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マスター:三咲 都李
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/02/27


みんなの思い出



オープニング

●おばちゃん、痛恨の発注ミス
 バレンタインデー。
 心躍るその言葉。甘いスウィートな一日。
 それを引き立てるのはやはりなんといってもチョコレートである。
 市販の高級チョコから愛のこもった手作りチョコまで、貰えるものなら何でも貰ってしまえ!
 …くれるならね?
 まぁ、そんなくれる人がいるのかいないのかはさておき、商店街にあるスーパーに中島 雪哉(jz0080)はるんたったと入っていった。
 お目当てはチョコレート。
 …とはいっても、友達にあげるいわゆる『友チョコ』を買いにきたのである。本命チョコをあげる日は来るのか!?
 と、中島はそこでチョコの山を目の前に呆然とするスーパーの従業員を発見した。
「…どうか、したんですか??」
 思わず声をかけた中島に、振り返る従業員。
 その顔は…泣き崩れたおばちゃんの悲哀に満ちていた。

「チョコレート…誤発注してしまいましたの…」


●中島、チョコレート売りを思いつく
 おばちゃんの説明によると、誤発注数はなんと425個。
 すべてが義理チョコと一目でわかる素晴らしいチョコレートの山である。
「これ売り切らないと、私が全部買い取ることになりますの〜…。半額にして…それから…それから…ど、どうしたらいいのでしょう…うっうっ」
 定価はひとつ500円。それを半額にしても250円。これを1人で425個さばくというのは…無理難題である。
 1人でならば…。
「おばちゃん! ボク、学園の皆に協力してくれるように頼んでみます! 大丈夫! みんなで頑張ればきっと何とかなるよ!!」
 中島は余計なことに首を突っ込んだ!
「ボクが25個担当することにして…残り400個。何人集まってくれるかわからないけど、おばちゃんの負担減らせるように頼んでみるから!」
 中島は学園への友人へとメールを打ち、それを拡散してもらうことにした。
 と、おばちゃんは泣きながら言った。

「タダじゃ悪いから、売れた半額を手伝ってくれた人に報酬としてお支払するわ〜うっうっ…」

 こうして、中島のメールは拡散されていった…。


リプレイ本文

●拡散の威力
 丁度スーパーに居合わせた神凪 宗(ja0435)は、中島 雪哉(jz0080)とおばちゃんの深刻そうな顔を目撃した。
「どうかしたか?」
 思わずそう訊ねた神凪だったが、事情を聴くにつれ力が抜けた。
「何やら深刻そうな顔をしているから、天魔が出現したのかと思って声を掛ければ…。チョコを誤った発注で随分な数を買った、か 。別に撃退士が手伝う事でもなさそうだが…聞いてしまった以上、多少は手伝うべきか」
「ありがとうございます!」
 おばちゃんは頭を下げ中島と早速袋にチョコを分けていく。
「さっき、友達にメールを拡散してくれるように頼んだので、他の人もきっと手伝いに来てくれると思います」
 そう言って神凪にチョコを渡すと、見覚えのある顔がスーパーに来店した。
「雪哉君」
「シャーウッド先輩! カズヤ君も!」
「よう」
 ラズベリー・シャーウッド(ja2022)と相馬 カズヤ(jb0924)だ。
「雪哉君の素敵なお節介にお付き合いして、僕も一肌脱がせていただこうかな」
 微笑むラズベリーに、相馬も仕方ないなといった面持ちだ。
「中島が困ってる人見過ごせないのはいつものことだよな。でも、なんか危なっかしい…ああ、もう! 手伝う!」
 そんな2人の言葉に中島は照れたように笑って「ありがとう」と言った。
「16個お願いしていいですか?」
 おばちゃんが小分けにしたチョコを中島が手渡す。
「何処まで売り捌けるか分からないが、最善を尽くすよ」
 おばちゃんが頭を下げる中、3人はそれぞれ思案しながらスーパーを後にする。
 それと入れ違いにまた人が入ってきた。
 九十九 遊紗(ja1048)だ。九十九は辺りを見回した後、チョコの山と中島たちを見つけ近づいてきた。
「遊紗だよ! よろしくね。頑張っておばあちゃんを助けるよ!」
「…一応『おばちゃん』止まりにして頂けると…」
 おばちゃん、九十九の言葉にちょっとショックを隠せない模様。
 と、そこにまた1人、入ってきた。
「中島さんはいますか?」
 可愛らしい少女の声。
「はい、ここです!」
 中島が招くと雫(ja1894)が顔を出した。
「中島さんもチョコを売りに行くのですよね? 私もご一緒しても宜しいですか?」
「はい! あ、でもチョコ分け終わるまで少し時間かかるけど…いいかな?」
 中島の言葉に、雫は頷いた。
「遊紗はね、メイドさんの格好をしてチョコを売るよ。…そうだ! 雪哉ちゃんもメイド服、どうかな?」
「め、メイド服!? ボクが!?」
 思わぬ提案に慌てる中島だったが、そんなことをしている間にも次々と人は来る。
 商店街で噂を聞きつけた夢前 白布(jb1392)。
「チョコで困ってるんだって聞いたんだよ。困っている人がいたら、助ける。立派な撃退士になる為にも、まずはこういう小さな事からコツコツと!」
「おぉ!」
 ヒーローの見本のような夢前の言葉に、中島は頭を下げた。
 夢前はチョコを持ってスーパーを出、ふと良いアイデアが浮かんだ。
 それはSNSや呟きで『今、チョコを安く売って回っている人がいる』という噂を流すことだ。
 そうすれば自分だけでなく、他の人も売るのが楽になるのでは? 早速夢前は呟きを投下した。これでよし!
 その後も続々とチョコ売りを引き受けてくれる人が現れてチョコを持って行ってくれた。
「はっはっはっ! 全て我に任せればいいのである! 泥船に乗ったつもりでいるが良い!」
 本物の猫と見紛うほどの精巧な猫スーツが印象的なラカン・シュトラウス(jb2603)はそう言い放った。
 泥船に乗っては駄目だ。乗るなら大船で。
 …なんてことは中島には言えなかった。
 最後のチョコを、龍仙 樹(jb0212)とメイド姿の氷雨 静(ja4221)が揃って受け取っていった。
「私たちも行きましょう」
 雫に促された中島だったが、突然意を決した。
「…遊紗先輩! ボク、メイド服着ます!」
「雪哉ちゃんなら絶対似合うと思うよ」
 にこにこと満足そうな九十九。当の中島は氷雨のメイド姿が可憐で素敵だったので着てみたくなったのであった。


