしてある?」
見比べていた中島に礼野 智美(
ja3600)が「それは俺だ」と答える。
「取って食べれるようにだ。ラッピングしてあれば持って帰れるし‥‥いや、片付け場所が大変そうだから、消え物の方が良いかなって‥‥」
礼野の細かい気遣いに中島は笑顔で「なるほど!」と頷いた。
地堂と黄昏、いつの間にか加わっていた只野黒子(
ja0049)も手伝ってクリスマスツリーにはたくさんの飾りで彩られた。
「ボクもつけよ」
持参した飾りを飾る相馬 カズヤ(
jb0924)を六華は不思議そうに見ている。
「こっちは金のベル、こっちは銀のベル。かわいいかなと思ってさ」
飾りを見て少しだけ笑顔になった六華に、相馬も嬉しそうに笑った。
川澄は中島の耳元で囁いた。
「六華ちゃんが少しでも元気になれるように素敵なパーティにしようね、雪哉ちゃんっ」
「‥‥はい!」
●さぁ飾ろう
さまざまな色の野菜とたくさんの白米、そしてたっぷりのカレー!
\ カ レ ー だ ー ! /
目をキラキラと輝かせた雪室 チルル(
ja0220)は早速デコカレーに挑戦を始める。
目指すはサンタクロース型のカレーだ。
何が必要か、サンタクロースを思い浮かべながらグリンピースとミニトマト、人参をチョイスする。人の顔なのだから肌は白米では寂しい。そうだ、ケチャップを使おう。ご飯にケチャップを混ぜてケチャップライスに。うっすらとした赤みが丁度サンタみたいだ。髭と帽子の白い部分は白米そのままの白を生かそう。
「よぉし、作るわよ!」
頭の中にある設計図を基に、雪室はイキイキとサンタクロース型カレーデコを作り始めた。
最上 憐(
jb1522)の目の前にはたくさんの果物があった。スイカ、苺、メロン。
これらを最上は‥‥カレーに大胆に盛りつけ始めた。
「‥‥ん。子供の日に。願った。願い。ちゃんと。叶った」
これもきっとカレーの神様のおかげに違いなかった。‥‥多分。
只野は野菜を茹で終えた。この野菜をツリーに見立ててデコしていこうとしていた。
その野菜の名は『ロマネスコ』。カリフラワーの一種であるが、色は緑っぽく見た目が大変特徴的でまるでドリルのように螺旋状になっている野菜である。
ロマネスコは煮崩れしないし、色も鮮やかなので視覚的にもいいかな‥‥。
ホカホカと湯気の出るそれを見ながら、もう一つのクリスマスカラーの赤をどう彩るかを考えていた。
エプロン装着。久慈羅 菜都(
ja8631)は首を傾げる。
えっと、デコカレー‥‥? あ、おでことカレー‥‥??
カレーの良い香りに包まれて、段々と思考が思わぬ方へと動き出す。
「えっと、お腹すきました‥‥。まだ、食べちゃだめですか‥‥?」
「え!? まだ、カレーをよそってもいませんよ!?」
久慈羅の呟きに思わず、中島のツッコミが入った。
そうだった。まだ手元にカレーがない。まずは手を洗わないと。それから、持ってきたハンバーグを温めて、野菜を切って、あぁ、海苔も切らないと‥‥。
久慈羅が空腹のあまりフラフラと彷徨っていると、カレーとは別のいい匂いがした。それに釣られてさらにフラフラと歩き、ガバッととある人物に抱き着いた。
「いい匂い‥‥」
背後からハグっと抱き着いて、頭の匂いをかぐ。
「おわっ、後ろ取られたじゃん! ぎゃあ! 俺の匂い嗅ぐなー!」
抱きしめられたのは花菱だ。花菱は嫌がっているわけではなさそうだが、じたばたとしている。
「美味しそう‥‥あったかい‥‥」
「た、食べるなよ!? 菜都ねーちゃん、食べるのはカレーだぞ!」
そう言うと花菱は手にしていた茹でたピーマンや真っ赤なパプリカを恐竜の形にしたご飯の口の部分に豪快に盛り付けていく。
「火を噴くティラノッティの出来上がりだぜ!」
「ティラ‥‥?」
首を傾げた久慈羅に花菱は丁寧に「ここが口で、ここが炎で‥‥」と説明するのであった。
こちら、一回り大きな平皿にドーンと円錐状にご飯を盛り付けた上からさらにカレーをぶっかけた築田多紀(
jb9792)。大胆だ。
