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マスター:三咲 都李
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/13


みんなの思い出



オープニング

●中島・独白
 ボクの名前は中島 雪哉(jz0080)。
 ボクはこの間、先生に怒られた。
『学園はチームだ。おまえはどれだけの人間を危険に晒したかわかってるのか!? それがわからないなら、撃退士なんかやめろ!』
 そして、ボクは2週間依頼を受けることを禁止された。
 ボクはそれに従った。ボクが悪いと思ったから。ボクが先輩たちを危険な目に遭わせたから。
 ボクは正しいことをしたつもりだったけど、それは間違いだったんだ。
 だから、ボクが撃退士になったのも間違いだったのかも…。
 

●心配する友達
「…見ててイライラするの」
 斡旋所に訪れた初等部の森本小松は、中島の同級生である。
「先生に怒られたか何だか知らないけど、暗ーい雰囲気して、下ばかり向いて…鬱陶しいったら」
 ぷんすかと怒る小松に、斡旋所の生徒は苦笑いする。
「まぁまぁ、落ち着いて…」
 お茶を勧める斡旋所の生徒に、小松はごくっと一口でお茶を飲み干す。
「…こんなこと、本来は依頼なんかにするべきじゃないと思うけど…私、中島さんのああいう顔見てたくないの。誰かに中島さんを助けてほしいの。…私だと、きついことばかり言いそうだから…中島さんを元気にしてほしいの」
 俯いて言った小松は、困ったような泣きそうなような…そんな複雑な表情をしていた。


リプレイ本文

●1日目
 相馬 カズヤ(jb0924)は昼休みに中島 雪哉(jz0080)の教室に行くと、中島はボーっと座っていた。
 何があったかしらないけど、あいつの落ち込んでる顔は見たくねーな…。
「天気いいし、屋上行こうぜ!」
「…カズヤ君?」
 相馬は中島と一緒に屋上へ上った。
「これ、やるよ」
 中島は菓子パンを受け取り、2人はベンチに座る。
「…何かあったのか?」
 相馬が訊くと、中島はポツリと依頼で怒られた事を話した。
「ボク、もう…」
「お前らしくないなあ」
 相馬はポケットから2組のカードの束を取り出した。
「そういう時は気晴らしするといいんじゃね? ボクも気晴らしに付き合うからさ。ついでに得意なこのTCG教えてやるよ」
 相馬はカードを1組渡す。中島はそれを受け取った。
「T…?」
「よし、やるぞ!」
 手際よく相馬はTCGスペースを作った。
「手札から1枚ここにおいて。そしたら…」
 相馬のTCG授業は昼休みギリギリまで続き、最後にこう言った。
「次は実戦な!」
「わ、わかった!」
 少しだけ笑った中島と相馬は廊下で別れた。
 相馬の気遣いに申し訳ない気がして、中島は落ち込む。

 そんな中島の後ろに、山ほどお菓子が入ったおもちゃのバケツを持つヴァローナ(jb6714)。
 ヴァローナは囁く。耳には届かぬ『悪魔の囁き』を。
「あ…れ?」
 中島は頭を振る。悪魔の囁きは効いたようだ。ふらっとヴァローナは中島に近寄った。
「気の迷いは授業を疎かにする。授業に出ても上の空だし、実践は特に危険。…ヴァロと一緒に楽しいことしよ?」
 そして、気が付けばゲーセンの前にいた。
「授業…あれ?」
 辺りを見回す中島を、ヴァローナはグイッと自分に向かせた。
「ヴァロに勝ったら、お菓子あげる」
 中島がヴァローナの顔を直視した。
「立て看板の人だ…」
 中島は立て看板のヴァローナを見ていたようだ。思わぬ反応にヴァローナは少し赤くなった。と、遠くでチャイムが鳴った。
「授業!?」
「今からじゃ無理。さ、ヴァロとゲームする」
 慌てる中島の襟首を掴んでゲーセンの中に入り、対戦格闘ゲームの前に座らせる。
「絶対勝つ。絶対負けない」
 ヴァローナの迫力に中島は筐体のスティックを握る。しかし、中島はあっさりKOされた。
「負けたら悔しい。情けない」
 その言葉に中島は頷く。
「…うん、悔しいです」
 スティックを握り直して中島は無我夢中で勝利した。
「もう1回!」
 負けても勝っても楽しい。
「はい!」
 対戦の後は協力プレイの筐体に移る。2人でゲームをしつつバケツのお菓子を食べたり笑ったり。そんな楽しい時は流れ、学生達の声が聞こえた。
「学校が終わったんだ」
 中島がヴァローナにぺこりと頭を下げた。
「ボク、学校に戻ります。楽しかったです」
 そう言った中島にヴァローナは首を傾げる。
「楽しいことを楽しいと思えないって変なの」
「え?」
 楽しそうな笑顔は消えていた。
「楽しくない顔してるから、まだヴァロと遊ぶ」
「えぇ!?」
 ヴァローナが中島を解放したのは、3時間程後だった…。


