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マスター:三咲 都李
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:11人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/10/01


みんなの思い出



オープニング

●偽物?
「これ、まわしといてね〜♪」
 どこからともなく現れた上級生に、中島 雪哉(jz0080)は「え、あ、はい!」と思わずそれを受け取った。
 夏の午後、上級生はチラシをばら撒きつつ去っていく。
「‥‥なんだろ? コレ」
 最初に飛び込んできた文字は『花火』の2文字。
「わぁ、花火かぁ‥‥いいなぁ」
 思わず顔がほころんだ中島だったが、次に見つけた文字に表情が固まる。

『中村良子』

「‥‥え?」
 思考停止。のち。思考再開。
 同姓同名だろうか? 結構よくある苗字だし、よくある名前だし‥‥。
 そう言えばここの所、同じ学園にいるはずなのに顔を合わせていない気がする。
「まさか‥‥まさかね?」
 一筋の不安はあるが、楽しそうな企画に中島は行くことに決めた。
 『中村良子』は、中島の母の名前だった。


●いえ、本物です
「浜辺でご飯! 花火! これぞ夏の思い出ナンバーワンよね!」
 料理上手な生徒さんたちに作ってもらった料理を会場の浜辺に運びつつ、会場の設営と飾り付けを忙しげにやってのける。
 中村良子。
 中島の母にして、本日の浜辺の花火大会の企画者である。
 ‥‥ちなみにこの母、料理は一切作っていない。料理上手の生徒さんたちに頭が上がらない。
「線香花火よーし! ねずみ花火よーし! スキルのファイアワークス‥‥あれ? これは来た人に頼まないとダメかしらね?」
 企画段階で手伝ってもらった時に起こしたメモを片手に、あちこち移動しては確認を繰り返す。
 料理のテーブルの上に花を飾った。『会場入り口』と書いた幕と旗で可愛らしい門も作った。
 足元やテーブルを照らす光源にはハートや星の形を切り抜いた黒い紙を巻きつけたので、その内ぼんやりと闇に浮かび上がるだろう。
 カレーの匂いに誘われる人もいるだろう。
 会場に入ってローストビーフやお寿司に目を奪われるものもいるだろう。
 BBQは夏の醍醐味。グリーンサラダで夏の日差しの恩恵を。
「‥‥まだ食べてはダメです?」
「みんなが集まってからね」
 料理を運んでいたフロル・六華(jz0245)がそう訊いたので、母は苦笑する。
 あとは時間になって、みんなが集まってくれることを祈るだけだ。


リプレイ本文

●待ち合わせ
 夕暮れ近くの待ち合わせ。
 ソワソワと落ち着きなく御崎 緋音(ja2643)は浴衣が着崩れていないかを再度確認する。紅色の牡丹が大きく花開く鮮やかな浴衣は少しの大人っぽさと色香を漂わせる。
 待ち合わせの相手は観沢 遥斗(jb9502)。後輩であり友人である。
「緋音センパイ? 早いじゃん」
 後ろから声を掛けられて振り返れば、観沢が黒地に縞柄の浴衣で立っていた。
「う、うん。着付けに時間かかるかなって思ったんだけど‥‥そうでもなくて、早く着いたんです」
 本当は自室にいるのが落ち着かなかった、とは言えなくて浴衣のせいにする。
「へぇ‥‥いいじゃん」
 御崎の姿をサッと上から下まで見て、観沢は「んじゃ、行こっか」と歩き出す。
「え? あ‥‥そ、そうですね」
 反応が薄い。肩透かしを食らった気分だ。女の子の気持ちがわかってない。
 ちょっとだけ溜息をついた後、それが観沢の性格だと思い直して御崎は観沢の後を歩き出した。

「もう夏も終わりか‥‥こらメリー(jb3287)! 引っ張るなって」
 夕暮れのやや涼しい風に秋を感じながら、マキナ(ja7016)は腕を引っ張る妹に苦笑いをする。
「お兄ちゃんと一緒の夏祭り! 嬉しいの!」
 ニッコニコの笑顔に可愛らしい浴衣姿のメリーは、マキナと一緒に出掛けられることが嬉しくて仕方ないようだ。
 兄妹で揃いの模様の浴衣を着て花火の会場に向かう姿は、まるで恋人同士のようにも見えた。