その円錐状のカレーライスに小さく切ったブロッコリーやミニトマトを帯状や丸い飾りのように配置する。その野菜の間にチーズを爪楊枝で飾り細工のように散りばめていく。皿の余った部分にはご飯で作った雪だるまと、人参て作った人型を立てジオラマチックにする。カレーのてっぺんに星形のいちごチョコレートを挿しこみ、最後に液体チーズを粉雪に見えるようにスプレーで振りかける。
「クリスマスと言えばツリー。これは揺るがない事実だ。丸ごと食べられるツリーなど、なかなか乙なものでないか?」
大きな円錐状のカレーライスは、立派なカレーツリーに成長した。
リーガンは出来上がったカレーをさらに昇華しようと試みる。
ペッパーやガラムマサラなどのスパイスを駆使しながら辛みを強くしたカレー。一方で詰め合わせの福神漬けなどを充実させていくことで、辛みを緩和させ旨味につなげていく感じになるか。
具もシンプルにトッピングも玉子やチーズなど辛みをを緩和する物のを中心に選んでいくか。銘じて大人の激辛カレー。
「いい出来栄えです」
納得のいく一品ができたことに、リーガンは深く頷いた。
「アダム(
jb2614)は甘口の方が好き?」
クリフ・ロジャーズ(
jb2560)がそう訊くと、アダムは胸を張って言った。
「おれは大人だから甘口じゃなくても大丈夫なんだからな!」
虚勢を張っている‥‥というのが仲の良いクリフとシエロ=ヴェルガ(
jb2679)には痛いほどよく伝わった。
「アダムは甘口が良いなら、別の小鍋に移して味の調整しましょうか?」
「だ、大丈夫だって!」
「わかった、大丈夫だから。アダム。‥‥俺はもう少し辛い方がいいな。しーちゃん、どのスパイス入れたら辛くなる?」
「私ももう少し辛い方が好きだから‥‥。そうね‥‥色々とあるけれど、少しで良いならコレかしら」
3つのカレー皿を並べ、それぞれにご飯で作ったにゃんこ、わんこ、つばめの形にしたものを配置する。
「どうだ? おれみたいにかっこいいだろう!」
ドヤ顔してみせたアダムのにゃんこの飾りつけは、凛々しい海苔の眉毛が特徴だ。どっちかというと可愛い。
「こんなモノかしら。目はレーズンに‥‥チーズを見立てようかしら」
女性らしい繊細さでシエロは細かな作業を施していく。ご飯の塊に、少しずつ愛嬌が出る。
「シエロらしくしてみたぞ!」
アダムの声にそちらを見てみると、つばめの胸元が妙に盛り上がっている。つばめというより鳩胸だ。アダムはやっぱりドヤ顔である。
「‥‥‥‥」
無言のシエロに、クリフが「まぁまぁ」と宥めつつカレーを器に注ぎ込む。
にゃんことわんことつばめがお風呂に入った可愛いカレーアートの出来上がりだ。
「うさカレー、つくります」
澤口 凪(
ja3398)がそう宣言すると、恋人の桐生 直哉(
ja3043)はコクリと頷いて「カレー大盛にしてくれるか?」とお願いした。
「はい! もちろん」
にっこりと笑って澤口は早速実行に移す。皿に大盛りのご飯を盛り付け、それをうさぎの顔の形にしていく。
澤口が一生懸命うさぎを作っている間に、桐生は野菜を星やハートの形にくりぬいていく。
大きなうさぎと小さなうさぎが並ぶと、澤口はうさぎの顔の周りにそっとカレーを流し込む。慎重に流し込んだため思わず息を止めていた澤口に、桐生が優しく背中をさする。
「深呼吸、深呼吸」
「ふ〜‥‥」
「綺麗にできたな」
深呼吸した後で、澤口は少し顔を赤くして照れたように笑う。
「はい!」
頑張ってデコカレーを作る恋人・澤口に、桐生も目を細めて微笑んだ。
「あとちょっとだな」
「はい、直哉さんにくりぬいてもらったお野菜飾って出来上がりです」
ほのぼのっとした恋人たちのうさぎカレーは、星とハートに囲まれて完成も近かった。
「ほほう、野菜で飾り付けとな。なかなか楽しげな趣向なのじゃ。わしの鋏さばきでものすんごいやつを作ってやるのじゃよ!」
円 ばる(
jb4818)はチョキチョキと手に馴染んだ鋏で空を切る。
「ばるたんと一緒にクリスマスパーチーだぜ!」
円の天敵にして良き友・黒沢 古道(
jb7821)は円の言葉をより深く理解していた。
すなわち『ばるたんは野菜嫌い! 故に鋏さばきを披露してもおそらく自分では食べない! ならばこの機会にばるたんにお野菜嫌いを少しでも改善しようと考えてんのさ!』ということである。
黒沢のその思いは、果たして届くのか!?