●2日目
 翌朝、快晴の空。
「中島さん!」
 その声は白衣姿の藤沢薊(ja8947)だった。
「今暇? 暇なら、付き合ってほしいとこあるんだけどさ。いいかな?」
 『気の迷いは授業を疎かにする』ヴァローナの声が響く。
「うん、いいよ」
「よかった」
 藤沢と歩き出す。その先には森があった。
「たまにはこういうところもいいよね?」
「うん。気持ちいいね」
 深呼吸する中島に藤沢は道端に咲く草花の薬効を話す。
「あの花の種は、骨を溶かすんだよ」
「!?」
 他愛のない話をしながら歩くと小さな広場に出た。藤沢は本題に入った。
「ねー、なんか悩み事あるのかな? なんか今の中島さん、前に子供たちのために頑張ってた頃の元気が見れないから。俺でよければ話聞くし…」
 中島が驚いて、困ったように笑う。
「ボク、そんなに顔に出てるのかな? 昨日も友達に訊かれたんだ」
 中島は話し始め、藤沢はゆっくりと相槌を打ちながら聞いた。
「撃退士ってさ、辛いことだけじゃないと思う。だってさ、友達も増えたし、中島さんが撃退士やってて救われた人だっているよ」
「いる…かな?」
 弱気な中島に藤沢は大きく頷く。
「救えてるよ。自信持って!」
「う、うん!」
 思わず頷いた中島、藤沢はおもむろに白衣を脱ぎだす。
「薊…君?」
 中島が目を丸くした。それは…
「に、似合うかな? にぃちゃんに選んでもらった…」
 藤沢の白衣の下には半袖のシャツと赤いチェックのスカート。小柄な藤沢によく似合う可愛らしい格好だ。…念の為、藤沢は正真正銘『男の子』である。
「その…俺は中島さんに笑ってほしい。そっちの方が可愛いもの」
「かわっ…!?」
 瞬間的に赤くなる中島につられ、藤沢も赤くなって早口に捲し立てる。
「って、別に笑わせるためじゃないし、可愛いっていうの言葉のあやで…。心配だってしてないし…そ、そうだ…俺のためだよ。友達、元気ないと俺も凹むから、ただそれだけだし…」
 藤沢の言葉は気持ちとうらはら。そんな藤沢を中島はなだめる。
「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて!」
 立場が逆転してしまっていた…。藤沢を落ち着かせ白衣を着せると、2人は学校へ戻った。
「薊君、大丈夫?」
「大丈夫…中島さんは大丈夫?」
 その問いに「大丈夫…ありがとう」と中島は言った。藤沢はホッとして教室へと戻っていく。
 中島は周りに心配をかけている事を自覚した。せめて誰かといる時は笑顔で…。

「中島さん」
 ふいに声をかけたのは楯清十郎(ja2990)だった。
「清十郎先輩?」
 驚く中島に笑顔の楯は唐突に言う。
「夏なのに海に囲まれてる久遠ヶ原で、海で遊ばないのは勿体無いですよ!」
「へ? わぁぁ!?」
 返答の隙はなく、あっという間に楯に連れられ中島は夏の海辺に立っていた。これは既視感…?
「清十郎先輩、授業が…」
「水着は…さすがにないですよね? まぁ、夏だしすぐ乾くでしょう」
 制服のまま海に突っ込んでいく楯に手を取られ、中島も海へと引きずり込まれる。
「うわぁ!?」
 ざぱーん…。
「やっぱり夏の海はいいですねー」
「ふ、服…」
「…今度来る時は水着を持ってきましょう」
 笑顔の楯に悪気はない。でも…
「えーい!」
「!?」
 服が濡れたお礼はしなくては。中島は勢いよく楯に海水をかけた。
「…中島さん容赦がないですね。それ!」
「お返しです、えい!」
 そこからは文字通りの水かけ論である。2人が飽きるまでそれは続けられ、その後浜にあがった。
「さて、出来るだけ大きいお城でも作りましょうか…10m位の」
「じゅっ!?」
「冗談です」
 ニヤリと笑った楯。中島は胸を撫で下ろす。その代わり、砂で小さな山を作って棒倒しを始めた。
「ところで…何かありました?」
 楯が何気なく訊いた。まだ顔に出てるんだろうか?中島は依頼での失敗を話す。
「…誰にだって失敗はあります。僕は護り切れず目の前で人を攫われたことがあります。その時は同じ事を考えましたよ」
「清十郎先輩も?」
 中島が顔をあげると、楯は頷いた。
「でも辞めれませんでした。僕が撃退士になって救えた人達がいますから。その悪魔さんも中島さんが撃退士だったから助けることができたんですよ」
 それは…そうなのかもしれない。でも他の皆を危険に晒したことは事実だ。
「…」
「あまり悩みすぎないでください」
 楯の笑顔は優しくて…涙が出た。
 