●商店街
 グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)はチョコを受け取った後、スーパーの出入り口で佇んでいた。
 半額で…と言われたができれば定価、もしくは最低でも300久遠〜400久遠で売りたいと考えた。
 そこで、他の協力者たちがいくらで売るのかを知るためにスーパーの出入り口で少し聞き耳を立てた。
 様々な意見はあったが定価以上で売ろうと考える猛者もいることが確認できた。
 ならば定価は無理でも半額以上をつけても問題はないだろう。380久遠くらいならどうだろうか。
 グラルスはまずチョコを1つをとりだし、小さく割った。この1つは自腹で買い取り、試食として振舞う。これが確実に売るための作戦であった。
「これくらいやらないと、捌けないって事くらいわかるよ。やるからには徹底的に、ってね」
 そう呟くとグラルスはスーパーを離れ、人通りの多い路地へとやってきた。
「チョコの試食はいかがですか? 美味しいですよ」
 試食と聞いて素通りできないのが主婦である。グラルスはすぐに主婦に取り囲まれた。

 商店街の広場を借り、犬乃 さんぽ(ja1272)は音楽に乗って華麗なヨーヨーショーを繰り広げていた。
「おぉ〜!!」
 ニンジャヒーローのなせる業。いや、犬乃のアイドルの力!
 犬乃はこのヨーヨーショーでお客を集め、ついでにチョコも売っちゃおう! という一石二鳥を試みた。
 バレンタインは感謝の気持ちをチョコに込める素晴らしい日だと聞いた。そんな日に悲しむ人がいるのは駄目だもん。
「みんな、良かったらボクのヨーヨーを見て行ってよ…♪ チョコレートマジック、気持ちが伝わる素敵な日。さぁ、大事な友達のあの子にも、よければチョコをもう1つ…」
 にっこり笑ったその姿に魅了され、お客さんは大盛り上がり。チョコを手に取った人は皆「半額なんて…ショーの分も含めて定価で買うよ」と笑顔で言った。
「あの、僕も買います! …手渡しとかしてもらっていいですかね?」
 頬を赤くした青年が、犬乃にそう申し出た。犬乃はそれを快く快諾した。
「もちろん! 買ってくれてありがとう!」
 ヨーヨーを駆使して青年の手にチョコが渡る。青年は嬉しそうにそれを受け取った。
 …誤解の気配がするが、終わりよければすべてよしだ。

