●関東地方の某海岸
「くらげがディアボロかどうか、かー」
来崎 麻夜(
jb0905)は溜息を吐き、首をかくりと傾けた。
依頼の内容は、二日前に関東地方の海岸で見つかったクラゲ型ディアボロ発生事件と関係があるかの調査であった。
情報室の女性職員の写真に写っていたくらげが、先日のクラゲ型ディアボロと同じであるか。
「ん、ディアボロってことなら放置はしておけないよね? ちゃんと確認しなくっちゃ♪ ……魔法少女、出動なのにゃ♪」
シンプルな袖なしのワンピース姿に猫耳カチューシャ、可愛い着ぐるみ風の羽織りものを来た 猫野・宮子(
ja0024)はバンザイポーズでとても楽しそうにしていた。
ディアボロであったとしても、激弱な相手に恐怖感は全くない。楽しい海の巡回依頼ぐらいに考えていた。
「それがもしディアボロだったとしても弱いみたいだけど、数が多いのが厄介そうだねぇ 」
麻夜は溜息を吐いた。
今は先輩の麻生 遊夜(
ja1838)の地元の方への聞き込み結果を待つだけだ。船や機材のレンタル等の協力を要請する必要があるならする予定らしい。
月乃宮 恋音(
jb1221)が資料を携えて同行している。港湾の担当者に説明し、より具体的な許可を取り付けられたらということらしい。
「地元の方に船、もしくは投網を借りれたらいいんだけどなあ」
「だといいにゃ♪ お船の上は楽しいにゃよ?」
「いや、そういう意味では……」
「そうねぇ〜。船で昼寝すると気持ちいいのよね。まあ、弱そうだし。どっちでも問題は無いわね。さっさと退治して、やっぱり思う存分、遊ばせてもらいましょうよ」
百夜(
jb5409)は楽しげに言った。
「まぁね……ん?」
麻夜は突然鳴った携帯に気が付き、ポケットから携帯度出した。相手は先輩だ。どうやら地元漁業連盟への説明が難航しているらしい。
「……は? 撃退士がいる? ボク、このメンバー以外が来るって聞いてな……え?! 邪魔されてるの?」
「え?!」
「う、うん……わかった。そっち行くね」
いったい何が起きたんだと言う風に麻夜は溜息を吐いた。
「邪魔とはどういうことですか?」
イリン・フーダット(
jb2959)が聞き捨てならぬと眼光を光らせた。
彼は天使の頃から生真面目であったがゆえにそれが災いし、悪魔達の罠に嵌って力の大部分を失ったという過去を持っている。その生真面目さと言うか、不器用さ故の反応だった。邪魔の言葉に反応した彼は、その整った顔を顰めて忌諱を表した。
「えー、何かわからないんだけど……ここのバイトは俺のもんだ!的な? わけわかんない」
「独り占めしようとは、撃退士にあるまじき行為……許せませんね」
「誰か一人で解決したいっていう奴いるの?」
ナヴィア(
jb4495)が言った。
「やらせてあげたら〜」
「なんと!」
「冗談よ。これもお仕事よね。仕方ないなー……息巻いてる元気なコ、見に行きましょうか」
「それが一番ですわね。わたくしもビゼンクラゲの真贋の確認をしたく思います」
ステラ シアフィールド(
jb3278)も同意した。メイドらしい優雅な仕草と言葉遣いが美しい。
「ここでぼーっとしてても、埒あきませんし〜。とりあえず行きましょうかぁ〜」と来栖 蒔菜(
jb6376)。
一同は頷き、準備をすると漁業連盟支部へ出かけた。
●渦中の人、それは魔乳党
「絶対に、俺のバイトは渡さない! たとえ、それが学友であっても!!」
……とバカなことをほざいているのは魔乳党幹部、A。
同じ学校の生徒だが、同じクラスでもないし、学友と呼べる間柄ではない。と、思う。
一同は無言のまま幹部Aを見た。
何かどっかで見た顔のような〜と思っていた宮子は誰だかわかって溜息を吐いた。パイ拓未遂事件の首謀者だ。確か、TRPGが好きだったのを覚えている。
