●今日は夜回りの日
水無月沙羅(
ja0670)はその日、朝から調理室を借りて下ごしらえをしていた。
発酵を必要とする生地、サツマイモの下処理。
これらに手を加えて、肉まん、あんまんを調理するだけの状態にしておいた。サツマイモは焼き芋にする予定だ。
レイラ(
ja0365)も調理室で甘いにおいの白い液体を火にかけていた。
甘酒だ。冬の夜は寒いから、夜回りが終わったらみんなに振舞いましょう。
年末の夜回り…始まりは思いつきだとしても素敵なことだと思います。
調理室は美味しい匂いであふれていた。
同じころ、鴉乃宮 歌音(
ja0427)は職員室にいた。
「火気使用申請をしにきたのだが」
「火気? 何に使うんだ?」
「夜回りに際して、温かい物を提供するのに必要かと思って」
ふむふむと申請用紙に目を通し、先生は使用許可を出した。
これで、饂飩、蕎麦、緑茶とすぐ沸かせる湯、ガスコンロを準備することができる。
鴉乃宮は満足げに一礼すると、すぐさま用意に取り掛かった。
窓が北風でガタガタとなる。今日も寒い一日になりそうだった。
日が落ちて数時間後、学校にはわいわいと生徒たちが集まり始めた。
グラン(
ja1111)は片手にビデオカメラを構えながら、その様子を映し始める。
「年末は気が緩んでいろいろトラブルが発生しますし、中々良い心がけではないのでしょうか」
夜回りに集う人々の人間模様や出来事を収めるべく、カメラを回す。
鴉乃宮は買っておいた懐炉を、皆に提供して回る。持っていなかった者は鴉乃宮に感謝した。
中島 雪哉(jz0080)は、用意しておいた拍子木を地面に置くと大きな声で叫んだ。
「夜回りで集まってくれた皆さーん!拍子木必要な人はここから持って行ってくださいね!」
その声に、生徒たちが中島の元へ集まり始めた。
「中島さんですか?」
「はい!」
「私、レイラと申します。今日はよろしくお願いしますね。拍子木、配るのお手伝いします」
レイラが深々と礼をしたのを見て、慌てて中島も礼をする。
「こちらこそ、よろしくお願いします!レイラ先輩」
「見回りとは感心な事だ。手伝おう」
「ありがとうございます!」
矢野 古代(
jb1679)が拍子木を一組取り出した。
矢野は近くにいた参加者たちと連絡先を交換し始めた。
帽子にマフラー、温かいケープコートに手袋、ブーツ姿でしっかり防寒したラズベリー・シャーウッド(
ja2022)。ポケット懐炉も用意してきたのでばっちりである。
「雪哉君、はりきってるね」
「わっ!シャーウッド先輩!来てくれたんですね!」
中島は、嬉しそうにラズベリーに笑いかけた。
ラズベリーは中島にひとつ助言をした。
「1人では有事の時に対応し難い 。できれば2人一組くらいで巡回できればいいね」
中島はそこまで考えていなかったようで「あ…」と少し考えた。
「そうですね…確かに。一応参加する人に伝えてみます!」
簾 筱慧(
ja8654)はコートを羽織って、はぁっと白い息を吐いた。
「うーん、やっぱりわかっていても冬は寒いね」
その言葉に深く頷く者がいる。 七ツ狩 ヨル(
jb2630)だ。
「寒い。寒いのは嫌いだけど…」
なんでそんな事するのかには興味あったからここまできた。好奇心は寒さに勝った。興味深く夜回りに参加する人たちを観察する。
そして、中島たちが配る拍子木の入った箱を見つめる。
「メレク(
jb2528)と申します。よろしくお願いします」
礼儀正しく挨拶するメレクの後ろには鷹司 律(
jb0791)。
「ところで、全員一緒に行動するのですか?」
「いえ、全員一緒じゃなくても大丈夫です。でも、1人だと危ないと思うので2人一組くらいでって先輩にアドバイス貰いました」
「そうなんですか。…ところで、夜回りって何をするのですか?」
メレクが中島に質問している時、クリフ・ロジャーズ(
jb2560)が拍子木を受け取りに来た。
「これが拍子木かぁ…これをどうすんの?」
拍子木の入った箱をしげしげと眺めてクリフは拍子木を手に取った。
