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マスター:三咲 都李
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/11/04


みんなの思い出



オープニング

●斡旋所への依頼
「商店街のハロウィンを手伝ってほしいの」
「ハロウィンですか?」
 ずいっと詰め寄るのは久遠ヶ原の商店街でも企画大好きの文房具屋のおばちゃん。
 詰め寄られた生徒はメモを取りながらも、やや腰が引けた。
「去年も実はやったんだけどねぇ…なんでかしら? 子供たちが怯えて帰っちゃったのよ」
「おび…? なんで怯えたんですか?」
 その言葉に、おばちゃんは首を傾げる。
「それがわからないのよねぇ。本を参考に仮装してみたんだけど、振り向いただけで子供たち逃げちゃって…」
「何の本を参考にしたんですか?」
「妖怪図鑑よ」
 …どうやら、ハロウィンを誤解しているようだ。
「多分、若い子が仮装してなかったから驚いたのね。おばちゃんたちじゃダメなんだわ。そこで、学園の生徒さんたちみたいなピッチピチのヤングな子たちならきっと上手くいくと思うのよ。ね? 依頼、出しておいてくれないかしら?」
 根本的な間違いを指摘することもできず、斡旋所の生徒は首を縦に動かした。
 

●商店街のハロウィン
「? 商店街でハロウィン??」
 商店街の町中で見つけたポスターに中島 雪哉(jz0080)は思わず足を止めた。買い物の途中で見つけたそのポスターはなんだか興味をそそられた。
「…へぇ。ハロウィンかぁ。仮装してもいいんだ。楽しそうだなぁ♪」
 日付を確認し、軽い足取りで買い物を済ませる。
 これは行かないと…楽しみだなぁ♪ なにを着て行こうかなぁ〜?
 そうだ、友達にも教えてあげないと。誘ったら一緒に行ってくれるだろうか? 皆で行けばきっと楽しいもんね!
 なんだか居ても立ってもいられなくなって、買い物を済ませると学校に走って戻る。

「ねーねー! 商店街でハロウィンがあるんだって! 皆で仮装していかない!?」


リプレイ本文

●ハロウィンの始まり
 秋の風が吹く商店街に夜の帳が落ち始める。
「皆様ようこそ、幻想の夜へ」
 道化師姿の龍仙 樹(jb0212)は少し高い商店街のビルの屋上から飛び降りると、悲鳴に近い歓声と注目の中をふんわりと降り立った。
 その降り立った先にはかぼちゃのランタンが置かれている。龍仙が一礼すると、それに呼応するかのようにランタンに光が灯った。
「今日はこの夢幻の火に照らされた素敵な一夜をお過ごしくださいませ」
 そうして、もう1度礼をした龍仙がふわりと浮きあがる。
「うわー、すごぉい!」
 ネコミミメイド服を着た中島 雪哉(jz0080)は楽しそうに歓声を上げた。
「そうですね。ハロウィンらしい幻想的な演出です」
 そんな中島の横に佇む魔女姿の小桜 翡翠(jb7523)は目を細めた。
 学園に折角きたのだから、この機会に他の生徒の皆さんと交流を深めたい。
「これからの生活を充実させていきたいな…」
「え?」
 思わずこぼれ出た小桜の言葉に中島が首を傾げる。小桜は慌てて困ったように笑った。
「あの…お菓子、欲しいですね」
「そうですね。いっぱい貰いましょうね!」
 にこっと笑う中島に、小桜も微笑む。
「やぁ、楽しんでるかい? 雪哉君」
 その時、銀のしっぽに銀の耳をしたネコの妖精・ケットシーの仮装をしたラズベリー・シャーウッド(ja2022)と緑のシャツと帽子に青いつなぎを着たニーナニーノ・オーシャンリーフ(jb3378)が中島たちに声を掛けた。2人とも男っぽい恰好をしているが、れっきとした女の子である。
「シャーウッド先輩、オーシャンリーフ先輩。こんばんは!」
「お誘いありがとうだよ。商店街の企画とか何か楽しそうだよね」
 ニーナニーノは楽しそうな商店街を見渡す。あちらこちらに学園の生徒が催す出店もある。
「雪哉君たちは何をしていたんだい?」
 ラズベリーの言葉に中島は「待ち合わせです」と答えた。
「そろそろ時間なんですけど…」
 そう言った中島の後ろから黒い影が躍り出る。
「トリック・オア・トリート!」
「わぁっ!?」
 黒いマントと口元に牙を光らせた吸血鬼姿の相馬 カズヤ(jb0924)が可愛らしい仮面をかぶった相棒のロゼと共にニヤッと笑った。
「へへー、驚いた?」
 してやったりな顔の相馬はラズベリーやニーナニーノ、小桜に気づくと慌てて「こんばんは」と挨拶した。
「び、ビックリしたよ! ビックリさせられたから、カズヤ君にはお菓子あげないよーだ」
 中島はそう言ってぷんっとそっぽを向いた。
「ふふっ。雪哉君、許してあげなよ。折角のハロウィンなんだからさ」
 ラズベリーの言葉に、中島は少し考えた後小さく笑った。
「ハロウィンだもんね。怒ってたらもったいないですよね。カズヤ君、ロゼ。ハロウィン楽しもうね」
「そうだよ。楽しまないとね」
「楽しみですね、どんなものがあるんでしょうね」
 ニーノニーナも、小桜も微笑む。
「みんなで楽しいのが一番だよなっ! じゃあ行こうよ、脅かしに!」
 相馬はそう言って「トリックオアトリート」を歌うように言いながら歩き出した。