背後で漁業連盟の職員がうんうんと頷いていた。
どうやら、彼は「俺、かなり出来る撃退士さん」というのを気取っているようである。言ってることが支離滅裂だが。
「もぉ〜、この人全然話を聞いてくれないんですぅ〜」
恋音が半泣きになりながら言った。
「ディアボロだったらどうするんですかぁ。早く船や機材のレンタルしたいのに〜」
「まぁ〜、仲良くやってくれれば問題ないんだけどなあ」
欠伸をしながら漁業連盟のおじさんは言った。
「ええ?! 俺の今までの頑張りはっ?」
「そう言う事じゃなくてね。ディアボロじゃないかって、こちらの方は言ってるんだよぉ、田中君」
漁業連盟のオジサンは幹部Aこと田中氏に言った。
「ですからね〜、一応懸念があるなら調査しないとですにゃ〜」
「そうですわ。それにその対象となるもの意外も生息している場合もありますので、より分け作業も必要になると存じます」
ステラが宮子の横から言った。
「クッ……しかたない。ディアボロであるか、確認合戦だ! 勝ったら、お前たちのおっぱいを蹂躙してくれる!」
「お、おぱっ……ひぃ〜〜〜ん、変態ィ〜〜〜」
Y E S !
恋音は泣きはじめる。
ボリューム溢れるバストを隠すように、わが身を抱きしめた。
「か弱き女性になんということを!」
イリンは怒りに満ちた目で幹部Aを睨んだ。
幹部Aはふんッと鼻で笑った。
「嘘付け! か弱くて撃退士できるかよ! 天魔ぶん殴れるかよ! そういう時はだなあ、可憐なって言えよ。可憐なのは拳関係ないからな!」
「む……た、確かに。通常の人間からしてみれば、尋常でない戦闘力(腕っぷし)ですが……」
「ちょっと、そこ! 納得しないでよ」
「あ、いえ。褒めてるのですが……その戦闘力があるからこそ困難を超えることができる。立派な拳です」
「強調するなー!」
「す、すみません……」
イリンはすごすごと引き下がる。
「じゃぁ〜、確認合戦でもいいんですけどぉ。……さっきお前たちって言いましたよね?」
「は?」
「この人も、ですよね? 蹂躙♪」
蒔菜はイリンを指さして言った。
「え゛!?」
驚愕する幹部A。
「俺に【雄っぱい】を経験しろというのか! 雄(おす)ぱいを! ぴーてぃく蹂躙して何が楽しい! びぃえるなんか喜ぶのは婦腐子だけじゃん! 断 じ て、断る!」
あまりの衝撃に、何やら言動が怪しくなっている。
「言ったからには、即行動ですぅ〜。約束守ってくださいね?」
「ちょ、まっww」
とりあえず、拉致った。
「いーやーだああああああ!!」
幹部A,貞操の危機。
「はいはいはい」
「さよなら、蒼き日々よーーー!!」
「うるさいコねえ……ほら、行くわよ」
百夜は幹部Aの襟首を掴むと、出口の方へと引っ張っていった。
その後を一同が追った。
●浜辺で確認合戦
「まずは水揚げ済みのクラゲを確認するわね〜」
ナヴィアはクラゲを抓んで言った。
「ただのクラゲだよ、チクショウ!」
無理やり自分のバイト先である漁師の家にまで連れてこられた幹部Aは、不機嫌そうに応える。
「さて、どう確認したものかしらね。見た目だけ、っていうのも随分アバウトだし」と、百夜。
「これがディアボロじゃなければ、物質透過してるこっちには干渉できないでしょうし、物質透過を発動して触ってみる?」
「ああ、それいいねー」
「通り抜けたらただのクラゲってことで」
「全部まとめて駆除しちゃえば楽なんだけど、そういう訳にもいかないものねえ……」
ナヴィアと百夜が話し込む横で、漁師のおばさんにステラが挨拶していた。
「お初にお目にかかります、わたくし久遠学園から派遣されました撃退士のステラ シアフィールドと申します、どうかお見知りおきを」
「あらぁ〜、別嬪なメイドさんね〜」
「美しさなど、使役されることに意味はございませんわ」
「え?」