「カレーは甘口以外認めぬのじゃ!」
円は鋏を水洗いし、野菜をその鋏でチョキチョキチョキチョキと切り刻む。
その間に黒沢は蓮根、人参、サヤエンドウ、山芋を細かく刻み肉団子のタネに練り込み、ツリー型に成型する。
「椎茸は‥‥匂いが強いからやめとこ」
あくまでも、美味しく野菜を食べてもらうことが目的。この肉団子を揚げてカレーに後のせするのだ。
果たして、この作戦は上手くいくのだろうか?
礼野はカレーを前に考える。
カレーをデコレーション? どうやるんだろう‥‥ちょっと覗いてみようかな。
興味を持って他の参加者の皿を見れば、ある者は型抜きでカレーを彩る。ある者はご飯を可愛らしいうさぎの形に。
なるほど。シンプルに盛り付けてから飾る方法、ご飯から形を作る方法など様々あるのか。
ならば‥‥とブロッコリー、コーン、金時人参にゆで卵を選び出す。カレーを盛り付け、その上にそれらをのせることにする。
ブロッコリーと金時人参は茹でてから‥‥そうだ。包丁でブロッコリーを切り、茎と葉の形に。型抜きでもよいと思ったが考え直し、包丁で少し潰してから卵白、黄身、金時人参をそれぞれチューリップの形にした。
カレーの上に、少し早いけれど春の花畑ができた。
ラズベリーはホワイトソースで煮たチキンをカレーの上に配置した。それを流氷に見立てて、ご飯をシロクマの形に整えた後で胡麻と海苔で目や口を作るとお皿に盛りつけた。シロクマは3つ作った。そして、型抜きした人参と粒コーンをルーの上に浮かべた。
仲良し親子シロクマが夜空を映したカレーの海に泳いでいる。
記憶が戻る事が幸せかどうかは六華君が決める事だけれど、元気のない六華君は見ているに忍びない。
六華君にとってのクリスマスが、楽しい想い出になるように‥‥。
ラズベリーは六華の為に思いを込めてカレーを盛り付けた。
辛口でも甘口でもどっちも好きだけど、ゆで卵混ぜると美味しいよな。
相馬は星形の型抜きでゆで卵をを星形にしながら、六華を見る。
六華の元気がどことなくないって知ってるし、元気になってもらいたい。
少しでも六華の元気が出るように、色々な用意をした。上手くいくかはわからないけれど、精一杯の準備はしてきたつもりだ。
川澄はご飯を雪だるま状にし、人参でサンタ帽とマフラー表現したデコカレー作っていた。
途中、後輩である中島のフォローをしつつ、六華とおしゃべりをしながら作業を進める。
「雪哉ちゃんのハートの人参さん、使わせてもらっていいかな?」
「使ってください! いっぱい作ったんです」
中島の笑顔は見れたが、六華はやはりどこか上の空だった。
●メリークリスマス
カレーが盛り付け終ると、他の人のカレーデコが気になるものだ。
「猫と犬と鳥か‥‥」
礼野はカレー風呂に入った3体の動物をデジカメに収める。
「見て見て! あたいの傑作だよ!」
サンタクロース型の力作カレーを見せて回るのは雪室。初めてにしては上出来で満足、嬉しくて見せて回った。
「写真を撮ってもいいか?」
「もちろん!」
礼野は雪室のサンタクロースカレーもデジカメに収めた。
築田の大きなカレーツリーは目を引いた。これも礼野は写真に収めた。
「ツリーかぁ! 面白いね!」
雪室がまじまじとツリーカレーを見ていると築田はこう言った。
「昨今、様々な色のツリーがあるのだ。カレー色でも問題なかろう」
「問題ないよ。あたいは好きだよ」
只野のカレーにのせるクリスマスカラーの赤は最終的に星形にした福神漬けと温野菜の人参を使った。
「カレーに福神漬けはつきものですから」
「綺麗にできていると思うが」
「あたいもそう思うよ」
1人で納得しようとした只野は、礼野と雪室から称賛を貰った。築田も只野も少しだけ口元を緩めた。
威鈴と悠人のカレーは悠人が切った野菜の星や動物をちりばめ鹿肉の入った特製カレー。それに福神漬けを添えて出来上がった。
「今年はちゃんと怪我は治してきたよ!」
「今年は‥‥大丈夫。悠人も‥‥ボクも元気だ」
威鈴と悠人は昨年のクリスマス時に少々怪我を負っていた。そんな理由から今年は元気で健康であることをどうしても伝えたかった。