●ハロウィン商店街
「とりっくおあとりーと」
「はいよ、ハッピーハロウィン! クッキーだよ」
 黒い魔法使いの帽子をかぶり、キンセンカをモチーフにした小型の杖とカレーを持った最上 憐(jb1522)は、商店街を片っ端からあたっていく。貰ったお菓子はその場で食べ…いや、飲み込んで胃に収める。目には見えないが最上は光纏しており、その光纏の作用として大変お腹が空く。よって…
「‥‥ん。お菓子を。くれないと。店頭の。商品を。全て。食べ尽くすよ?」
「それは勘弁してくれるかな!?」
 最上、目がマジである。食べても食べてもお腹が空く。お菓子はいくらあっても足りない。
「‥‥ん。お菓子を。くれないと。カレーを。飲ますよ?。鼻から」
「いたずらの域を出てないか!?」
 恐れおののく商店街の店主らから『カレー魔女』の異名を密かに貰いながらも、最上は進撃していくのであった。
 そんな最上の後から現れた黒いローブにマント、とんがり帽子の魔女っ子姿の深森 木葉(jb1711)は箒の先端にかぼちゃで作ったランタンをつけて商店街を歩く。
「おかし〜、おかし〜、おかしをもらうのですぅ〜♪ おかしをくれないと、いたずらしちゃうのですよぉ〜」
 店に入ってそう言った深森に、店主たちは恐る恐る訊く。
「具体的に…どんな?」
「え? …えっとぉ…」
 考え込んでしまった深森に、店主たちはそろって頷いた。
「普通はこうだよなぁ、やっぱ『カレー魔女』恐るべしだわ」
「?」
 よく事情が分からない深森は、店主たちからお菓子を貰ってさらに商店街を歩いていくのだった。
 その深森の後からシャロン・リデル(jb7420)はいつも結っている髪を下ろし、黒いワンピースにかぼちゃのランタン、片目だけを出してぐるぐると自らを包帯で覆った姿で現れた。
 …折角だし、ちょっと参加してみようかしら。そうよ、誰も行かなかったら可哀そうですものね。
 とかなんとか自分に言い訳しながら、商店街の地図を広げてチェックは完璧。準備万端だった。
 楽しげにお菓子を持ち歩く人たちを見てどんどん期待が高まっていく。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯しますわよ?」
「こりゃまた可愛いおばけだ。ハッピーハロウィン!」
 お菓子を貰うとシャロンはスカートのすそを摘まんて優雅にお辞儀した。
 そんなシャロンを見送る店主たちは皆一様に久遠ヶ原の生徒の個性をひしひしと再確認するのだった。

「おじちゃん、おばちゃん、一緒にがんばろ〜ねっ♪」
「おー!」
 商店街の店主たちに囲まれてスピネル・クリムゾン(jb7168)は意気揚々と宣言した。
「やっぱりヤングな子はいいわねぇ。この若さがあったら去年もよかったのに…」
 文房具屋のおばちゃんがそう言ったので、スピネルは思わずツッこんだ。
「怖がらせるんじゃなくって、脅かすんだよ」
「…どう違うの?」
 これは、おそらく根本的におばちゃんにはわかってもらえないかもしれない…。
 黒の猫耳と尻尾とミニスカワンピのウェアキャット風の仮装をしたスピネルは大きな声で叫ぶ。
「お菓子ほし〜人はこっちお〜いでぇ〜っ♪」
 その声に、初等部と思われる子供たちがワイワイと寄ってきた。
「みんな久遠ヶ原の子? あたしとかけっこしよっか? 捕まえて魔法の呪文を言ってくれた子にはお菓子あげちゃうよ〜♪」
『やるーー!』
 スピネルはうんうんと頷いた。アウルを持つ子たちなら頑張って逃げちゃうよ〜♪
「よーい…ドン!」