「ふふふ……愛でられることに意味はありませんのよ。ずっとそうでしたから」
「へー、よくわからないけどねー。まあ、確認なら助かるわあ。ディアボロなんかだったら大変よ」
おばさんはうんうんと頷いていた。
「反撃してきたらディアボロってことよねぇ……うーん、ぺたぺたするくらいで厄介な能力もなさそうだし、ひんやりしてて気持ちいい気もするから退治しなくていいんじゃ〜って気になるけど、ま、お仕事だしね」
そう言って、百夜は網に阻霊符を触れさせて展開する。
くらげたちは、うにょ〜んと動いた。普通のくらげのようにも見える。とりあえず、百夜は阻霊符の展開を切った。その途端、くらげがボトッと地に落ちた。
「あ、ヒット」
「ガチだったわねー。ざーんねん、\(ディアボロでした〜)/」
「では、これをサンプルに採取しましょう」
「ち、ちっくしょう!! うぉれの、バイトが無くなるだろうあーーー!!!」
幹部Aは怒りに任せ、近くにいたステラに襲い掛かろうとした。
安心と安定の収入。美味しいご飯。それが奪われるのだ。怒りに身を任せてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。
「うふふ……甘いですわ」
ひらりとステラが避けた。
「ぶおわーーーーー!!」
幹部Aは砂浜に顔から突っ込んで行った。
ふわりとステラのメイド服の裾が広がる。
ち ら り ☆
「お?」
そう、【ちらり☆】に男性が勝てないのは仕方がない。ましてや、患部というか幹部Aである彼ではその誘惑に敵うわけなどなかった。
気が付いたら身を捩っていた。裾が広がる奇跡に目を奪われていた。
妄想が走る。股間のお芋に血潮の濁流。
唸れ、トルネード。俺の血流。
もう少し! もう少しだ!
頑張れ、自分!
もうちょっと、もうちょっとで秘密の花園が……
見え……たァーーーーーーーーーーー!!!!\(愛)/
ひゃっふーーーーい☆
「……え?」
その衝撃は鮮烈だった。
情熱の色、魅惑の履物。それは……
AKAHUN☆
「ふっ!! ………おォ……」
あか、ふん……でつか? でつかーーーー!? (*゜д゜*)
(「おお……ヤック・デカルチャー……」)
少年の全身に衝撃の雷が、ガビーン☆と走り抜ける。
その刹那、少年は砂浜を転がりながら叫んでいた。快哉の声だった。魂の慟哭だった。野生の言語だった。
むしろ、意味不明だった。
「メナ・ホルト・ホルトラスカス・メルケス!」
(「ハッピーバースデー! 新しい何かの予感だよ!!」)
恋音は驚いて宮子の後ろに隠れこむほどだった。
それでも幹部Aは喋り続ける。
「メ、メイド・フンドーシ! フンドーシ・テーズ・アルケス! アカフーン・ギルテスタッ! Tバック・テ・Tフロントッ!! ヤット・ダンツ・ザンツ!(以下略」
(「め、メイドさんが……ふ、ふんどし。……お褌を召されておられるゥッ! しかも、あかふんでござるッ! Tバック、T フ ロ ン ト ッ!!(これ重要)。前垂れの「妖」の文字が……なんとも妖艶な。やヴァい……オレ、今なら愛臀党の気持ちわかるわ……」)
鼻血を流しながら悶絶する少年をステラは不思議そうに見つめる。
ふいに、視線が絡み合った。もう、桃源郷と言うか、違う世界に幹部Aは飛んでいた。そして、立ち上がると、天高く拳掲げて曇天に穴を穿つかの如く、万歳ポーズで叫びだした。
「ぶッち倒せ、蔵倫! 抱きしめて、並行世界(セカイ)の果てまでー!」
「おわァ、何?!」
麻夜もびっくりして先輩の背に隠れた。
幹部は勢いづき、ナヴィアを次の獲物と定めた。
「ふっ……今の俺は最強! そこの魔乳よ、もぎ取れ果実ーー☆」
幹部Aの必殺俺様最強伝説エクストリーム・ゴールデン・フィンガーが炸裂する。
黄金の右腕が唸った。
「……ァッ」
蒔菜に突き飛ばされたイリン。その胸に手が!