●3日目
 翌朝、中島の寮に2人の訪問客が現れた。
「今日はアキたちと一緒に遊びに行くですよぅ?」
「久しぶりだねぇ…何やら沈んでいると聞いてね。ちょっと遊びに出ないか?」
 鳳 蒼姫(ja3762)と鳳 静矢(ja3856)である。
「外出の準備は…オケーですねぃ? じゃあレツゴーですよぅ!」
 蒼姫が満面の笑みで中島を捕獲。
「大丈夫だよ、何もとって食う訳じゃないから」
 静矢の冷静な答えを聞きながら、そのままショッピングセンターへ!
「もう秋物の新作が入ってるよぉ〜。この小物も雪哉ちゃんに似合いそうですねぃ!」
 蒼姫が中島と静矢の手を取り、店へと入っていく。静矢は店に入ると椅子に座り、蒼姫と中島の様子を見守る。
「雪哉ちゃんには、アキはピンクのフリルのワンピースとか似合うと思うのですよねぃ」
 そう言いながら何着も手に取り、蒼姫は笑顔で中島に渡す。
「試着してみるのですよぉ。きっと似合うと思うのですねぃ」
「わっ!?」
 試着室に放り込まれ、中島はワンピースを見た。…可愛い。少し経って、中島が顔を出す。
「あの…」
「待ってましたよぉ!」
 試着室のドアを開ける蒼姫。
「きゃー! 雪哉ちゃん、可愛いのですよぅ。静矢さんも見てくださいよぉ!」
「ん?」
 蒼姫の言葉に静矢が立ち上がろうとするのが見えて、中島は慌てて「大丈夫です!」と試着室に戻った。
「雪哉ちゃん、次のもきっと可愛いのですよぉ」
 蒼姫のうきうきとした声が聞こえる。気分はファッションショーだ。
 …でも買わない。それがウィンドウショッピングなのだ。

 ショッピングセンターには色々な店がある。その中のTCGの店に相馬はいた。
「次は何処に行きましょうかねぃ」
 蒼姫の横を歩く中島を見つけると、相馬は声を掛けた。
「中島!」
「カズヤ君!」
 中島は蒼姫と静矢に断りを入れ、相馬に駆け寄った。
「今、TCGやってたんだ。折角だしちょっと相手しない?」
「えっと」
 中島は後ろを振り返る。そこには蒼姫と静矢がいる。
「鳳にーちゃん、ねーちゃん。ちょっとだけ…ダメ?」
 相馬の悪戯っぽい笑顔に蒼姫と静矢は顔を見合わせ…時計を見た。約束の時間が近い。
「時間が…ね?」
 言われて相馬も時計を見た。しまった!という顔だ。
「?」
 中島はキョトンとした。と、蒼姫が中島を引っ張って甘味屋へと入る。
「えーっとぉ、雪哉ちゃんにはブルーベリーチーズケーキとカスタード入りのクレープとタピオカ入りココナッツミルク。アキはバナナとバニラアイス入りのクレープとイチゴミルク。静矢さんはみたらし団子とあずきのせ団子と緑茶。それとぉ…ここからここまでテイクアウトで!」
 蒼姫の言葉に相馬が「大人買いだ」と感心した。
 中島はカラオケボックスに連れられてきた。『楯』の名で予約された部屋に入るとそこに楯、藤沢、ヴァローナ、さらに中島の同級生の森本小松までいた。
「お店に断りを入れてケーキを用意しました。もちろんメッセージプレート付きです」
 楯の言う通り、テーブルの上には大きなケーキ。
『誕生日おめでとう・中島さん』
「アキからはこのクレープ! 皆に回してねぃ☆」
 クレープが皆に回ると蒼姫はクレープを高くかざした。
「さあて、ちょっと過ぎちゃったけど雪哉ちゃんの誕生日を祝いつつ食べるのですよ! ハッピバスデー、雪哉ちゃん☆」
 乾杯の代わりにクレープを。サプライズパーティー。
 楯は部屋を出て10束の花束を抱えて戻ってきた。
「10歳ですもんね。驚かせてみようかと用意しました」
 楯でも持ちきれない花束に、中島は埋もれてしまった。
「こんなに花束貰ったの初めて…!」
 喜びの声が花束の中から聞こえた。
「人間のお菓子最高。駄菓子は至高の極み。誕生日ならお菓子、皆で食べる。ヴァロは悪魔。でも人間の食べ物、好き。雪哉は何が好き?」
「ボクは…駄菓子もケーキも全部好きです」
「…雪哉、ヴァロより悪魔」
 ヴァローナの言葉に雪哉が笑うと、藤沢はそれをカメラにおさめた。
「やっぱ、その笑顔似合ってるよ。辛いときこそ笑おうよ! はい、笑えたご褒美♪ 手作りだぞ?」
 そして可愛らしい包みを中島に手渡した。中島が中を開けると…
「薊君、お煎餅焼けるの!?」
「俺が食べたかったから、ついでに焼いてきただけだよ」
 藤沢の言葉に中島は微笑む。
「中島、アイドルになりたいんだろ? 歌、聞いてみたいな」
 相馬がそう言うと、楯が提案をした。
「あー、じゃあ中島さんと森本さんでデュエットとか?」
「なんで私が!?」
 焦る小松にヴァローナがとどめを刺す。
「ヴァロ、カラオケ知らない。雪哉と小松はヴァロに教える。3人ならもっと楽しい?」
 歌声が響く。楽しい誕生日パーティーだ。数時間が経った頃、中島は少しだけ部屋を出て、外を眺めた。
「何を悩んでいたのかな?」
 その声は静矢だった。蒼姫も一緒だった。中島は苦笑した。
「やっぱり顔に出てるのかな?」
 中島は依頼で怒られた話をする。静かに聞く蒼姫と静矢。静矢は経験を積んだ先輩として諭す。
「確かに先走ったりして味方を窮地に追い込む事はある。しかし『熱意』があるのは良い事だと思うな。先生も、もう二度と依頼に参加するなと言っている訳ではないのだからね。…一緒に依頼に参加した人や中島さんの友人も、また一緒に依頼をしたいと思っているはずだよ」
 黙ったままの中島を、蒼姫は静かに見守った。