「ボクも浴衣を着てくればよかったなぁ」
 中島 雪哉(jz0080)は花火のチラシを片手に会場へと向かうのであろう人々が浴衣を着ていることに気が付いた。
 牡丹模様の浴衣はすごく華やかで女性らしいし、お揃いの浴衣で腕を組んだカップルはなんだか羨ましくもある。
 会場が近づくと、薄明りに照らされた歓迎の門とカレーのいい匂いが出迎えてくれた。
「あ、文歌先輩!」
 見知った顔を見つけて、中島は走り出す。その先にいたのは川澄文歌(jb7507)。中島が所属する『アイドル部。』の部長である。
「こんばんは」
「文歌先輩も来てたんですね!」
 気心の知れた川澄に会えてホッとしている様子の中島に、川澄は微笑む。
「うん。このイベント、哉子ちゃんのお母さんが主催なんだって。知ってた?」
「え!? お、お母さんだったんだ‥‥やっぱり」
 握っていたチラシに書いてあった名を思わず見る。勘が当たってしまった。
「‥‥あれ? 文歌先輩、今ボクのこと『哉子』って?」
 ふと呼び名がいつもと違うことに気が付くと、中島は川澄に訊ねた。『哉子』は中島の本名だ。
「学園が休みの日は学園アイドルもお休みだから」
 川澄はふふっと笑って「ひとつ提案があるんだけど」と中島に耳打ちをした。
「できる‥‥かな? ボクに」
「手伝うから、一緒にやってみよう」
 川澄の提案に中島は少し悩んだが、コクリと頷いた。
「それじゃ、きちんと参加して楽しもうね。お母さんがどうしてこのイベントを企画したのか。お母さんの気持ち、ちゃんと考えないとダメだよ!」
 川澄は中島の手を取って星やハートの形の光の下、会場の門を潜り抜けた。