中島は拍子木を1組持って、実践して見せた。
「こうやって…2つを合わせて音を鳴らして…『火の用心、マッチ1本火事の元〜』って歩いて回るんですよ。夜の安全を守るお仕事です」
カーンといい音が響き渡る。中島はにこにことそう言われてクリフは顔を明るくさせた。
「人間界の夜回りってどんな感じなのかと思って参加してみたけれど、おー、叩きながらやるんだね」
カチンカチンと拍子木を鳴らすクリフはハッと我に返る。
「…と、感心してる場合じゃなかった。俺も夜回りをちゃんとやらないとね」
持参したLEDミニランタンをぶらぶらと持ちながら、クリフは「行ってくるね〜」と歩いて行った。
それを見ていた七ツ狩。クリフを見送る中島につい疑問をぶつけた。
「ふーん、安全の為にね…じゃあこれは護身用の武器?」
「え!? 武器じゃないですよ!? 人とかは叩かないでくださいね!?」
アワアワする中島に七ツ狩は、なにやら満足げにニヤニヤと頷いた。
メレクはひとまず理解したようで、鷹司に「行こうか」と促されて夜回りに出かけた。
入れ違いにアレクシア(
jb1635)は少しうきうきしている自分を抑えつつ、相棒とともに用意をする。
「そうだな、人があまり回らなさそうな所とかから流していくか」
そう言いながら、2人は歩いて行った。
「拍子木、借りてくね!」
元気よくそう言ったのは雪室 チルル(
ja0220)。北国出身であるため防寒はばっちりである。
「気を付けて行ってくださいね」
レイラの言葉に雪室はにこっと笑う。
「何が起きてもあたいなら余裕よ!」
小さいのにパワフルでその言葉には説得力があった。
「俺らも借りてくね」
ヤナギ・エリューナク(
ja0006)と鈴木悠司(
ja0226)も拍子木を借りに来た。
「夜回りか……年末はよく聞いた物じゃの。さて、わしも拍子木を借り、出向くとするか」
「事故等が多くなるそうですから、しっかり回りましょうね」
白蛇(
jb0889)と鑑夜 翠月(
jb0681)も拍子木を持っていく。
白蛇はぶるっと体を震わせると呟いた。
「それにしても、ほんに寒いのぉ。この身が人に堕ちたとはいえ神でなければ、冬眠しているやも知れぬ」
拍子木を持って、みんな夜回りに向かってくれたことに中島は感謝した。
「…さっきからボクもいるんだけどな」
「うわ!カズヤ君!?」
中島の後ろにいた相馬 カズヤ(
jb0924)は「ひでー」と一言言ったが、中島の必死に謝る姿に「もういいよ」と言った。
「同学年だし、友達だし…何より堂々と夜に出歩けるしね」
にやっと笑った相馬に、中島は笑顔で「…ありがとう」と言った。
●学園夜回り
「遅くなってすいません」
拍子木も渡し終わり、その場に残ったラズベリー、グラン、相馬、レイラと中島も夜回りに行こうかと準備していた頃、ひょこっりと現れたのは着物に羽織と襟巻き着用した水無月 葵(
ja0968)だった。
「葵先輩!…あれ? 沙羅先輩も一緒って名簿の方に…??」
「沙羅さんは夜回りをしてくださる皆さんのためにお料理をしているわ。夜回りが終わったら皆さんに振舞ってくれるそうなの」
にこにこと微笑む葵は、中島の首元にふんわりとマフラーをかけて、手袋を渡した。
「温かい恰好で夜回りしましょう」
中島、その温かさに少しほわ〜っとしていたが、大変なことに気が付いた。
「沙羅先輩が料理してくれてるなら、夜回りに参加してくれた人に最後に学校に集まってもらわないと!」
「たしかに…私も甘酒を用意してありますし」
レイラもそう言ったので、中島はアワアワとし始めた。
「中島、落ち着けって」
「君が落ち着かなくてどうするんだ」
相馬とラズベリーに宥められ、中島はとりあえず深呼吸をした。
「えっと…別れて学校を回って、それから商店街と寮の方を回って皆に呼びかけて学校に戻りましょう」
「でも女性ばかりですね。少し危ない気もします」
レイラはそういってビデオを回すグランに目をやる。
「私も数に入れてもらって構いませんよ」
「ちょっと待って!ボクは!? ボク男だよ!?」
相馬がそう言ったが葵は優しく諭す。