 今夜は普段は隠している悪魔の角を出し、いつものゴスロリ姿で先ほど貰った飴を咥えながら商店街を歩く。
 クラウディア(jb7119)はハロウィンの夜を謳歌していた。
 ふと、目に留まったのはスポーツ用品店の催しだった。
『スポーツ用品店のオヤジと腕相撲勝負』
 …ハロウィンと関係ないでしょ。まぁ、せっかくだからやってみるけど♪
 クラウディアはスポーツ用品店へと入る。妖艶な微笑みで。
「ん? お嬢ちゃん、なんだい?」
「腕相撲勝負、してほしいの。ねーおじさま♪ 手加減なしで、お願いね?」
「おいおい…こんなお嬢ちゃんが俺と勝負だって…。く〜! 手加減なしだなんて健気なこと言って!」
 スポーツ用品店のオヤジはすっかり騙されていた。その艶やかな微笑みに。まさかその微笑みが悪魔の微笑みだなんて思いもしなかったのだ。
 しっかりと腕を組む。意外に太いオヤジの腕。勝敗は誰が見ても明白だと思われた。
 だが…
「お菓子、貰っていくわ。お・じ・さ・ま♪」
 にっこり微笑むクラウディアに負けたオヤジのプライドはズタボロだった。
「次はどこに行こうかしら」

「ユウねーさま、ユウねーさま! クリスお化けに見えますか? ですの♪」
 クリスティン・ノール(jb5470)は白いシーツを被ったおばけの仮装でユウ・ターナー(jb5471)にそう訊いた。
「とっても可愛い☆ ポスター見て誘ってよかった! クリスちゃんと一緒に来れたもん」
 なでなでと頭を撫でるユウに、クリスティンはにっこりと笑う。
「ユウねーさまに教えてもらったおかげですの♪ クリスはハロウィン知らないですの。初めて聞きましたですの。ユウねーさまもとっても素敵ですの♪」
 そんなユウの仮装はとんがり帽子にオレンジの南瓜パンツ、紫とオレンジのボーダーのニーハイソックスに背中には悪魔の羽。手には箒をもった魔女っコである。
「いい? クリスちゃん。人間界のハロウィンでは『おまじない』が必要なの」
「おまじない…ですの?」
 ユウはクリスティンの耳にそっと『おまじない』の言葉を囁く。クリスティンはその言葉に目を輝かす。
「本当にそれを言うとお菓子が貰えるの? ですの♪」
「うん! 行こうよッ☆」
 ユウとクリスティンは手を繋いで歩き出した。

 そんな楽しそうな仮装少女たちを見ながら楽しげに市来 緋毬(ja0164)は微笑む。
 ハロウィンとは縁がなかったけれど、参加できる催しがあると聞いて足を伸ばしてみた。ハロウィンにつきものの仮装は、去年の文化祭で着た白猫の白いフリルドレスだ。
 通りを行く人たちの楽しそうな姿を見るだけでも楽しい気分になる。と、見知った顔をその中に見つけた。
「あっきーさん、こんにちは」
 市来の声に気が付くと、龍華 亜季(ja4176)は市来に近づいてきた。
「あれ、君は‥緋毬さん。こんにちは」
 龍華は三つ揃えに懐中時計、うさ耳カチューシャ…アリスの白兎姿だ。
「衣装がよくお似合いです♪」
 やはり外国の血を引いていらっしゃるからでしょうか? 市来がにっこりと笑うと龍華は少し恥ずかしそうに笑い返す。
「子供の頃は毎年仮装したけど…この歳でやるのはちょっと恥ずかしいな…。緋毬さんは猫耳、よく似合っています。可愛いです」
「似合います? ありがとうです♪」
 市来は嬉しそうに笑う。龍華はそんな市来を優しく見ながらも、なにやら落ち着かないようできょろきょろと辺りを見回した。
「何か探しているのです?」
「従兄と一緒に来たのですが、店を見ていたらいつの間にかいなくて‥こういうお祭りが好きな人なんです」
 呆れたように龍華はため息をつく。元々ここにもコスプレ好きのその従兄に誘われ遊びに来たのだ。
「ほわぁ、自由な従兄弟さんなのです。…そうです! お祭り楽しさに逸れてしまわれたのなら、お祭りの中にいらっしゃるはず。観て回りながら探していけば、見つかると思うのですよ」
「うん? そうですね…たしかに」
 龍華は頷く。すると、市来は思わぬ提案をしてきた。
「一緒にお祭りを周りながら、従兄弟さんを探しませんか?」
 微笑む市来に、龍華は少しの間の後「それではよろしくお願いします」と市来と歩き出した。