●お食事
「にーたとはなび! なのーっ」
「あんまはしゃぐな、キョウカ(jb8351)」
 黒夜(jb0668)はピョンピョンと跳ねまわって喜ぶキョウカを宥めつつ、ブルーシートやら木でつくられた簡易なテーブルの上に並べられた料理へと移動した。
「お、お疲れさん。楽しんでいってくれよ」
  強羅 龍仁(ja8161)がBBQの火の番をしながら、黒夜とキョウカに声を掛けた。
「かれーなの!」
「お、カレー食うか? あっちのお姉ちゃんからご飯もらってくるとカレーライスにもなるぞ」
 強羅が指差した先にはバターライスを盛り付ける木嶋香里(jb7748)。
「あいっ!」
 素直に頷いてキョウカは木嶋に駆け寄った。
「皆さん 料理と花火を楽しんでくださいね♪ バターライスはカレーと一緒に食べるともっと美味しいですよ♪ ‥‥あら、小さなお客様ですね。バターライスですか?」
「あいっ!」
 元気な笑顔で差し出された手に、木嶋も笑ってバターライスを渡す。
「豊富な種類を用意していますから味わってくださいね♪」
 バターライスを受け取ると、キョウカは嬉しそうに黒夜にそれを見せる。
「もらったなの!」
「よかったな」
 黒夜はそう言うと、強羅から夏野菜カレーをキョウカの分も受け取る。
「‥‥ん、うまい。さすがカレー皇帝」
「うまいー! なのっ」
「ありがとよ」
 仲良く食べるキョウカと黒夜に目を細めて強羅は笑う。木嶋もそれを微笑ましく横目で見ながら、フロル・六華(jz0245)に給仕の仕方を指示する。
「零さないようにゆっくりと、慎重に」
「ゆっくり‥‥慎重‥‥」
 器を持つ手とお玉を持つ手が震える六華は、何とか無事にゴーヤと丸ごとトマトカレーをよそえたが‥‥器スレスレである。
「‥‥ん。六華。見るからに。だいぶ。ものすごく。かなり。多すぎ。私が。貰う」
 最上 憐(jb1522)が六華から器を受け取ると、少しだけカレーを食べて器を見せる。
「‥‥ん。普通は。おそらく。大体。多分。このぐらいに。盛り付ける」
「わかりました。次は、俺、頑張ります」
 見せ終わった最上は、何事もないようにそのカレーを飲みほした。
「六華ちゃんは料理を食べて欲しい人はいたりするの?」
 一生懸命トマトカレーをよそう六華に木嶋はそう訊く。少し首を傾げて六華は言った。
「俺、お腹が空いたら食べてほしいです」
「‥‥ちょっと、意味が違うかな‥‥」
「??」
 六華の顔を見ると、どうやら本気で言っている意味が分からないようだ。
「いい匂いだわねぇ〜! バターライスとトマトカレー、夏野菜カレーも貰ってもいいかしら?」
 腹を押さえた中島の母・中村良子が転がり込んできた。
「どうぞどうぞ」
 強羅から夏野菜カレー、木嶋からバターライス、六華からトマトカレーを受け取るとガツガツと母は食べ始める。
「最上さんと六華ちゃんが味見してるの見てたからお腹空いちゃって‥‥ん〜美味しいっ!!」
 見事にカレー2種とバターライスを食べつくし、さらにローストビーフ、グリーンサラダ、あじのたたき、ちらし寿司をしっかりとお腹に収め、BBQを食べている最中にようやく本題を思い出した母。
「あ、そうだ。ファイアワークスを使える人を探しに来たんだった。誰か使える人はいるかしら? いなければ企画自体をやめようかと思うんだけど」
 母がそう言うと、黒夜が手を挙げる。
「発案したのうちだし、できるよ」
「キョーカも! やるなのっ!」
 両手を元気に空にあげたキョウカと、黒夜が名乗り出た。
「私はファイアワークスは使えませんから‥‥知り合いに頼んでみます」
 給仕をかってでていた美森 あやか(jb1451)は取り皿や割り箸をテーブルに置くと、どこかに電話を始めた。
「‥‥あ、もしもし海流君? お休みの所ごめんなさいね、お願いがあるんですけど、ファイアワークス使えますよね?」
 その電話を待つ間、最上が手を挙げた。これで3名は確保できた。
「キョウカ、これ食べてみねー?」
「う? あ〜ん」
 黒夜がトマトカレーの上にのっていたゴーヤをすくったので、キョウカはそれを素直に食べた。と、キョウカが涙目になり黙ってぺちぺちと黒夜を叩いた。
「やっぱり苦かったか。ごめん」
「‥‥知り合いからOKを貰いました。用意をしたらすぐにこちらに来ると言っていました」
 電話を切った美森に母は「ありがとう!」と喜ぶと発案者である黒夜と打ち合わせを始めた。
「中島のお母さん、すごく頑張ってるよな」
 相馬 カズヤ(jb0924)は少し離れたところで、その様子を見ていた。友人の母親が何かを一生懸命成し遂げようとする姿は純粋にすごいと思った。そして‥‥
「‥‥中島ってやっぱすごいよなあ」
 娘である中島が一生懸命やってるのを見て、母も中島をもっと理解したいと思ったからこういうことをする気になったのだ。と、少しだけ中島の友人であることが誇らしく思えた。
「あ、カズヤ君だ!」
「!?」
 後ろから突然声を掛けられて、相馬が振り向くと中島と川澄が立っていた。
「カズヤ君も来てたんだね」
「う、うん」
 にこにこと笑う中島に焦った相馬は母のいる方を指差した。
「あっちに、中島のお母さんがいる」
「えっ!?」
 今度は中島が焦る番だ。そんな中島の両肩を川澄がポンと叩く。
「落ち着いて。楽しく楽しく♪」
「ご飯もあっちにあるから、行こう」
 相馬の言葉で、3人は美味しい匂いのする方へと移動した。
「雪哉? よく来たわね〜! しっかり楽しんでいきなさいよ。思い出は大事だからね」
 中島の顔を見た母は嬉しそうに笑う。だが中島を強羅や木嶋、美森に紹介するとすぐに「花火の用意があるから」と立ち去ってしまった。
「お皿とお箸をどうぞ。何かお取りしましょうか?」
 美森が差し出した皿と箸を受け取る。中島はちらし寿司を取ってもらった。
「ありがとうございます。うわぁ‥‥なんか豪華だね」
「そういえばこれを作るときボクも手伝ったんだ。グリーンサラダ作ったんだ。あと六華もカレー作ったんだ。美味しく出来てるといいんだけど」
「カズヤ君、料理できるの!?」
「‥‥不味かったらボクが食べるから、うん」
「そんなことないよ。絶対美味しいよ。きっと。カズヤ君はすごいよ!」
 尊敬の眼差しで中島は相馬を見た。相馬は少しだけ得意げな顔で取り分けたグリーンサラダをおすそ分けするのだった。
「いただきます」
 丁寧に手を合わせて作ってくれた人たちに感謝しながら、川澄はお皿に取り分けたローストビーフを美味しくいただいた。