 相馬は寮に向かって歩いていた。
 チョコを受け取ったはいいが、どうやって売るべきか…?
「…うん、そうだな。そうしよ」
 少し考えた後、いくつか自分で買って知り合いにまず配ろうと思った。
 同じ寮の上級生や、義理すら貰えなさそうなあの人に「自分へのご褒美に」と買ってもらうのもありかも?
 …友チョコを提案するのもいいかもしれない。
 色々考えているうちに、相馬の前から見慣れた寮の上級生たちが現れた。
「お、相馬じゃねーか。何持ってんだ?」
「これは…」
 ガサゴソとチョコの袋を見せると、上級生たちの顔色が変わった。
「おまえ…貰ったのか…女の子に!」
「え!? これは…」
 説明しようとした相馬の言葉を遮り、上級生たちは土下座して頼んだ!
「頼む! それを俺たちに500円で全部譲ってくれ! 女の子からのチョコが欲しいんだ!!」
 説明はできなかった。相馬はただ、上級生のメンツを潰さないために頭を縦に振るのみ…。

 神凪は客層を女性に絞り、女性が多数いるだろうと推測した服屋や化粧品店、雑貨屋などの立ち並ぶ界隈へと赴いた。
 案の定、そこは幅広い年代の女性がいた。
「義理チョコなんだが…買わないか?」
「義理限定? いくらぁ?」
 興味津々で寄ってきた学生に「250円だ」と提示すると、学生は「マジで!」と顔を輝かせた。
「丁度友チョコ買いに来たんだよね。買う〜」
 学生が買うと、それにつられ年配の女性もチョコを気にする。
「髪の綺麗なお嬢さん、いかがです?」
「あら。お嬢さんだなんて…おほほ…いただくわ」
 連鎖するように、チョコは次々と買われていった。

 商店街を空から見下ろし、主婦に囲まれるグラルス、ショーで盛り上がる犬乃、女性に囲まれる神凪、なぜか土下座されている相馬の姿を見ながらティア・ウィンスター(jb4158)はチョコを手に人通りの多いところを探す。
 1ヵ所で売るよりも、広範囲で売った方が効率が良いのではないかと人が多いところを何か所か探していた。
 商店街の出入り口、学園からは帰り際の生徒たち、寮方面へ向かう生徒も少なくない。
 甘い物が好きなティアとしては、売れ残るチョコの姿は見たくない。悲しくなる。
 できる限りをし、そして、売れ残ってしまったら…いや、今は売ることを考えよう。
 銀の翼をはばたかせ、ティアは固く決心したのだった。


●初等部
 こちら初等部にて中島と売り歩く雫。中島は宣言通り、メイド服を着ている。
「チョコ、買いませんか〜?」
 声を張り上げる中島に対して、雫は静かにその隣を歩く。
「チョコ?!」
 駆け寄ってくる低学年の子供3人を中島と雫で対応する。
「おやつにどうですか?」
「いくらですか?」
 1人の子供が雫に訊くと、雫は微笑んで「500久遠です」と答えた。
「えー!? 高い…」
 お財布と相談する子供たちに中島は苦笑した。
「じゃあ、250久遠なら?」
「! それなら買える!」
 3人はそれぞれ250久遠を中島に手渡すと「バイバーイ! お姉ちゃん達」と去っていった。
「またねー!」
 笑顔で手を振る中島に、雫は物静かに言った。
「私にとって中島さんは、眩し過ぎる存在ですね。とても羨ましいです…」
「え!? ボク、何かした?」
 慌てる中島に雫は静かに首を横に振る。中島にはさっぱり理由がわからないが雫には何か思うところがあるようだ。
「うーん…ボクと雫ちゃん…きっと友達になれば誤解は解けると思うんだ! だから…あの…友達になろう!」
 中島は誤解していたが、中島なりに考えての発言だった。
「仲良きことは美しきことである」
「シュトラウス先輩!?」
 雫たちの上を猫のスーツを着たラカンが飛んでいく。
 空飛ぶ猫・ラカンに初等部の子供たちがわらわらとついていく。
 ラカンの出で立ちはまさに目を引くものばかりであった。
 猫のスーツはもちろんだったが、チョコ保存用バックを手に持ち、お金を入れる用がま口を首からぶら下げたその姿を振り返らないものはまずいない。
 そんなラカンは雫たちの頭上をまるでハーメルンの笛吹きの如く子供たちを従えて飛び去って行った。
「行ってしまいましたね…」
「あ! ボ、ボクたちも頑張らないと!」
 うやうやになった友達になろう告白はひとまず置いといて、雫と中島は再びチョコを売り歩きだした。