 商店街の片隅にテーブルセットに工具を並べ、狼の耳と尻尾をつけラフで動きやすい仮装をした桝本 侑吾(ja8758)は木工細工のハロウィンパンプキンの置物や根付けの見本を飾った。
「トリック・オア・トリート! …お兄ちゃん、コレなに?」
 男の子が物珍しげに桝本の手元を覗く。桝本は男の子にそのハロウィンパンプキンとお菓子をセットにして渡す。
「ハロウィンの置物だ。悪戯はいらないから持っていけ」
「あ、ありがと!」
 にこっと笑って男の子は親元へと走っていく。それを見送ると、桝本は木片を取り出して、置物を作り始める。
「とりっくおあとりーと。侑吾さん、根付けも置物も欲しいです♪」
 聞き慣れた声がした。顔をあげるとヤギの頭の悪魔・バフォメットの被り物に革のスーツを着た青年が立っている。
「案外贅沢だな、クリフ君」
 そう言いながら、桝本はクリフ・ロジャーズ(jb2560)に根付けと置物を渡した。
「あれ? …もうちょっと怖がってくれると思ったんだけどなぁ」
 クリフは残念そうに、しかし被り物はとらずにそう言った。
「子供らは怖がっているみたいだが?」
 見れば、桝本とクリフを遠巻きにしている子供たちは綺麗に半径5メートルほどの距離を置いている。
「…うん、いい反応だね」
 そうクリフが笑った時、桝本の後ろから怯えた声が聞こえた。
「……だ、だれだおまえ…! こ、こっちきたらますもとがウエポンバッシュなんだからな!」
 桝本とクリフがそちらを見ると悪魔の角と革のループタイをつけてすっかり怯えたアダム(jb2614)ととんがり帽に胸元が大きく開いた黒いミニスカ魔女姿のシエロ=ヴェルガ(jb2679)が立っていた。
「ウェポンバッシュは勘弁して。お空の星になりたくないデス」
 両手を広げて降参のポーズをしたクリフを見て、桝本はアダムに言う。
「いや、撃たないし。あれはクリフ君だ、落ち着けアダム君」
「桝本、Trick or treatよ。─と言うか何してるの? クリフ…それどこで買ったの…アダム怯えてるわよ?」
 シエロは手作りパンプキンパイをクリフに渡しながらそう訊いた。
「…んー、フリマだったかな?」
 クリフは被り物を外すとその角だけを頭に着けて、パイを美味しそうに頬張った。
「俺はちょっとした木工細工を作ってお菓子と一緒に渡してる。折角だし貰っていってくれ」
「桝本、器用なのね…遠慮なく貰うわ有難う。これは私から。感謝の気持ちよ」
 シエロに差し出されたパンプキンパイをまじまじと見て、桝本はポツリと呟いた。
「そっちこそ器用だな」
「なーなー! クリフ! おれのかっこ、どう? どう!?」
 ビシッとポーズを決めきらきらとした眼差しでアダムがクリフにそう訊いた。クリフはアダムを上から下まで眺めた。
「アダム、ええと…かっこかわいかったよ?」
 途端、アダムはガーン! とショックを受けたように項垂れた。
 アダムの『カッコいい仮装をしてクリフをきゅんとさせちゃうぞ作戦!』は儚く失敗した。
「お、おれ、かっこよくなりたかっただけなのに…」
 すんすんと泣き出すアダムにクリフは困ったようだった。
「え? 俺、まずいこと言った?」
「アダム…大丈夫?」
 そんなアダムをシエロは覗き込む。その時、アダムの目にシエロの大きな胸が飛び込んできた。
「あれ? シエロってむねおおきいんだな。はみでちゃうんだぞ?」
 誰も止める暇はなかった。アダムはシエロの胸をおもむろ掴むと服の中にぎゅっぎゅっと押し込めた。…アダムは親切に直したつもりだった。
「は? ──っ!!?」
 バシィッ!! と素晴らしくいい音が響いた。
「…し…シエロ…? な、なんでおこったんだ? しえろ…!??」
「アダム──!!! いきなり何するの!! 怒るのは当然でしょう!!?」
 涙目で頭を押さえるアダムと右手にハリセンを持って烈火のごとく怒るシエロ。
「や、流石にそれはダメだろ」
 桝本は実に冷静にシエロの胸を掴むアダムを引き剥がしつつ、美味しいパイを齧っていた。
「…こんばんは。ボク、タイミング悪かったですかね…?」
 そんな大人のやり取りを中島は運悪く見てしまった。
「いやいや、今終わったところだから問題ない」
 桝本がそう言うと、クリフは「忘れていいよ〜」と苦笑いした。そして、自作の『かぼちゃとこうもりのアイアンプレート』を取りだしお菓子と共に中島に渡した。
「はい、ハッピーハロウィン」
「あ! トリックオアトリート!?」
 中島が慌ててそう言うと、シエロがクスッと笑った。言う順番が逆だ。
「はい、中島。仮装、似合ってるわ」
 パイを渡しながら、シエロは微笑む。中島はお礼を言いながら微笑んだ。
「ヴェルガ先輩も綺麗です!」