 マキナとメリーは大量のおいしそうな料理に目を輝かせて、強羅に聞いた。
「これ、タダ飯ですか?」
「お兄ちゃん! 美味しそうな料理がいっぱいだよ!」
 ごくりとなるマキナの喉に、強羅が笑う。
「うん? まぁ、料金は貰っていないな。ハハッ、しっかり食べて行ってくれ」
「お皿をどうぞ。ごゆっくり」
 美森から皿を受け取ると、マキナは浴衣の袖をまくる。
「メリー、制覇しに行くぞ!!」
「うん、頑張ろうね! お兄ちゃん」
 勢いよくローストビーフを取り、付けダレに浸して口に放り込む。さすが男の子、豪快に肉を食べる。
「お兄ちゃん、これも美味しそうだよ!」
 マキナの口にまだローストビーフが残っているが、メリーはちらし寿司を構わず放り込む。
「!? お兄ちゃん、あれも美味しそう!」
「まっ、待て、メリー。口の中にまだ‥‥!」
 マキナが食べ終わるのを待たず、メリーはマキナの腕を引っ張り料理の前でキラキラと目を輝かせる。
「メリー、取ってくるね!」
 次々と料理を運ぶメリー。マキナにとって幸いだったのは、メリーが大盛りで料理を持ってこなかった‥‥ということだった。
 メリー自身はそんなに食べてはいないが、兄の食べる姿をにこにこと幸せそうに見ていた。

「それ、美味そうだな。食っていい?」
「え?」
 御崎が箸で取っていたちらし寿司を、観沢が御崎の返事も聞かずに食べてしまった。
「‥‥! 食べた? 今、ここから食べたんですか!?」
 瞬間何が起こったのかわからない御崎だったが、それが間接キスだと意識して赤面した。観沢はそんな御崎をみて怒ったのかと少しだけ誤解した。
「そんなに怒んなよ。お返しにオレのもやるよ。ほら、あーん」
 BBQから貰ってきたホタテの稚貝を箸で取ると、観沢は御崎に向かって差し出した。それを見て御崎は観沢が間接キスなど気にもかけていない事を理解した。自分だけ意識しているのを知られるのは癪なので、その料理を口にした。
 が。
「‥‥間接キス?」
 口にした途端に、観沢がそう呟いたので御崎はむせた。
「ち、ちがっ‥‥!」
 口を押えて慌てる御崎は夜の闇でもわかるほどに耳まで赤い。
「大丈夫? 水いる?」
「うん‥‥」
 慌てふためいて首を縦に振り続ける御崎に水を渡しながら、観沢は冗談ぽく訊いてみる。
「緋音センパイの手料理も食ってみてーな。今度作ってくんない?」
「うん‥‥」
 やっぱり首を縦に振り続ける御崎に、観沢は御崎がまともに話を聞いていないことに気が付いた。そして、意地悪に付け足した。
「オレの家で」
「うん‥‥え‥‥手料理‥‥? えぇぇ〜っ!?」
「普段まともな食事をしてないから、作りに来てよ」
 にやっと意地悪く笑った観沢に、御崎は少し困ったように考えた後で頷く。
「い、いいけど‥‥期待しないでね?」
「よし、約束な」
 そう言った後、観沢はBBQから魚介類を貰ってきて御崎に渡した。受け取って幸せそうな笑顔で食べる御崎を観沢は優しげな笑顔で見つめた。