「やはり大人の方と一緒の方がよいと思います。みんなで回りましょう」
相馬はちょっと不服そうな顔をした。
「男は女を守るもんだろ? 古臭いかもだけど…これじゃ逆だよな…」
「大人は子供を守るものです。でも、あなたの考え方は素敵です」
レイラがにっこりと笑ったので、相馬はちょっと赤くなって「ちぇっ」と口をとがらせた。
「頼もしいカズヤ君もいるし、夜回り行くぞー!」
中島が元気にそう景気づけて、夜回りが始まった。
学園内は静かで、校舎のところどころには明かりがついている。
「先生たちがまだ働いているのかな」
相馬の言葉に、中島は頷く。
「そういえば雪哉さんはどうして夜回りしようと思ったんですか?」
レイラが何気なくそう訊いた。中島はう〜んと首を傾げた。
「なんか、ちょっと故郷っぽいかなって。ボクの実家のあたりだと夜回りって年末の風物詩みたいなもんだったし、学園の皆に少しでも故郷っぽい感じを感じてもらいたかった…っていうのと、ボク夜回りやったことなかったからやってみたかったのと!」
そう言って笑った中島に、ラズベリーが苦笑した。
「君らしい理由だね」
「でも、夜回りってボクんちの方ではなかったなぁ」
相馬がそういうと「え!? そうなの!?」と中島は驚いた。
「地域性もあるでしょうからね」
グランはそう言って、足元に注意しながらカメラを回していた。
●商店街夜回り
夜の商店街を、男2人が仲良く歩いていく。
ヤナギは鈴木の少し後ろをだるそうに歩いている。
「うっわ、寒ッ!早く帰ろーゼ」
「夜回りだって!何だかワクワクするね!ねっ!!」
「全然話聞いてねーだろ!お前」
ヤナギとは対照的に鈴木は楽しそうに拍子木を叩く。
「火の用ー心!マッチ一本火事の元ー!」
軽やかにそう言う鈴木の後ろでぼそっと声が聞こえる。
「ひのよーじん…」
そんなヤナギの口元には赤く煙草が燃えている。
「ねぇ、ヤナギさん、この、『マッチ一本火事の元』って誰が考えたんだろうねぇ。中々面白いよね」
「あー…お前みてェな頭の軽いヤツが考えたんだろーよ」
「語呂も良いしねぇ。中々興味ある言い回しだよねー。今だとマッチ使ってる家庭って少ないだろうけど」
「…確かにマッチよりライターのが使うわな。けど、マッチで吸う煙草って美味いんだゼ?」
にこにこの鈴木にヤナギはふっと煙を吐く。鈴木はそれでも笑ったまま拍子木を打ち続ける。
「…でさ、何かこう、拍子木とかも面白く打ってみたくなるよね。そんでもって、『たけや〜さおだけ〜』とか言いたくなるよね!」
「…はぁ!?」
ヤナギが顔をしかめるのと同時に鈴木は拍子木でリズムを付けながら歌いだす。
「たけや〜さおだけ〜!」
カンカンと拍子木を鳴らされて耳が痛い。ついでに近所迷惑だ。
「あ゛〜やめろ!耳が腐るっ!!ちょっと貸してみろ」
鈴木から拍子木を奪い取り、ヤナギは軽く拍子木でリズムを作りながら歌いだす。バンドマン・ヤナギの本領発揮である。
「火の用心〜マッチ一本〜火事の元〜♪」
「ヤナギさんの方がやっぱりうまいなぁ」
一風変わった拍子木の音が、商店街に響き渡った。
簾は白蛇と鑑夜、雪室とともに商店街を回る。先陣を切るのは雪室である。
「これ、九曲紅梅紅茶と茘枝紅茶。飲んだら温まるから。夜の見回りには大事だよね」
「ほぅ。おぬしも茶を持参したのか。わしも魔法瓶なる物に熱い茶を詰め供としたが…正解であったな」
簾と白蛇の緊張を感じさせぬ会話の合間に、鑑夜は拍子木を打っては声を出す。雪室も拍子木を打って声を出す。
「これってすごく大きい音がするわね!あたいも負けてられないわ!火の用心〜!」
「マッチ一本火事の元〜」
ふと鑑夜は空を見る。澄み切った夜空に星が綺麗に見える。
綺麗だなぁ〜、と思わず歩みを止めると雪室が振り返った。
「どうしたの?? 何か空に見つけた!?」
「あ、いえ。綺麗だなぁって思っただけです」
「そっか。冬って空が綺麗に見えるもんね!」
ちょっとだけほんわかした雰囲気で夜回りを続けていると、突然、商店街の店の影に何かを見た気がした!