幹部A,怒りMAX。
「野郎は、死゛ね゛ぇ!!」
「ぐはァ!!」
それは脊椎反射のスピード。フルスイングでイリンをぶん殴った。
では、もう一度。
「ふっ……今の俺は最強! そこの魔乳よ、もぎ取れ果実ーー☆」
しかし、彼女の淫魔的な部分にスイッチが入っただけだった。
「胸だけでいいの?」
「ぽ、ぽぺっ?」
「一回スッキリすれば落ち着けるんじゃないかしら? ウフフ……」
「え゛?」
「こっちよォ〜」
ZE TSU RI N ☆ みるきーうぇい♪
蒔菜のちょっと待ったコール。
「ちょっと、すみませぇ〜ん」
蒔菜は呆れて言った。ふうっと溜息を吐いて幹部Aを見る。
「大事なこと、忘れてませんかぁ〜?」
「え?」
「おすぱいですよぅ……」
雄っぱい、キターー!
わが身の危機に奮い立つ幹部A。
「ば、馬鹿言うな! お前らが勝ったんなら、あいつ(イリン)に罰ゲーさせる必要がどこにあるんだよ。俺はそこの物陰で、こちらのレディーに世界で一番素敵なコトをしていただく予定が入っているのだ! 香しき世界へ大噴火、青春のミルキーウェイだ! ヤット・ダンツ・ザンツな世界だ!」
「あなたに罰ゲームはないのですかあ?」
はァ? (゜Д゜)ノ
「ないっ」
言うなり幹部Aは走り出した。
すかさず蒔菜は幹部Aを追いかける。
そうして、蒔菜と幹部Aの追いかけっこがはじまった。
一方、鬼ごっこに参加していないメンバはと言うと、もちろん、真面目にディアボロ退治していた。
ステラはにげる幹部Aの横でサンプル集めをした。
「こっちは学園側に送っておきましょう」
持ってきた図鑑を確認し、イリンに指示する。
服が濡れるので、しっかりと、赤のチューブトップタイプのビキニをステラは着用していた。
イリンと遊夜の働きかけにより、船や機材のレンタル許可が下りた。遊夜の運転で百夜とナヴィアたちは生簀へ向かった。蒔菜の鬼ごっこが終わらないので、ナヴィアはディアボロ退治に参加した。
自身の透過能力を使ってそれらしきものを倒していく。
「あっつーい」
「もうダメ〜」
疲れたとの声が出たのだが、生簀の方は2時間ほどで綺麗になった。
あとは付近の海の巡回だが、それは漁業連盟に頼んで再度依頼してもらうことにした。もうすぐ日が沈む。今日は無理だ。
そして、漁業組合では……。
「機材のレンタルに必要な書類を書き終りましたぁ、これとこれです〜」
恋音は組合長に書類を渡した。
「ちょっと長引きそうだねえ……」
「大丈夫ですよう。そうだ、田中さんでしたっけ、彼。今回の事でバイトが無くなっちゃったので、雇っていただけると助かります〜」
「え? 撃退士さんはまだ来てくれるのかい?」
「当然ですよぅ。安全確保できてるかどうか、しっかりと調査しないと〜。あ、依頼の電話はちゃんとしてくださいね? 斡旋所には声を掛けておきますので、彼を名指しで呼んであげてくださいね〜」
泣かされたにもかかわらず、恋音はしっかりと彼をフォローしていた。
漁業組合のおじさんたちはほんわかとした空気に心が和んだ。
一応、人畜無害とはいえ、ディアボロはディアボロ。怖くないわけがない。
最後まで事件解決に尽力してくれた撃退士たちに、彼らは何度も感謝の意を述べたという。