●後日
 相馬が屋上に上ると笑顔の中島がTCGのカードを持って手を振った。
「…元気じゃん」
「うん! …皆に元気貰ったから」
 中島は寮に蒼姫と静矢、そして小松が来た事を話し始めた。

「実は…既に知っているかもしれないが、森本さんが中島さんを元気付けて欲しいと依頼してきてね」
 静矢の言葉に、小松が顔を伏せた。
「…だから皆…顔に出てたんじゃないんだ」
 少し着眼点がズレているが、静矢は中島に言う。
「誤解のないように言うが、依頼とはいえ引き受ける・受けないは自由だ。皆、中島さんに元気を出して欲しいから引き受けたのだよ…それだけ、皆中島さんを心配しているのだよ。以前一緒に行った風呂掃除でも、皆感謝していただろう? 中島さんは、ちゃんと人の役に立つ事も十分できる…今回は焦りすぎだったかもしれないが、中島さんだから助けられる・救えるモノもあると思う。今回の事は教訓として…また、中島さんは中島さんらしく頑張れば良いのではないかなと私は思う。どうかな?」
 静矢の言葉に、中島は皆の顔を見る。
「…依頼はね。仲間と一緒にちゃんと考えてやり抜く。自分勝手な行動は時と場合だから。そこだけ忘れなければ、大丈夫だよ」
 『仲間と一緒に』…それが大事な事。

「何か困ったことあったら助けてやるから」
 相馬の言葉に中島は笑顔で頷く。
「お前、危なっかしいから見てないと心配なんだよな…お前のことキライじゃないし」
 ボソッと言った相馬の言葉に「ごめんね、心配かけて」と中島は呟いた。
「そうじゃなくて! お前が元気ないとさ…みんながしょんぼりするからさ。失敗だって成功の母、って言うじゃん? お前らしくいたらいいんじゃないかって思うんだ」
 それから、相馬はポケットを探った。
「あと、誕生日おめでとな。この間、渡し損なった」
 小さな袋には薔薇水晶のペンダント。純粋に似合いそうだと選んだその石の意味を相馬は知らない。それを受け取る中島も。
「大事にするね。ありがとう!」

 仲間がいるからボクはまだ頑張れる。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:4人

道を切り開く者・
楯清十郎(ja2990)

大学部4年231組 男 ディバインナイト
蒼の絶対防壁・
鳳 蒼姫(ja3762)

卒業 女 ダアト
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
八部衆・マッドドクター・
藤沢薊(ja8947)

中等部1年6組 男 ダアト
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
小悪魔な遊び・
ヴァローナ(jb6714)

大学部3年278組 女 鬼道忍軍