「安いよ安いよー原価考えたら、ボロい商売だよー! 1個250久遠だよー!」
 カイン 大澤 (ja8514)は大きな声で久遠ヶ原校内をうろつく。気分は行商人である。
 最終的には俺が買い取ってもいいんだけどな…ま、やれるだけやる。
 笑顔を作るのはやや苦手だが、これは仕事と割り切ればやれないこともない。
「あ、チョコレート!」
「…買う?」
「買う! はい、250久遠」
 にこっと笑ったお客の少女に、作り笑顔で「ありがとなー」と手を振る。
 …もう少し頑張ってみようか…。
「やぁ、君もチョコ売り?」
 そう言ってカインに話しかけたのは夢前であった。
「…あぁ…」
 お客じゃなければ、とりあえず笑顔でいることもないか。
「僕もなんだよ。さっき呟きでチョコの話を拡散をお願いしたからそろそろ効果があってもよさそうなんだけど…なかなかうまくいかないね」
 困ったように笑って、夢前は「それじゃ、お互い頑張ろうね」と手を挙げた。
 と、夢前の懐からチョコがひとつ零れ落ちた。
「これ…落ち…」
 カインがそう言って拾い上げると、夢前は顔を赤くしてオロオロと早口でまくしたてた。
「これは…貰うあてがなくて自分で買ったとかではないんで! 絶対違うんで!」
 光の速さで去っていく夢前に、カインはただ立ち尽くすのみであった…。


●大学部
 さて、そんな夢前の呟き効果に偶然乗ってしまったのがルーガ・スレイアー(jb2600)である。
 大学部の食堂前に甲子園の売り子の如く義理チョコを入れたコンテナを持ち、片手でスマホを打つ。
『人助けする私超えらい ムフー(`・ω・)−3』
 事前に段ボール2枚用意し『まだ間に合う! 教授にゴマをするなら今だ!!』『500円のところ250円で!!』 と書いたポスターを貼りつけて、体の前後をそれで飾った。
「みんな優しいな。私にこのような知恵を授けてくれるとは…『こうすればバカ売れ間違いなし』、と!」
 実はこの段ボールのアイデアはルーガの呟きを見たフォロワーからの温かい入れ知恵であった。 
「…ところで『ごまをする』とは何なんだろうな?」
 思わず後ろを振り返るルーガ。食堂からはよい香りがする。
「…あれか? 食堂の『たんためん』のことか? チョコを売った後にたんためんを食えということか?」
 ルーガさん、『たんためん』ではなく『たんたんめん』が正解です。
 しかし、ルーガはフォローワーへとお礼の呟きを返す。
『チョコを売った後で、たんためんはしっかりいただく(′∀`)』
 その返信は誰に理解されることもなかった…。

 九十九がメイド服を着て大学部でチョコレートを売っていた。
「只今チョコの販売を行ってまーす! 日頃お世話になってるあの人へ、先生方へ、お1ついかがですか〜?」
 にこにこ笑顔の九十九、小さいけれど高い声はよく通る。
「小っちゃいのに偉いね〜。じゃ、ひとつ貰おっかな」
「はい、ありがとうございます!」
 最初は女生徒が多かったのだが…次第に男子生徒が足を止め始めた。
「お兄さん、遊紗のチョコレート買ってくれませんか?」
「…ちょっと耳、貸して」
「はい?」
 男子生徒が九十九の耳に囁いた。九十九は「そんなのお安いご用です〜」とにこやかに即答した。
「それじゃ…『お兄ちゃん。はい、どうぞ♪』」
「ブハッ!! …よ、喜んで買おう」
 その光景を見て、さらに集まってくる男子生徒が増えた…とか。