「なにか…いる!」
ちょろちょろと動く影。あんな動きをできるのは…天魔!?
ガサガサという音と共に地面に降り立つ人影。羽のようなものは見えない。
「…女性みたいですけど…」
鑑夜がそう小さな声で言うと、どうやら相手も白蛇たちに気が付いたようで近づいてきた。その足音は…しない。
「おい、そこの者!このような時間に何をしておるのじゃ!」
「あなたたちこそ、こんな夜中に出歩いていいと思ってるのぉ!? 今、夜回り中だから早くお家に帰るのよぉ?」
雪室たちの前に立ちはだかったのは黒百合(
ja0422)。
黒百合もまた夜回りに参加した1人で、地図とコグニショングラスを駆使して寮から抜け出した生徒たちを取り締まっていた。
「あたいたちも夜回り中なんだけど…」
黒百合は少し考えた。考えた後「ごめんなさいねぇ」と謝った。
「じゃあ、私他に行くわねぇ。…悪い子は居ないかしらァ。楽しい楽しいお仕置きが待ってるわよォ♪」
満面の笑顔で闇に消えた黒百合に、雪室たちも「あたいたちも、行こう」と夜回りを再開した。
●寮の夜回り
メレクはペンライトであたりを照らしつつ、鷹司の後をついて歩いていた。
寮の付近は時折どこかで楽しげな笑い声が聞こえたりしていたが、それは寮から聞こえるもので外に気配は感じられなかった。
鷹司はフラッシュライトであたりを照らしながら、2人とも無言で歩く。
鷹司は時々メレクに「大丈夫ですか?」と訊くが、メレクは「こちらは異常ありません」と答える。
…鷹司としては寒くないだろうか? とメレクの身を心配しての発言であるが、どうやらメレクにはそれが伝わらないようだ。
「お、あんたも見回りか? お疲れさん」
前を歩いてきた男がメレクたちに声をかけた。矢野である。
「そっちは異常なかったか?」
「えぇ。ありませんでした」
「そうか」と答え、矢野は懐から懐炉を2つメレクと鷹司に渡した。
「だいぶ冷えてきたからな。お裾分けだ。暖かいはご馳走だからな」
矢野はそう微笑むと、メレクたちが来た方向とは違う方向へと足を向けた。
メレクと鷹司は懐炉の温かさにお互い笑みを交わした。
アレクシアは相棒と共に寮が立ち並ぶ地区の寂しい道を歩いていた。
事件や不審者などそうそうあるものでもないよな。
そんな思いから相棒と他愛もない話をしながら夜道を歩いていた。のんびりとした夜回りである。
すると、道の向こうから気配を感じる。
「シッ、誰かいるっぽい」
その誰かはこちらへと近づいてきている。近くには隠れられそうな植込みがある。ひとまず2人は隠れることにした。
だが…
「ちょ、待て、押すな!?」
相棒が何かにこけたのか、先行していたアレクシアの背中を押した。
「わ…わわっ!!」
その声に、人の気配がこちらへと駆け寄ってきてアレクシアたちは懐中電灯の光で照らされた。
「…なに、やってるんだ?」
夜回り中の矢野が、相棒と抱き合うアレクシアの姿を発見した。
「いや、これは…!」
「まぁ、悪いことは言わん。せめて温かい部屋の中の方がいいだろう」
矢野はそう言い残し、アレクシアたちを誤解したまま去っていった。
その先で矢野は威勢よく拍子木を打つ七ツ狩に出会う。
「火の用心ー、マッチョ一杯火事の元ー」
カンカンっといい音を立てていたが、微妙に間違っている。ここは訂正するべきだろうか?