「…うう、何故にこんな恰好に」
 狼男の仮装を頼まれたはずなのに、用意されていた耳と尻尾と首輪をつけると垂れ耳ワンコな仮装になっていたのは獅堂 武(jb0906)。
 金欠の為、ハロウィンの臨時バイトとして雇われた獅堂はケーキ屋の呼び込みや店頭販売をしていた。
 ま、まぁ。お仕事だ。全力で頑張るとするか。
「ケーキにクッキー、いらないかー」
 大声を張り上げて、必死に呼び込むがつんつんと後ろから誰かに肩をつつかれた。
「獅堂君、できればもっと丁寧な言葉で」
「…店長…」
 獅堂は硬くなって丁寧な言葉を心掛けてもう一度叫ぶ。
「おケーキにおクッキー、いらないかー!」
「『お』をつければいいってもんじゃないでしょ!?」
「え? ダメ?」
 これ以上店長を怒らせると給料が出ないかもしれない。焦りが生まれる。
「あ、たけちゃーん!」
「お、スピネ…!?」
 店の前を猛スピードでスピネルが走り抜けた。それはもう、声もかけられないくらいの速さで。そして、そんなスピネルの後を何人もの子供たちが追いかけていく。
「な、なんだぁ…?」
「あらぁ…大変そうね」
「クラウディアさん! ケーキとかクッキー、買っていかな…」
 知り合いのクラウディアに声を掛けられ、思わず売り込みをかけようとした矢先にクラウディアはにっこりと言った。
「トリック・オア・トリート♪」
 手まで出されて、店長の痛い視線を感じながら獅堂はクラウディアにお菓子を渡した。
 そこに最上も現れ「とりっくおあとりーと」と言った。
「‥‥ん。カレーは。無いの?。カレー味の。菓子でも。良いよ」
「いや、ケーキ屋でカレー味はおかしいだろう?」
 至極もっともな意見であった。

「ここにはハロウィンにちなんだ物がいろいろ売ってるよ! 是非みんな見てきてね!」
 滅炎 雷(ja4615)はネコミミの魔法使いとして露店を開いた。
「クッキーにジャックオランタン、僕のつけてるネコミミなんかもどうかな?」
「クッキー? トリック・オア・トリートじゃダメ?」
 女の子が滅炎に訊ねた。すると滅炎はにっこりと笑った。
「悪戯されるのは嫌だからね、お菓子をたくさんあげるよ! これで勘弁してね!」
 袋に入ったお菓子をそっと取り出す。
「みんなには内緒だよ?」
「うん!」
 そう言って女の子が受取ろうとした瞬間、滅炎は商品として並んでいたジャックオランタンにトワイライトをかけた。
「うわぁっ!」
 一斉に光りだしたジャックオランタン。女の子やその場にいたお客は歓声を上げた。
「どお? ビックリした? してくれると嬉しいな〜」
「うん、ビックリした…でも、いたずらしたらお菓子貰えないよ?」
 女の子の言葉に滅炎は微笑む。
「僕はみんなが楽しんでくれたら、お菓子はいらないんだ」
 そんな滅炎のところに、クリスティンとユウが現れた。
 2人はせーのと声を合わせて言う。
『Trick or treat!』
「悪戯は嫌だなぁ。ちょっと待ってね」
 滅炎はお菓子を取り出して、クリスティンとユウに渡す。また、ジャックオランタンが光り輝いた。
「ハッピーハロウィン!」
 お菓子を貰ったクリスティンは感激したようにユウを見た。
「ユウねーさまの言った通りですの…えへへ、何だか魔法の言葉みたいですの!」
「もっともっとお菓子いーっぱいもらお☆」
「たくさん言って、たくさんお菓子を貰いますですの!」
 クリスティンとユウは道行く人たちに声を掛けながら、たくさんのお菓子を貰って行った。