 強羅はBBQを焼きながら、用意してきたカメラで参加者の様子を収めた。


●花火
「にしてもよく食うな、おたく‥‥」
「う?」
 料理を食べていた場所からやや距離を取った場所に移動したキョウカ、黒夜、最上。キョウカが料理を食べながら移動してきたことに対する黒夜の溜息が漏れた。
 そこに美森が呼んだ音羽 海流(jb5591)が合流すると、簡単な打ち合わせを始める。
「うち含めファイアワークス使えるのは3人。キョウカはうちを上空まで持ってって打ち上げる係でファイアワークスは使えない。うちが真ん中で上方向、両サイドは横方向に向けてなら安全だと思う」
「なるほど。わかりました。なら私は右を担当します」
「‥‥ん。それなら。もちろん。確かに。間違いなく。左を」
 音羽と最上が同意したあとで、黒夜は母の携帯にワンコール。するとそのワンコールに返事をするように母からワンコールが入る。それがファイアワークスの合図だった。
 まぁ、こんな機会でもないと他のナイトウォーカーと力合わせての同スキル発動なんてないし‥‥。
 音羽は美森の電話を受けてそう考えた。美森は音羽の兄の幼馴染だ。わざわざ頼みごとをしてくるのは珍しいので、ご飯を報酬とでも思って引き受けることにした。
 3名のナイトウォーカー、ファイアワークスは6発。さて、上手くいくのだろうか?

 まず、上がったのは黒夜を抱えて飛ぶキョウカ。背中に羽が現れて高い空まで上がっていく。そこからさらに黒夜がファイアワークスを上方向に打ちあげると、夜空に鮮やかな花が咲く。
 続いて音羽の右方向へのファイアワークスが咲き、明るく光る。
 最上が左方向に打ち出すと同時に大きな爆破音が響く。大輪の花と同時に響くその音は、まるで本物の花火のようだ。
 キョウカに当てぬよう、最後にほぼ3人同時に技を繰り出す。
 夜が昼になったような錯覚と、煙の出ない不思議な花火は短いながらも印象に残る妙技だった。

 ファイアワークスが終わって少しすると、小さな打ち上げ花火が上がり始める。それを見ながら手持ち花火やネズミ花火にも火がつく。
「打ち上げ花火を撃てなくて残念だな」
 マキナが手持ち花火を持ちながら、そう呟く。が、隣にいるメリーはにこにこと笑う。
「お兄ちゃん、見て! キレーだね!」
 小さな花火に幸せな笑顔で喜ぶメリーを見て、マキナは「まぁ、これでいいか」と目を細める。
 少し物足りない気もするが、妹と過ごす時間は悪くないものだと思った。
 料理のある場所に戻ってきた黒夜、キョウカ、最上、音羽はそれぞれ花火と料理へと分かれる。
「にーたとはなび! なのーっ!」
 黒夜に手持ち花火を持たせてもらったキョウカは、火がついたそれを大人しく見守った。
「花火はやっぱ綺麗な」
「にーた、もういっこなの」
 終わってしまった花火を水につけ、キョウカは次の花火を貰う。2本、3本‥‥数が増えると警戒心もなくなる。
「あーいっ!」
 火のついた手持ち花火を持ったままぐるぐるとまわり始めたキョウカに、黒夜の静かな叱責が飛ぶ。
「危ねーし。人に当たったらダメだし」
 手持ち花火を取り上げられてシュンとなったキョウカに、黒夜はネズミ花火にひとつだけ火をつけた。
 地面をぐるぐる高速で回ってぱぁん! と弾けた花火をキョウカは口を開けたまま言葉もなく驚くのだった。

 音羽は料理を食べていた。
 美森がよそってくれた料理はもちろん、全部の料理を均等に食べると満足した。どれもとても美味しかった。
 ファイアワークスの報酬としては充分だと感じた。あとはこの余韻のまま布団に入れたら最高だと思った。

「‥‥ん。六華。自分で。作った。カレーの。味は。どう? 美味?」
 最上が料理の場所まで戻ると、トマトカレーを六華が今まさに食べ終えるところだった。
「憐、美味しいです。カレーは作れるのですね。俺、覚えました」
 ドーンと大きな音がして、打ち上げ花火が上がる。
「‥‥ん。花火が。打ち上がったら。たまや。とか。かぎや。とか。叫ぶのが。通例らしい」
「たまやー? かぎやー?」
 最上の言葉に六華が叫んでみたが、それが何を意味するのか分からずに首を傾げるのだった。
「六華、BBQの焼き方を覚えておきな。憐も来な。いいもん食わせてやる」
 強羅が六華と最上を呼んだ。
 BBQは下ゆでしてある野菜は焦げ目がつく程度、魚介や肉は生焼けや焼きすぎ等も注意する様にと付け足す。
 と、強羅は隠し持っていたマシュマロを竹串に挿して火であぶり始めた。
「数が少ないから女性優先な」
 焼いたマシュマロに同じく隠し持っていたチョコレートでコーティングして最上と六華に渡した。
「‥‥甘くて、美味しいです」
「‥‥ん。とっても。すごく。大層。しっかり。甘い」
「気に入ってもらえたんなら良かった」
 パクつく女の子2人に、強羅はその場面も写真に撮った。