「夜回り、お疲れさん」
矢野がそういうと、七ツ狩は「寒い」とこぼした。
「まぁまぁ、懐炉いるか? 少しは温かくなる」
矢野から懐炉を受け取って、七ツ狩は「温ったかいな」と懐炉を両手で握った。
「…あ、あっちの方はさっき俺が行ったから大丈夫だ。何もなかった」
「そうなの? じゃあ俺あっち行ってみよ」
矢野の言葉を素直に受けて、七ツ狩は矢野の来た方向とは別の方へ歩き出した。
寮の近くの少し広めの公園。その中央で1人の青年が大きく深呼吸を繰り返す。
周りの音など聞こえないくらいに集中し、タイミングを見計らっている。
青年の名はクインV・リヒテンシュタイン(
ja8087)。メガネがトレードマークの青年である。
彼は今、魔法の練習をしていた。
その名も眼鏡光線!
眼鏡のきらめきで天を廃し魔を駆逐するクイン必殺の技。眼鏡がずれるといけないので手で押さえておくことが重要である。
ふふふ、誰も居ない深夜こそ僕の活躍の場。天才たる僕が真面目に練習してるなんて知られては困るからね。
息は整え終えると、クインは空へとその一撃を放った。
それを目撃したのはクリフと七ツ狩であった。急いで現場へ急行する。
クリフは持っていたランタンの灯を消し、闇にまぎれながら。
七ツ狩はついに起こった事件にややワクワクしながら走る。
現場では…クインが満足そうに頷いている。あたりは魔法の衝撃からかゴミやらいろいろな物が舞っている。
先に現場に到着したのはクリフで、クインを不審げに見守りながらそっと近づいていく。しばらく様子を見ようと思った。
クインはそれに気が付かず、再び魔法の練習を続けようとした。
さすがに次の一撃を繰り出させるわけにはいかず、クリフはそっとクインの後ろに回り込むと…拍子木をクインの耳元で勢いよく鳴らした。
「うわぁ!!」
ひるんだクインにクリフはひょいっとクインの足をひっかける。と、簡単にクインは尻餅をついた。
「驚いた? ついでに悪さする気も失せたでしょ?」
にこやかに言ったクリフに取り押さえられ、クインは青ざめた。
「悪さ!? ち、違うんだっ」
そこに七ツ狩も到着した。やっぱり不審者だったのかと確信した。
「ねぇ、そこで何してんの?」
クインは動揺した。まさかこんな時間に…しかも2人も僕の練習を知られてしまったとは!?
「りゅっ、流星群から地球を守らないといけないとおお思ったんだっ!!」
クインは訳の分からない言い訳を残し、クリフから逃走を図った!
しかし、七ツ狩の行動も早かった。
ふわりと空に飛びあがると、クインめがけて突っ込んだ。結果、クインは七ツ狩に捕獲された。
●コンビニにて
コンビニで、鴉乃宮は困っていた。
「ぜ〜んぜん、酔ってまセンヨ?」
目の前でクダを巻くのは缶ビールを持つ雀原 麦子(
ja1553)である。完全に出来上がっている。
とりあえず鴉乃宮は水を与えてみたりもしたが、その直後に缶ビールをぐびぐびっと…。
「夜回り中なんですよ!?」と言っても、「ヒノヨージン、ビール1本幸せの元〜♪」と話にならない。
女性に手荒な真似はしたくない。困った。非常に困った。
「歌音先輩!…あれ?麦子先輩??」
鴉乃宮が振り返ると、中島や葵、レイラ、相馬、グラン、ラズベリーが歩いてきていた。
「にひひひ〜、雪哉ちゃんかわいい〜♪」
「わ!?」
雀原が中島に抱きついた!…と思ったら次々と女の子たちにハグ&頬ずりを始める。
「こっちの子も〜あなたも〜彼女もかわいい〜♪」
葵、レイラ、ラズベリーと順番に抱きついていくが、男性陣には一切抱き着かない不思議。
「麦子先輩…アルコールの匂いが…」
「困りましたね」
レイラが指示を仰ぐように中島を見たが、中島も考えあぐねているようだ。