●中等部
 その頃中等部では久瀬 悠人(jb0684)と地領院 夢(jb0762)がチョコとチョコで作る簡単なレシピ数種をバスケットに詰めていた。
「…自業自得じゃん、とか思うけどさ」
 久瀬がポツリとこぼすと地領院は「悠人さん!」と少し諌めるような強い口調で久瀬を見つめる。
「まぁ、俺も武器の強化で金使いすぎたし、丁度いいかな」
 久瀬はそう言うとにこっと笑って地領院を見た。
「もう…全部売れるように頑張りましょうねっ」
 中等部の中に入ると地領院は久瀬に色々と案内を始める。高等部でないほどにしても中等部もまた迷宮と化している。
「この先に食堂があるから、そこなら人が多くていいかもっ」
 地領院と久瀬がそちらへ歩いていくと、地領院の言った通り人が多く集まっていた。
「よし、じゃあここでチビを召喚するか」
 そう言うと久瀬は召喚獣のヒリュウ、通称『チビ』を呼び出した。
「わ! 可愛い!!」
 久瀬は注目を集めたことを確認すると、チビをくるくると舞い踊らせる。それに釣られて女子中学生が押し寄せてくる。
「安いよ安いよ〜」
 久瀬はそう言いつつ、チョコを集まってきた学生たちに見せる。
「夢ちゃん? 何してるの!?」
 集まってきた学生の中に、地領院の顔を見て寄ってきた女子たちがいた。
「今チョコ売ってるの。よかったらどう? レシピもつけるから今年はこのまま渡して、レシピは良かったら来年にも使ってねっ」
「夢ちゃん…来年のことまで計画的!? 恐ろしい子…」
 そんな女の子同士の会話に、久瀬は思わず呟く。
「ん、夢って結構友達多いのな」
「? 夢ちゃんの知り合い? もしかして…彼氏!?」
「あ、この人は依頼でお世話になったお兄さんなんだよ」
「久瀬 悠人だ。よろしくな」
 後々依頼で一緒になるかもしれないことも考えて、久瀬は挨拶をした。
「夢ちゃん、じゃあ1個買うよ」
 そう申し入れた学生に、チビが夢の代わりにチョコを渡した。
「チビちゃん、お手伝いしてくれるの? 有難うっ」
『可愛い〜!!!』
 黄色い歓声を聞きながら、久瀬はうんうんと頷いた。
「…てか、チビはやはり人気だな〜」

「…なんか騒がしいなぁ? 何かやってるのかな?」
 同じ中等部内でユリア(jb2624)は小首を傾げたが、ま、いっか。と歩き出した。
 お金にも少しは余裕がありそうで、かつ気持ち的に比較的買ってくれやすそうなのとなると、中等部ぐらいかな?
 …という理由で中等部に来たのだが…意外と人が少ない。少ないので、とりあえず声を出してみる。
「チョコ、安くなっているからとりあえず見ていってよ!」
 するとひょっこり教室から女の子が出てきた。少し恥ずかしそうだ。
「あの…チョコ…売ってるんですか?」
「うん、チョコ売ってるの。よかったら、買ってね!」
 にこにこ笑顔のユリアに対し、女の子は顔を真っ赤にしてそれでもチョコを凝視している。
「…買ってくれるなら、値段安くするよ?」
「安く…?」
「うん、好きな人に渡すといいよ」
「…や、やっぱり渡せません〜〜!!」
「あ!?」
 猛烈ダッシュで廊下のかなたに消えて行った女の子を、ユリアに止める暇などなかった…。 

 カインは高等部周辺を歩きながら、道行く人にチョコを売り歩いていた。
「ありがとー」
 まさに行商人! カインのチョコ売りはまだまだ続く。


●高等部
 チョコ売りのお手伝い…商売の勉強になりそうです♪
 村上 友里恵(ja7260)は高等部の校舎を目の前に微笑んだ。
 ターゲットは非モテ男子。販売方法は隠密に。こっそりと校舎に入り込み、こっそりと男子生徒に話しかける。
「あの…チョコレートは買いませんか?」
「…は? 俺??」
 もちろん、男子生徒は戸惑う。これは予想済みである。村上はここでさらに告げる。
「今ならサービスで色々しますよ? …有料ですけど」
「さ、サービス!?」
「そうです。まずチョコが250久遠です。下駄箱や机にこっそり入れておくのは+50久遠。スマイル+100久遠。さらに、人前で手渡しは+200久遠でお受けします」
「…机の中にチョコレート…」
 男子生徒は悩んだ。ある意味憧れのシチュエーション! 自尊心と脱非モテの間で揺れる男心…。
「げ、下駄箱のオプション付きで1個お願いします!」
「ありがとうございます」
 村上の作戦は非モテの心を大きく揺さぶったようだった。

「…労働って面倒くさい…」
 ため息をつきながら、片瀬 集(jb3954)はでも…と考える。
 チョコを売れば報酬になるのだから、やらなきゃだよね…。
「あれ? 片瀬じゃん。何やってんの?」
「ん〜? あ〜…チョコ売ってんだ。そうだ。女子が集まってる場所知らない?」
 通りすがりのクラスメイトに声をかけられ、片瀬はついでに質問してみる。チョコを売るならやはり女子だろう。
「うちのクラスになんか集まってたぞ」
 その言葉を頼りに、片瀬は自分のクラスへと足を向けた。
 言われた通り、クラスにはなぜか女子が集まっていた。
「こんにちは。チョコ如何がかな?」
「片瀬君? 何やってんの?」
「うん、チョコ売ってんの」
「あ、知ってる! これ呟きで流れてきたヤツでしょ?」
「…?」
 片瀬は何のことかわからなかったが、どうやらそういう情報が出回っているようだ。
「協力するよ!」
「ありがと。あ、そうだ。もしチョコを必要としている人を知ってたら教えてくれないかな?」
「オッケ! 片瀬君の頼みなら断れないもんね」
 いい友人に恵まれた。情報は大事だ。
 さぁ、頑張って生活費を稼ごうか。