「文歌先輩、これでどうでしょうか?」
「うん‥‥そうだね、哉子ちゃんの思いが出ててすごくいいと思うよ」
 小さなメモ帳を広げて川澄と中島は何やら考え込んでいる。
 そんな中島の姿を見てから、マシュマロを頬張る六華と見比べて相馬も考え込む。六華も中島も同じ女の子なのに、中島との距離感がなぜか相馬は上手くつかめない。
 六華の方が妹っぽいから?
 でも、なんかそれも違う気がして、もうちょっと中島と仲良くなれると思うんだけどその一歩が踏み出せないでいる。
 なんでだ?
 ぐるぐる回る『?』に相馬は余計に混乱していくばかりで、思わず頭を抱えてしまった。

「おかわり、まだありますけど誰か食べられますか?」
 木嶋がそう言った。参加者のほとんどがすでに箸を置いている。
「‥‥ん。そろそろ。リミッター解除。全力で。全て。飲み干しても。良いかな」
 最上が本気モードに入る。
「なら俺も少し頂こうか」
 強羅がそう言ったので、六華は美森を見た。
「あやかは食べないのです?」
「私は‥‥旦那様が家で待ってますから」
 にっこりと笑う美森は幸せそうなのだが、六華にはその幸せそうな理由がよくわからなかった。


●打ち上げ花火を見ながら
 料理を並べたテーブルからだいぶ離れた場所に観沢と御崎は2人並んで座っていた。
 打ち上げ花火が綺麗に見える。けれど、風に乗ってどこからか秋の虫の声も聞こえていた。
 ドーン、ドーンと打ちあがる花火を観沢と御崎は黙って見つめていた。
 1日を振り返り、いい日だったか悪い日だったかと訊かれたら『いい日』だと答えられる。それは彼といたから‥‥。
 何気なく見た観沢の横顔は綺麗で、なんだかずっと見ていたいと思った。
 けれど、それは大きな花火が上がって観沢が御崎を見たから心臓の音で掻き消えた。
「あの‥‥さ」
 意を決したように、観沢が言う。
「さっきは言えなかったけど‥‥今夜のあんた、すげー綺麗で焦った」
 そこまで言うと観沢は先に目を逸らしてしまった。
「えっ‥‥あ、ありがと‥‥」
 ドキドキして声が震えていた。それだけ言うのが精いっぱいだった。顔が凄く熱かった。
 目を逸らした観沢はちらっと照れている様子の御崎を見て、うろたえる。
 浴衣姿の御崎を見たときに、すごく動揺していた。不安‥‥とも違う、焦りとも違う、もっと不確かな感情がある。
 けれど、その感情が今温かくて気持ち良いものだと気が付いた。
 それがなんなのか、よくわからないけど‥‥。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん! キレーだね! メリー、お兄ちゃんと一緒に見れて嬉しいな!」
 ぎゅっとマキナに寄り添って腕にしがみついたまま、メリーは打ち上げ花火を見た。
「お兄ちゃんと一緒にいられて、メリー、幸せだよ!」
「‥‥わかった、わかった」
 苦笑しながらもマキナは打ちあがる花火を見た。いくつもいくつも打ちあがる花火が終わると同時に、きっと夏も終わるのだろう。
 大きな音に飲み込まれて、いつの間にかメリーの声が聞こえなくなっていた。
「‥‥メリー?」
 マキナが呼ぶと、メリーはハッと体を起こすがまたフワッとマキナの方にしなだれかかってしまう。
「無理はするなよ」
 マキナが労わりの言葉をかけると、メリーは微笑んで幸せそうに眠りの底に落ちていく。
「‥‥」
 はしゃぎすぎて疲れたメリーを、マキナは背負った。
 料理のテーブルにいた強羅や木嶋に声を掛けた。
「妹が寝てしまったので、お先に失礼します」
「そうか。足元に気を付けてな」
 丁寧にメリーを起こさぬようお辞儀して、マキナはメリーと共に帰路についた。