「こう寒いと暖かい食べ物が恋しくなりますね」
その時、コンビニから出てくる者がいた。
「清十郎先輩!?」
「あれ? 中島さん?」
なぜかサンタクロースの格好をした楯清十郎(
ja2990)はにこやかに挨拶をした。
「あ、もしかして今日が夜回りの日だったんですか? 寒い中で夜回りとはえらいですね。あ、よければおでん食べますか?」
にこにこと楯が差し出したおでん、ぐ〜っと中島のお腹が鳴った。
「じゃ、ちょっとだけいただきます」
と、一口箸をつけた中島から雀原がにこにことおでんを奪った。
「缶ビールにおでん…最高の組み合わせよね〜!」
「あ」っと誰がとめる暇もなく、雀原は楯のおでんをしっかりといただいてしまった。
「え? ちょ、空っぽ!? 残さず全て食べられてます!!」
楯涙目で、中島は平謝りである。
そこへまたコンビニから出てくる人がいた。
レガロ・アルモニア(
jb1616)である。
「何事だ? 小等部の女子が出歩くには遅い時間だがどうしたんだ? 家には帰らなくて大丈夫なのか?」
中島が訳を話すと、レガロはなるほどと頷いた。
その間に傷心の楯はコンビニに再び入ると肉まんを購入して戻ってきた。
「なら、俺も一緒にいこう。…寒いし身体が冷えるからな。風邪を引かないように気をつけような」
「ありがとうございます!」
そんなやり取りの後ろで、楯が初等部の寮生たちに囲まれ「サンタ!肉まんくれー!」と追い掛け回されていた。
「この肉まん達だけは渡すわけにはいきません!」
しかし、楯の奮闘むなしく初等部の寮生につかまって組み伏せられている。
「ぎ、ギブギブ!関節が決まってますって!」
「君たち、いい加減にしないか」
見かねた鴉乃宮が楯に助け舟を出し、楯の肉まんは守られた。
雀原はさらにだっこやおんぶを女性陣に要求したため、ラズベリーにより眠らされた。
その後、一行は商店街、寮と周り道行く参加者に学校にご飯が用意してあることを告げつつ夜回りを続けた。
途中、鴉乃宮が「温かい物を用意しておくから」と先に学校に帰った。
レガロは中島の様子を気にしつつ、途中ホットのカフェオレを中島にくれた。
「頑張っているんだし、このくらいはあってもいいんじゃないか?」
「ありがとうございます!」
相馬が何か言いたげだったが、中島は気付かなかった。
「なかなか面白い夜回りの映像が撮れたました」
学校の門が見えてきた。グランはもうすぐ終わる夜回りにそう言った。
●夜回り終了
夜回りが終わり、学校に戻ると沙羅やレイラ、鴉乃宮が温かい食べ物や飲み物を用意してくれていた。
「みんなのおかげで夜回り終了です!ありがとうございました!」
中島がそう言って頭を下げると、沙羅やレイラ、鴉乃宮が皆に温かい物を振舞い始めた。
「皆様!遠慮せずに召し上がってくださいね」
「姉様のポタージュやおしるこもどうぞ」
沙羅と葵が姉妹で仲良く飲み物を配っている。
「温かいなー。美味しいなー!」
楯は中島の誘いで学校まで来て、そのサンタの格好で温かな蕎麦にありつくことができた。
「はーい、お疲れ―」
「お、ひとつ貰おう…美味いな」
矢野が鴉乃宮から貰ったのは鰹と昆布の合わせ出汁に、具は蒲鉾若布葱とシンプルだが美味しいスープだった。
「焼き芋は美味じゃな。昔から変わらぬ美味さじゃ」
「用意してくれた水無月さんに感謝ですね」
白蛇と鑑夜は焼き芋で話に花が咲く。
「後で編集しないといけませんね」
「…ビデオって面白いです? 面白いなら俺もやってみようかなぁ」
グランのビデオカメラを眺めていると、クリフが興味津々で覗き込む。
「ビデオも気になるでしょうけど、今は休んでくださいね?」
レイラがグランとクリフに甘酒を差し出した。
アレクシアは相棒と共に肉まん、あんまんを頬張った。