 校舎内で白鳳院 珠琴(jb4033)は張り切っていた。
「義理チョコ買い忘れた子〜? チョコの好きな男の子〜?」
 可愛らしく元気な声は校舎内を響き渡る。
「チョコ売り?」
 ひょっこりと出てきた女生徒に、白鳳院はにっこりと笑う。
「うん、250久遠でお買い得だよっ」
「250久遠かぁ…自分で食べるのもありだよね…」
「うん、ありだよ! あり!」
「じゃあ、2つ貰おうかしら」
「ありがとうだよ!」
 にこにこと手渡すと女生徒もニコリと笑った。なんだかちょっといいことした気分だった。
「よーし、まだまだ頑張っちゃうよ〜!」
 白鳳院は笑顔を振りまきつつ、さらにチョコを売りに歩くのであった…。

「…クリフ、なんでクマの着ぐるみなんだ?」
 アダム(jb2614)の極まっとうな質問に、クリフ・ロジャーズ(jb2560)は笑った。
「作業服姿でウロウロしてると怪しまれるかと思って」
「それも十分怪しいわよ」
 シエロ=ヴェルガ(jb2679)はそう言って、チョコの山を眺める。3人分…48個のチョコレートはずいぶん多く見える。
「結構な量よね…上手く売れると良いんだけど」
「やるしかねーよ。ほら、行くぞ!」
 アダムに促されてシエロとクリフはチョコを籠に入れ売り始める。高等部と大学部の間ほどの地点で、彼らはチョコを売ることにした。人通りもほどほどにある。
「おいっ半額セールだぞ! や、安いぞっ!」
「アダム、もっと優しい言い方をした方がいい。…そこの方、日頃の感謝をチョコで表すのはどうかしら?」
「しーちゃんは淑女だねー」
 そんな3人の上を、何かが通り過ぎた。
「…猫の天使?」
 それが通り過ぎると同時に初等部の子供たちが山のように走ってくる。
「わあぁ!? なんだこりゃ!?」
「あ!? クマ! 今度はクマがいる!!」
 初等部の子供たちのターゲットの一部がクリフに向かう。
「ちょ!? え!?」
 あっという間に取り囲まれたクリフは、身動きが取れない。
「お、押さないで。落ち着いて!」
 シエロが初等部の子供たちをなだめようとするが、逆効果になってしまった。
「グハッ!」
 クリフの悲痛な声が聞こえ、腹を押さえて屈みこんだ。
「ちょ…大丈夫!? 凄い音したけど…」
「Σく、くりふー!? …は、はらぱんしちゃ駄目だぞ!?」
 近づけないシエロと、オロオロ涙目なアダムがクリフを見ている。
「…だ、大丈夫だよ。傷は浅い…はず。…あ、みぞおちはもう勘弁して」
 クリフは立ち上がった! 頑張った!
「アダム…疲れてない? 大丈夫?」
「おれは屈強なる天使だからな。これくらいで疲れたりしない!」
 零れ落ちそうになる涙を必死にこらえながら、アダムはそう言うとチョコ売りの最前線へと復帰した。


●購買付近
 氷雨と龍仙は購買付近を通りかかる女生徒たちに声をかけた。
「チョコレートはいかがですか? 友チョコ、逆チョコ、本命チョコにどうぞ」
「淑女の皆様、よろしければチョコなどいかがですか?」
 正統派メイド姿の氷雨とこれまた正統派執事姿の龍仙に声をかけられ、思わず買っていってしまう者も少なくない。
 特に氷雨のメイドオーラはすさまじく、定価で皆買ってしまうほどの存在感である。
「お買い上げ頂き、誠にありがとうございます…お嬢様」
「お買い上げ頂き、大変有難く思います…お嬢様」
 恭しく2人に頭を下げられて、気分の悪い者などいない。
「いえ、こちらこそ!」
 顔を真っ赤にして走り去る者もいた。
「以前、一緒に店の手伝いをしたのを思い出しますね」
「はい、樹様」
 微笑む氷雨に、龍仙も思わず微笑み返す。
 それだけで、その場には得も言われぬ温かな雰囲気に包まれていた。