『とりっくあんどとりっく! 挑戦者ボシュウ☆』
 ゴスロリメイド服に身を包んだ新崎 ふゆみ(ja8965)はどーんとその看板を路上に立てた。
「これ…何をするんでしょうか?」
 不可思議な『挑戦者』の文字に心惹かれた魔女姿の保科 梢(jb7636)は期待に満ちた目で新崎に話しかけた。
「もらったお菓子をかけて勝負だよっ★ミ ふゆみにあっちむいてホイで勝ったら、2倍のお菓子をあげちゃうよっ」
「2倍…!」
 『はろうぃん』を楽しみにしてきた保科は、お菓子をいっぱい貰っていた。これが2倍に!?
「ふゆみもちょっぴり、アバれちゃうよっ! 挑戦…するっ?」
 いつの間にか保科の周りには同じように2倍に期待する子供達が集まってきていた。
『やりますぅ!』
 大きな声でそういうと、真剣勝負が始まった。
「じゃんけんポン☆ あっちむいてホイ!」
 保科の年齢はわからないが、たぶん自分と同じくらいだと思った新崎は手加減しなかった!
 故に…
「負け…ましたぁ」
 ショックを隠せない保科に、新崎はにこっと笑う。
「ごめんねっ★ミ」
 しかし、保科は魔法の言葉を唱えた。
「トリックオアトリートです。お菓子くださーい!」
「…え?」
 新崎がまず首を傾げた。続いて保科も首を傾げた。両者ともにその言葉の先を悩んだ。
「いやーっ! やめてっ☆ あははっ!」
「お菓子くれないから、いたずらしますぅ!」
 保科は新崎にいたずらを実行した。まさかの攻撃に新崎、圧倒的不利であった!
「お菓子、貰いましたぁ」
 にこにこ顔の保科を見送り、新崎は息を整えると待っていた小さな挑戦者たちに向き直った。
「手加減しないぞぉっ☆」
 そう言いながら子供を相手にちょっとだけ手加減してあげるのが新崎の優しさだった。

 透き通った歌声が聞こえた。それは誰もが聞いた事のある歌だったが、どこか心奪われる。
 足を止め、その歌声を辿った先に織宮 歌乃(jb5789)の姿があった。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
 深く礼をした織宮の仮装はゆったりとした蒼いドレスのローレライ。川の妖精だ。
「今宵は私と歌のしりとりをしましょう。私が歌った後の続きを歌えた方に、お菓子をお渡しします」
 ハロウィンというものに馴染みのない織宮が人を楽しませようと考えた催しだった。
「♪〜…はい、この続きがわかる方はいますか?」
 ラズベリーとニーナニーノが手をあげる。
「…〜♪ じゃないですか?」
「はい、正解です。では、お菓子をどうぞ」
 織宮がお菓子を手渡すとラズベリーとニーナニーノは「ありがとうございます」と礼を言った。
「さぁ、みなさんもわかる歌があったら手を挙げてくださいね」
 織宮の言葉に観客の中にいたシャロンは、次にわかったら手を上げようと心に決めた。
 きっと、私にもわかるはずですわ。
 そうして、織宮の静かなコンサートは、少しずつ観客を増やしていった。