「威鈴先輩も、悠人先輩もまたクリスマスに来てもらえてよかったです!」
カレーを受け取りながら、中島はにこにこと笑う。六華は少し元気が無いようだが、カレーを見ると少し元気が出たようだ。
「美味しいです! 鹿って柔らかいんですね」
「美味しいです」
笑顔で食べる2人を見て、悠人も威鈴も顔を見合わせ微笑む。悠人と威鈴が思うことは同じ。
『この子たちが楽しく元気に過ごせれる様に‥‥この2人がこの先も明るく過ごせる様に‥‥』
円が作ったのはリアルな立体ツリー型とクリスマスリース型の大き目野菜がのったカレーだった。
「うむ、良い出来じゃ」
納得の出来栄え。しかし、円は野菜が嫌いだ!
「わしからのプレゼントなのじゃ♪」
「ば、ばるたんからのプレゼント‥‥!?」
黒沢が感動したように円に熱い視線を送る。‥‥その視線が痛い。思わず目を逸らしてしまった円。しかし、黒沢は全く意に介していないようだ。
円はカレーがうまくできたことに機嫌を良くし、黒沢の膝にちょこんと腰を掛けた。
「あーん♪」
黒沢は円にカレーを一掬いして差し出した。
「あー、む。もぐもぐ‥‥んむ、美味なのじゃー!」
あーんだけでなく、私の愛情野菜入り肉団子を食べてくれた!?
「美味しい? 美味しい!?」
「うむうむ、ばるはとっても満足なのじゃよー」
ふぉっふぉっふぉっと笑うばるたん、これは‥‥もう恋人じゃねーの!
黒沢の思い違いではあるが、とりあえず幸せなクリスマスである。
「六華さん、初めまして。雪哉ちゃん、今日は楽しいパーティー開いてくれてありがとう!」
澤口が声を掛けると中島は嬉しそうな顔をした。
「凪先輩! 来てくれてありがとうございます!」
「六華ちゃん、雪哉ちゃん。初めまして。俺は桐生直哉っていうんだ」
澤口に連れられてきた桐生は中島と六華に自己紹介をした。すると、澤口はこう付け足した。
「えっと、私の大切な人です」
照れたような、それでいてとても幸せそうな笑顔に桐生は一瞬照れたようだったが否定はしなかった。
「それは俺も同じ気持ちだけど‥‥」
澤口にだけ聞こえる小さな声で桐生がそう言った。澤口はさらに幸せそうに微笑んだ。
「あ、雪哉ちゃんが作ったカレーにもハートがあるな」
中島が盛り付けたカレーにはたくさんのハートの野菜がのっている。それを見て桐生は目を細めた。
「はい。ボクの大切な友達だから、いっぱい気持ちを込めたんです」
「そっか。六華ちゃんの事が大好きなんだな」
「はい!」
無邪気に笑う中島に、桐生は澤口や六華も交えて他愛もない話をした。
クリフとアダムとシエロは初対面だった六華に自己紹介した後、3人で作ったアイシングのクリスマスクッキーを中島と六華に渡した。
「可愛い! 貰っていいんですか?」
「べ、べつにお前たちのために作ったわけじゃないんだからな!」
喜ぶ中島にアダムがそう言うと、六華は首を傾げる。
「貰ってはダメですか?」
「え!? も、貰ってもいいぞ。特別だからな」
六華の思わぬ切り返しにアダムは焦ったようにそう答えた。
シエロは中島と六華に小さな包みを渡した。中を開けるとお揃いの雪の結晶のヘアピンだった。
「少し早いクリスマスプレゼントよ」
静矢の作った彩カレーは煮詰めたほうれん草を載せてツリーを模り、その周囲に丸や星にカットした人参やじゃが芋をのせてあった。
六華と中島と蒼姫の前に出す前にクルトンをのせ、粉チーズを振ると『雪の降る中のクリスマスツリー』の出来上がりだ。
「さすがにこう凝ると数は作れないのがね」
少し残念そうだったが、手間暇を考えると断腸の思いであった。
「六華ちゃん。静矢先輩のカレー、美味しいよ!」
中島が一口食べて興奮気味にそう言うと、ボーっとしていた六華もカレーを食べ始めた。
「崩しちゃうのがもったいないくらいなのですよぅ。もふもふ‥‥愛が溢れてますねぃ☆ はあい、静矢さん。燃えるように熱く熱くホットなカレー出来上がりですよぅ☆ アキも食べられて萌え萌えー」
お返しの蒼姫のカレーは野菜をふんだんに使った蒼姫の顔を模したカレーだった。
静矢への限定愛情カレー!