「どうせなら加工しよう」
 そう思い立ったのはサガ=リーヴァレスト(jb0805)だった。
「…どうせなら…可愛く…しましょう…か…?」
 華成 希沙良(ja7204)はサガの加工した生チョコや、ガトーショコラ、ブラウニー、チョコスティックケーキを丁寧にラッピングした。
「そのまま義理チョコで作るよりは、まだ売れる見込みはあるかね」
「…サガ様の…作った物ですから…きっと売れます…」
「そうだな」
 サガの料理スキルは申し分なく、とても美味しそうなものが出来上がっていた。
 購買の一角を借り、2人は並んでチョコレートを売った。購買に置いてもらうことも頼んだが、残念ながら許可が下りなかった。
「…如何…ですか…?」
「手作りのデザート…如何かな」
 少し値段が高めなことが災いしてか、なかなか売れなかったが2人の懸命な掛け声によって来る生徒たちも少なくなかった。


●食堂
「チョコレートはいかがですか?」
 ラズベリーはそう言うとにっこりと笑った。
 食堂の一角でヴィクトリアンメイド服に身を包み、見る者を一瞬にして虜にするような愛らしさを振りまいていた。
 …少々あざといかもしれないが、仕方ない。
 チョコの包装にレースリボン等で義理チョコに見えないように可愛らしくラッピングをし直した。
「わぁ、これ可愛いね。4つ貰えるかな?」
 食堂で食事を終えた女生徒が、ラッピングに目を奪われてそう言った。
「ありがとうございます、お嬢様」
 丁寧にお辞儀してにっこりと微笑む。1人1人に心を込めて。

 と、そこにネコの姿をした天使が舞い降りた。ラカンである。
 初等部からいろいろ回って人を集め、ついに降り立ったラカン。
「休憩に来た諸君! 休憩用、おやつ用にこのチョコをオススメするのである」
「ネコー!」
 初等部からついてきた子供たちがラカンに襲いかかるが、そんなことはお構いなしにラカンはさらに言う。
「値段は250円で売るのである。500円から半額なのである。小腹が空いた時…お茶請けにちょうどいいのである! …勉強の合間に糖分摂取にも役立つのである」
 深く頷きチョコを天高く掲げ持つ。
「さぁ、買い求めるがよいのである!」


●結果
「えっと…グラルスさん12個、ボクが16個。相馬ちゃんも16個。ティアさん16個、神凪さん11個、雫ちゃん3個で、ラカンさんが16個…」
 犬乃がそこまで読むとラカンは高らかに勝利宣言をした。
「はっはっはー! 我に任せればこんなもんである!」
「皆さんが手伝ってくれてよかった…」
 中島が呟くと、九十九が集計した紙の続きを読みだした。
「カインさんが12個、夢前さんが9個、ルーガさん11個、遊紗は12個!」
「おばちゃん、感謝感激ですわ」
 おばちゃん、目を潤ませている。
「久瀬さんが16個、地領院さんが4個、ユリアさんが0個…」
「あはっ、ごめんね。全然売れなかったんだよ〜」
 ユリアがあっけらかんと笑った。
「村上さん16個、片瀬さんも16個、白鳳院さんが6個、クリフさん16個、アダムさん10個、シエロさん2個、氷雨さん定価で16個、龍仙さんも16個、華成さん4個、サガさん13個、ラズベリー11個、雪哉ちゃんが7個…ってことは287個売れたね!」
「425個あったのですから…半分は売れましたね」
 氷雨が静かにそう言った。
「残ったのどうする?」
 その言葉が出た時、相馬は中島の隣にいた。
「あのさ、中島。売れ残ってるんだよな? だったら…」
「え?」
 そう言いかけて、白鳳院が口を開いた。
「ん〜とボクが買っちゃおうかな? 自分でも食べたいし、近くの子供達に配ってもいいしね」
 白鳳院の意見にティアも同意したが、おばちゃんは首を横に振った。
「そこまでしてもらったら…本当に悪いのですわ」
 肩を落としたおばちゃんに、ラズベリーが言った。
「チョコ菓子に作り直して皆でいただくのもいいかな、と思うのだけど…どうだろう?」
「もう一度販売するのもよいかと思います」
 雫がそう提案するとおばちゃんは「半分は皆さんに。半分はもう一度売ってみましょうか」と頷いた。
「なら、僕も手伝います。余力はまだありますから」
 グラルスがニコリと微笑んだ。
「カズヤ君、さっき何か…」
 中島がそう訊いたが、相馬はただ「なんでもない」と走り去ってしまった。
「雪哉ちゃん」
「ロジャーズ先輩、今日はありがとうございました!」
 目の前に立つクマの着ぐるみのクリフに中島はぺこりと頭を下げた。
「こちらこそ。でね、これどうぞ。俺から」
「ありがとうございます!」
 中身を見ると『ミルクトリュフ』で、中島は嬉しくなった。
 クリフはその後、今日付き合ってくれたアダムとシエロのところへ行った。
「今日はありがと。お礼にチョコを…」
 と、言いかけて2人も「!」という顔になった。
「べ、別に御世話になってるって思ってるわけじゃないからな!」
「はい、2人とも。何時もお世話になってるから」
 アダムとシエロは全く逆のことを言いながらクリフにプレゼントをくれた。
「ありがとー。みんなで一緒に食べようか」
 クリフがそう言って2人に渡すと2人とも嬉しそうな顔をした。
「イチゴマシュマロ、ふかふか…! クリフー、このちょことろけるぞー…!」
「しーちゃんの生チョコ美味しいね」
「アダムは美味しそうに食べるわね」
 3人和気藹々と談笑していた。