 竹箒を持った魔女姿のロキ(jb7437)。
「んー……普段来れない、商店街のお祭り……楽しみ…」
 露店を開くと言っていた友達、神谷春樹(jb7335)の元へと向かう。
 そんな神谷はハンドガン型のエアガンで、狼男型の人形を倒す射的ゲームを出店していた。
「銀の弾丸を使い、僕に敵対する眷属を倒すのを手伝ってほしいのです」
 ヴァンパイアの仮装をして、物語で子供達を呼び込む神谷。子供たちはそんな神谷の射的ゲームに興味を示した。
 的のいくつかにはわざと倒れないものが仕込んであり、それを必死で倒そうとする子供は最終的に親に泣きついた。結果、お父さんたちが射的ゲームに集うこととなった。
「パパがんばれー!」
 子供の声援に頑張る父の姿。これもまた楽しい祭りの形かもしれない。その楽しむ人の中にニーナニーノとラズベリーもいたのだが…。
 ロキが神谷の屋台を訪れて声を掛けた。
「…春樹のは…射的…? ……春樹の敵は…私が倒す…」
「ロキさん! いらっしゃ…あ、ごほん。よろしくお願いします」
 一瞬素で話しかけそうになりながら、神谷はヴァンパイアに戻ってロキにエアガンを渡す。ロキはコクリと頷いた。
 しかし、ロキの弾は的に当たるどころかあらぬ方向へと飛んで行ってしまう。
「………」
 ロキは静かにエアガンを置いた。何故だかわかってしまったのだ。
 これ以上やっても無駄だと…。
「気を落とさないでくださいね」
 苦笑いの神谷に、去り際ロキは思い出したように言ってみた。
「んー……春樹、トリックオアトリート……お菓子くれなきゃ…悪戯する…」
 神谷はいつもの笑顔で「ハッピーハロウィン」とロキにお菓子を渡した。悪戯したい気持ちはあったが、お菓子を貰ってしまったのでロキは我慢することにした。
「んー……ありがとう…」
 ロキはそういうと神谷の露店を後にした。なんだか心の中が温かかった。
「やった! 8個目の的を倒したぞ!」
「おめでとうございます! その的の景品はこれです!」
 自腹を切って少し高めのお菓子を景品として渡す。親と子の喜ぶ顔が神谷には眩しく見えた。
「春ちゃん!」
 神谷をスピネルが呼んだ。
「つーかまえた!」
 鬼ごっこ中だったスピネルはついに1人の子供に捕まると、次々と捕まえられた。
「あー…捕まっちゃった! よし、じゃあ約束通りお菓子あげるよ! 春ちゃん、また後でゆっくり来るよ」
 スピネルはそう言ってスタート地点へと子供達と一緒に戻っていく。ハロウィンの歌を歌いながら、出店のひとつひとつ、仮装した子に声を掛けながら。

 『文房具、買ってくれたらクイズに挑戦!(勝ったら、おまけ)』の文字につられて相馬と小桜、中島は文房具屋に入ってみた。
 景品と書かれていたのは大きなお菓子の詰め合わせだった。
 中島がボールペンのセットを買ってクイズの参加権を貰った。
「よし、じゃあ特別に3人で問題解いてもいいよ。ただし、回答は1回だからね?」
 文房具屋のおばちゃんは意地悪そうな砂かけ婆の仮装で笑った。
「山の下に穴を掘ったら『何』かが落ちました。2人がそこを見に行きました。さて何がいた?」
 スマホを取り出していた相馬がポカンとした顔をした。
「な、なにそれ?」
「ヒントはないんですか?」
「ヒントはなし!」
「う〜…」
 ヒントも与えられないまま、相馬が必死で検索するがうまくキーワードが引っ掛からない。
「ぶぶーっ、時間切れ」
「えー! 答えは?」
 相馬がそう訊くと、おばちゃんはにやっと笑って「ナイショ☆」と言った。

「おや、雪哉君たちじゃないか」
「あ、シャーウッド先輩にオーシャンリーフ先輩!」
「いっぱい貰ったね、雪哉ちゃん達も」
「…すごいですね」
 小桜の言葉はラズベリーとニーナニーノの抱えるお菓子の数だった。
「うん、だいぶ回ったからね」
 ニーナニーノはそう言って微笑んだ。
「そういえば…お菓子をあげないと、雪哉君はどんな悪戯をしてくれるのかな…?」
 ラズベリーが中島の耳元で囁いた。
「えっ!? えっ…!」
 赤くなって慌てる中島にラズベリーはふふっと笑う。
「一応いたずら成功、なのかな。僕からも…はい、ベリーパイをどうぞ♪ そっちのきみも貰ってくれるかい? 良い夜をね」
 そう言ってラズベリーはいたずらっぽくウインクした。
「ラズ、ボク秋物の服を見たいんだ。それから可愛い筆箱も欲しいから見に行こう」
「わかったよ、ナノ」
 2人と別れた後、小桜と中島はいつの間にか相馬がいないことに気が付いた。
「どこに行っちゃったのでしょうか?」
「雪哉ちゃ〜ん。こんばんはなので〜す」
 中島は深森に出会った。
「可愛いネコミミちゃんですねぇ〜」
「木葉ちゃんも可愛い! 似合うよ、すっごく!」
「ふふっ、ありがとうなのですぅ」
 はっと、中島は相馬のことを思い出し、深森に訊ねてみた。
「相馬さん…ですか〜? ん〜見ませんでしたねぇ」
「そっかぁ…」
 肩を落とす中島に、深森は「見かけたら雪哉ちゃんが探してたと伝えますね〜」と言った。