●花火の終わり
「夜空にあがる花火はどうだった?」
 一緒に花火を見ていた木嶋の質問に、六華は微笑んだ。
「綺麗でした! 大きな音がしました。すごく大きかったです」
 嬉しそうな顔でそう言った六華に木嶋も微笑んだ。
「お母さん知りませんか!?」
 ダーッと走ってきた中島が、半泣きでそう訊いた。
「お母さん? 打ち上げ花火を上げに行ってるんだろ? 花火が終わったら戻ってくるさ」
「そ、そんな‥‥!」
 中島が泣きそうな顔で川澄を見る。川澄はうーんと眉間にしわを寄せた。
「できれば花火を前にプレゼントしたかったけど‥‥待ちましょう」
「文歌先輩〜‥‥」
 川澄は中島を慰めながら、最後の調整をするのだった。

「花火大会終了〜! みんなお疲れ様でした! あ、お料理もう残ってない?」
 少しの時間の後、母は姿を現した。夜だからか、それとも花火のせいか少々黒く見える。
「‥‥ん。完食。腹。八分目。ごちそうさま。でした」
「料理が残ったら『アイドル部。』の方に頂こうかと思ってましたが‥‥」
 最上が静かに料理を平らげたことを告げると、川澄が頷き母も頷いた。
「美味しく全部食べてもらえたなら良かったわ。みんなの力作だものね」
「お母さん!」
 中島が母を呼んだ。
「ん? どうしたの? 花火楽しめた?」
「う、うん。あの、ボクね、歌作ったの。文歌先輩に助けてもらってお母さんに歌を作ったんだよ」
「? 歌?」
 母が驚いたように川澄を見ると、川澄はにっこりと笑った。
「哉子ちゃん、頑張ったんです。聴いてあげてください」
 本当は花火をバックに贈りたかった歌だけれど、中島が川澄にアドバイスを貰いながら作った歌を1人で歌い上げた。


●母の帰宅
「それじゃ、短い間でしたがお世話になりました」
 学園に深々と頭を下げて、母は荷物を纏めて久遠ヶ原を後にする。
 休学願を提出し、母は故郷の愛知へと帰宅する。
「この写真を思い出に。貴女が作った皆の夏の思い出です。お疲れ様でした」
 強羅が、あの花火の日の写真を現像してお土産にと渡してくれた。母はそれをありがたく受け取った。
「雪哉のこと、よろしくお願いします! 強羅さんも生きてくださいね」
 そう言って母は前を向く。娘に‥‥久遠ヶ原の人たちに少しでも思い出を残せただろうか?
 その思い出の中に大切だと思えるものはあっただろうか?
 その大切なもののために戦い、生きていてほしい。母はそう願う。

 写真と一緒に、CDが1枚入っていた。
 それは中島の作った歌が入っていた。
 この歌を聞く限り、我が娘には伝わっているのだと母は感じた。

『ありがとう いつか夢をかなえて帰ります
 ありがとう 心からみんなが笑えるように
 がんばるよ ボクの大切な家族 ボクの大切な友達
 みんな大好きだから』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: BlueFire・マキナ(ja7016)
 撃退士・強羅 龍仁(ja8161)
 カレーは飲み物・最上 憐(jb1522)
 外交官ママドル・水無瀬 文歌(jb7507)
重体: −
面白かった!:6人

心に千の輝きを・
御崎 緋音(ja2643)

大学部4年320組 女 ルインズブレイド
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
蒼閃霆公の心を継ぎし者・
メリー(jb3287)

高等部3年26組 女 ディバインナイト
撃退士・
音羽 海流(jb5591)

高等部3年13組 男 ナイトウォーカー
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
娘の親友・
キョウカ(jb8351)

小等部5年1組 女 アカシックレコーダー:タイプA
2人の浴衣の思い出・
観沢 遥斗(jb9502)

大学部3年145組 男 アカシックレコーダー:タイプB