●其々のバレンタイン
「悠人さん」
 地領院が久瀬を呼び止め、にこっとチョコを差し出した。
「これ、私からです。よかったら…」
「俺にくれるのか? …ありがとう」
 久瀬が微笑むと地領院もまた笑った。

「ハッピーバレンタインです。樹様…受け取って頂けますか?」
 静かに、氷雨は大切に持ってきた手作りのチョコを差し出す。
「…私に?」
「はい」
 少し驚いた龍仙だったが、恥ずかしそうに「実は…」と切り出した。
「売り上げでは全部売れたといいましたけど、1つは私が買いました。それでチョコレートケーキを作ろうと思うのです」
「はい…?」
「私からの、逆チョコ…になるのでしょうか。…一緒に、食べてもらえますか?」
 龍仙の微笑みに、氷雨は優しく頷いた。

 華成は戸惑っていた。それはサガにも伝わった。
「どうした?」
 サガにまっすぐに見据えられ、華成は意を決した。
「…これを…受け取って…頂け…ますか…?」
 自らの手で作った本命のチョコ。
 顔を真っ赤にして、目を瞑ってじっと待っている華成。そんな華成にサガは優しく微笑む。
「おや…ありがとう、希沙良殿…」
 そして…強く抱きしめた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:8人

凍気を砕きし嚮後の先駆者・
神凪 宗(ja0435)

大学部8年49組 男 鬼道忍軍
雷よりも速い風・
グラルス・ガリアクルーズ(ja0505)

大学部5年101組 男 ダアト
撃退士・
九十九 遊紗(ja1048)

高等部2年13組 女 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
carp streamer・
ラズベリー・シャーウッド(ja2022)

高等部1年30組 女 ダアト
世界でただ1人の貴方へ・
氷雨 静(ja4221)

大学部4年62組 女 ダアト
薄紅の記憶を胸に・
キサラ=リーヴァレスト(ja7204)

卒業 女 アストラルヴァンガード
春を届ける者・
村上 友里恵(ja7260)

大学部3年37組 女 アストラルヴァンガード
無傷のドラゴンスレイヤー・
カイン=A=アルタイル(ja8514)

高等部1年16組 男 ルインズブレイド
護楯・
龍仙 樹(jb0212)

卒業 男 ディバインナイト
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
絶望に舞うは夢の欠片・
地領院 夢(jb0762)

大学部1年281組 女 ナイトウォーカー
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
未来につなぐ左手・
相馬 カズヤ(jb0924)

中等部3年5組 男 バハムートテイマー
Little Brave・
夢前 白布(jb1392)

高等部3年32組 男 ナイトウォーカー
天と魔と人を繋ぐ・
クリフ・ロジャーズ(jb2560)

大学部8年6組 男 ナイトウォーカー
駆逐されそう。なう・
ルーガ・スレイアー(jb2600)

大学部6年174組 女 ルインズブレイド
はいぱーしろねこさん・
ラカン・シュトラウス(jb2603)

卒業 男 ディバインナイト
くりふ〜くりふ〜・
アダム(jb2614)

大学部3年212組 男 ルインズブレイド
カレーパンマイスター・
ユリア(jb2624)

大学部5年165組 女 ナイトウォーカー
月夜の宴に輝く星々・
シエロ=ヴェルガ(jb2679)

大学部7年1組 女 陰陽師
焦錬せし器・
片瀬 集(jb3954)

卒業 男 陰陽師
大切なものは見えない何か・
白鳳院 珠琴(jb4033)

大学部2年217組 女 アストラルヴァンガード
獅子と禿鷹の狩り手・
ティア・ウィンスター(jb4158)

大学部5年148組 女 ディバインナイト