なぜか学校に連行されたクインは、それを受け取って捕まえた七ツ狩に問う。
「…なぜ僕は今緑茶を飲んでいる? 僕はなぜ捕まったんだ?」
その問いに七ツ狩は特に表情を変えることなく答える。
「…さぁ? 逃げたから、とりあえず捕まえてみただけ」
「そういえば、寮の方向から何か光が上がるのを見たけど…何か関係があるの!?」
何気なく聞いていた雪室がそう訊いてきたので「いや、多分気のせ…い…?」と泳いだ目でごまかしたクインだった。
「くんくん…あ、いい匂い…」
同じく学校に連行された雀原はいい匂いにつられて目を覚ました。
「やっぱり寒いときの温かいおしるこっていいね〜」
「俺はホットドックでいい…んぐっ!?」
「そんなに急いで食べるから」
ヤナギがホットドックを詰まらせたので、鈴木は背中をさすりつつおしるこを渡す。
「逃げる人とか重大な犯罪とかあるかと思ってたのに…残念だわぁ…本当に出番がなくて残念…」
黒百合はショットガンM901を微笑みながら撫でた。
「あら、2人ともいいもの飲んでますね」
簾がラズベリーと中島に話しかけてきた。
「シャーウッド先輩が持ってきてくれたカフェオレを分けてもらったんです」
中島はカフェオレを一口飲む。
そんな中島に、唐突に簾が呟いた。
「…雪哉ちゃんもなかなかいい身体してるよね。いや、変な意味じゃないけど」
「!?」
どう答えていいかわからない中島に、簾は「ふふっ。今日は可愛い女の子といっぱい知り合えてよかったです」とにっこり笑った。
「えっと…知ってるかもしれないんですけど…歌音先輩と翠月先輩は女性に見えますけど…男性です…よ?」
「!? お、女の子にしか見えない…です…」
簾はちょっとショックを受けたのか、ふらふらと歩いて行ってしまった。
ラズベリーと2人で「大丈夫かな?」と話したが、事実は変えられないのだと確認した。
「…こんな寒空に、ボランティアで夜回りしようなんて、雪哉君は本当に優しいね」
ラズベリーが中島に微笑んで言った。
「人から受けた優しさを同じように返そうと思える事は、尊い事だ」
ラズベリーの言葉に中島は笑う。
「ボク、集まってくれたみんなの方が優しいと思います。もちろん、シャーウッド先輩もすっごく優しいです。ボク、夜回りしてよかったって思います」
「…そういう君を、僕は心から尊敬するよ」
そう言って笑いあう2人を沙羅は優しく見守る。
「お疲れ様でした。皆様が無事で…ずっと平穏な世の中にしなくては…いけませんね」
一息つき、皆帰路につく。
「ありがとうございました、気を付けて帰ってくださいね」
「気を付けて帰れよ」
待機していた先生と共に中島は皆を見送る。
先生は夜食にとカロリーブロックを用意していたようだが、実際生徒たちの自主的な働きによってそれはお土産として皆に配られた
レガロが中島に「お疲れ」と言った。
「中島も気を付けて帰るんだぞ?」
「はい!気を付けます」
中島は最後の1人が帰るまで、皆を見送った。
…と思ったら、1人だけ戻ってきた者がいた。
「カズヤ君、忘れ物したの!?」
相馬が何かを差し出した。
「? コーンスープ??」
「ホントはさ、夜回り中に渡そうと思ってたんだけど、タイミング逃してさ…これで、文化祭の時の賭けはチャラな!」
それだけ言うと相馬は疾風の如く去っていった。
中島は温かいコーンスープの缶をぎゅっと握って嬉しそうに笑った。
●後日談
魔法で公園を無茶苦茶にしたと報告を受けた学校側は、生徒の自主性を促すために魔法を使った本人に公園の修復を依頼した。
もちろん無償で、である。
「眼鏡と一緒さ、公園も綺麗なほうがいいよね」
クインはくいっと眼鏡を上げつつ、完璧なまでに公園を綺麗にしたという…。