「それじゃ頂こうか」
ハートマークの人参に愛を感じながら、静矢はカレーを一口食べ‥‥轟沈した。
「なんで倒れてるですか、おかわりあるですよ。一気一気☆」
「ま、待‥‥待ってく‥‥れ」
蒼姫のカレーはとにかくスパイスが入りまくりの激辛カレー(一撃必殺)であった。
久慈羅の盛り付けたカレーはハンバーグを下地にした人の顔だった。
「題材は友達」
「友達‥‥?」
花菱が誰だろう? と思って見ていると久慈羅はおもむろに「いただきます」と手を合わせてあっという間に平らげてしまった。
「は、はえぇっ!」
食べ終えた久慈羅はふらふらとカレーの匂いのする方へと向かう。
そこにはリーガンや蒼姫の作ったカレーがまだまだあった。
「食べてもいいのかな?」
「えぇ。カレーは辛く上で食べやすいのがベストです。是非食べてください」
リーガンは持論を展開しながら、久慈羅にカレーを渡した。
学園に来てから元気いっぱいに思い出を作ってきたがこれもまた一つ思い出になる、と花菱は久慈羅のよい食べっぷりを見ながら思った。
「カレークリスマス! 美味しそうだよなっ! 中島も六華も、メリークリスマス! これからもずっと仲良くやっていけると良いな」
カレーを持って相馬は六華と中島の傍に座った。
「これ、クリスマスプレゼント。ボクからな」
相馬はそう言うと2人に包みを渡した。中身はふわふわの耳当てだ。きっと似合うと思った。
「ありがとう、カズヤ君。‥‥あれ? カードが‥‥」
中島が包みの中からカードを見つけて開こうとしたので、相馬は慌てて「それは後で読めって!」と止めた。顔が赤かった。
「僕からもプレゼントだよ、六華君」
ラズベリーが六華にピンクローズのプリザーブドフラワーのブーケを渡した。淡い色合いがとても綺麗だった。
「君が何を思い出しても、何者であっても。僕達は君の変わらぬ友でありたいと心から願うよ」
ラズベリーの言葉に、六華は少し俯いた。何かを考えているようだった。
「勿論、雪哉君も、ね♪」
そう言ってラズベリーが中島の額にキスをした。
「!」
真っ赤になった中島と、なぜか真っ赤になった相馬。ラズベリーは「ん?」と首を傾げるのだった。
「? 何があったか判らないけど、そんな顔をしてたら美味しいカレーも美味しく無くなるよ」
おかわりを貰いに行った六華に不破が話しかけた。独自にアレンジしたカレーを持っている。
「どんな顔してますか?」
「悩んでる顔かな? 悩んでいるなら誰かに相談してみたら? 意外とあっけなく解決するかも知れないよ」
「俺、記憶喪失で‥‥でも、悩んで??」
六華はその言葉の意味がよくわからないようで、困った顔をして不破を見つめている。
「‥‥うん、まぁ、難しく考えない方がいいよ。あ、そうだ。このカレー、食べて見る? 自画自賛だけど中々美味しく仕上がってるよ」
手に持っていたカレーを不破は勧めた。六華は頷くとひょいっと不破のカレーを食べるとにこっと笑った。
「美味しいです。ありがとう」
不破自身は気付いていないが、不破のカレーは常人では劇物指定の不味い物。しかし、六華も不破もそのことに気が付かずにお互いにっこりと笑った。
記憶喪失か〜。これだけ派手に探して反応が無いとなるとお姉ちゃんも‥‥?