 龍仙は空を舞いお菓子を配りながら、火が点いていない照明へトーチで火を点けて回る。
 優しい笑顔を振りまきながら。
 そうして、夜は更けていく。ハロウィンの夜が終わろうとしている…。

 
●祭りの後
 結局、龍華の従兄は見当たらなかった。龍華は市来に持っていた箱を渡した。
「手伝ってくれたお礼に、これをどうぞ」
 中身は魔女のキャラメルとパンプキンプディングだ。
「ありがとうなのです。…お役にたてなくてごめんなさい」
 それでもハロウィンを楽しめたのは市来のおかげだ。龍華は市来に「ありがとう」と伝えた。

 ロキは貰ったお菓子を食べながら休憩をとった。月を眺めながら思う。
 また…来年もこれたらと…。

「わ〜い、おかし、いっぱ〜いなのですぅ〜」
 深森はお菓子をたくさんもらって、ほくほく笑顔で帰っていく。

 クリスティンとユウは貰ったお菓子をお互いに見せ合い、部屋に帰って一緒に食べることにした。
「楽しかったですの。ユウねーさまと食べ合いっこをするですの」

 歌い終わった織宮には盛大な拍手が贈られた。
「歌う事は、私は大好きですからね。それで楽しんで頂ければ」
 そう言って、1人1人に感謝の言葉とお菓子を配った。

 最上は貰ったお菓子を食べながら呟く。
「‥‥ん。毎日。ハロウィンだと。良いね。無料で。食べ放題」
 それは無理な話だが、確かにそうだと楽しそうだ。

 相馬と会えないまま、小桜と別れ中島は商店街を後にした。
 商店街を出てすぐ後ろから声を掛けられた。
「カズヤ君! どこ行ってたの!?」
 その中島の問いに相馬は答えず、可愛らしいレースのハンカチとチョコプレッツェルを差し出した。
「これもらったけど、ボクには可愛すぎるからやる」
「ボクに? でも…」
「いいからやるって」
 ハンカチと相馬を見比べていると、相馬は小さく呟いた。
「…顔見るなよ、見るんじゃないぞっ」

 商店街に来たすべての人に、商店街の感謝としてハロウィンクッキーが贈られた。
「ハロウィン、成功ね。手伝ってくれてありがとうね」
 依頼を引き受けてくれた生徒にはわずかながらの報酬が商店街より振り込まれた。
「そういえば、クイズの答えを教えていなかったね。答えは…

『へ
 び』

だよ。ほら、やま(へ)の下に穴(ひ)を掘って2人(゛)が見に行ったんだよ。縦に紙で書いてごらん。ハッピーハロウィン!」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

何も怖くない(多分)・
市来 緋毬(ja0164)

大学部4年213組 女 鬼道忍軍
carp streamer・
ラズベリー・シャーウッド(ja2022)

高等部1年30組 女 ダアト
撃退士・
龍華 亜季(ja4176)

大学部8年119組 男 アストラルヴァンガード
泥んこ☆ばれりぃな・
滅炎 雷(ja4615)

大学部4年7組 男 ダアト
我が身不退転・
桝本 侑吾(ja8758)

卒業 男 ルインズブレイド
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト
桜花絢爛・
獅堂 武(jb0906)

大学部2年159組 男 陰陽師
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
カレーは飲み物・
最上 憐(jb1522)

中等部3年6組 女 ナイトウォーカー
ねこのは・
深森 木葉(jb1711)

小等部1年1組 女 陰陽師
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
月夜の宴に輝く星々・
シエロ=ヴェルガ(jb2679)

大学部7年1組 女 陰陽師
ゲームセンターEX!・
ニーナニーノ・オーシャンリーフ(jb3378)

高等部3年7組 女 ディバインナイト
繋ぐ手のあたたかさ・
クリスティン・ノール(jb5470)

中等部3年3組 女 ディバインナイト
天衣無縫・
ユウ・ターナー(jb5471)

高等部2年25組 女 ナイトウォーカー
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
Trick or Treat?・
クラウディア(jb7119)

大学部6年33組 女 バハムートテイマー
瞬く時と、愛しい日々と・
スピネル・アッシュフィールド(jb7168)

大学部2年8組 女 アカシックレコーダー:タイプA
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
心遣いが暖かい・
シャロン・リデル(jb7420)

高等部3年17組 女 ダアト
氷れる華を溶かす・
ロキ(jb7437)

大学部5年311組 女 ダアト
祈りの胡蝶蘭・
小桜 翡翠(jb7523)

高等部3年6組 女 アストラルヴァンガード
非リア充殺し・
保科 梢(jb7636)

大学部2年34組 女 陰陽師