不破は自らが探す姉を思う。ほんの小さな可能性‥‥けれど(まっ、そんな漫画みたいな話は無いね)と自らそれを打ち消した。
カレー風呂につかったわんこのご飯が食べられそうになるたび、アダムは切ない目で言う。
「‥‥あっく、クリフが‥‥」
思わずスプーンを下げるが、そのわんこをスプーンでひょいっと掬ってクリフに差し出す。
「あーんだ、クリフ! おいしいぞ!」
「おいしい所をくれるの? ありがとう」
クリフは苦笑いをしつつ、それを頬張った。アダムはとっても満足そうだった。
地堂は黄昏のカレーにこっそりと激辛スパイスを入れようとした。だが‥‥
「‥‥光、カレーにいたずらはNGだぞ?」
烏龍茶飲みながらも、穏やかな顔で怒りのこもった声でそう言われ地堂は失敗したと思った。
「や、やべぇ‥‥目が真剣だ、カレーに関してはあいつ真剣だからなぁ」
「聞こえてるぞ、光。カレーは美味しく食べるものだ」
カレー好きの黄昏に地堂は冷や汗が流れるのを感じた。こうなったら‥‥
「食べる量で勝負だ!」
地堂が挑む! 黄昏はいつの間にかそれに応戦した!
「ひりょさん、おかわりはいくらでもあるのですよ☆」
「大人の激辛カレーも提供しますよ。」
蒼姫の応援が飛ぶ。リーガンの進言も入る。
とはいえ、美味しく食べられなければカレーに申し訳が立たない。食べ過ぎの一歩手前で黄昏は止めた。
あいつギリギリで止めやがった! きたねぇっ。とは言え、残すなんて事はしねぇ、最後まで食べきるぜ!
黙々と食べた地堂であったが、最後は水で流しこんだ。
‥‥甘口でも結構いけた。
「御馳走さん!」
「‥‥ん。六華。元気? とりあえず。カレー。持って来たので。どうぞ」
最上は果物入りカレーを六華に差し出した。六華は少し不思議そうな顔をしていた。
「‥‥ん。コレらは。果実的野菜と。言うらしい。野菜で。あり。果実でも。ある。見る。人の。立場によって。分類が。変わるらしい」
「果実で、野菜‥‥ですか?」
やっぱりよくわからないと言った顔の六華に、最上は自分のカレーを一口飲み頷く。
「‥‥ん。うまく。言えないけど。六華は。六華だよ」
「俺は、俺ですか?」
「‥‥ん。悩みや。モヤモヤと。したモノが。あるなら。聞くよ」
最上がそう訊くと、六華はやはり困ったような顔をする。
「俺は、悩み、よくわかりません。でも、憐は、仲間です。雪哉も、仲間です」
六華の言いたいことがよくわからないが、多分、その辺りに悩みがあるのだと思われた。
そんな最上と六華の様子を不安そうに見ていた中島に気が付いた者たちがいた。
中島の頭を撫でて、クリフは優しく励ます。
「雪哉ちゃん、力になれることある?」
驚いたような顔をした中島に、シエロが言った。
「雪哉。私で良ければ相談に何時でも乗るわよ」
中島は少し泣きそうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になる。
「大丈夫です。ボク、まだ頑張れます。だけど‥‥ホントにダメになったら助けてください」
六華の元にたくさんのカレーが提供された。六華はどれも「美味しいです」と残さずに食べた。
桐生はカレーを持ってる澤口や中島や六華をデジカメに撮った。思い出の一枚を残しておこうと。
「思い出を形に残さないと、もったいないもの」
みんなの楽しげな様子や力作カレーをデジカメに収めながら、澤口は微笑む。あとで参加者に連絡先を聞いて、今日の写真を後日メールで送付しようと思った。
親友とか妹とか部活の後輩とか料理好きだし、しばらくカレー食べる事になるかもな‥‥。
と、礼野は1人思う。でも、それも悪くないだろう。
「クリスマスだし、クリスマスソングを歌いませんか?」
川澄がそう言うと、中島は勢いよく手を挙げた。
少し早いクリスマスソングを歌っている時、中島の携帯が震えた。それは、中島の母からのメッセージだった。
ボクにはまだ助けてくれる人がいるから‥‥。
集まってくれた人々に感謝の気持ちを込めて、中島は川澄と一緒にクリスマスソングを歌った。